魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 三十三話 |
遠見市の山中のペンション。
長い間使われていなかったペンションも今では外観だけは綺麗になっていた。
だが、外から窓を通して見える部屋の中は未だに段ボールが積み上がっており、どう見ても引っ越し直後にしか見えない。
そして、その中では……
「お母さーん! ここなんか埃っぽーい! ケホケホ…」
「あ〜……無理しないのアリシア」
埃まみれになりながらも掃除をするアリシアとプレシアが二人で微笑ましく奮闘していた。
二人共布巾を頭に巻いてアリシアははたきを持ち、プレシアは箒で床を掃いている。
遠見市で人目を避けながら物資を買っての生活に慣れてきた様子が分かる。
「アリシア、そろそろ休憩にしましょ」
「う〜ん……分かった! おやつ食べた〜い!」
「うふふ……今日のおやつはお手製のアップルパイよ」
「やったー!」
不便な生活を強いている自分に甘え、文句も言わない愛娘に感謝しながら窓から外を眺めて街を眺める。
「……」
その視線からは、今は姿を見せぬもう一人の愛娘を想う。
「お母さん?」
「あ、うん…なに?」
「えっとね……」
今は少しの悲しみを押し殺し、プレシアは今の日常という幸せを堪能していた。
一方でカリフたちは既に行動に移していた。
シグナムから提案されたはやての救済法……他生物からの魔力の蒐集。
はやての不完全な覚醒から完全な覚醒へと昇華させる。
それならばリンカーコアが完全となり、少なくとも麻痺が止まる。
そこで、すぐに魔力蒐集へと行動が移された。
他の世界へ渡って生物のリンカーコアから魔力を蒐集して闇の書へページとして記録する。
ヴィータたちと連携を取って交代で他世界へと向かう。
だが、カリフはこの蒐集になるべく参加はさせられない。
理由としてはバイトということもあり、一番の稼ぎ頭となっている。
そして、もう一つの理由とは……
「なんだと!?」
シグナムははやてが寝静まった家のリビングで驚愕した。
他の騎士たちも衝撃を受けてカリフを凝視させていた。
シグナムは事実を確かめるようにカリフに問い詰めた。
「お前……本当に管理局と繋がりが?」
「まあな、奴等とは不本意ながら共闘はした……だが、オレは管理局の人間では無い」
ソファーにドカっと座り込んで暴露するカリフにザフィーラが問う。
「……お前が管理局の人間でないということを証明できるのか?」
「おい! ザフィーラ!!」
「そんなこと……!」
ザフィーラからの疑惑にヴィータとシャマルが声を荒げて反論しようとするも、シグナムもザフィーラに同意する。
「この作戦は一抹の油断さえも命取りになる。故に、唯一部外者であるお前の関わりもはっきりさせなければならん」
表面上ではそう言うが、本当はシグナムもザフィーラも疑いたくは無いのが本音。
だが、忘れてはいけない。信頼と慣れ合いは別であり、これもカリフの意志なのだから。
「ふん。平和に毒されて騎士の本分を忘れてたと思っていたが……お前たちはそれでいい」
不敵に笑ってそう呟くと、カリフは手刀を自身の片手に添えて……
「ナイフ」
手刀で自身の肉を抉った。鮮血がカリフの手首から噴出した。
「なっ!?」
「おいなにしてんだよ!?」
「シャマル!! 治療を!!」
「ええ!!」
騎士の面々は驚愕して顔色を変えるが、カリフは鮮血で腕を濡らし、苦痛に表情を歪めて汗を出しながらもいつもの調子で言った。
「この、肉体に刻んだ八神はやてとの盟約、この身に宿る戦士の血に誓っててめえ等に不利になるようなことはしない。信用しろ」
肉が抉れて負傷した腕をシグナムたちに向けて言った。
シグナムたちもその綺麗な瞳の奥の心を本能的に理解して確信した。
「……分かった。信用しよう」
シグナムの一言に全員が頷き、カリフを信用した。シャマルに怪我しているカリフの腕に治癒魔法をかけさせて話を戻す。
「となると、カリフくんは生物からの蒐集の時だけに来て、極力管理局員がいる時は姿を見せない方がいいわね。一応生物での時も用心して変装はしといたほうがいいかも」
どうせなら管理局のスパイとして動いてもらえるだけでも充分、シャマルはそう考えて震源するが、あえなくカリフが拒否した。
「やだね。このオレが、コソコソと姿を偽れと?」
「そ、そっちの方がいいと思うのだけど……」
「そこはいい。仮に管理局の下にいたとしても……」
困惑するシャマルに指をさす。
「オレならば何をしても許される!」
「「「「……」」」」
一体、この少年はどんな風に生きてきたのか……シグナムは苦笑しながらこれからのカリフの行動に不安を感じていた。
「まあ、そもそもオレは独自に動くからお前等に必要以上には加担はしない。後は気分で襲ってやるから」
「っておい! お前が攻撃してくんのかよ!?」
「これでも贔屓してやってんだぜ? ここで三すくみ状態にして名実ともにお前等とフェイト……もとい、管理局共と遊んでもいいんだ・が……お前等との利害は一致している。オレが楽しめてついでに目的も達成でハッピーエンドだ」
シグナムたちは満足気に鼻唄を歌うカリフに顔を引き攣らせていた。
「安心しろ。お前等が不利になるようなことはせん」
「じゃあ攻撃すんなよ!」
カリフというまさかの第三勢力に不安を覚えながらも、とにかくは良し……としておく。そうであってほしい!
「そういや、リンカーコアって奴を抜かれても魔力がしばらく小さくなるだけでまた元に戻るんだろう?」
「あ、ああ……命事態にも影響は無いが……」
そんな皆にカリフは未だに血をドバドバと垂れ流しながら口を三日月状に変えて笑う。
「じゃあ……殺さなきゃ何やってもオーケーだよなぁ?」
「あれ? 皆はどないしたん?」
「人間狩り。シャマルは……別件だっけか?」
「うん。近くまで買い物に行ったはずなんやけど遅いなぁ……」
ソファーの上で寝転がるカリフの言葉にはやては冗談だと受け止めて返事をしたが、はやては知らない。
カリフが冗談を言ったのなら、すぐにネタばらしをするということに……
つまりは嘘を言うことは無い。
そのことについてははやてはまだカリフを理解していなかった。
何気なく言ったカリフの言葉の全てが真実だということを……
私、高町なのはは困惑を隠せずにいます。
今日は12月2日、今現在は夜なのですが……何の前触れも無く結界が張られました。
そして、不審に思ってレイジングハートと調べていたら……
「アイゼン!」
突然、赤い女の子に襲われてます!!
金槌のようなデバイスで私を攻撃してくるのです。
「テートリヒシュラーク!!」
「!?」
何とかガードできたけど、この子すごい力!!
プロテクションがガラスのように砕けてしまいそう!
だけど、なんとか踏ん張れる! 今までカリフくんとちょっとだけ実戦を積んでおいてよかった!
「はっ!」
「なっ!?」
急に私がプロテクションを解いたのが意外だったのか、止まり切れずに私とすれちがうような形となった。
「どこの子!? なんでこんなことするの!?」
振り返ってすぐにディバインシューターを二つ出して操作する。
これもカリフくんとの特訓の成果。こういった操作系の魔法は経験を積んで慣れて高度な操作を可能にすることが重要。
二つの弾をフェイントを加えた操作で女の子へとぶつけようとするけど、あっちも手から幾つかの鉄球を出現させた。
どうやら話し合う気は無いようです!!
「話を……」
ここで私は魔力を溜めながらディバインシューターを操作する。
こういった操作系の攻撃は威力は二の次。
一番の理想は……隙を作らせること!!
「うわ!」
二つの弾は同時に女の子の目の前で破裂させて気を逸らす!! そしてその隙に私が……
「ディバイン……」
最強の一撃を与える!!
「バスター!!」
これが私の操作とパワーのコンビネーションアタック!!
カリフくんに教わっておいてよかったー!!
「うわぁ!!」
威嚇射撃だったから女の子の帽子に掠った程度だったけど、それがいけなかった。
女の子の目つきが明らかに変わって私を睨めつけてきた。
「っの野郎!」
その視線に怯んでしまったと同時に女の子が動いた。
「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」
言葉と共にデバイスがガシャンと銃の装填のように動き、形が変わっていく。
見たことも無い魔法に困惑していると、襲撃者・ヴィータのデバイスからジェット噴射のように火が吹いて女の子を加速させた。
「ラケーテン……」
なのははプロテクションを張るが、お構いなしにぶつけてくる。
「ハンマー!!」
プロテクションはいとも簡単に壊され、咄嗟に突き出したレイジングハートも壊されてしまった。
「きゃあああああぁぁぁぁ!!」
なのはは吹っ飛ばされてビルの窓へと突っ込んでいった。
「うぅ……」
「でやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
中でなのはは身を起こしていると、再び襲いかかってきた。
再びプロテクションを張るが、先程よりも魔力を込められずプロテクションどころかバリアジャケットまで破壊されてしまった。
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
なのはは壁に叩きつけられ、力無く倒れる。
「……」
目の前にまで迫られ、デバイスを振りかぶっている。
(これで……終わりなの?)
なのはは目を瞑り、今まで会ってきた人達のことを思う。
(ユーノくん、クロノくん、カリフくん、フェイトちゃん!)
そして、ハンマーが振り下ろされた。
キィンッ
そんな時、何かがぶつかり合う音が聞こえた。
いつまで経っても痛みが襲って来ないことに疑問を持ちながら目を開ける。
そこでなのはが見たのは……漆黒のマントを羽織った少女だった。
「ごめん。遅くなった」
「ユーノ……くん……?」
ふらつくなのはをユーノが駆け寄る。
「ちぃ! 仲間か!?」
ヴィータの言葉に黒い少女は自身のデバイス……バルディッシュを構える。
「違う」
その両眼に強い光を宿して
「友達だ」
対峙した。
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