魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 七話 |
フェイトと合流してからしばらくの時間を過ごした後、オレたちはジュエルシードがあるとされる場所に直行する。
そして、川の中で淡く光る宝石を見つけた。
「ほう……あれがジュエルシードか」
「そっか。カリフは初めて見るんだっけ?」
オレは少し興味を持って、武空術で浮遊しながら川からジュエルシードを手に取る。
「ちょっ、アンタなにしてんのさ!!」
「危ないよ!」
無造作に手に取ったのが悪かったのかアルフとフェイトから注意を受けた。
「え? なにが?」
「なにってアンタ……そんな無造作に扱って暴走したら……」
「そういったロストロギアは扱いに気を付けないと暴走するんだ」
「ふ?ん……」
そんなに危険とされる程の者か……この小さな石に宿る強大な力に興味があったが、どうやら今回はハズレのようだったな。
そんな力を拝めそうになさそうだ。
そう思っていた時だった。
「カリフ!!」
「?」
フェイトの叫びにオレは何かと思った直後、何かの力の奔流が体を駆け巡ったのを感じた。
急な出来事にガラにもなく驚きながらジュエルシードからの力だと悟った。
手から体中を駆け巡る感覚が襲った。
「カリフぅ!」
「すぐに捨てな!!」
「あ、あぁ……」
二人の剣幕にジュエルシードを川に捨てた。
すると、ジュエルシードはとてつもない発光を起こした。
「カリフ、大丈夫!?」
「ふむ……ピリってきた」
「そんなことで済むわけないじゃないか!! あれだけの魔力があんたの中に入ったんだよ!?」
「……なんか、ムズムズする」
たしかに何かの力が無理に入りこんだのは感じたが、なんてことは無かった。というより少し普段味わったことのない感覚に興味が出てしまった。
「ムズムズって……リンカーコアの無い奴ならすぐに何かしら起こるのに……アンタは本当に人間かい?」
「ねぇ、本当に大丈夫? 痛くない?」
「おまいはお母さんか」
どうやらさっきのはとてつもなくやばい状況だった……のか?
確かにになんかテンションが上がってちょっとした興奮状態になりかけてはいるが、なんてことはない。
それどころか凄く爽快な気分だ。
「待て!」
そんな時、不意に声が響いてきた。
声の方向に視線を向けるとそこには白い奴とネズミが臨戦態勢でやって来た。
しまった……気を探るの忘れてたな……
「あ?らあらあら……子供は良い子でって言わなかったかい?」
そう言ってアルフは白々しく続ける。
「それをどうする気だ!! それはとても危険な物なんだぞ!!」
ネズミはフェイトにそう言うと、アルフが遮るように話し出す。
「答える理由が見当たらないね?……それに言わなかったかい? 良い子でないとガブっていくよって……」
そう言うと、アルフの体は変異し、髪の毛は体毛へ、手も人間のソレとは程遠いものとなった。
そうか……あれがプレシアの言った使い魔の本当の姿か……
話には聞いてはいたが、オレたちサイヤ人の大猿化もあんな感じなのだろうな……
「まあ、なんにしても……だ」
そんなことはどうでもいい……
「お前等……食ってやろうかぁ?」
「「!!」」
オレは少しおどかすくらいに威圧したが、思ってた以上に脅えてしまった。
なんでだ?
「で、でも……これだけは譲れない!!」
「聞きわけのない奴だね!!」
ネズミが気丈に言葉を振り絞るも、アルフは白い奴に襲いかかる。
しかし、ネズミは結界を張り、アルフの攻撃を防いだ上になにやら新しい術で消えた。
いや、消えたというよりも別の場所へ移ったようだな。気も別のところで現れた。
そう思っていると、今度はフェイトが白い奴に向けてデバイスを構えた。
……まあ、相手はどう見ても一般人だから別にいいのだが……オレが少し遊ぶと壊れそうでもあるし。
「また見学か……つまらんな」
「ご、ごめん。でも、カリフが手を出すこともないと思ったから」
それもそうなんだが……もう考えるのは止めるか……
「分かった分かった……オレは見てるとするか……」
「うん、すぐ終わらせるから」
とは言っても最近、オレって何もしてねえ……くそ、情けねえ……
フェイトは白い奴と相対すると、白い奴から話を切り出した。
「話し合いでなんとかできないかな……」
「私はジュエルシードを集めないといけない……あなたもジュエルシードが目的ならあなたとは敵同士ってことになる」
「そんなこと、頭から決めないように、話し合いは大事だと思うの!」
なのははフェイトに食い下がるが、フェイトは断固として聞き入れはしない。
「話し合ったって何も変わらない……伝わらない!」
フェイトはバルディッシュを起動させると、一瞬でなのはの後ろをついた。
だが、なのはは空へと飛翔することでフェイトの攻撃を避ける。
「賭けて、それぞれのジュエルシードを一つずつ」
フェイトからのジュエルシードを賭けた闘いが幕を明けたのだった。
「ほう……意外だな」
また傍観役になってしまったカリフは最初は不満気だったが、フェイトとなのはの戦いに少し感心した。
「この前の戦いより白い奴の動きが変わった……」
もし、今回負けたとしてもまた強くなるのでは?
そういった興味も少なからず出てきたから今回の傍観も中々悪いものではない。
オレは橋の手すりに腰をかけた。
―――フニャ
「ん?」
だが、なにか尻に違和感を感じた。何かを踏み潰したようなそんな感じが……
冷静になって意識を集中させると、何故か尻……いや、腰の辺りがムズムズしている。
おかしい……なんかこう……
カリフが自分の体に違和感を感じていた頃、アルフは逃げるユーノを追っていた。
「なぜ使い魔を作れるほどの魔道師がここにいる!? なんのためにジュエルシードを集めている!?」
「ゴチャゴチャうるさい!!」
アルフはユーノからの尋問に苛立ちを隠さない。
「それに君たちと一緒にいるは何者だ!? 魔力が無い辺り一般人じゃないのか!?」
「答える理由なんかない!!」
魔道師とそれを支える者の戦いはより一層加速していく。
[サンダースマッシャー]
[ディバインバスター]
空中で壮絶な戦いを繰り広げている二人の魔道師の砲撃がぶつかり合う。
二つの閃光はぶつかり合った時、フェイトは相手の火力を感じ取った。
「レイジングハート、お願い!!」
だが、それを裏付けるように桃色の閃光は更に強さを増し、やがてフェイトの攻撃を押し切る。
フェイトは桃色の閃光に飲みこまれた。
「なのは……強い!」
地上のユーノはなのはの才能に驚きながらも勝利を確信した。
だが、アルフは違った。
「だけど、甘いね」
アルフには見えていた。フェイトは直前で上空へと回避していたこと、そして……勝負の結末を。
「……」
「う……」
フェイトは無言でなのはの首に魔力で造った鎌状の刃を寸止めで押し付けていた。
なのはは思わず苦しそうに声を洩らすと、レイジングハートはコアからジュエルシードを出した。
「レイジングハート! なにを……!?」
「きっと、主人想いの優しい子なんだ」
そう言いながらフェイトはジュエルシードを受け取って着地する。
「さっすが私のご主人様だよ♪ じゃあねおチビちゃん」
アルフも人間の姿へと戻る。
「あ、待って!」
去ろうとするフェイトを呼びとめるなのは。
「できればもう私たちの前に現れないで。今度会ったらきっと手加減できない」
突き放す様に応えるフェイトにもめげずになのはは続ける。
「あの! あなたの名前は!?」
「フェイト、フェイト・テスタロッサ」
「私は……!」
なのはの続きは聞かずにフェイトは飛び去っていく。
「じゃあね?」
アルフも上機嫌にフェイトの後を追う。
「もう終わったか……」
カリフも手すりから降りて後を追おうとすると……
「ねえ君!」
「?」
突如、なのはに呼び止められ、振り返る。
「君の名前は!?」
「……」
なぜ、名前を聞いてくるのか理解できないカリフは首を傾げるが、名乗っても問題無さそうだったから名乗っておく。
「カリフ……これで満足か?」
「え、えっと……私はなのは! 高町なのは!!」
カリフの無意識の睨みに圧されながらもなのはも自己紹介をする。
「ふ?ん……」
だが、カリフにとってはどうでもよく、用が済んだと思い、フェイトたちの気を追って飛翔する。
「そんな……なぜ彼も飛べるんだ……」
そんなネズミの呟きも無視して元いたマンションへと直行する。
こうして、オレの短い温泉旅行は終わりを告げた。
はずだった……
「……なぜだ」
マンションに帰ってから一夜を過ごしても治らなかった腰の違和感に意を決して洗面場で裸になって鏡で見てみた。
そこには有り得ない物があった。
「尻尾は昔に切り取ったはずだったはず……」
カリフの腰から茶色く、細長い尻尾がチョコンと頭を出していた。
まだ、中途半端であり、完全には生えきってはいなかったが、確かにあった。
サイヤ人たる印がそこに……
「温泉に入った時は無かった……いや、そもそも今までもこんな兆候なんて……」
昔に一度だけカリフは尻尾により大猿化……しそうになった。
だが、カリフは強靭な精神力で理性を保ったことがある。
ベジータでもでき得なかったことをカリフはやってのけ、その後にカリフの体をブルマのツテで研究してもらった。
そして、検査の結果、カリフには悟空ともベジータとも悟飯とも違う場所が見つかった。
本能を司る脳の構造が違っていたのだ。
そして、すぐに原因が分かった。パラガスの独自の改造である。
パラガスはブロリーの本能の強さに手を焼き、苦労していた。
なら、次に造る駒には本能を若干でも抑えてもらう。そういった概念の元で造られたのがカリフである。
「尻尾はベジータに切り取ってもらった……だが、昨日になってなぜ……」
そこで思い至った……まさか、昨日のジュエルシードを触った時……
「……今度プレシアに聞く必要がありそうだな……」
カリフはとりあえず、尻尾のことは忘れて今日という日を生きるのであった。
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