緋弾のアリア 白銀の夜叉 |
第六話 ゲーセンでの安らぎ ファーストミッション バスジャック!
俺が強襲科で訓練をしていたら、キンジが棟内に入ってくるのを見た。 あいつ、本当にアリアの言うとおりに一回だけ事件を一緒に解決する気か? その事件が小さなものだといいなとだけ思っておくか。 キンジは強襲科の奴らに囲まれて死ね死ね言われていた。 ここでの死ねは「おはよう」や「こんにちは」のような挨拶なのだが俺は命を軽視するように聞こえるため言ったことは一度もない。 一通り訓練を終えると先に訓練を終えていたアリアが俺たちを門のところで待っていた。
「・・・あんた、人気者なんだね。 ちょっとビックリしたよ」と言うアリアだが、
「こんな奴らに好かれたくない」と心底嫌そうに言い返すキンジ。
「キンジも竜也も人付き合い悪いし、キンジはちょっとネクラで竜也は人間不信?って感じがするんだけどさ。 ここのみんな・・・特にキンジには一目置いてる感じがするんだよね。 竜也は昨日あたしと戦って勝ったから当たり前なんだけど」
キンジは俺がアリアに勝った事を知ってびっくりしたような面をしていた。 戦いの様子をアリアが事細かにキンジに伝えていた。 キンジは俺が超能力を使えることが誰に調べてもらったかは知らないが情報通りだったことにありえないという目をしていた。 アリアもキンジから俺が小国を一人で潰せると言われるRランクに最も近い武偵であることを聞いてびっくりしていたようだった。
「あのさキンジ、竜也」と話を切り出すアリア
「なんだよ」、「なんでい」とそれぞれのリアクションを見せるキンジと俺。
「ありがとね」
今更何を言ってやがると俺とキンジが言い返す。 キンジは事件を一件解決したらすぐに探偵科に戻ると言うがアリアは強襲科を歩いているキンジはみんなに囲まれてかっこよかったと言ってきた。
ふとなんだかちょっと切ないような顔で「あたしになんか、強襲科では誰も近寄ってこないからさ。 実力差がありすぎて、誰もあたしに合わせられないのよ」と言ってきたアリア。
自分に合わせられる実力を持っているかでしか人を見ないんじゃ、何処にも居場所は作れねーし誰も寄ってこねーし親切も届かねーだろが。 俺の場合は自分で拒んでるからあんまり人は寄ってこねー。 理由はあいつらが信用できねーし信用してあいつらに裏切られることが、何より信用されて俺があいつらを裏切ることが怖いからな・・・
「なるほど、名前の通り『独唱曲(アリア)』ってことか」と納得したように言うキンジ。
「キンジにしてはよく知ってるじゃない。 そう、『アリア』はオペラで一人で歌うパートのこと。 あたしはロンドンでも、ローマの武偵高でもそうだった」
アリアもきっと寂しいと思ってたのかもしれないな。 俺もあいつに会うまでは独りだったし、あいつが死んでからまた独りに戻っちまって少し寂しかったからな・・
「で、ここで俺たちを奴隷にして『三重奏(トリオ)』にでもなるつもりか?」とキンジが言うとアリアは何故かクスクス笑った。
「あんたも面白いこと言えるじゃない」
「面白くないだろ」
「面白いよ?」
「お前のツボが分からん」とまるで痴話喧嘩のような会話をしているキンジとアリア。
「やっぱりキンジ、強襲科に戻ったとたんにちょっと活き活きし出した。 昨日までのあんたは、なんか自分に嘘ついてるみたいで、どっか苦しそうだった。 今のほうが魅力的よ」とアリア
だがそんなことはないと否定するキンジ。 まあ、あいつは武偵辞めたがっているから仕方ねーけど、何か変だな・・・
俺はゲーセンに寄っていくから一人で帰れとキンジは言うがバス停までは一緒だとかさらにはゲーセンって何?とまで言うほど世間知らずなアリア。
一緒に遊んであげる、ご褒美よというアリアにそんなのは罰ゲームだろと言い返すキンジ。 さらには顔を見たくないと互いに言い合うくせにキンジに並走するアリア。 ああもう面倒くせえ! 業を煮やした俺はアリアの腰を捕まえて、キンジを俺の背に乗せた。
「お、おい! 何だよ竜也!」
「な、な、な、何するのよ! 変態!」
「ああもう、うっせえなおめえら! どうせ行き先は同じなんだろ? だったらこうしてる方が楽にゲーセンに着くだろが!」
俺はキンジとアリアを黙らせてゲーセンに向かった。
そして適当に解散して俺は昔はまっていたムシキングのようなトレーディングカードゲームのガンバライドをやり、敵を一番好きな仮面ライダークウガ・ドラゴンフォームのスプラッシュドラゴンで倒してゲームを終えるとアリアがクレーンゲームで苦戦していた。 するとキンジがアリアを押しのけてクレーンを操作した。 なんだか分からないネコ科動物のぬいぐるみが尾に引っかかって三匹一緒に穴に落ちた。
「やった!」 「っしゃ!」 「へっ」
俺たちはなぜだかうれしくなりアリアとキンジはハイタッチし、俺はサムズアップをしていた。 そして恥ずかしくなって視線をそっぽを向き合った。
「「フン」」 「ケッ」
そのぬいぐるみのタグには『レオポン』と書いてあった。 ああ、どこかで聞いたことがあるなと思ったらおばあちゃんが教えてくれたオスのヒョウとメスのライオンを交配して生み出された子孫を残せない生き物か。
そんなことを思っている俺とは違ってアリアは「かーわぁーいぃー!」とか言ってレオポンのぬいぐるみを抱きしめている。 そして俺とキンジに一匹ずつ携帯のストラップになっているレオポンを渡してきた。 携帯にはすでに俺があいつからクリスマス祝いに贈られたビーズのストラップがついていたが、それも一緒に付けることができた。 アリアに言われた人間不信もキンジやアリアと一緒にいたら治ってまた人を信じることができるかもしれない。 そう思って俺は家に帰って眠りに付いた。
次の日に俺が一時間目の授業が始まるために訓練を終えて教室に向かうとアリアから電話が掛かってきた。
「もしもし」
「事件よ! 学園島を周回する道路で合流よ! あたしが来いと言ったらすぐ来なさい!」
俺はすぐに駐車場に停めてあったパンペーラ250に飛び乗る。 こいつはオフロードでも時速100kmで走れて平地では3分で最高速度の時速130kmに到達する優れもののバイクだ。 しばらく走っていると隣にアリアが運転し、キンジが同乗する車が並んだ。
「何が起きたんだ?」
「バスジャックよ。 武偵高の通学バス。キンジが住む第三男子寮の前に7時58分に停留したやつ」と状況説明をするアリア。
「マジかよ、あのバスには武藤を始めとする武偵高のみんながすし詰め状態で乗ってるんだぞ」と驚くキンジ。
キンジは犯人は車内にいるのかと聞くがアリアはバスには爆弾が仕掛けられているから多分いないと答えた。
「キンジ。 これは『武偵殺し』。 あんたの自転車をやったやつと同一犯の仕業だわ」と説明するアリア。
マジかよ、あんなちゃちな爆弾が『武偵殺し』の仕業なのかよ。
最初はバイク、次が車、その次がキンジの自転車で今回がバスという風に『武偵殺し』は『減速すると爆発する』爆弾を仕掛けたらしい。 だが遠隔操作に使う電波にパターンがあってキンジを助けたときもその電波をキャッチしたと説明するアリア。 だが『武偵殺し』は逮捕されたはずだというキンジ。 まあ世間的にはそうなっているが・・・
「それは真犯人じゃないわ」と言うアリア。 俺も心の中で頷く。
話についていけてないキンジが何か聞こうとするがアリアはそれをさえぎり、背景の説明をする時間もキンジが知る必要もない。 ただパーティーのリーダーの自分に従え、ミッションは車内にいる全員の救助だと言い切って話を打ち切った。
「武偵憲章1条! 『仲間を信じ、仲間を助けよ』! 被害者は武偵高の仲間よ! それ以上の説明は必要ないわ!」と言い切り車を加速させるアリア。
チッ、綺麗事をペラペラと使いやがって・・・
アリアはキンジが実力を見せるのを楽しみにしていると言ったがキンジはそんな力は無いと言う。 俺もここらでキンジの実力を把握させてもらうか。 期待は全然してねーけど。 信じられるのは自分の強さだけだ。 今はな・・・
キンジは警視庁と東京武偵局は動いてないのかと聞くが動いているが相手は走るバスだから準備が必要とアリア。 ジャックされたバスは都心に向かっているらしい。 キンジは都心に入れれば警察や武偵局の準備を遅らせてさらに思い通りにできるだろうと言った。 へえ、それなりにキンジも頭は働くのか。 アリアは自分はバスの外側をチェックするから俺には敵が接近した場合の迎撃、キンジには車内での状況を確認して連絡することを指示した。 武偵はその場での判断で物事を解決する傾向があるがアリアの場合は行きすぎだ。 有無を言わさず現場に一番乗りして圧倒的な力で一気にけりをつける。 圧倒的な力で制圧するのは俺も同じだが最低限の冷静さは持っているぞ。 これじゃどこの国でも『独唱曲』になるのは当たり前か・・・
UZIを積んでバスを狙っているルノーのタイヤをアリアがガバメントで撃ちぬき、俺たちはそしてバスに乗り移る。 俺は屋根に上って様子を窺っているところに通信を受けた。
「お前の言ったとおり、このバスは遠隔操作されている。 こっちはどうなんだ」
「爆弾らしいものがあるわ! カジンスキーβ型のプラスチック爆弾、『武偵殺し』の十八番よ。 見えるだけでもーー炸薬の容積は3500立方センチはあるわ!」
何!? バスを爆破するのにこれだけ使うのかよ。 爆発したら電車でも吹っ飛ぶじゃねーか。 突然一台のオープンカーがバスに突進してきてバスを揺らす。 怒った俺はロッドを取り出して高速で回転させる。
「白龍真空破(はくりゅうしんくうは)!!」
回転するロッドから放たれた龍を象った竜巻でオープンカーをふっと飛ばした。 オープンカーは横転してるから後続が来ても少しは足止めできるだろう。 そう思ったが急に後続が来てUZIをぶっ放す。 何とか耐えて後続をさらに横転させた。 おかしい。 何でこう次々に敵が襲って来やがるんだ!? 考えていると急にキンジが車内から出てきた。
「危ないわ! どうして無防備に出てきたのよ!」と怒るアリアに
「熱感知センサーを探してるんだ!」と怒鳴り返すキンジ。
チッ!熱感知か! 道理で次々と後続の敵が来るわけだぜ。 しかも迎撃をする相手が来る事を完全に予測しやがるなんて・・・
俺が憤りを感じる間も無く正面に陣取ったルノーがUZIを放ってきた。 俺とキンジを狙っていたようだが俺のほうは自分の周囲に風を発生させて銃弾を切り裂いてなんとかなった。 だが・・・
「アリアーーーアリアぁぁっっっ!」と叫ぶキンジ。
キンジはほとんど無傷なのに対し、アリアは血を少し滴らせていた。 あいつ、キンジを守ったのか。 畜生!俺がもっと早くキンジとアリアの周りに風を作っていれば・・・ そう悔しがる俺と倒れたアリアを抱えるキンジを乗せたバスに一台のヘリが並んできた。 それに乗っているのはアリアより少し大きいくらいの女で今では旧式の銃と言っていいドラグノフを構えていた。
「私は、一発の銃弾・・・」
詩のような台詞を言うとその女はドラグノフを発砲し、車体の下に付いていた爆弾を撃ち落した。 遠隔操作で起爆された爆弾の爆風が打ち上げた水が俺たちにかかってきたが俺はものすごく後味の悪い思いをした。 何でもっと早くキンジたちを守る手を打たなかったのか、キンジを参加しなくていいようできなかったのかと思っていた。
俺が名前を知らなかったその女はレキと名乗り、アリアはキンジと俺と組めばどんな事件でも解決できると言っていたと伝えた。 それを聞いてまた後ろめたくなる。
病室を訪れるとアリアが自分の額の傷を見ていた。 どうやら一生残っちまうものらしい。 俺の心に残った傷のように・・・
入ったらなにやら銃の手入れをしているように見せかけているようだった。
自分は武偵憲章に従ったからキンジを助けただけと言ったアリア。 そんな綺麗事を馬鹿みたいに守るなというキンジにキンジのような馬鹿を助けた自分は馬鹿だったかもねとアリアは言い返した。しばらく犯人について話していたが理子たちが徹夜で調査した資料をアリアは無造作にゴミ箱に捨てやがった。 そして俺とキンジはもう用済みだ、帰れと言って来た。
「あたしはあんたたちに期待していたのに・・・現場に連れて行けば、また、あの時みたいに実力を見せてくれると思ったのに! 竜也に比べてキンジは・・・っ!」
「お前が勝手に期待しただけだろ! 俺にそんな実力は無い! それにもう・・・俺は武偵なんか辞めるって決めたんだ! お前はなんでそんなに勝手なんだよ!」
俺はキンジの気持ちもアリアの気持ちも理解はできないが思いやれる。 どう思いやればいいんだ?
「勝手にもなるわよ! あたしにはもう時間が無い!」
「何だよそれ! 意味が分かんねーよ!」
「武偵なら自分で調べれば!? あたしの・・・あたしの事情に比べればあんたが武偵を辞める事情なんて・・・
チッ!!
「大した事無いに決まって・・・」
バキッ!!!
気がついたら俺は・・・アリアの顔面をぶん殴っていた。
「それ以上言うんじゃねえ・・・いい加減にしろよアリア!! 前にも言っただろ! てめえにとっちゃ大した事無いことでも、キンジにとっては重要な事かもしれねーって! それからキンジ!! てめえも余程許せないこと、譲れないことががあるなら言葉ででも行動ででもいいからはっきり相手に伝えろよ!! どうして武偵を辞めたくなったのか、もっと早くこの場合は言葉で伝えるべきだったんじゃねーのか!?」
キンジを病室から追い出してアリアと睨み合う。
「何よ竜也。 あたしを責めるつもりなの?」
「ああ、たっぷり説教してやる!! あいつはなぁ、去年海難事故でたった一人の肉親だった兄貴を亡くしてるんだぞ!! しかも船に乗っていたたくさんの乗客を助けた上でだ。 それなのに世間は兄貴を責めて、その矛先はキンジにまで向けられたんだぞ!? これでもキンジの事情が大した事無いと言えるのか!?」
「言えるわよ!! たった一人の肉親のお兄さんが死んで責められたのは確かに辛いことかもしれない。 でも、お兄さんの分も活躍してお兄さんを見下した世間を見返せばいいじゃない!!」
「ハッ、見返すね。 戦うことしか知らない世間知らずの貴族様には庶民の考え方を勉強することもできないだろうから言えるんだろうな。 おばあちゃんが言っていた。 若いうちから人を使う事を覚えるとろくな大人にならないってな。 武偵なら自分で情報を集めろとてめえは言ったが、人の実力だけじゃなくてその人が何に喜び何に怒り何に悲しむかを知るべきだったな」
「何度も言ってるでしょ!! あたしには時間が無い!! 他人のことをいちいち気にかけている暇なんて無い!! 勝手にもなるって!!」
「てめえにそんな権利はねえ!!」
俺の一喝でアリアは黙りそして俺から視線を逸らした。
「もういいわよ。 あたしが探していた人はあんた達じゃなかったのね」
「俺もがっかりだぜ。 せっかく信じようとしていた奴がこんなに器の小さい奴だったとはな。 信じなくて正解だったぜ」
互いに言い捨てて俺は病室から去った。
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恋人を失い、誰も信じられなくなった主人公がアリアたちとの触れあいで本当の強さを得ていく | ||
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