異世界で生きる
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一話

 

 

温かい光と共にどこかふわりとした感覚の後に頬にひんやりとした鉄のようなものが当たる。そして手、足、胴と徐々に身体が構成されていくのがわかる。不思議なことにそれに不快感は全くと言っていいほどなく、あぁ、身体が手に入ったなぁとどこか他人事のように感じてしまった。胴の構成中に背中が痛かったが、構成による痛みとかそんなのだろう。ちなみに周りは光に包まれていて俺がこうして構成されているのは見えていない。召喚中、ということだろうか。

 

 

「かっ、海人!?何で!?それにここどこだよ!?」

 

 

「……」

 

 

光が収まりなんだか聞き覚えのある不快な声を耳にして、気分が一気に落ちる。先程まで魂のみだったために身体がやや動かしづらいが……まぁ動けない事はないので倒れていた身体を起こすと、真ん中に一つ赤い宝石の付いた黒い金属製の細いリングが手首についていた。これがへファエストス様のくれた腕輪だろうか。だがとにかく今は現状確認、叫んでいる龍也を無視しながら周りを見る。

 

 

目の前には純白のドレスを着た金髪ロングの美少女が祈るようにひざまずき、その周りには甲冑に身を包みハルバートを持った兵士達、そしてローブを着こんだ髭の長いじいさんが捻れた木の杖を持っている。おぉ……へファエストス様の言う通りファンタジーだな。

 

 

「勇者様が……二人?」

 

 

じっくりと観察していると、金髪美少女が戸惑った様に口を開く。するとそれを皮切りに周りの兵士達とかも戸惑い出した。まぁ本来呼び出すはずの勇者は一人らしいし、驚くのは無理もないだろう。

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「前例がないぞ?」

 

 

ざわざわとざわめきだす周囲を眺めていると、それまで何も言わなかったじいさんと目があった。向こうはこちらを厳しい目で見てくるが、俺は大の大人や召喚主が戸惑ってる今の状況がわかってるのが俺だけって事が無性におかしく感じて顔が歪に歪む。それにじいさんは目を見開いていた。昔から少し笑うとこんな感じになっちまうんだよ……どこの悪役かっての。

 

 

「おい!どういうことだよこれは!それに海人!お前も何でここにいるんだよ!?お前は……」

 

 

そんな風に考えていると、龍也が肩を掴んでくる。気持ちはわからんでもない。死んでいるはずの人間が一緒にいるんだからな……しかし、俺はもうこいつと一緒にいる気はない。というか、正直なところ今でさえハデス様の言っていた様にキレてしまいそうになる。それでも何もしないのはこの世界の事がよくわかっていない今、動くのは得策ではないからだ。こいつを殺すのは構わない。しかし、これから先どうなるにしろ動きづらくなってしまうのは確実なはず。下手して勇者になんかされたら目も当てられない。故に、そういう事をするのは愚策も愚策だ。やられたらやりかえすけど。

 

 

「……そこの君、状況を説明してくれ」

 

 

俺は龍也の手を払いのけ、目の前の美少女に問う。龍也が唖然としているようだが、知ったことか。いずれはこいつと同じ何かしらに巻き込まれるだろうが、その時までは……いや、それからもこっちではやりたいようにやってやる。

 

 

「え?あの「気にするな。いいから」あ、はい。えっと――」

 

 

気まずそうに口を開いてくるが、それを遮って言うと渋々という感じで説明をしだす。つまりはよくあるファンタジー小説と同じだ。魔王が出たから助けてください勇者様〜、ということ。しかも伝統を尊ぶこの国と敵対する実力主義の国や他の商業の国などの圧力もあり、とにかく助けてくださいと言ってきた。魔王はともかく、国同士の争いとか勝手にやってろって話だよな。それになんだか話の節々で色々とおかしいとこもあるし。特に国の話でやけに自国を強調して他国を貶してたけど……あれ?もしかしてこの国ヤバい?

 

 

その際龍也が力が無いだの何だの言ってたが、異世界召喚補正で身体能力だの魔力だのがつくから大丈夫とのこと。その時の龍也のホッとした笑顔で彼女が落ちていたのはテンプレだ。正直あれだけで何とかなるのが訳が分からん。しかし勇者二人は前例が無いとかで、一先ず国王の所に連れてくらしい。十中八九龍也が選ばれて、へファエストス様の言ってた通り俺には何かしら起きるだろう。どんなものが来ても負けるつもりはないが。

 

 

「――では、案内しますのでついてきて下さい」

 

 

彼女がそう言うと、俺と龍也の両隣を兵士で固められる。勿論姫っぽい美少女は龍也の隣だ。そこで龍也は何か言いたげな目で見てくるが他には特に何も考えてないようだ。しかし、これ明らかに脅しだろ?下手な真似はするなよっていう。特に俺への。

 

 

「……やっぱりアホか」

 

 

歩きながら思わずボソリと呟くと、少し前にいたじいさんとまた目があった。チラチラ探ってやがるようだが……何の能力も使用していない現在は、身体能力が高い普通の高校生だ。あとは魔力?が多いかもしれないけど、それは異世界召喚補正とかで解決できるはず。多分大丈夫なはず……まぁ、楽観的ではあるかもだけど。

 

 

「さぁ、つきましたよ」

 

 

彼女が言うと、扉の前にいた兵士が扉を開く。どうやら考えてるうちについたようだ。そして中に入ると、赤い絨毯のひかれた階段の上の玉座にふんぞり返ってる座っている王様、周りには位の高いと思われる人間が多数。中は嫌な空気でいっぱいだ。

 

 

「おぉ……アリア。その者達は?」

 

 

「実は――」

 

 

かくかくしかじかと説明する彼女ことアリア。こうやって普通に話してる事から、やはりこの国の姫だろう。そして話が終わるとやっぱりテンプレな展開で魔王が〜とか我が国の危機〜だのとあくびが出てしまうほどに長々と話した後、俺と龍也を一度交互に見て、今度は龍也だけに目を向けて言った。

 

 

「勇者リュウヤよ、やってくれるな?」

 

 

「魔王がこの世界の皆を苦しめていて、その魔王を俺しか倒せないって言うんなら……うん!皆を守るためだ!謹んでお受けいたします!」

 

 

「うむ!では下がりなさい!今日はしっかりと休むと良い」

 

 

俺がいるにも関わらずトントン拍子で話が進み、龍也はしかもそれを受けて俺を忘れて出ていきやがった。本当にこいつの頭はどうかしてるに違いない。というか、元の世界の家族とか取り巻きとかいろいろ知り合いはほっといていいんだろうか?特に家族。

 

 

「……で?俺が残されたってことは、勇者は二人もいらないと?」

 

 

「ほぅ、察しがよいではないか」

 

 

俺が言えば先程までの優しい親父はどこへやら。目付きからなにまで全てを変えて、見下した感じに言ってくる。見渡すと全員同じ顔をしており、皆一様に自分の利権を第一にするような腐った目をしてやがる。ざっと見てあのじいさんはいないが、騎士甲冑を着こんだ隊長格らしき人間までそうなのだから呆れしか出てこない。

 

 

「では、俺にどうしろと?」

 

 

「即刻この国から出ていき、二度と立ち寄るな。本来ならば先程のリュウヤとかいう正義馬鹿だけでよかったのだ。お前はいらん。儂の気まぐれとはいえ、殺されないだけ有難いと思え。幸いなことにお前をあやつは意に介していなかったようだから、理由などどうとでもなろう。無論、アリアには気づかれぬようにな」

 

 

「……」

 

 

入国禁止までいくか……なるほど。他の人にとってはどうかは知らないが、俺にとっては思っていた以上にヤバい国みたいだ。即行で殺さないのはたかが異世界人一人となめているんだろう。事実、龍也は運動神経は良いものの、こと喧嘩に関しては雑魚かった。しかも平和ボケしている日本人とくれば、この世界ではほっとけば自然と野たれ死ぬのが正解だ。ここで殺すのも外に何も持たせず頬り出すのも大差ないだろう。生き物を殺すことは小さいころからいけない事と、半ば洗脳のように教え込み、一昔前までは多かった殴り合いの喧嘩等もめっきり減って、何だかんだと難癖をつけられる。そのくせ陰湿な物が増えた。海外ではどうかは知らないけど、とりあえず日本では、俺の周りにはこんなのばっかりだった。おもにアイツが面倒事を持ってきて、対処するのが俺だったわけだけど。幸か不幸か、そのおかげで人間の汚い所が少しは理解できたと思う。

 

 

が、しかし、俺は普通の日本人、ましてや異世界人とは違う。ありふれた不幸だとは思うけど、それでも俺はかなり苦労してきた。水道やガスが止められるなんて毎回だったし、高校に入学してからの入院費がかなりのもので、食事がないこともざらだった。そんな中で娯楽な物は買えるわけもなく、近所の羽振りのいい成金のお兄さんによりいろいろと手に入れていた。かなり飽きやすく新しいもの好きな人で、ゲームや漫画類はすべてこの人からもらったものだったりする。

 

 

『僕は金持ちだから、これやるよ。最新機種買っちゃったからさぁ〜……僕お金持ちだし?お前と違って家族にも恵まれてるし?株で大儲けしてるし?ハハハハハ!』

 

 

こんな風にいちいちいかに自分が金持ちか、いかに自分が優れているかを自慢してくるめちゃくちゃうざい人だったが、ただで物をくれるから大して気にしていなかった。まぁ、見下して良い気持ちになっていたんだろう事はあの人の目を見ればわかる。周りに自分は優しいって言いまわっていたからそれももくてきだったんだろう。やりかたは俺に得しかなかったけども。

 

 

閑話休題

 

 

とにかく、だ。俺は別に国外追放されても大丈夫ってことだ。食料面が心配だが、そこはテンプレ。ギルドとかあるだろう。無いなら無いでその時考える。情報が無い今はそうするしかない。

 

 

「……わかりましたよ国王様。ならば即刻立ち去るとしましょう。では失礼」

 

 

「ほぅ、存外物分かりが良いではないか。では疾くと去れ」

 

 

てめぇに誉められても嬉しくも何ともないわ!と思いながらもさっき言ったように動く時ではないので我慢する。正直言えばこのまま腕輪から剣出して奴らの腹をかっさばいて臓物を引きずり出した後、死ぬまで火であぶってやりたい。あと晒し首。

 

 

そんな事を考えながら、俺は王に背を向けて扉へと進んだ。

説明
何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。
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コメント
イヤッハー!! なろうから見てました! サービス終了でオワタ\(^o^)/と思ってたのでかなり嬉しいです!(シヘイ)
正直、ハデスからもらったいつでも死ねる権利とか不老とか必要かな?普通の人とかと同じの方がよいのかと。(サザナミ)
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