魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 三十一話 |
「騎士甲冑?」
「えぇ、私たちの剣などは既に持っているんだけど騎士甲冑の方ははやてちゃんに作ってもらうしかないから昼食がてらに一緒に行かないかってはやてちゃんが…」
「ふむ……もうそんな時間か……」
昼時、カリフはしたたる汗を拭きながら腰かけていると、シャマルから誘いが来た。
少し悩むも、そろそろ腹の虫が鳴りそうになってきたからそれに同調する。
「そうだな。じゃあオレも行く」
「分かったわ。シグナムとザフィーラは?」
そう言うと、庭で剣を振るシグナムとカリフに柔軟運動をしてもらっているザフィーラに聞く。
「いや、私はまだ腹はすいていない」
「私も後にしていっつ!!」
開脚前屈をするザフィーラの背中を踏むカリフに廊下からヴィータとはやてが顔を出して覗いてくる。
「いいんじゃねえの? 本人が言ってんだし」
「二人共ようがんばっとるな〜」
ほわわんと言いながら微笑ましそうに見ている。
カリフは新しく買ってもらったパーカーを羽織る。
「じゃ、行くか」
外出したのははやて、シャマル、ヴィータ、そしてカリフである。
しばらく歩き、ファミレスで何か食べてから騎士たちのバリアジャケットの候補を探すという形になった。
「すいませーん。ハンバーグを三つくださーい」
「後、ドリンクセットと日替わりスープセットとジャンボパフェとえ〜っと……もうめんどくさいからメニューのここからここまでくださーい」
「か、かしこまりました……」
カリフの常軌を逸した注文のしかたに店員も引き気味になるも、そのまま注文に応じる。
そのままはやてたちと談笑を続ける。
「いつも思うんやけどよく食べるな〜。男の子やから?」
「育ち盛りかな?」
「いや、違うと思う」
「つかそんな食うならついでにアイスもくれよ」
傍から見れば微笑ましい親子にしか見えないが、絶対に敵に回してはならない面子であることは一般人は知らない。
「そういえば最近新しい都市伝説がここ海鳴で出てきたんやて」
「へぇ〜…どんなのです?」
「えっとな……『お金持ちの人しか見ることのできない地下格闘場で若干9歳の男の子が流星の如く現れて史上最年少で王者となった。小柄な体格で歴戦の闘士を殴り倒す容赦の無い姿、牙を見せて血を浴びて笑う姿はまさにリトルオーガ』やて」
「うわ……それはまた……」
「どうせでっち上げだろ? 伝説なんてそんなもんだよ」
「でも、これってニュース特番でもテレビ番組でも取り上げて全国的に有名やって。なんでも政府関係者が関係してるとか」
女性組はそんな話題で盛り上がっているのをカリフはドリンクとスープのコップを既に山積みにしている。
談笑に参加せずにカリフはただ食べ続けていると、ヴィータが必死に食べ続けているカリフの手に傷を見つけた。
「おい、おめえその傷……」
「ん?……ゴク、あぁ、これは自主練で付いた奴か」
さして気にも止めずに言うと、はやてが注意する。
「アカンよ、傷は早めに治療せえへんとイカンよ」
「血さえ出ない傷は傷ではない……そして強くなるためには傷の一つや二つは当たり前だ」
その発言にシャマルが苦笑して返す。
「でも、戦わないことがなによりだし…そんなに強いなら充分よ……」
だが、ここでカリフは大ジョッキに入れていたジュースを一気に飲み干すと、シャマルに言った。
「違うな……そもそもオレは戦いたいんだよ……その為に今まで生きてきたんだからな。戦いは娯楽みたいなものだ」
「そういう……ものなの?」
「まあいいんじゃねーの?」
明らかに淡白な答えに全員が苦笑するが、ヴィータだけが様子が違う。
明らかに深く関わろうとしない。
ここ数日、カリフと生活してきて大体は慣れてきてのは間違いなく、よく会話をしている場面は見かける。
だが、ヴィータの方はカリフに対して問答無用で襲いかかったことと、カリフに殺されかけた時のことが今でも尾を引いているようだ。
はやてと話す時は笑顔やジョーク、素の自分を出せる。
だが、カリフの時だと素どころか体が強張ってしまい、カリフを怒らせまいと出過ぎたようなジョークさえも言えなくなって会話も長くは続かない。
(はやてちゃん……)
(せやねぇ……早めになんとかさせたいんやけど……)
念話でこの空気を繋げようと必死に模索するが、いい案が浮かばない。
その後も料理がくるまではヴィータは頬に手を当ててボ〜っとしたり、カリフは黙々と食べることに夢中になったりと会話が続かずに昼食の時間が過ぎてしまった。
昼食を終えてファミレスから近い場所にあるおもちゃ屋に来た一行。
「ここで探すんですか?」
「こう言う所にいいモデルがあるんよ」
シャマルとはやては楽しそうに話している横でヴィータとカリフは……
「「……」」
興味無さそうにただおもちゃを眺めているだけだった。
だが、カリフは傍から見てつまらなさそうにしてはいたが、おもちゃを見つめて思い出していた。
(悟天もトランクスもこういうのが好きだったな……)
飛行機や鉄砲のおもちゃを手で弄びながら思い出していた。
(……結局、あいつ等とはあの時に別れてから試合さえしてやれなかったな……)
思い出されるのはたった一つだけ、約束を破ってしまった時の記憶。
あれからあいつ等はどれだけ強くなったのだろう……多分、オレよりも強くなったんじゃないか……
もしかしたら……
「だぁー! もう止めだ止め!! こんなとこにいると頭がおかしくなる!!」
はやてたちが離れて行くのを見届け、自分は外で待とうと出口へ向かおうとした時だった。
「……」
ヴィータがヌイグルミコーナーの場所で何かに見惚れていた。
目の動きでその視線の先の予測して何に見惚れているかが判明した。
「ヴィータ? はよいこ」
「あ、うん……」
「カリフくんもな」
「……オレはこういうところは好きじゃねえ。外で待つ」
そう言ってカリフは颯爽と出口へと向かう。
「あ、ちょ……!」
「……行っちゃいましたね」
「……好きにさせとけよ」
三人は呆然として去っていくカリフを見て仕方なく思いながらもそのままおもちゃの物色を始めた。
「……」
カリフはあるヌイグルミを手にしていた。
しばらく経ってはやてたちの騎士服の物色も終わり、出口へと向かっていた。
その中ではやては思い出したように言った。
「そや、ヴィータはさっきなんか欲しかったん?」
「え?…いや…」
「遠慮なんかせんでええって、折角ここに来たんやから一つくらい何か買ってこか?」
「う…うん! こっちこっち!」
はやての言葉にいつもの仏頂面の表情がパァっと明るくなる。
それと同時に駆け出したヴィータにはやてとシャマルは互いに笑い合う。
「転ばないようにね。ヴィータちゃん」
「わぁーってるよ!!」
嬉々として聞かないヴィータに笑みを零しながら後を追う。
そして、ヌイグルミコーナーにいるヴィータに追いつく。だが、その姿はどこかおかしかった。
「あれ? どこいったんだよ……」
「どないしたん?」
「はやて…さっきまでここにあったウサギ……」
さっきまでヴィータが見ていたヌイグルミを思い出してはやては少し困惑した。
「あぁ〜……『のろいうさぎ』なぁ……あれすっごい人気なんよ……」
「すいませ〜ん、ここにあったのろいうさぎはもうありませんか?」
シャマルが店員に呼びかけると、店員も申し訳なさそうに返す。
「申し訳ありません……最近はあの人形が人気で、さっきまであったのも在庫から引っ張り出した最後の一つだったんです……」
「他の店から取り寄せては……?」
「多分、他の所でも同じかと……」
「そう……ですか……」
見るとヴィータは見るからに落ち込みようが激しく、はやてとしても何とかしてやりたいが、物が無ければどうにもならない。
「……速く帰ろうぜ?……腹減っちまったしよ……」
作り笑いだと分かるような作り笑いに二人は微妙な気分になった。
おもちゃ屋を出てカリフと合流した後、四人は帰路を歩く。
しかし、ヴィータは遥か後ろの方で落ちこんでいる様子である。
「……」
カリフはそんなヴィータに内心で溜息を吐いて、そのまま行動に移す。
「ヴィータ」
「……?」
元気が無さそうにカリフの問いかけに反応すると、カリフが後ろへ無造作に紙袋を放ってくる。
「うわ!」
突然のことにヴィータは驚きながらもキャッチして睨んでくる。
「なにすんだよ! あぶねえだろ!?」
「ふん、当たっても怪我するわけじゃねえんだ。それより確認してみな」
「ふん!……なんだってんだよ…」
文句を垂れながら紙袋を開けて中身を確認すると、そこには長い耳があった。
「こ、これ……!!」
この長い耳……まさか……!!
ヴィータが目を輝かせて紙袋に手を突っ込んで、取り出したのはヌイグルミ……
「ウサ○ッチじゃねーかぁ!!」
二体の囚人服姿のウサギのヌイグルミをカリフに投げつけるも、振り向かずに首だけ動かしてかわされる。
あくまで人を馬鹿にしている行動にヴィータは紙袋を思いっきり握りしめて睨めつける。
「この……馬鹿にしやが……ん?」
だが、ここで握っている紙袋の中にもう一つ、何かが入っているのだと知る。
紙袋を逆さにして取り出す。
「!!……これ……」
そこからは店で買われたとされるのろいうさぎの姿があった。
さっきまでの怒りを忘れて目に輝きが戻った。
のろいうさぎを手でいじったりして、ここで本当に欲しかった物が貰えたと理解した。
ヴィータの顔が今までに見たことも無いような満面の笑みを浮かべて前を見る。
「ありがとう! カリ……あれ?」
だが、はやてたちの傍にいたはずのカリフの姿はなく、眩しい夕陽が代わりに輝いていた。
すぐにはやてたちに追いついてシャマルに聞く。
「シャマル!! カリフは!?」
「カリフくん? あぁ……さっき先に帰りましたよ」
「きっと照れてるんやで」
はやての本人がいない間の茶化しにシャマルもヴィータも笑い声を上げる。
その時、はやては心の底から笑っているヴィータの顔に優しい笑顔を送った。
(よかったなぁ……ヴィータ)
幸せな家庭を祝福するように夕陽が三人を照らす。
海鳴市を照らす夕陽の光
上空に飛ぶカリフは最高に自己嫌悪していた。
なぜ、あんな物を送ったのか……なぜあんなことをしたのか……
ただ、おもちゃ屋に行ってから悟天とトランクスを思い出してしまう。
ただ、それだけのことであんな愚行をしてしまった。
なに今更……
「ふっざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今イチ分からない自分の心にイラつきを盛大に吐露する。
自分に正直でいようとしたはずなのに、これでは昔となんら変わらない。
カリフは己の未熟さを反省しながら上空三千メートルの雲の中で必死に精神を統一させようと努力しながら道草を食っていた。
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