IS/3th Kind Of Cybertronian プロローグ「Lost in Space」
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宇宙を旅する者にとって、トラブルはつきものであり………そして、命取りだ。

初歩的なエンジントラブルなら、まだ助かる見込みはある。

宇宙船の中に有能な技術者がいればいい。問題なく、快適な宇宙の旅を続けられるだろう。

 

しかし、例えば小惑星との衝突になると、どんなに有能でも、技術者では刃が立たない。

大抵は船が大きく破損し、工具を握る前に宇宙の塵となるだろうから。

 

「ああ、ちくしょう。偉大なるオプティマス・プライムと我がスパークにかけて、僕はこんな目にあうような、悪い事なんかしたことないぞ」

 

セイバートロン星出身、惑星調査員サンダーソードは、自分を取り巻く最悪の状況を嘆いていた。

 

彼は、全身を青い鎧に身を包んだマクシマルズだ。

頭には、ほとんど三角錐に近い形状の兜を被っていて、額からは二本の長い角が伸びている。

両肩と腰元には、合計して四枚の装甲板が装備されている。

それらは、戦いの時にはとても役に立つのだが、今この場では、ただのガラクタに過ぎない。

 

「まずいなあ、これは。どうしたらいいんだ?」

 

サンダ―ソードは、地球人のそれを機械で組み直したような顔に焦りを滲ませていた。

緑色の目は、宇宙船の窓から見える、暗黒の宇宙を睨んでいる。

 

先程から、調査船プラネット・トーチ号の内部を、けたたましい警音が元気に駆け巡っていた。

サンダーソードはその音を捕まえて、首でも捻ってやりたい気分だったが、それは現状の解決にはなり得ない。

 

彼の視線の先には、宇宙空間にぽっかりと口を開けた、大きな穴があった。

淵は奇妙に渦巻いていて、その中は虹色に光っている。視覚センサーを乱すような、暴力的なまでの輝きだ。

 

それが何なのか、サンダーソードはよく知っている。

ただのワームホールだ。珍しくもない。

今いる空間と、他の空間を繋げるトンネル。宇宙旅行の、長く退屈な移動をある程度は省いてくれる。

 

サンダーソード自身、何度も利用したことがある。セイバートロン星の船には大抵、生成装置が装備されている。

そうでなければ、この広い宇宙を、エネルゴンやその他の貴重な資料を求めて旅することなどできはしない。

例え、彼が通常の生物では想像もできない年月を生きることが可能な、セイバートロニアンだとしても。

 

しっかり整備された宇宙船に乗っていて、重力の外縁部に近付き過ぎなければ、それほど危険な代物ではない。

だが、今の調査船プラネット・トーチ号は、しっかり整備された宇宙船ではなかった。

 

ほんの少し前、小惑星同士が目の前で衝突し、飛び散った破片が、ショットガンの弾のように船体に襲い掛かったのだ。

断続的かつ強い衝撃は、船を覆っていた防御シールドさえ打ち破ってしまった。

 

それだけなら、まだどうにかできたのだ。

サンダーソードには、穴だらけになった船の外殻や、めちゃくちゃにされた機械類を直すだけの技術がある。

だが、修復している間にワームホールが発生し、その重力場に捕まってしまった。プラネット・トーチ号はゆっくりとワームホールに接近しており、このままでは遠からず飲み込まれてしまうだろう。

 

サンダ―ソードはコンソールを操作した。

ロケットを起動させ、重力場から逃れようとする。

 

「くそっ、これも駄目か!」

 

コンピューターが伝えてくる情報によれば、船のエンジンが破損しているため、重力場から脱出できるほどの出力には耐えられず、爆発してしまうのだという。

かろうじてスラスターなら使えるが、姿勢制御用なので逃げるにはパワーが足りない。

 

船を捨てて、体一つで逃げ出すことも考えた。

サンダーソードには飛行能力がある。

だが、今外に出れば、瞬く間にワームホールの中に引きずり込まれてしまう。

そして、その強大なエネルギーにずたずたに引き裂かれ、原子以下の粒と化すのだ。

 

サンダーソードは身震いした。

いくらなんでも、そんな死に方はごめんだ。

 

ワームホールは、もう目の前に迫っていた。

正確に表現すれば、こちらから近付いている形になるが。

いつも利用している時には便利なトンネル程度にしか思わなかったが、今は大怪獣の顎にしか見えない。

サンダーソードは船の状態をスキャンした。

胸の中にはスパークがあり、考える頭もまだ肩の上に乗っている。

生き残るために全力を尽くすべきだ。

 

スキャン結果が返ってくる。

無理をしなければ、まだしばらくは船としての役割を果たすとのことだ。

ワームホールを無事抜けることができるかどうかは………微妙だった。

途中でプラネット・トーチ号が分解してしまう可能性は低くない。

だが、ゼロでもなかった。

 

「一か八か、抵抗せずにワームホールに入ってみるか? スラスターが使えるなら、壁にぶつからずに済むし……」

 

例え生きてワームホールから出れたとしても、何処に繋がっているかわかったものではない。

もし、太陽の表面近くにでも放り出されれば一巻の終わりだ。

だが、サンダーソードには「もし」を考えている暇はなかった。どうせワームホールから逃れられないのなら、素直に入るしかない。

彼は、もはや覚悟を決めていた。

 

口元を覆うバトルマスクを展開する。

こうすると、改めて気が引き締まるのだ。

 

「……大いなるベクターシグマよ、できたら僕をお守りください」

 

プラネット・トーチ号は、とうとう虹色の超空間に飲み込まれていった。

船全体が、大きく揺れる。自分の運命におびえているかのようだ。

 

サンダ―ソードは無様に転ぶようなことはしなかったが、内心は焦りで一杯だった。

スラスターを起動させて壁に寄らないよう調整しているが、推進用に船体後部のロケットも併用しているため、限界を迎えたエンジンが何時不調を示すか分からない。

 

その時が来なければいいが。

サンダーソードは心の底から祈った。

 

しかし、エンジンが爆発するより先に、船そのものが解体しそうだった。

内部の応急処置した箇所が火を噴き、船内は先程よりも音量を増した警報で満ちている。

このままでは、外からの力だけでなく、警報の圧力によってプラネット・トーチ号が内部から破壊されてしまいそうだ。

 

「ああああやばいやばい、お願いだからもってくれよ! もう少しなんだ!」

 

ワームホールの出口は、すぐ目の前にまで迫って来ていた。

虹色の渦の先に、紙の上に落ちた墨のような、通常の宇宙空間が見える。

もし、サンダーソードに汗腺があったとしたら、彼の足元は水溜りになっていただろう。

一刻も早く、粉微塵になる危険から逃れたいが、ここで焦ってロケットの出力を上げれば、大爆発だ。

 

サンダーソードは慎重に船を前へ進めた。

彼は、このプラネット・トーチ号を放棄するつもりでいた。

長年の相棒に対して愛着がないわけではないが、船体は修復不可能なダメージを負っている。寿命は長くない。

ワームホールの消滅を確認次第、脱出ポッドに乗り込んで、手近な星に着陸する。

 

贅沢を言えば、友好的な知的生命体のいる星がいい。

それか、あの鋼色に輝く故郷、セイバートロン星なら文句はないのだが。

 

虹色が薄れ、黒の比率が多くなる。

プラネット・トーチ号は、危険極まるワームホールから、セイバートロニアンからすれば牙の抜けたチワワのように安全な宇宙空間に脱出した。

しかし、警報は止まず、船は細かい振動を繰り返している。ワームホール内を通ったことによる負荷は相当なものだった。

プラネット・トーチ号が宇宙に漂うデブリとなるまで、時間はあまりない。

 

ワームホールのエネルギー反応が消える。

サンダーソードは慌ててコクピットから出ると、真っ直ぐ非常口に向かった。持って行きたい装備はあったが、残念ながら脱出ポッドは小さい。

 

円形の扉を開け、中に入る。サンダーソード一人を収めるだけで一苦労するスペースだ。

座席に腰かけ、コンソールを操作。射出。

白い涙滴のような脱出ポッドは、全速力でプラネット・トーチ号から離れて行った。

 

「……ごめん。さようなら、僕の家」

 

サンダーソードは、苦い声で呟いた。

数秒後、プラネット・トーチ号は爆発し、無意味な破片となって散らばった。

 

機械にも、感傷はある。

サンダーソードは、体の一部分を永久に失ったような気分だった。

三千年間、ずっと乗り続けてきた船なのだ。例えセイバートロン星に戻り、新たな宇宙船を手に入れたとしても、部品を取り換えるようにはいかないだろう。

 

脱出ポッドは、一番近くにある惑星に向かっていた。

青い海が全体の七割を締めており、残りは幾つかの大陸となっている。これなら、生物の存在が期待できそうだ。

自分がスキャンできるような、大型の生物がいるといいが、とサンダーソードは思った。

 

「でも、どこかで見たような星だな」

 

 

 

 

織斑千冬は、ふと夜空を見上げた。

赤い雫が、闇の中を横切ってゆく。

 

「……流れ星か」

 

願い事をする間もなく、赤い雫は千冬の視界から消えた。

もっとも、彼女はこれから塵になる予定の岩の塊に何かを頼むほど、ロマンチストではない。

すぐに興味を失い、視線を地上へと戻す。

 

腕時計を見ると、時刻は午後八時を回っている。

 

久しぶりに早く―――まあ、自分なりに―――帰れそうだ。

千冬は機嫌よく足を前に進めた。

 

その流れ星が、地球の未来を左右する物であるとは、今の彼女には知る由もなかった。

 

 

 

 

 

・用語解説・

マクシマルズ:ビーストウォーズシリーズに登場。オートボット(サイバトロン)に属する、比較的小型のトランスフォーマー。体が有機物を含んだ金属で構成されているため、動物に変形できる。

 

セイバートロニアン:セイバートロン星に住むロボット達の総称。変形しない者や、セイバートロン星出身でないトランスフォーマーもいるため、=トランスフォーマーではない。

 

ベクターシグマ:セイバートロン星にあるすごいコンピューター。単なる機械に生命を与える力を持っている。

説明
にじファンから移転。
本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。
オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。
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タグ
クロスオーバー インフィニット・ストラトス トランスフォーマー 

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