SAO 奇跡を掴む剛腕 『SAO record 04』
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しわが目立ち、そのせいで老けて見える男の名はクラディール。年齢はおおよそだが二十代前半か後半あたりだとテラスは思っている。

 

クラディールは、テラスやアスナ、彼女の前にいるキリトを視界にとらえると、少しばかしにらみを利かせながらそのしわをいっそう深くする。ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばり、噛み締めたクラディールは一瞬の沈黙を置いてその口を開いた。

 

「ア、アスナ様、勝手なことをされては困ります・・・さぁ、ギルド本部まで戻りましょう」

 

「嫌よ。今日は活動日じゃないわ!それに・・・だいたい、なんであんたは朝から家の前に張り込んでるのよ!」

 

二人の背後から、相当なキレ気味な様子のアスナの声が飛ぶ。テラスも同じギルドメンバーなので、それを聞き、確かにと頷く。

 

しかし、家の前にも張り込め、などと言う護衛命令はアスナの補佐であるテラス自身も聞いた事がない。騎士団長が命令するはずもなければ、護衛などいらないと言っているのに押しつけてくるバカなギルドの参謀たちが命令したとも思えない。そう考えると答えはおのずと出てくるのだが、クラディールは自分から言ってくれた。

 

「こんなこともあろうかと思いまして、私一ヵ月前からずっとセルムブルグで早朝から監視の任務についておりました」

 

「それ、誰かの指示じゃないわよね・・・?」

 

「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も――――」

 

「含まる訳ないわよ、バカ!」

 

アスナの罵声にクラディールはその表情を苛立ちに変え、つかつかと歩み寄ると、キリトを乱暴に押しのけてアスナの腕をつかんだ。

 

「聞き分けのないことをおっしゃらないでください。さ、本部に戻りますよ」

 

クラディールの言葉に一瞬ひるんだような表情のアスナは、傍らにいたテラスとキリトの双方にすがるような視線を送る。軽く目を合わせた二人は、アイコンタクトを取ると、テラスから顎で指されたキリトはため息をつきながら手を伸ばした。

 

後ろを向き、『犯罪防止コード』が発動するギリギリの力を込め、アスナの右手首を握り、引っ張るクラディールの肩を掴む。それと同時に、キリトは自分でもあきれるようなセリフを言った。

 

「悪いな。お前さんとこの副団長様は、今日は俺とこいつで貸切りなんだ。聞けばギルドは休みみたいだな。それに、副団長連れて行くのに補佐を連れて行かないなんておかしいんじゃないか?」

 

「貴様ぁ・・・!!」

 

再びキリトを睨みつけるクラディール。今度は一瞬やほんの少しどころではなく、ギラリと鋭く睨んでいる。しかし、キリトはそんなこと知らないと言わんばかりの表情でそのまま続けた。

 

「アスナの安全は俺とテラスで責任を持つ。別に今日ボス戦を行おうってわけじゃない。それに、アスナもたまには息抜きぐらいはしたいよな?だからギルド本部にはあんた一人で行ってくれ」

 

「なっ!?ふ、ふざけるな!貴様の様な雑魚プレイヤーに、アスナ様の護衛が務まるか!私は光栄ある血盟騎士団の――――」

 

「少なくとも、あんたよりは務まると思っている。それに、その言いようじゃ、遠まわしに上司であるテラスにも護衛は務まらないって言い方になるな」

 

「うんうん――――はっ?」

 

「ガキィ・・・そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな・・・?」

 

頷き、そして後から気付いて驚いたリアクションをとるテラスを無視し、キリトの余計なひと言、いやそれ以上含まれる言葉に動揺してか、顔面蒼白になるクラディールは震えるその指でウィンドウを素早く操作した。すると、すぐさまキリトの目の前に半透明なシステムメッセージが表示される。

 

『クラディール から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?』

 

デュエル、とはそのまま決闘を意味する。簡単に言ってしまえば、プレイヤー同士の対戦だ。種類は二つあり、『初撃決着』『完全決着』の二種類。初撃決着はそのまま読んで字のごとく、先に強攻撃をヒットさせれば勝ち。もしくはHPが半分切ること。完全決着も同じように読んでそのままで、相手のHPを0にすれば勝ち。ただ、今のこのデスゲーム内では本当に死んでしまうため、基本は初撃決着しかやらないのがセオリーだ。やるプレイヤーと言えば、『PK(プレイヤーキラー)』を好むプレイヤーだ。

 

むろん、キリトはそんなプレイヤーではない。なので、受諾前のオプションではしっかりと初撃決着を選択する。チラリと後ろに控えるテラスとアスナに視線を送ると、キリトは一つだけ聞いた。

 

「ギルドで問題にならないか・・・?」

 

「大丈夫です。団長には、「護衛がソロに稽古つけてもらった」って報告しておきますから。いざとなれば、副団長がどうにかしてくれると思いますし」

 

「ははっ、そりゃ安心だ」

 

「ちょっ、それどういう意味!?」

 

「そのままの意味です」

 

軽い会話を終えると、テラスとアスナの二人は数歩下がる。それを確認したキリトは、自分の背中から愛用している片手剣を引き抜いた。五メートルほど距離が離れているクラディールは、すでに両手で大ぶりな剣を構えていた。両手で、と言うことは言うまでもなく武器は両手剣だろう。

 

両名がデュエル開始のカウントを待つ間、周りにはぞろぞろとギャラリーが増え続けた。もちろん、この場所が街の中心でもありゲート広場と言う理由もあるのだが、テラスやアスナ、そしてデュエルするキリトがそこそこ名の通ったプレイヤーだからだ。アスナに至っては有名どころではない。もはやアイドル的存在だ。

 

『DUEL!!』

 

キリトとクラディールの間の空間に、紫色の光を伴ったその文字が弾ける。その瞬間、キリトははそれと同時に地面を蹴っていた。

説明
HPが0になることは死を意味するデスゲーム『ソード アート・オンライン』。 攻略ギルド『KoB』に所属する主人公テラスは、『剛腕』の異名とともにアインクラッド攻略を目指す。
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