魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 六話 |
白い魔道師と美味しそうなネズミとの戦闘から数日の時が過ぎた。
その間にも修業は怠らずに自分を磨いてきた。
はずなのだが……
「……」
「どうしたんだい? そんな浮かない顔して」
「いや……どうも不本意過ぎてな……」
今現在、オレとアルフは海鳴の温泉宿に来ている。
この温泉宿の近くでジュエルシードの反応が確認されたからここに来た。
「だが、なんでオレがお前の弟だ? なんて屈辱だ……」
「どういう意味だい? それ」
アルフが何やら笑いながら怒気を放つが、それは割とどうでもいい。確かに未成年だから一人では入れないのもまあ、分かる。
「普通はフェイトだろ……」
「仕方ないだろ? フェイトは更に深い調査をしてて来られないんだから……」
「……いつかぶっ倒れるぞ……最近は夜もあまり寝てないだろうに」
「今度アンタがフェイトに言っておくれよ」
そう言いながらフロントへと足を運ぼうとした時、オレは気付いた。
「ほう……こんな偶然はあるものなんだな」
「どうしたんだい?」
「この前話した白い奴とネズミがこっちに向かっている」
「なんだって!?」
カリフの一言にアルフは驚きのまま叫ぶ。
「その他にも様々な気がある……速さから言って車に乗っているんだろう……」
「アンタそれ……なんで分かるんだい?」
「この前にも話しただろう? “気”と言う奴を……」
そう、カリフは以前にアルフとフェイトとの戦いの後に質問攻めにあったのだ。
なぜ、そこまで強いのかと……
そこでカリフは“気”のことを話していたのだ。
「ふ?ん……本当に便利だねぇ……」
「まあそんなことはどうでもいい。どうする?」
「ちょっと待って……フェイトは現状維持だって」
「やっぱ魔法ってのは便利だな……」
そう言いながらオレたちは旅館の中へと入っていった。
「はぁ……疲れがとれる……気が高まる?♪」
現在、カリフは修業で流した汗を露天風呂で流していた。
「ふむ……隣にはあの白いのとネズミか……」
そう言いながらも全く気にしない様子でしばらくの休息を満喫した。
温泉から出た後は別段、やることもなかったからすぐに土産屋へと直行しておやつを探す。
「温泉まんじゅう、モナカ、よりどりみどりだな……」
早速、なにかおやつを物色して自分の分とフェイトの分、アルフには……なんでもいいか……
そう思いながらプレシアからの活動資金という名のお小遣いをまさぐっていた時だった。
「あ……」
「ん?」
なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきたのでそっちに振り向くと、そこには白い魔道師……高町なのはがこっちを驚いた表情で見ていた。
そいつの肩に乗っかっているネズミはこっちを威嚇とも恐怖ともとれる表情で構えていた。
「あ、あの……」
オレに話しかけようとしているところを見ると、完全にオレを知っているな……多分、ネズミの入れ知恵だろうな……
「なのはちゃん?」
「どうしたのよ?」
さらに白い奴の後方からまた新たな奴が二人やって来た。
「すずかちゃん……アリサちゃん……」
白い奴がどもっていると、新しい奴等もオレに気付いた。
「あの……君は?」
「なに? アンタ、なのはの知り合い?」
金髪の奴の高圧な態度に思わずフリッカージャブを決めたくなったが、ここで問題は起こさないように努め、この場を収めようと立ち上がる。
「な、なによ……」
「……(オロオロ)」
白い奴とネズミも含めた金髪と紫髪の奴より背は若干高かったから見下ろす形になると相手も怯み始めた。
そして、オレは大人の態度をとる。
「あの?……これは一体なんなのですか?」
「「!?」」
オレの極めて“大人”な対応に白い奴とネズミが驚愕するのが目に見えた。
滅多にはこんな態度はとらないのだが、どうもあの金髪にカラまれるとめんどくさそうだから見せたオレのもう一つの顔だ。
「えっと……その子が急に僕をだれかと間違えて話しかけてきたようです」
「え? そうなの?」
「え、いや……」
金髪からの質問に白い奴がどもるが、これ以上長引くとボロを出しかねん……釘を刺しておくか……
「おや、可愛らしいモルモットですね。撫でてもいいですか?」
「え、あ、あの……ユーノくんはフェレットで……」
だれもがやりそうな反応をしながらオレはネズミを撫でる直前に手の平に書いておいた文字を見せる。
『騒げば殺す』
「「……」」
「ふふ……いい子ですね。これくらい大人しいと食べられる時でも静かそうですね」
「ハイ、ユーノクンハトッテモカシコイデスカラ……」
白い奴とネズミが固まるのを確認した。やはり“大人”の対応は無敵だな……
「アノ、マチガエテコエカケテスミマセンデシタ……コンドカラキヲツケマス……」
「はい」
「あ、ちょっとなのは!」
「待ってよ?!」
あくまでも“大人”の対応で白い奴を追い返し、他の傀儡も追い返した。
ふ、“大人”だな……
そんな自画自賛を胸の内で感じながらもオレはおやつをレジに通した。
その際、店員がおやつタワーを見上げて呆然としていたのは割とどうでもいい話である。
「あ、カリフにアルフ」
「よ」
「見つかったんだって? さっすがアタシのご主人様だよ?」
日も山の奥へと沈み、辺りを闇が支配する世界でカリフとアルフはフェイトと合流した。
「カリフ、楽しかった?」
「ふむ……いいガス抜きにはなったな」
「そう? よかった」
「フェイト」
「ん?」
カリフは懐から出したレジ袋を取り出すと、それをフェイトに投げる。
フェイトは慌ててキャッチすると、不思議そうにオレを見てくる。
「見てみろ」
フェイトは言われた通りにその中を見てみると、そこにはオニギリと焼きそばパン、そしてペットボトル飲料が入っていた。
「え……これって……」
「お前のことだ、ずっと昼食も食ってないのだろうと思ってな」
「私のために……?」
フェイトが少し驚きながら聞こうとするが、カリフが変わらない態度で返す。
「早く全部食え。やるべきことはそれからだ」
そう言ってカリフはさらに懐からフェイトの倍はあるだろう量のレジ袋を取り出し、中から取り出したお菓子類を食い始める。
「カリフ?、アタシにもくれ?」
「……」
「なんで無言で漬物石なんて放るのさ!!」
「お前はもう喰っただろ」
「アンタもだろ!」
隣でカリフがアルフとお菓子の争奪戦を始めるのを見て、フェイトは表情を少し穏やかなものにした。
そして、彼のほんの少しの優しさにちょっと味わったことのない感情を抱いた。
こんな感情は生まれて初めてのこと。
だけど、不快ではなく、とても暖かく心地よいものだ。
フェイトはそんな嬉しさを噛みしめながらオニギリを頬張るのだった。
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