はがない 小鷹と幸村は男同士が危ない
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はがない 小鷹と幸村は男同士が危ない

 

「何で小鷹は超可愛くて超完璧なあたしに靡かないのかしら?」

 

 最近のあたしはこの大きな謎の為にずっと悩んでいる。

 自分で言うのも何だけど、あたしって超ポイント高い女の子だと思う。

 顔は可愛いしスタイルは良いし頭も良いしスポーツも万能。おまけに家はお金持ち。

 およそ考えられる限り良い女の条件をみんな備えている。

 実際、この学校に在籍する男子生徒たちの多くはあたしに惚れていると言っても過言ではない。

 なのに、なのによ!

 小鷹は少しもあたしに靡かない。

 あたしはこんなにも小鷹のことが好きなのにっ! 結婚しても良いくらい愛しているのにっ!

 って、違うわっ!

 あたしは別に小鷹のことなんか別に何とも思ってない。

 小鷹の彼女になりたいとか、パパは小鷹のことを気に入っているから結婚も問題ないわよねとか全然考えたこともない!

 小鷹は半分金髪だし、あたしも金髪。だから産まれてくる子供も金髪になるわよねえとか、小鳩ちゃんみたいな可愛い女の子だったら良いなあとか全然想像したこともないわよ!

 とにかく、あたしは小鷹のことなんて何とも思っていない。そして、小鷹を含めたこの学校の男子生徒は全てあたしに惚れて跪くべきなのよ。靴を舐めるのを最高の栄誉と考えるべきなの。

 なのになのに、あたしの一番近くにいる小鷹が惚れてないなんてあってはならないのよ!

 小鷹は今すぐあたしに愛を誓うべきなのよ!

 そして、強引にあたしのファースト・キスを奪って、責任取って一生あたしのことだけ見ていれば良いのよ! 夜空や理科じゃなくてあたしを見なさいっての!

 

 ……まあ、いつも意地張るのは疲れたからあたしが小鷹のことを気に入っていると認めてあげないこともない。

 要するにあたしが小鷹を気に入ってあげているんだから、2人は当然の如く両想いになるべきなのよ。

 

 でも、現実はそうなっていない。

 何故そうなのか?

 あたしは天才だからその原因を懸命に追求してみた。

 その結果、あたしは一つの仮説を立てるに至った。

 

「あにき……超あにきです」

「ははは。俺は筋肉の塊じゃないぞ」

「それでもあにきは超あにきなのです」

 

 あたしが立てた仮説。

 それは小鷹が女の子にあまり関心がないというもの。

 あたしに靡かないんじゃなくて、女の子との恋愛自体に興味がないんじゃないかと思う。

 だって、小鷹はあたしや夜空といるよりも幸村と一緒にいる方が楽しそうに見える。

 小鷹の場合、友達いない暦が長かったから同性の友達との心の高揚を今感じているんじゃないか。 他の男子が小学生ぐらいに体験した心の高揚を今感じているっていうか。そんな風に思える。

 

「まあ、夜空や理科に靡かないなら別に問題ないんだけどね」

 

 男同士で遊んでいる限りあたしには直接的な被害はない。あたしも同性の友達が欲しいと思っているのだし、小鷹のリア充行動を邪魔するつもりはない。

 

「さてさて、あの2人をこのまま捨て置いて良いのですかね〜?」

 

 突然、背後から声を掛けられた。

 振り返ると、メガネに白衣という如何にもマンガの科学者っぽい格好をした後輩の少女が立っていた。

 

「理科?」

「そうですよ。星奈先輩の恋のライバルにして絶対に越えられない壁、志熊理科ですよ」

「何で越えられない壁なのよ?」

 

 あたしが恋の争奪戦で理科に勝てないと言いたいの?

 

「理科は小鷹先輩に対する欲望を余すことなく本人に伝えてますから。テンプレートなツンデレ金髪ボインちゃんでしかない星奈先輩にエロスでは負けません」

「エロスで勝てなくても結構だわよ!」

 

 何でこの子は年がら年中エロいことしか考えてないの?

 

「そんなエッチで淫らでインモラルな体をしているのに星奈先輩は何でエロスを追求しないのですか? 冬コミでエロい薄い本を一番多く売られていたエロマスターの癖に」

「誰がエロマスターだってのよ!」

 

 後輩の天才科学者に向かって吼える。この子、頭はずば抜けて良いのだけど、その性根がとても残念でしかない。そして頭の使い方を完璧に間違えている。こういう子を多分本当の馬鹿って言うんだと思う。

 

「美少女エロゲーマニアという如何にもオタクに媚売った設定の女子高生の癖に?」

「エロゲーは芸術作品なのっ!」

 

 理科と話していると頭が痛くなる。

 

「まあ、星奈先輩が理科に次ぐエロさを誇っているのは周知の事実なので一旦その話は置いておきます」

「ちょっと待って!? あたしは隣人部でエロキャラ扱いなのっ!?」

「さて、本題に入りたいと思います」

「聞いてよ! ちょっと〜っ!」

 

 理科はあたしの抗議を軽くスルーした。

 

「星奈先輩はあの2人の仲が怪しいとは思わないのですか?」

「怪しいって?」

 

 理科はじゃれ合いを続ける2人をジッと見た。

 

「男同士が子供みたいにじゃれ合っているだけじゃない」

「じゃれ合っている? とんでもないっ! 2人は愛し合っているんですよ〜〜っ!」

 

 理科は胸を逸らしながら大声で吠えた。

 理科が吠えるのは割と日常茶飯事なので小鷹も幸村もあたしたちに注目しなかった。でも、あたしにとって理科のその絶叫は無視できないものだった。

 

「小鷹と幸村が愛し合っているなんて、笑えない冗談よ。2人は男同士じゃないのよ」

「甘いですね。理科の分析の結果、小鷹先輩は可愛ければ男でも問題ない人です。むしろ、可愛い男の子に心惹かれるタイプですね。ヘタレヤンキーですから」

 

 メガネを光らせて言い切る理科は凛々しかった。

 

「でも、小鷹と幸村が愛し合っているなんて……」

 

 幾ら何でも、そんな話は信じられない。信じたくない。小鷹はノーマルな筈。ううん、ノーマルでないとあたしが困る。だからノーマルなの絶対。

 

「甘過ぎますね。理科の見立てだと、2人は既に爛れ切った関係ですね。エロエロです。義兄弟です。むしろお互いの体臭が染み込み過ぎてもう抜けない関係なのですっ!」

「そんな訳がないじゃないのよっ!」

 

 つい大声を出してしまった。けれど、幸いにして小鷹たちは振り返らなかった。

 

「小鷹と幸村が既にエロエロな関係だなんてあるわけがないでしょ」

「星奈先輩には見えないのですか? 小鷹先輩のいきり立った逞しくて太くて熱いエクスカリバーが幸村くんを後ろから激しく激しく貫く姿がっ! 良い声で喘ぎまくる幸村くんの姿がぁっ! エクスパンジョン・ユニバ〜〜〜〜スっ!!」

 

 理科が頬を艶々させながら天井を眺めて涎を垂らしている。

 小鷹が幸村と絡んでいるシーンを妄想しているらしい。でも、あたしはそんなシーンを想像できないし、したくない。だって……。

 

「はは〜ん。星奈先輩は小鷹先輩がご自分とエッチしてくれないと嫌なのですね」

「なあっ!?」

 

 理科の言葉に息が詰まる。

 

「それで今、小鷹先輩とエッチしている自分の姿を妄想中なんですよね〜♪ もぉ、星奈先輩のエッチ〜〜♪」

「あたしはそんなエロ女じゃないわよっ!」 

 

 あたしが想像していたものを言い当てられて大声で否定する。

 だって、仕方がないじゃないの。あんな話をされたら、変な想像しちゃっても!

 

「とにかく、常識的に考えて小鷹が幸村と愛し合っているなんてあり得ないわ」

 

 小鷹はエロければ何でも良いという理科とは違う筈よ。そう。もっとプラトニックなの。

 

「さてさて。星奈先輩はこのゲームをやった後でも同じことが言えますかね?」

 

 理科は白衣の中から1個の箱に入ったPCゲームを取り出してあたしに見せた。

 

「Fate/Zero(乙女版)? 何、このゲームは?」

 

 聞いたことがないゲームソフトだった。

 表紙を見ると、中央ではやたら体の大きな髭もじゃの男が小柄で華奢な少年を抱き締めている。他にも槍を持った泣き黒子の男が金髪オールバックの男に睨まれている。そして赤いスーツを着たダンディーな男とパーカーをかぶった白髪の男が睨み合っている。他にも笑顔の青年がやたら目の大きな男の背中に乗っかっていたり、修道服にマーボーを持った男がコートに銃の男と見つめ合っている。

 表紙からはどんな内容なのかまるでわからない。バトルものっぽいことはわかるけど、それ以上は予測できない。

 

「やれば、星奈先輩にもエクスカリバーの新しい世界が広がりますよ」

 

 理科は自信満々にあたしにソフトを渡した。

 

「まあ、アンタがそんなに言うならゲームぐらいしてあげても良いわよ」

 

 ちょっと怖い気もするけれど、このゲームに惹かれている自分もいた。 

 

 そしてあたしはこの日、運命に出会ってしまった。

 

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「うっうっうっ。男はみんな、男同士でしか愛し合わないのよ〜。男女の愛なんて幻想に過ぎなかったのよ〜〜っ!」

 

 理科からゲームソフトを受け取った翌日、あたしは部室で大声を出して泣いていた。

 でも、泣かずにはいられなかった。

 だって、昨日まであたしが抱いていた恋愛観は1本のPCソフトの存在によって完全に覆されてしまったのだから。

 

「時臣と雁夜は憎み合いながらも愛し合っているのよ〜っ! 葵はお互いの気を惹く為の便利な道具に過ぎないのよ〜〜っ!」

 

 女なんて、好きな男の気を惹き付けて嫉妬させる為の存在。加えていうなら次の世代の良い男を量産する為の生産道具に過ぎない。

 あのゲームはそんな残酷にして女をバカにするテーゼをあたしに突き付けてきた。

 でも、ゲームをコンプし終えたあたしはそんなふざけた命題を否定することが出来なくなってしまった。それほどまでに男同士の恋愛物語に魅了されてしまっていた。

 

「どうやら星奈先輩も真理に到達してしまったようですね」

「り、理科……」

 

 理科がとても優しい瞳であたしを見ている。

 悔しいけれど、後輩の方があたしよりも先に真理に到達していたのだ。

 

「大事なことは男同士の真実の愛という高みに達せられるかどうかです。先か後かは重要じゃありません」

 

 理科の声は優しい。

 

「今理科たちに出来ることは1つだけです」

「1つ?」

「小鷹先輩と幸村くんの男同士を観察して愛でることだけです」

 

 視線をお茶を飲んでいる小鷹と給仕しているメイド服姿の幸村に向ける。

 

「うわっ、熱っ!」

「すみません、あにき」

 

 いつもと変わらない筈の光景。

 なのに、それを見るあたしの視線が昨日までとは大きく変わってしまっている。

 そう、2人は……。

 

「星奈先輩にも見えるでしょう? 2人が愛し合っている光景が」

「小鷹が幸村をお仕置きしようとしている光景が脳裏に入り込んで来るわ」

 

 あたしの脳内に目の前の2人とは違う光景が割り込んでくる。

 

 

『ええい、この。まったく使えないメイドだな』

『申し訳ありません。超あにきの旦那様』

 

 ガウン姿の小鷹はメイド服姿で屋敷の床に倒れ込んでいる幸村を睨んでいた。幸村の頬には小鷹により乱暴に叩かれた痕がハッキリとついている。

 

『駄目だ、許さん。粗相をした罰をその体にたっぷりと刻み込んでやる!』

 

 ガウンを脱ぎ捨てて小鷹は幸村へと襲い掛かった。荒々しい野獣の瞳で。

 

『あ〜れ〜。超あにき旦那様、お許し下さい〜』

 

 メイド服をビリビリに破られて幸村は大粒の涙を流すのだった……。

 

 

「小鷹の奴、頭の中はピンク色でいっぱいじゃない!」

 

 服に掛かったお茶をタオルで拭いている小鷹を見ながら愚痴る。

 あたしは今、小鷹の真実の姿を見てしまった気がする。

 

「確かに小鷹先輩はエロいことしか考えていません。でも、理科の妄想は少し違いますよ」

「どう違うの?」

「理科の妄想はこうです」

 

 

『ええい、この。まったく使えないメイドだな』

『申し訳ありません。超あにきの旦那様』

 

 ガウン姿の小鷹はメイド服姿で屋敷の床に倒れ込んでいる幸村を睨んでいた。

 頬にくっきりと叩かれた痕を残している幸村は全身を震わせていた。

 だが、幸村はわざと倒れた姿勢のまま動かないでいた。その乱れたミニスカートからは幸村の女性よりも細く白い足が覗いていた。

 小鷹が生唾を飲み込む音がする。幸村は生足を見せ付けることで小鷹を誘っているに違いなかった。

 

『駄目だ、許さん。その体にたっぷりと罰を刻み込んでやる!』

 

 ガウンを脱ぎ捨てて小鷹は幸村へと襲い掛かった。幸村の誘いを拒む理性などどこにもなかった。

 

『あ〜れ〜。超あにき旦那様、お許し下さい〜』

 

 メイド服をビリビリに破られながら幸村は笑っていた。彼は妖艶な瞳を主人に向けながら、身も心も征服され尽くす瞬間の訪れを期待していた……。

 

 

「それじゃあ何? 幸村は小鷹にお仕置きされたくてわざとお茶を零したって言うの?」

「はい、そうです。幸村くんは小鷹先輩を誘う為にわざと粗相を働いたのです」

 

 理科にそう断言されると、確かにそう見えて来る。というか、そうとしか見えなくなってしまった。幸村は小鷹を誘っているというの?

 

「それじゃあやっぱり……2人は爛れたインモラルな関係になっているのね」

「そうです。男同士なんてマッスル・ドッキングな関係にしかなりません。男同士に友情なんて存在しないのです。あるのは愛情と欲情だけです」

 

 理科は鼻息荒く言い切っている。

 昨日までのあたしと違い、今日のあたしは理科の言葉を否定できない。

 小鷹と幸村は愛し合っているのだと素直に受け入れてしまう。だって、あのゲームはその地平をあたしに教えてくれたのだから。

 でも、小鷹と幸村が愛し合っているということは……あたしは小鷹の一番になれない。

 そんなの……絶対に嫌っ!

 

「小鷹の隣にいるのが幸村じゃなくてあたしだったら……」

 

 あたしは幸村と自分をいつの間にか置き換えてみていた。

 

 

『ええい、この。まったく使えない女房だな』

『ごめんなさい、あなた』

 

 ガウン姿の小鷹はメイド服で屋敷の床に倒れているあたしを睨んでいた。あたしの頬にはパーティーグッズで売られている人の手形シールが貼られている。

 

『駄目だ、許さん。その体にたっぷりと罰を刻み込んでやる!』

 

 ガウンを脱ぎ捨てて小鷹はあたしへと襲い掛かった。荒々しい野獣の瞳で。

 

『あ〜れ〜あなた。お許しになって〜。3人目は女の子が欲しいの〜』

 

 メイド服をビリビリに破られてあたしは大粒の涙を流す。性欲の塊のような夫は今夜もまたあたしを寝かせてくれなさそうだった。

 あたしと小鷹の熱い夫婦の夜はこうして更けていった……。

 

 

「まったく、子供がもう2人もいるのにあたしにメイド服を着せてプレイなんて小鷹はどれだけ変態なのよ」

「そんな妄想を口に出して垂れ流している星奈先輩に理科はドン引きです」

 

 小鷹は結婚後もあたしに変態的なプレイを強いて来るに違いない。あたしも覚悟しておかないと駄目だろう。でも……。

 

「あにきにご迷惑を掛けたので切腹して果てる所存です」

「そんな責任の取り方をせんでいい」

 

 小鷹が男同士にしか興味がない限り、あたしが結婚後の生活を心配する必要はない。

 そう。あたしが小鷹の眼中に入らない限り何の意味もない仮定なのだ。

 2人を見ているととても物悲しくなってくる。

 そんな2人を見ていられなくて視線を他へと移す。

 ソファーを見るとマリアが寝そべりながらバナナを食べていた。

 

「にゃっはっはっは。バナナが美味しいのだ」

 

 マリアは食べ終わったバナナの皮を部室の床へと放り捨てた。

どうしてあの子はシスターの癖に、しかもこの学校の先生の癖にあんなに行儀が悪いのだろう?

 そして、マリアが放り投げたバナナの皮が隣人部に悲劇を起こした。

 

「あにき、保健室に行って冷やすものを借りてきます」

「いや、そんな大げさにしなくていいって」

「「あっ!?」」

 

 保健室に向かおうとした幸村が足をバナナの皮に足を滑らせたのだ。更に幸村の肩に手を乗せていた小鷹も巻き込まれる形で転倒した。

 

「あ〜〜れ〜〜〜〜」

「うぉおおおおぉっ!?」

 

 もつれ合いながら倒れ込む2人。そして──

 

「「リップス・ドッキング」」

 

 小鷹と幸村の唇が見事なまでに重なっていた。

 それは、間違いなくキスシーンと呼ばれるものだった。

 

「う、嘘……っ」

「男同士のキスシーン……キタァアアアアアアアアアァっ!」

 

 大興奮して踊り出す理科。

 けれどあたしは少しも喜ぶ気になれなかった。

 

「もうこれは2人がカップル確定です。おめでとう男同士〜〜っ!」

 

 理科は涎を垂れ流しながら食い入るように2人を見ている。

 

「す、すまん幸村」

「いえ、あにきこそ、ごめんなさい」

 

 気のせいか2人とも顔を真っ赤にしている。

 意識し合っているのかしら?

 小鷹の奴はあたしじゃなくて幸村に……。

 小鷹はやっぱり、男がいいの? 男以外に興味はないの?

 あたしじゃ……ダメなの?

 

「あれ、先輩? どちらに行くんですか? これから男同士の楽しい楽しいパラダイスタイムが始まる所ですよ。エクスカリバーが咆哮する時ですよ」

「何か疲れたから今日はもう帰るわ」

 

 フラフラしながら部室を出て行く。

これ以上、小鷹と幸村が意識し合っている姿を見たくなかった。

 

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「やっぱり……この胸のせいで小鷹はあたしに靡いてくれないのかしら?」

 

 自室に戻り姿見で自分の上半身を観察する。

 自分で言うのもなんだけど、立派な胸。学校の男たちはあたしの胸に釘付けなぐらい。

 でも、この大きな胸のせいで小鷹はあたしを見てくれない。

 あたしが女だってわかっちゃうから。

 小鷹が男にしか興味がないのだとしたらこの胸は邪魔物でしかない。

 

「手で胸を掴みながら鏡を見て何を悩んでいるのですかお嬢様?」

「す、ステラ?」

 

 鏡にステラの姿が映っていた。

 振り返ると背後に長年我が家に仕えてくれている家令の姿があった。

 

「あの、その、これは……」

「みなまで言わなくてもわかります」

 

 ステラはあたしの言葉を手を振りながら途中で遮った。

 

「小鷹様のこと、ですね?」

「そ、それはそうなんだけど……」

 

 あたし、そんなわかり易い顔で悩んでいたのかしら?

 というより、悩みの内容を言い当てられてしまってちょっと恥ずかしい。

 

「つまりお嬢様は、小鷹様の子供を妊娠してしまいお乳も出るようになって胸が重くなって困っている。そうですね?」

 

 ステラはドヤ顔をしてみせた。

 

「そんな訳があるかぁ〜っ!」

 

 大声でステラを怒る。なっ、何てとんでもない勘違いをしてくれるのよ?

 

「では、お嬢様は小鷹様の子供を妊娠してしまい、旦那様に結婚の許可をどう貰おうか悩んでいる。これで決まりですね」

 

 再びステラはドヤ顔をしてみせた。

 

「だから妊娠から離れなさいよっ!」

「えっ? それではまだ小鷹様の子供を身篭っておられないのですか?」

「当たり前でしょうが! あたしと小鷹はそんな関係じゃないんだから」

 

 大声で否定したら、ステラは今度哀れむような視線を向けて来た。

 

「つまり、そんな立派な武器を持っているのに小鷹様を他の女に寝取られたことを気に病んでいるのですね? 小鷹様は他の女を妊娠させたと」

「寝取られてなんかないわよ! …………多分」

 

 小鷹と幸村の関係が実際にどうなのかは知らない。けど、そうじゃないと信じたい。

 

「では、寝取られてはいなくてもお嬢様は失恋した。もうそういうことで良いですね。お嬢様は無様極まりない負け犬になったと」

「失恋もしてないわよ! …………多分」

 

 小鷹の気持ちを直接に聞いたことはない。だから失恋もない。

 

「じゃあ、どうすれば好きな男をモノにできるかという思春期少女の一番ありがちな悩みで悶々としている訳ですか?」

「そ、そうよ! 文句ある?」

 

 ステラを睨む。長年あたしに仕えているステラにはなかなか隠し事ができない。あたしが小鷹のことを好きなのもバレている。だからその辺で無駄な討論をするつもりはない。

 

「いえ。弄り甲斐のある楽しいトピックを提供して頂いたことに心より感謝申し上げます」

 

 ステラが深々と頭を下げる。その丁寧な頭の下げ方が却ってバカにされているように感じるのはあたしの気のせいかしら?

 ちょっと確かめてみる。

 

「弄り甲斐があるって、助けてくれる気はあるの?」

「世界を救う勇者に対して城内を暇そうに歩いている兵士よりもショボイ武器を与える王様程度の援助は期待して頂いて良いかと」

「つまり期待できないって話よね」

 

 世界を滅ぼそうとする大魔王に棍棒や銅剣で立ち向かえって命じているのも等しいのだから、まるで信用できない。

 

「何を言っているのですか? 勇者以外は女だらけのパーティーを編成して、王様からもらった金が尽きるまで宿屋に無意味に泊まり続ける。どんな宿屋だって昨晩はお楽しみでしたねと言いたくなるようなパラダイスを私なら提供出来ますよ」

「世界を救うという本来の目的には1円も使わないのね」

「剣1本買うことが出来ないはした金なんてパッと遊んで使えば良いんですよ。そしてモンスターとの戦闘は宿屋で篭絡した女たちに任せて自分は防御に徹して生き延びる。王様の援助のおかげで世界は救われますよ」

「王様も自分の援助がそんな風に使われるとは思わないでしょうね」

 

 ステラの説明を聞いて呆れる。RPGをこんな歪んだ瞳で見ている人間もそうはいないと思う。

 

「そういう訳で私に任せて頂ければ、お嬢様は小鷹様を手に入れリア充ハッピーエンド。そして私はこの家に新たなお笑い要員を迎え入れられてみんなハッピーです」

「結局、自分の為でしょうが」

 

 ステラの言葉を聞いているとあたしの幸せは二の次にしか聞こえない。

 

「ええ、そうですが。それが何か?」

 

 ステラは思いっきり開き直っていた。うん、開き直った人間は強い。

 これ以上抗議しても無意味なことはよくわかった。

 

「それで、お嬢様の恋のライバルは一体どなたなのですか?」

「そ、それは……」

 

 ステラに改めて問われると返答に困る。

 夜空や理科の名前を挙げるのはまだ良い。一般的にもライバルと認められるだろうし。でも、あの子の名前を挙げるのは……。

 

「どうしたのですか、お嬢様? 早くライバルの名前を仰って下さい。でないと作戦が立てられません」

「えっと……それは……」

「言い難い。つまりその方をライバルとみなすと色々と不都合が生じる訳ですね」

「う、うん」

 

 ステラはあたしの意志を読み取ってくれた。そうなのだ。ライバル名を挙げるとあたしも小鷹も変態扱いされかねない。

 

「では私の方からライバルの名前を挙げましょう。そこまで隠そうとする相手……ずばり、ライバルは高山マリア様ですね」

「そんな訳があるかっての!」

 

 大声で否定する。

 

「てっきり小鷹様がロリコンに走ったので悩んでいたのだとばかり……」

「小鷹がロリコンな訳が…………ない、わよね?」

 

 急に心配になって来た。小鷹ってマリアや小鳩ちゃんにだけは妙に優しいし。でも、それは小さい子供に甘いだけ。恋愛感情じゃない筈だ。今、問題なのはマリアじゃない。

 

「では、ライバルは旦那様という訳ですね。1人の男を巡って父と娘が骨肉の争いを繰り広げる。最高に面白いシチュエーションですね。吹き出してしまいそうです」

「ライバルがパパの訳がないでしょ! あたしのライバルは幸村よ。楠幸村っ!」

「幸村様……男が恋愛のライバルとはお嬢様は大層面白い目に遭っていますね」

「嫌ぁあああぁっ! 思わず言っちゃったじゃないのよぉ〜〜っ!」

 

 思わずステラの誘導に引っ掛かってしまった。

 

「しかし、ライバルが男とは厄介ですね。もし、小鷹様が本物に覚醒してしまった場合、残念ながらお嬢様に振り向いてもらうことは正直不可能でしょう」

 

 ステラはあたしの胸を凝視しながら意見を述べた。

 

「そ、それはないと思うわ。私には前と変わらずに接してくれるし」

「それは最初から脈がなかったということなのでは?」

「ちっ、違うわよ! …………多分」

 

 小鷹はあ、あたしの裸を見て何度もドキドキしていたのだからそんな訳はない。

 あたしのことも1人の女の子としてきっと意識してくれている筈。

 

「つまり、小鷹様が男に走ってしまうのか否かはお嬢様の頑張り次第に掛かっている。そういうことでよろしいですね」

「そうよ。それ。それなのよ! あたしはわざわざ小鷹の為に慈愛の心で一肌脱いでやるのよ」

「……まったく、このお嬢様は自分への言い訳ばっかりなのだから。好きなら好きってさっさと言えば済むものを」

「何か言った?」

「いいえ。別に」

 

 ステラはあたしから目をそらした。

 

「で、あたしはどうすれば良いの? どうしたら小鷹を男色の道から子沢山パパの道へと戻せるの?」

「素直に小鷹様に愛の告白をするのが最善の策かと思います」

「却下」

 

 あたしから愛の告白なんてあっちゃいけない。

 そういうのは小鷹の方からするべきなのよ。そうよ。それが男の役目ってもんだわ。

 

「じゃあ、小鷹様のことは諦めて他の良い男性を探して下さい。面白くて弄り甲斐のある方をお願いします」

「諦めるの早っ!」

 

 ステラの容赦なさに泣きそうになる。

 

「あたしから告白なんて出来る訳がないじゃない。パパに2人の仲を報告する時だって、あたしの方から告白したんじゃ小鷹だって格好が付かないじゃない」

「……家族公認にする気満々な癖に自分から告白は嫌だとか図々しい」

「何か言った?」

 

 ステラの呟きは小さ過ぎて聞き取れなかった。

 

「いえ。つまり、困窮極まる現状においても小鷹様がお嬢様に告白するように仕向ければ良いという訳ですね」

「そういうことよ!」

 

 愛の告白は男からの最低限の義務。

 そしてあたしには小鷹からの愛の告白を受け入れても良い権利を有しているの。その境界は譲れない。

 

「ウェディングドレスは用意しておいてあげるからさっさと告白しろっての。ほんと、小鷹ったら愚図でノロマなんだから」

「……負け戦寸前の分際で図々しいですね」

「何か言った?」

「いえ。何も」

 

 ステラは顎に手を置くと目を閉じた。そして次の瞬間には目を開いた。

 

「今までの話を総合すると、お嬢様が幸村様に勝つ方法は一つしかありません」

「方法はあるのねっ!」

 

 パッと目の前が明るくなるのを感じた。

 あたしはまだ、小鷹を諦めなくて済む。そう希望を持つだけで世の中がバラ色に見えた。

 

「お嬢様が幸村様に勝つ方法。それは……」

「それは?」

 

 唾を飲みながらステラの回答を待つ。そして、聞かされた答え……。

 

「目には目を。男には男をですっ!」

「男には男……あっ、そういうことなのね!」

 

 ついにわかった。幸村に対抗する策が。

 こうしてあたしは対幸村用の最強のカードを手に入れたのだった。

 

 

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 翌日、あたしは完全武装して学校へと登校して来た。

 

「肉よ……その血迷った格好は一体なんだ?」

 

 夜空から負け惜しみの声が聞こえて来る。だからあたしは自信満々に答えてあげた。

 

「今日で小鷹はあたしのものよっ! あたしに服従するのっ! 一生あたしの尻に敷かれる生活の始まりなの!」

 

 服装が変わったからだろうか。いつになくあたしは明るく前向きでいられる。

 

「肉が血迷うのはいつものことだが……遂に無駄脂肪が脳を埋め尽くしてしまったのだな。脳筋ならぬ脳無駄脂肪とは……」

 

 夜空は遠い瞳をしながらあたしの元を遠ざかっていった。

 

「フッ。勝ったわ。夜空ったら、ざまあみなさいっての。べーだ」

 

 今までバカにされ続けて来た恨みも込めて遠ざかる夜空にアッカンベーをしてみせる。

 

「待っていなさいよ、夜空。アンタもあたしの魅力で負かせてやるんだからっ!」

 

 軽やかにスキップしながら構内を移動する。

 始業前のこの時間、ぼっちの小鷹は教室内のリア充空気に堪えかねて屋上へとよく避難しているのは調査済み。

 屋上へと続く昇降口の扉を開く。

 すると、いた。

 屋上の隅で寂しげに空を見上げる今日、今からあたしの恋人になる未来の旦那様の姿が。

 

「小鷹〜〜っ!」

 

 手を振りながら小鷹へと駆け寄っていく。

 

「うん? 星奈か……って、えぇええええぇっ!?」

 

 あたしの姿を認めた小鷹はとても驚いていた。よし、印象付けには成功した。

 後は昨日ステラと打ち合わせした通りの喋り方をすれば……。

 

「今日も良い朝ね。夜露死苦〜♪」

 

 ステラに習ったナウなちょい悪ヤングのトレンディーな挨拶を小鷹に放つ。

 これで小鷹のハートはあたしにイチコロね♪

 

「なあ、星奈。その格好の意味は一体何なんだ?」

 

 だけど予想に反して小鷹は顔を青ざめさせてあたしを見ている。

 えっ?

 

「何って、今日からあたしも漢らしく生きようって思っただけよ」

 

 自分の格好を見回してみる。

 体に身に纏っているのは、伝説の番長たちが好んで着ていたという白の長ラン。当然ボタンは閉めていない。それがエチケット。

 更に胸元からお腹に掛けては伝説の番長たちの正装だというサラシを巻いてみた。

 そして足元には男たちのお洒落の定番だというロンドンブーツを装備。上げ底ブーツ効果により普段より25cmアップ。今なら小鷹より背が高い。これぞ漢の証よね♪

 

「漢らしくって……いや、それはどちらかと言うと……」

 

 小鷹が目を丸く見開いて小刻みに体を震わせている。

 何か、予想していた反応と違う。

 

『うわぁ〜〜っ! 星奈が急に男らしくなったぞぉ。俺の心はもう星奈兄貴のことで一杯だぁ〜♪』

『いいわよ、小鷹。あなたに真の男って言うのがどういうものか教えてあげる。そしてその次は……女の良さもこのあたしがたっぷりと教えてあげるわ。フフフフフ』

 

 こんな展開になるって、ステラも言っていたのに。

 何で、どこを間違えたと言うの?

 

「あああっ!? 星奈のあねごが……星奈の超あにきになっていらっしゃる……」

 

 その時、背後から大きな驚き声が聞こえた。振り返るとメイド服姿の幸村があたしに向かって震えながら指を差していた。

 

「フッ。あたしの超男っぷりに驚いているようね」

「天下布武の名の下に、強力無双の星奈の超あにきが近隣の学校を恐怖制圧してきた様子がありありと目に浮かびます」

 

 幸村の震えは全身に伝わっている。幸村のこの驚き方を見る限りやっぱりあたしは選択を間違っていなかったようだ。

 もう確信した。今のあたしは幸村よりも男っぽい。つまり、小鷹の横にいるのはあたしが最も相応しいのよっ!

 今、引導を渡してやるわよ、楠幸村っ!

 

「あたしの方が幸村より男らしいと認めるのよね?」

「…………残念ながら星奈の超あにきに男らしさで足元にも及びません」

 

 幸村はガクッと膝を折った。

 

「ですが、いずれは星奈の超あにきぶりに劣らない男気を身に付けたい所存で……」

「今、幸村に男気がないことが問題なのよ。小鷹と雌雄を決せられる男気があるのは今現在あたしだけなの!」

 

 幸村に復活のチャンスを与えちゃいけない。ここは心を鬼にして、一気に小鷹を攻略しなくちゃ。

 

「さあ、小鷹。あなたの好きな男同士の濃密な時間を過ごしましょう♪」

 

 小鷹は男が大好き。故に男装したあたしに気が惹かれない訳がない。そして2人が親密になっていったところで今度は女の子として女の良さを再教育する。これで小鷹は女のあたしにすっかりメロメロ。結婚まで一直線。我ながら完璧なプランよね♪

 さあ、小鷹。男同士の熱い抱擁をしても良いのよ♪

 

「その、さっきから星奈は一体何を言ってるんだ?」

 

 小鷹は顔から冷や汗を流しながらあたしを見ている。その顔はどう好意的に受け取っても微妙なものでしかない。

 

「何って、小鷹は女の子よりも男の方が好きなヘタレヤンキーだから、あたしが男装してあげたんじゃないの」

 

 白ランの袖を摘んで小鷹に見せてあげる。でも、小鷹はあたしから微妙に視線を外したままだった。

 

「スタイル良くて美人の星奈がそういうの着ても……男装じゃなくて仮装にかならないっての」

 

 小鷹は照れ隠しに鼻の頭を擦った。

 

「えぇええええええぇっ!?」

 

 小鷹にざっくりと指摘されてしまった。幸村は納得させられても小鷹は落とせなかった。

 昨日徹夜でヤンキー言葉を覚えたのにそれを披露することは永遠にないのね。

 

「それにどんな誤解をしているのか知らないが、俺はちゃんと恋愛では女の子が好きだぞ」

「えぇえええええええええええぇっ!?」

 

 小鷹の告白に驚かされてしまった。だって、小鷹が男好きじゃなかったなんて……。

 

「だって小鷹は幸村と付き合って爛れたエクスカリバーな関係なんじゃないの?」

「そんな訳あるかっ! 幸村は後輩で……友達、だよ。星奈が考えているような関係では断じてあり得ないぞ」

「わたしはあにきの舎弟です。まだ閨のお供を命じられたことはありません」

 

 小鷹の言葉を聞いて安心する。

 幸村の言葉には逆に危機感を覚えたけれど。命じられたら夜のお供もするっていうの?

 

「だから、ありもしない俺の特殊な性癖を治そうとそんな珍妙な格好をもうしなくて良いぞ。俺絡みでこれ以上の悪評が立てられたら……天馬理事長に俺が殺されかねない」

 

 小鷹があたしの肩に両手を乗っけて来た。とても自然なボディータッチ。こんなに積極的に小鷹があたしに触れて来たのは初めて。

 ……やっぱり、この服装は普段よりもあたしと小鷹を近付けているんじゃないかと思う。

 でも、小鷹に真摯に心配してもらっている以上この格好を続けることはあたしには出来ない。

 

「わかったわ。小鷹がそんなに言うなら男装はやめるわよ」

「ああ、そうしてくれ」

 

 ちょっと残念な気もするけれど、仕方ない。じゃあ、制服に着替えて……って!

 

「どうしよう。今日女子の制服持って来なかった!」

 

 今日は1日中男の格好でいるつもりだったからいつもの制服を持って来なかった。体育もないので体操服も持って来ていない。

 他の子の体操服を借りようにも、服を貸してくれそうな同性の友達があたしにはいない。

 大ピンチだった。

 

「星奈の超あにき……それではこうされては如何でしょうか?」

 

 あたしに向かって手を挙げたのは幸村だった。

 

 

 

「まっ、あの白ランで授業を受けるよりは目立たないわよね」

 

 屋上の物陰で着替えを終えて自分の服装をチェックしてみる。

 小鷹の制服はブカブカ。だけど袖を巻くってベルトをギリギリまで締めることで何とか着ることができた。

 

「それにこれ、小鷹の制服だもんね。ふふふ」

 

 小鷹の制服に身を包まれていると思うと何だかちょっと嬉しくなって来る。今までで一番小鷹に近付けた気分♪

 

「星奈は何だか楽しそうだな。俺なんか……こうだぞ」

 

 目の前に現れた小鷹。その格好は……。

 

「あっはっはっはっは。ヘタレヤンキー改めて、本物のヤンキーの誕生ね♪」

 

 白長ランにサラシを巻いた小鷹は格好だけなら伝説の番長と並び立てる姿をしていた。格好だけだけど。

 

「さすがです、超超あにき。その凶悪無比な姿を見れば、校内の誰もが超超兄貴にひれ伏し地面を嘗め回すことでしょう」

「星奈は指差しながら笑ってんじゃねえよ。そして幸村。言いながら土下座して地面に額を擦り付けるのはやめろっ!」

 

 ただでさえ怖がられている小鷹が伝統的番長スタイルで校内を歩けばどうなるか想像することは難しくない。小鷹だって十二分にわかっている筈。

 それでもあたしと服装を取り替えてくれたのだ。

 笑ってはいるけれど、あたしはとても彼に感謝している。これからはもう少し小鷹に対して素直に接しようかなと思う。

 あたしの気持ちを小鷹に気付いてもらえるように。

 

「そして星奈のあにき。超超あにきの一番の舎弟の座は譲りません」

 

 幸村から鋭い視線が飛んできた。舎弟というのは幸村にとって小鷹と一番親密であることを表す単語なのだと思う。

 なら、売られた喧嘩は買わない訳にはいかない。

 

「舎弟だろうが……恋……人……だろうがあたしが一番になってやるわ。負けないからね、幸村っ!」

 

 後輩からの静かな宣戦布告をあたしは堂々と受けたのだった。

 

 

 了

 

 

 

説明
幸村を準メインに据えた私のはがないではほぼ唯一の作品

とある科学の超電磁砲
エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件
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