ハイスクールD×D×D&F
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 目の前には雲みたいな材質の真っ白い空間。そしてTHE☆DOGEZAを敢行している揉み上げの白いジイサン。ちなみに頭頂部は見事なまでにツルツルピカピカだ。

 事態が飲み込めず、とりあえず状況整理のためにそのジイサンに話しかけてみる。

 

「ここはどこですか?」

「ここは冥界のすぐ上にある狭間の世界じゃ。ワシの手違いでお主を死なせてしまって、慌ててここへ呼んだんじゃ」

「死んだ? 死んだ……死んだ…………死んだのかぁ」

 

 自分が死んだと言う事実に虫を殺してしまったと言う感情しか持てなかった。

 そんなオレの態度を怪訝に思ったのか、ジイサンはゆっくりと頭を上げて口を開く。

 

「……怒らんのか?」

「いや、だっていきなり死んだと言われてもねぇ」

 

 どんな死に方だったにせよ、現世に未練なんてないのでなんか他人事みたいにしか感じない。と言うかいきなり死んだと言われても死んだ事実を認識できるか?

 交通事故なら『痛みから解放されてよかった〜!!』だし、病気にしても『二度と生き地獄をあじわなくて済む』だし。それに死ぬ時の痛みなんて覚えてないから何の関心も持てないんだよ。

 

「お主は変わっておるな。他の者ならば死んだと言う事実を認識して喚くぞ」

「その人達頭可笑しいんじゃない?」

 

 普通いきなり死んだ事実を認識するって、どこの中二病だよ。オレは父親の葬式に参加したけど、今でも父親が死んだなんて実感持ってねぇぞ。

 あっ、病気だから現世の生活が生き地獄だったのか。

 

「で、ここに呼ばれた理由は?」

「じゃからこうして間違ったお詫びを……」

「じゃあ済んだし冥界に返して? もうお詫びも済んだしさ」

「いや、済んでおらんよ。謝罪はワシの気持ちからじゃ。ほれ、謝っておかないと変に罪悪感を持って気持ち悪いじゃろ。ワシはこの後もスッキリした気持ちで仕事に挑みたい。ならば自分の非は認めて謝罪した方が楽なのじゃよ」

 

 ようはワシの自己満足じゃ、と笑ってちゃんと2本足で立つジイサンには好感が持てた。

 自分の非を認めると言うのは現代日本人が忘れた心で、それを自ら実践してやるというのはすごいと思う。世の中には食品で不正をする奴もいるんだし。

 

「つまり、謝罪とお詫びは別物だと。ならお詫びって……」

「実はいくつかの候補地に転生してもらう予定だったんじゃ。丁度冥界に戻せと言っておったし、転生先は『ハイスクールD×D』でよいな」

「なにそれ?」

 

 なにかの暗号かと思ったら、徐々にオレの体が薄く透け始めた。びっくりして薄くなったところを埃を払うように叩く。しかし薄くなる現象は止まらなかった。

 

「心配せずともよい。転生がはじまったんじゃ」

「そ、それなら安心。『ハイスクールD×D』ってどんな世界なの?」

「なんじゃ、お主知らぬのか。最近アニメで放送されたと聞いたぞ」

「オレの専門はゲームだから知らない」

 

 知ってるとしても『ソード・アート・オンライン』や『RPG W(・∀・)RLD』ぐらいだ。

 

「そうじゃの、簡潔に言えばチェスの駒に似た部下達を使って競い合うゲームじゃ」

「チェスかぁ。オレってチェス弱いんだよねぇ。まァありがと、ええっと……」

「ワシの名前か? ワシはヤハウェじゃ」

「ありがと、ヤハウェ。楽しい時間を過ごせたよ」

「いや、なに。ワシも面白かったぞい」

 

 

 そこでオレの体は完全に消えた。

 ヤハウェは空を見上げてただ一言呟き、自分のやるべき場所へと帰って行った。

 

『彼女達と共に、幸せにの』

 

 

 

 

 5歳になってから前世の記憶を取り戻し、なんか余計な情報まで頭の中に入ってた。

 まァそれはおいといて。とりあえず今のオレの名前はディアドラ・アスタロトって名前になってる。家柄はかなり立派な城に近いもので、絵画などの装飾品もあるので金も持っているのだろう。俗に言う華族と言うやつだった。

 ん? 華族じゃ分かりにくい? じゃあ貴族で。つかなんで華族って言い方あるのに貴族なんて言葉もあるんだろ? 華族で慣れたら貴族が使いにくいんだけど。

 まァ下らない話は脇に置いといて、オレがいるのは冥界、所謂(いわゆる)悪魔達が住む世界だ。そのせいで冥界には悪魔を中心にしか住んでない。唯一の例外が、タイニーンという悪魔に転生したドラゴンが住む領地。そこだけ普通のドラゴンも住んでる。

 現在の状況を把握してる時、オレのいる部屋にノックがされる。誰か分からないが、とりあえず受け入れた方が早いだろ。

 

「失礼します」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは……修道女? あれ、ここって悪魔達が住んでる場所だよね?

 

「ディアドラ様、どうかしましたか?」

「いや、何で冥界に修道女がいるんだっけな〜って」

「ふふふっ、私と出会った経緯をお忘れですか? いいですよ、お話しますね。私が、ディアドラ様と出会った経緯を」

 

 そう言って修道女が語り出したのは裏切りの物語。

 彼女は元々教会に拾われた孤児で、教会に育てられてそのまま修道女となった。明るくたくさんの人と話して告解を聞いて、街に住む人達の心を癒し続けた。

 それが変わったのはとある夏の昼下がり。突如として異形の悪魔が教会を襲撃し、教会にいた人達を食べ始めた。少女は怖いと思いながらも悪魔に立ち向かい、不思議な力が発現して悪魔を退けた。それまでなら英雄譚で終わるのだが、悪魔が最後の悪あがきとして聖水の入った杯を投げた。聖水は本来悪魔にしか効果を発揮せず、例え浴びたところで少女に何の問題もない。

 しかし聖水は少女の肌を焼いてしまったのだ。

 神父達はそれに驚愕して、少女を悪魔の手先だと思い罵り、傷付け、迫害し、教会から追い出した。少女にとって家であった教会から……。

 茫然自失として街からも追い出され、そこで偶然であったのがディアドラ・アスタロトという子供の悪魔だったらしい。神も信じる気になれなかった少女は悪魔の言葉に乗り、火傷の傷を治す代償に悪魔の手下となった。

 

「私にとって、その時のディアドラ様は救世主に感じたんですよ。だから、私の命を拾ってくれたディアドラ様に、この身をかけて尽くそうと思ったんです」

 

 心の底から嬉しそうに語る少女の笑顔はとても可愛かった。

 オレの心に過ぎった不安(・・)をさらに強めるほどに。

 少女以外にももう1人オレの配下がいるらしく、その女性は神に仕える者として、そして聖剣を扱える物として人体改造の末に麻薬漬けにされていたらしい。そこで救出したのが|ディアドラ(オレ)だそうだ。

 語る少女はとても嬉しそうだったが、その話が余計にオレの不安を掻き立てている。

 

「そっか。教えてくれてありがとう」

 

 にっこりと笑ってその場を誤魔化し、少女から用件を聞いた。

 用件とは何のこともない。単に起きてくださいという意味だそうだ。ソレを聞いて少女を送り返し、オレは着替えながらさっきの話から感じた不安を整理する。

 

「…………どう考えても、都合が良すぎるよね……?」

 

 偶然悪魔が襲撃して、偶然聖水を被ってしまって、偶然火傷を負って、偶然素早く街を追われ、偶然|悪魔(ディアドラ)に出会った。

 あまりにも都合が良すぎる。まるでディアドラという存在が仕組んだみたいだ。

 もう片方にしてもそうだ。戦争しているわけでもないのになぜ聖剣を扱える存在を生み出す必要があった? それに、まだオレは5歳だ。いくら悪魔とは言え、なぜ5歳以下の子供に負ける?

 記憶を探ればディアドラが関わっているか確認できるし、実験内容も多少は見れるだろう。しかし真実を知るには言い知れない恐怖を感じて、この疑問は心の中に圧し留めるだけにした。

 リビングに行くと今のオレの兄がもう席に着いていた。

 

「アジュカ兄様、父様達は今日も外出ですか?」

「聞いてなかったか? あの人達は人間界で世界一周してくるって言って今日から出かける事になってただろ」

「……すみません、忘れてました」

 

 若干表情が引き攣るのを手に取るように理解しながら兄に謝罪する。

 オレの記憶を引き継いだのが今日だからと言うのもあるが、普通あの年で旅行に行くか? 人間に当て嵌めるととっくに60歳なのに。

 

「父さん達の前で年の事を言い出すんじゃないぞ。確実に殺されるからな」

「自重します」

 

 呆れのため息と同時に吐かれた言葉にオレは即答で返した。

 

「それじゃ俺は今日も研究をする。くれぐれも邪魔しに来るなよ」

「あ〜、えっと……ちょっと|悪魔の駒(イーヴィル・ピース)について疑問が。まァアジュカ兄様も忙しそうですし、また今度にしますね」

「近い内に時間を作る。その時にな」

 

 そういい残してアジュカ兄様は部屋を出て行き、オレはオレでテーブルに乗ったオレの分の食事にありつく。

 それからオレも屋敷内で魔力のコントロールをする事にした。ディオドラに怠惰癖があったのか、魔力のコントロールは未熟の一言につき、最初からの魔力コントロールを始める。いや、オレが魔力を扱ったことが無いと言う可能性もあるけどね。

 魔力と言うのはイメージで言うとスライムだ。ドロドロしてて水っぽく不定形。だけど水には無い質感があって重力に従う水より形状に柔軟さがある。とりあえず魔力を球体状に固める練習をして、なんとか1日かけて魔力固定の練習を終わらせた。最初の方こそドロドロのスライムだったが、終盤辺りではきっちりとした球体になったのはとても嬉しい。最後は遊びでサッカーボールみたいな形状に凹ませる事も出来たし。

 翌日は魔力でサッカーボールを作って蹴球練習。魔力で作ったボールと言うのは何気に痛いと判明したので、蹴る時は足に魔力を纏わせないといけない。かと言って足に魔力を注ぎすぎるとボールが破裂すると言う事も分かった。無駄な魔力を使わない、より実戦的な魔力トレーニングのせいで魔力の効率性を上げていく。

 その翌日は全身に魔力を纏って身体強化魔法で動き続ける。すると目立つ目立つ。自分がどれほど体を未熟に動かしていたのか手に取るように分かってしまう。結局その日は身体強化魔法で自分の未熟な部分を一部直して終了。さすがに全部を直せるほどの時間はない。

 さらに翌日。今日は体力づくりのために筋力トレーニングをしようと思ってると、朝食の席でアジュカ兄様に呼ばれた。なんでも時間に余裕を作ったから、聞きたい事と言うのを話に来いだそうで。若干不満ながらも聞きたい事はしっかり聞いておきたいので不満は口に出さない。

 

「失礼します」

「ん、来たな。まずは扉を閉めてくれ」

 

 言われるがままオレが入って来た扉を閉めてアジュカ兄様と向き合う。

 

「それじゃ質問に答える前に1つだけ聞かせてくれ。お前は一体誰だ?」

 

 冷徹と言うか敵として見るような冷酷な瞳に体が硬直する。

 何か言い出そうとするものの、口さえ動かずにまともな声を発してはくれない。

 

「この程度の殺気で怯えるか。嘘も偽証もしないと誓えば、この殺気を止めるがどうする?」

 

 問い掛けではなく確認。そう分かっていながらも首を縦に振る事しかできなかった。

 ようやく殺気が治まり、理性も戻ってきたので自嘲の笑みを浮かべる。

 ヤハウェの前ではあんな事言ってたのに、結局自分の命が危険に晒されると惜しくなるのかよ。

 

「は、ははは、はははは、ははははははははははははははははッッ!!!!!!!!」

「まずい、殺気を浴びせすぎて気を狂わせたか」

 

 アジュカ兄様がなんか不味そうな表情をしているけどそんなのは無視。

 一通り笑ったところで、アジュカ兄様に転生のことをすべて話した。その話ついでに聞かれたオレの前世での生き方も。

 

「なるほど。とても興味深い話だ。急激な変化が無ければ、その話を信じる事など不可能だっただろう」

「やっぱり荒唐無稽すぎる?」

「まあな。すでに神は死んでいるのに、再び神が登場するなどありえないの一言に尽きる。しかも、人間の魂を悪魔に入れるなどさらに不思議な話だ」

「あぁ〜、こっちの神様って死んでるのねぇ。普通は神の存在自体信じないから荒唐無稽だと思ったんだけど」

「それこそ浅慮だ。悪魔がいて、天使がいて、堕天使がいて、なぜ神が存在しないと思う? それこそ人間の傲慢だな」

「まったくもってその通りで……」

 

 ぐうの根も出ないアジュカの言葉に打ちのめされて床に寝転がる。

 

「しかし、今回は人間の転生がディアドラで助かったよ。もし私が対象になったら、冥界に混乱が生まれるだろうな」

「自意識かじょ〜……でもないか」

 

 ディアドラの記憶を探ってみる限り、アジュカが遂げた偉業は冥界の根幹を握っていると言っても過言ではなかった。

 もしこんな天才が人間にいたら、現代の進歩は300年ぐらい縮まったのではなかろうか?

 

「それに、安心してアスタロト家を任せる事が出来る」

「どーいう意味で?」

「両親にも内緒にしていた事だが、俺は魔王ベルゼブブへと誘われている。つまり、俺がアスタロト家を継ぐ事はなくなるということだ。信心深い女性を誘惑して堕とすなんて変態趣味があるディアドラでは行く先が不安でひとまず魔王昇格の話を引き伸ばしていたのだ。

 しかし今回その不安が無くなった。安心してディアドラに家督を引き継がせる事が出来るよ」

「うっわ〜、オレを苦しめる気満々だよ」

「今まで心配させてくれたお礼だと思ってくれていいぞ」

 

 苦しもうとする者を見下すその姿は魔王に相応しいと不覚にも感じてしまい、同時に尊敬の念を抱く。これで対象がオレでなければまさにカッコいいと思ったんだろうなぁ。

 ……よく考えればこれってお礼参りだよな?

 

「それで、|悪魔の駒(イーヴル・ピース)についての質問とやらはなんだ?」

「1つは転生させた悪魔から|悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を抜く事は可能?」

「いや、不可能だ。かなり特殊な例でもない限り、取り出すにはその悪魔が死ぬしかない」

「やなルール。まぁいいや。2つ目は相手の力量に合わせて悪魔の駒が消費されるんだよね? だったら、キングの実力と配下がかけ離れてる時、それは本当に必要なの?」

 

 悪魔の駒で『兵士(ポーン)』を目安に考えると、『女王(クイーン)』が9駒、『戦車(ルーク)』が5駒、『騎士(ナイト)』と『僧侶(ビショップ)』が3駒。ならもし50駒分の力を持つ『王(キング)』がいたとしたら、配下は邪魔でしかない。

 

「それは大丈夫だ。悪魔の駒にはバグを残してるから、多少の変質が起きる。『王』の実力で駒のレベルも変わる」

 

 バグかぁ。ちょっと不安だけど……あるなら計画の1つとして入れてみるかね。

 

「じゃあ最後。神器(セイクリッド・ギア)みたいな物自体を悪魔に転生させることって可能?」

「心が宿ってる神器(セイクリッド・ギア)以外不可能だ。それと悪魔にせず物として扱った方が悪魔の駒に空きがある」

 

 むぅ、確かにそうだ。ならこの計画は断念するか。

 神器の説明は後にしよう。今は面倒だし。

 

「ありがと。おかげで色々と助かったよ」

「俺も楽しませてもらったから構わないさ。そういえば、お前の本当の名前はなんて言うんだ?」

「A secret makes a woman woman」

「お前の前世は女だったのか?」

「いや、男」

 

 あっけからんと笑ってそう宣言すると、アジュカから超音速で物が飛んできた。さすがに当たりたくないので即座に逃げの一手を打ち、部屋から退散する。

 アジュカから悪魔の駒について質問をしたその日からしばらくは体力づくりにあてて、同時に人間界へ行くための準備を済ませる。アジュカはとても嬉しそうに笑っていたので、ディアドラがどんな性格だったのか分かってしまう。

 

 

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 あれから1年が経ち、オレ達の両親は未だに世界一周旅行に出かけて帰ってこない。アジュカから言わせれば毎度の事なので気にする必要は無いらしい。

 だからオレも観光準備を整えてグレモリー領に当たる駒王学園にやってきた。さすがに教会に狙われると面倒なので、他の悪魔領にいた方が安全だ。しかもグレモリー家には魔王確実だと言われている若手エースがいるので、わざわざ魔王確実な相手に狙われる行為はしないだろうとも考えて。

 だから狙われる可能性は低いと考え、今回の旅行は3泊4日の予定。

 さすがにオレもまだ5歳児なので、オレの配下である少女と女性に来てもらった。2人にはまだオレが転生者だと言ってないが、どことなく感じているようだ。

 

「ディアドラ様、お加減はどうですか?」

「加減? どういうこと?」

「いえ、その……。前にディアドラ様は人間界にいると気分が悪くなるとおっしゃったので……」

 

 最近、ディアドラという人物を知ると殺意が湧いてくるのが悩みだ。

 気分が悪くなるのって、多分人間を見下してるからだろうなぁ。

 

「きっと光化学スモッグなんかあって気分が悪くなったんだと思うよ。セルヴィア、心配してくれてありがと」

 

 女性の方――セルヴィアにそう言い、セルヴィアは恥ずかしそうにそっぽ向いた。

 逆に少女――サティが怒るように頬を膨らませる。

 

「ディアドラ様!! 早く見物に行きましょう!!」

「さ、サティ!! そんなに押さなくてもオレは歩けるから!!」

 

 その行動で今度はセルヴィアが頬を膨らませ、なんとも言えない状況になってしまった。……まぁ3人で人間界の観光を楽しんだんだけどね。

 翌日も3人で人間界観光をしていたが、少々不審な気配があることに気付き予定を変更。不審な気配がした場所へと向かう。

 自分から危険に向かうのは自殺行為かとも思ったが、オレの安全は多少なりとも確保されてるし、何より危険を知らずに危険を予知する事などできない。虎穴にいらずんば虎児を得ずという奴だ!!

 後にして思えば、これは勇敢ではなく無謀だった。自分を正当化し、好奇心を優先させた結果だ。その先に苦痛が待っているとも知らずに、オレはその場所へと踏み入れる。

 

「ここは……小学校?」

 

 着いたのは小学校。どこにも不審な気配はしてるが不審な物はまったくと言っていいほど無く、音も聞こえない。結局思い過ごしかと思って踵を返す。

 

「小学校って何ですか?」

「ん〜、6歳から12歳までの子供が勉強をするための……」

 

 そこまで言ってこの場所の異常に気付かされた。

 

「セルヴィア!! サティ!! プロモーションして!!」

「ッ、何なの?」

「は、はい!!」

 

 2人とも言われたとおりにプロモーションしたお陰でこの場には2体の『女王(クイーン)』が存在する事となる。

 それがどれほどの持ち札になるかは不明だが、多少の気を抜いても問題はないはずだ。

 

「この小学校、あまりにも静か過ぎるんだ。10歳にも満たない子が大人しくしてられるはずも無いんだから、声ぐらい聞こえてないと可笑しい。なら異常事態で……」

「私達がいると思ったわけだ」

 

 嘲りを含んだ声がオレ達の背後から聞こえて、ほぼ反射的にその声の主から距離を取る。

 そこにいたのは黒い羽を持つ中年男性。醜くない程度に体を鍛えているようで、その体から溢れる生命力はとても強い。

 

「堕天使……!!」

「まさか悪魔に察知されるとは思わなかったよ。内密に進めてた計画が台無しだ」

「それは良かった。台無しついでにオレ達を逃がしてくれるととっても嬉しいんだけどねぇ」

 

 逃がさないと分かっていながらそう提案する。

 と言うかそうでもしないとオレ達に欠片も勝機が見えなかった。

 

「いやいや、他の悪魔達に知られると面倒な事になるのでね。君にはここで死んでもらおう」

 

 それは本当に光の一撃。光と言っても堕天使の臂力に依存しているようで、圧倒的に速いというわけでもない。

 なんとか命中点を割り出して触れるか触れないかの薄さで光の一撃はオレを逸れる。

 身長差のお陰で光の一撃は地面を穿ち粉塵を巻き上げ、オレは粉塵が舞い上がっているその隙にセルヴィアとサティを連れて逃げ出す。

 

「ふぅ、まさか堕天使と遭遇するとは。セルヴィア、あの堕天使の階級って分かる?」

「おそらく、中級です」

 

 中級……。明らかに5歳の悪魔じゃ勝てないよね。せめて下級だったら抵抗できたのに。

 

「ディアドラ様、ここは危険ですから早く小学校(ここ)の外へと……」

「サティ、それは無理よ。私達も閉じ込められているのだから」

 

 それで状況を把握したのかサティは空を見上げて驚く。

 空は闇をこぼしたような漆黒に変わり、その高度な結界は脱出と言う希望を軽く打ち砕くほど強力だ。

 

「あの堕天使が登場と同時に話し掛けて来たのはそう言う事なの。ここまで強力な結界に後天的に閉じ込めるなら特別な術を組む必要がある。例えば、自分達の存在を認識させるとか」

 

 セルヴィアの説明でさっきの堕天使が不意打ちをしてこなかった理由に説明がついてしまった。

 

「じゃあ堕天使が小学校を襲撃してる理由って分かる?」

「……あんまり考えたくない事ですが、おそらく神器(セイクリッド・ギア)使いを未熟なうちに殺して他勢力の増強を防いでいるのかと」

「最悪すぎる……」

 

 逃げれる要素がまるっきりなく、このまま安全な場所に待機してても対処はされないだろう。なら少しでも希望がある方がいいか。

 

「2人とも、よく聞いてくれ。今のオレだと2人の足手纏いにしかならない。だから、2人で行動して1人ずつでいいから正確に倒して行ってくれ。オレは閉じ込められた人間と接触して、なんとか神器(セイクリッド・ギア)を使えるようにする」

「「はい!!」」

「2人とも、いい子」

 

 セルヴィアとサティの頭を撫でて、オレは行動に移す。ここ数日で身体強化魔法には慣れたし、体の無駄な部分も無くなった。堕天使を置いてきぼりにするには丁度いい。

 幸いにも閉じ込められた子供達は一箇所に集められているようで、接触にも問題はないだろう。5歳でも悪魔なのだから不意打ちで急所を狙えば仕留められるはずだ。

 そして目論見どおり、子供達を集めていた場所には中級が1体、下級が5体と少々多かったが、中級を不意打ちして殺したら、下級は正面から戦っても勝てる程度だった。

 神器(セイクリッド・ギア)は一定時間能力を倍化させる《|龍の手(トウワイス・クリティカル)》が2つ、時間ごとに倍化させる《|赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)》が1つだった。ついでに予備戦力として教会の娘も1人いた。

 

「貴方、悪魔なんでしょ」

「だから何?」

「悪魔はすべて滅するわ!!」

「状況を読んでくれよ、バカピンク」

「なッ!! 誰がバカよ!!」

 

 誰がって、お前以外にいるか?

 教会の娘が本当に役に立つのか少々不安になりながらも、気配で探索して堕天使の居場所を探し出す。

 

「私には紫藤イリナって名前があるの!! 二度とバカって呼ばないで!!」

「堕天使の手のひらの上で大声を上げる。そんな下らない事してくれる奴はアホでいいのか?」

「クッ……!!」

 

 怒り足りないと言った様子でも、さすがに堕天使に見付かれば殺されると分かっているようで押し黙ってくれた。

 しかし、ただでは黙る気が無いようで、こめかみに青筋を立てながら紫藤は口を開く。

 

「それで、これからどうするのかしら?」

「とりあえず、徐々に堕天使の討伐。中級堕天使には敵わないって判明したし」

「無計画にもほどがあるでしょ!!」

「うっさい。元々閉じ込められるって考えてなかったんだからしょうがないだろ」

 

 ホント、不用意に危険に飛び込むもんじゃないな。

 

「僕達このまま殺されるんですか?」

 

 赤龍帝の籠手を持ってる少年が怯えるようにそう聞いてくる。

 正直なところ、手詰まりだと言った方がとても現状を説明するに相応しい言葉だ。しかしせっかく助かった命を再び無駄にさせるものでもない。

 

「大丈夫。君達も協力してくれたらなんとか解放できるよ」

「具体的にどうするつもりよ」

「抱き締めた状態で《|龍の手(トウワイス・クリティカル)》を発動してもらう。それならオレの能力で強化をオレも貰う事が出来るから中級への切り札になる。問題は……」

「神器を発動できるのかってことね」

「いや、それはこっちで強制的に発動させるから問題なし。問題はこの方法は3回しか使えないって事」

「3回? ッ!! そう言う事ね」

 

 戦闘に関しての知識は少々あったようで、苦々しい表情に変わった。まだ理解できてない神器使い達だが、ここは説明しない方が優しさだろう。と言うか言い方は悪いが神器が切り札であるこの状況で神器を失うのは非常に悪い。

 

「悪魔らしいやり方だわ」

「だろうな」

 

 全員死ぬかこの教会の娘以外気絶するか、どっちかしか選べないのだから、オレは後者を選ぶ。

 

「ま、賛同できないって言うなら別にいいよ。オレ1人でも突貫して堕天使を削ってくる」

「……勝機はあるの?」

「あると思う? つかあったら神器なんて宝くじに縋らないから」

 

 馬鹿にするように言い放つオレに対して、複雑そうな表情をする紫藤。

 あんまり時間を掛けるとセルヴィア達も心配だから答えを急がせる。すると紫藤は別の提案をした。

 

「お前、それって正気かよ……」

「全員で生きて帰るにはソレしかないでしょ。私に堕天使を倒すほどの力はない。なら、わたしが囮になるから確実に倒して」

 

 固く決意を固めたような愚直なまでの強気。時間も惜しいのでその決意は変える事はせず、ただ一言だけ聞いた。『二度と今の生活を送れなくなっても、後悔はないか?』と。二度と歩けなくなっても後悔はしないのかと意味を込めて。

 その質問に怯えたような色を見せながらも、決して首を横に振ろうとしなかったから紫藤の……いや、イリナの提案を受け入れた。

 その後、イリナを囮にして中級堕天使の殲滅を開始する。イリナを囮にする性質上当然イリナは怪我を免れず、最後の段階ではまともに走ることさえ危うかった。咄嗟に《|赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)》の力を使ってオレの能力を上昇させ、中級堕天使を殺さなければイリナが死んでいた。

 

「うぅ、3回しか使えないって、気絶するからって意味なの? てっきり死ぬのかと……」

「ん、なんか言ったか?」

「なんでもない!!」

 

 赤龍帝の籠手の子供を抱いて涙を流すイリナが何か言った様な気がするんだけど……本人がなんでもないって言った以上気にする事はないか。

 セルヴィアとサティもボロボロになりながらもちゃんと勝って来たようで生きて戻ってくる。

 

「終わりましたよ、ディアドラ様」

「大ショーリです」

 

 無邪気にブイサインを送ってくるサティを微笑ましく思ったのは内緒だ。

 

 

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 堕天使の殲滅も終わり、いざ結界が解けようとした時、ソレが現れた。

 プロテスタント系の黒装束の法衣を纏った神父。本来なら恐怖なんて持たないが、今回ばかりは違った。

 

「お父さん?」

 

 イリナの、その一言をきっかけに神父が間合いを詰めて襲ってくる。

 堕天使と同等に近かった光の矢。普段のオレだったら難なくかわせるものだったが、今回ばかりはタイミングが悪すぎた。

 神経をすり減らしながら中級堕天使を不意打ちして殺し、《|赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)》のエネルギーを吸収したせいで軽く意識が消えていて、事件が終わったと思って気を抜いていたので身体強化魔法を解いていた。スリーアウトのせいで回避もままならず、光の矢はオレの肩を撃ち貫いた。

 

「グハッ!!」

 

 体を穿たれた痛みと体が燃え尽きるほどの高温にも感じる火傷のせいで悲鳴を上げたくても上げる気力が無い。

 セルヴィアとサティは自分達の主がどうして避けれなかったんだと困惑し、紫藤イリナはどうして命を救ってくれた悪魔が父に殺されようとしてるのか理解できなかった。

 

「汚らわしい悪魔め!! よってたかってイリナを傷つけるとは!!」

 

 神父のその言葉で紫藤イリナの思考は更に複雑になってしまい、どうしてこんな状況になったのかとても頭が追いついてない。

 一方で純粋に主(ディアドラ)を守ると言う考えしかないセルヴィアとサティの行動は素早く、セルヴィアが神父を羽交い締めにして動きを封じ、サティがディアドラの体を持って逃げ出そうとする。今回に限っては無理に神父と戦う必要など無いので、疲弊している体を休ませるために逃げの一手に打って出たのだ。

 しかし神父は逃走(ソレ)を許さない。

 

「|擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)!!!!」

「なッ!!」

 

 神父の首に掛かっていた十字架(ロザリオ)と思われるものが一瞬にして踊る剣と変わり、セルヴィアの両腕を切り落とした。

 解放された神父は振り向き様にセルヴィアの体を袈裟切りしてセルヴィアを殺した。

 悲鳴もあげる事が出来ずに死んだセルヴィアは傷口から血を噴き出すだけの人形となってしまったのだ。

 

「セルヴィア……!!」

 

 セルヴィアの最後の瞬間を最後まで見ていたオレは彼女の名前を呼ぶも、彼女は表情を変えてくれる事は無い。

 サティもセルヴィアの死を気配で感じ取り、それでもセルヴィアが稼いだ時間を使ってディアドラを逃がそうとする。

 それがサティに出来る、セルヴィアへの手向けなのだから。

 

「逃がさんぞ、悪魔ドモめ!!」

 

 憎々しげにそう呟いた神父は|擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を煌々と輝かせ、上段に構える。絶対に届くはずの無い刃は、光でも飛ばすと言うのか。

 皮肉るようにそう考えたオレだったが、現実は更に残酷だった。

 

「ッ!! サティ!! 横に飛べ!!」

「え……? ぐっ、ガハッ!!」

 

 神父の持つ|擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)は|刀身が伸びて(・・・・・・)それなりに距離があったサティを両断してしまった。

 サティの口から鮮やかな赤い液体が溢れ出し、オレの体に掛かる。しかしそんな事は気にしてられない。抵抗無く血が出ると言う事は、|出血多量(・・・・)の証だ。治癒魔法を使えない自分を恨めしく感じつつ、それでも生きられる事を願ってサティに声掛けする。

 

「おい!! しっかりしろ!! サティ!! 死ぬなよ!! 生きる事を諦めるな!!」

「ふふふ、大丈夫です……ディアドラ様は、命に、代えても……絶対に、守りま……から」

「サティ!! お前も一緒に逃げるんだよ!! 命に代えてもなんて言うな!!」

「無理……です……よ。……自分の限、界……自分が一番知っ……。……|邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)……ディアド……お守りして」

 

 サティの意思に従うように黒い炎がサティを包み込んで灰ごと焼き、最後に残ったのは漆黒の龍が描かれたアジア系の腕輪(バングル)。

 腕輪から放たれる強敵の空気が、サティの中にあった神器(セイクリッド・ギア)――《|邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)》だと教えてくれる。

 茫然自失として立ち尽くすディアドラを見て、どういう状況なのか理解できずとも『命の恩人が父に心される』と言う事だけは飲み込んで、神父の前に立ちはだかった。

 

「お父さん、止めて!! この人達は私達を助けてくれたんだよ!!」

「イリナ、お前が優しいのは分かる。しかしそれほどボロボロにされて怒らないと言うのはいくら悪魔にさえ慈悲をおあたえする我らの主と言えども、イリナを責めるのだよ。罪を犯した者には罰を与えなければならない、それは我らが主がお決めになった掟なのだよ」

「違うよ!! 怪我をしたのは、私が自分から言い出したことなのよ!!」

「くっ、悪魔め、私の可愛いイリナをここまで誑かすとは!!」

 

 悔やむように握り拳を顔の前に作って神に慈悲を請う神父。

 教会の神父としてはとても正しいし、悪魔の弁護をする信者を見て真っ先に洗脳を疑うのも無理は無い。

 しかし今回の場合に限っては、神父の行動は間違っているのだ。現にここに来る道中にセルヴィア達が倒した堕天使の死体である黒い羽根は存在していたのにも関わらず、堕天使が襲って来たとは考えてない。ただ、ボロボロになったイリナと(イリナに弱みを見せないように)気丈に振舞っていたディアドラを見て、安直な推理をしただけに過ぎない。

 だが問題は、この推理を神父は心から信じている事だ。心を支配できる悪魔が数少ない事を知っていたはずなのに。

 

「イリナ、そこを退け!! そんな悪魔など浄化してくれる!!」

「お父さん!! 話を聞いてよ!!!」

「くっ、斯くなる上は……!!」

 

 悔やむ様に表情を歪ませ、|擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)で|イリナを切り裂いた(・・・・・・・・・)。

 聖者である優しい父に殺された――――。

 そんな事実を認めたくなくて、理解したくなくて、思考がすべて止まってしまい、体から血を噴出させながら崩落するように崩れ落ちた。

 神父は自分の愛娘であった生温かい血を浴びて涙を流し、ディアドラは数分の間でも仲間だと思えた人間の死にゼツボウする。

 

「そうだ。そうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ。

 あの時だって、あの時だっておなじだった。どんなに手を伸ばしても、オレは救う事はできなかったんだ」

 

 現実(せかい)は、オレが追いつくのを待ってくれやしない。常にオレにとって残酷な形を示してくるんだ。

 また……オレは大切な人を傷つけるのか。

 また、オレは……そうやって起こった事実を受け入れて、情けなく生きていくのか?

 嫌だ……!! 嫌だ……!!!! そんな人生は、二度と辿りたくない!!!!

 世界(ゼツボウ)がオレを認めないって言うなら、ブッ飛ばしてでもオレと言う存在を認めさせてやる!!

 

「懺悔は済んだな。自分が悪魔として生まれた事を後悔しろ!!」

「――――『((神醒召喚|ゲート・オープン))』――――」

 

 ((死の宣告|エクスカリバー・ミミック))を振り下ろそうとする神父を相手に、ただ脳裏に浮かんだ単語を高らかに宣言する。

 それで何が起こるのかは自分でも分からない。しかしこの言葉はオレの世界を変えると"理解"していた。

 

「待ちくたびれたんだよ、マスター」

 

 太陽のような満面の笑顔を浮かべて微笑む桜色の少女はそう言い、同調するように長い金髪を靡かせ白いワンピースを纏った人形と間違うような少女が首を縦に振る。

 2人とも超が付くほどの美少女だが、かなり見覚えがあった。

 同時にオレの思考をパンクさせそうなほど意味不明な単語が頭の中を駆け巡る。しかしそれでも、最大の疑問は1つしかない。

 なんで、『fortissimo』のサクラと『dies irae -Acta est Fabula-』のマリィがここに……?

 オレを転生させた神の言い方からすれば、ここは『ハイスクールD×D』って世界のはずだし、なにより彼女達は主人公の道具であり恋人だ。ここにいる意味がまったくもって理解不能だ。

 

「悪魔が何をしようと、聖剣に打ち勝つ事など出来ん!!」

「私はマスターを守る最強の剣であり、無敵の楯。マスターに降りかかる災厄はすべて、私達で薙ぎ払うんだよ」

 

 そう言ってサクラが両手を神父の方へと向ける。

 サクラの行動はとても遅く感じて絶対に間に合うわけが無いと思っていたが、神父の動きがかなり遅くなっていた。まるで刹那と言う時間を永遠になるまで引き延ばしているように。

 その考えに至った途端にマリィに視線を向けると、確かに彼女の両目に絡み合う2頭の蛇――カデュケウスが浮かんでいた。

 もしサクラが最強の剣であり無敵の楯なら、マリィは最狂で無限の楯だと皮肉にも思ってしまった。

 マリィが引き伸ばした時間を使ってサクラは魔力を両手の平に集める。それはオレが知ってるサクラとは違う、黒と白が入り混じった不思議な魔力光。オレ達悪魔が使う魔力と変わらないと"理解"しならがも、天使と同等……いやそれ以上の神力が込められていると理解し、薄着で極寒に追いやられたような寒気と恐怖を感じさせられた。

 

「穢れ無き黒白の聖剣(レーヴァティン)!!!!」

 

 時間がずっと停滞したまま白と黒の光がオレの視界を遮り、神父の体は光に飲まれて見えなくなる。

 光が治まった頃に残ったのは……あり得ない事にボロボロになりながらも|擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を杖みたいに立ち上がる神父の姿があった。しかしその代償は非常に重かったようで、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)は杖に使える事が奇跡と言えるくらい消し炭になっている。

 

「くっ、かはっ……悪魔などに、負け……るものか……!!」

 

 こちらに敵意を向けてくる神父だったが、不意にマリィが神父に近付いて――――頭に触れた。

 次の瞬間にはマリィの持つ呪い(・・)が発動し、神父の|首だけが飛んだ(・・・・・・・)。

 

「……やっぱり、罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)の呪いは動いたままなのか」

 

 なぜか自嘲するような笑みがこぼれ、それが余計にオレの心を苛立たせる。

 その後、24時間前の状態に戻す能力――『復元する世界(ダ・カーポ)』が使えたので小学校の校舎ごと無くなったモノを復元する。復元対象は数メートル内であれば亡くなった命さえ選べるようで、イリナを蘇生させることも出来た。セルヴィアとサティは……悪魔である事に加えて、神の光で殺されたので蘇生できる条件が揃わなかったみたいだ。

 それもまたオレの無力感を強調するような事実だったが、泣くのは後にしよう。神父が持ってた擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を拾ってオレが借りたホテルに戻った。

 

 

-4ページ-

 

 

 その後、2人からなんとも複雑な話を聞かされ、とりあえず2人ともオレがマスターなのだと分かった。

 ただ、主人公達じゃないと言う面からなのか、ゲームの時よりは弱体化しているようである。

 サクラは魔力の回復速度が半分ほどに落ちていて、ついでにマホウの威力も9割がた落ちているらしい。

 マリィは弱体化らしい弱体化は無いが、呪いは未だに制御できないようで生物に触れた途端斬首の呪いがかかって首が刎ねられる。唯一の例外はオレだけと言うたちの悪さが少々残っている。そして斬首の呪いのせいかマリィは言葉を喋る事ができない(・・・・・・・・)。

 しかし主人公達にはなかった特性がオレには宿っていたようで、サクラのマホウは2段目まで押さえ込めるようになっていて、マリィはすべての神器(セイクリッド・ギア)を無条件で支配下に置ける。そしてこれは互いに共通する事だったが、オレが武器にしたいと思いながら触れれば、2人とも武器になってしまう。

 そういえば最大の疑問を話してなかった。どうしてこの2人が『ハイスクールD×D』にいるのか。それはオレを転生させた神が関係していた。どうやらオレが生前に『dies irae -Amantes amentes-』と『for†issimo EXS/Akkord:nachsten Phase』の発売を待ち遠しく待っていたのをあの神が知り、せめてもの慈悲として呼べるようにしたらしい。

 2人の召喚に成功したおかげで、オレ自身にも『復元する世界(ダ・カーポ)』と『美麗刹那・序曲(アイン・ファウスト・オベールテューレ)』を使えるようになった。

 その後、2人を家へと連れ帰って、オレは今回の事件をバネにより他人を助ける力を求めた。たとえすべての人から卑怯と言われてもいい。貶されてもいい。見下されてもいい。ただ自分の懐に入れた人を守れるように、強くなる事を願い、そのための反則な技を磨き、他の悪魔に伝わる独特な能力を分析しては魔術式とて編み出して自分の体内に文字通り取り込んだ。

説明
第1話
この話しが最初です。間違って後編から読まないでください
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タグ
ハイスクールD×D

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