夜天の主とともに  9.新たな家族
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夜天の主とともに  9.新たな家族

 

 

 

健一side

 

私、時野健一。ただいま絶賛ピンチでございます。

 

変な本から得体のしれない危険な本へとグレードアップしたそれは妖しく光り始めたかと思うとどうやってかゴゴゴゴゴッと鳴らせながら部屋を震わせた。

 

あまりの事態に俺は一瞬思考停止したのち、すぐに我に返りはやての前に立ちはだかった。はやてを見てみれば本の異常に気付いたのか目を見開いて震えている。

そして本に向き直るとさらに驚くべきことが起こっていた。

 

本が浮いているのだ。しかもそのままベッド横、正確には俺の頭上まで浮いてまま移動してきた。

明らかに異常な事態に俺は怖くて仕方がなかった。だけどはやてを置いていくわけにはいかないし、そもそも足が震えて言うことを聞かない。何とも情けない話である。

 

本の異常さはさらに進行した。

俺のとこまで移動してきたかと思うと、今度は生きているかのように脈打ち始めたのだ。しかも内側から何かが出てこようとしているかのように収縮を繰り返している。

 

(うえっ‥。き、きもい。頼むから化け物だけはよしてくれよ)

 

考えても見てくれ。生き物が血管浮き出させて同じようにしてるならまだわかる。それでも十分気持ち悪いけど今回の相手は本。そんな現象があったらどこぞの学者さんはおったまげるだろう。

 

そうこうしているうちに本を堅く縛っていた鎖もはちきれんばかりの内側からの圧力で限界を迎えそうだった。

 

「け、けん君‥‥」

 

はやてが怯えた声で俺の名を呼びながら服をつまむ。無理もない。男の俺が怖いのだ。はやてはもっと怖いだろう。

 

(そ、そうだ。いまははやてもいるんだ。せめてはやてだけは‥‥‥)

 

そして臨界点突破した本はついに鎖を破壊した。俺は何か出てくると身構えたが何も出てこなかった。その代わり本がひとりでに白紙のページを高速でめくり始めたのだ。

さらにこれだけ驚いてたらきりがないのけど本が言葉を発した。

 

〈封印を解除します〉

 

その言葉とともに本は閉じ目の高さまで下りてきた。

 

〈Anfang〉

 

俺は無意識のうちにはやてを守るようして覆いかぶろうとした。

すると今度ははやてに変化があった。はやての胸のあたりから小さな光る球が出現したのだ。光る球は本へと近づいていきそれにより本の光が最高潮に達しようとしていた。俺たちは光に耐え切れず目を覆った。

 

そして次の瞬間部屋中を閃光が埋め尽くした。

 

 

「‥‥‥‥何も‥起きない?大丈夫か、はやて?」

 

「う、うん。私は大丈夫」

 

てっきり今の光で攻撃もしくはとんでもない化け物でも出てくるかと思ったのだが‥。

恐る恐る目を開けてみるが特に部屋に変わったところはない。

 

(なんだよ‥‥はったりか、寿命縮んだぞ)

 

おそらく製作者がそういうギミックでも織り込んでいたのだろう。中を浮いたりするのはさっぱりわからんが手品の類なんじゃなかろうか?

 

ふぅ〜と一息ついてから視線を下に向けると思わず固まってしまった。

 

訂正する。部屋そのものに変化はなかったけど部屋にいる人が増えていた。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

「我ら闇の書の蒐集を行い主を守る守護騎士にございます。」

 

「夜天の主に集いし雲」

 

「ヴォルケンリッター、なんなりとご命令を」

 

思わず眩暈がした。確かに化け物はよしてくれとは言ったがまさか人が出てくるとは、しかも獣耳付けた人まで混じってるし‥‥。

 

獣耳もそうだが他の三人の服装も黒一色の服という変わったものだった。そのうち2人はなんかピッチピチの服を着てて、そのわがままボディをこれでもかと言わんばかりに強調している。

 

姿は少年とはいえこちとら精神は大人のようなものなのだ。少々眼の行き場が困る。

 

手で視界を軽く塞ぎながらももう一度眼下を見る。多分目の前にいるこの人たちは魔法関連なのだろう。魔方陣っぽいのが出てたし。知らぬ間に俺はまた魔法に首を突っ込んでいたらしい。

 

(魔法に関わってロクなことがなかったからなぁ……はぁ〜)

 

頭を押さえていると現れた四人?の内の小さな子が何も言わないこちらにしびれを切らしたのか目を開けた。

 

「‥‥お前誰だ?主じゃないだろ」

 

「‥‥それはこっちのセリフなんだけど。いきなり人の家に現れてさ。まぁ俺の家じゃないけど。ん、主?」

 

「お前の後ろにいるやつがそうだ。ちょっとどけ」

 

その子は俺を押しのけて、はやてを覗きこもうとした。でもどくわけにはいかなかった。人っぽいけど得体のしれないことには変わりないんだ。近づかさせるわけにいかない。

 

「はやてに近づくな。お前ら何者なんだよ?」

 

「テメーこそなんだよ!ってコイツ魔力が!?」

 

俺を凝視したと思ったら魔力がとか言って驚いた顔をしている。あっ、てかやっぱ俺にも魔力あるんだ。

 

そんな風に少しだけのんきに考えていると部屋の空気が一変した。いや、この場合は雰囲気がというべきだろうか。跪いていた他三名が凄まじい形相で睨んできていた。

 

何か言わなければ。そう思った俺が口を開こうとしたとき喉元に何かが当てられていた。それは剣だった。いつ立っていつどこから剣を出したかわからないがピンクのポニーテールが俺に剣を当てていたのだ。

 

「主に仇名すものは全て排除する」

 

(やばい〜〜!?なんか俺スンゲーやばいぃぃぃ!!!!)

 

「ヴィータ、主を確認しろ」

 

「あいよ」

 

はやてを見るためかヴィータと呼ばれた少女が俺の横を通っていく。止めたかったが少しでも動けばたぶん何の躊躇いもなくその喉を裂かれる。

 

誰もしゃべらなくなり部屋を静寂が包んだ。しかし、息を呑むのも躊躇うほどに緊迫した状態だった。そしてはやてを確認したであろう少女がついに口を開く。

 

「ねぇちょっとちょっと」

 

「なんだ、ヴィータ。主の確認はできたのか?」

 

「いや、確認はできたんだけどさぁ……」

 

どうやらはやては無事のようだ。にしてもはやてのやつ、妙に静かすぎるような……。

 

「何だ?お前にしてははっきりしない言葉だな」

 

「だってよ〜、こいつ……気絶してんだけど」

 

「「「「な!?」」」」

 

喉元に凶器が当てられていたことも忘れて慌てて後ろを振り向いた。そこには……

 

「き、きゅ〜‥‥」

 

「は、はやてーー!?しっかりしろー!!」

 

「貴様動くな!!」

 

「今そんな場合じゃないんです!!それよりも病院に‥‥」

 

「そ、そうね急がなくちゃ!!」

 

一瞬緊迫した雰囲気になったがはやてのこともあってか素直に聞いてくれた。病院に急がなくては‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海鳴大学病院、某個室

 

「はやてちゃん、よかったわ何にもなくて」

 

「えっと‥すんません」

 

「健一君もご苦労様」

 

「あ、ありがとうございました」

 

特に何にもなかったことから思わず軽く笑いあう俺たち。

 

ただたんにびっくりして気絶しただけで特に何ともないとのことだった。まぁ普通人がいきなり何もないとこから出てきたらああなっても仕方ないよな。

 

けどそれも一瞬のことで石田先生は後ろ指差しながら目を細めた。

 

「で、誰なのあの人たち」

 

はやてと俺は視線を指差された方向を見るとおもわずあっと言ってしまった。件の正体不明の四人?だ。

緊急事態だったから仕方なかったがこの人たちがいることを忘れていた。周りにいる男性の看護師も怪訝な顔をしてみている。

 

「どういう人たちなの?春先とはいえまだ寒いのにはやてちゃんに上着もかけずに連れてきて」

 

「す、すみません。気が動転しててかけ忘れちゃいました」

 

「ううん、健一君を怒ってるわけじゃないのよ。大人のあの人たちのことよ。なんか変な格好してるし、言ってることは訳が分かんないしどうも怪しいわ」

 

まぁそうだろう。実際俺もなにがなにやらさっぱりだ。魔法が関わってるってことだけわかってるけどそれ言うわけにもいかないし、というか信じれるわけないし。

 

「あぁ、えっとその、何と言いましょうか‥‥」

 

「えっ!?」

 

なんだろう、はやてが驚いた顔をしてる。どうしたんだろう。

 

一瞬キョトンした顔をしたと思えば今度は何か納得したような顔をするはやて。ほんとにどうしたんだろう?

 

「はい」

 

急にピンク色のポニテの人がはい、と言った。何がはいなんだ?なんか微妙に疎外感を感じるぞ。

 

「石田先生、実はあの人たち私の親戚で」

 

「はい?」

 

「親戚?」

 

詳しいとこまでは知らないけど少なくともこの四人?は親戚じゃないのは間違いない。少なくともはやてからそんなことを聞いたことは一度もない。

 

何のことか聞こうとはやてを見るとはやてもこっちを見ていた。はやての目を見るとやっと言わんとしていることが分かった。なので俺も話に合わせることにした。

 

「遠くの祖国から私のお誕生日をお祝いしに来てくれたんですよ。ね、けん君?」

 

「俺も来るってこととはやてをびっくりさせるようなことをするってことだけは知ってたんですけど」

 

「そんでびっくりさせようと仮装までしてくれたのに私がそれにびっくりしすぎてもぉたというか‥その、そんな感じで‥‥‥なぁ?」

 

俺たちがやろうとしていること金髪の人が気づいたのか前に出て合わせてくれた。

 

「そうなんですよ」

 

「その通りです」

 

「むぅ〜」

 

「ア、アハハハハ‥。」

 

怪訝そうに俺たちの顔を見る石田先生。やばい、完全に疑われてる。

 

「…………ふぅ。まぁそういうことならわかりました。でも、次からは気を付けてください」

 

「申し訳ありません」

 

「すいません…」

 

それでも信じてくれた石田先生。本来ならもっとここで追及するべきだが今回ばかりはありがたい。最後にもう一度先生にお礼を言って俺たちは家に戻ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はやて宅

 

「そぉか。この子が闇の書ってもんなんやね。」

 

そう言いながら本を見ているはやての目の前には現れた時と同じように4人が跪いていた。これだけを見たらホントに主と従者って感じだ。にしても‥‥

 

「また暗い名前だな。」

 

「確かにな〜」

 

厨二病全開なネーミングである。装備したら知力でも上がるんだろうか?

 

「確かずっと前からあるんだっけ?」

 

「物心ついたときには棚にあったんよ。きれいな本やから大事にはしてたんやけど。」

 

「覚醒の時と眠っているときに闇の書の声を聞きませんでしたか?」

 

「そんな声聞いたの、はやて?」

 

「う〜ん私魔法使いとちゃうから漠然とやったけど。あ、あった。」

 

小物入れからメジャーを取り出した。はやてのやろうとしてることに気づいて相変わらず世話好きだなぁと思った。

 

「わかったことが一つある。闇の書の主として守護騎士みんなの衣食住きっちりめんどみなあかんゆーことや。幸い住むとこあるし料理も私らは得意や。な、けん君」

 

「まぁね。お前にはからかい癖があるってとこが難点だけど」

 

「あ、ひどいでけん君」

 

頬を膨らませて軽く睨んでくるが、そんなことをしても無駄に可愛いだけだからやめなさい。

 

「ほんとのこと言ったまでだ。で、どうすんの?今から服買いに行くの?」

 

「さすがけん君、話が早いわ。ちょっと待ってな、先にサイズ測らんと」

 

「す、少しお待ちください」

 

「「ん?」」

 

何か慌てたように声を上げたのは、ピンク色のポニテ……確かシグナムと呼ばれた人が何かあるようだ。

 

「主はやては主ですからいいのですがそこにいる者はなんですか?見たところ主はやてほどではないですが高い魔力反応を感じます」

 

「えっそうなん!?けん君魔法使いやったんか?」

 

「いやいやいや、そんなわけないでしょ。俺魔法知らないし。はやてと同じだよ。というか俺高いんですか?」

 

神様からもらったのは魔力だけ、魔法の知識は何も知らない。俺自身に魔力があるってことを感じることもできなかったし、実物もトラウマとなっているあの出来事以外では見たこともない。

 

「主はやてはSランク、お前はAA+ぐらいだ。それよりもお前まさか闇の書を狙って」

 

「だとしたらぶっ潰す!!!」

 

(‥‥‥なんだろう、今とてつもない勘違いされてる気がする。ついでに身の危険も感じる。あれ?デジャブってる気が)

 

「ちゃ、ちゃうで!けん君は私の友達やからみんななんかしたら許さへんよ」

 

「す、すいません」

 

何とか危機は去ったようだ。この短い間に二度も死の危険に遭うとは。それにしても、さすがはやて。誤解を解いてくれようとは。感謝感謝。

 

「なんかしてええんわ私だけや」

 

「さっきの俺の感謝を返してくれ」

 

いつものように冗談交じりに俺たちが話していると毒気でも抜かれたのかぽかんとした顔で警戒が解かれていた。

念のため俺自身からも誤解を解いておくことにした。

 

「えっと、とにかく俺魔法のこと全然わからないですし、ましてやはやてをどうこうしようなんて気はさらさらないですしこれからもする気はないです。安心してください」

 

「あ、ああ」

 

「じゃみんなのお洋服買うてくるからみんなのサイズ測らせてな」

 

「服買いに行くのは俺も行くよ。男物もいるだろ?」

 

「そやね。あっそういえば自己紹介してないわ」

 

そういえばそうだった。いろんなことが立て続けにあったからすっかり忘れてた。

 

「俺は時野健一です。」

 

「私は八神はやてや。名前聞いてもええかな?」

 

「シグナムと言います」

 

「シャマルです」

 

「ヴィータだ」

 

「‥‥ザフィーラ」

 

「シグナムにシャマル、ヴィータにザフィーラやね。うん、覚えたで」

 

「同じく」

 

「じゃサイズ測らせてぇな〜♪」

 

本人たちそっちのけ話は進んでいき守護騎士たちはその光景はただただぽかんとみることしかできなかった。

健一はその流れでどうせ両親が出張中でいないなら帰って来るまで居候したらいいと言われてお言葉に甘えることとなった。どうせ四人増えるのだから一人増えたって全然問題ないないとのこと。

 

後に守護騎士たちはこの時のことを自分たちが変わるきっかけになったと言ったそうだ。

 

こうしてはやて、ついでに俺に新しい家族ができた。

説明
A's始まったすよ〜
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