魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 十二話 |
『クロノ!!』
スクリーンの女性がクロノを想って悲痛に叫ぶ。
それを冷たく見据えたカリフは鼻を鳴らしてクロノを投げ飛ばす。
投げ飛ばされ、陸地をしばらく滑って止まる。
「勝てないと分かりながら退かないこいつの気概は評価しよう……オレも少し楽しめたからな」
腕を組んで公園へと着地するカリフへなのはとユーノが噛みついた。
「そんな……ここまでしなくても……!」
「あともう少しで死ぬところだったんだぞ!?」
そんな非難もカリフは耳をほじって心底どうでもよさそうに応えた。
「急に来て得物を横取る真似してこれで済ませたんだ。感謝してもらいたいくらいだ」
さも当たり前のように話すカリフにユーノは内心で戦慄すた。
「感謝……でもこれはやり過ぎ……」
「本来なら殺すところだが、こいつはクズの部類ではなさそうだし、思ったより強かったから生かしてやった」
嬉しそうに淡々と喋るカリフにユーノとスクリーンの女性は寒気を感じた。
そして、理解した。
全ては彼の機嫌次第だったのだ。
ユーノたちの考えは正しかった。もし、クロノの戦闘力が少なければ本気でカリフを怒らせ、クロノを殺していたのだろう。
なのはだけはその真意が分からずにただ殺す気がなかったということに安堵していた。
「ああ、そうそう……」
カリフは何か思いついたように子供らしい笑顔でなのはたちを見据えたと思ったら、すぐに表情を怒りに歪ませて告げた。
「さっき……また邪魔した奴……どいつだ?」
「!!」
冷たい声のカリフにユーノがビクッと体を震わせる。
そして、思い返した。
クロノがあそこまで無残になったのは、元々戦いを邪魔したから。
そして、今度は自分が邪魔をしてしまった。
怒っている
だとしたら、この怒りの矛先は自分に向かうだろう……
ユーノはさっきの一方的な蹂躙を思い返して歯をカチカチと鳴らしながら震える。
「……」
だが、カリフはそんなユーノに興が冷めたのか殺気を一旦は引っ込めて空を飛ぶ。
『待ちなさい!! どこへ行くの!?』
スクリーンの女性は強めに警告じみた制止を図るが、カリフは興味なさそうに淡々と告げる。
「帰る。これ以上貴様等のままごとに付き合う義理は無い」
『それはなりません……貴方には調書を受ける義務が……』
「はん! 後からノコノコと現れといて上から目線でほざくな。このハイエナ共が」
全身からオーラを出してカリフは言った。
「それと、追手なんてふざけたことしてみろ………………殺すぞ?」
「……っ!!」
淡々と告げられた死刑宣告に女性は手段を封じられ、悔しそうに俯くだけだった。
「じゃあな『ハイエナ』諸君」
最後にストレートな罵倒を残し、カリフは空へと飛び立った。
『……』
女性はカリフに言われた言葉に黙りこんでしまった。
なのはとユーノはクロノが救出されるまで、そんな気まずい状況に何も言えなくなってしまった。
『ただいま。アリシア』
『おかえりー! お腹すいたー!』
『はいはい……さっきドーナツ買ってきたから一緒に食べましょ?』
『はーい!』
『でも、先に手を洗ってね?』
『はーい!』
アリシアは私の言うことを聞いてトテトテと可愛らしく急いで洗面所へと駆けて行った。
そんな仕草に可愛らしさを仕事の疲れもどこかへ消えた。
今回は運よく早く帰って来られたが、いつもは帰りなど深夜になってしまってアリシアを一人にする時間を多く作ってしまう。
それでもアリシアは文句一つ言わずにいつも笑ってくれている。
私には過ぎた娘……
『ママー! 一緒に食べよー!』
物思いにふけっていた私にアリシアは手を洗ったぞ、と見せつけるように両手を広げて歯を見せて満面の笑みを浮かべてきた。
私はそんな笑顔に釣られて笑った。
この笑顔が……私の心の支えだった……
『ねえアリシア』
『ん? なあに?』
モグモグと口周りに砂糖を付けながらドーナツを頬張るアリシアに吹きそうになるが、堪えてティッシュで拭いてやる。
『今度、アリシアの誕生日でしょ? なにか欲しい物はある?』
『欲しいもの? ん〜……』
アリシアは首を小さく捻って考える。
そして、そう時間がかからない内にアリシアは笑顔で言った。
『じゃあ妹が欲しい!』
『え、えぇ?』
あまりの無理難題に私は狼狽しながら、どうして妹なのか聞いてみた。
おもちゃは欲しくないのかと……そしたら、アリシアは
『おもちゃで一人で遊ぶより、妹がいたら二人で遊べるから! それと……』
アリシアは私に微笑んで言った。
『私と妹の二人がいればママのお手伝いもできるから』
『アリシア……』
本当はもっと遊ばせたいし、アリシアも不満を持っている。
そう思って私は良い意味で裏切られた。
アリシア……穢れのない無垢な私の娘。
こんな母親にもこんな笑顔を向けてくれる愛娘。
思わず目頭が熱くなってしまった私はそんな顔を見られない様にテーブルから立ち上がる。
『よっしゃ! それじゃあ今夜は自家製のオムライスにしましょ!』
『え!? やったー!! オムライスだーーーーーーーいすき!!』
ドーナツを全て頬張ったアリシアは私の言葉を聞いて両手を上げて部屋中を駆けまわる。
『こら、部屋の中で暴れないの。リニスも困っちゃうわよ』
『はーい♪』
微笑ましく思いながらも、親として注意は忘れない。たった一回の注意だけで素直に聞いてくれる娘に安心してキッチンへと向かう。
『ねえママ』
『? どうしたの……』
そこから言葉が繋がらなかった。
理解できなかった。
さっきまで私はアリシアとおやつを食べていたはずだった。
なのに
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』
目の前には両手を縛られて釣り上げられながら小さく謝る血まみれの少女がいた。
『……え?』
とにかく訳が分からなかった。
それは状況だけでなく、自分の姿も、この場所も、状況も何もかもが変わっていた。
私の頭はグチャグチャになった。
呆然となった私はなんとなく何かを握っていると気付いた。その握っている物に恐る恐る視線を向ける。
すると、そこには自身のデバイスがあった。
血で濡れた自分の手と一緒に
『きゃあ!!』
あまりの恐ろしさに思わずデバイスを投げ捨てた。
デバイスが床をスライドし、何かに当たって停止した。
それは紛れもなく人の足だった……
『ねえ……ママ……』
その声を聞いた瞬間に血の気が引いたのを感じた。
その声、言葉は今さっき聞いた声と似ていたから。
『アリ……シア……』
『ひどいよママ……こんなことするなんて……』
『ちが……これは……』
言い訳さえもままならず、言葉が上手くでてこない。
そんな私を無視してアリシアは縛られている少女へと歩み寄って行った。
『ママ……私の欲しいもの……覚えてる?』
言葉にできなかった。
なぜなら、アリシアが私の方を向いたとき、今までに見たことも無いほどに冷めた瞳が私を射抜いていた。
『私はママを楽させて、笑ってほしかった。』
アリシアがそう言った後、同じ声、だが口調は別の声が響いた。
『私も母さんに笑ってほしかった……』
吊り上げられたアリシアと同じ容姿の子が呟いた。
だが、私を母さんと呼ぶのは……
『フェイト……なの?』
この答えがまずかった。
直後に二人は息を合わせて小さく、だが聞こえるように呟いた。
『……私のママはこんなことはしない………』
『母さんはもっと笑ってくれていた……』
交互に喋る二人に私は後ずさる。
『それなのに……』
『こんなことするなんて……』
フェイトとアリシアが私に向かって同時に言った。
『『ヒドイヨ……』』
ヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨヒドイヨ酷い酷い酷いヨヒドイヨヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイヒドイ
ヒどいヨ
「あああああああぁぁぁ!!」
カリフと管理局が邂逅する日の深夜、プレシアは目覚めた。
「はぁっ……はぁっ……!」
荒い息使いと体を濡らす汗にまみれて。
そして、一瞬だれかにハッキングされたかのように無理矢理さっきの夢を思い出された。
「うっ……ごほ……!」
それは忘れることのないほどショッキングな映像。
思い出し、せき込むプレシアはここでようやく思い出した。
(アリシア……あなたの最後の我儘……やっと思い出した……)
体は不調なのに、頭の中は意外にも冷静でいられた。
それもそのはず、プレシアは前から……いや、全てが始まったときから気付いていたのだ……
(代わりなんていない……やっぱりアリシアが死んだ日から終わっていたのね……)
もう戻って来ない。
どれだけ知識を絞ろうが、力に頼ろうが、アリシアは帰ってこない。
それどころか、自分で勝手に暴走して状況を悪化させただけ。
(そのために私はアリシアを使ってフェイトを生み出した……)
アリシアの命を弄び、フェイトの命までも弄んだ。
本当は分かっていた。
アリシアの代わりはいない。だけどフェイトがいたことに。
そして知っていた。フェイトが自分をどれだけ想っていてくれているかを……
だが、私はそれを拒否した。
フェイトはもう一人のアリシアであり、別人、更に言えば自分の罪から生み出された存在である。
だからフェイトを嫌っていたのではないか? 自分の罪を……自分の醜さを表していると思ったから。
そして、その罪をフェイトになすりつけていたのではないか……フェイトの生まれた現実で私の罪の現実を拒否するために……
だが、ある日を境に私は逃げ道を失った。
フェイトたちと地球で外食しに行った日、一人の少年がきっかけとなった。
その少年は言った『この世に同じ物は生まれも、造れもしない』と……
(そこから、私は気付いた……気付いてしまった)
フェイトはアリシアではない。フェイトだと……ちゃんと心を持った一人の人間だと……
もしかしたら……アリシアが望んだ私への贈りものなのではないかと……
(アリシアの遺伝子の……脳の……心の記憶が造った形がフェイト……アリシアが望んだ妹……)
それが真実かは分からない。
だが、そうとしか考えられなくなってしまった。
(もっと……愛でるべきだった……)
そして、後悔した。
(私は私でアリシアの想いを踏みにじったのね……)
プレシアは涙を流し、口からうっすらと血を吐く。
涙と血はベッドのシーツに沁み込んでいく。
体の痛みがプレシアを蝕む。
だが、それ以上に心の痛みが上回り、胸の痛みを感じることはなかった。
「なにもかも……気付くのが遅すぎる……いつだってそう……」
プレシアは一人、涙で顔とベッドを濡らして一夜を過ごした。
そして、時間は戻り、海鳴の街中へと舞台は移る。
「……どうするかな?」
人ごみのない路地裏でカリフは頬を突いて悩んでいた。
理由はさっき会った管理局のこと。
今さっきまで敵対していた奴等がそう簡単に諦めるとは思えない。
お得意の魔法で追跡している可能性も否定できなかったからだ。
(このまま帰ってフェイトの場所気付かれるのはなんとかしたい……)
警戒はするに越したことはない。
自分は兎も角、今のフェイトは極端に弱っているため力押しは必然と分の悪い賭けになる。
ならば、さらにでかいエサで注意を引きつけるにかぎる。
(恐らく、オレを危険とみなし、警戒も監視の目も全てオレに来るだろうからな)
それならば、フェイトが復活するまでに時間は充分稼げる。
(……フェイトが大人しくしてればだけど……)
その結果に行き着いたとき、カリフは急に無性に腹がたってきた。
(くそっ! なんでこんなに苦労させられなきゃなんねえんだ!!)
今日一日でフェイトが倒れ、管理局が現れ、ジュエルシードも封印できず、胸糞悪い管理局の自己正義論を聞かされ、さらにはその管理局のおかげでこんなするはずもなかった苦労までさせられている。
今夜は確実に野宿決定だった。
「くそがっ!!」
カリフは近くにあったポリバケツを蹴って叩き割るが、一度起こった怒りはそう簡単には治まらない。
「あ〜……だれか殴りて〜……せめてクズの恐怖に歪む顔だけでいいからホント、マジで……」
独り言で危ないことを呟くカリフを見たら万人が避けていくだろう。
怒りに頭を抑えながらも場所を移動しようと立ち上がったときだった。
「邪魔なんじゃ!!」
「ん?」
突如、大通りから怒声が聞こえた。
カリフは興味本位で路地を抜けてその場を覗く。
「そんなところ歩くなボケェ!! クソガキィ! ワシに詫びの一つもないんかい!?」
「……すみません……ホンマに……」
なにやら、大のスーツを着た男が車イスに乗った少女を責め立てていた。
周りの者はそれを気の毒そうにみながら誰一人助けようとはしない。
それどころか見て見ぬフリするのもいる。
「ねえ、何あれ」
カリフは一つの可能性を胸に気弱そうな通行人の一人に聞いてみると、通行人はカリフに気付いて答えた。
「あ、あぁ……なんか、あの女の子が歩いていたら、ほら、今大人が持っているタバコが当たっちゃって……それで男のほうも転んで……」
そのことでカリフは少し考え、天を仰ぎ見た。
「………あれで我慢するか…」
カリフは人知れずにガッツポーズした。
アカン……ホンマにどないしよ……
なんでこんなことになってもうたんか……
「堂々と歩かれると邪魔なんねオマンは!! 隅にでもいっとけこの障害が!!」
「す……すみません……」
ウチもぶつかって転ばせたのは悪いとは思ってる。だけど、ここまで言わんでもエエんと思うんや……
「おーおーどないするんやコレ、ごっつ高かったんやで? このクリーニング代どないすんのや?」
それくらいなら時々送られる支援金でなんとかなる……
―――よく言うぜ。自分だってタバコ当てたくせに……
―――あの子可愛そう……親は何をしてるのかしら?
―――おい、だれか助けてやれよ
本当に辛いのは所々から聞こえてくる憐れみの声。
自分は今までも一人で生きてきたからそれなりに強いとはおもっとった。
だけど、今はそんな自分が哀れで仕方ない……結局はウチ一人じゃ何もできないと思い知らされてしまうから……
涙を堪えるあまり自分の顔がクシャクシャになるのが分かる。
神様はなんでウチを生んだんかな……
一人で生きていくことのできないウチをどうして……
もし、神様がいたなら絶対言うたる。
ウチなんか生まなければよかったのに……
このまま一人で生きていくくらいなら、友達ができん人生ならもう疲れるだけやん……
この時、私は初めて神様を呪いました。
だけど、その後に嫌なことを忘れさせる出来事が起きました。
「おい」
「あぁ?……どわ!!」
男の人を後ろから蹴って転ばせる男の子がいた。
だれも助けてくれない、そんな状況を壊してくれた。
私は固まるばかり。
「お前、目障りだ消えろ」
男の人に向かって乱暴な言葉を投げつける自分と同い年くらいの男の子。
黒い髪をなびかせ、地面に唾を吐く。
だけど、その男の子の瞳は乱暴な見かけとは裏腹に、とても光って綺麗に見えた。
これが、私、八神はやての物語の始まりでした。
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邂逅、天涯孤独の子と悪魔の子 | ||
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