IS/3th Kind Of Cybertronian 第四話「Alien vs. Predator」
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「勇ましいが、愚かな決断だ。ブレインサーキットの故障か?」

 

サヴェッジファングが歯を剥いてサンダーソードを嘲笑う。

当然だ、とサンダーソードは思った。

 

仲間になれば助けてやるという申し出を断って、たった一年、セイバートロニアンにとってはどうでもいいような時間しか過ごしていない星のために、不利な戦いに身を投じる。

気が狂っているとしか言いようがない――――と、プレダコンなら感じるだろう。

 

だが、サンダーソードはマクシマルだ。

彼が生まれる前から、そのスパークに刻まれ、育ってゆく中でより磨かれてきた信念がある。

 

「自由は、すべての知的生命体に与えられた権利だ。この星も、この星に生きる人たちの命も、お前達の好きにはさせないぞ」

 

サンダーソードは、宣戦布告の意味で右手のエネルゴンセイバーを袈裟がけに一閃した。

闇の中に一瞬、金色のラインが引かれる。

それを見て、サヴェッジファングは大きく頷くと、部下達に簡潔な指令を出した。

 

「この間抜けをスクラップにしろ」

 

待っていましたとばかりに、シザーハンドが飛び掛かってくる。

背中のジェットパックを起動させて一気に距離を詰めると、鋏になった右腕を繰り出した。

サンダーソードは、ぎりぎりの所で体を僅かに左にずらし、鉄板も紙のように貫けそうな鋏の尖端を見送った。

と、同時に、彼の右手も動く。地面に向けて下げておいたエネルゴンセイバーの切っ先が、地から放たれた稲妻のように跳ね上がる。

 

寄ってきている相手に当てるのは、難しいことではない。

しかし、シザーハンドも雑魚ではなかった。パンチの勢いを体を固めて殺し、バックステップ。

エネルゴンセイバーは彼の胸の装甲を縦に切り裂いたが、致命傷にはならなかった。

それでも内部の回路を幾つか切断したらしく、傷口から火花が散っている。

 

時間を与えずに追撃を。

膝を曲げたサンダーソードに、連射されたブラスターが横合いから襲い掛かる。サンダーソードはそれを後ろに下がって避けた。

 

「……気をつけろ、シザーハンド」

 

見ると、テンタクルスがその名前の由来であろう六本の触手の先端を、こちらに向けていた。

 

「こいつ、思ったよりはえぇんだ。くそ、痛え」

 

そちらに集中する間もなく、復帰したシザーハンドが攻撃してきた。

ボクシングのような、拳ならぬ鋏の連打。サンダーソードは体を揺らすように、僅かな動きでかわしていた。

距離を開けようとすると、テンタクルスがブラスターを撃ってくる。

頑丈さには自信のあるサンダーソードだが、今はまだ無茶をする時ではない。敵は、この二人だけではないのだ。

 

サヴェッジファングは偉そうに腕を組み、戦いを少し離れた場所で見物していた。

シザーハンドとテンタクルスを破った後で、彼と戦う余力を残して置かねばならない。

 

(……エネルギーがもつといいけど……)

 

シザーハンドの攻撃を捌きつつも、サンダーソードは全身から力が抜けていくのを感じていた。

 

地球に来てからというものの、彼はろくにエネルギーを補給していない。

マクシマルであるサンダーソードは、炭水化物や動物性脂肪でも、ただ機能を維持するためのエネルギーくらいなら得られる。

 

だが、戦闘となると話が違う。

体を動かすにしろ武器を使うしろ、大量のエネルギーを消費してしまう。

今でこそ直撃を喰らわないでいるが、長くは続きそうにない。短期決戦が望ましいのだが。

 

(とにかく、頭を討とう)

 

そう決めたサンダーソードは、シザーハンドに右腕で横薙ぎの刃を送った………と見せかけ、右腕内に収納していたプラズマガンを展開。プラズマ弾を発射した。

胸を撃たれたシザーハンドが吹き飛び、アスファルトの上に倒れる。

 

仲間への追撃を恐れたテンタクルスがブラスターを撃ってくる。

サンダーソードは両手のエネルゴンセイバーを風車のように回し、赤い光線を反射。

テンタクルスは、自分の武器で自分を傷つけることになった。触手を二本千切られ、腹を抉られ、膝を突く。

 

これで、二体はしばらく動けない。サンダーソードはサヴェッジファングの方に目をやった。

さすがに、呑気に見物していられる状況ではないと気付いたのか、彼は鰐の頭の右腕を構えていた。

警戒し、立ち止まる余裕はない。もう、エネルギーは底を尽きかけている。

 

「覚悟しろ、サヴェッジファング!」

 

サンダーソードの脚部装甲が展開。ブースターを露出させ、起動。

光を足に纏い、地面から僅かに浮き上がったサンダーソードは、サヴェッジファングに向けて猛然と突撃した。

サヴェッジファングの対応は冷静だった。鰐の口が開き、喉奥から紫色に輝く砲弾が発射される。

濃縮されたエネルゴンの砲弾。エネルゴンカノンだ。

サンダーソードが右に避けると、背後で大爆発が起きた。爆風の中から、紫色の光柱が夜空に伸びる。

 

どんなに威力があっても、当たらなければいいことだ。もしくは、撃つと相手もただでは済まない距離まで近づくか。

刃が届く範囲にサヴェッジファングを捉えたサンダ―ソードは右手のエネルゴンセイバーを振り上げた。

サヴェッジファングは左手首からチェーンソーを伸ばし、前に突き出した。大気を食い千切る獰猛な唸り。

 

二つの刃が衝突し、激しく火花が散る。

弾かれたのはサンダーソードだった。パワーは向こうの方が強いらしい。

彼はその力に逆らわず、手首を返し、体を横に回転させ、円運動の中に収める。

そして、そのままエネルゴンセイバーを繰り出した。敵の力を利用した斬撃。

 

サヴェッジファングは、それを右手のシールドで防いだ。表面を多少削ったが、ダメージは無いだろう。

しかしその時、サンダーソードは左手のエネルゴンセイバーの切っ先を、サヴェッジファングの首に向けて送り出していた。

稼働する部分には、当然装甲がない。力が一点に集中する刺突なら貫ける。

 

 

がぎん。

鈍い金属音が響いた。

 

 

サンダーソードの剣は、敵の首に届かなかった。

刀身が、鰐の顎に挟み込まれている。押しても引いても動かない。

サヴェッジファングが笑いかけてくる。

 

「焦ると、何事も上手くいかないものだ。まあ、迅速な行動は大切だがね」

 

サヴェッジファングは体を捻り、サンダーソードを背後に放り投げた。

青いマクシマルは木の葉のようにくるくると宙を舞った。

それが致命的な隙となる前に、足のブースターを使って姿勢制御、着地する。

その時、背中に何かぶつかった。振り向くと、そこには給油の機械があった。

ガソリンスタンドの中に放り込まれたのだ。

 

はっとして前を見ると、半透明の液体の塊がすぐ目の前まで迫って来ていた。

反射的に顎を引き、両腕を胸の前で交差させる。せめてスパークだけは守らなくては。

サンダーソードにぶつかった液体は、彼の全身を覆うと、瞬く間に固まった。指一本動かせない。

 

「硬化ジェルか……!」

 

サンダーソードは呻き声を上げた。

硬化ジェルは主に敵を無傷で捕獲するための武装だが、プレダコンが開発目的通りの使い方をするとは思えない。

 

その考えは正しかった。

サンダーソードからたっぷり距離を取った位置で、シザーハンド、サヴェッジファング、テンタクルスが仲良く横並びとなり、それぞれの武器をこちらに向けている。

まな板の上の鯉を料理するつもりのようだ。

サンダーソードは体を揺らしてもがいたが、脱出には時間がかかりそうだ。

 

「それでは、我々の目的が果たされることを祈って、祝砲を撃とうじゃないか」

 

エネルゴンカノンが。

ブラスターが。

レールガンが。

サンダーソードを標的として、一斉に放たれた。

 

爆音が轟く。

ガソリンスタンドが大爆発を起こし、平和だった町に赤い花を咲かせた。

 

サンダーソードは泳ぐような動きで、噴き上がる爆炎の中から脱出した。

全身を硬化ジェルに包まれていたため、ダメージは多少軽減された。

しかし、装甲の一部は痛々しくへこみ、体のあちこちに穴が空いている。爆発の衝撃で、内部の機械もずたずただ。

もはやエネルギーに関係なく、戦える状態ではない。

それでも、サンダーソードはエネルゴンセイバーを手放さなかった。

 

「まだ、僕は生きてるぞ……!」

 

炎の中からよたよたと抜け出すと、三体のプレダコンが待ち構えていた。既に勝利を確信して、残酷な笑みを顔に貼り付けている。

 

「なら、これから死ぬといい」

 

サヴェッジファングがそう言うと、シザーハンドとテンタクルスが同時に飛び掛かってきた。

無力な相手を、直に引き千切って楽しみたいのだろう。

確かに、今の彼は剣を振ることさえできない。だが、無力というのは間違っている。

 

サンダーソードは心を静めた。

彼は、例え酸の海の中に浸かっていても、精神を集中させられる修行を積んでいた。

胸の中に収められた魂―――スパークに触れる。そこからエネルギーを引き出す。

胸から、頭部に道を繋げるイメージ。

 

「はっ!!」

 

気合の一声。

サンダーソードの頭に生えた二本の角から、凄まじい雷光が迸った。

 

「ぎゃっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

雷光に撃たれたシザーハンドとテンタクルスが、悲鳴を上げて転がった。体内の回路を焼かれ、苦しみにもがく。

サヴェッジファングはシールドを掲げて防いだが、押されて転びそうになった。

 

サンダーソードはすかさず、両肩の装甲から四枚の手裏剣を発射した。円盤の縁に、三角形の刃が四枚生えている。

手裏剣は回転しながら下降し、プレダコンズの足元のアスファルトに突き刺さり、破裂。

深い霧のような白煙が辺り一帯を包み込んだ。

ありとあらゆるセンサーを麻痺させる、特性の煙幕だ。

 

(悔しいけど……ここは退くしかない)

 

連中を野放しにしておくのは不安だったが、今のままでは、誰かを死出の道連れにすることさえできはしない。

 

次に会った時は、必ず。

煙幕に紛れて、サンダーソードはその場を離れた。

 

 

 

 

 

白煙が晴れると、サンダーソードの姿は消えていた。

ガソリンスタンドは未だ燃え盛っている。じきに誰かが通報して、消防車がやってくるだろう。

ガソリンの誘爆で敵に与えるダメージの増加を狙ったが、逃してしまっては単なるエネルギーの無駄遣いに過ぎない。

 

この星にマクシマルズがいるなど予想していなかった。

一体だけだと高を括っていたが、予想以上に腕が立つ奴で、こちらも傷を負ってしまった。

予想外の連続に、サヴェッジファングは苛立っていた。

だが、それを表面に出すことはない。リーダーは常に悠然と構えていなければならない。

そうでなければ、権力欲の権化たるプレダコンズを従わせることは不可能だ。

 

遠くから、消防車が鳴らすサイレンの音が聞こえてくる。

事によっては、インフィニット・ストラトスとやらも出て来るかも知れない。

それはそれで構わないが………今夜はとりあえず、当初の目的を果たすことにした。

 

「引き上げるぞ、スナッパー」

 

サヴェッジファングの傍に、エネルゴンキューブを積んだダンプトラックが停まった。戦いに巻き込まないように避難させていたのだ。

せっかく生成したエネルゴンキューブを、こんなことで失っては余計な手間が増える。

 

「奴を逃がしていいのか? なかなか手強かったぞ。ありゃサーキット・スーか、メタリカトーをやってるな」

 

ダンプトラックから男の声がした。運転席には誰も乗っていない。

声は、ダンプトラックが直接発したものだ。ドアには、ロボットの顔を模した鋭いインシグニアが刻まれている。

 

「逃がしはしないさ」

 

サヴェッジファングは体内の通信装置を起動させた。

 

「聞こえるか、キラーウィンド。マクシマルの資料を送るから、そいつを片付けろ。今すぐ出撃するんだ」

 

まるで宅配ピザを頼むかのような気安さで、サヴェッジファングは敵の抹殺を部下に命じた。

 

「エコーズ。これから帰還する。ポータルを開け」

 

サヴェッジファングは通信を切った。

そして、倒れたシザーハンドとテンタクルスの手なり足なりを掴んで、ダンプトラックの荷台に放り投げる。

 

この二体はプレダコン軍団のはみ出し者で、平和に馴染めず問題ばかり起こしていた。

ある時、模擬戦の相手をうっかり殺してしまい、幽閉されていたのをわざわざ助け出してやったのだ。

戦争があった時代に生まれ損ねたなどと嘯いていたが、実際戦わせてみればこの体たらくである。

自分がいなければ、今頃はスパークの消えたクズ鉄が二つ転がっていたに違いない。

 

それとも、いっそ自分の手で、この役立たずどもをクズ鉄に変えるか。

 

そんな考えが頭をちらついたが、サヴェッジファングは我慢することにした。ただでさえ、足りているとは思えない人手を、わざわざ減らすのも馬鹿らしい。

リーダーに必要とされる一番の資質は忍耐力だ。無能な部下も、我慢して使えばそれなりの役には立つだろう。

 

(まあ、目的を果たすまでの辛抱だ)

 

その時、目の前の空間に稲妻が走った。

次の瞬間には大きな穴が開き、それは銀色の床や壁が貼られた廊下に繋がっている。

ダンプトラックが先に入り、その後にサヴェッジファングが続く。

消防車が押っ取り刀で駆け付けた頃、そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

ロボットモードから人間の姿に変身した一郎は、倒れ込むようにアパートの部屋に入った。

体の表面をナナイトの膜で覆っているため、見た目には傷はない。しかし、その中のダメージは深刻だった。

エネルギーもゼロに近い。こうして帰れただけでも奇跡的だ。

 

「はあ……はあ……っ」

 

一郎は四つん這いになって冷蔵庫の前に寄った。

扉を開け、中の食品を手掴みで口に運ぶ。パンやおにぎり、生肉やバター、お構いなく。

どうせ腹を壊したりはしない。エネルギーを補給できればいい。

最後の一塊が喉を通過すると、冷蔵庫の中身はすっかり空になった。

 

一郎は口を拭って立ち上がると、居間に寝転がった。天井を見つめ、溜息をつく。

多少エネルギーは回復したが、満腹には程遠い。今回の戦いで受けた傷は、なかなか治らないだろう。

 

(やっぱり、一人じゃ無理があるな)

 

一郎は、そのことを素直に認めざるを得なかった。

ファンダメンツがあの三体の他にどれだけいるのかは知らないが、たった一人の一郎に対しては、やはり数の上で勝っている。

その上で、実力でも完全に一郎を勝っている者がいないとも限らない。

事実、サヴェッジファングは強かった。一対一でも、簡単には勝てない予感がある。

しかも、向こうはエネルゴンキューブを補給できるのだ。盗みという手段ではあるが、腹を一杯にできるというのは羨ましい。

 

戦力でもエネルギーでも自分を上回る敵を、どうやって倒せばいいのか。

今の一郎には考えるのも億劫だった。体は疲れ切っており、傷が酷く痛む。

 

(………仲間が欲しい。誰か、仲間が………)

 

眠りに落ちるというよりは、気絶に近い形で、一郎の意識は闇に融け込んでいった。

 

 

 

・用語解説・

サーキット・スー:セイバートロンの武術のひとつ。高度に精神的な術で、他の者を自分に従わせたり、スパークからエネルギーを取り出して攻撃に使うことができる。

 

メタリカトー:セイバートロンの武術のひとつ。強力な半面、希少で学ぶ者は多くない。

 

説明
にじファンから移転。
本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。

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タグ
クロスオーバー トランスフォーマー インフィニット・ストラトス 

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