真・恋姫†無双 野球伝 1章2話 初戦闘 |
和焼side
あの声の後、こちらに向かってきているの盗賊の詳細が判明した。
最近ここの近辺によくあらわれている盗賊団で、規模は300人程度。面子には兵士崩れ等、力の立つ者が多数いて盗賊団としては異例の強さらしい
それに対するこちらの戦力は100人程度。本来ならあと50人他に戦える、というか主力となる人がいるらしいが今は村にいないらしくその隙を狙われた形だ
「どうするんだこれ」
俺はあの叫び声の後、村の広場に向かう周泰ちゃんについていって集まった人たちの中心近くにいる
「相手のは確かに3倍近く人数の差ををつけられています。ですが相手は所詮盗賊団、私たちが勝てない相手ではないです。
それに万が一勝てないとしても、いま居ない人たちも陽が暮れる前には帰ってくるはずですからそこまで耐えればいいんです。だから頑張りましょう!」
集まった人たちの中で周泰ちゃんが鼓舞をしている。主力がいないこの村でリーダーとして周りをまとめることができるのが周泰ちゃんしかいないらしい
「だが相手の数は3倍だぞ。こちらは主力が欠けているうえに相手は最近評判の盗賊団じゃないか」
「それに陽が暮れる前に帰ってくると言ってもいつ帰ってくるかわからない人間を頼りにするなんて」
相手の評判とこちらのマイナスポイントどちらか一つならまだなんとかなっただろう。だが、二つが合わさっている現在の状態では周泰ちゃんの鼓舞も実らず、相変わらず士気は上がらない。
この村の人達がどの程度できるのかは知らないがこのままじゃ危ない。盗賊達が来たら勢いだけで押し切られてしまうかもしれない
(なあレイハさん、なんとかならない?)
(戦場で勝つために必要なものをご存知ですか?)
(知恵と戦術だろ)
レイハさんがなのはに言っていたのをしっかり覚えている
(はい、ですけどそれだけでは足りません。最後に必要になってくるのは負けないと言う気持ちです)
周りを見るといまいち士気が上がっていない人たち
(俺もそれは感じたがこのままじゃ士気じゃ危ないよな)
(勝つための知恵と戦術は私が出すことができます。といっても今回できるのはただの力押しだけですが
ですがあの精神状態ではどんな戦術を組もうとも成功はしないでしょう)
現状で士気が高いのは周泰ちゃんくらいか
(つまり俺がやる気を出させればなんとかなるのかな)
(なぜそこまでするのですか?昨日たまたま私が見つけて訪れただけの村です。逃げるというのも充分な良策だと思うのですが)
(確かにそうかもしれない。でもそれ以上に俺には周泰ちゃんに恩がある。右も左もわからない俺に猫好きの同士というだけで助けてくれた。その恩を返さないでここから逃げ出すようなクズみたいな男にはなりたくない)
レイハさんが戦術を託してくれたとして、俺にできることなどたかが知れているだろう。所詮つい昨日まで平和な日本で野球だけに打ち込んできた男だ。それでも何か、どんな形でもいいから彼女の助けになりたい
(了解しました。私が戦術を提示します。マスターはみなさんをの士気をなんとかしてください)
(任せろ、これでもキャプテンを任されて4番でエース、チームの柱だった男だ。こういう展開なら何度もひっくり返してきた!)
さっそく俺は急がしそうに走り回っている周泰ちゃんを捕まえる
「周泰ちゃん、ちょっといいかな?」
「なんでしょうか?」
「頼みがある、俺に手伝わせてくれ」
周泰ちゃんがわずかだが沈黙する
「ですが和焼さんは戦場など見たことないのですよね?そのような人に手伝わせるわけにはいかないです。
それに和焼さんはあくまで昨日たまたまこの村に訪れた人なのですし、逃げ出してもらって構わないのですよ」
レイハさんと似たようなことを周泰ちゃんが言う。二人とも俺のことを心配してくれているんだな
「確かに周泰ちゃんの言う通り戦場を見たこと無ければ、もちろん人が戦って死ぬような場面を見たことも無い。
それでも俺には周泰ちゃんにとてつもなく大きな恩があるんだ。その恩を返さぬままここを逃げだすような人間じゃない
確かに普通に戦場に立つのであったら俺は役に立たないかもしれない。だけど今をなんとかする知恵と戦術は昨日見せたレイジングハート出してくれる。
頼む、周泰ちゃんを手伝わせてくれ」
頭を下げる
「…… 和焼さんのお気持ちはありがたいです。ですが、仮にレイジングハートさんに有用な策があってとしてもこのままの士気では成功させるのは難しいはずです」
「そこが俺のできる数すくない仕事だ。
俺がみんなの士気を上げる。それくらいしかできないかもしれないけど、今はそれが一番大事なことだ。任せてくれ、絶対に成功させて見せる」
自信を持って言い切る
「その自信の根拠は?」
「俺が平和な世界にいたのは事実だ。生死はかかっているような状況など体験したことも無い。
だけど今みたいに辛く大変な状況はたくさんあった。その絶望的な状態からの逆転劇を何度も見て来たし、俺が仲間を引っ張って逆転を手繰り寄せたことだってある。
諦めなければどんな逆転劇だってある。野球ってそういうものだ。だからこそ一度諦めた人を叱咤し、その試合の中再び立ちあがらせて来た」
ある夏、日本文理対中京大中京の決勝戦。あの点差でも日本文理の選手は諦めずに戦い続けた。最後の打球もあと数十センチずれていたら逆転していたであろう打球。あの時は結局逆転できなかったが、あの試合を見ていたほとんどの人は逆転を信じて疑わなかったはずだ。
あんなドラマでもありえないような光景を、あの時の球場、テレビの前にいた人の空気を俺がもう一度見せようじゃないか!
「ですが周りに和焼さんを知っている人はいません。それでも大丈夫なのですか?」
「周泰ちゃんがいる。そして周泰ちゃんは今この集りで一番重要な立場の人間だ。その人の信頼を受けていることが分かれば皆信じてくれるさ」
「…………… わかりました。和焼さん、よろしくお願いします。
お願いするのですが、先にレイジングハートさんの策と言うものを教えてもらっても良いですか?」
「それは俺も気になってた。レイハさん、教えてもらっていいか?」
『構いませんが周りにあまり見つからないようにするために少しこの場を離れてもらっていいですか?』
レイハさんに言われて少し人混みから離れた場所に行く
『・ ・ ・ ・ ・ ・ 私の策はこういったものです』
「そんなことが可能なのですか!?」
「というか俺がそれをやって大丈夫なのかレイハさん?!」
『可能です。私が全力でマスターを支えます。
主力を欠く上で確実に勝つためには、この策が一番被害も少なく周りの労力も少なく済みます』
「それじゃあ鍵は和焼さんになるのですね」
「そうなるみたいだな」
まさかの展開だ……
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、力になりたいと言ったのは俺だ。その言葉に嘘は無い。任せてくれ」
まさか、まさかの展開だが俺が臆するわけにはいかない。こちらの不安を感じ取ったみたいの周泰ちゃんを、そして自分を落ち着けるために断言をする
これから命のやり取りをすることになる。正直言うとすごい怖い。けどいま居る世界はそういった所なんだ。
やらなければおそらくやられる
ならば・・・ならば俺はわずかな時間しか触れ合っていないが大切な人を守りたい
周泰ちゃんが皆の前に立つ
「みなさん聞いてください。この村に勝利を呼び込むと言う旅の人を連れてきました。この人は私たちに今一番必要な物を持っています。ですから彼の話を聞いて力を貸してください」
周りの人がざわめき始める。当たり前だ、いきなり見ず知らずの男が現れて村を救うなんて言い出すんだから
ちなみに今の俺はユニフォームに着替えなおしている。今欲しいのは周りを惹きつける力で、一般人にしか見えない新しく買った服では意味が無い。
少し奇抜でもこの服の方がいい、なにより俺のある意味勝負服だ。
「まずは自己紹介をさせてもらう。姓は砲流、名は和焼、字は無い。いきなりこんな怪しい人間が出てきても皆は信じられないはずだ。」
用意するのは二つの珠、レイジングハートとただの硬球
「俺が今からするのは二つ、一つはこの片方の球を投げた後に変化させる。だがこれはあくまで余興だ。今ここにいる人はほとんどが諦めに近い表情をしている。このままでは勝てる戦いでも、相手に気押されて負ける未来しか見えない。
だから俺が見せる余興に驚いて楽しんでくれ。まずは後ろ向きの気持ちを無くす。話はそれからになる。
そしてその後にこの紅い珠とともに勝利の策を教える。この世界では見たこと無い戦法かもしれないが上手くいけば被害を最小限に抑えたうえで最高の成果を出せるはずだ」
最初にやることは簡単、変化球を投げるだけだ。だがそれでも野球を、変化球を知らない周りの心を惹きつけ今の状態を打開するには十分なはず
「さっそく周泰ちゃんお願いできるか?」
「はい」
正直全く知らない人に全力で投げるわけにはいかなない。経験と言ってもわずかなものだがさきほどキャッチボールをした周泰ちゃんにキャッチャーをお願いする
「さっきまでとは違って全力で投げるし球が今まで見たことが無い変化をする。周泰ちゃんは俺を信じてグローブを動かさないでただ構えていてくれ」
「了解です。任せてください」
キャッチボールをしてさっきよりしっかりと肩を温める。間違ってすっぽ抜けましたなんてミスは絶対にできない場面だ
準備を終えたら18.44メートルの距離の確認。そしてホームベースとバッターボックスを地面に書く。マウンドのような傾斜はさすがに作れないがせめてこれくらいはしておきたい
「皆は周泰ちゃんの真後ろで見ていてくれ。勇気がある人は一人だけだがこの箱の中に立ってもいいぞ、ただ立ったら絶対にそこから動かないでほしい」
少し試すような感じなってしまうが声をかけてみる
「他の人がいないなら立ってみたいのですよ」
一人の金髪女の子が名乗りをあげてバッターボックスに入った
「名前は?」
「程立というのですよ」
「程立ちゃん、先に言っておくが俺が投げた球は最初程立ちゃんに向かってくるように感じると思う。だが先ほども言ったように絶対にその場から動かないでほしい」
「了解なのですよ」
了承を得たところで周泰ちゃんにグローブを構えてもらう。場所は内角高め、後ろから見ている人によりわかりやすい結果が欲しいからこそのコース
投げる球種は横に大きく曲がるスライダー。今は縦のスライダー投手の方が多いが俺のスライダーは横に滑る。プロで例えるなら岩瀬のスライダーみたいな変化だ。この変化球には投手を始めたころから今までずっとお世話になっている
「それじゃ・・・投げるぞ」
まわりの注目が集まる、ちょっと場違いかもしれないけど投手はこれが楽しい。ボールをもらってから投げる瞬間までみんなが俺を見ている
大きく振りかぶる、足を上げる慣れ親しんだ動作で思い切り腕を振り下ろし球を投げる
パシンッ
乾いた音がした。周泰ちゃんが構えていた場所に寸分狂わず球が収まる
後ろから見ている人からしたらバッターボックスにいた程立ちゃんに向けて投げられたはずの球が途中で曲がり始めて、気がつけば周泰ちゃんが最初に構えていた場所にボールが収まっていたはず
「こんな感じだ。後ろから見ていてもかなりの変化のはずだ」
「!!?!??!!」
後ろにいた人から歓声がわき始める。バッターボックスに入っていた程立ちゃんはじっと俺の眼を見ている。
避けないように言ったのは俺だがよく避けなかったと思う。かなりの度胸を持つ子みたいだ
「希望があればもうすこし投げるけどどうかな?」
後ろにいた人たちが盛り上がる。その後は程立ちゃんと変わってバッターボックスに入る人も現れたりで結構な盛り上がりを見せることになった。
これでとりあえずまわりの人たちの暗い空気を払拭できたはず
(お見事です。マスター)
(ここまでうまくいくとは思わなかったけど成功して良かったよ)
「実はこれは誰でも練習すればそのうち投げることのできるものだったりする。盗賊達を撃退したら興味がある人には教えたいと思う」
俺の言葉に元気な反応が返って来る。この調子なら完全に大丈夫だな
「皆表情が良くなったな。それじゃあ次は勝つための戦術だ」
また俺のもとに注目が集まる。
「レイジングハート、よろしく頼む」
『デバイスモード』
紅い珠が一瞬にして魔導師の杖にかわる。
再び驚き、ざわめきの声が聞こえる。直前まで小さな珠だったのに一瞬で杖になれば当たり前か
「俺たちが提示する作戦は簡単なものだ。この世界で言う「気」みたいなものを盗賊団にぶつけて俺がまとめて倒す。そのための力がこの杖と俺にあるというのを軽くみんなに見せたい」
ちなみに「気」についてはレイハさんが俺と周泰ちゃんに話をした時に、周泰ちゃんから聞いたものだ
『キャノンモード』
レイハさんが砲撃砲のモードになる
「今から見せるのは砲撃。実際に盗賊達に撃つのに比べると極端に威力を絞るから実際はこの何倍もの威力があると思ってもらって構わない。何か目標としてもいいものは無いかな」
「それでしたらあの岩を」
周泰ちゃんが示すのは広場に端にある成人した男くらいの大きな岩
「それじゃあ一応俺とあの岩から離れてくれ」
俺の声に反応して人々が離れる
「レイハさん頼むよ」
『ロード、カートリッジ』
これでカートリッジ残り6発
「ディバインバスター!」
最小限に威力を絞った砲撃。それでも周泰ちゃんが指定した岩を跡形も無い状態にして見せた
俺の実際の砲撃を見た人たちは、周泰ちゃん込みで皆唖然としている
「これの威力を上げたものを盗賊団にぶつけるつもりだ。皆は盗賊団を俺の射線上に誘導するだけでいい。これならここにいる人たちだけでも盗賊団に勝てると思うんだが」
・
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・
・
「あれならいけるんじゃないか?」
「ただ盗賊団をうまく誘導するだけならなんとか」
声一つなくなっていた広場から少しずつ声が戻り始める
「勝てる… 勝てるんだ!」
次の瞬間大きな叫声が広場に響いた
こいつに任せたらなんとかなるかもしれない、やってやろうじゃないか、そんな声が響きわたる。今の村の人たちは俺が話し始めた時とはかけ離れた表情をしていた
「和焼さんすごいです!」
一部始終を見てくれていた周泰ちゃんから尊敬のまなざしが嬉しい。頑張ったかいがあったものだ
「周泰ちゃんの協力があってこそだよ」
「私がやったことなど和焼さんの球を取ったことくらいです。そんな謙遜しないでください」
「いや、その球を取ってくれると言うのがすごいことなんだ。本当の初心者ならあの場面、つい球の方にグローブを動かしてしまってその後の変化についていけなくなってしまう。俺を信じてグローブを動かさなかった周泰ちゃんのおかげであの場面は成功したんだ」
「そうなのですか。そういってもらえるなら嬉しいです」
周泰ちゃんの表情がさらに明るくなる。そして本番はここからだ
「負けない気持ちは用意した。あとはレイハさんの戦術で勝利をつかむだけだ!」
『マスターの活躍しっかり見せてもらいました。なんとしても成功させましょう』
変わらぬ落ち着いたレイハさんの声。これほど頼もしいものもない
士気は上々作戦も上々、あとは盗賊を撃退するだけだ
今は集まった全員で肩を組んで円陣になっている。二重で円陣を作ったがそれでも人数が人数だけにかなり大きい
それでもやっぱり気合を入れるには円陣を組んで皆で声を出してこそだ。どうしても譲れないことだったから周泰ちゃんにわざわざお願いして作ってもらった
円陣の中心、結局あの後このまとまりのリーダーみたいなものになっている俺が音頭を取る
「皆準備はいいか?」
「「「おう!!」」」
「あえて言っておこう。今は人も足りないし、本当の大将もいない」
若干だが空気が重くなる
「だがそれを補う作戦と、その作戦を成功させるだけの士気を今の俺たちは持っている。俺が言うべき言葉ではないかもしれない。だけどあえて言わせてもらう、この村のために今ここにいる皆の力を貸してほしい」
重くなった空気が緊張感に変わる
「作戦の肝は俺だがそれを成就させるには皆の力が必要だ。皆いいか?」
緊張感が決意に変わる
そして
最後は野球部にいたときを思い出して
「絶対勝つぞーー!!!」
「「「オオーーー!!!」」」
作戦の詳細、と言っても説明する事はほとんどない。盗賊達を1列に並べてディバインバスターで掃討する。そのために両翼の人たちに盗賊達を横に広がらないように押し込んでもらうだけ。味方を巻き込まないようにするから一撃で全滅までは狙えないだろうが8割近く倒せればあとはなんとかなるだろう
ちなみに要のディバインバスターは俺自体に現状魔力が無いためカートリッジ頼み。5つ使えばあの盗賊達を倒す最低限の出力をレイハさんが確保してくれるらしい
『良かったのですかマスター?ここで使ったら残りのカートリッジは1つですよ』
「それで盗賊達を倒せるなら構わない。それにこの作戦を立てたのはレイハさんだろ?俺はその作戦に従うのみだ」
『今の戦力を把握しきれていない段階ではこれが最善です。おそらく最善ですが…… 』
「ならいいんだ。カートリッジは俺が魔力をコントロールできるようになったらまた作り直せばいい。それよりカートリッジシステムを使って大丈夫なのか?」
今さらだが俺みたいな魔法初心者が使えるようなものではない気がするのだが
『昔に比べてカートリッジシステムも進歩していますから大丈夫です。マスターは私を信頼してトリガーを引いてください』
「そうか。レイハさんがそう言うなら俺は信じるよ」
結局俺には魔力の知識が無いからそこら辺はレイハさん頼みになってしまう。それならレイハさんを全力で信じるのみだ
それぞれの部隊が所定の位置についた
中央は俺一人。右翼には周泰ちゃんが、左翼にはさっきバッターボックスに立ってい程立ちゃんが、それぞれ50人を率いる形で出撃準備を終えている
歪な形だが、今回は射線上に仲間がいたら困るためこれが最善の陣形。
余所から見たら伏兵なりを仕込んでいそうと思われるような陣形だ。だがむしろ相手が無駄にこちらの陣を警戒をしてくれたら助かる。どんな天才であってもいままで存在していなかったものを予知する事はできないだろう。俺が撃つディバインバスターはそんな攻撃だ
盗賊達が視界にはっきりとらえられるような距離に進んできた。こちらの陣形に少し驚きを見せたようだが、ほとんど止まることなく戦闘領域に入ってくる。
ジャーン ジャーン ジャーン
ドラが鳴り響く
こちらが決めていた戦闘領域に盗賊達が入ってきた
それと同時に俺の初陣が始まる
目の前に見える光景は俺が考えていたものなんか甘すぎて話にならない、地獄絵図そのものだった。血や肉片が飛び散り悲鳴や怒号が聞こえる
自分はあの最前線にはいないはずなのに自然と涙があふれ胃の中の物を吐き出しそうになっていた。
『大丈夫ですかマスター』
そんな俺を心配してかレイハさんが声をかけてくれた
「大丈夫じゃないな、実際に人の命が奪われるところなんて初めてみたし」
涙を拭いてわざと軽口を叩いてみる。そうでもしないと心が折れそうだ
『それでもマスターが決めないと後ろにある村の人たちが死ぬことになります』
「………… そうだなレイハさん。
戦術的にこうなっただけだが、俺だけ最前線に立たないなんてサービスもらっているんだ。やるべきことはやらないと」
俺がやらねばいけない。レイハさんに厳しいことを言われた方が気が引き締まったのは性分か
『ですがマスターにとっては初めてのことだらけです。今からのことも、これからのことも。
マスターのことは私が支えます。あまり気負いすぎないでください』
「ありがとうレイハさん」
視線を前方にやると周泰ちゃんが中心となって盗賊相手に善戦をしている。
あの背に背負った刀を使って何人もの人を切っていく。あの子だって頑張っている、反対側でも同じように皆が戦っている。
確かに気負い過ぎはよくない、それでも気負えるだけ気負っていこう
当初の予定通り盗賊達の陣形は縦に長くこちらに向かってくる形に変わってきていた。
当たり前だ、両脇から攻撃をしているが前後には全く人がいない。しかも正面は村の入り口近くに俺がいるだけなのだから
「そろそろか」
『そうですねマスター』
ついに俺の、レイハさんの出番だ
「それじゃあ、レイハさんよろしく」
『キャノンモード』
待機状態だったレイハさんが再び砲撃用の形態に変わる。俺は意を決してトリガーに指をかけた
盗賊達はそ俺とレイハさんの変化など気にせずこちらに向かってきている
『非殺傷設定は本当に付けなくてもいいのですか?』
「付けないでいいよ。きっとあの人たちは殺さなかったとこで、回復したらまたどこかの村を襲いに行くはずだ。被害を俺たちで止められるならそこで止めないと。
それに何より…… 俺の覚悟を決めるために」
『カウントを開始します。マスターはこのまま射線がずれないように構えていてください』
あらかじめ頼んでおいたドラを鳴らしてもらう。両翼の仲間たちがその合図で盗賊達から距離を置き始める。
あとはレイハさんのカウントに合わせてトリガーを引くだけだ
『スリー』
俺と盗賊達の距離が50メートルを切った
『ツー』
このトリガーを引いた時、俺は人を殺すことになる。
ほんの昨日までは野球をしているばかりの平和な生活だったのに…………
『ワン』
一度止めた涙が再びこぼれて来た
『ゼロ』
「ディバイィィン バスターーーーーーーー!!!!!」
涙でかすむ視界の中、叫びとともにトリガーを引く
白を基本にわずかに紫がかった閃光が盗賊達を包み込んでいく
昔アニメで見た砲撃の威力に比べたらお遊びかというくらい段違いに弱い、それでも縦長に伸びた盗賊達を呑みこんでいく。
俺からするととてつもなく長い時間だったが、実際にはどうだったのだろうか
閃光が終息したとき8割以上の盗賊が倒れていた。体の一部が無くなった、なんてスプラッタは無いがそれでも倒れている盗賊達はみな死んでいるはずだ
そして残った盗賊達も何が起こったかわからずに唖然として立っているだけ
「今だ!残党を!!」
最後、力を振り絞って声を出す。そしてそれに呼応した周泰ちゃん達が残りの盗賊を倒していく
そうやって俺の初めての戦は終わりを告げた。味方の死亡者は15人、怪我をしなかったものは俺を含めても10人を割る。
だが盗賊達は全滅させることができた。
結果だけをいうなら有得ない戦力差での有得ない圧勝
そして……
直接的にではない
だが
それでも確かに俺が初めて人を殺した瞬間だった
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時間が空きまくってすいません リメイク2話。リメイク前の、と言っても前の作品がもはや閲覧できないから説明するだけ無駄か…… |
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