英雄伝説〜光と闇の軌跡〜  外伝〜太陽の娘と混沌の聖女の邂逅〜後篇
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〜ジェニス王立学園・講堂前〜

 

「ねえ、プリネ。あたしに会わせたい人って誰?」

エステルはプリネが会わせたがっている人物が思い浮かばず、講堂を出た時に尋ねた。

「フフ……それは会うまでのお楽しみです。」

エステルの疑問にプリネは微笑みながら答えた。

「?それでどこに行けばいいの?」

「旧校舎です。あそこなら人気はありませんから。」

「へ?なんで人気のないところにいるの??」

プリネの言葉にエステルは首を傾げた。

「エステルさんに会わせたい方は世間では有名な方ですから、学園に混乱を起こさないためにも人気のない場所にいてもらっているんです。」

「ふ〜ん、そうなんだ。とりあえず、行きましょう!」

「ええ。」

そしてエステルとプリネは旧校舎に向かった。

 

〜ジェニス王立学園・旧校舎〜

 

エステルとプリネが旧校舎に入ると、そこにはまだ変装を解いていないペテレーネがいた。

「………待たせてしまって、すみません。」

「これぐらいの時間、大丈夫よ。」

プリネは母を待たせてしまった事を謝ったが、ペテレーネは微笑みながら答えた。

「?その人があたしに会わせたい人?(あれ……どっかで聞き覚えのある声のような……?)」

エステルは変装しているペテレーネを見て、聞き覚えのある声に首を傾げながら尋ねた。

「ええ、そうですが………もしかして、エステルさん。この方が誰かわからないのですか?」

「う、うん。顔つきとかプリネに似ているけど、もしかしてプリネのお姉さん?」

「いいえ。……お母様。いい加減、その変装を解いたらどうですか。」

「フフ、そうね。すっかり忘れていたわ。」

プリネの言葉にペテレーネは微笑んだ後、下していた髪をいつものように左右に縛り、眼鏡を外した。

「え。」

変装を解いたペテレーネの姿を見て、エステルは呆けた声を出した。

「では、エステルさん。入口で待っていますから好きなだけ、話してもらって構いません。」

呆けた状態のエステルにプリネは囁いた後、旧校舎から出た。

 

「……あなたとこうして顔を合わせて話すのは10年ぶりになりますね、エステルさん。」

「………………」

「あの……エステルさん?」

話しかけたにも関わらず何も返事をせず、呆けた状態で自分を見るエステルを不思議に思い、ペテレーネは呼びかけた。

「ハッ………!せ、せ、聖女様!!ど、ど、どうしてここに!?」

ペテレーネに呼びかけられ、我に返ったエステルは驚いた。

「フフ………娘が出る劇を親が見に来てはいけませんか?」

「い、いえ!あ、あの、その……!あうあう………」

心の準備もできず、長年憧れていたペテレーネと出会い、話しかけられた事にエステルは目をキョロキョロさせて、慌てた。

「フフ……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。一度、深呼吸をしてみて下さい。そうしたら、少しは落ち着きますから。」

「は、はい!…………スゥ…………ハァ………」

ペテレーネに言われて深呼吸をしたエステルはようやく落ち着き、まっすぐとペテレーネを見た。

「えっと……聖女様。今更聞くのもなんなのですが、あたしの事、覚えているんですか?」

「ええ。エステルさんの事はマーリオンさんやリスティさんからよく聞かされましたから。お二人の話からは人間の少女である事しかわかりませんでしたが、以前ブライト家にお邪魔して、レナさんを見た時にあの時の女の子である事がわかりましたから。……そのお守り、まだ持っててくれたんですね。」

ペテレーネはエステルの服の胸部分についているブローチに目を向けた。

「あ……はい!今でもこれはあたしにとって一番の宝物です!」

「フフ、そう言って貰えると嬉しいものですね。」

エステルの言葉にペテレーネは微笑みながら答えた。

 

「あの……聖女様……あたし、聖女様にいつか会えたら言おうと思っていた事があるんです。」

「ええ、私でよければ聞きます。」

ペテレーネの答えを聞き、エステルはもう一度深呼吸をした後、ずっと言いたかった事を言った。

「聖女様、あの時お母さんを助けてくれてありがとうございました!」

「ふふ、私は私の出来る事をしただけですよ。」

「あたし……あの時、聖女様がお母さんの命を救ったのを見て、自分の出来る事で聖女様みたいに誰かを助けれる人になるために、遊撃士になりました!」

「そうだったのですか。……私なんかを目標にしてくれてありがとう、エステルさん。」

「あ、あう……」

憧れの人物に笑顔を向けられたエステルは顔を赤くして俯いた。そしてある魔術を見てもらうために、エステルは顔を上げてペテレーネに尋ねた。

 

「あの、聖女様………見てほしい魔術があるのですけど、いいでしょうか?」

「構いませんが。その……さっきから気になっていたのですが、”聖女”という呼び名はなんとかあならないのでしょうか……?正直、その呼び名は恥ずかしいんです。」

「ふえ?でも、聖女様は聖女様だし………」

「もしよろしければ、名前で呼んでいただけますか?どうも、その呼び名は慣れていなくて……」

「う〜ん……ごめんなさい。あたしにとって聖女様は今でも憧れの存在ですから、名前で呼ぶなんてできないです。」

「フゥ、わかりました。………プリネもお世話になっている事ですし、エステルさんの呼びたいように呼んで下さい。」

「えへへ……ありがとうございます。」

エステルの言葉に苦笑して溜息をついたペテレーネにエステルは恥ずかしそうに笑いながら答えた。

「それで、私に見てもらいたい魔術とはなんなのですか?」

「あ、はい。この魔術です……えい!」

エステルは未完成の魔術である”闇の息吹”をペテレーネに見せた。

「今のは”闇の息吹”ですね。……ただ少し不安定に見えましたが。」

「はい。この魔術は旅立つ前にようやく出来た魔術なんですが、どんなにがんばってもプリネ達みたいに安定した回復力がないんです……」

ペテレーネの言葉にエステルは肩を落とした。

「なるほど……わかりました。もし、よければ私が教えますが。」

「え!いいんですか!?」

ペテレーネ直々に教えて貰える事にエステルは驚いて尋ねた。

 

「ええ。といってもそんなに時間はかかりません。その魔術の基礎はすでにできかけているだけですから、後は正しい形に直すだけですからすぐに終わります。」

「本当ですか!?じゃあ、お願いします!」

「ええ。」

そしてエステルは長年憧れていたペテレーネから直々に今まで未完成であった回復魔術の事を教わり、ついに完成した。

「癒しの闇よ……闇の息吹!!……!やった!3回連続で安定した回復量になった!」

「フフ、おめでとう、エステルさん。」

魔術が完成した事に喜んでいるエステルをペテレーネは微笑ましそうにみて、祝福した。

「えへへ……ありがとうございます、聖女様。」

「フフ、私は少し助言しただけですよ。すぐに出来るようになったのはエステルさんの才能と努力の賜物です。……さて、私はそろそろ失礼しますね。」

「え……もう行っちゃうんですか……?」

もっとペテレーネと話したかったエステルは残念そうな表情で尋ねた。

「ええ。学園長にプリネがお世話になったお礼も言いに行かないといけませんし、それに私がこの学園にいる事がわかり、生徒達や教師の方々に無用な混乱を起こさせたくないんです。」

「そっか……いつか会いに行ってもいいですか?」

「ええ。気軽に来て貰って大丈夫です。………これからもプリネと仲良くして下さいね。」

「はい!」

「ありがとう。……エステルさんにアーライナのご加護を……」

エステルの身の安全をその場で祈ったペテレーネは旧校舎から去った。そしてエステルは旧校舎の入り口で待っているプリネの所に行った。

 

「おかえりなさい、エステルさん。お母様との会話はどうでしたか?」

「うん。言いたかった事も言えたし、満足よ!……それにしても酷いわね、プリネったら。あたしが聖女様に憧れているって知ってて、黙っているんだから。」

エステルは頬を膨らませて、プリネを咎めた。

「フフ、ごめんなさい。エステルさんをビックリさせたかったので。」

「もう……まあ、聖女様にも会えたし、いっか……さて、じゃあヨシュア達の所に行って、片づけを手伝うとしますか!」

「ええ。」

そして、エステルとプリネは講堂に戻って、後片付けに参加した。後片づけが終わった頃にはすっかり夕方になっていた。その後エステル達はジルとハンスに見送られ、テレサ達と話すためにマノリア村へ行くクロ―ゼと共に短いながらも楽しい生活を送った学園を去った……

 

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