IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「あ、来た来た。おーい、一夏ー!」

 

午後三時四十分。俺は校門で一夏を待っていた。

 

「悪い! 遅れたか?」

 

走ってきたのか、一夏は少し息が荒い。

 

「いや。まだ少し時間に余裕があるよ。ギリギリセーフってとこだな」

 

「良かった・・・・・。こっちもギリギリまでマドカといたからさ」

 

一夏はふぅぅと長く息を吐いた。

 

「そういや、織斑先生は一緒じゃないのか?」

 

「ん? ああ。千冬姉はしばらく家にいるよ。マドカにISのことをいろいろ教えなくちゃいけないからさ」

 

「ふぅん。もしかしたらお前より飲み込みが速かったりしてな」

 

「・・・・・・・」

 

軽い冗談で言ったつもりだったんだが、なぜか一夏は気まずそうに右頬を指でポリポリ。

 

「い、いや・・・・・結構進んでな。なんか、俺たちが三か月くらいかかった理論学習がもう完璧に終わってる」

 

「へ、へ〜・・・・・」

 

織斑先生の指導がいいのか、それともマドカのセンスが素晴らしいのか。はたまたどちらもなのか。この分だと冬休み中にはマドカは俺たちに学習面では追いつきそうだ。

 

「そ、そうだ! こんなとこで油売ってる場合じゃなかった! すぐに調理室に行くぞ!」

 

「お、おう」

 

そして俺は一夏を連れて調理室に向かう。

 

「あ、織斑君、桐野君」

 

途中で写真部、そして整備班のエースの黛先輩に会った。

 

「どうしたのかしら? そんなに慌てて」

 

「ああ、ちょっと生徒会の仕事で」

 

「生徒会の? あは、もしかしてたっちゃんに振り回されてる?」

 

黛先輩のメガネがキランと光る。

 

「ええ。まあそんなところです」

 

「匂う・・・匂うわ! スクープに匂い!」

 

ああ、この人って本当にスクープに目がないな。

 

「じゃ、じゃあ俺ら急いでるんで」

 

「それじゃあ、また」

 

そして俺たちはまた歩き出す。

 

「ほいほ〜い。あ、桐野くん! 三枚でいいのね?」

 

去り際、先輩が俺を引き留めた。

 

「はい! お願いします!」

 

俺が走りながら答えると、

 

「毎度あり〜♪」 

 

と先輩は手をひらひら振った。

 

「瑛斗、先輩とどうかしたのか?」

 

「あ、まあ色々とな。ほらほら! 急がねえと遅れる!」

 

俺は軽い感じで話を流し、調理室を目指した。

 

 

 

 

 

 

「よーし! 生徒会プラスワンで頑張るわよー!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

楯無さんの号令の下、俺、一夏、のほほんさん、虚さん、そしてプラスワンのシャルが高らかに返事をする。

 

俺たちの目の前には、スポンジケーキが置かれている。

 

しかしそのスポンジケーキはとんでもないビッグサイズなわけで、貸切の調理室の天井に届かんばかりなのだ。

 

「でか〜・・・・・」

 

エプロンを身に着けた一夏はそれを見上げて呟く。

 

「昨日は大変だったんだよ〜」

 

その隣で同様にエプロンを着けたのほほんさんが笑う。

 

「お姉ちゃんに私がつまみ食いしないかってめちゃ鋭い目で見られたし〜」

 

「あ、そっち?」

 

「うん〜」

 

「まあ、本音のことは置いといて、シャルロットちゃんには昨日は助けられたわ〜。さすが料理上手」

 

一夏とのほほんさんの会話に楯無さんも混ざる。

 

「い、いえ。僕はそんな・・・・・」

 

「もー照れちゃってー! 今日も頼むわよー? 期待してるわ」

 

「は、はい!」

 

楯無さんに言われ、シャルも元気な返事をする。

 

「よし! シャルロットちゃんと瑛斗くんはフルーツの準備! 虚と本音は生クリームの準備! 一夏くんは私とプラスチックチョコの準備! デコレーションは最後に全員でやるわ!」

 

楯無さんの指示で、俺たちはそれぞれ持ち場につく。

 

「よっしゃ! シャル! 気合い入れてやるぞ!」

 

「うん!」

 

シャルもやる気満々だ。

 

「・・・・・瑛斗と一緒に料理・・・えへへ・・・・・・・」

 

シャルが小さく何か言ったようだが、よく聞こえなかった。

 

「瑛斗! 頑張ろうね!」

 

「お、おう!」

 

よく分からないが、シャルのやる気は凄まじいものだった。

 

それから、ケーキ作りは夜遅くまで続いた。

 

「・・・・・これで・・・よし!」

 

虚さんがサンタクロースの形のプラスチックチョコをデコレーションされたケーキに載せて、生徒会企画の特大ケーキが完成した。

 

「うん! みんなお疲れ様! これで明日のパーティーはばっちりよ!」

 

楯無さんの弾んだ声が俺たちのケーキ完成の喜びを代弁している。

 

「明日が楽しみ〜!」

 

「そうねぇ」

 

のほほんさんと虚さんもキラキラした目で完成したケーキを見る。

 

「・・・あ、でもこれどうします? パーティーは明日の夜ですよね? ずっとここに置いておくのは・・・・・」

 

「ああ、生ものだしな」

 

シャルと一夏がうーむと唸る。

 

「ふっふっふっふ・・・・・」

 

そこで楯無さんが意味深な笑いを浮かべる。

 

「楯無さん?」

 

「先輩?」

 

「二人とも、忘れてないかしら? この生徒会には優れた技術者がいることに・・・・・」

 

「「技術者?」」

 

「そう。それは――――――――」

 

「俺だぁっ!!」

 

楯無さんの前に出て、俺は胸を張る。

 

「実は造ってあるんだよ! 特大ケーキ用冷蔵庫!」

 

今年一番のドヤ顔と共にガラガラとローラーを転がして奥の方からデッカイ冷蔵庫を運んでくる。

 

「「「「おぉ〜!」」」」

 

ああ、気持ちいい。この感嘆の声が気持ちいい!

 

「さあ!早く入れるんだ!」

 

「わ、わかった!」

 

一夏と協力して、台に載っているケーキを慎重かつスピーディーに冷蔵庫に入れる。

 

パタン

 

扉を閉める。

 

「ドヤァ・・・」

 

俺が余韻に浸っていると、シャルがおずおずと話しかけてきた。

 

「え、瑛斗、こんなのいつの間に・・・・・?」

 

「ん? 一週間くらい前かな。まあツクヨミの技術力を舐めちゃあいかんぜ」

 

「う、うん」

 

「しっかしスゲーな。これ」

 

一夏も感心したようにぽんぽんと冷蔵庫の横を叩く。

 

「だろだろ? もっと褒めてもいいんだぜ?」

 

「でもスゲーデケーから、スゲー電気代かかりそう」

 

「・・・・・一夏くーん、そういう夢のないことを言わんでくれよ・・・・・・・」

 

一夏の家庭的発言でちょっぴりテンションが萎む。

 

「み、みんな今日はお疲れ様。明日に備えてゆっくり休んでね」

 

楯無さんのその一言でこの場は締まった。

 

 

 

 

 

 

 

「明日はクリスマスイブか・・・・・」

 

寝る準備を終えた俺は、今からワクワクが止まらなかった。

 

「所長の介抱がないのはいいけど、それはそれでちょっと寂しいな・・・・・」

 

窓の外を見ながらふと呟く。

 

「・・・・・ん?」

 

窓の向こうの遠くの景色がキラリと光った。

 

「んん?」

 

目を凝らして見ると、何かが高速でこっちに飛んできていた。

 

茶色いボディに、真っ赤な鼻。

 

「と、トナカイ!? うわあっ!」

 

ちっちゃなトナカイ型のロボットが高速で飛んできた。反射的に窓から体を離す。

 

ピトッ

 

そのトナカイは脚に着いた吸盤で窓に張り付くと、赤く発光している鼻を押し当てた。

 

ジュウゥ〜・・・・・

 

その鼻が円を描くように動いた後、コンと窓を脚で押した。

 

するとちょうどそのトナカイロボが通れるくらいの穴が開いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

突然の超展開に呆気にとられる俺。

 

『ふぅー。着いた着いた!』

 

なんとトナカイロボは直立に立ち上がった!

 

ってかもう面倒だから言うな。

 

「博士、ですね」

 

『おお! えっくん!』

 

トナカイロボのどこかにあるであろうスピーカーから篠ノ之博士の弾んだ声が聞こえる。

 

『めりぃくりすまーす! 今年も残すところもう少しだね!』

 

「そーですね」

 

『と言うわけで、束さんにちょっと早めのクリスマスプレゼントぷりぃーず!』

 

ぴょんぴょん跳ねるトナカイロボ。

 

「はいはい。ちょっと待ってください」

 

俺は机の上に置いてあった封筒を手に取る。

 

中には、黛先輩から購入した箒の写真が三枚入っている。

 

ちょっとばかり大きい出費だったが、マドカの安全を確保するため致し方なかった。

 

「どうぞ」

 

『うんっ! 約束を守ってくれるえっくんはいい子!』

 

トナカイロボは封筒を受け取ると、窓から部屋の外に出た。

 

『それじゃあ、いいクリスマスとお年を!』

 

ババッと飛び降り、ロボが一瞬視界から消える。しかし、背中から出てきたバーニアが火を噴き、そのままトナカイは冬の夜空に消えて行った。

 

「・・・・・ま、あの人にいちいち驚いてちゃあ敵わんよな」

 

俺はとりあえず小さな穴の開いた窓にガムテープを張って、寝ることにした。

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クリスマスイブイブのドヤ顔
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