IS〈インフィニット・ストラトス〉 G-soul
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「・・・・・そうか。そっちはそっちで上手くやれたみたいだな」

 

『ああ。ケーキ作成はいい具合に進んだよ』

 

夜、寝る準備を終えた俺は自分の部屋でIS学園にいる瑛斗と電話をしていた。

 

五反田食堂に行ってから、マドカのことを五反田一家に話すと、全員快くマドカを受け入れてくれた。

 

弾には『分からないことがあったらこの兄の先輩である俺に聞け!』と言われた。

 

蘭は・・・、まあ、マドカの顔を見て数秒凍りついてたけど、その後すぐに『大丈夫です!』と笑ってみせて、

マドカとおしゃべりをしてすっかり仲良くなっていた。

 

『それで、マドカは今どうしてるんだ?』

 

「寝てるよ。千冬姉と一緒に」

 

マドカがそうしたいと千冬姉にねだったんだ。

 

『甘えん坊だな』

 

千冬姉は苦笑しながらもそう言って嬉しそうに頷いてた。

 

「すっかり織斑家の一員だよ」

 

『はは。そいつは何よりだ』

 

瑛斗が電話越しに笑っていた。

 

「それにしても、今日はごめんな。俺がやるはずだったケーキ作りやらせちまって」

 

少し遅くなったが俺は生徒会の仕事をすっぽかしてしまったことを謝る。

 

『いんだよいんだよ。気にすんな。シャルも手伝ってくれたからそんなに困ることもなかったしよ』

 

「シャルロットも手伝ってくれたのか。アイツにも『ありがとう』って言っておいてくれ」

 

『あいよ。アイツも『一夏がお兄ちゃんを頑張るんだもの。僕も頑張るよ』って結構ノリノリで手伝ってくれたよ』

 

「いいやつだよな。シャルロットは・・・・・」

 

『ああ・・・・・なあ、一夏よ』

 

「うん?」

 

急に瑛斗の声が静かなものになった。

 

『・・・・・いや、なんでもね。兄ちゃん頑張れよ?』

 

「? あ、ああ」

 

何か言いかけてたけど、なんだったんだろう?

 

『じゃあな・・・・・っとと! 明日はちゃんと来いよ? 生徒会メンバー総出でデコレーションするって楯無さんが

言ってたから』

 

「おう。わかった」

 

『じゃ、おやすみ』

 

「ああ、おやすみ」

 

そして俺は電話を切る。

 

「・・・・・ふぅ」

 

長く息を吐き、携帯を机に置いてベッドに大の字で仰向けに寝転ぶ。

 

「『お兄ちゃん』・・・・・か」

 

その言葉が、俺はくすぐったかった。

 

家族は千冬姉しかいなかったのに、突然、妹ができたんだ。

 

嬉しいような、緊張してしまうような、どう言ったらいいか分からない気持ち。

 

だけど、嫌いじゃない。

 

「・・・・・もしかしたら、千冬姉もこんな気持ちになったことがあるのかな・・・・・・・まさかな」

 

俺は笑って、寝返りをうつ。

 

「おやすみ。千冬姉、マドカ・・・・・」

 

そして、俺は眠った。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

一夏との電話を終え、俺はベッドに倒れこんだ。

 

「そう言えば、昼頃はラウラと尾行した上に全力疾走したんだった・・・・・・・」

 

すっかり忘れていた疲労が、どっと体にのしかかった。

 

「一夏が兄ちゃん、か」

 

俺の周りには、姉や妹がいるやつが多い。

 

のほほんさんには虚さんが。

 

簪には楯無さんが。

 

箒には篠ノ之博士が。まあ、この二人は仲がいいかどうかはこの際気にしない。

 

そして、一夏には、織斑先生が。その上、マドカという妹もできた。

 

「ほんと・・・・・みんなが羨ましいよ・・・・・・・」

 

俺には兄妹はおろか、家族すらいない。でも、エリナさんやエリスさん、学園のみんなもいる。

 

「・・・・・・・そう考えてみると、俺ってけっこう大家族かも」

 

って、何言ってるんだろうな俺は。

 

「・・・・・・寝よ」

 

俺は瞼を閉じた。

 

それから三十分くらい経ったころだろうか。

 

もぞ・・・・・

 

(ん・・・・・・・?)

 

もぞもぞ・・・・・

 

何かが俺のベッドに忍び込んできた。

 

「何だ?」

 

俺が身を動かすと、謎の侵入者はビクッと動きを止めた。

 

「・・・・・す、すまん・・・起こしてしまったか・・・・・・・」

 

その侵入者とはラウラだった。黒い猫のパジャマに身を包んでいるが、その顔は窓から差し込む月明かりに照らされて

ラウラの肌の白さは一層際立っている。

 

「おう・・・・・どうした?」

 

俺は目をこすって体を起こした。

 

「・・・・・・・・・・」

 

ラウラは黙ったまま目を伏せるだけで、何も言わない。

 

しかし、俺にはなんとなく分かっていた。

 

「マドカのこと・・・・・だろ?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

ラウラは黙ったままコクンと頷いた。

 

「・・・・・今日の一件で、一夏と教官がアイツを受け入れているのは分かった。だが・・・・・その・・・・・」

 

ラウラは俺の横に座って、膝を抱えた。

 

「わからんのだ・・・・・。この、モヤモヤした気持ちが・・・どうしても消えんのだ・・・・・・・」

 

「ラウラ・・・・・」

 

やっぱり、ラウラもマドカのことを認めようとしている。だけど、織斑先生を慕う気持ちがそれを邪魔している。

 

「・・・ふふ、滑稽であろう? 軍人である私が、こんなことで悩んでいる・・・・・」

 

ラウラは自嘲気味に小さく笑った。

 

「・・・・・・・・・」

 

俺はベッドで動き、ラウラと向き合うように座った。

 

「ラウラは確かに軍人だよ。けどな、ラウラは軍人である前にラウラなんだ。悩んで当然だろ?」

 

「あ・・・・・・・・・・」

 

ラウラは少し驚いたように目を俺に向けた。

 

「マドカのことは一夏と織斑先生に任せよう。それに、マドカがいるからって織斑先生がお前を見ないことなんて無い

んだ。織斑先生はお前のことも思ってくれてるぞ」

 

「教官が・・・・・・・?」

 

「ああ。たまに会うと話してくれるよ。お前が周りと馴染んでいることが嬉しいってな」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

ラウラは考え事をするように下を向いた。そして顔を上げる。

 

「・・・・・そうだな。私は何を悩んでいたんだろうな」

 

そう言ってラウラは立ち上がった。

 

「やっと、元に戻った感じだな」

 

「ああ、流石は私の嫁だ。私の悩みを消してくれた。礼を言うぞ」

 

「こういうことならいつでも話し相手になってやるよ」

 

「瑛斗」

 

「ん?」

 

返事をすると、ラウラは俺の横にしゃがみ、右頬に顔を近づけた。

 

チュッ

 

「・・・・・・・・え?」

 

俺は一瞬何をされたのか分からなかった。

 

ラウラはクスッと笑うと、部屋のドアに向かった。

 

「部下の者に聞いた。これが日本の夫婦間の感謝の表し方らしい。ではな」

 

そしてラウラは部屋から出て行った。

 

「・・・・・・・・・」

 

俺は右頬に手をやった。そして、顔を真っ赤にする。

 

「あ・・・アイツは何を・・・・・・・!」

 

頭から毛布を被る。ヤバい、心臓が恥ずかしいくらい激しく脈打っている。

 

それから、俺は一向に眠りにつくことができなかった。

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冬の夜に・・・・・
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