魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 三十七話
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それは娘との帰り路のことだった。

 

スーパーで今晩の食事の材料を買って帰っている時、妙な感覚に襲われた。

 

(まさか……こんな所で結界だなんて……)

 

身構える女性、プレシアは娘のアリシアを少し離れた場所へと離して結界をかけてやる。

 

娘の守りを固め、すぐにバリアジャケットを装着し、杖のデバイスを展開させて戦闘態勢に入る。

 

だが、気を抜くことは命取りとなる。

 

度々、感じることのあった市内での魔力反応の根源が自分の所に周ってきたのだろう。

 

だが、いくらなんでも娘がいるこんな状況でなくてもいいだろう

 

そう思っていると、プレシアの周りからシグナムたちが降りてきた。

 

「あなたたちは……!」

「抵抗しなければ命までは取らない……少し魔力を分けてほしいだけなんだ」

 

そう言うと、プレシアは杖を構えて言い放った。

 

「生憎、こんなところに閉じこめられて娘も巻き込むような輩の言葉をそうそう信じられるほど短絡的じゃないのよ」

 

病が消えたからか、プレシアの立ち振る舞いと魔力からは力強さが見られる。

 

まさに大魔導士の名に恥じない姿勢にシグナムは瞑目した。

 

「……このような形でなければ、一体一で戦いたかった……だが、我等にも退けぬ理由がある」

 

シグナムが抜刀すると同時に他の騎士たちも各々の武器を構える。

 

そして、

 

「!?」

 

プレシアの体を緑の鎖ががんじがらめにする。

 

「お母さん!?」

「ごめんなさい……卑怯と呼ばれようとも成さなければならないことがあるの」

 

シャマルのデバイスから出ているバインドに封じられたプレシアにザフィーラが突っ込む。

 

だが、プレシアは動じることはなかった。

 

「あまり騒ぎを起こしたくないのはお互いさまのようね。読んでいたわよ!」

「なに!?」

 

ザフィーラは突然に何かに動きを遮られ、停止してしまう。

 

そして、十字に張り付けられてしまった自分の体に同じくバインドが巻かれているのに気付いた。

 

「設置型バインドよ……これくらいの準備くらいはできて当然」

「なるほど……これは一筋縄ではいかなさそうだな……ならば!」

「!!」

 

そう言った瞬間、シグナムを筆頭にヴィータまでもがプレシアへと突っ込んだ。

 

プレシアは無理矢理魔力を解放してバインドを引きちぎり、迎え撃つために紫の雷を発生させる。

 

「古代ベルカ式ね……ちょっとキツイわね……」

 

白兵戦による肉弾戦は正直、今の療養中のプレシアにとっては望んだ展開では無い。

 

今からでもジリ貧になることくらい見えている。

 

「雷よ!」

「くぅ!」

 

それでも、後方の娘のためにも泣き言は言ってられない。

 

ヴィータとシグナムに向けて雷を放つプレシアに怯まずシグナムはレヴァンティンで受け止めるが爆発する。

 

「いっけえぇぇぇぇ!!」

 

シグナムに構わずにヴィータは鉄球を幾つか出してプレシアへと放つ。

 

「こんなものなんでもないわ」

 

冷笑を浮かべて雷もろともヴィータを撃ち落とそうとすると、鉄球は軌道を変えてプレシアとは別の方向へと向かった。

 

「どこに……!?」

「こういうことだよ!」

 

ヴィータは手動で鉄球同士をぶつけ、デタラメな場所へと拡散させる。

 

敵味方関係無く、砕けた鉄球の破片がプレシアに襲いかかる。

 

「くっ!」

 

止むなく攻撃を止めて結界を張ったのが功を奏し、全て受けきった。

 

威力は弱いだろうが、今ここで余計な傷も疲労ももらうわけにはいかない。

 

そう思いながら未だ馴染まない感覚に苦しんでいると、ヴィータが声を出して笑っているのが見えた。

 

「どうだ!」

 

いい笑顔でプレシアを見るヴィータに三人の騎士が不平を言った。

 

「我々にも攻撃するな」

「ヴィータちゃん……」

「大分カリフに毒されてきたな……あれがまかり通るのはカリフだけだ」

「んだよいいじゃねーか。ザフィーラだって抜け出せたんだしよ」

 

いつのまにかバインドを外したザフィーラの復活で再び窮地に立たされた。

 

ここまで実力が拮抗すると後の決め手は体力……その点では圧倒的にあっちの方が有利だった。

 

(これなら研究ばかりじゃなくて運動するべきだったわね……と言っても後の祭りね)

 

自分での行いを後悔しながらプレシアはこの長期戦を早めに完結させるための策を頭の中で捻りだそうとした。

 

その時……

 

「なにしてんだ?……お前等」

「「「「「!?」」」」」

 

突然聞こえてきた声に全員が動きを止めた。

 

そして、その方向を見るとそこには全員が見知った姿があった。

 

「カ、カリフ……」

「よ、お前等の邪魔する気はねえけどよぉ……少し待ってくんねえか?」

「……カリフくん?」

 

穴がポッカリ空いている結界の壁を見てカリフがどう入ってきたのかを理解したが、それ以上にシグナムたちには不可解だった。

 

あのカリフが珍しく狼狽しているかのように蒐集対象を見ている。

 

そんな中で、カリフは第一声を上げた。

 

「……プレシア……」

「カリフ……」

 

カリフは理解できないかのように、一方のプレシアは突然の再会に何も言えないでいる。

 

「……あ、えと、これは……」

「……色々と体験してきたが、ここまでの異常事態はオレでも知らん……それにもう一人、とんでもない客がいるようじゃねえか……」

「……ふえ………」

 

そう言ってフェイトと瓜二つのアリシアを見ると、アリシアもカリフの眼光に脅えてしまう。

 

カリフも驚かそうとしているのでないのだが、鋭い眼光はいつもよりも光っていた。

 

気の質も違う……まさかとは思うが、とカリフも真実に辿りつこうとしていた時だった。

 

「プレシア……まさか本当に……」

「!? また何か来る!?」

 

プレシアはカリフよりも先に魔力反応を感じ取り、異変に気付く。

 

カリフも後になって湧いてくる大量の気に舌打ちした。

 

「管理局かよ……とりあえずはプレシア。お前は逃げとけ」

「え、でも……」

「ただし、後でまた話は聞かせてもらうから拾うぞ。オレたちは夕食に鍋の予定だからその時に聞かせてもらう。そう時間はかからねえ」

「……わかったわ」

 

そう言うと、プレシアは安堵しながらもアリシアの結界を解いて転移魔法でその場から消えた。

 

それを見届けたカリフは一息ついてシグナムたちに向き合った。

 

「ま、そういうことだからさっさと終わらせるぞ。オレはシャマルと同じ様に見張るとするから」

「あ、あぁ……カリフ、さっきのご婦人は知り合いなのか?」

「以前に少しな……それも含めて話すことになるから今は目の前のことに集中してろ」

「お前は戦わないのか?」

「こんなザコと戦っても一利なし。それよりも邪魔のせいで鍋に遅れるほうがマズいからな」

「まあ、スパイならそうするべきだろうな。だが、くれぐれも……」

「そら、来るぞ」

 

シグナムの言葉を遮ってカリフが言うと同時に瞬間移動でその場から消えた。

 

いつも通りのカリフに溜息を吐きながらもシャマルも追うように転移しようとする。

 

「お前はなるたけカリフとは離れて無関係を装え」

「分かってるわ」

 

言うと同時に、闇の書を受け取って転移した。

 

それと同時にその場に管理局員がなだれ込んだ。

 

「時空管理局だ!」

 

 

 

一方、カリフは外から結界を注意深く監視していた。

 

だが、思考は他のことを考えていた。

 

(死人がそうそう簡単に生き還ることがあるのか……いや、いくら魔法でもそこまではできんだろう)

 

だが、あの二人……おそらくアリシアだろう娘と少し若返ったようなプレシア……ここまでくると人智を越えている。

 

死人が生き返る奇跡があるだろうか?

 

(いや、一つだけあった……)

 

カリフは何とも言えない表情をして夜空を見上げた。

 

(悟空……お前はオレにどうしろと……)

 

昔から理解不能な師匠に対して物思っていると、そこへカリフのペンダントに通信が入る。

 

『カリフ聞こえる? ユーノだよ』

「ユーノ……このタイミングで連絡してきたってことは……」

『うん、僕も今ここにいる』

 

思考を瞬時に切り替えて通信を返す。

 

『ここに来ている確認だったんだけど、やっぱり……』

「いらん心配はいい。それよりもお前の研究結果はどうだ?」

『うん。大分資料が見つかってきたから正体も分かりかけてきた。あともう少し時間をくれれば大丈夫』

「……そうか……それと、最初に言ったことは覚えているな?」

『……覚えてるけど……』

 

通信機の先の声が落ちこむような感じだった。

 

それに対してカリフは溜息を吐く。

 

「なら今後も忘れるな……いずれバレる時が必ず来る。お前が黙っていようともオレは嘘をつけないからな」

『……それなら僕も同罪だ。闇の書の主……八神はやてのこともつきとめているのに君にだけ罪を被せるなんて……』

「固く考えすぎだ……お前はオレに脅されているだけだからな。お前だけは何としてもバレるな。たとえオレがどうなってもな」

 

淡々と告げる確固たる決意にユーノは通信機を通しても分かるほどに歯を噛みしめていた。

 

(こいつもこいつでひょっろちいけどいっぱしの男だな……)

 

無理を言っているのは分かるが、今は通してもらう。

 

カリフはユーノを少しだけ見直していた時だった。

 

(……そんでもって、こいつらも来たか……あのクソ猫どもが……)

 

その瞬間、新たな気が今まさに戦いが繰り広げられている結界の傍にまで近付いてきたのを感じた。

 

「ユーノ、ここまでだ」

『どうしたんだい?』

「いや、少し……な」

『そう? 気を付けて』

「てめえももしバレたら首を落とすからな」

『あはは……努力するよ……』

 

苦笑しながら肝に銘じているユーノとの通信を切り、カリフはその場から消えたのだった。

 

 

その頃、シャマルは困惑していた。

 

先程まで執務官と名乗る少年にデバイスを突きつけられ、カリフと別れたことを少し後悔した。

 

闇の書を持っていたので、言い逃れもできない状況だったが、ここで以外な助けが入った。

 

「闇の書の力を使え……早くしないと仲間がやられるぞ」

 

目の前の仮面の男が急に現れ、執務官を蹴り飛ばしてくれた。

 

そして、こうして自分に結界を破るアドバイスを送っている。

 

しかし……

 

「あなたは一体……何者ですか?」

 

急に現れて闇の書を完成させろなどと一般では考えられないことを言い、素顔も見せない。

 

そんな人物にシャマルも素直に従えずに困惑していた。

 

「そんなことを気にしている場合か? 早くせねば仲間の騎士たちがやられるぞ」

「う……」

 

だが、男は名乗らずに催促だけする。

 

そして、それがこの状況の中で適切だということも分かる。

 

結界内で戦っている仲間の救出か、男との対立か……どう行動すべきか悩んでいたときだった。

 

「そんなに壊してえならよぉ……手伝ってやるぜぇ……」

「む!?」

「カ、カリフくん!?」

 

突然、シャマルの背後から伸びてきた手が男の仮面を鷲掴んだ。

 

その正体にいち早く気付いたシャマルに瞬間移動で来たカリフが言った。

 

「今からこのバリアーをぶっ壊す。巻き込まれたくなければすぐに撤退しろとシグナムに伝えろ」

「で、できるの!? あの強固な結界を!」

「できるかどうかじゃない! 『やる』んだ!」

 

そう言うと、掴んだ手で男を持ち上げる。

 

「な、何を……!!」

「そんなに壊してえならよぉ……てめえがやれぇ!!」

「うあ!」

 

そして、その男をダイレクトに『投げた』

 

男はまるでミサイルの如く、結界に勢い良くぶつかり、苦悶の声を上げた。

 

「ぐあ……!」

 

背中を叩きつけられた男は結界にめり込むように貼り付けられ、カリフはそこに気弾を撃ち込んだ。

 

「これで……くたばれ!」

 

手を握った瞬間、男の傍に近寄っていた気弾が光を放ち……

 

「BITE THE DUST(負けて死ね)」

 

辺りを爆風と衝撃波で埋め尽くした。

 

規模は小さいとはいえ、とんでもない威力だったらしく結界に穴が空いた。

 

そして、固い物ほど壊れたときは脆く、結界の穴から生まれた罅が次第に広がっていく。

 

そして、そこから積み木崩しのように結界が崩壊していった。

 

「やった! シグナムたちも脱出完了! 私たちも行きましょう!」

「よし、じゃあオレはさっきの親子を拾ってから帰る。鍋は適温にまで温めておけよ? 肉と野菜はキッチリ入れておけよ?」

 

相変わらずのマイペースさにシャマルも苦笑を浮かべながらいつも通りのカリフに安心する。

 

これなら普通に切り抜けるだろう。

 

ここで、シャマルはカリフを信用して先に飛びたったのだった。

説明
再会の大魔導士
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