英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 84 |
〜ルーアン市長邸・2階大広間〜
「ば、馬鹿な……。私の可愛い番犬たちが……。貴様ら、よくもやってくれたな!」
自分の飼っていた魔獣達がやられた事にダルモアは怒鳴った。
「はあはあ……。それはこっちの台詞だっての!」
「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕します。投降した方が身のためですよ。」
「ふふふふふ……。こうなっては仕方ない……奥の手を使わせてもらうぞ!」
エステル達に追い詰められたダルモアは懐から杖を出した。
「え!?」
「杖……?」
何かあると思ったエステル達は慌ててダルモアを取り押さえようとしたが
「時よ、凍えよ!」
ダルモアが杖を掲げて叫ぶと、杖の宝石部分が妖しく光り、エステル達の動きを止めた。
「か、身体が動かない……!」
(ぐっ……!体が……!)
「こ、これは……導力魔法なのか?」
「ち、違います……。これは恐らく『古代遺物(アーティファクト)』の力!」
「なんだあ、そりゃあ!?」
身動きが出来なくなったエステルやサエラブは驚いた後なんとか体を動かそうとしたが動かなかった。杖の光の正体をにヨシュアは信じられない顔で推測して言ったが、クローゼが確信を持った表情で答え、それを聞いたナイアルは驚いた。
「ほう、クローゼ君は博識だな。これぞ、わがダルモア家に伝わる家宝、アーティファクト『封じの宝杖』……。一定範囲内にいる者の動きを完全に停止する力があるのだよ。」
クローゼの説明にダルモアは凶悪な表情で感心した後、杖の正体を言った。
「な、なんてデタラメな力……」
「こんな強力なアーティファクトが教会に回収されずに残っていたのか……」
杖の力にエステルは驚き、ヨシュアはダルモアの予想外の切り札に無念を感じた。
「フフ、さすがは古代文明の叡智の結晶……。戦術オーブメントごときとは比較にならぬ力を備えている。もっとも、1つの機能しか持っていないのが難点だがね。」
杖を自慢したダルモアは懐から銃を出して、エステル達に近寄った。。
「仕方ないから、君たちの始末は私自らの手で行ってあげよう。ククク……光栄に思うのだな。まずはそうだな……生意気な小娘から始めて……」
ダルモアは凶悪な表情で銃をエステル突きつけて言った。
「むっ、何が生意気よ!」
(…………………)
銃を突きつけられてもエステルは強気な態度で言い返した。契約者の窮地を救うためにもサエラブは冷静になり、ダルモアの隙を窺った。
「最後に賢(さか)しらな小娘の息の根を止めるとしようか?」
「………………………………」
同じように銃を突きつけられたクローゼは動じず、ダルモアを厳しい表情で見た。
「ククク……さっきの威勢はどうした?命ごいでもすれば助けてやらんでもないぞ?」
「だ、誰があんたなんかに……」
「汚い手で……るな……」
「なに?」
(む………!この気配は……!)
エステルにゆっくりと近付いて行くダルモアに向かってヨシュアは途切れた声で呟いた。ヨシュアの言葉が気になったダルモアは聞き返し、サエラブはヨシュアからただならぬ気配を感じた。
「汚い手でエステルに触るな……。もしも……毛ほどでも傷付けてみろ……。ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる……」
ダルモアに向かってヨシュアは誰にも見せた事のないような冷酷な眼差しでダルモアを睨んだ。
「な……」
ヨシュアの睨みにダルモアは気圧されて後ずさった。
「ヨ、ヨシュア……」
「ヨシュアさん……」
(なんという強烈な負の気………!小僧……貴様、何者だ………!)
ヨシュアの言葉と表情にエステル達は驚き、サエラブはヨシュアの正体が何者か怪しく思った。
「ゆ、指一本も動かせぬくせに意気がりおってからに……。いいだろう!貴様の始末を先にしてやる!」
後ずさったダルモアは気を取り直して標的をヨシュアに変えた。
「や、止めなさいよっ!ヨシュアを傷付けたら絶対に許さないんだからねっ!」
「………………………………」
銃を突きつけられてもヨシュアは冷酷な表情でダルモアを睨み続けた。
「ヨシュアさん!」
ヨシュアの窮地にクローゼは叫んだ。
「死ね。」
ダルモアが銃の引き金に指をかけた時
「だめえええええええっ!!!!」
エステルが叫んだその時、エステルの胸元から黒い光が放たれた。
「な……!」
黒い光にダルモアは驚き、後退した。そして黒い光は部屋全体に広がり、エステル達の体が動くようになった。
「な、なぬううううううっ!?」
「身体の自由が……戻った?」
「エステル……今の黒い光は?」
「う、うん……。父さん宛に届いたあの黒いオーブメント……」
エステル達が動けるようになった事にダルモアは驚き、ヨシュアの疑問にエステルは懐からカシウスから預かった謎の黒いオーブメントを出した。
「これが光ったみたいだけど……」
「そ、そんな馬鹿な……。家宝のアーティファクトがこんなことで壊れるものかああ!」
(………そこだ!)
喚いているダルモアの隙を狙ってサエラブは杖を持つ手に向かって飛び掛かった!
「なっ………!」
ダルモアが気付くといつの間にか持っていた杖は強奪したサエラブが口に咥えて、エステル達のところにいた。
「ナイスよ、サエラブ!」
「これでもうあなたの切り札は使えません……現実を見た方がいいんじゃありませんか?」
「そうよ!」
武器を構えたヨシュアに同じるようにエステルは武器を構えた。
「よくも悪趣味なやり方でいたぶってくれたわね〜っ!」
「最低です……」
武器を構えながらエステルは怒り、クローゼも武器を構えてダルモアは軽蔑した。
「ううううううううう……。誰が捕まるものかっ!」
武器を突きつけられたダルモアは唸った後、わき目も振らず隠し部屋に入って逃げた。
「ああっ!」
逃げたダルモアを見て、エステルは驚いた。
「追いかけるよ!」
「はい!」
「うん!サエラブ、ありがとう!戻って!」
(ああ。)
サエラブは口に銜えていた杖をその場に置いて、光の玉となってエステルの身体に戻った。そしてエステル達はダルモアを追った。
「ああっ、待ちやがれ!こ、こんなスクープ、逃してたまるかってんだ!」
一足遅れてナイアルがダルモアやエステル達を追って行った。
「うーん……魔獣が、魔獣がああ……」
「やれやれ……寿命が縮みましたぞ……。閣下、大丈夫ですか、閣下……」
部屋に残されたフィリップは安心した後、気絶しているデュナンを介抱した。
隠し部屋に会った梯子を下りて、外に出るとヨットに乗って逃走しているダルモアの姿があった。
「あ、あれは……」
「ダルモア市長のヨットです!」
「ま、待ちなさいっての!」
「このボートで追いかけよう!さあ、2人とも乗って!」
近くにあったボートを見つけたヨシュアはすぐに乗り込み、ボートのエンジンをかけてエステル達にボートに乗るよう促した。
「オッケー!」
「はい!」
「こらー!俺も乗せやがれってんだ!」
エステルとクローゼは素早くボートに乗り込み、遅れてきたため、ボートに乗れなかったナイアルの叫びを背に、たヨシュアはエンジンを全開にしてダルモアのヨットを追い掛けた。
〜ルーアン市内〜
エステル達を乗せたボートはどんどんダルモアのヨットとの距離に少しづつ縮まって行った
「よーし、近づいてきた!」
「こちらの方が小型な分、船体は軽いみたいですね。」
エステルやクローゼはダルモアに追いつけるかもしれない事に表情を明るくした。
「くっ……しつこいヤツらだ……。これでも喰らえっ!」
近付いて来るエステル達に焦ったダルモアはエステル達に向けて銃を何発も撃った。しかし
「とりゃあっ!」
エステルは棒を自分の目の前で回転させて、銃弾を弾いた。
「な、なにいい!?」
銃弾が全て防がれた事にダルモアは驚いた。
「ふふん、遊撃士を舐めんじゃないわよっ!ヨシュア、そのまま右側につけちゃって!」
「了解。……あれっ?」
ヨシュアがヨットの側面にボートをつけようとしたその時、ダルモアを乗せたヨットが加速した。
「い、いきなり速くなった!?」
「これは……沖合いを流れる風です!」
「まずいな、こうなったらヨットの方が断然有利だ……」
ヨットが速くなった事にエステルは驚き、原因がわかったクローゼが説明し、それを聞いたヨシュアが表情を険しくした。
「あ、あんですってー!?」
「わはは、女神(エイドス)は私の方に微笑みかけてくれたようだな!それではさらばだ、小娘ども!」
そしてダルモアは高笑いをしながらエステル達から逃げて行った。
「冗談じゃないわよ!あと一歩のところで〜っ!」
「このままだと高飛びされかねない……。なにか手段は……」
ダルモアに追いつけなかった事にエステルは悔しがり、ヨシュアはダルモアに追いつく手段を考えたその時、上空からエンジン音が聞こえて来た。
「な、なに……?」
「……来た」
謎のエンジン音にエステルは不思議な顔をし、クローゼは静かに呟いた。するとエステル達のボートの上を大きな飛行船が飛んで行った。
「フン、逃げたはいいがこれからどうしたものか……。やはり、軍の手が回る前にエレボニアに高飛びするしかないか。なあに、しばらく我慢すれば『彼』が何とかしてくれる……」
一方逃亡が成功したと思ったダルモアは独り言を呟いた後、念の為に後ろを振り返ると大きな飛行船がダルモアのヨットに向かってきた。
「な、な、なああああああっ!?」
飛行船はダルモアのヨットの進路を塞ぐように着水した。飛行船が着水した衝撃でできた水飛沫により、ダルモアのヨットが停止した。
「な、な、な……。うわあああっ!な、なんだこの飛行船は!王国軍の……いや、この紋章は……」
「……王室親衛隊所属、高速巡洋艦『アルセイユ』。それがこの艦の名前だ。」
飛行船に彫ってある紋章を見て驚くダルモアに答えるように、飛行船から王室親衛隊員達を連れた女性士官が現れて答えた。
「やれやれ……何とか間に合ったみたいだな。」
「蒼と白の軍服……女王陛下の親衛隊だと!?」
女性士官の軍服を見たダルモアは驚いて叫んだ。
「その通り。自分は中隊長を務めるユリア・シュバルツという。ルーアン市長、モーリス・ダルモア殿。放火、傷害、強盗、横領など諸々の容疑で貴殿を逮捕する。」
「これは夢だ……夢に決まっている……。うーん、ブクブクブク……」
女性士官――ユリアの宣告にダルモアはショックを受けてヨットの上で気絶した。そのすぐあとにエステル達のボートが到着した。
「こ、これって……どうなっちゃってるの?」
「ジャンさんが連絡してくれた王国軍の応援だと思うけど……。それにしては来るのが早すぎるような……」
「……ふふ………」
状況を見てエステルとヨシュアは驚き、クローゼはその後ろで静かに笑っていた。
「やあ、遊撃士の諸君。諸君の協力を感謝する。後のことは我々に任せてほしい。」
こうしてマーシア孤児院放火事件とテレサ襲撃を命じた黒幕、ルーアン市長ダルモアは親衛隊員によって身柄を拘束された………
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