真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ二十二
[全17ページ]
-1ページ-

 

 〜前回の話より少しだけ時は遡った頃〜

 

「ご主人様、やはり劉表さんと劉璋さんは袁術…というより張勲さんの誘い

 

 に乗ってこちらへ攻めてくるようです」

 

 朱里の報告に俺は頷きを以て返す。

 

 張勲さんがその二つの勢力に何かしらの働きかけを行っていたのは既に

 

 把握済みだった。そして時期と勢力の位置から敵方になるであろう俺への

 

 攻撃である事は明白であった。

 

「ここまで予想通りだと拍子抜けしそうだけどね」

 

「油断は禁物ですよ」

 

「わかってる。さて、それじゃ手筈通り、劉璋軍の方は馬騰さんにお任せ

 

 するという事で、俺達は劉表…というより蔡瑁討伐に参りましょうかね」

 

「御意です」

 

 あえてここで蔡瑁の名前を出したのは、張勲さんの誘いに乗ったのも、現在

 

 劉表軍を動かしている中心にいるのも蔡瑁だからだ。その理由は後で述べる

 

 として、今は向こうの機先を制するのが最重要である。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「では、襄陽へ出撃するのは霞、輝里、流琉、丁奉さん。そして俺と朱里だ」

 

(雛里は既にこの時点で水関への援軍で出発している)

 

「北郷様!何故、私が留守番なのですか!!」

 

 岳飛が不満の声をあげる。

 

「岳飛に留守番をお願いするわけではないよ。君には別任務がある」

 

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

「岳飛にはこちらへ合流する孫呉の軍と共に、南陽に戻って来るであろう袁術軍

 

 の足止めをお願いする。俺達も襄陽を攻め落としたら即座に合流する」

 

「了解しました!」

 

 こうして北郷軍は留守を水鏡先生と涼に任せて各方面に散っていった。

 

 

-2ページ-

 

 場面は変わって、ここは益州と南郷郡の境の近く。

 

 張勲より要請を受けて、劉璋軍が南郷郡へ攻め入ろうと進軍していた。

 

 ちなみに何故、劉璋が張勲の要請を受けたかというと、単に張勲の脅しに屈したに

 

 過ぎないからである。益州は前太守であった劉璋の父である劉焉の死後、内紛が

 

 続いていて劉璋にはそれを止める力も無く、袁紹の檄に応えられない状況だったの

 

 だが、そこへ張勲より『今回の檄に参加出来なければ董卓討伐後、袁家の総力を以て

 

 益州を攻める事になる。それを回避したければ、董卓側に与する荊州南郷郡太守の

 

 北郷を攻めよ』という書状が届いたのである。

 

 実際、参加出来なくてもいきなり袁家に益州を攻める余裕などあるはずもないのだが、

 

 大陸の状況より自分の保身しか考えていない劉璋は『袁家』という名前だけでその脅し

 

 に屈した形となり、自分の将の中で軍備が整っている黄忠・厳顔・魏延に南郷郡攻撃を

 

 命じたのである。当然、劉璋自身は成都から出る事は無かった。

 

 命じられた三将は苦々しく思いながらも止む無く出陣したのであるが、南郷郡に近づい

 

 た所で思わぬ者達と遭遇した事により、それ以上進軍出来ない状況になっていた。

 

 

 

-3ページ-

 

「紫苑様、桔梗様、北方に見える軍の旗印は『馬』です!」

 

 魏延の報告に黄忠・厳顔の二人は顔をくもらせる。

 

「やはりか…しかしここで馬騰殿の軍と鉢合わせとはの〜」

 

「向こうの切先はこちらを向いているという事は馬騰殿は董卓側に付いたという事かしら…

 

 馬騰殿には死んだ主人共々お世話になったし、戦いたくはないのだけれど…」

 

「こうなれば馬騰軍であろうと何であろうと全て粉砕してしまいましょう!私に先陣を!!」

 

 魏延はそう息巻くが…。

 

「たわけが!!こちらは歩兵・弓兵が中心ゆえ、機動力では完全に負けている。そんな事を

 

 すればやられるのはこっちじゃ。そんな事もわからんのか、焔耶!!」

 

 厳顔が怒鳴りつける。

 

 そこへ伝令の兵士が来た。

 

「申し上げます!馬騰殿より黄忠様宛の手紙が来ております!」

 

「私に!?」

 

 黄忠は驚きながら手紙を受け取り中を見る。

 

 その内容は…。

 

『黄忠殿、ご無沙汰している。旗印から貴女がいるのがわかったので、一筆啓上した次第で

 

 ある。さて、貴女方が劉璋殿よりの命を受けて南郷郡へ攻め入ろうとしているのは知って

 

 いる。そしてそれが袁術の腹心である張勲の差し金である事も。

 

 しかし、我々は董相国こそ漢を立て直せる器量の持ち主であると信じ、力を貸す事にした

 

 ものである。そして、董相国と志を共にする南郷郡太守の北郷殿の頼みにより、北郷殿の

 

 背後を脅かさんとする者どもを成敗する為にこの地に出張って来たものでもある。

 

 しかし、知己である黄忠殿と戦う事は忍びず、願わくはこのまま益州へ退いていただける事

 

 を願い、この文を送るものである。但し、それでも南郷郡へ攻め入らんとするのならば、

 

 我々は全力を以て相対する覚悟であるので、そちらも相応の覚悟で来られたし』

 

「くそっ、やはり馬騰殿は敵方に付いたのか。向こうがそういうつもりであるなら我々とて

 

 全力でそれに相対するしかありません!紫苑様、桔梗様、迷っている暇はありません!!」

 

 魏延は戦う事を主張するが…。

 

「馬騰殿がこれほどまでの覚悟と備えでここまで来ているのであれば、このまま戦うのも南郷郡

 

 へ進むのも危険だな」

 

「ええ、正直私達には勝ち目は無いでしょうね」

 

 厳顔と黄忠は慎重論を口にする。

 

 

-4ページ-

 

「ならばこのまま益州に帰るのですか?」

 

「それも出来んな」

 

「ええ、このまま戻っては劉璋様よりどのようなお咎めを受ける事になるか…」

 

 魏延の疑問に二人は苦々しげに答える。

 

「ならばどうすれば…」

 

「このまましばらくここに留まるしかないかしら…」

 

「忌々しいがそれしかあるまい。おそらく馬騰殿もそれが狙いであろうがな」

 

「どういう事ですか、桔梗様?」

 

「さすがにこのまま儂らが戻ったら劉璋のくそ坊主の事だ、袁家のご機嫌を取る為に今度は

 

 全軍で攻めようとするじゃろう。そうなってはさすがの馬騰軍とはいえかなりの損害を

 

 覚悟せねばなるまい。だが儂らがここに居続ければ向こうの優位は変わらない。馬騰殿

 

 からすれば南郷郡へ攻めさせなければ勝ちであるしな」

 

「それなら一度退いて劉璋様に援軍を…」

 

「でもそうすれば私達は罪に問われるわ。一度も戦わずに敵前逃亡したと言われてね」

 

 魏延の言葉に黄忠は即座に異を唱える。

 

「あのくそ坊主ならそう言うじゃろうな。ここは儂らだけで何とかせねばなるまいて」

 

 厳顔のその言葉で一応この場に滞陣という事になったのだが…その夜。

 

「桔梗様はあのように申されたが、我らが状況を打破するには馬騰軍を撃破するしかない

 

 のは明白だ。ならば我が手勢で夜襲をかけて馬騰軍を追い払う!行くぞ!!」

 

 魏延は手勢を率いて馬騰軍に夜襲をかけようと密かに陣を抜け出した。

 

 

-5ページ-

 

 〜馬騰軍side〜

 

 時間は劉璋軍と遭遇した時に遡る。

 

「劉璋の奴め、袁家如きにまんまと騙されおって…」

 

 そう口ごちるのは総大将である馬騰であった。

 

「母様!あいつらは月の敵なのでしょう!!ならばこのまま撃破して…」

 

「馬鹿か、お前は!ただ闇雲に正面から攻めかかった所で無駄に兵を犠牲にするだけだと

 

 何度言えばわかるんだ!!そこらのゴロツキと喧嘩するわけではないのだぞ!!」

 

 娘の馬超が血気に逸るのを馬騰は一喝して黙らせる。

 

「そんなの母様に言われなくても…」

 

「いいや、わかってない。いいか、翠?お前もいずれは涼州連盟を率いる身となるのだ。いつ

 

 までも自分の膂力のみに頼ってばかりの戦では…」

 

「あ、あの〜葵伯母様?敵が目の前にいるし、翠姉様に説教している場合じゃないんじゃ…」

 

 馬騰が馬超に説教を始めようとした時に姪の馬岱が会話に割り込んできた。

 

「ああ、そうだったな。説教は武威に帰ってからだな」

 

「帰ったら説教かよ…」

 

「何か言ったか?」

 

「いいや、何にも!」

 

 一応、母子の会話が一段落した所で馬岱が再び馬騰に話しかける。

 

「それで?これからどうするの?」

 

「どうもしないさ。向こうが進軍しない限り私達もここで待機だ。それが輝里から聞いた北郷殿

 

 からの依頼の内容だからな」

 

「輝里姉様から!?武威に来てたの?だったら、たんぽぽも会いたかったのに〜」

 

「私と会ってすぐに帰ったからな。あっちはあっちで忙しいようだ」

 

 

-6ページ-

 

 〜輝里が武威に来た時の回想〜

 

「それでは、我が主、北郷一刀よりの依頼を伝えます。馬騰殿には南郷郡へ攻め寄せるであろう

 

 劉璋軍の足止めをお願いしたいとの事です」

 

「劉璋!?どういう事だ?北郷殿は袁紹の言いがかりで悪者にされた月…董卓と共に反董卓連合と

 

 戦うのであろう?てっきり、私達もそれに合流するものだとばかり思っていたのだがな。私達

 

 は同じ涼州の人間として董卓が如何に領民思いの名君かを知っている。そして北郷殿からの話で

 

 今回のが嫉妬から来る言いがかりである事も知った。だから我らは袁紹とそれに同調する者達と

 

 戦いたいのだ。それを何故劉璋などと…」

 

 輝里からの依頼に対し、馬騰は不満そうに言う。

 

「確かに我々は董卓様と共に戦う道を選びました。しかし、洛陽で合流するわけではなく、連合の

 

 背後を脅かすというのが諸葛亮の立てた基本方針なのです」

 

「なるほど…しかしそれなら全軍を以て袁術の南陽を攻めるのではないのか?」

 

「最初はそう考えていたようですが、どうやら袁術の側近である張勲がそれに感づいたようでして…」

 

 輝里の話で馬騰は全てを理解する。

 

「…そうか!張勲は劉璋の奴に北郷殿の背後を衝くように、けしかけたわけだな」

 

「はい、劉璋だけでなく劉表の所にも行っているようです」

 

「なるほどな。という事は、北郷軍の矛先はまず襄陽ってわけだね?」

 

「さすがは葵様、その通りです」

 

「私だって同じ立場だったらまずそこを狙うさ。当然、根回しは済んでるんだろ?」

 

「そこまでお見通しですか…朱里の言う通りだった」

 

 輝里の呟きに馬騰は疑問を抱く。

 

「おや?今のは多分、諸葛亮の真名だね。という事は、諸葛亮は私が全てを理解するって見抜いて

 

 いたってわけかい?」

 

「はい、諸葛亮は『馬騰様ほどの人なら張勲さんの動きをお知らせした時点で全て解ってくださると

 

 思います』と言ってました」

 

「はは、確かに諸葛亮の知恵は神がかり的だね。…では、北郷殿に伝えてくれ。全て了解した、劉璋軍

 

 は私が撃破するので安心してくれと」

 

「それについてなのですが…諸葛亮からは『多分、劉璋軍は馬騰様の軍が現れた時点で動かなくなる

 

 だろうから、向こうが動きを見せるまで手を出さなくても大丈夫です。但し、魏延という人が奇襲

 

 をかけてくる可能性があるのでそれだけは気を付けてください』と伝えるように言われました」

 

「…なるほど、確かに。じゃ、そうさせてもらうよ。私だって犠牲は少ない方がいいからね」

 

「よろしくお願いします。では私はこれにて」

 

「もう帰るのか?折角だから一晩位泊まっていったらどうだ。翠や蒲公英もお前に会いたがってたぞ」

 

「私も翠や蒲公英に会っていきたいのはやまやまなのですが、我らはすぐに次の行動に移さねばなりま

 

 せんので今日の所はここで失礼いたします。二人にはゆっくり時間がとれる時にまた会いましょうと

 

 伝えておいてください」

 

 輝里はそう言って帰っていった。

 

 

-7ページ-

 

「ここまでは諸葛亮の予想通りか…ならば、今夜辺りだな」

 

「今夜って?」

 

 馬騰の呟きに馬岱が首を傾げる。

 

「ちょうどいい。蒲公英、今夜の見張り番はお前に任せる」

 

「ええ〜〜っ!夜の見張り番なんて、たんぽぽ嫌だよ〜!」

 

「何を言うか、実はな…」

 

 馬騰は馬岱に耳打ちする。

 

「へぇ〜、そうなんだ。そういう事なら引き受けた!それじゃ伯母様、これから準備するんで!

 

 ふふ、楽しみになってきたぞぉ〜〜」

 

 馬岱はそう言うと嬉しそうに駆けていった。

 

「やれやれ、現金な奴め。さて、魏延とやらが話に聞いた通りの者ならば、これで…。しかし

 

 こんな仕事はさっさと終わらせて月を悪者扱いした連中に涼州の人間の怒りを思い知らさせて

 

 やりたいものだがな」

 

 馬騰はそう一人ごちると自分の天幕に引き返していった。

 

 

 

-8ページ-

 

 そしてその夜。魏延は単独で馬騰の陣近くまで来ていた。

 

「よし、あそこが馬騰の陣地だ。行くぞ!」

 

 魏延の号令と共に、魏延隊は攻撃を仕掛けるが…。

 

「魏延様!誰もいません!!」

 

「こちらもです!全てもぬけの殻です!!」

 

「くそっ、勘付かれたか!?仕方ない、一旦引き揚げて…『ぎゃああああ!!』どうした!!」

 

 魏延が悲鳴のした方向を見ると、どこからともなく飛んで来た矢に貫かれた兵の姿があった。

 

 それと同時に多数の矢が魏延隊のいる所へ飛んで来た。

 

「くそっ、こんな矢で!」

 

 魏延は必死に矢を弾き返すが…。

 

「ぐわあああああ!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 魏延隊の兵は次々と矢に倒れる。

 

「このっ、このままやられてたまるか!私に続け!!」

 

 魏延は矢が飛んで来る数の少ない方へ突撃をかける。

 

 すると、その方向にいた馬騰軍の兵は退き始める。

 

「ふん、西涼の兵といえどもこんなものか。おらおらどうした!誰かこの魏延と遣り合おうって

 

 いう者はいないのか!!」

 

 

-9ページ-

 

 調子に乗った魏延がそう叫ぶと…。

 

「ここにいるぞぉーーーーーーー!!」

 

 そう言って現れたのは馬岱であった。

 

「何だ、貴様は!?子供に用は無い、馬騰はどうした!!」

 

「なっ、たんぽぽ子供じゃないもん!!大体あんたみたいなのに伯母様がわざわざ来る

 

 わけないじゃない。あんたの相手はこの馬岱だ!!」

 

「ほう、お前は馬騰の縁者か。ならば、お前から血祭りだ!!」

 

 魏延は得物である鈍砕骨を振り回す。

 

「うわっ、危なぁ。でも、そんなの当たらないよ〜だ」

 

「何だと、この!」

 

 魏延は馬岱に対して何度も攻撃を仕掛けるが…。

 

「ふふ〜ん、こっち、こっち」

 

 馬岱はそれを巧みにかわす。

 

「くそっ!ちょこまかと逃げてばかりとは…お前、ちゃんと戦う気はあるのか!!」

 

「何言ってるのさ、当たったらつぶれちゃいそうな攻撃なんて普通かわすに決まってる

 

 でしょう。そんなのも分かんないなんて、あんたって馬鹿なの?脳筋なの?」

 

「この…言わせておけば!!」

 

 馬岱の言葉に激昂した魏延は執拗に馬岱を追い回す。

 

 そして馬岱を岩壁の前まで追いつめる。

 

「もう逃げ場は無いぞ!私を虚仮にした罪を思い知れ!!」

 

 魏延は止めをさそうとするが…。

 

「ふふん、馬〜鹿!!」

 

 馬岱に迫る一歩手前で魏延の足元が崩れる。

 

「な、何だ!!」

 

 それは馬岱が用意した落とし穴であった。

 

「卑怯だぞ、落とし穴など!!」

 

「たんぽぽは、あんたと違ってここを使って戦うんだよ〜」

 

 馬岱は自分の頭を指でとんとんと叩きながら言った。

 

「馬騰が姪、馬岱!劉璋軍が将、魏延を召し捕ったり〜!!」

 

 

-10ページ-

 

「…それで、お前は勝手に攻め入って捕まった挙句、こうやって丁重に送り返されて来た

 

 というわけか?」

 

 厳顔の問いに魏延は返す言葉も無かった。

 

「魏文長、お前は軍令違反を犯した上に多数の兵を死なせた。その罪は極刑に値する」

 

 厳顔の言葉に魏延は顔を凍りつかせる。

 

「しかし、今回は罪を減じ、巴郡に戻っての謹慎を申し渡す」

 

「桔きょ…」

 

「そして、儂が良いというまで儂の真名を呼ぶ事も禁ずる!!」

 

「…!! …わかりました、厳顔様」

 

「わかったのなら早々に立ち去れい!!」

 

 厳顔にそう言い渡された魏延はわずかの供廻りと共に巴郡へ戻っていった。

 

「桔梗…」

 

「すまぬ紫苑、迷惑をかけた」

 

「いいのよそれは。でもまさか馬騰殿が焔耶ちゃんの助命を願ってくるなんて…」

 

「ああ、それが無かったら儂はあいつを死罪にせねばならなかった所だ。馬騰殿に借りを

 

 作ってしまったな」

 

「でも多分それが…」

 

「そうだな、少なくとも儂らは馬騰殿の為にしばらくここに留まって睨み合いをしてみせ

 

 ねばならなくなってしまった。焔耶の助命を言ってきたのは儂らにそうさせる為のもの

 

 じゃろうて。…それも仕方ないか、少なくともここにこうしておればあのくそ坊主に

 

 うるさく言われんですむだろうしな」

 

 厳顔と黄忠はそう言って苦笑いを浮かべた。

 

 

-11ページ-

 

「何で私じゃなくて蒲公英だったんだよ!!」

 

 馬超は攻め寄せて来た魏延の対処を自分じゃなく馬岱に命じた事に対する不満をぶちまけ

 

 ていた。

 

「何度言ったら分かるんだ。今回は翠より蒲公英の方が適任だっただけだ」

 

「だから何で蒲公英の方が適任だったのかって聞いてるんだよ!!私だったら落とし穴なんか

 

 作らなくたってあの魏延とかいう奴を捕まえられたんだ!!」

 

「むう〜っ、翠姉様それどういう意味!?まるでそれじゃ、たんぽぽが落とし穴でも使わな

 

 きゃ敵将一人捕まえられないって言ってるみたいに聞こえるけど!?」

 

「ああ、そうだな。お前の腕じゃまだまだ無理だな」

 

「なっ、いくら姉様でも言っていい事と悪い事が…」

 

「何だ、やるっていうのか!?」

 

「二人共、やめんか!!」

 

 馬超と馬岱が喧嘩になりそうな所で馬騰が一喝する。

 

「翠、確かにお前の方が腕は上だ、そしてあの魏延とか言う奴とも十分すぎる位遣り合えただろう

 

 が、今回は手早く奴を捕まえる必要があったんだ。おそらくお前だったら魏延と何十合、何百合

 

 と遣り合いかねん。そうすれば、向こうの援軍が来てしまう可能性があった。だから蒲公英に

 

 罠を張ってもらって手早くそこに落ちるように仕向けてもらったんだ。そういう事をさせたら、

 

 翠より蒲公英の方が上だからな」

 

「うっ…」

 

「どうだ、参ったか!」

 

「蒲公英も調子に乗るな!お前は翠の言う通り、もう少し腕を磨け!!」

 

「…は〜い」

 

「ふう、どうやら厳顔殿は魏延殿を死罪にしなかったようだし、これでここはしばらくこのまま

 

 だな。後は、北郷殿達のお手並み拝見と行くか」

 

 馬騰はそう呟いて荊州の方角を見ていた。

 

 

-12ページ-

 

 再び場面は変わって荊州襄陽、劉表軍の本拠地である。

 

 城の執務室では一人の男が頭を抱えていた。

 

「馬鹿な…こんなはずでは…何故劉璋軍は来ない、何故北郷軍は南陽ではなくこっちに来てる

 

 んだ!?」

 

 ずっとこう呟いているのは、現在劉表軍の実質の中心人物である蔡瑁であった。

 

 何故、太守の劉表ではなく彼が軍を率いているのかというと、未だに公表はされていないが、実は

 

 この時点で既に劉表は病没しており、しかも後継をどうするかをまだ決められてなかったからだ。

 

 本来であれば劉表の長女である劉gが後を継げば終わる話なのだが、それは蔡瑁には都合の悪い事

 

 であった。

 

 何故かといえば、劉表にはもう一人劉jという子供がいて、その母親は蔡瑁の妹であったからだ。

 

 蔡瑁としてはまだ幼い劉jを太守にして外戚である自分が実権を握りたいのであるが、劉gは多少

 

 病弱ではあるが頭の良さと誠実な人柄で領民の人気も高く、おいそれと廃嫡に追い込む事も出来ない

 

 でいた。

 

 こうして蔡瑁が如何に劉gを廃嫡し、劉jを太守に据えるかに腐心していた所へ張勲からの書状が

 

 届く。

 

『もし今回袁家に味方し、董卓側についた南郷郡太守の北郷を攻めるのに協力してくれれば、袁家の

 

 名において必ず劉jを太守に任じるであろう』

 

 その内容に蔡瑁はすぐに飛びついた。袁家の後ろ盾を得れば、反対派も黙らせる事が出来ると踏んだ

 

 からである。

 

 実際、袁家に太守を任命する権利など無いのだが、自分が権力を握る事しか見えてない蔡瑁は

 

 『袁家』という名前だけに目が眩み、張勲の誘いに乗る事にしたのである。

 

 そして劉gを幽閉し、南郷郡へ攻撃を仕掛ける事にしたのである。張勲からは、北郷軍は全軍で

 

 南陽を攻めるとの情報があり、益州の劉璋軍も南郷郡攻撃に参加するという事で如何に北郷軍相手

 

 とはいえ、そんなに難しい戦ではないはず…蔡瑁にはそういう計算があったのだが…。

 

 実際、蓋を開けてみれば、劉璋軍は馬騰軍の出現により足止めされ、南陽を攻めるはずだった北郷

 

 軍が一気に襄陽へ攻め込んで来たのである。

 

 不意を衝かれた形になった蔡瑁にそれに対応する事は出来ず、しかも東方より孫呉の軍までもが

 

 襲来するに至り、襄陽の城に籠るのが精一杯であった。

 

 

 

-13ページ-

 

 〜襄陽の城外にて〜

 

「ありがとう、孫権さん。あなた方が来てくれたおかげで楽に進んだよ」

 

 俺達は呼応して軍を進めてくれた孫権さんの軍と襄陽の城外で合流した。

 

「礼には及ばない。我々も悲願を達成する為にあなた方に協力しているだけだからな」

 

 孫権さんは俺からの礼にそう答える。…こっちの蓮華は髪が長い以外は前の外史の蓮華と変わり

 

 ない。相変わらず素晴らしい位の尻…もとい真面目さだな。

 

「それはそうと、このまま城を攻めるのではないのか?このような所に時間はかけられないはずだが」

 

「大丈夫です。そんなに時間はかかりません。程無く城内より連絡がくるはずです」

 

 朱里がそう答えると、孫権さんは怪訝そうな顔をする。

 

「城内から?どういう事だ?」

 

「すぐ分かりますよ」

 

 朱里がそう言ってから間も無く。

 

「北郷様!城内より白旗が揚がっております!!」

 

 伝令の兵士がそう伝えてきた。

 

 それと同時に城門が開く。

 

「本当に諸葛亮殿の言った通りになった…一体何がどうなったらこんな風に?」

 

「とりあえずは城内に入ってからという事で」

 

 朱里はそう言ってにっこりと笑った。

 

 

-14ページ-

 

 襄陽城内に入った俺達を待っていたのは輝里と周泰さん、そして劉gさんだった。

 

「北郷殿、お初にお目にかかります。襄陽太守劉表が長子、劉gにございます。この度は私が不甲斐

 

 ないばかりに、北郷殿にご迷惑をおかけしました」

 

「迷惑だなんてとんでもない。あなたが呼応してくれたおかげで俺達もやりやすかったですしね。輝里

 

 もありがとう。いくら劉g殿と知り合いだったとはいえ、危険な潜入任務を良くやってくれた」

 

「そんな、私なんて大した事は…周泰さんがほとんどやってくれましたし」

 

「そんな事はないです!徐庶様が城内の経路を全て覚えていたからこその成功です!!」

 

 輝里と周泰さんはそう言ってお互いを褒めあっていた。

 

 何故、二人に潜入任務を依頼したかというと、劉表軍が動きを見せる前に既に俺達は劉表さんの死と

 

 劉gさんが蔡瑁によって幽閉された事を掴んでおり、劉gさんを助けて支持者と呼応させれば、襄陽

 

 を開城させるのにそんなに手間はかからないとの判断からだ。そして輝里は、一時期劉表さんに客将

 

 として仕えてた事があり、当然劉gさんの支持者のうちの何人かとも知り合いであったので、その者

 

 達に手引きを依頼した上で、隠密行動に長けている周泰さんと一緒に城内へ潜入してもらったので

 

 ある。

 

 ちなみに周泰さんを借りる事は孫権さんには了承済である。但し、あまり時間が無く、劉gさんの

 

 救出や城内からの呼応までは説明出来ていなかった。それでも周泰さんを貸してくれた孫権さんは

 

 さすがという所であったが。

 

「それでは劉gさん、後は我々に従ってもらうという事でいいのかな?」

 

「はい、ただ…妹の、劉jの命だけは助けていただきたいのです。あの娘はまだ子供です。今、自分

 

 がどのような状況に陥っているかなんてわかっていないんです。ですから…」

 

「わかっています。あなたと妹さんの生命は責任をもって保障します。相国閣下も既に了承済の事

 

 です」

 

「ありがとうございます。ならば、我ら襄陽劉家は董相国閣下の御為に力を尽くす所存です」

 

 こうして襄陽は俺達の手に落ちた。ちなみに蔡瑁は劉gさんとその手の者達によって捕縛され、後日

 

 斬首されたのであった。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「それではしばらく休憩の後、南陽に攻め入る。孫権さん達もいいですね?」

 

「無論だ。北郷殿、願わくば我々に先陣を賜りたい位だ。姉様は今頃、董卓軍と合流して戦っている

 

 だろうからな」

 

 孫権さんは張り切った感じでそう言ってきた。

 

「どうする、朱里?」

 

「孫権さん達が先陣を務める事に異存は無いのですが、まずは別働隊の戦果を確認してからですね」

 

「思春…甘寧ならばうまくやっているはずだ」

 

「俺達の方も優秀な将を派遣しているからね。岳飛ならうまく足止めしてくれるさ」

 

 

-15ページ-

 

 ここで三度場面が変わり、南陽郡と司州の境の辺り。

 

 北郷軍の別働隊を率いる岳飛と孫権軍の別働隊を率いる甘寧が兵を伏せて、来るであろう敵軍…

 

 おそらくは南郷郡へ進軍しようとする袁術軍を待ち構えていた。ちなみに袁術は軍勢のほとんどを

 

 連れていってしまっていて、南陽郡の中には城を守るのに精一杯な程度の数しか残ってなく、袁術

 

 の下へ知らせにいこうとした兵士は全て甘寧が討ち取ったので、二人の行軍が妨げられる事はなか

 

 った。

 

「岳飛様!見えました、旗印は『紀』、『李』、『于』です」

 

「甘寧殿、『紀』は袁術の将である紀霊だと聞いてますが…」

 

「おそらく後の二つは曹操配下の李典と于禁だろう。連合に潜り込ませている部下から曹操が張勲に

 

 援兵を出すとの約束をしたとの報告があった」

 

「李典…于禁…ぐっ!」

 

 岳飛はその名を口にした瞬間、頭を抑えてうずくまりかけた。

 

「どうした、岳飛殿。具合でも悪いのか?」

 

「いえ、何でもありません。もう大丈夫です」

 

 岳飛はこう答えたが…。

 

(何だろう…その二人の名を聞くと頭が…私はその二人を知っているのか?…今は作戦行動中だ、

 

 余計な事は考えるな)

 

 岳飛は頭を振って、無理やり考えないようにしていた。

 

 

 

-16ページ-

 

 李典と于禁は主である曹操より、董卓側についた北郷軍の攻撃に行く袁術配下の紀霊の援軍として

 

 行くように指示され、進軍中である。

 

(ちなみにまだこの時は襄陽陥落の知らせは連合軍の下には届いていない)

 

「真桜ちゃん…暇なの〜」

 

「ウチかてこうしてるだけで暇やがな。いくら北郷軍が劉璋軍と劉表軍に挟まれて動けへんからって

 

 ここまで何もないとな〜。ちょっと位攻めて来てくれた方が張り合いがあるいうもんやけどな」

 

 ここまで戦闘らしい戦闘はしていないので二人は完全にだらけきっていた。しかし…。

 

「申し上げます!!紀霊将軍の軍勢が敵襲を受けています!!旗印は『甘』!!」

 

「何やて!?」

 

「真桜ちゃん、すぐ助けに行かないと!」

 

「そうやな。皆、行くで!!」

 

 二人が軍を進めようとしたその時、何か光る物が飛んで来た。

 

「真桜ちゃん、あれ何なの!」

 

「何かわからへんけど、皆逃げるんや!!」

 

 しかし、高速で迫ってくるそれをかわしきる事など出来ず、軍の真ん中に着弾する。

 

「くっ、皆無事か…」

 

「今ので結構やられたの〜」

 

 そこに現れたのは…。

 

「我が名は北郷軍の将、岳飛!!ここから先は一歩も通れぬと覚悟しろ!!」

 

 二人はその姿に呆然となる。

 

「…凪!?」

 

「…凪ちゃん!?」

 

 

 

 

 

                         続く(予定に変わりなし)

 

 

 

 

 

-17ページ-

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は…何というかいろいろ詰め込みすぎたでしょうか?

 

 そして遂に再会する三羽烏。果たして岳飛の記憶は?

 

 という事で次回は三羽烏の戦いと一刀の南陽攻略戦が主になる予定です。

 

 それでは次回、外史編ノ二十三でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追伸 今回、翠より蒲公英を活躍させましたが、あれは私がどちらかというと

 

    蒲公英の方が好きだからです。翠ファンの皆様には申し訳ございません。

 

    そして、初対面の岳飛と思春が普通に合流してますが、ちゃんと事前に

 

    決められた合言葉と割り札で確認しているという事を付け加えさせて

 

    いただきます。

 

 

説明

 お待たせしました。

 今回は反董卓連合がいろいろともたついている間に

 電光石火の速さで行われた一刀による襄陽攻略戦とその際の

 孫呉の方々の出会い、劉璋軍と馬騰軍との対峙をお送りします。

 それではご覧ください。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
10632 7900 70
コメント
凪ワンコは今日も元気だな、良し(なにがw(七詩名)
まぁ これは驚きますよねぇ。。(qisheng)
骸骨様、ありがとうございます。華琳もまさか捜していた友人がそこにいるなんて思ってないですからね。二人は冷静に華琳の言うとおりにする可能性は低いですね。(mokiti1976-2010)
華琳から形勢が悪くなったらすぐに退くと言われてますが、凪と再会してしまったらすぐには退けなそうですね。(量産型第一次強化式骸骨)
劉邦柾棟様、ありがとうございます。翠には確かに無理ですね。そういうまっすぐな所が魅力なのでしょうが。(mokiti1976-2010)
ファイズ様、ありがとうございます。良い言葉をありがとうございます。確かに波乱万丈です。(mokiti1976-2010)
翠には蒲公英みたく高等な(策を使った)事は出来ないって(笑)(劉邦柾棟)
波乱万丈 意味・・・波が非常に高いように物事の変化が起伏に富んではげしいことのたとえ 今回のラストにぴったりです(ファイズ)
オレンジペペ様、ありがとうございます。いくら特定の彼女がいたって、それは外せません。(mokiti1976-2010)
ハーデス様、ありがとうございます。凪が記憶を取り戻した後どうするかがこの後の話の流れの重要な鍵の一つです。そして朱里は何せ『この世の理を超えた知恵を持ちし軍師』ですので。(mokiti1976-2010)
凪ちゃんがもし記憶を取り戻したとしたらかなり葛藤があるでしょうね。まあ簡単に記憶が蘇るわけがないと思いますけど。あと相変わらず朱里の先読みは凄いですね。(ハーデス)
hisuin様、ありがとうございます。それをするには、まだ完全ではないとだけ申し上げておきます。(mokiti1976-2010)
神木ヒカリ様、ありがとうございます。そう思って良い所で終わらせました…だったら良かったのですが…次回を楽しみにしていてください。(mokiti1976-2010)
ataroreo78様、ありがとうございます。確かに三羽烏の再会はイレギュラーですね。これが果たしてどのように作用するのか…。(mokiti1976-2010)
一丸様、ありがとうございます。焔耶VS蒲公英はもはや恋姫では鉄板ですからね。そして凪の記憶が戻ったら…さてさて。(mokiti1976-2010)
帝にさっさと袁紹以下多数を朝敵認定してもらって討伐しちゃえばいいんでない?こんだけ戦力あれば。(hisuin)
くぅー、良い所で終わってる。次回が楽しみです。(神木ヒカリ)
恐るべき朱里の智謀。唯一のイレギュラーは三羽烏の再会か。(ataroreo78)
まあ、焔耶の相手は蒲公英じゃないとねwwそして、三羽烏の再会か・・・まあ、凪のことだから恩がある一刀の元は離れないと思うし、そこは大丈夫だろう・・・・ただ、記憶が戻ったら戦闘はつらいだろうなあ〜〜〜続き楽しみに待ってます。(一丸)
殴って退場様、ありがとうございます。やはり焔耶はああでなくてはね。岳飛の記憶に関しては…次回以降をお楽しみに。(mokiti1976-2010)
焔耶は相変わらずの脳筋ぶりでwww。岳飛は2人と再会して記憶が蘇るのか、それともこのまま戦いに突入すのか…。(殴って退場)
きまお様、ありがとうございます。やはり蓮華のお尻には目がいってしまいますよね。そして残念ですが今は作戦行動中なので病里の降臨はありません。(mokiti1976-2010)
三国一のお尻にちゃんと目がいっている所は流石ち○この御使いだな。このまま病里が降臨する展開を期待します。三羽烏の再会?なにそれ、おいしいの?(マテ(きまお)
タグ
朱里 真・恋姫†無双 

mokiti1976-2010さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com