二度目の転生はネギまの世界 第十七話 |
第十七話「忘れ去られていた顔」
さて、ナギをたたき出してから少しして。ようやく帰ってきたナギは、三つの人影を連れていた。
一人は((我|オレ))が護衛していた対象、アリカ。
「何だ、これが噂の『((紅き翼|アラルブラ))』の秘密基地か。どんな所かと思えば、掘立小屋ではないか!」
もう一人は今回会談していた相手、テオドラ。たとえどのような状況にあろうとも、王族としての誇りを失わぬその姿勢。場合によってはただ高圧的としかとられんこともあるのだが……まあいい。((我|オレ))と((彼女|テオドラ))では主義主張が異なる。押し付けはせん。
「俺ら逃亡者に何期待してんだこのジャリはよ」
……ラカン。王族相手にその口調は減点ものだ。((我|オレ))ですら初対面ではアリカ相手に敬語を使用していたぞ?
まあ、あの筋肉馬鹿に、他人を敬う心があるかと問われれば、微妙だとしか返せんが。
「何だ貴様、無礼であろう!」
「へっへ〜ん。生憎ヘラス皇族にゃ貸しはあっても借りはないんでね」
「何ぃ? 貴様何者だ」
「俺は伝説の傭兵剣士ジャック・ラカンだ」
そして、想像通り口論になる。((我|オレ))もこの馬鹿どもと共にいすぎたせいか、少し人間味が戻ってきた気がするな。そうでもなければ、ここでこの言い争いを止めようとは考えなかったはずだ。
「それではこちらも挨拶をば」
「む、そういう貴様は何者だ」
気が付いていなかったのか、このガキは。
「お初にお目にかかります、ヘラス帝国第三皇女、テオドラ・バレイシア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア様。私の名はアラン。『((沈黙者|サイレンサー))』、『((顔無き者|ノウフェイス))』あたりが二つ名としては有名でしょうか」
「あ、あぁ、そなたらがかの有名な『伝説の賞金稼ぎ』か。ならばその横に立つのが『((名無|ネーム))――』」
「『((黄金女帝|ゴールドエンプレス))』よ。その名では呼んでほしくないわ。名が無いのではなくて、名乗っていないだけ」
リュミスは少々いらついているようだ。まあ、あの名は嫌っているからな。((我|オレ))は大抵の人物に化けることが可能である以上、固定された顔が無いと言えなくないため、そこまで悪くは思えん。百面相や千貌でも構わんが。
「この護衛の間はリュビと名乗っているわ。その名で呼んで頂戴」
「ふむ。分かったぞ、リュビよ」
そして、ナギが連れて来た三人の最後の一人。テオドラの後ろにひっそりと付き添っていた、侍女服を着たドリルヘアの亜人。一体何故((彼女|・・))がここにいるのか。それが不思議でならんぞ、おい。
「あ、アニさん、久しぶりッス」
若干ひきつった笑みで、((彼女|・・))は挨拶をする。しかし、それは((我|オレ))の望む答えではないぞ。
「ここで何をしている、シャルテット」
最後の一人の名は、シャルテット……そう、((我|オレ))の密偵の一人にして、帝国上層に唯一送りこんでいた存在。その((彼女|・・))がここにいるということは、帝国上層の内情を知る駒がいなくなるということ。かなり痛手なのだがな。
「報告したっしょ? 第三王女付きッスから」
テオドラに無理やり連れ出され、そして共に捕まった、と。それならば仕方あるまい。密偵である以上、派手に動くわけにもいかなかっただろうからな。
「まあ、それならいい。全てを報告せよ、シャルテット」
「仕方ないッスね」
今まで何も持っていなかったシャルテットの手の上に、漆黒の球体が生じる。それを((我|オレ))は当然のように取り上げ、握りつぶすようにして内に取り込む。
とたん、((我|オレ))の視界が漆黒に染まる。最終報告以降のシャルテットの記憶、精神、人格など、魂に記述されていた情報が流れ込み、アルトリウスとシャルテットの境界が曖昧になり、消失し、同化する――その情報整理のために五感情報の取り扱いが二の次になり、認識できなくなっているがためである。
その流れ込み((我|オレ))の物となりつつある情報の一端に、今回の誘拐の犯人が映っていた。罠にはめたのは……アリカの付き人か。想像以上にオスティアには((完全なる世界|コズモエンテレケイア))の手が伸びているな。そういえば王も黒の可能性がある、だったか。
「待つのじゃ! シャルテットは、貴様の手の内なのか!?」
「((是|イエス))、と答えさせてもらおう。シャルテットは((我|オレ))の密偵の一人。とはいえ、帝国上層にはこれ一人しかおらん。気にするな」
「黙ってて悪かったッス」
より厳密にいえば、((我|オレ))の密偵ではなく――分霊に近いものか。だが、この真実は誰にも告げることはできん。真祖で無いものがこの術に手を出せば、まず間違いなく、死ぬ。
「帝国上層には……って、おぬし、何人密偵がいるのじゃ!?」
「どうでもいいだろう、そんなことは。知ったところで、誰がそうなのか知らねば意味は存在せん」
「う」
図星を突かれ黙ったテオドラを視界の端にとらえつつ、やや厳粛な場になりかけている((ナギ一味|紅き翼))に目を向ける。
「じゃが……主と主の『((紅き翼|アラルブラ))』は無敵なのじゃろ? 世界全てが敵――良いではないか。こちらの兵はたったの9人。だが最強の9人じゃ」
勝手に決めるな。さらに言わせれば、9人となると、((我|オレ))とリュミスも含めている数字か、おい。((我|オレ))らは((紅き翼|アラルブラ))とは全く関係ないが……仕事だ、しかたあるまい。
最近こいつらに愛着が湧いてきていることは否定せんが。
「ならば我らが世界を救おう。我が騎士ナギよ。我が盾となり、剣となれ」
「やれやれ。相変わらずおっかねぇ姫さんだぜ。俺は騎士じゃなくて魔法使いなんだが……いいぜ。俺の杖と翼、あんたに預けよう」
剣を突き付けるアリカ。片膝をつくナギ。ふむ、これはいい絵になるな。((脳内フォルダに保存|記憶完了))。今度念写咒式か念写魔法を開発して再生するとしよう。
さて……ついでに((我|オレ))も儀式に参加するか。ナギに倣い片膝をつき、首を垂れる。
「ならば我も誓おう。我が身と剣。共に汝に預けよう。そしてこの素顔も」
そのまま、今の今まで顔を隠していたフードと((仮面|マスク))を取り払う。顔を上げたとき、周囲に奔ったのは……何もない、だと?
「ふむ、それが主の素顔か。初めて見たな」
「……は?」
待て。1200万ドルの賞金首を、見たことがないだと!?
「確か、見せたくないと言ってましたが。見たことのない顔ですね」
「な」
アルビレオ、貴様もか! しかし、他の奴なら知っているだろう。立ち上がって周囲を見渡す。
「ふむ、どこかで見た気もするが、思い出せんのう」
「ちょ」
さ、最高齢であるゼクトもか……。
「妾もないな」
皇女、それでいいのか……? 最後の頼みの綱は、MMにいたガトウだけ……か。
「ガ、ガトウは……」
「無い……はずだ。どこかで見たか?」
「((我|オレ))の苦労は、何だったんだ……?」
別の意味で膝をつき、首を垂れてしまう。この100年以上。賞金稼ぎになってから、確かにアルトリウスとしての顔を見せたことは一度もない。だからといって、1200万ドルの賞金首を知らんと言い切るとは、俺の苦労が台無しにされた気分だ。
「ま、素顔なんてどうでもいいな。仲間なんだしな!」
「そうだな、がはははは!」
「貴様らはどうでもいい」
「「んだと!?」」
この((雑種共|馬鹿二人))に期待などせん。期待するだけ無駄だ。
「「死ね!」」
項垂れる((我|オレ))に迫る二人の拳。それに僅かに手を触れ、受け流しつつ力を加える。それだけで奴らの拳が激突し、((我|オレ))への被害はなくなる。
「<((重加崩倒|ベ・タン))>」
さらに重力力場系咒式第三階位<((重加崩倒|ベ・タン))>を発動。大地の((重力子|グラビトン))を増量し、指定範囲の重力を一時的に増加させる。魔力をつぎ込んだ量からして、推定だが5G程度。
突然重力が5倍になる。それはすなわち、自分の体重の4倍の重さの物を突然背負わされることに等しい。
「げぇ!」
「ぬおっ!」
さすがの二人も、姿勢を崩した瞬間の出来事だったため、強化された重力に逆らうことができずに倒れ伏す。
「おお、思い出したぞ。確かアルト……アルトリウスだったか?」
「思い出したか、ゼクト。そうだ。((我|オレ))の名はアルトリウス。まあ、今の貴様らと同じ賞金首だ」
ようやく((我|オレ))の名が出る。しかし……((我|オレ))が言うのもなんだが、1200万もの賞金首が忘れ去られるとは、どういう事態だ?
「いや、生存報告の無いそなたが生きておったとは。長生きはしてみるものじゃ」
「そうか……((我|オレ))は生きているか疑わしかったのか……」
「最後の報告が200年は前じゃからの」
旧世界にいる間、((我|オレ))はうっかりしていたか何らかの理由がある場合を除き、アルトリウスの姿で人前に出ることはなかった。そして魔法世界では一度たりとその姿を人に見せたことはない。そう、ここ200年はアルトリウスの目撃例がないことになるのだ。
一応真祖ということで手配書はあるが、あまりに長く目撃例がなければ忘れ去られていくのは仕方のないことではある。
よって、よほど詳しくない限りは知る者がいないという事態になっていたのであった。
「馬鹿馬鹿しい……顔を隠しすぎたせいで、顔を忘れられていたとは。確かに我は((顔無き者|ノウフェイス))だな」
「師匠。一体誰なんだ、アルトリウスって?」
「あ〜、どっかで聞いたんだが……賞金首のアルトリウス?」
おそらくではあるが、二つ名を聞けば分かる者もここには居るだろう。未だに活動報告のある((闇の福音|ダークエヴァンジェル))のように、な。
「魔法世界人なら、噂くらいは知っていると思うのじゃがの。齢600を超える((真祖の吸血鬼|ハイ・デイライトウォーカー))、と言えば分かるか?」
「まさか……((黒炎の死神|ブラックデス))?」
「後は、進化し続ける怪物や金色の夜叉あたりが有名じゃの」
ピシ、とテオドラとガキ二人の表情が凍る。それ以外の奴らは無関心だったり知らなかったりで反応は薄い。アリカは『だからどうした』と言わんばかりの表情をしている。
それもそうか。短くない間、アリカの護衛を((我|オレ))らは務めている。信頼があれば、本性がなんであろうと気にせんか。そんなことを言っていられぬ状況なのもあるかもしれんが。
「Artorius・R・A・Northright――アランはイニシャルか」
「そこを突っ込むか、詠春」
確かにそこから考えたが。ここで((R|レナ))と((A|アリステル))を教えるのは……((馬鹿共|ナギとラカン))に馬鹿にされるのは気に食わん。却下。
「ふぅん……アランがその気なら、私も自己紹介するわ。私の本名はリュミスベルン。正式な発音はЯ$ス&ルンよ。リュミスって呼ばれてるわ」
「リュムィスヴェルン……ユミスヴァルン……ルヴィスベルン……? なんつー発音だ!」
「Я$ス&ルンよ。Я$ス&ルン」
ナギが苦戦しているが、さすがの((我|オレ))も龍語発音は難しい。『Я』は『ル』と『ユ』を同時発音しつつ『リュ』にしない。『$』は『ミ』と『ム』を混ぜて多少濁らせ、『&』は『バ』と『ベ』の間くらいの発音でややVの発音に近づける。この聞き取りにくい音を使って偽名のユミ、スバル、ルイズ、ベル、リュビ等をひねり出した。
「そーいやアラ……アルトリウス。相方のリュミスは少なくとも百年は姿を変えてねーが、やっぱ真祖だったりすんのか?」
「少なくとも人外だ。亜人ですらないが、種族は内緒だ、ラカン。それとアランでいい。本名は長いだろう?」
何だろうか。((我|オレ))の自己紹介で一気に場が砕けたというか、厳粛な雰囲気が霧散したというか……しかし、意外と今以外に自己紹介の場面はなさそうなのでな。
で、テオドラがいつの間にか涙目になってんだが。タカミチとクルトも同様だ。
「ち、ガキ三人は怯えるだけか。さすがにこたえたか?」
「魔法世界では((闇の福音|ダーク・エヴァンジェル))と同じくらい有名な二つ名であるぞ、((黒炎の死神|ブラックデス))は」
アリカが言うように、原作でもキティの二つ名が恐れられていたように、((我|オレ))も恐れられている。『夜遅くまで出歩く子供は、闇よりも暗い黒炎に燃やされる』なんて言われるほどだ。だからこそ、本名が廃れていることにはビックリだったんだよ、((我|オレ))は。
「いい加減泣き止め。五月蠅い」
「「「はいぃぃ!」」」
余計泣きだしたか。
「大丈夫ッスよ、テオドラ様。アニさんは敵対しない限りは手を出さないッス」
「ほ、本当か? 視られたら死ぬという噂はただの噂なのか?」
「アランをバロールかなにかと思っておるのか? そもそも、見た程度で死ぬのなら、ここにいる全員が死んでおるわ」
「アリカ様の言うとおりッスよ。身内には甘いっすから、アニさんは」
自分のことのように語るシャルテットの頭に鉄拳を叩きこみたかったが、止めた。自傷行為に意味はあるまい。
「やはり今のうちに自己紹介したのは間違いではなかったな。勝利後にすれば、間違いなく大混乱であったな」
「さて、確かにそうなるでしょうけど、結局は変わらないのでは?」
「周囲の心構えがあるかないかでは大きく違うであろう、アルビレオ」
「確かにそうですね。ところで、真祖ともなれ」
「半生の収集なら勝手にしろ。終戦後と言ったのは、((我|オレ))が真祖であることがバレないための処置だ。既に知られた以上、拒む理由がない」
「では早速」
収集は勝手に行わせつつ、周囲を見る。そして、先程の厳粛な状態などかけらも存在しないどころか、本当にあったのかどうかすら疑わしいまでの状況に嘆息する。
先程はこのタイミングしかないと思ったが、時期尚早だったかもしれん。
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紅き翼の秘密基地に到着した一行。そこで開かされるアランの事実に皆驚愕……あれ? | ||
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