英雄伝説〜光と闇の軌跡〜  外伝〜もう一つの旅立ち〜
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〜マノリア村宿酒場・白の木蓮亭の一室〜

 

その後エステル達はテレサに事件の詳細を話した後、ミントとツーヤを迎えに来た事を説明した。

「そうですか………ついにルーアンを去られるのですね。」

「……はい。」

「フフ、そんな暗い顔をしないで下さい。そんな顔をしていたらミントが心配しますよ。」

申し訳なさそうな表情をしているエステルにテレサは微笑んで励ました。

「「「「「「先生、ただいま〜!」」」」」」

そこに外で遊んでいた孤児院の子供達が帰って来た。

「あ、ママ!」

「ご主人様!」

エステルとプリネの姿を見たミントとツーヤはそれぞれ駆け寄った。

「お待たせ、ミントちゃん。迎えに来たよ。」

「本当!?じゃあ、これからはママといっしょにいられるんだ!」

エステルが迎えに来たと知ったミントは無邪気に喜んだ。

「……ツーヤ、一つだけ確認していいかしら?」

「なんでしょうか、ご主人様?」

一方プリネは真剣な表情でツーヤに尋ねた。

「今はこうしてエステルさんと旅をしているからミントちゃんといっしょですけど、旅が終わればミントちゃんとも別れる事になります。その覚悟はある?」

「………はい。それがあたしの進むべき道ですから。ミントちゃんもその事はわかっています。」

プリネに問いかけられたツーヤは凛とした表情で答えた。

「そう、わかったわ。」

 

「………みんな、ちょっといいかしら。」

「先生?」

手を叩いてテレサは子供達に自分を注目させた。

「今日はお知らせがあるの。」

「お知らせ……?」

テレサの言葉にマリィは首を傾げた。

「……ミント、ツーヤ。」

「……うん。」

「………はい。」

テレサに促されミントとツーヤは静かに子供達の前に出た。

「前にも言ったと思うけど今日からこの2人はエステルさん達に引き取られ、みんなとお別れする事になりました。」

「え………」

「………」

テレサの説明にクラムは驚き、マリィは辛そうな表情になったた。また、ポーリィやダニエルは今にも泣きそうな表情をした。

「うん、あのね……」

ミントとツーヤはクラム達に自分の正体、何故エステル達に引き取られるかを説明した。

 

「……という訳なんだ。だから、みんなとは別れなくちゃならないんだ……」

「嫌だ!」

「クラム?」

「なんで2人と別れなくちゃいけないの!?」

「クラム、それはさっきミントちゃんと説明したでしょ……」

我儘を言うクラムにツーヤは諭した。

「オイラ、まだ子供だからわかんないよ!なあ、みんなもお姉ちゃん達と別れるのは嫌だろ!?」

「「う、うん……!」」

クラムの呼びかけにダニエルとポーリィは頷いた。

「…………………」

「マリィ?なんで何も言わないんだよ?」

一人だけ賛成しないマリィを不思議に思ってクラムは尋ねた。

「クラム、私はあなたの考えに反対よ。」

「なんで!」

「お姉ちゃん達、言ってたじゃない。近い内、みんなとお別れするって。……ぐす。」

「マリィ………」

泣くのを堪えて目に涙を溜めているマリィを慰めるようにツーヤはマリィを抱きしめた。

「ごめんね、マリィ。……これからはあなたとクラムが一番上よ。だから、みんなの事お願いね……」

「ひっく、うん……」

マリィはしゃっくりをあげながら頷いた。

 

「どっかに行っちゃやだよ、ミント姉ちゃん!」

「クラム……」

涙目で詰め寄るクラムにミントは辛そうな表情をした。

「クラム……2人を困らせてはダメよ。」

そこにテレサがクラムを宥めた。

「2人は自分が望んだ人に引き取って貰うの。ずっとここにいるより、そのほうが幸せである事はわかるでしょう?」

「でも、でも……!」

「クラム!これで最後だって言う時に、何でお姉ちゃん達を困らせているの!ずっとお姉ちゃん達にお世話になったんだから、最後は笑顔でお別れをしないとダメじゃない!」

テレサの説得でも納得できなかったクラムに涙をぬぐったマリィが叱った。

「………クラム。あなた達もいつか私の元から巣立つ時が来ます。2人は今がその時なのです。」

「…………………」

テレサの言葉にクラムは顔を伏せた。

「クラム。」

「………何、ミント姉ちゃん。」

「ミント達はこれから旅に出るけど……みんなの事は忘れないよ!いつか必ずみんなに会いに来るよ!」

「本当?」

「うん。約束をするから指を出して。」

「う、うん……」

ミントに促されクラムは指を出した。クラムの指にミントは自分の指をからませた。

「約束だよ、クラム!今日からクラムがみんなのお兄ちゃんだから、みんなを護ってね!ミントとツーヤちゃんは旅をしている間でも、みんなの事を思っているよ!」

「……うん!」

ミントの笑顔にクラムは強く頷いて、笑顔で答えた。

 

「………ぐす、あたしこういうの弱いのよね……」

2人と子供達の別れを見ていたエステルは涙ぐんだ。

「エステル。テレサさん達が大事にしていたミントを預かるんだ。責任重大だよ。」

「……わかってる。あの子は絶対大事にして、いい子に育てるわ!」

ヨシュアの言葉にエステルは涙をぬぐって頷いた。

「………プリネ。お前もわかっているな?お前はこれからあのツーヤという一人の少女の一生を預かる身なのだ。余やエヴリーヌも気にかけておくが、大事にしてやるのだぞ。」

「……はい。特に私はエステルさんと違って気の遠くなるような寿命ですから……恐らく竜であるツーヤも私やお姉様並かそれ以上生きるのですから、生涯を共にする”パートナー”として信頼を深め、大事にするつもりです。」

「がんばってね、プリネ。何か相談したい事があったらエヴリーヌ達が相談にのるよ。」

「ふふ、ありがとうございます。エヴリーヌお姉様。」

一方リフィアやエヴリーヌもプリネを応援した。

「そうだ、最後にみんなに見て貰いたい事があるんだ!……ツーヤちゃん。」

「うん。みんな、あたしとミントちゃんについて来て。」

「う、うん……」

ミントとツーヤの言葉にクラムは戸惑いながら頷いた。そしてエステル達は2人の少女についていき、ある場所に向かった。

 

〜マーシア孤児院跡〜

 

「到着〜!」

目的の場所に到着したミントは元気よく言った。

「ミント?一体ここで何をするの?」

なぜ、ミント達がここに向かったのが理解できなかったテレサは尋ねた。

「今それを見せます、先生。……ミントちゃん。」

「うん。ママ、ちょっとこっちに来て。」

「ご主人様もお願いします。」

「う、うん。」

「何をするの?」

ミントとツーヤに促され、エステルとプリネはそれぞれ2人の目の前に立った。エステルとプリネが自分の目の前にいる事を確認したミントとツーヤは頷き、それぞれ両手を上に伸ばした。すると2人の身体が青い光に包まれた。

 

「え?」

「これは………」

「うわぁ……」

「キレイ………」

エステルとプリネはミントとツーヤの足元に魔法陣のような形が浮かび上がったのを見て、驚いた。クラムやマリィを含む子供達は幻想的な風景に見惚れた。

「これはあたし達ドラゴンに伝わる”契りの儀式”……」

「”契りの儀式”?」

ツーヤの言葉にプリネは首を傾げた。

「ママとミントがお互いの事を本当の”パートナー”である事を誓う儀式なんだ!」

「ほえ〜……それで、あたしは何をすればいいの?」

「えへへ、ちょっと待ってね。」

首を傾げるエステルにミントは可愛らしく微笑んで上げていた手を下げた。すると片手には何かの紋章が浮かび上がっていた。ミントと同じように両手を下げたツーヤは額にミントとは異なる紋章が浮かび上がっていた。

「……今浮かび上がっているあたし達の紋章に口づけをして下さい。そうすれば儀式は完了です。」

「く、口づけ!?そ、それって、キスじゃない!」

ツーヤの説明にエステルは顔を真っ赤にして答えた。その様子をプリネは苦笑して答えた。

「エステルさん……キスと言っても頬や口ではないんですよ?」

「で、でも……」

「フゥ……でしたら私が先にしますから、エステルさんはそれに続いて下さい。」

「う、うん。」

 

プリネはツーヤの足元の魔法陣の中に入った。するとツーヤの身体から発せられる光がいっそう強くなった。そしてプリネはその場でしゃがんでツーヤを見た。

「ツーヤ……これから共に生きるパートナーとしてよろしくね。」

「はい。誠心誠意お仕えさせて頂きます。」

「ありがとう。」

そしてプリネは紋章が浮かび上がっているツーヤの額に口づけをした。その瞬間、光は消え、ツーヤの紋章も消えた。

「(……暖かい。これがパートナーを得た証ですか……)エステルさん、次はあなたの番ですよ。」

「う、うん。……スゥ……ハァ………よし!」

プリネに続くようにエステルは緊張した心を鎮めるために深呼吸をした後、表情を凛とさせてミントの足元の魔法陣の中に入った。エステルが魔法陣の中に入るとツーヤの時と同じようにミントの身体から発せられる光がいっそう強くなった。そしてエステルはミントの前にしゃがんでミントと目を合わせた。

「まだ16歳のあたしがミントちゃんのママをやれるかわからないけど……精一杯がんばるわ!だから、いっしょに成長して行きましょう……ミントちゃ……いや……ミント!」

「うん!」

そしてエステルは紋章が浮かび上がっている手の甲に口づけをした。その瞬間、光は消え、ミントの紋章も消えた。紋章が消えた瞬間、ミントはエステルに抱きついた。

「……よっと。これからよろしくね、ミント。」

「えへへ……ずっといっしょだよ、ママ!」

エステルに抱きあげられたミントは可愛らしい笑顔で答えた。

 

「………エステルさん、プリネさん。」

「はい。」

「なんでしょう?」

テレサに呼ばれ、エステルはミントを降ろし、プリネと共に姿勢を正した。

「あなた達に渡すべき物があるので、少しだけ待ってて下さい。」

「渡すべき物?」

テレサの言葉にエステルは首を傾げた。そしてテレサは崩れ落ちた孤児院の床についてる取っ手の部分を使って、床の一部をあげ、その中にあった物を確認した。

「………どうやらこれらは無事だったようですね………」

そしてテレサは床の下に隠されたそれぞれ鞘に収められている2本の剣を持って来て、エステルとプリネに渡した。

「これは……剣!?でも、折れているわね……」

「……折れていてもかなりの業物のようだね……それに何か……神々しい雰囲気があるね……」

エステルは鞘から剣を抜いて折れた刀身に驚き、ヨシュアは折れた剣の刀身の輝きを見て評価をした。

「こちらは一体……?剣のように見えますが、少し刀身が違いますね……」

一方プリネは渡された鞘から剣を抜き、普通の剣より曲がっているように見える刀身を見つめた後首を傾げた。

「ほう……それは恐らく”刀”というものだな。」

「”刀”?確かディスナフロディ独特の武器と聞いた事がありますが、まさかこれが?」

「うむ。余やエヴリーヌも見た事がある。そうだろう、エヴリーヌ?」

「ん。ウィルフレドの仲間のユエラっていう人間が使っていた剣に結構似ているね。」

「あの……先生……どうして剣が孤児院に……?」

孤児院に何度も足を運んでいるクローゼは孤児院とは無縁の剣が隠されてあったのを見て、驚いて尋ねた。

 

「……ミント達を拾った時、この子達の傍に落ちていた物です。記憶のない2人の手掛かりかと思って拾い、ずっと保管していたのです。」

「ほえ〜……でも。折れていたら使えないわよね?もったいないわね〜……」

「そうですね……そちらの剣もそうですが、この刀も僅かな聖なる気配だけあって本来の力が出ていないように見えます。もし、本来の力が出せれば”聖剣”あるいは”神剣”の類だったでしょうに……」

剣の由来を聞いたエステルは呆けた後、折れた剣を見て残念がり、プリネは持っている刀の刀身と折れた剣が出す僅かな神気を感じ取り残念そうな表情をした。

「ふむ、武器の修復か……余に一人、それができる人物の心当たりがあるぞ。」

「本当かい?でもこんな業物を元通りにできるほどの人なんて、そうそういないと思うんだけど……」

ヨシュアはリフィアの言葉に驚いた後、考え直した。

「安心せよ。腕も確かだ。そ奴に依頼すれば、期待通り真の力を引き出してくれるだろう。」

「もしかして……」

「エヴリーヌお姉様にも心当たりがあるのですか?」

リフィアが答えた人物の事をわかっていそうなエヴリーヌにプリネが尋ねた。

「うん。前にも話したと思うけど、ユイドラのウィルフレドっていう工匠なら大丈夫だと思うよ?リフィアが頼んだ結構難しい杖の作成もなんなく作ったし。」

「へ〜……じゃあその人に頼みたいけど、どこにいるのかな?」

リフィア達が高評価する人物の事を聞き、エステルは期待を持った目で尋ねた。

「前にも言ったと思うが、ウィルは祖国メンフィルのはるか南方の都市に住んでいる。会いに行くのは容易ではないぞ。」

「あ〜……そっか。別世界にいるんじゃ、無理かな……」

リフィアの答えにエステルは肩を落として溜息をついた。

「ふむ。旅が終われば、余がウィルにその剣を元通りにするよう、手配しておいてもいいぞ?」

「いいの?じゃあ、その時はお願いするわ。」

「うむ。(さて……ウィルへの依頼が増えたな……まあ、あ奴なら見事、素晴らしい剣へと鍛え上げてくれるだろう。そういえば旅に出る前にウィルへ書状で2人の得物である棒と双剣の作成を頼んだが、書状がそろそろ届いている頃だな……)」

そしてエステルは折れた剣を鞘に入れた時、鞘に彫ってある文字に気付いた。

「あれ?なんか文字が彫ってあるわね?えっと……?エ…R……ュ…S…ン……?う〜ん、いくつか削れてて読めないわ……」

「こちらの鞘にも文字が彫ってありますね……アルフ……?刀の名前でしょうか……?」

エステルとプリネは鞘に彫ってある文字を読んで、首を傾げた。

 

「エステル、プリネ。……名残惜しいとは思うけど、そろそろ行かないと。ツァイスへ行く準備や2人の装備を整えるためにルーアンである程度の時間が必要と思うし。」

「……そうね。じゃあ、ミント。行こうか。」

「うん。ツーヤちゃん。」

「うん。」

エステルに促されミントはツーヤといっしょにテレサと子供達の前に立ち、お辞儀をした。

「「今までお世話になりました、先生、みんな!10年間、私達を育ててくれてありがとうございました!!」」

「ミント……ツーヤ………」

ミントとツーヤの別れの挨拶にテレサは自分と死別した夫が建てた孤児院から子供達がとうとう巣立つ事を実感し、涙を流した後涙を拭った。

「フフ……お礼なんて私のほうが言いたいぐらいよ……ここはいつまでもあなた達の家です。だからいつでも帰って来たいと思った時に帰ってきなさい……その時はみんなといっしょに歓迎するわ。」

「「はい!」」

「元気でね、2人とも……」

テレサは最後にミントとツーヤを抱きしめた後、クラム達のところに戻った。そしてミントはエステルと、ツーヤはプリネと手を繋ぎ、テレサやクラム達に空いた片手を振って別れの言葉を言った。

「「みんな!元気でね!!」」

「ミント姉ちゃん、ツーヤ姉ちゃん!いつか、帰って来る時を待ってるから!それまでずっと先生達やここを守っているから!だから、絶対帰って来てよ!」

「いつまでも元気でいてね、お姉ちゃん達!!」

「「さようなら〜!!」」

こうして2人の竜の少女は今までお世話になったテレサや子供達に見送られて孤児院跡を背にエステル達と共に旅立った………

 

 

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