■17話 魔性の手を防ぎたい・前編■ 真・恋姫†無双〜旅の始まり〜 |
■17話 魔性の手を防ぎたい・後編
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張遼や賈につれられてついてきたはいいものの一体どこへ行くのだろうか?
気になる事と言えば先ほど話しに出てきた紀霊という人物、聞いた事も無いし会ったことがない輩だろう。話を聞いていればその輩が問題だという事は分かったが今分かっているのはそれだけだ。
張遼と賈駆がここまで興奮しているのも珍しいとは思うが、宮廷の侍女が何か粗相をしでかしたのだろうか? ……それにしては賈駆も張遼も尋常ではない雰囲気を身に纏っているし、さっぱりわからん。
悶々と紀霊という人物に対して頭を捻ってみるものの、正解と思わしき答えは出て来ない。考えているうちに腕を引っ張る2人の足が止まった。
「なんだ? ついたのか?」
こちらに振り返った賈駆が何故か口に人差し指を当てて静かにする様にと示唆してくる。いったいなんなのだとは思ったものの不機嫌さが顔に出る事はなかった。
顔に出さなかった理由としては張遼たちが見ている方へと目を向けてしまった為だ。
知らない男が喋っていると思ったらいきなり目の前から消えたのだ。否消えたのではなく認識できなくなった。その後すぐさま同じ場所から現れたのだから間違いないだろう。
紀霊が高速で移動したのではないと分かると急速に頭が冷えていく、あんな暗殺者じみた小手先技で戦場を生き抜けるとはとても思えない。そしてあんな者が部隊を率いていることに憤りを覚える。
「あいつは何者だ?」
「へ? 華雄あんたもしかして聞いてないの?」
「あちゃあ、まじかいな……せっかくの手立てやと思ったのに」
「なんだ? もしかして知らないのは私だけなのか?」
「ちゃんと連絡入れたはずなんだけど?」
確かに新参者が来るとは聞いていたが男と聞いた時点で興味をなくしていた。けれど正直私に勝てる男などいないというのに興味を持てと言うのは酷ではないだろうかと華雄は思う。大体自分と部隊の調練だけやっていればいいはずなのだ。
「それはあまり重要じゃないと思って無視したのだが、なるほど男にしてはなかなかだ。けれど所詮は男、小手先の技で満足している様では私の敵ではない」
「あ、あんたねぇ」
眉をピクピクさせて呆れた様に言う賈駆を見て自分の中の疑念が膨らんで行くが分かる。当然のことをいったまでなのだが何を怒っているのだろうか? と
「ちょ、詠落ち着きいや。華雄はいつもこんなやろ?」
「ま、まぁそうだけど……」
2人が何を言いたいのかさっぱり理解できないが要するにあれが先ほどまで話に上がっていた男だという事は分かった。つまりは
「あの男に会えばいいのか?」
「え? ええ、まぁそうだけど」
「ならば行こう」
未だに何かを話す紀霊なる者の元へと行こうとすると張遼が前に出てきて進路をふさいだ。行動の意味が分からずに鋭い視線をぶつけると焦ったように口を開いた。
「な、ちょっとまちいや! 今は調練中やで、それになんか集中してるみたいやしな。終わるまでまたんとあかんで」
「ふむ、それならば仕方がないか……」
なるほど確かにその通りだと思う、調練中に邪魔をするのは辞めるべきだろう。いくら相手が下らない訓練をしていようともわざわざ部下の前で醜態をさらさせる事も無いだろう。
「あんたほんまに華雄かいな?」
「なにを当たり前なことを言っている。調練は大事なことだぞ、邪魔する理由があるまい」
当たり前の事を言ったはずなのになぜ董卓と張遼は顔を見合わせて不思議そうな顔をした後に何かを諦めた様な視線を向けてくるのだろうか。
「これはあかん」
「そうね、ボクはこれからとてつもないことが起きる気がするわ」
余りにも酷い反応を返す2人に抗議の声を上げようとした瞬間、大地を震わすほどの歓声がすべての音をかき消した。
驚き、改めて男の方へと顔を向けると思わずその姿に我を忘れて見入ってしまう。
襲ってくる新兵の全力を小さい武器一本でいなし、尚且つ軽やかに倒していく。その力加減も絶妙で兵の気絶しない一歩手前、また襲いかかってこられる様に痛めつけている。
そして全員倒し終わった後また檄を飛ばして同じことを繰り返していく、その間一切疲れた様子を見せる事無く男は常に優雅に、それでいて焦りを見せず、それどころか余裕を顔ににじませ笑みさえ浮かべている。
その姿を見ているうちに心の中にふつふつと嫉妬心が黒く湧き上がる。何故男なのに私よりも強いのか? 新参者の癖に部隊を持てているのか? 何故無粋な技を駆使するのか? 疑問は尽きない。
力強さを全く感じさせない動きで相手を翻弄していくその姿に、その強さに嫉妬する。勇猛を売りとする自分に喧嘩を売っているとしか思えない。小手先技でまだ弱い新兵を弄んでいると自分に思い込ませ、身勝手なほどにその男へ強い怒りを覚える。
そしていつの間にか相手の強さを見下し、心が相手を叩き潰すというただそれだけの感情に満たされていく。待ちに待ってやっと調練が終わったその時、張遼と賈駆が止めるのも聞かず華雄は紀霊の目の前へと躍り出た。
「我が名は華雄! お手合わせ願いたい!」
紀霊が少し眉を寄せてこちらを見たが何も言わずに構えてくる。本来なら礼も言ってしかるべきだろうが、今はその淡々とした態度が余裕に見えて逆に頭に血が上って行ってるのが分かる。その時既に先ほどまで考えていた周りへの配慮も気にする余裕は華雄にはなくなった。
「いざ参る! でぇぁああああああああ!」
自慢の戦斧を振り上げて切りかかる。それに対して未だ無防備な耐性のまますこしも動かない紀霊を見てさらにいらだちが募っていく。
もう戦斧が触れそうだというのに依然として動かない紀霊を見て呆れ果てる。さっきの1000人斬りは弱い新兵だからできたのかと、所詮男はこんなものかと勝利を確信した。
けれどそう思った次の瞬間には紀霊が消えていた。驚いて戦斧を止めて周りに目を向けようとするとすぐ後ろから殺気が立ち上ったのが分かった。
それに気づいた時には既に遅く、クビにひんやりとしたものが当てられるのを感じる。皮一枚で止められているそれは今容赦なく華雄の命を奪うことが出来る。
だというのに華雄は頭に上った血のせいで冷静に判断することが出来ない、さらに己のプライドの高さが災いして、まだ戦えると信じ込んでいる上に命を取らない紀霊に対して理不尽な怒りをさらに抱いた。
「お前弱いな……」
紀霊が呟いた言葉を聞いて瞬時に飛びのき距離を置く。この男は私を見誤っている、私が男に負けるはずがないと自分に言い聞かせ、構えを再度とる。
「私が弱いだと!? 何を勝った気になっているのだ構えろ!」
紀霊は呆れながらも構えた。けれど冷静になるべき華雄はその紀霊の反応に対して怒りが限界突破していた。
この男だけは我慢ならん、油断してた時をついて勝っただけの癖になんだあの偉そうな口調は……とブツブツ呟きながら怒りを滾らせ、全力で油断せずに戦斧で討ちかかる。
それをいとも容易く紀霊は左右にひらひらとかわしていく。逃げ腰の紀霊を嘲笑し、自分が有利だと確信する。華雄は本気を出せば私に叶うはずもないと信じているのだ。
「避けてばかりで芸のない男だ」
侮辱の言葉を浴びせ、今度は避けられないように速度を速め、威力を高め、渾身の力もって戦斧を思い切り振り抜いた。
そして次の瞬間華雄は世界が反転している事に理解が追い付かず地面にたたきつけられることになった。
◇◇◇◇
「いざ参る! でぇぁああああああああ!」
華雄が挑んできたので戦ったのだがこれは酷いと言わざるを得ない。自信に満ちたその瞳、怒りに歪ませた顔、そしてなにより仲間だというのに殺す気で戦斧を打ち込んできたのだから。
もしかして知らない間に華雄に悪い事をしたのかもしれないと思い悩む、けれどいくら考えてもここに来てからあった事がないのだから何もしていないとしか思えない。間接的に何かやってしまった可能性も否めないがここまで怒る事なんてさっぱりわからん。
恐らく考えていたせいで隙だらけだったのだろう、目前まで迫る戦斧と明らかにこちらを嘲笑し、勝利を確信したその顔は不快でしかない。
勝ったつもりでいるのだろうか、それともなにかの策? ここまで実直に戦斧を振り下ろしただけで勝利を確信できる意味が分からない。もし策だとしてもここで動かない事には始まらないと思い、気配を消してバックステップで避けた後はダッシュして華雄の背後に回り込む。
この時点で何もしてこない華雄は少し不気味だ。あえて殺気を放って出方を伺おうとしたのだが、あまりにも動きが遅い。さらに華雄がこちらに振り返ろうとしている時点で完全に華雄が自分を見失っていたという事に気が付いた。
心配して損してしまった。腕試しならもういいだろうし、小刀を首に当てた状態で華雄を見る。その姿は武将としての潔さなど微塵も無く未だ怒りをむき出しにしてこちらを睨んでいる。いや、もしかすると先ほどよりも怒っているかもしれない。
仲間なのだからあまり華雄を不機嫌にはさせたくない。けれどいつまでも華雄に関わっていると部隊の気の鍛錬が出来なくなってしまう。だからあえて突き放すように言い放った。
「お前弱いな」
弱さを自覚して欲しかったのだが言い方が不味かったらしい、飛びのいて距離を取ると怒りで肩を震わせて叫んできた。
「私が弱いだと!? 何を勝った気になっているのだ構えろ!」
プライドが高い華雄だからこういう反応も分からないでもないなと叫ばれた後で気づいた。自分の行動が裏目に出る事を恨めしく思いながら、さらには負けてもまだ自分の力量を測りきれていない華雄に呆れながらも構える。
華雄も一端の武将なのだからあれがさすがに本気ではないはずだ。一度本気を出して戦って納得してもらうしかない。
改めて構える華雄を見て隙がない。けれど怒り過ぎている華雄にこれだけの状態がいつまで維持できるのかわからないが、これが華雄のスタイルなのだろうと1人勝手に納得する。
華雄が襲い掛かってきたが先ほどより攻撃が鋭いのは分かるのだが、あまりにも単調すぎて避けるのも簡単だった。
「避けてばかりで芸のない男だ」
それを何処をどう誤解したのかは分からないが自分が有利だと思ったらしい華雄は最後の一撃を放ってきた。
こいつは馬鹿なのだろうか? それとも戦場を知らなさすぎるのか? と脳内で色々と失礼な事を考えてしまう。怒る理由が尋常ではないのだろうかとも考えたが戦っている中で見せた嘲笑、あれを見る限りきっとろくでもない事に違いないだろう。
怒り過ぎて馬鹿になっている華雄相手に武器を使う必要はない。そう思い大振りの戦斧の中にあえて飛び込み、身を縮め、戦斧の柄に手を添えて、力の流れを変えて地面にたたきつけた。
華雄は何をされたのかは理解していないようだが、未だにこちらを馬鹿にしたような態度は健在だ。ここまでくるとさすがに物言わずにはいられない。
「お前は突進しすぎだ。もうちょっと考えて戦況を見るようにしろ、そうすりゃもっと強くなれると思うぞ」
なるべく穏やかに言ったつもりだったのだが、睨まれるだけで全く冷静になる様子が見えない。あまりの態度に思わず怒鳴りつける。
「馬鹿やろうが! お前が今のままじゃ周りに迷惑かけるって言ってるんだよ! 自分の負けたことも認められず、相手の力量も測れず、己の力量すら測れていない。要するにお前は今のままじゃただ強い雑兵とそうかわらなん」
怒りに任せて発言した後少し後悔をしてしまうがこれが切っ掛けになればという想いもあるので言葉を撤回するつもりはない。
「っな! そこまで侮辱するか!」
「黙れ! 華雄だかなんだか知らんがお前は弱い、まずはそれを認めろ! 認められないなら俺が何度でも相手になってやる。今のままじゃ周りがお前のつけを支払わされて痛い目を見るだけだ」
プライドが強すぎる華雄は一度自信を粉々にした方がいいんじゃないかと考えつつ、さすがに言い過ぎたかもしれないと今度はなるべく優しい感じを心がけて話しかける。
「武を誇ることもいいが慢心しちゃいけない。慢心せずにもっと鍛錬をつめばお前はもっともっと強くなれるはずだ。だから負けを認めろ、負けは一瞬だが死は永遠だ………どちらがいいかくらいわかるだろ?」
我儘な子供を諌める様に語る。強く、優しく囁いて未だ座ったままの華雄の頭を撫でていく。
瞳から徐々に怒りは消えて行ったものの、未だに気の強さは健在で、こちらを睨み続けながら立ち上がる。
「今回は私の負けだ……でもいつか必ずお前に勝つ!」
負け惜しみと言うのだろうか、まあ少なくとも負けを認めただけ一歩前進だと思い込む。そうでないと戦った意味が全く分からない。
精神的な疲れが増したようにも思うが今まで傍観していた人たちをほっとくわけにもいかない。もしかしたら理由を知っているかもしれないし。
「そっちに隠れてるのはわかってるんだけど出て来てくれる?」
2つの気配がある方へと呼びかける。それに対して気まずそうにして出てきたのは張遼と賈駆の2人だった。
◇◇◇◇
「無様だな」
余りにもお粗末だったとしか言えない戦闘を振り返り、自分の愚かさを嘆きながら地面を殴りつける。
無様に今まで馬鹿にしてきた男に負け、説教され、優しく撫でながら諭された。そして耐え切れなくなってさっきの紀霊から逃げ出してきた。
紀霊が教えてくれたことは余りに多い。相手を侮る事で出来る隙、怒りで周りが見えていない事、己の誇りが周りを気づかぬうちに気づつけていく事。
今まで私がなにも考えていないことを知りえた。今まで私がただ気持ちの赴くままに戦っている馬鹿だと知った。今まで私の経験がただの力押しでしかなかったことを知った。
その事実を目の前にして怒りで支配されていたはずの心は今はもうごちゃごちゃしていて良くわからない。私は武だけが取り得であり、誇りなのだった。それをああも容易く破られあまつさえ欠点を指摘されたことが情けなくて仕方ない。
そしてなによりあの手に撫でられて落ち着いてしまった自分が理解できなかった。あれをされた後はもう自分の何を思っているのかもわからなくなってしまった。
けれどその後にいつか必ず倒すと吐き捨てた言葉は嘘ではない。紀霊を見返し、地面に頭を擦り付け謝らせてみせると決意したのだから。けれどその後は……その後はどうすればいいのだろうか? 誇りを取り戻したぐらいではつり合いが取れていない気がする。
自分の気持ちがやはり良くわからなくなっている。ごちゃごちゃとした心、いつもは何かをひたすらに思えばいいだけだったというのに、今は考えなくてはいけないことが多すぎる。
私を初めて打ち負かした男。私の汚名を払拭するには逆に打倒さなければいけない。だけどそれだけでは事足りないのではない。仲間だから殺すことは出来ない。
けれどそのほかの方法と言っても……。ああ、結婚すればいいじゃないか。そうだ結婚すればいい。
思いついた内容を吟味し、徐々に顔が熱くなってくる。これは一体なんだと自分の状況が全く理解できない。これが紀霊が指摘した事の一端なのだろうと思いつつも考えれば考えるほど理由が分からなくなっていき、熱は上がる一方だった。
華雄はその後も謎の熱にうなされて数日部屋で寝込んだ。
◇◇◇◇
「さて……どういうことか説明してもらえます?」
張遼は満面の笑みで訪ねてくる紀霊にとって喰われはしないかと恐怖しながら言い訳を述べる。
「か、堪忍や……華雄を紹介しようと思ってたんやけど飛び出してしもてな」
「ほんとにね、まさか飛び出すとは思わなかったわ」
本当の事はぼかすしかない為、こういうしかなかった。その答えに満足は出来なかったようだが紀霊がそれから追求してくることはなかった。
「そっか……ちょっときつく当たって悪かったな」
全く非がない紀霊にそう言われて些か気分が悪くなる。そのせいで油断したことで隣の詠が紀霊に撫でられてしまった。
横目に見ると、あの詠がなんの抵抗も出来ずに夢うつつと言った顔をしながら寝起きの様に微睡んでいる。
相変わらずやばい、あれはやばい、やばすぎると言っても過言ではない。
詠を撫で終った後笑顔でこちらにも手を伸ばしてくる紀霊に対して何か取れる対策はないものかと考え、咄嗟に先ほどまで撫でられていた詠の背後に隠れる。
体の大きさが違うので完全に隠れる事は出来ないが手を避ける事には成功した。なんや思ったより簡単に避けられるやないかと拍子抜けしてしまう。
「……え?」
短く声を発した紀霊を見ようと顔を出してみるとなにやらかなりショックを受けていた。予想外の反応に戸惑ってしまうものの何を言っていいのか分からない。
「も、もしかして嫌われた?」
何でそう思うんや! と叫びたくなる反応だが、涙をためながらこちらを見つめてくる姿に何も言えなくなってしまう。元々童顔で顔はどちらかと言えば可愛い部類に入る。いつもは殺気を放っていたり、厳しい顔をしていたり、のほほんとほのぼのするような表情を作っているから分からないかったが、今は明らかにその童顔を最大限に生かしていた。
こ……これは! なんや、これも危ないわ……でも……。
心の中で葛藤は続いていたが気づけば体が勝手に動き、自分でもびっくりするほど自然に紀霊を抱きしめていた。
「だ…大丈夫や嫌ってないで、逆に好きなくらいや……」
「ほ、ほんとか?」
まだ心配が晴れない紀霊は涙を貯めたまま瞳を覗き込んでくる。普段の紀霊とギャップがあり過ぎて戸惑ってしまうものの、保護欲がかきたてられ、母性本能が呼びかけるままに行動してしまう。
「ほんとやって!」
恥ずかしすぎる言葉を吐き出して、どうにかこの状況を改善できないものかと詠に視線で助けを求めてみたが、詠もどうやらいつもと違う紀霊の様子に釘付けになっていて反応できないでいた。
結局紀霊が安心するまでずっと抱いていたのだがこれは魔性の手よりやばい事だけがわかった。避けた先にあんな仕掛けがあるとは夢にも思わなかった。
もう紀霊の手を無闇によけることはやめようと1人誓をたてる。
そしてやっと落ち着いたらしい紀霊が涙で目を潤ませたままで笑いならが礼を言って来た。
「ありがとう」
何かが自分を刺し貫いた、それほどの衝撃が体を走ったと言った方がいいだろうか、いずれにせよ今まで感じた事のない感情が張遼を満たしたことは言うまでもない。
あー、これはたえられんと紀霊に聞こえない様に呟き、先ほどよりも強く抱きしめたのだった。
◇◇◇◇
「……え?」
張遼が賈駆の後ろに逃げた時思わず声が漏れ、その事実が綺麗に喪失感を与え、涙を溢れさせた。
今まで親しい関係をさほど気づいていなかった紀霊にとって、それは初めての拒絶と言っていい・困惑しながら後ろに逃げる張遼を見た瞬間何かを失った気がしたのだ。
やっぱり友達がいなかった俺には友達なんてそうそうできないんだろうか? そういえば皆俺を見て笑ったりしてくれるけどホントに仲良くしてくれているんだろうか? ただ単に可哀そうだから付き合ってくれてるだけじゃないのだろうか?
もしかして俺は邪魔なんじゃないだろうか? 俺は嫌われてるんだろうか?
次々に今までの事が頭に浮かび、沈んでいく。そのたびに不安が募り、紀霊の心を押しつぶしていく。
「も、もしかして嫌われた?」
ここで拒絶されてしまえば数日は立ち直れない自信がある。だとしても聞かずにはいられなかった、もしここで聞かなかったとしても結局いずれは分かる事なのだ。ならまだ関係が浅い今の方が耐えられるとそこまで考えての問いかけだった。
その問いかけに対して張遼は数秒なにかを堪えるかのように身をくねらせ、こちらに走ってきていきなり抱きついてきた。予想外の行動に少し驚きながらもまだ答えを聞いていない不安から涙が止まる事はなかった。
「だ…大丈夫や嫌ってないで、逆に好きなくらいや……」
抱きつきながらそういってくれる。けれど先ほど避けられた光景が目に浮かび、信じきることが出来ない。今も嫌々なんじゃないのか? そう思うと聞かずにはいられなかった。
「ほ、ほんとか?」
「ほんとやって!」
真剣に見つめ返してくれる張遼に感謝の念が尽きない。嫌われるという事に慣れていないせいか、涙は未だ止まる気配を見せい、けれど感謝だけは伝えなくてはいけないと思い、なんとか笑顔を作って礼を言う。
「ありがとう」
笑顔を見せてもう大丈夫だと伝えようと思ったのだが、何故か張遼が次第に震え始め、抱きつく力がだんだん強くなってくるのが分かる。まさかどうかしたのだろうかと心配になり、声をかける。
「どうしたの?」
「あかん…もう無理や」
「へ?」
「ウチをっ!」
何処か鬼気迫る張遼を賈駆が横から蹴りを入れて紀霊から突き放す。その光景を見て少し疑問を抱きながらも我に返ったような張遼を見てこれでよかったのだろうと判断する。
「ッハ! 危なかったわ……」
「ボクも危なかったから」
意味がわからないやり取りをしているが特に嫌われていないという事も分かったので今気にする必要はないだろう。
涙も止まり、綺麗隊に指示を出した後今は少し落ち着いた方がいいと2人諭された為、礼をいって自分の部屋へと帰って寝る事にした。
何故かやつれた様な2人が印象に残ったが、理由が分からない為、微睡に身を任せてそのまま夢へと落ちて行った。
◇◇◇◇
紀霊の去った後お互いを見て2人は疲れ切った顔を突き合わせる。
「詠……」
「何?」
「あれは手より危険や」
「そうね……」
そういって事実確認をした2人は疲れた体と心を引きずりながら、とぼとぼ自分の部屋に帰り、力尽きたのだった。
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■後書き■
休日も親の手伝いで忙しいとか何て苛め。
2話投稿しようと思ってたのに結局1話しか出来ず……人生ままならないものですなー。
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編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします | ||
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