魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 ジョインジョインババアな番外編その1 |
「着きましたよ」
「あぁ御苦労さんだったねぇ、『異次元おじさん』」
時空管理局本部に二人の男女が『空間を割って』現れた。
『異次元おじさん』と呼ばれた一人は、スーツを着た40代後半のどこにでもいるような男性。
人ごみに紛れてしまえば探し出すのは難しいのではないか、そう思えるほどに普通の人物。
しかしこの物腰丁寧な彼こそが『都市伝説』の一人である『異次元おじさん』である。
彼はありとあらゆる異次元、パラレルワールドを放浪しており時々異次元に迷い込んできた人間を送り返してあげたりする、比較的『善性』な都市伝説である。
しかし、彼が連れてきた人物は『善性』とは言い難い。
なぜならこの人物の目的とは―――――――
「ふぇっふぇっふぇっ、ここが『グレアムおじさん』のいる異世界ってやつだねぇ……。やたらとでかい建物に住んでるじゃないかぁ、こりゃちょっと足の商売はきつそうだねぇ」
「またまたご冗談を、『足売りばあさん』」
――――そう、割烹着に大きな風呂敷袋。
『悪性』の部類である都市伝説、『足売りばあさん』がついに次元を超えて襲来したのだった。
ソウルフル田中番外編、(管理局が)初めからクライマックスです。
「そこの侵入者! 止まれっグガアッ!!? 足が、足がああァァァッ!!!」
「ふぇっふぇっ! 遅いよぉ! チョイとばかし足の鍛えようが足りないんじゃないかねぇ!?」
武装した管理局員がまた一人と地面に倒れ伏した。
足売りばあさんが本部の内部に入るために『外壁を蹴り飛ばした』ために何事かと人が集まってしまったのだ。
見事侵入者と判断され、足売りばあさんは武装した管理局員を退けながらあてすっぽうに『グレアムおじさん』を探して駆け回っていた。
「一斉に砲撃をするぞっ! てぇーっ!!!」
「「「了解っ、シュートっ!!!」」」
目の前には通路を塞ぐように大勢の局員がデバイスを向けている。
様々な魔力色の砲弾が足売りばあさんに向かっていくが。
「やれやれ、最近の若いもんは老人を労わらんとねぇ……!」
局員たちは声を聴いた、自分たちの『後ろ』から。
思わず振り向く、するとそこにはさっきまで目の前にいたはずの老婆。
そして遅れて感じる足の痛みに―――――――
「「「「アグウうぅあああああァァァあああぁあぁっ!!?」」」」
「特製義足『ふぉとん・ぶりっつ』だよぉ。アンタたちにゃあ情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さそしてなによりも、速さが足りないねぇ……」
そう、足売りばあさんは自らの足を『取り替えて』速度を格段に上昇させたのだった。
「さあて、『グレアムおじさん』に遭うまで何人わたしの『お客さん』になってくれるかねぇ……!」
足売りばあさんはもはや、だれにも止められない。
「そこまでだ、化け物。お父様には手出しさせない」
しばらく施設内を走り回ると、足売りばあさんの目の前に猫耳がついた茶髪の女性が立ちふさがる。
ギル・グレアムの使い魔、リーゼロッテだ。
本来なら地球にて『闇の書』の主である八神はやてを監視しているはずだったのだが、足売りばあさんの襲来を予測していたために帰還していたのだった。
「おやおやぁ、ずいぶん若く見える嬢ちゃんだねぇ。もうすっかり他のお客さんを見かけないからさぁ」
そういって、足売りばあさんは自分の後ろを指差す。
「足が、いた……い……!」
「うぐっぅぅ!?」
「うぐがぁぁっ……!」
そこには、足を押さえ痛みに悶える管理局員たち。
その死屍累々の惨状にロッテは目を見開いた。
「ッ! 局員たちが、全滅……!?」
そう、前々から足売り婆さんが来ることを知っていたからこそ武装局員の数を増やしていたのだ。
しかし、それもまた都市伝説の前では無駄に終わってしまった。
驚くロッテの表情を楽しむように、足売り婆さんは笑みを浮かべる。
「ふぇっふぇっふぇっ、殺しちゃあいないが歩くことはできないねぇ……。何故ならそいつらはぁ…………」
「新技術、『足徒神拳』(そくとしんけん)足裏に無数にある足ツボをついたよぉ……。三日三晩そいつらは何もしてないのに地獄の痛みを味わったのち、足の調子が絶好調になるのさぁ……!」
「………………は?」
なんか、とんでもなくマヌケな技だった。
ロッテは倒れている管理局員達をもう一度よく見てみる。
「ぐああああ! 足があ! そこはイタイイタイイタイ!!」
「痛だああっ! なんで!? 何にもされてないのに!?」
「あ、あ、あ〜! そこ効くわああだだだ痛いですやっぱりいぃいい!」
管理局員達は普通に五体満足だった。
傷一つなく、違和感があるといったら全員裸足であることか。
どうやら、本部にいた全ての局員に『足ツボマッサージ』をしていたらしい。
「さあてぇ! お嬢ちゃんは特別に『足徒有情破顔拳』のお客さん第一号だよぉ!」
「まてまてまてまって!? なにその暗殺拳!? どう考えてもわたしだけ天国逝きそうなんだけど!」
ロッテは、病院にアリアを置いて来たことを後悔した。
「私は大丈夫だって! ほら! 体がこんなにも軽い!」なんて死亡フラグ満載なこと言ってるから置いてきたのだ。
足徒神拳伝承者と、管理局随一の体術家の至極どうでもいい決戦が、幕をあけた。
5分後。
「『足徒有情破顔拳』。この業を受けたものは三日三晩、苦痛ではなく天国を感じるんだよぉ。……わたしがいうのもアレだけどねぇ、わたし相手に『蹴り主体の体術』は自殺行為だねぇ」
「はぁあっ! あぁあんっ! やだ……っ、そこ(足のツボ)、イイっ! もっと突いてぇっ(足のツボを)!」ビクンビクン
※ただの足ツボマッサージです、ただの足ツボマッサージです。
大事な事なので2回言いました。
結局勝負は、相性の差で足売りばあさんの圧勝だった。
ロッテは管理局員達と同じく倒れ伏している。
違いといえば、苦痛に呻いてるのではなく快感に身をよじらせているぐらいか。
(何で最初から俺達にもその業使ってくれなかったんだ……。あとロッテさんエロい)
(明らかにあのばあさん人間じゃねぇ……。あとロッテさんエロい)
(ていうか三日三晩この痛みかよ、管理局が人員不足になるぞ……。あとロッテさんエロい)
そして、管理局員達の心も一つとなっていた。
ロッテを制した足売りばあさんは、彼女の先にあるドアを見る。
「ふぇっふぇっ、どうやらこの先に『グレアムおじさん』がいるんだねぇ……!」
時空管理局、最大のピンチ
「ようこそ、時空管理局本部へというべきかな」
「おやおやぁ? アンタは驚かないんだねぇ?」
足売りばあさんが部屋に入ると、そこには威厳溢れる老人が椅子にすわっていた。
時空管理局提督、ギル・グレアムその人である。
「リーゼ達から、私の命を狙う者がいると事前に聞いていたのでね。それと貴女が此処まで来るのを映像で確認もしていた」
「なぁるほどねぇ、でもまあ『命を狙う』は誤報さぁ。わたしの目的はただ一つだよぉ……!」
ここに来ることが予想されてしまってももう遅い、足売りばあさんは辿り着いてしまったのだから。
そうして、足売りばあさんは『尋ねる』
「足はいらんか「いやあ! 実に鮮やかなお手並みでしたよ!」はぁ?」
……尋ねようとしたら、拍手と共に感激の言葉で遮られてしまった。
グレアムはなんと足売りばあさんの両手を掴んでぶんぶんと上下に振っていた。
「あの身のこなし、管理局員達やロッテを制した摩訶不思議な体術、私はイギリス出身なのですが昔から『ニンジャ』に憧れてましてね。いや〜本物の『ニンポー』を見させてもらいました!」
「え、忍者? わたしゃちが
「ええ分かってますよ、『ニンジャは正体を知られてはならない』という掟があるとお聞きしていますから! しかしまさか次元を超えるニンポーも存在するとは。完全に予想外でしたが、ニンジャなら納得ですね……!」
うんうん、と一人で勝手に納得している老人。
だがその表情は輝く少年の顔であった。
実はこの人、リーゼ達が『地球の現地人に襲われた』と報告を受けた時に完全に勘違いをしていたのである。
過程としては
「バカな……! リーゼ達は相当な実力者、それを魔法も使えない現地人がなぜ!?」→「いや、リーゼ達が居たのは日本、日本で魔導師を圧倒できる現地人といえば……!」→「『ニンジャ』しかない! なに!? 私に会いに来るだと! よし、我々魔導師がどこまで『ニンジャ』に通用するか調べてみるのも面白い。早速録画の準備だ!」
といった感じ。
それにしてもこの提督、ノリノリである。
そして、今までの足売りばあさんの活躍、局員達の情けない姿とロッテのあられもない姿は完全録画されている。
後にこの映像を巡って、管理局員達がエロスを求めて一騒動起こすのだが、それはまた別の話。
「是非とも、我が時空管理局で『ニンジャ部隊』設立の協力をしていただければ!」
「まてまてぇい! アンタなにか勘違いしてるよぉ! わたしゃ足の専門家だぁ!」
都市伝説を管理局員にスカウトするという前代未聞なことをやらかすグレアムおじさん。
管理局大丈夫か。
このまま管理局に就職するわけにもいかない足売りばあさんと極めて個人的な趣味で『ニンジャ部隊設立』を成し遂げようとするグレアムの押し問答が続いた。
「ぜぇ……ぜぇ……! 分かりました、分かってはいましたが『ニンポー』は門外不出というわけですか……!」
「はぁ……はぁ……! 忍法じゃないけどもういいよぉ。スカウトは諦めるんだねぇ……!」
ぜーはーと肩で息をする老人が二人出来上がっていた。
ジジババ無理すんな。
「それならば、もう一つだけ頼みが」
「今度はなんだい、足徒神拳は企業秘密だよぉ」
まだ何かあるのか、と足売りばあさんは嘆息する。
前回のお嬢ちゃんといい、目の前の男といい最近のお客はやたら変な客が多い気がすると思っていたのだが
「いえ、先ほど足の専門家とお聞きしたのですが……、実は私の故郷の地球に、理不尽な都合で足が動かない子供がいるのです」
「え」
「…………それで、わたしのとこへ戻ってきたと」
「ふぇっふぇっ、その通りさぁ」
八神家には現在、家主であるはやての他にもう二人ほど居座っていた。
言わずもがな、足売りばあさんである。
そしてもう一人は
「初めまして、八神はやてさん。わたくしこういう者と申します」
「あ、どうもご丁寧に名刺まで。……『異次元 ダイスケ』? なんや怪盗の相方みたいな名前やなぁ……」
「異世界、パラレルワールド、果てはデジタル○ールド。あらゆる世界から貴女を帰します」
「うん、多分一生お世話にならんとおもうけどよろしくお願いします」
異次元おじさんである、足売りばあさんの送り迎えをしたのだった。
挨拶を済ませたはやては、車椅子を操作して電話の方へ移動、ナチュラルな動作で受話器をとり。
「もしもし、病院ですか? 家に引き取ってほしいばあさんがいるんですけど」
「まてまてまてぇ!? 確かに魔法やら異世界やら信じられないかもしれないが事実だよぉ!」
病院送りにされまいと足売りばあさんは慌ててはやての肩を掴んで引き止める。
「だって絶対ウソやろ! いくらわたしが子供やからって魔法とか信じるわけないやん! それにグレアムおじさんはイギリスに住んどるって聞いとるんやけど!」
「いーや真実だよぉ! というかわたし達都市伝説が存在してる時点で魔法があってもおかしくはないじゃないかぁ!」
結構説得力のある反論に、はやては息を詰まらせる。
「うぐっ、確かに……。でも魔法や異世界は百歩譲ってええとして、何も言われたからってまたわたしの家にまで来なくてもええやん、どうせ断るんやし」
断る、という言葉を聞いて足売りばあさんの顔が青ざめる。
「ええ!? また『グレアムおじさん』のとこに押し付けるのかねぇ!? 嫌だよわたしゃ、絶対『ニンジャの極意を教えろ』って迫ってくるに決まってるんだよぉ!」
「グレアムおじさんどんな人やねん!? 足売りばあさんに忍者の事聞いてどうするつもりなん!?」
養ってもらっておいて何だが、自分の親代わりらしい人物は本当に大丈夫なんだろうか? とはやては思う。
まあ、足売りばあさんがまた来てしまうのは仕方がないのだ。
都市伝説や学校の怪談級の幽霊は通常、『怪談の話に縛られる』ものである。
それはもう、反射の域に近い。
有名になるために何度も何度も繰り返しているうちに無意識レベルで刷り込まれているから、○○さんの所へ行けと言われれば素直に行ってしまうのである。
その説明を(異次元おじさんから)受けて納得したはやては、少しだけ考えて言った。
「うーん……、家に住む? 知らん人に押し付けるのも嫌やし、グレアムおじさんの所行くのが嫌なら……」
その言葉を聞いた途端に足売りばあさんの青ざめた顔が歓喜の表情にかわる。
「まままマジかいぃ!? 本当に!? やったよぉ、これで毎日野宿とはおさらばさぁ!」
「今までどんな生活しとったん!?」
「はやてさん、彼女は『足売りばあさん』です。怪談の本には彼女がどこに住んでるかなんて書いてないでしょう? つまり、普段の彼女はホームレスです」
「うわあ……」
異次元おじさんによる聞きたくなかった都市伝説の諸事情コーナーでした。
続けて異次元おじさんは心配そうにはやてに尋ねる。
「しかし良いのですか?貴女も普段の生活があるでしょう、親御さんも果たして不審者である足売りばあさんを受け入れてくれるか……」
その気遣いの言葉に『ホンマこの人はええ人やなぁ』とはやては思い、何でもないように答えた。
「大丈夫やって、わたし両親が小さいころに亡くなっとるしお金だってグレアムおじさんがいっぱい援助してくれてる。あ、謝らんでもええよ。そんなに気にしてへんから」
「それは……、すいませんでした。配慮が足りずに」
頭を下げる異次元おじさんにはやては慌てて「謝らんでええって」とフォローする。
「何なら、異次元さんも一緒に住んでもかまわへんよ? それに――――
――――家族って、憧れてるんよ」
こうしてこの日、八神家に二人の居候がふえることとなった。
「ありがとうねぇお嬢ちゃん! そうだぁ、お礼に足徒神拳を教えてあげるよぉ!」
「結構です。……やっぱり老人ホームに預けようかな……」
早速、ちょっぴり後悔したはやてであった。
説明 | ||
本編とはあんまり関係ない。 しかし回収せねばならない(死亡)フラグが、そこにある。 あとロッテさんエロい。 |
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