たとえ、世界を滅ぼしても 〜第4次聖杯戦争物語〜 崩壊虚城(紅炎越者)
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逢う筈が無かった【彼等】。

本来の道筋から逸れた【物語】。

 

いる筈の無かった存在が紡ぐ【運命】。

 

さぁ、その【命】を守ってみせてくれ、【竜殺し】よ。

 

 

お前の【((物語|伝説))】のヒトカケラ、その伝承を此処に具現化してみせてくれ――――――――

 

 

*************************************************

 

 

<SIDE/ドラグーン>

 

 

「あ……」

「…おい、どうした?」

笑いかけてから数秒、少年がドラグーンを見上げてポカンとしているのに、彼は内心首を傾げた。

 

(………何だ?そこまで変な事言ったか?そりゃぁいきなり現れた不審者がこんな事言えば戸惑うだろうが死ぬよりはマシだろう?それにしても随分と固まってるが何なんだか………………ッ!?これは…!)

 

 

突然の事に混乱しているのか、呆然としている少年に声をかけて色々と考えていたが、ふと【嫌な事】に気付いた――――――

 

「…………どうやら、時間が無いようだ…………よし、【コレ】被れ少年。」

「えっ?うわっ!?」

 

ドラグーンは、おもむろに自分の白い外套を脱いだ。

そのままバサッ!と、その外套を少年へと被せる。

驚いて、わたわたとしているのも無視して、少年を外した外套で包み込む。

辺りが少しずつ【暑く】なってきているのに気付き、だからこそドラグーンは急いだ。

最後に余分に残った布を、少年に握らせその口元に押し当てて強く言い聞かせる。

 

「その布越しに息をしろ、コレ越しならそこまで苦しくない……いいか、絶対に外すんじゃないぞ!!」

「っ…!」

 

コクリと頷いたのを確認すると、その体を抱き上げる。

まだ小さな体、桜とそこまで変わらないのが幸いだった。

全身、そして口と鼻の辺りを隠した少年を、最後に【自分の身体】で覆うように抱き上げると、ドラグーンは近くにある窓へ脱出しようと走り出した。

 

 

 

 

だが――――――――その瞬間

 

 

 

――――――――ゴオオォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!

 

 

近くのエレベーターの扉から、燃え盛る炎が、彼等のいる階へと侵入してきた。

炎は彼等の前方に燃え広がり、脱出しようとしていた窓すら舐め上げるように呑み込む。

ドラグーンはその様子を見て、その場からの離脱は不可能だと判断し急いで思考を回転させる。

上の階は自らが降りてきた、途中で小火が出ていた、今頃燃え盛ってるから無理。

下の階は炎が燃やしてきた、とっくの昔に火事でしかも崩れが酷い、無理。

 

(――――なら、この階の【反対側】へ、きっと燃え始めてはいるが、【完全に】炎に呑まれてはいない!)

 

思いつくと同時に行動に移す。

燃える炎がその身を焼かんと背後から迫るが、その炎を振り切って走り続ける。

少年を抱えている為、ドラグーンは【全力】で走れない。

サーヴァントが本気で脱出しようと走れば、少年の消耗した体に負荷がかかる。

ましてや普通の通路ではない、燃え始めた状態の通路を走っているのだ。

常に気を払って逃げないといけない中、ドラグーンは退避を続ける。

 

 

ズズズ……ゴガァッ!!

 

「―――――チッ!」

 

不気味な音に舌打ちすると、その場から急いで身を翻し回避する。

同時に音を立てて、次々と複数の瓦礫が降ってくる……!

 

―――今の今まで、微妙なバランスで保っていたホテルが、遂に完全に崩壊し始めたのだ。

そして上の階から少しずつ掛かっていた負荷に、ドラグーン達のいる15階の天井もとうとう耐えきれなくなっていた。

それは天井のみならず、床や壁も燃える炎と上からの圧力にミシミシと嫌な音を立て始める………………………………!!

 

ズンッ!ズガァァン!……ドゴォッ!バガンッ!ゴッ……!

 

降ってくる瓦礫を交わしながら、どうしても避けられないモノを蹴り壊す。

砕かれた瓦礫の破片が抱える少年に当たらないように、自分の身体で受け止める。

ただ全力で、逆のフロアにあるだろう((窓|外))へ((辿り着く|脱出する))為に、ドラグーンはあえて崩壊を始めた廊下を突っ切っていく…!

 

そも、神秘の宿らない攻撃はどれ程の破壊力を持っていても、サーヴァントを傷付ける事は不可能である。

瓦礫の雨だろうと、雪崩だろうと、津波であろうと、サーヴァントにとっては意味をなさないのだ。

何よりドラグーン自身、生前から、多少の瓦礫等当たったところで痛くも痒くもない。

 

…だが、ドラグーンの『拾った』少年はそうはいかない。

 

今はドラグーンに庇われているからいいが、急いで安全圏に退避しないと燃える炎と熱と煙で、その肺が焼けてしまう。

ましてや降り注ぐ瓦礫も、大きなものが降ってきたらドラグーンが無事でも、この少年は押し潰されてしまう。

 

だから、ドラグーンは自分の白い外套を少年に被せた。

実体化した((サーヴァント|英霊))の衣服が、ただの炎で燃える事も、ましてや火の粉や煙を通す事も無い。

その布越しで呼吸を確保すれば、少なくとも脱出するまでの【時間稼ぎ】は出来る……!

 

 

 

(っ…!ああ、全くなんでこんな事、してるんだかな…!)

 

 

 

――――本来なら、ドラグーンはこんな事をする必要は無かった。

ホテルに突入したのも、かのマスターが死んだかどうかを確認する為。

死んでないのを分かった時点で、さっさと帰ろうと思っていた。

 

それなのに、たとえ無意識でも、気付いてしまったのだ。

 

死にたくないと、泣いている、この赤毛の少年の【((声|願い))】を。

……【助けて】と、確かに、誰かを呼んだこの子供の【((悲鳴|祈り))】を。

 

その存在に、その声に、ドラグーンは………気付いて、しまったのだ。

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(―――――――見捨てられるわけ、ないだろう!!!)

 

頑張ったのだ、この子供は。

小さな足で、それでも一生懸命走って、【生きたい】と叫んだ。

【戦争】の余波に、小さいながらも立ち向かったこの子供が、こんな所で無駄死になんて嫌だった。

 

それに、ただでさえ、あんなお人よしのマスターに呼ばれてしまった。

((あのマスター|カリヤ))は、((子供|サクラ))を助けたくて、自分とバーサーカーを呼んだのだ。

きっと悲しむだろう、戦争の巻き添えで子供が死んだなんて知ったら、胸を痛めて悲しむだろう。

その場に居なかった関係のない事なのに…………………何も出来なかった自分を責めて、涙を流して、悲しむんだろう。

 

 

(そんなのごめんだ、【約束】をいきなり破るつもりなんてこっちには無い!!)

 

 

 

 

そう――――――――【約束】した、絶対に、【((守る|泣かせない))】と。

確かに、あの穏やかな日の光の下で、((少女|サクラ))と、【約束】したのだ。

 

 

 

 

それなのに……その自分が、【子供を見殺しにする】なんて、本末転倒も甚だしい!!

 

 

「死ぬなよ少年!あと………今から((壁を走る|・・・・))から、絶対に顔をあげるなよ!!!」

 

返事は無い、それでも胸の辺りに縋り付く小さな掌が、その言葉に応えるように強く握ったのが分かった。

それだけでいい、それで今は充分、下手に喋って煙を吸うよりよっぽどマシだ。

その声無き返事に、ドラグーンは了承と判断し前方の崩壊した廊下の――――――――――【崩れていない壁】を((全力で走り抜ける|・・・・・・・・))!!

 

 

「っああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

今のドラグーンにとっての敵は、【重力】だ。

崩壊していくホテルは、所々穴が開きポッカリと奈落の底を見せつつある。

ましてや、今【彼】が走っている壁のある廊下は、完全に崩壊しているところと、その寸前の場所が出来ていた。

そんな所を走るなんてしたら、すぐに足場を失うの何て分かりきっている。

ドラグーンだけなら落ちてもいいが、その落下の衝撃に少年の身体が持つとは限らない。

なら【無事な所】を走ればいい、それにあと少し、あと少しで窓へ辿り着く………!!

 

 

………だが

 

 

 

 

ミシミシミシッ!!ズガアアアアアアアアアアアアア……ッ!!

 

 

「――――――――っ!?」

 

 

 

 

壁が、崩れ落ちる。

壊れゆくホテルは、もはや無事な部分が少ない。

ドラグーンが駆けていた壁も例外ではなく、その崩壊へ巻き込まれていく…!

無くなる足場に堪えきれず、その身体は宙へと放り出された。

崩れゆく壁の瓦礫と共に、宙を舞うドラグーンと、腕の中の少年が落ちていく先は、燃え盛る火の海だった。

 

…………終わった。

ドラグーンは生き残るだろう、そのまま霊体化してしまえばいいし、炎の海等サーヴァントには効かない。

 

それでも…………終わってしまったのだ。

炎の海に落ちてしまえば、幾らサーヴァントの衣服に守られていても、少年が耐えきれない。

その命は燃え尽きて、この戦争の被害者として、その名を連ねる事になるだろう。

 

しかし、その健闘は讃えるべきだろう。

本来ならもっと早く死んでいた命を、救おうと足掻いたのだから。

故にこの結末は悲しいモノとして綴られる、そう――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――思っただろう、【ただの英霊】ならば。

 

 

 

「ぉ、ぉぉ、ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお…………!」

 

 

 

 

 

さりとて――――――――――その身はこの【戦争】へ招かれし、【最強】の一角。

 

 

 

 

括目せよ、未だその名を知らぬモノよ。

 

 

 

数多の刃も、数多の焔も、その身を害する事は敵わない。

 

 

 

その姿を直視せよ、彼の者こそ■■の英雄、かつて―――――――――――

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――■■の壁を越えたという逸話を持つ、【英雄】なのだという事を!!!!!!!

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手を伸ばす、燃える瓦礫がすぐ近くで一緒に落ちていっていた。

手が触れた、熱い、熱い、熱い、熱い、そんなの、知らない。

手は瓦礫を、もっと大きな瓦礫に向かって投げつける。

 

……崩れかけている、下の方の壁へ。

 

 

 

ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

サーヴァントの腕力で投げられた瓦礫によって、壁が破壊される。

その大破した壁が大きな瓦礫となって、ドラグーンの落下地点に割り込むように倒れ伏していく。

しかし足りない、まだ足りない、あと一手、その一手があって初めて【少年を守る事】が出来る!!

 

そして、ドラグーンは――――――――――――――自分から、傍を落ちゆく燃える瓦礫に、背中から思いっきりぶつかった。

 

 

ダァンッ!!

 

 

「っ…う…!」

 

走る衝撃に、腕の中の少年が小さく呻く。

その体を、出来る限り、包み込むようにしっかりと抱き締める。

瓦礫は燃えながら、そのまま火の海を潰した大きな瓦礫へと落下する。

仰向けになったドラグーンの視線は、自らが落下してきた頭上へと向けられた。

 

 

(落ちてくる瓦礫は、幸いにも其処まで多くは無い…いける、これなら全部((躱し切れる|・・・・・))。)

 

 

 

―――――――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

轟音を立てて、ドラグーン達が乗った瓦礫と一緒に、多くの瓦礫が落ちた。

その衝撃は、例外なくドラグーンを襲う。

 

しかし、その瓦礫の着弾と同時に、ドラグーンは、((走り出して|・・・・・))いた。

 

そう…………【彼】は瓦礫が落ちると同時に、その上半身を跳ね上げて【瓦礫と一緒に着地した】のだ。

それにより【少年への衝撃】を最小限に殺し、そして躊躇う事無く落下してくる他の瓦礫の間を走りだしたのだ。

落ちてくる瓦礫を確認していたのは、それがどれだけの脅威かを判断し、どの方向に行けばもっとも躱しやすいかを判断する為だった。

 

何という判断力、何という行動力、一瞬の迷いで即【死】に至る状況で、ドラグーンは少年を抱えて逃げている。

 

本当なら、何の関係も無いただの少年、この【戦争】に無関係の一般人。

ただそこにいただけ、そこで生きてただけ、逃げ遅れてしまっただけの子供。

その命が泣いていた、それが許せなかった、そう―――――――――――【それだけ】で、【彼】はこれだけの事をやってのけたのだ。

 

 

 

…こんなこと【ありえない】、と言えばそれまでだろう。

幾らサーヴァントでも、全力を尽くせない状態で、崩壊するホテルから子供を抱えて逃げるのは至難の業だ。

されども、彼の身は【ある時代】を駆け抜けた英傑の1人。

ましてや、【彼】は常に自らよりも【強大な存在】へ挑み続けた者。

 

たとえ本来の力は使えずとも、戦ってきた【経験と技術】は失われてはいない。

 

 

 

ならば―――――打倒してみせよう。

 

 

 

降り注ぐ巨石の雨から、幼子の命1つ守れずに、何が【英雄】か。

サーヴァントと戦っているのでもない、敵の罠にかかった訳でも無い、これはただの【災害】でしかない。

 

 

【この程度】の脅威、越えられずして【最強】の名は名乗れないのだから―――――――!

 

 

落ちた階には、奇跡的に無事な窓があった。

ドラグーンは、其処を落下と同時に確認すると急いで駆け寄っていく。

辿り着いた窓を蹴り割ると、その縁に足をかけ、一息に飛び降りようと踏み出す。

そして、その身体は再び宙を舞った。

 

そのまま隣のビルの屋上へ、ドラグーンは飛び降りていった―――――――

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<SIDE/??????>

 

少年は、抱えられながら必死に眼を閉じていた。

眼を開けるなと言われるずっと前から、響く轟音と熱いと感じる周りに、怯えながら震えていた。

次の瞬間、自分は死んでしまっているかもしれない――――――

眼に見えない恐怖、しかし見てしまったら、きっと心が堪えられない。

悲鳴を上げて壊れてしまう、そう思って、少年は怯えていた。

 

「あと少しだからな……諦めるなよ、ここで諦めるな!」

「暑いかもしれないが、我慢してくれよ…!」

「大丈夫だ、ちゃんと守るからな!」

 

――――――――そんな中、力強い声が響いていた。

まるで、言い聞かせるように、【彼】が少年へ叫んでいた。

 

何度も、何度も、少年が恐怖に押し負けそうになる度に、その声が支えてくれた。

 

【彼】はただ、怯える少年へ、ひたすら声をかけただけだ。

耳に響く爆音や崩壊の音が聞こえない程に、大きな声で音を遮ってくれただけ。

むしろそんな事しないで、脱出だけに気を向けていれば良かっただろうに、【彼】はそれを止めなかった。

 

 

それなのに……ソレが、まるで命綱のように、少年の【心】を繋ぎ止めていた。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

だから

 

咆哮が響いた時

 

少年は思わず、【眼を開けた】のだ。

 

穏やかな声と、力強い声しか知らなかった【彼】の、

凄まじいともいえる咆哮に、何があったのかと驚いたから。

 

 

――――――――――――そして、少年は見た。

 

 

抱えられている為に、片側しか見れなかった、【彼】の横顔を。

 

優しい笑顔を浮かべていた顔が、【怒り】に歪んでいたのを。

 

その美しい穹色をしていた右目が………………………

 

 

 

 

明らかに、燃え盛っている炎とは違う、【((紅色|クレナイ))】に染まっていたのを。

 

 

 

ダァンッ!!

 

「っ…う…!」

 

しかし、ソレを注視する事もままならず、体を揺さぶった衝撃に少年は再び眼を閉じてしまう。

苦しいと感じる間もなく、少年は必死に【彼】にしがみついていた。

それを分かったのか、【彼】もしっかりと、少年を抱き締めてくれた。

 

そして

 

 

 

―――――――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

「――――――――――っ!」

 

響く轟音、揺れた感覚、感じる衝撃に息が詰まるかと思った。

しかし、その衝撃はすぐに過ぎ去り、再び風を切るような音がする。

 

 

「頑張ったな…!」

 

 

声がする、優しい声が。

 

 

「もう大丈夫だ…もう出られるからな…!」

 

 

どうしてだろう、優しいのに、何でだろう。

 

 

「【生きてる】…よかった、本当によかった…!」

 

 

なぁ、どうしたんだ?何で【にいちゃん】、そんな【声】を。

 

 

 

「お前は―――――ここに【生きてる】んだ!!!!!」

 

 

 

………………その最後の【言葉】に、一体【何】を【彼】が込めていたのか、結局少年には分からなかった。

 

 

ソレを理解するには、少年は若すぎた。

周りの状況が絶望的過ぎて、考える余裕すらなかった。

ただ生き延びれるかもしれないという希望と、死ぬかもしれないという恐怖でいっぱいだった。

 

それでも―――――――――精神が極度の疲労に耐え切れず、意識を手放すその瞬間、思ったのだ。

 

 

 

(((この人は、怖い|でも、怖くない)))

 

(((この人は、恐ろしい|でも、優しい)))

 

(((この人は、普通じゃない|でも、とても温かい)))

 

 

 

(なんで、この人は、こんなに((強いんだろう|寂しそうなんだろう))――――)

 

 

その思考が脳裏を埋めたと同時に、少年の意識は深い闇へと落ちていった……。

 

 

*************************************************

 

 

「……………」

 

1人の男性が、崩壊していくホテルを見つめていた。

その表情は悲痛で、下ろした両手は血が滲むほどに握り締められている。

男性は、父親だった。

ホテルに取り残された、少年の、父親だった。

 

錯乱して気を失った妻は、救急車に乗せられて病院へ向かった。

一時的な混乱だから、すぐに回復するだろうとは言われていたが、男性は一緒にはいかなかった。

 

『……貴方、■■■はどこ?何処なの…?』

 

泣き叫びながら、涙を流していた妻。

息子の事を想いながら涙を流す彼女の為にも、せめて……せめて、遺品だけでも、拾いたかったのだ。

 

「■■■……ごめんな…!こんな父親で…お前を、助けにも、いけなかった…!」

 

妻の前では、流せなかった涙が溢れる。

まだ幼かった我が子、どうして、こんな形で奪われなければならなかったのか。

 

憎い――――許せない―――――愛しい息子―――――何で火事なんか―――痛い―――どうして爆発が―――――誰を憎めば――――憎い―――――■■■を、返せ!!!!!!!!!!!

 

分からない、男性は狂ってしまいそうだった。

理由が分からない、どうしてか分からない、理不尽が分からない、【奪われた】。

そう、ただ【ソレ】しか今は分からない…………!!

 

 

………ガランッ!

 

 

「っ…?何だ、誰か、いるのか…?」

 

 

ふと、何かを蹴倒すような音が響いた。

怒りに震えていた男性は、その音に正気に戻った様に戸惑うと、音の方へと眼を向けて…息を呑んだ。

 

 

「――――――――【士郎】っ!!??」

 

 

其処に倒れていたのは、助けられなかった筈の、大切な息子の姿だった。

 

「し、士郎!士郎…!」

 

止まっていたのは数瞬。

急いで近寄って抱き上げる。

少しやつれて薄汚れていたが、怪我は見る限りない。

どうやって、どうして、此処にこの子がいたのかは分からないが、それ以上に男性は喜びが湧き上がった。

 

「あ、ああああ…!士郎、しろう…!よかった、よかった……!」

 

ボロボロと、みっともなく涙が零れる。

先程の悲しみと憎悪の涙ではなく、喜びによる涙が、ポタポタと少年の頬に降り注いだ。

 

「…………とう、さん?」

「――――――――――――――っ!士郎!気が付いたのか!?」

「あ、とう、さん…!とうさん、とうさんっ!!う、うわああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

意識を取り戻した少年は、自分を抱き締めているのが父親だと分かった瞬間、声を上げて泣き出した。

父親も、確かに息子が帰ってきたのだとそう感じると、流れる涙をそのままに、少年を強く抱きしめる。

 

もう2度と……この小さな体を置き去りに等しない、と。

涙を流しながら、強く誓った。

 

「……とう、さん」

「どうした?士郎。」

少しして落ち着いたのか、眠たそうにうつらうつらしている少年に父親が返事をすると。

少年は【何か】を探す様に、視線を彷徨わせた。

「おれ…助けて、もらった……【にいちゃん】はどこ?」

「にいちゃん?…誰だそれは?お前しかいなかったんだが…」

「でも……おれが、生きてて、【よかった】って……何でかな……とうさん……にいちゃん、笑ってた……」

「………そうだな、きっと、士郎を助けて安心したんだろう。

 ここにはいなかったが、もう別のところに行ってしまったのかもしれないな…今から、お母さんのところに連れて行く…それまで少し寝ていなさい。」

「……うん…わかった…」

 

意識を保っているのも限界だったのだろう。

少年は琥珀色の瞳を緩ませると、目を伏せて小さく寝息を立て始めた。

その体を抱き上げて、父親は母親のいる病院へと向かう為に歩き出した。

 

…息子の言葉が、正直信じられないとも思った。

けれど、あの崩れゆくホテルの15階から、息子を助けてくれた人物がいるという。

本当なら礼を言うべきなのに、何処にいるかも分からないから、父親は胸の内で感謝の言葉を紡いだ。

 

 

(―――――――――ありがとう、誰かも分からないが、本当にありがとう………士郎を、この子を助けてくれて、ありがとう…【ヒーロー】さん。)

 

 

燃え盛るホテルを背に、父親は立ち去って行った………その背中を見つめる、【ヒーロー】の存在に気付く事なく。

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<SIDE/ドラグーン>

 

「――――――――――【父親】、か」

 

少年とその父親を見送る様に、ドラグーンは狭い路地裏から覗いていた。

苦笑を浮かべて、自分の言葉を胸の内に反芻する。

 

(本当に、いい【父親】を持ったな、少年……泣いて悲しんでくれるなんて、お前はやっぱり愛されているんだ。

置き去りにされてなんてなかった、あの父親も助けに行こうとしていたんだろう……ちょっとガラクタを蹴り飛ばして、道に寝かせただけですぐに気付いたんだから。)

 

 

―――――――ホテルから脱出した後。

ドラグーンは気を失った少年を抱えて、彼の両親らしき人物を探し回っていた。

 

赤い髪に琥珀の瞳。

これだけでも充分特徴のある容姿だ、すぐに見つかると踏んでいた。

そして数分後、ホテルから数メートル程離れた処に、赤い髪の男性が佇んでいる事に気付いた。

 

泣きながら、その眼を怒りで焼き尽くしてしまいそうになっている男性を。

少年を思って泣いている、父親の姿を。

 

「…………やっぱり、気を配っておいてよかったな。

私達のようなサーヴァントはいいが、ただの人間があの極限状態に触れ続けるのも問題だったしな。

肉体が無事でも、精神に異常をきたしてしまったら目も当てられないところだった………」

 

 

―――少年は気付いてはいなかったが、その【彼】の行動によって、少年は『二重』に守られていたのだ。

抱き抱えられている体は、温かい腕に守られていた。

怯えて壊れてしまいそうな心は、力強い声に守られていた。

どちらが欠けても、完全に助けた事にはならない。

例え両親の元に戻れても、大怪我をしていても、正気を失っていても駄目だ。

 

 

それでは――――――――とても【((助けた|救った))】とは、言えない。

人間を、【((生き人形|マリオネット))】にしてしまっては、意味が無いのだから。

そんな事になってしまったら、あの少年の【((物語|人生))】は悲劇で終わってしまうから。

 

 

 

そう………【彼女】のように……

 

 

 

 

「……【俺】は、【言えなかった】。」

 

 

ポツリ、と小さく呟いた声に呼応するように。

ポツリ、と黒煙が上る空から雨粒が降ってきた。

 

「言いたかったけど、言えなかった。」

 

ポツリ、ポツリ、と雨が降ってくる。

避難者達の上に、消防隊の上に、家族達の上に………【彼】の、上に。

 

 

「それでもあの時、【■■■■■】と言えていたなら…【俺】は…」

 

 

苦笑が歪む、今にも、崩れてしまいそうな、笑み。

その瞳に揺れるのは、何なのか、分かる者はこの場にはいない。

 

結局最後まで言い切る事は無く、【彼】は小さく自嘲すると、その場に背を向けた。

黒い路地裏を進みながら、霊体化していくその姿が完全に消え失せるその瞬間―――――――――――

 

 

「………………………………【■して】くれ。」

 

 

 

―――――小さな、独り言が、響いた。

[newpage]

【あとがき】

 

今回はこれで、ドラグーンと少年の邂逅が終わりました。

次回からはドラグーンから視線はそれ、再び他陣営を覗いたり、まだ怪しいやつらがゴソゴソと動き回ります。

ちなみに、ホテル脱出の時のドラグーンの動きが想像できない方は、

三国●双6のOPで戦ってる、●子龍(某、阿斗様命)を見ると分かりやすいかも?しれません。

何が起こるか分からない、正史から離れたZEROの続きを、お待ちしていただければ幸いでございます。

 

最後に、【彼】について。

悲しい話ですが、聖杯戦争にこの【彼】は関わるのは前提でした。

第5次が起こるか起きないかは別として、少年がどのみち聖杯戦争に関わるのは『運命』です。

原作からも考えられますが、タイミングによっては、旦那キャスターの陣営に子供の【彼】は殺されていた可能性もありました。

 

彼もまた、1つの救いの為にドラグーン達にかかわる事になります……………ネタバレするなら、少女を救えるのは、【彼】ですよ。

 

今回は、【君の中の英雄(栗林みな実)】をBGMにしました。

……最後の部分だけは、某SNの「消えない想い」に変えましたが(笑)

それでは、ここまでの閲覧、ありがとうございました。

 

 

※感想・批評お待ちしております。

説明
※注意、こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。

それでも見てやろう!という心優しい方は、どうぞ閲覧してくださいませ。

初陣ではバーサーカー無双をしましたが、今回はドラグーン無双となっております。
しかし相手はサーヴァントではないので、そこまで魔力消費は無いとの事で、閲覧いただけましたら幸いでございます。

ここまででご了承いただけます方は、スクロールをお願いいたします。
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