魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 顔に拳がめり込むのがジャイアンパンチな14話 |
「わざわざ海鳴に来てくださってありがとうございます、まあ……少しやりすぎなんですけど」
「ふっふっふー、そんなに褒めなくてもいいよ太郎ちゃーん。私達は先輩幽霊としてとーぜんの事をしたまでなんだからー!」
「…………。(ナゼナラワタシタチハ、コウハイシドウノタツジン)」
「……すまないね田中、アタイが初めからこんな奴等だって言っておけばよかったよ」
5個目のジュエルシードがなのはちゃん家に届いた日の夜、俺は聖祥の女子トイレにて改めてテケテケさん達とお礼の意味を含めて挨拶をしていた。
こうして改めて話をしてみると、テケテケさん達は陽気で明るい性格をしていて、悪い人じゃないことが分かる。
ただ戦いのときだけやりすぎるというか殺りすぎるというか……。
ごめんカマキリ、おまえとは違う形で出会いたかったよ。
まあそれはさておき、何も花子さんは謝る必要なんてない。
俺は花子さんの両手を握って、素直に感謝の気持ちを伝える。
「いや、謝らないでくださいよ花子さん! それにテケテケさん達がいなかったら今頃海鳴はえらいことになってましたし。ほんと、学校にあったジュエルシードまで届けてもらって感謝してもしきれないぐらいですから!」
ちなみに、花子さんいわく『血文字』とは幽霊が真心を込めた書体らしい。
よくホラー映画で壁に書いてあるけど、そんな意味があるとは知らなかった。
「へっ!? て、手を……! ゴホンッ! ま、まあアタイにとっちゃああれくらい朝飯前さ!」
すると何故か花子さんは一瞬だけ慌てて、それを隠すように咳払いをした。
なんかセクハラしたっけ俺?
その様子を見ていたテケテケさんは「あれぇ〜?」とこれまた何故かニンマリとした顔。
「もしかして、花子ちゃん気になっちゃってるとか!」
「ブフッ!? だ、だ、誰がこんな半人前とっ!?」
「あれ〜? わたし誰ととは言ってないんですけど〜? 別に太郎ちゃんとは言ってないんですけど〜?」
「……(ソコントコロkwsk)」
「――――ッ!」
めちゃくちゃ動揺する花子さんににじりよるテケテケさんとトコトコさん。
一方俺は。
「半人前……(泣)。そりゃそうですけど……、役に立ちませんけど……」
落ち込んでいて話の内容は聞いてなかった。
いや、面と向かっていわれるとやっぱ傷つくんだよ……。
そんな俺を置いてどんどんテケテケさん達の話は加速していく。
「ねえねえ! 何がきっかけなのー!? やっぱり先生と生徒の禁断の恋的なやつ? きゃー! 花子ちゃんおっとなー!」
「……!(アマァーイ! ストロベリィー!)」
「だだだだからなにが先生と生徒の禁断の恋だ! それと子供扱いするんじゃないよアタイの方が年上だろう! そもそもコイツはアタイの教え子だけど、よりによってこんな情けなくて不甲斐なくて頼りにならない奴をすっ、すす好きなんて!」
「な、情けない……、不甲斐ない……、頼りない……」
「ああ分かった! 危なっかしくてほっとけないってやつだ! 母性溢れるね〜」
「……(ニヤニヤ、ニヤニヤ)」
「うがあぁぁあぁあ!!! 黙れアンタ達! 田中も少しは否定しろってうわ! なんか凄い暗い!? なにがあったんだい!?」
主に自分への評価についてです。
「いった〜……。そんなに怒らなくてもいいじゃーん。恐すぎてチビりそうだったよ!」
「…………(ズガイコツガ、ヘコムカトオモッタ)」
「あの……、二人とも持ってない部分のこと言ってますよ?」
上半身と下半身しかない二人がどうやって自分たちの言ってることを実現するのか不思議でならない。
あの後花子さんの怒りが大爆発してテケテケさんにはアイアンクローを、トコトコさんにはお尻ペンペンを、ついでに俺にジャイアンパンチを一発くれてようやく場が収まった。
どう見ても俺巻き添えな気がする……。
花子さんは「アンタにも責任はあるんだからね!」っていってたけど何故だ、聞いてなかったから分からん。
「まったく、いつもアンタらは人のスキを見つけちゃギャーギャーと……。まあいい、田中!」
「はっ、はい!」
花子さんに呼ばれ、直立不動の姿勢で返事をする俺。
どうでもいいけど花子さんの弟子っていうかパシリっぽい気がする。
「次のジュエルシードについて、詳しく説明してもらうよ。そのためにアタイの所に集まったんだろう?」
「ああっ! そうでした!」
すっかり忘れてた!
そう、俺が花子さん達とこうして集まってるのは次の暴走体のことを話すためだったのだ。
ただ、口で言うだけではあの暴走体のヤバさは具体的に分からないので『あるもの』を用意する。
「じゃあえっと、説明しますんで少し待って下さい」
そう言って、俺は女子トイレの壁に意識を集中させる。
ええと……、『傷ついて、血が滲む』イメージと。
「? 何か準備でも……、おおーっ!?」
テケテケさんが、俺が何を始めるのか分からず首を傾げたがすぐに理解したようだった。
ズ……ズズズ……。と、トイレの壁には『とある模様を描いた血文字』が浮かび上がっている。
そう、俺が次の暴走体を分かりやすく説明するために書いたものとは。
「この海鳴の『血図』です。これを使って次の暴走体の危険性を説明します。」
「すっごーい! 太郎ちゃん器用だね!」
「……!(ゲイジュツヒンダナ!)」
「流石はアタイの弟子、やるじゃないか」
そう、海鳴市の鮮明な地図ならぬ『血図』だ。
ふっふっふ……、俺が今まで全く成長していないと思ったら大間違いさ!
「でも田中、トイレをこんなに血まみれにしてどうしてくれるんだい?」
「あ」
ジャイアンパンチ一発追加。
やっぱり成長してませんでしたー。
結局『血図』はきれいさっぱり洗い流されてしまいました、せっかく練習したのに……。
仕方ないんで普通に口で説明をした。
まず、6個目のジュエルシードは大木の暴走体になってしまう。
ここまでは、まだ『植物の暴走体だから危険性は薄いんじゃ?』なんて思ってしまいがちだが違う。
むしろ危険性と規模なら暴走体の中じゃかなりヤバいレベルだ。
なにせアニメじゃ発動した瞬間から、街全体を覆い隠しすほどの木々が出現。
海鳴の街はボロボロに破壊されてしまう。
原因は人間がジュエルシードを発動させてしまったからで、知能が高い生物ほど暴走するときの被害がでかくなってしまうこと。
そのうえやっかいなのは、単純に発動前に回収するのも、花子さん達都市伝説に片付けてもらうことも考えものということ。
何故なら、なのはちゃんが本気で魔法少女を頑張るきっかけもまたコイツなのだ。
だから、俺たち幽霊がそのきっかけを奪ってしまってはなのはちゃん自身のためにならなくなってしまう。
「……というわけで、ここまで言えばだいたい予想はつくと思いますが、テケテケさん達にやってもらいたい事というのは」
「うん、つまり私たちは先にジュエルシードを発動させる人間を始末すればいいんだね?」
「…………(マカセロ、イッシュンデオワラセル)」
「今の説明をどう聞いたらそんな過激な解決策がでてくるんですか!?」
「え? 回収も直接戦ってもだめなんでしょ?」
どうやらテケテケさん達は発想の遥か斜め上をいく思考回路の持ち主だった。
『暗殺OK』という結論に俺は体を震わせる。
となりで花子さんも嘆息している。
ああ、多分花子さんも苦労したんだろうなぁ……。
「このバトルジャンキーが……。つまりだ田中、アタイ達に『街全体の防衛』をやってほしいんだろ?」
「はい、その通りです!」
良かった、花子さんはちゃんと理解してくれて。
そう、俺が今回やってもらいたいのが街の防衛である。
暴走体はなのはちゃんに任せておき、今後の戦いへの決意を固めてもらいたい。
そして俺たちは、暴走体に巻き込まれてしまう人々を陰ながらに助けるという役割。
あんなにでかいんだからどこかで被害に遭う人もいるだろう、そう見越してのことだった。
「むむむ……、わたしたちは本来人を怖がらせるのが存在意義なんだけどなー」
「すいません、そこをなんとか……」
説明を聞いて、テケテケさんは納得いかないようで頬を膨らませる。
だが、俺にはどうしても人手が必要だった。
「アタイからも頼むよ、『9年前』も一緒にこの街を守ったじゃないか」
花子さんの『9年前』という単語に、テケテケさんは「そういえばそうだったね」と当時のことを思い出しているようだった。
9年前、と聞くと俺が思い浮かぶのは以前花子さんが話した『神隠し』事件のことだろうか。
気になったので聞いてみることにする。
「あの、9年前ってテケテケさん達も海鳴の『神隠し』に関わったんですか?」
「うん、そだよー。花子ちゃんに『アンタも手伝いな! アタイのナワバリに手ぇ出すやつはタダじゃおかないよっ! 犯人を見つけ次第市中引き回しの刑だ!』って強制労働させられたからねー。いやあ、あの頃の花子ちゃんは尖ってたよ〜」
「こ、こら!? 昔の事は言うんじゃあないよ!」
慌てて花子さんがテケテケさんの口を塞いで昔のことを喋らせまいとするが。
「…………、……!(アノコロノハナコチャン、『ウミナリノアバレリュウ』ッテアダナツイテタ!)」
「アンタも喋るな、ってどこ塞いだらいいんだい!?」
そういえばトコトコさん、どうやって喋ってるんだろう……?
無口なのに、言いたい事が分かるから謎だ。
「ていうか、『海鳴の暴れ龍』って何したらそんな二つ名つく「忘れなっ! 出来ないなら物理的に忘れさせるよ!」はい、忘れます……」
どうやら昔の話は花子さんの黒歴史らしい。
俺はまたジャイアンパンチを食らいたくないので素直に忘れることにする。
そんな花子さんの様子を見て、テケテケさんは「プッ……!」と吹き出しそうになっていた。
「アハハハッ! 花子ちゃんも随分丸くなったよねぇ〜。これも太郎ちゃんのお陰かも。うん! 太郎ちゃんの働きに免じてテケテケさんもお手伝いしましょう!」
「まて、アタイは別にコイツに影響なんてされてな
「あ! ありがとうございます!」
こうしてテケテケさん達の協力が決定することになった。
いや〜、本当に良かった……。
「それで、次の暴走体って何時発動するの?」
そうと決まれば早速と言わんばかりに質問をしてきたテケテケさんに、俺は思わず返答に困ってしまった。
あ、初めに言っとけばよかった……。
「あー……、それがですね……」
「「ジュエルシード発動が延期?」」
花子さんとテケテケさんが同時に声を出す。
「いや、正確には俺達が早く回収しすぎたんですけど」
そう、今日は『金曜日』なのだ。
原作では5個目のジュエルシードが発動するのが土曜日の夜で、その次の日、つまり日曜日に6個目の暴走体が現れる筈だった。
しかし、花子さん達の協力により『金曜日の時点でジュエルシードが5個集まってしまった』ために1日だけ空きができてしまったのである。
その事を知ってか、テケテケさんは「な〜んだ」と拍子抜けしてしまったようだ。
「じゃあ、明日は特に何も起きないの? つまんなーい」
「すいません……。明日は海鳴で時間を潰してくれるとありがたいんですが」
人手が欲しい今、貴重な戦力であれ彼女たちには出来るだけ海鳴から離れて欲しくはないのだ。
すると、トコトコさんが何か思いついてくれたらしい。
頭の……というかヘソぐらいまでしかないけど、その上で電球が出る感じだ。
「……、……(ムカシ、コノマチデシュークリームヲタベタ、アレハオイシカッタ)」
「おおー! 思い出したっ! 美味しかったよねあの『喫茶店』! うん、明日ヒマならあそこに行こっか!」
何だろう、とても身近にある喫茶店な気がする。
まあ何はともあれ留まってくれるのはありがたかった。
「それならアタイはもっと人手を増やすために知り合いを当たってみるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
花子さんも戦力の強化に時間を使ってくれるらしい。
本当にこの人には感謝するばかりだな……。
いやはや、明日の予定もみんな決まってよかったよかった。
そう思った時だった。
「ところで田中、アンタは明日どうするんだい?」
「えっ?」
あれ? そういえば俺はどうしようか?
で、翌日。
「実☆録! 守護霊生活24時!!!」
なのはちゃんの自室にて、俺は某テレビ番組みたいなテロップを叫ぶ。
まだ6時だけど、どうせ誰にも聞こえないから気にしない。
いやまあ、結局のところ俺はすることがないわけで。
ヒマな土曜日はいつも通りになのはちゃんの守護霊やってる日常をお送りしようと思います。
守護霊の朝は早い。
目覚ましでなかなか起きることが出来ない寝ぼすけさんを起こす所から、俺の日常は始まる。
「〜〜♪」
部屋に鳴り響くアラーム音、なのはちゃんが設定してるから今起きたいのだろう、俺は早速ベッドの方へ向かう。
「うう〜ん……。ごめんなさいいぃ……。トイレをもっとキレイにしますからこないでえぇぇ……」
「な……なの、は……! ぐるじい……! ギブ、ギブ……!」
「ちょっ!? ユーノくん!?」
ベッドの上はカオスだった。
なのはちゃんとユーノくんが何故か同じベッドで寝ているがそれはいいとして、悪夢を見ているらしいなのはちゃんがそばで寝ているユーノくんを思いっきり抱きしめている。
かなり力が入ってるのでユーノくんも息が詰まっていた、何この状況。
「ぶくぶくぶくぶく…………」
「わあぁああぁっ!? ユーノくん死んじゃう!!? なのはちゃん起きてぇっ!」
やばい! とうとう泡ふいてる!?
魔法少年リリカルユーノ終わりますじゃなくて早くなのはちゃん起こしてユーノくん解放してあげないとすんごい悪い意味で原作ブレイクしてしまう!
パニックに陥った俺はとにかくなのはちゃんを起こそうと『馬鹿でかいラップ音』を鳴り響かせる。
『コケコッコオオオオオオオッ!!!』
「「「「なに!? ニワトリ!!?」」」」
しまった、『起きそうな音』を意識しすぎてニワトリの声を出してしまった。
下の階にいる士郎さん達もビックリ。
「ふぇっ!? なになにってにゃあっ!? ユーノくん大丈夫!?」
「ヒュー……ヒュー……。や、やっと……寝られる…………がくっ」
ユーノくんは力尽きたようで真っ白になっていた。
いや、息してるから死んでないよ?
「ごめんなさいユーノくん」
「き、気にしなくていいよなのは。まだちょっと眠いけど……ふわあぁ」
何とか起きて朝食をとったあと、そこには自室でフェレットに土下座する小学生の姿が!!
うん、実にシュールである。
ちなみに朝食の最中士郎さん達と「なのは、もしかしてニワトリも拾ってるのか?」「ニワトリ? 知らないよ?」((((何だったんだ……?))))みたいなやりとりがあったが割愛させてもらおう。
どうやらユーノくん、昨日の夜からなのはちゃんと添い寝をしてあげたせいで、ドキドキしてまともに寝れなかったらしい。
ああ、俺は別に淫獸どうこう言うつもりはないよ?
チビっ子達がわーきゃーいってるの見るとむしろ微笑ましく感じる。
「しかしまあ、随分と早起きしたなぁ?」
疑問に思ったことが口をついて出た。
そう、今現在の時刻は7時ぐらい。
寝ぼすけさんのなのはちゃんは休日はもっと遅く起きることが多い。
目覚ましアラームは鳴ってたし、起きたかったのは間違いないはずだが……何か用事でもあったっけ?
「じゃあなのは、昨日言ったけど魔法の練習をしようか」
「うん! 公園ならまだ誰もいないと思うよ!」
「ん? 魔法の練習?」
魔法の訓練って原作じゃあもっと先のことなんじゃ……、と思っていたがなのはちゃんを見て納得した。
俺達がジュエルシードを集めたお陰でなのはちゃんがそんなに疲れてない。
だから、ユーノくんかレイジングハート辺りが今後を考えて練習を提案したんだろう。
「そうだっ! 俺も魔法の練習を見に行こう!」
ここで俺に天啓が舞い降りた!
そう、今の俺は弱い。
今すぐ強くなるのは無理とわかっているのだが、かといって強くなりたい気持ちは捨ててはいないのだ。
有名になって霊格を上げる以外にも俺はやるべきことが残されている。
それは、『イメージの改善』である。
例えば、飛行能力。
速く飛ぼうとすると軌道が直線的すぎてすぐに止まれない上、どこに行くか予想されやすい。
例えば人魂。
威力は仕方ないとして、打ち出す速度は『ボールを投げる』イメージだから放物線を描くし速い相手には当たらない。
ポルターガイストはコントロールもいいから、後は浮かべる重量を増やすだけとして、俺にはこれだけの欠点があるのがおわかりだろう。
もしかすると、なのはちゃんの戦い方を参考にするとより良いイメージに洗練できるかもしれん。
というわけで俺は嬉々として外出するなのはちゃん達の後をついてゆき――――
「でも練習中に幽霊が出てきたらどうしよう……?」
〈ご安心を、昨日から対幽霊魔法を考えつきましたから〉
「「さすがレイジングハートさん!!」」
「……………………」
突然ですが、番組の内容変更のお知らせです。
「実☆録! 浮遊霊生活24時!!!」
俺は一目散になのはちゃん達とは逆方向に飛び出した。
レイジングハートさん優秀すぎるだろおぉぉお!
説明 | ||
14話、ここからあと3話ぐらい日常話となります。 |
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