魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 二話 |
プレシアは困惑し、困惑していた。
カリフと名乗る黒髪の少年を客間に招き入れ、食事を与えた
の、だが……
「モクモク……」
これで何人分だろうか……食料がどんどん少年の口の中に収まり、腹の中で消化されていく。
長方形のテーブルに向かい合うように座って皿を積み上げていくカリフにプレシアも呆然と見ていることしかできなかった。
(はっ!…だめ! これ以上こいつの好きにしてたら城の食料が!)
正気に戻ったプレシアは未だに食べ続けるカリフに危機感を覚えながら二、三質問してみる。
「あ、貴方カリフと言ったわね……何者かしら……」
「んぐ?」
急に話を振られたカリフは口に食べ物を詰めたまま食い物の間から見えるプレシアを見据える。
口に詰まっていた物を一気に飲みこみ、カリフは答えた。
「オレは戦闘民族サイヤ人のカリフ。それ以上でもそれ以外の何者でもない」
「……戦闘民族?……サイヤ人?」
プレシアは聞いたことのない単語に訝しげに呟く。
追究しようとするが、また相変わらずに料理を食べるカリフを見て追究を止めた。
今さっき会って分かったのだが、それよりも聞きたいことがあったからこの際置いておいた。
「じゃあまた聞くけど、貴方はどうやってここに来たのかしら?」
「どうやって?」
「ええ、ここは次元の狭間にあるのよ? なのに魔力の反応もみられない貴方がこの城のセキュリティをくぐり抜けてここに来た……と言う訳」
「ふむ……」
ここでカリフは初めて食事の手を止めた。
正直、自分でも予想外な出来事だったのだから。しかも馬鹿正直に答えても信じてもらえないどころか相手の顰蹙を買うことも有り得る。
ここは事実をボカすくらいにしておこう。
「……なにやら変な光に包まれてな、気付いたらここに来ていた」
嘘は言ってはいないな……というかこうとしか言いようがない
神龍が死んだオレを生きかえらせて別世界に飛ばしたなんて誰が信じる?
オレだったら迷わずノメしてやるところだ。
「光に包まれて? というと貴方は意図的にここに来たわけではないのね?」
「あぁ、そうとしか言いようがない」
カリフの言葉にプレシアは考えにふける。
(嘘にしては曖昧な部分は無いか……この証言が真実ならこの少年は次元漂流者……管理局にしてもこんな魔力無しの子供一人を送るわけもないか……管理局の線は薄いわね……)
本人の中ではほとんど話の整理を終えていた。
「時空管理局、ロストロギア、ミッドチルダ」
「?」
「この三つの中で知ってるものはあるかしら?」
「全く無い」
(質問に対する動揺のブレがない……どうやら彼は嘘を言っている可能性は低そうね……てことはやっぱり……)
プレシアはほとんど真実に辿りついていた。
カリフはなにか納得して頷くプレシアに気付く。
「なんだ? 人の顔をジロジロと」
「いえ、もしかしてあなたは次元漂流者かと思って……というよりもうそうとしか言いようがないのよね」
「次元漂流者?」
何やら物騒な単語にカリフはモグモグしながら首を傾げる。
そんな彼の反応にプレシアは自分の予想が当たったと直感し、簡単な説明を始める。
「簡単に言えば世界単位での迷子よ。なんらかの原因で起きた次元の歪みに巻き込まれた哀れな人間のことを指すのよ」
「へ?……すげえな?……あ、おかわり」
(……このクソガキが…)
遠慮もなくバクバク食べ続け、城の食料が本気で心配になってきたプレシアの嫌みもカリフは完全に無視し、それどころかおかわりなどとのたまうカリフにテーブルの下で握り拳を震わせる。遠慮というのを知らないのか、と。
その食料は正規ルートで手に入れたものじゃないから安くはないというのに……
(それならこいつをここに置いても意味はなさそうね……エサをあげても分かったことといえば次元漂流者だということと、とんでもない大喰らいってだけね)
ため息を吐きながらプレシアはもうカリフを城から追い出そうと、適当な理由をつけようと口を開いた時、カリフの一言がプレシアを黙らせた。
「そう言えば、もう一人のほうはいいなのか?」
「え?」
急に脈絡のない問いにプレシアは気の抜けた声を出す。
「なにを呆ける?」
「な、なにって……ここには私以外に誰も……」
「いるだろうが、位置的にはその壁の向こうに」
「壁……!?」
プレシアはカリフの指差す方向を見て……驚愕した。
(その壁の向こう……まさかこいつ!!)
「しかも大分弱ってやしないか? これは……死にかけてんのか?」
「!!」
カリフの呟きにプレシアは即座に杖を起動させてカリフに向ける。
プレシアの目は血走り、まるで仇敵を見つけたようである。
それに対してカリフは興味がないのか変わらずに飯を頬張る。
そんなカリフの態度が癪に障ったのかさっきとは別人のように高圧的に問いただす。
「あなた、本当に一般人かしら?」
「そう見えるのか?」
尚も、カリフには動揺も見られない。
「じゃあ質問を変えるわ……アリシアのことについて心当たりは?」
「はて?」
「!! この餓鬼がぁ!!」
惚けた風に首を傾げるカリフなりの冗談で遂にプレシアの沸点はついに杖を起動させて紫の稲妻をカリフに放った。
一秒とかからない不意打ちにあったカリフは……
「おぉ」
ノータイムでの不意打ちによる驚きと、見たことも無い攻撃方法による感嘆の混ざった声を上げて椅子からジャンプして難なく避ける。
稲妻はカリフの座っていたイスを無残に焼き焦がし、料理を一瞬に燃えカスへと変えた。
プレシアは予想外な動きに驚くが、すぐに立て直す。
「もう食後の運動か? まあそれも悪くない。あむ」
テーブルから少し離れた地点に着地して回避の際に掴んだ果物を一口でかぶりつく。
「一発を避けたからっていい気にならないで頂戴……恨むならお前のレアスキルを恨むのね……知り過ぎたわね……」
「知り過ぎ?」
「惚けるな!!」
プレシアは杖の先から十はくだらない紫の弾を形成してカリフに全弾撃ち込む。
「速い……けど直線的すぎで芸が無いな」
その場から動かずに首、手や体の各部を捻って全弾全て無駄なくかわす。
「バカめ!!」
「は?……!!」
だが、プレシアがほくそ笑むのと同時にカリフは何かを感じ取って振り返ると、そこにはさっき避けた筈の弾が向かって来ていた。
今度は横に飛んでかわすと、全ての弾はカリフを追いかけるように向かってきた。
「追尾弾か……味な真似を……」
「なら、これもプレゼントするわ!!」
「?……うお!?」
冷静に分析していたカリフがプレシアの妙な一言に首を傾げると、急に手足が動かなくなった。
自分の手足を見てみると、そこには紫の輪が巻きついていた。
「設置型バインドよ。魔力もありったけ注いだから簡単には壊せないわよ?」
「バインド? 魔力?」
「それよりもあれはいいのかしら?」
「ん?」
プレシアの言葉に引っ掛かる単語に首を傾げるも、プレシアの一言に視線を前に戻すと弾が自分の元へ迫ってきていた。
彼女はこれで勝負が決したと思ったのか、杖をリリースモードにした時だった。
「そろそろいいか」
カリフは小さく呟いて、解放した。
「喝っ!!」
目を見開いて気合いを前方へ飛ばすと、突風が生じた。
その突風により弾は全てかき消され、それに飽き足らずテーブルや椅子や皿を全て吹き飛ばした。
「なっ!!」
プレシアが予想外な光景に驚愕し、注意が逸れた時だった。
「ふ」
小さくい呼吸と共にカリフの手足の輪を壊し、瞬間移動でプレシアの背後に回り込んで彼女に足払い。バランスを失った彼女のデバイスを払い落し、片腕で腕を後ろに組ませてもう片方で頭を抑える。
この間、0.5秒
プレシアを組み伏せた瞬間にプレシアの杖がカラーンと音を立てて床を滑っていく。
そして、組み伏せられたプレシアは何が起きたのか理解できていなかった。
(な、なんでバインドが壊れ……!? いや、それよりも私の魔力弾をかき消した……!! それにさっきまでこいつはあそこに……!!)
突然のことに頭がパニックを起こし、情報処理が追い付いていないのが現状だった。
「詰んだな」
「!!」
そんなプレシアもカリフの一言で気付き…いや、気付かされた。
(殺られる……!!)
そう思ったプレシアは恐怖に目を瞑った。
のだが、
「ふむ、中々楽しかったぞ」
「……へ?」
カリフはあっさりとプレシアを解放し、落とした杖をプレシアに放り投げる
その行動にプレシアは信じられないといった表情で受け取りながら立ち上がる。
「……なぜ殺さなかったの?」
「ん?」
「私はあなたを本気で殺そうとしたのに、なぜあなたは私を生かしたのかしら?」
プレシアは服の埃を払いながら聞いてみる。この少年はさっきまで一方的に正真正銘の殺し合いを無理矢理させたというのに……なぜ殺そうとした相手を許すことができるのか……そう思って聞いてみた。
すると、意外な答えが返ってきた。
「あれが殺し合い? じゃれ合いの間違いじゃないのか?」
「じゃ、じゃれ合い……」
この子供は……どう生きてきたらそんな考え方ができるのか……本気でそう思った。
軽い戦慄を覚えていると、更に他の意外な答えが返ってきた。
「それに、患っている死に体をいたぶって喜ぶようなサド気質は持ち合わせていないのでな」
「!!……貴方まさか! 私の病気まで……!!」
「お前に流れる気が常人よりも小さいしな、気をコントロールしている様子も無かったからな。毒か病気かのどっちかで迷いはしたがな」
「あ、貴方は一体……」
他人には絶対に明かすことはない自分の秘密を次々と初見で見破っていく少年にプレシアは軽い恐怖を抱いた。
しかし、恐怖と一緒に興味も湧いたのは本人だけの秘密である。
そんな感情が頭で反芻する中、カリフは自分を見据えて言った。
「おい」
「え、あ……なにかしら」
威風堂々と体現すべき堂々とした態度でプレシアに視線を向ける。
「なにか、問題事を抱えているのか?」
「そ、そんなことは……」
「血相変えて問答無用で襲ってきたのだ。無いとは言わせんぞ。明らかに一般人のすることではない」
「……」
もはや、この少年の黒瞳に嘘は通じない。
そう悟ったプレシアは話そうとしたが……
「あぁ、なにも事の顛末は話さなくて結構だ。要は問題を抱えているかどうかを聞いているだけだからな」
「……理由は聞かないのね」
「理由を聞いてもオレの腹は膨れんからな」
「そう……」
「まあ、でも……」
「?」
カリフは口角を吊り上げる。
「そんな面白そうなこと、放っておくには惜しいからな」
「ちょ、ちょっと待って……それじゃあまるであなたが私に……」
「あぁ、少しは手くらいは貸してやる」
「!!」
もうここまで来ると訳が分からなくなってくる。
なぜ、この少年は今日初めて会った縁も所縁もない自分の手伝いをしようなどと……そう思ったのが見透かされたのかカリフは続けた。
「お前には一飯の礼があるからな、それを返すだけだ」
理由も到底信じられないような物だった。
料理をご馳走しただけで、こうも話が進んでしまうことなど一度も無かった。
「それで、どうする? オレを信用するのはお前次第……自分で決めろ」
ニタァ、と笑う子供にプレシアは先程の恐怖と興味よりも強い感情に包まれた。
希望
ここまで接していればあらかた少年の性格は理解できた。
好戦的で、突発的で我儘で嘘に敏感、されど義理は堅く、理知的な部分も見られる。
そして、戦闘力は軽く見積もってもSランクオーバーをゆうに超える。
そんな人材が自ら強力しようと申し出ている。
そこまで上手い話なら裏があるとも考えられるが、もう時間がない。
(目的を果たすためなら神でも悪魔でも利用してみせる……!!)
自分の命のタイムリミットも考慮した結果、プレシアは口を開いた。
「欲しい物が……あるの」
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