魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 十五話
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注意ですが、前書きにストーリーの題名を書いているのでご了承ください。

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 とある別世界

 

 私は未だにジュエルシードの探索を続けてはいたが、ここもハズレだったみたい。

 

「フェイト、ダメだ。空ぶりみたいだ」

「そう……」

「やっぱり管理局に見つからないように探すなんて無茶だよ……」

 

 アルフは落胆するのも無理も無い。今、私たちは本格的に管理局に追われている。

 

 ジャマー結界が功を奏しているのか、捕まることは今のところない。

 

「元気出して。今度は別の所に行こう」

「うん……でもフェイト、もう無理はしないで?」

 

 アルフは心配症だと思うが、その原因を作ったのは自分だから本当に申し訳ないな……ごめんね、こんな主人で……

 

「大丈夫。もう休んだりご飯もたくさん食べたから」

「うん……でも、また体をこわすことがあったらまた部屋に閉じこめるからね!」

 

 口調を強くするアルフに苦笑いしてしまう。

 

 あの後、アルフに閉じこめられた私は観念してご飯を食べて、ゆっくりとベッドの上で眠りについた。

 

 色々と心配なことがあったのに、体は相当疲れていたのかすぐにぐっすりと眠りにつき、起きたのがついさっきのことだ。

 

 寝起きだというのに目が冴えわたっていた私はジュエルシード探しに行こうとしたけど、またアルフに止められてしまう。

 

 なんとか説得し、ちゃんと朝ご飯も食べるとのことで納得させてもらった。アルフも私の顔色を見て少しは安心してくれた。

 

 だけど、私たちには一つ、どうしても気がかりなことがある。

 

「それにしても……カリフ……どうしたのかな……」

 

 それはアルフが言った通り、カリフのことだった。

 

 あの時はボンヤリとしか覚えていないが、カリフが私たちを逃がしてくれたこと、私を心配して怒ってくれたのを覚えている。

 

「だ、大丈夫だよ。カリフは次元漂流者だから捕まりはしてもすぐに保護されるよ」

 

 アルフを安心させようとするが、その実、私も不安だった。

 

 もし、私の為に酷いことや辛いことされてるんだと思ってしまうと不安になってしまう。

 

 本当は、できるならもう一度会いたい。会って話したいことが山ほどある。

 

 だけど、それでも母さんの方が心配に思ってしまう自分がいた。

 

 そんな自分はとても嫌な人間だな、って思ってしまう。

 

「だから、私たちはできることをしよう? ね?」

「……そうだね……ここで頑張らないとカリフに申し訳ないからね」

「うん」

 

 そう、ここで止めてしまったら逃がしてくれたカリフに申し訳が立たない。

 

 今だけ、私は心を鬼にしてでもやり遂げよう。

 

「アルフ、次の目的地は?」

 

 母さんも……そしてカリフも今度は私が守って見せる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜、激戦があった公園は昨日の襲撃がまるで無かったかのように全てが元通りとなっていた。

 

 海鳴公園

 

 誰も起きているはずのない時間帯に公園の一角が淡く照らされる。

 

 未だに空が暗く、淡い光でも公園を照らすには充分だった。

 

 やがて、光が消えるとそこには一人の少年が佇んでいた。

 

 言うまでも無く、覇気を秘めさせた瞳で辺りを窺うのはカリフだ。

 

「この時期はまだこんなに暗いのか……ってかさむ……」

 

 気温は十度を下回っているのに、下はジーンズ、上はタンクトップの恰好で震えないだけでも大したものであるとしか言えない。

 

 とりあえず、プレシアからの小遣いを取り出し、すぐ近くの自販機で暖かいコーヒーを買う。

 

 ちなみに、未だにブラックは飲めず、甘いミルクが入ってないと飲めないというところが最近の悩みだったりもする。

 

 そんな中、ここに戻ってくる直前のプレシアとの会話を思い出し、忌々しそうに呟く。

 

「あの野郎……」

 

 白い息を吐きながら思い返す。

 

 

 

 

『カリフ、あの時の私との契約はまだ有効なのかしら?』

『あぁ、お前も風前の灯とはいえ、まだ生きてるから続けるつもりだ』

『そう……なら、それ、変更してもいいかしら?』

『変更?……内容による』

『そう、ならその口約束は変更して……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「このオレに鎖を付けた……ということか?」

 

 その時のことで未だに気分が晴れない。

 

 その際にネックレスとご馳走のことで上げ足を取られてしまい、初めてプレシアがドヤ顔を見せてきた時は本当に殴りたくなった。

 

 だが、ここで持ち前の精神力でイラつきを抑えて事無きを得た。

 

 そもそも言えば、カリフがイラつく点は上げ足を取られたことではなく、その時の約束の内容である。

 

 そして、そんな約束を結んでしまった自分の律儀さに一番イラついていた。

 

 もうそろそろいい加減にしてくれ自分……と思うことが最近になって増えた。

 

 そう思いながらミルクコーヒー缶を片手で開ける。プシュッと缶の空気が抜けた快音が公園の一角に澄み渡る。

 

「は〜……朝のコーヒーはやっぱり最強だ……」

 

 暖かいミルクコーヒが冷えた喉を伝い、腹の中から体を温める。

 

 一息いれると白い息がほわっと漏れて空気の中に溶けていく。

 

 今、この時だけがカリフの癒しの時間となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなカリフの姿を監視する影さえなければ、とても微笑ましかったろうに……

 

(クロノ執務官。例の少年を発見、及び包囲も完了しました)

(ありがとうございます。くれぐれも慎重にお願いします。彼はどうも油断ができませんから)

 

 男の頭の中で少し幼い声でありながら、責任感の籠った声が静かに響く。

 

 声の主はもちろん、昨日カリフにやられたクロノ・ハラオウン

 

 男もそれに応じ、念じて心で会話する。

 

(これは付け加えておきますが、くれぐれも手荒な真似はして彼の反感を買わぬようお願いします)

(ですが提督……相手はただの子供ですが……)

(今の時点では彼の戦力は未知数です。彼が油断したところ、あわよくばフェイト・テスタロッサと接触した時をねらって捕縛をお願いします)

 

 クロノとの念話に入ってきたアースラの最高責任者であるリンディ・ハラオウンの命令に男は疑問を持っていた。

 

 今、見張っているのは僅か九歳だと思われる黒髪の少年

 

 その子供からは魔力のまの字も見当たらない。

 

 一体なんでこんな時間に起こされるのか、力づくで捕まえればと思いながらもカリフの監視を再開する。

 

「……ついてねえ」

 

 不満を垂らしながら監視していると、ここで初めて少年が新しいアクションに入った。

 

 さっきまで持っていたコーヒーの缶を器用に足だけでリフティングをしていた。

 

 もうコーヒーを飲み干し、暇を潰していると予測した。

 

 しばらくリフティングを続けていると、カリフは足の甲で缶を受け止める。

 

 リフティングはもう終わったのか、と男は呑気にそう思っていた。

 

 そして、カリフはそんな男の予想を敢えて裏切るかのようにもう一度足で乗せていた缶を真上に飛ばした。

 

 缶は回転し、カリフの前へ落ちてくる。

 

 カリフは回し蹴りの態勢を構え、落ちてくる缶を待つ。

 

 やがて、缶がカリフの足元近くにまで落ちてきた時だった。

 

 カリフの放たれた蹴りが缶を直撃して缶は勢い良く飛んで行った。

 

 缶は弧を描きながら木々の合間をすり抜けていく。

 

 そんな珍しいともノーコンとも言える軌道を描く缶に気を取られていた男は缶が自分の真横を通り過ぎたのを確認して再び監視しようとした。

 

 その時、異変が起こった。

 

 そのまま缶はさらに弧を描き、ついにはブーメランのように戻ってきたのだ。

 

 それも、その男の背後に回り込むように。

 

「ふ〜……ちょっくら一休みっと……」

 

 男はそれに気付かず、腰を下ろしたときだった。

 

 背後から迫っていた缶が木に直撃し、轟音を轟かせた。

 

「どわ!!」

 

 男はすぐ近くで響いた轟音に驚き、反射的にその場から遠ざかってデバイスを構える。

 

 そして、あまりに信じられない光景に緊張感が一瞬削がれた。

 

「あ、空き缶?」

 

 そこには空き缶が一つあっただけ。

 

 そう聞けばなんらおかしな所も無いし、むしろ、何を些細な……と思う人がいるだろう。

 

 だが、それはあまりに滑稽な光景だった。

 

 コーヒーのラベルが貼られた空き缶が一本の木に“突き刺さっていた”のだから

 

「なんだよこりゃ……なんかのジョークかよ?」

 

 そう呟いてデバイスをしまい、そのコーヒー缶に少しずつ近づきながら何の変哲もない缶に手を伸ばし、缶に触れた瞬間

 

 耳に声が響いた

 

―――運が良かったなぁ?……ハンターさんよぉ

 

「はっ!? むぐっ……!」

 

 あまりに冷たく、深淵から響くような呪詛に男は一瞬で振りかえって冷や汗を滝のように流しながらデバイスを起動させようとした時、視界が強い衝撃を受けると同時に暗くなった。

 

「まぁ、オレという獲物に油断し、挙句に気付かれたあんたはハンターとしては失格の部類だがなぁ」

 

 缶が突き刺さった木の向かい側から両手を伸ばし、男の両目と口をがっしりと押さえるカリフがいた。

 

 口を綺麗な三日月形に模って愉快に笑いながら

 

「オレがここに来てすぐにヤマ張ってやがったな……その鼻の良さは賞賛くらい与えても文句はあるまい。おめでとう、駄犬さんよぉ。ハイエナから昇華したのだ、嬉しいだろう?」

「んーー!! んーーーーーーーー!!」

 

 カリフの皮肉も耳に入らず、束縛から逃れようともがくも子供とは思えぬ腕力と皮膚の堅さに逃れるどころか一ミリさえ動かすことも叶わない。

 

 逆に呼吸ができなくなり、酸欠寸前にまで追い詰められていた。

 

「まあ安心しろ。殺すのは見逃してもいい。どうせ上から何も教えられていないのだろう?」

 

 カリフは多少憐れんだように男の耳に語りかけた後、男を束縛から解放させた。

 

「ん……ぶはぁ!」

 

 男が足りなくなった酸素を取り入れた時、カリフは男の胸に片手を当てて力を入れた。

 

「がっ!」

 

 苦しく唾と一緒に今さっき取り込んだ空気までもが吐き出されて男はその場に倒れる。

 

「く……か……」

 

 男は白目を剥きながらビクンビクンと体を痙攣させている。

 

「ほ〜……これがグルメが盛んな星で極めた者だけが使えるノッキングという訳か……これは便利だな……教えてもらって正解だったな」

 

 初めて使ったのか倒れている男を感心しながら見下ろし、さっきのノッキングのおさらいをしていた時だった。

 

「動くな」

 

 後ろから有無を言わせないような上から口調の声が聞こえてきた。

 

「あれま、昨日の釘パンチを喰らってもう回復したか……手加減しすぎたかな……」

 

 それに動じることもなく、聞き覚えのある声に素っ気なく答える。

 

「釘……なんだ?」

「こんなこともすぐに忘れるのかトリ頭め……昨日てめえに喰わせてやった十発のパンチだよ」

「……この際、そんなことはもういい」

 

 カリフの態度にデバイスをカリフの頭に突きつけているクロノの表情が僅かに歪んだ。すぐに平静を装いはしたけど。

 

「今の君には執務官に対する暴行罪、及び公務執行妨害、並んで今から局員に対する殺人未遂が適応される」

「最初から殺そうとしてねえよ。そいつにはノッキングしただけだ。数時間すればまた元気になるだろうよ」

「たとえそうだとしても君には話してもらうことがある。抵抗すれば罪は重くなるぞ?」

 

 そう言って合図を送ると、どこからともなく局員が十数名現れてカリフの周りを囲んでデバイスを構える。

 

「ふん、ガキ一人に必死だな」

「不必要な発言は慎んでもらおう」

 

 そんな光景にカリフは鼻で笑っていると、すぐ目の前にスクリーンが現れた。

 

 それも昨日見た顔であった。

 

『朝早くから申し訳ございません。ですが、事態は一刻を争うので不本意ながらこんな形で……』

「御託はいい。要はフェイトのことを吐けと言いたいのだろうが……残念だな。オレは約束だけは守るんでね、喋りたくないところは喋らない守秘義務という物があるんですわ、これが」

「貴様っ!」

『止めなさい。クロノ』

「母さ……艦長……」

 

 クロノはデバイスを持つ手に力が入るが、それもリンディによって窘められる。

 

 クロノも渋々といった様子でいつも通りに戻る。

 

『ごめんなさいね。息子は少し気が短くて……』

「そんなことはどうでもいい。それよりもてめえ等、一体何の用だ? 朝っぱらからくそウゼェ」

『そうね……貴重な時間をとるのもなんだし、一度アースラに来てみないかしら?』

 

 後ろで怒気を膨らませているクロノや艦長に対する暴言に内心ビクビクする周りの武装隊も無視して耳をほじっているカリフにリンディは出鼻を挫かれている。

 

 昨日の様子から抵抗するだろう踏んでいたリンディはそれを口実に連行する予定だったのだが、どうも今の様子からはそんな動きは微塵も感じられない。

 

 とは言っても、昨日のことで連行することも可能なのだが……

 

「いいだろう。文字通りお前等の土俵で、お前等のテリトリーで、お前等の有利な場所に行ってもいいだろう」

『……感謝します』

 

 カリフのあっさりと下す申し出がどうも腑に落ちなかった。

 

 カリフの毒のある言葉にではなく。

 

 本来ならそれが最終目的だから労せずに思い通りになったことを喜ぶ所なのだ。

 

「なんなら手くらいは拘束しても構わんぞ? どっちにしろ、用が済んだら出ていくとそっちが保証してくれるのならな」

 

 だが、どうしても不安が拭えない。

 

 淡々と自身を追い詰める行動になんだか、自分たちの魂胆が見透かされていると思ってしまう。

 

 どっちにしろ、こっちから提案しようとしたことを相手が先に言ってきたのだ。

 

『じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます』

「おっと、オレにも都合があるのでな、帰りたくなったら帰らせてもらう」

『で、ですが……』

「場所の移動、拘束、これだけ譲渡してやっているのだ。これくらいは認めさせてもらうぞ」

『……了解しました』

 

 先手を取られた敗北感は拭えない。

 

 とはいえ、未だにこっちの有利は動かない。なら、それまではこっちのルールに従ってもらう。

 

 クロノが手錠をかけている様子を見ながらリンディは密かにそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこともあり、カリフは武装隊に囲まれながらも手錠を掛けられてアースラへと連行された。

 

 それはまるで、見世物のようであり、自分で歩く様は周りの局員に衝撃を与えた。

 

 連行されるカリフに憐れみの視線を向けてくる。

 

 尤も、それはカリフ自身からの提案であったが。

 

「触るな」

 

 この一言で全て片付いた。

 

 そうこうしている内にカリフは一回り大きい部屋に辿り着いた。

 

「艦長。連れてきました」

「ええ、ご苦労様クロノ。そして初めまして……でいいかしら? カリフくん」

 

 そして、カリフに話しかけてきた緑髪のリンディは敬礼するクロノを労い、カリフに人が良さそうに話しかけてきた。

 

 そんな様子にカリフは鼻で笑い、リンディをけしかける。

 

「白々しい社交辞令はいい。さっさと用件だけ言え。こっちも暇じゃないんだ」

「おい! 口を慎め!」

 

 カリフの言葉にクロノは噛みつくも、リンディに窘められて静かになったところで話を続ける。

 

「率直に言います。あなたとフェイトさんとの関係は? 何故ジュエルシードを集めるのか……そして……」

 

 リンディは一呼吸入れてカリフを鋭い目で射抜くように見つめた。

 

「あなたが何者であるか……この三点だけです」

 

 このリンディの問いにカリフは内心で舌打ちした。

 

(だけ……ときたか……最後のは兎も角、他のは明らかに確信だろうが……)

 

 リンディを狡猾な女狐だと思いながらもカリフは昨晩でのプレシアとの会話を思い出す。

 

 近い内、管理局と出くわすことになった時の事柄を思い出す。

 

(だが……)

 

 これをやれば、フェイトの罪は間違いなく軽くなり、プレシアへと罪が移る。

 

 死にゆく自分には相応しいと自嘲しながら……

 

「……いいだろう……なら、オレとフェイトとの関係だが……」

 

 まず一つ……偽らないこと。

 

「只の協力者さ。オレは色々あってあの世界に飛ばされたところを助けられた。ジュエルシード集めもその恩を返すためだ」

「ちょ、ちょっと待て!! 飛ばされた、とはどういう意味だ!!」

 

 カリフの言葉にその場に立ち会っていた全員が驚き、クロノが問い詰めると何気も無く答えた。

 

「オレはあの世界の住人ではない、飛ばされた者、次元漂流者……というらしい」

 

 あっけらかんと答えるさまに流石のクロノも唖然となり、その傍で話を聞いていたエイミィも素直に驚いた。

 

「次元漂流者って……初めて見たな〜……」

 

 それもそのはず、次元漂流者と立ち会うのは間違いなくアースラの中では誰も経験したことがない。

 

 そもそも、魔法知識の無い世界で次元が歪むほどの現象が起こるのは人為的か、或いは天文学的数値の事故としか言いようがない。

 

 故に、過去に何度かそういった事例はありはしたが、件数は一桁を超すことは無い。

 

「まあ、なんでこんなことになったのかはオレも分かんねえ」

「そう……」

 

 溜息を吐くカリフにリンディは悲哀を込めた視線を送る。

 

(こんなに幼いのに、親に甘えたい時期なのにこんな所に放り出されたのね……)

 

 保護欲だろうか、リンディはさっきまで目の前の子どもに対して出し抜くとか考えていた自分を叱責した。

 

 そんなリンディを別にカリフはさっきのことで自分をこんな所に送り込んだ悟空のことを思い出していた。

 

(あいつの考えなんて想像できるわけねえだろ……っつーかこんなことになってるのもあいつの所為だ。くそ……)

 

 今はいない悟空がこの時だけは笑い声を上げている様子が容易にできた。

 

(もう諦めたけど……)

 

 いつも憎むわけでなく、むしろ悟空に憧れている部分もあるカリフにとってはとても複雑な気分だった。

 

「ど、どうした?」

「いや、なんか昔を思い出して……」

「そうか……急に何か悟ったような顔してたぞ……」

 

 クロノまでもが心配するような顔をしてたらしかったので、そろそろ何やら物思いにふけっているリンディに話を進ませてもらう。

 

「それで、続きなんだが……」

「あ、え、えぇそうね……続けましょ?」

「その方が助かる。それに……」

 

 カリフは入口の方を見て言った。

 

「聞くなら堂々と出てきたらどうだ? 高町なのはとネズミ!」

「え?」

「あら?」

「にゃ!?」

「は、はい!」

 

 カリフの一言にクロノとリンディが入口に視線を向けるとそこから慌てた様子でなのはともう一人、知らない少年が入ってきた。

 

(姿形が変わっても気は同じか……あれが昨日のネズミか……便利だな魔法って)

 

 呑気にそう思いながら人型となったユーノを見つめていると、ユーノはそれに気付いて逃げるように視線を逸らした。

 

 昨日おどかしすぎたようだったが、そんなことは気にせずにしながら視線を戻すとすぐ近くになのはの姿が写った。

 

「あの、カリフくんって……次元漂流者っていうけど、どういうこと?」

「ああ、さっきまでコソコソ聞いていたなら知っているだろう?」

「あう〜……ごめんなさい……」

 

 なのはがシュンとしながら謝罪するのを見届けてカリフもあまり気にしては無いように返した。

 

「まあ、簡単に言えば元々住んでいた世界から弾かれた流れ者……ってわけだ」

「えっと、じゃあ私が住んでいるところに知り合いとかは……」

「いるわけないだろう」

 

 なのはは「そっか……」と呟き、心配そうにカリフを見つめる。

 

 一人でいる時の寂しさを知っているから、孤独の切なさを知っているから。

 

 なのはにとって、目の前の少年が体験している親も知り合いもいない世界に放り出される孤独など到底耐えられるものではなかった。

 

 なのはは次にどう話したらいいか分からなくなってしまった。

 

 そんな感じで気まずい空気が部屋を満たしつつあった。

 

 尤も、大元のカリフは欠伸などして悲壮感どころか緊張感さえも無いようにも思えた。

 

「ああそうだ、高町なのは」

「え、あ……なのはでいいよ? どうしたの? クロノくん」

 

 相変わらず空気の読めないクロノは沈んでいたなのはを呼ぶと、なのははそれに気付き、クロノに対して笑顔で返した。

 

「!!……昨日、きみとユーノ・スクライアが承諾してくれた件なんだけど、本当にいいのか?」

「……ええ、それで構わないのですが……それと、僕のこともユーノで構いません」

 

 急に顔を赤くして照れ隠しながら視線を外すクロノにユーノは怪訝そうにしながらジト目で見る。

 

「?」

 

 そんな二人の姿をなのはは首を傾げるだけだった。

 

「あらあら、クロノくんってばお熱いこって」

「五月蠅いエイミィ!! 君はジュエルシードを探せ!!」

「ちぇー……クロノくんのいけず〜……あ……」

 

 クロノに制されてエイミィは気付いたようにカリフにからかうように聞いてくる。

 

「もしかして〜……カリフくんってフェイトちゃんのことが好きだから手伝って……」

「あ”?」

「いえ、すいません。なんでもないです」

 

 カリフの視線がギョロリとエイミィを突き刺し、エイミィも本能的に一秒とも待たずに真面目に謝った。

 

 だが、カリフは止まらなかった。

 

「そういった邪な心でしか人を判断できないとはなんと下劣な……今の内に言っておくが、オレはそういったことや下品な冗談が嫌いだ。次に言おうものなら消すぞ? 女」

「……あ、あはははは……すみません」

「今回はきみが悪い」

 

 クロノにも見捨てられたエイミィはうなだれてコンソールに向き直る。

 

 暗いオーラを発する彼女の後ろ姿になのはは苦笑する。

 

 クロノと同じように軽いジョークのジャブを繰り出したのに、カウンターとして罵倒のコークスクリューカウンターをまともに喰らったくらいの敗北感があった。

 

「そ、それじゃあ話を続けましょうか?」

「ああ……あ、それともう一つ」

「なんだ? 何かあるのか?」

 

 カリフは繋がれている両手を上げると、クロノはカリフの積極的な発言を珍しく見ているとここでカリフは全員の予想の斜め上を行く証言をした。

 

「ちなみに、フェイトはジュエルシードの真意は知らずに集めさせられているだけだ。たとえ捕まえたとしても事件は終わらない……とだけは言っておこう」

「! ちょ、ちょっと待って! それが本当だとしたら……!」

「ああ、そこからはあんたも、そして執務官殿も高町もここのクルー全員でも真実に行き着くのは簡単だ……」

 

 カリフはクックと不気味に笑いながら真実を告げた。

 

「この事件には黒幕がいる」

「「「「「!!」」」」」

 

 案の定、全員が驚愕する中でクロノはカリフに詰め寄ってきた。

 

「それじゃあ君はそいつの名を……!」

「ああ、目的までは教えてはもらえなかったし、もうそいつとの公約の関係上お前等に教えても問題は無い」

 

 プレシアとのもう一つの約束

 

 それは……

 

(プレシアよぉ……これでフェイトは救われてあんたは悔いはねえんだろうけどな……フェイトが地獄見るぜ?)

 

 内心で、惜しい人を亡くすことへの哀愁がカリフの心の中で蠢くまま彼はそんなことを表面には出さずに言った。

 

「全ての始まりにして元凶はプレシア・テスタロッサ……フェイトを体罰と母の権利とやらで鎖に繋いでいる魔女さ」

「「「!!」」」

 

 もう一つの約束……プレシア・テスタロッサの存在を口外し、捜査の目を集中させる。

 

(やってやったぜ……こんな汚れ役をオレに押し付けやがって……てめえが死んでも恨んでやっからな……)

 

 驚愕する魔法文明出身組を尻目に舌打ちしながらカリフはこんな手間をかけさせたプレシアに恨み言を心の中で吐く。

 

 本来なら何らかの形でプレシア本人が介入すればいいのだが、今のプレシアでは魔法はおろか歩くことさえも命を削りかねない。

 

 来たるべき審判の日に向けての準備のためにはカリフの協力がどうしても必要だった。

 

 それでもカリフが彼女に肩入れするのは、彼がプレシアの心意気を認めているからに他ならない。

 

 カリフはどんな形であれ、プレシアのように自分の目的のために信念を貫き、悔いの無いような人生に敬意を表してのことだった。

 

(これから死にゆくお前へのサービスだ。しっかりとその恩恵を噛みしめて死にな)

 

 カリフはこれで自分の役目を終え、そろそろアースラから出ようと目の前で会議をしている面子に話しかけようとした時

 

 事態が動いた。

 

『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』

「「「「「「!!」」」」」」

 

 突然の警報に流石のカリフも目を見開かせ、急に慌ただしくなる管制室を見渡す。

 

 局員はすぐに自分の持ち場に付き、リンディとクロノとリンディ、そしてその動きに釣られてなのはとユーノが巨大モニターの前に立つ。

 

「どうしたのですか!?」

「はっ! 突如として座標S23.4、E18.6度の地点の海上から膨大な魔力反応を検出! 魔力パターンからしてジュエルシードと判明!……そんな!」

「どうしたのアレックス!!」

「さらに、この魔力量から6,7個のジュエルシードが同時に反応したと思われ、さらに……別の魔力がそれぞれ二つあります!!」

「!!」

 

 あらかじめ気を探っていたカリフはそこから感じた気を見つけ、把握して驚愕した。

 

 昨日あれほど言って聞かせたというのに……

 

「その反応とは!?」

「昨日、クロノ執務官と共にいた金髪の魔道師……及びその使い魔と思われます!」

 

 本気で死にたいのか!? フェイト!!

 

「そんな……!! フェイトちゃん……!」

 

 巨大スクリーンに映し出されるのは会うたびにぶつかり合い、近付きたいとさえ思っている黒いバリアジャケットの綺麗な子がいた。

 

 だが、そこで見たのはジュエルシードによって荒れ狂う津波と雷と竜巻に嬲られ、叩き落とされる一方的な姿だった。

 

「なにやってるのあの子たち!」

 

 エイミィが驚愕のままに叫ぶのも無理は無い。機器が示す魔力量もとても幼い少女には多すぎたのだから。

 

 明らかな力の酷使にクルーも唖然とする。

 

「なんとも呆れた無茶をする子だわ!」

「無謀ですね。間違いなく自滅します」

 

 あまりの行動に辛そうに見つめるリンディまでならまだよかった。

 

 だが、クロノの相手を馬鹿にしているとも取れる呆れにカリフのこめかみが僅かに動く。

 

 その間にもフェイトとアルフは窮地に立たされていた。

 

「あの! 私急いで現場に!」

 

 スクリーンを見ていたなのはは我に帰り、クロノとリンディに告げて胸のレイジングハートを起動させようとするが、それはクロノの無情な一言に止められた。

 

「その必要はない。放っておけば自滅する」

「!!」

 

 その一言になのはは止まり、クロノを信じられないといった様子で見つめた。

 

「仮に自滅しなかったとしても、弱った所を叩けばいい」

「そ、そんな……」

 

 なのははクロノからの予想さえしていない、非情な発言に呆然とし、リンディに視線を向けるも彼女も同じだった。

 

「私たち組織は常に最善の選択をしなければならない。辛いかもしれないけどこれが現実よ」

「で、でも……」

 

 リンディにも期待を裏切られるも、正論だったがゆえに何も言いだせない。

 

 なのはは制服を握りしめ、行き場の無い感情を堪えるしかなかった。

 

 艦長の答えが全て

 

 艦長こそがルールであり、だれもルールには逆らえない。

 

 ここではいくら力が強くても無力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人を除いては

 

「おい、ユーノと言ったか?」

 

 カリフは視線だけ向けて呼びかけるとユーノも驚き半分、怖さ半分と言った様子で応じた。

 

「あ、はい……なんでしょう?」

「オレはそろそろ帰る。お前、ここからオレを地上に送れるか?」

 

 そんな会話を耳にしたクロノとリンディはカリフに厳しい視線を向けてきた。

 

「悪いが、それは後にしてくれないか? 今はたてこんでいるんだ」

「知るか。オレは“今”帰りたいんだ。さっさと準備しろ」

「それはなりません。今の状態で外に出ることは危険過ぎます」

「……」

 

 自分の意見を真っ先に排除し、自分たちの意見だけを押し付けるクロノとリンディにカリフは遂には何も言わなくなって静まりこんでいた。

 

「それに、この後、フェイトさんとあなたの発言内容の確認を……」

 

 リンディがここまで言った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……さっきから人が下手に出てりゃあガタガタ抜かしやがって……」

 

 ここでカリフの臨界点を越えた。

 

「なんだと! 艦長に向かってなんて口を……!」

 

 ここが決定的だった。

 

 カリフの額から青筋が一瞬で浮かび上がった。

 

「粋がってんじゃねえぞ!! このクズどもがっ!! 今すぐブチ殺されてえのかあ!?」

『『『!!』』』

 

 空気さえも揺るがすカリフの怒号がアースラの管制室を揺るがし、その鬼の剣幕にだれもがすくみ上がった。

 

 なのはとユーノに至っては完全に腰を抜かしている。

 

 それでも、カリフの怒りは収まらない。

 

「そっちの合意の元で情報を与えてやったのだ、代わりに好きな時間に帰らせるってことでよぉ……だけど何? ここに来て知りませんだぁ?……大概にしろよコラ」

「そ、そうは言ってないだろ!? 今はどんな状況か分かって……!」

「黙れ!! こっちは散々妥協したやったんだ!! だが、その結果がこれか!? 大した正義感だなぁ? 綺麗過ぎて今すぐ殺してえなぁ!」

「で、ですが……」

 

 執務官としての意地でクロノと、艦長としての責任感でリンディは奮い立ちながらも必死に弁解しようとするが、カリフはここで思い出したように今まで言いたかったことを口にする。

 

「そもそも、てめえ等に権利を語る資格などないんだよ!!」

「なに!?」

「分からないか? 今までフェイトとなのははてめえ等の代わりにジュエルシードを封印してきたんだ……分かるか? 今までオレたちはナメクジよりも動きの遅い自称魔法のエキスパート集団の尻ぬぐいをしてきたんだ。なら、多少の命令判断くらいは見逃してもらう……見逃してもらうぞ!!」

「くっ……!」

「……」

 

 カリフの言うことも尤もである。

 

 今回の件で一番危険だったのはなのは、ユーノ、フェイト、アルフであり、この世界の街の住人であったのだから。

 

 そんな状況で一番力のある管理局が遅れたという事実が二人を追い詰めていた。

 

 そして、カリフは特大級の爆弾を投下した。

 

 船内放送が流れているとも知らずに。

 

「それでも、要請が通らないと判断された場合……」

 

 この後のカリフの発言に

 

「この中から最低一人を選び、オレが直々に殺す」

 

 船内が凍りついたのだった。

 

「き、君は……自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

「もちろんだ。こんな状況でハッタリかます奴がいると思うのか?」

「……!!」

 

 カリフの冗談とは思えない発言にクロノが目の前の少年に戦慄を覚える。

 

 昨日実力を体験し、間近で感じたばかりだから分かる。

 

 目の前の少年はいつでも自分たちをどうとでもできる力を持ち、目的のためならなんでもやるだろう。

 

 それがたとえ殺人でも……

 

「く、狂ってる……」

 

 クロノは本心からそう口にした。

 

 そんなことを言われてもカリフが動じるわけではないのだが……

 

「無駄な議論はここで終わりだ。これが最終通告だ……ここからさっさと出せ」

「……」

「ここまで言ってまだ分からないか……なら仕方あるまいな」

 

 黙りこむリンディに痺れを切らしたカリフは突然姿をブレさせるほどの速さで後ろにいた武装隊のデバイスを後ろ飛び回し蹴りで弾き飛ばし、着地と共に腹に蹴りを入れて気絶させる。

 

 そして、そこからできた穴から包囲を抜けだし、ユーノとなのはの前へと躍り出る。

 

「「!!」」

「おい、ちょっとツラかせ」

 

 あっという間に目の前にまでやってきたカリフに二人は思わず後ずさって脅える。

 

「この!」

 

 背後から包囲していた局員の一人がカリフにデバイスを向けて魔力弾をぶつけようとする。

 

 その距離およそ三メートル

 

「ふん!」

 

 そんな状況にカリフは振り返りもせずに局員に背中を見せたまま突進し、一瞬で間合いを詰められる。

 

「なっ!?」

 

 考えられないような態勢での突進に完全に虚を突かれて反応もできなくなった局員にカリフは呆れるように洩らした。

 

「不意打ちまではまだ良かったのだが……」

 

 そして、局員に振り向いたと思ったら、両方の強靭な足で局員の首に絡みついた後、バク転の要領で上体をのけ反らせる。

 

「単体で来るとは芸が無さ過ぎる」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 カリフの足に絡みつかれた局員は成す術もなく宙に浮かされ、抵抗もできないまま弧を描いて背中を地面に叩きつけられた。

 

「がふ!!」

 

 局員の苦しい声と共にカリフは局員から退き、またしても姿が一瞬消えるほどのスピードでなのはたちの近くに現れる。

 

 そんな光景をリンディを始めとしたクルー全員は信じることができなかった。

 

 年端もいかない幼い少年が軽々と武装隊を蹴散らしていく。

 

 今のスピードもまともに反応できた者はこの場にはいなかった。

 

 気付けば一人倒れ、逃げ得る事も驚く暇も与えないまま包囲網を脱出してのけた手腕を信じることができなかった。

 

(最初から只者じゃないと思っていたけど……なんなのこの子!?)

 

 リンディでさえも長年任務に従事してきたが、ここまで強く、冷酷な子供は初めてだった。

 

 彼女の心の中からカリフに対する恐怖がこの時初めて大きくなったと感じた。

 

(こんな子が存在するなんて……!)

 

 何も言えない、何もできないリンディの様子を見ていたカリフは満足そうに言った。

 

「これがオレとてめえ等との差、越えられない壁だ」

 

 そう言いながらなのはとユーノの背後に回り込んで小さく呟いた。

 

 その言葉に動揺する局員が増えていく中、カリフは挑発するように続けた。

 

「おら、どうした? 来いよ。来ねえとオレを目の前で逃がすことになるぞ?」

「なんて卑怯な……!!」

「違うな。そっちから公約を破ってきやがったんだ。なら、オレもこれくらいはしねえと互いにフェアじゃねえだろ?」

「くっ……!」

 

 ケラケラと笑うカリフにクロノは更なる怒りを燃やし、今まで静観していたリンディは静かに、だが、唐突に椅子から立ち上がってリンディが聞いてきた。

 

「あなたは……こんなことして一体なんの意味があるっていうの?」

 

 もはや、恐怖さえ通り越して怒りさえ覚えてくる激情を抑えながら、目の前の少年の威圧にも負けんと仁王立ちする。

 

 それに対し、カリフはさっきまでのにやけ顔を止め、真摯な表情で、真っすぐで綺麗な目で答えた。

 

「それがあいつとの約束だ」

 

 たったそれだけ。たったそれだけのことで彼は罪を被ろうというのだ。

 

 普通の人にとってはとても些細で、とても愚かしくて、よても尊い理由だった。

 

 初めて見るカリフの覚悟にリンディは険しい表情を一変させ、同時に怒気が失せ、唖然としてカリフを見つめる。

 

「そ、そんなことでこんなことを……」

 

 クロノも理解に苦しむように唖然としていたが、リンディは続けて聞いた。

 

「それであなたに何があるというの? それで、一体なんの得が……」

「分からないか? これはもう徳とかそういう話じゃない……

 

 

 

 

 

 

 

オレがオレであるためだ」

 

 この言葉でリンディはやっと理解した。

 

 彼は最初からルールとか、法とかで縛られるような存在じゃなかった。

 

 そんな彼にルール云々で縛りつけようとしていた自分たちが勝てる道理などなかったのだ。

 

(私たちはここで負けたんじゃない……最初から負けていたのね……)

 

 稚拙で、楽観的な自分に自嘲しながら彼女は周りで構えていたクロノと武装隊に手を下げる素振りを見せる。

 

「クロノ、それに武装隊の皆さんも武器を下ろしても結構です」

「母さ……艦長!?」

「ここで止めてももう止まりそうにないもの……ただ、なのはさんたちは……」

「安心しろ。こいつ等は戦のいの字も知らん奴等だ。そう言う奴等を巻き込むのはオレの道理に反するからな、すぐに解放してやる」

「……その言葉、信じていいのですね?」

「それはそっちの態度次第だ」

 

 カリフはそうとだけ言うと、まるでもう勝ち誇ったかのように颯爽とゲートの中に入って行った。

 

「おい、さっさと転送しろ。そうしたら昨日の邪魔は不問にしてやる」

「あ、あの……まさか僕も……」

「なんだ?」

「なんでもありません……」

「あ、あははははは……」

 

 ユーノもカリフのいい笑顔に逆らえずにあっさりと服従し、なのははそんな光景に苦笑するのであった。

 

 そして、転送の魔法陣がなのはたちを包む時、カリフは思い出すように言った。

 

「そう言えば三つ目の質問にまだ答えてなかったな」

「え、えぇ……」

 

 曖昧なリンディの返しにカリフはなのはたちを抱えたまま不敵に笑って答えた。

 

「戦に生き、戦に死ぬ戦闘民族さ」

 

 それを期にカリフたちはアースラから光と共に姿を消した。

 

 それによって緊張が解かれた管制室で、リンディは椅子に倒れ込むように座り、疲れたように呟いた。

 

「あんな子が存在したなんて……」

 

 管制室に、彼と立ち会っていた全員が思っていたことを代弁したのだった。

 

 彼の底知れない“何か”に身を震わせるのだった。

 

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