《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜
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第二十五話 嵐の前触れ

俺とシャルルは今寮の階段を下りている。事前に「この学園でお前の事を知ってるのは現在俺だけだ。だから他の生徒とかいる場所では普通に接しよう」と言っておいたので、シャルルと俺は一緒に食堂に向かってる風に見えるのだろうが……

「………………」

「………………」

無言。まあ実際階段を降りたら食堂まではそんなに距離が無いから誰にも合わない確率の方が高いから別に怪しいと思うやつはいないと思うが。

「あ、アッキーだ〜」

「あ、ホントだ。お兄ちゃ〜ん!」

……この呼び方するのはあの二人か……

俺とシャルルは声のした方へ振り向く。するとこっちに駆けてくる……狐の着ぐるみを着た少女、のほほんさんと俺の妹、一ノ瀬春華だった。

「おう、二人でどうした?これから夕飯ってわけでもないだろ?」

俺はここまで駆けてきた二人に言う。のほほんさんの方は不明だが、少なくとも春華は絶対に夕飯を食べているはずだ……こいつが三度の飯の時間を忘れることは絶対にないからな、誰かを誘ったり誘われたりしない限りは恐らく時間になったら食堂に行ってご飯を食べてるはずだからな。

「えっとね、のほほんちゃんが、かんちゃんが何処かに行くのを見つけたから後を付けようって誘われたから付いてきたら見つけたの!」

元気いっぱいに言われても、その《かんちゃん》なる人が誰だかわからないから何とも言えない。

「えっと……のほほんちゃんっていうのはのほほんさんだろ?……かんちゃんって、誰?」

「簪お姉ちゃんのことだよ」

ああ、簪の事か……なるほど、だからかんちゃん、ね。

「あの簪がどこかに、ねぇ。まあどうするかは二人の勝手だけど俺はあんまりおすすめしないな。簪だってプライバシーや隠し事の一つや二つあるだろ?あんまり深入りすると簪から凄い反撃喰らうかもだぞ?」

ああ見えて簪も怒ると怖いのだ。それこそ打鉄弐式のマルチロックオンの攻撃を放ってくるかというぐらいに……

「アッキーはわかってないな〜。かんちゃんと私は主従関係なんだよ?だから主の行動を知るのは従者の義務なんだよ〜。わかる〜?」

「あ〜も〜、わかったわかった、もう勝手にしろ。第一俺には関係ないから口出しする権利もないからな。じゃあ俺とシャルルは飯まだだから、まあ程々にしとけよ〜」

「てひひ〜、またね〜」

「またね〜お兄ちゃん達〜」

春華とのほほんさんがブンブン、と勢い良く手を振って見送るのに対して、俺は背を向け食堂に向かいながら手を上げ、ブラブラと手を振った。

「ねえ秋、簪さんって誰?」

食堂に入って食券の販売機まで行く途中にシャルルに聞かれた。おそらくさっきの会話で出てきたから疑問に思ったのだろう。

「更識簪。俺らと同じ一年生でクラスは四組、クラス代表。姉として現IS生徒会長の更識楯無先輩がいる。夏のISの白式のせいで自分の専用機の打鉄弐式の制作がストップしちまったから組み立ててた所を俺が手伝ってあげたって訳。シャルルは何を食う?」

「へ〜、そうなんだ。で、どんな人なの?あ、僕はカルボナーラで」

「どっちも了解。俺もカルボナーラにしよう、っと」

俺はお金を入れて食券を二枚買う。食券を出したあと、シャルルから食券の代金をもらった。なんとも律儀なやつだ。

「メシ代ぐらいは別にいいんだが」

「よ、良くないよ。なんかさっきから色々してもらってるし……ふ、二人でどっか遊びに行った時に、お、お願いするよ!」

……要約すると《デートした時のためにとっといて》と言う事なのだろう。こりゃ本気で俺に惚れてるんだな。まあ付き合ってるかどうかは別として、デート代と計画ぐらいは考えておくか。

「わかった、受け取っとくよ。じゃあまあ、落ち着いたらどっか遊びに行くか?」

「……う、うん!!」

すっごい笑顔で頷かれた……これで女の子姿だったら傍から見たら凄くいい雰囲気でカップルっぽく見えたんだろうな〜。複雑な心境だ……

そんなことを話しながら待ってるとカルボナーラが来たのでそれを持って奥へ進む。時間ギリギリということもあり、人があまりいない。しかしチラホラとは居て「あ、一ノ瀬くんの私服姿だ!」とか「あれが噂の転校生か〜……やった貴重なツーショット写メゲット!」などが聞こえてくる。しかしそれ以外は静かなもので、寧ろそういう女子たちの声すら全然気にならない。

適当なテーブルに座り、シャルルと俺はカルボナーラを食べ始めた。さすがIS学園というべきか、俺達二人が最後の生徒でギリギリにやってきたのに一切手を抜いた感じがしない。寧ろいつもより美味いのではないか!?と錯覚さえ起こしてしまう。まあ実際そんなことあったら軽〜く差別だからないとは思うが。

「……そういや簪がどんな奴かだったな」

俺はカルボナーラを食べながら話をする。少々マナーとしては悪いが最低限は守ってる。だからシャルルも「うん、気になる」と答える。

「ん〜、なんて言うかクール?……違うな。なんて言うか物静かっていうか消極的っていうか、引っ込み思案な奴なんだ」

俺はスプーンとフォークを巧みに使ってカルボナーラをフォークに巻きつけながら言う。

「…………っん、無関心とか、口数が少ないとか?」

「そうそう、そんな感じ…………でも根暗じゃないんだよな〜、男子なら大抵そんな奴はメガネ掛けてそうな神経質なやつか根暗な感じだけどな〜。でも近づきがたいのは同じだな」

俺達は食べながらなので少し間が開いたりするがまあそれは仕方ない。それに早く食べなくては食器を片付けられないので食堂のおばちゃん達に迷惑だ。

「他は……そうだな〜……うん、いつもなんかのデータをいじってる。恐らくIS関連なんだろうが何をやってるのかは知らない……でもそう見せかけて実はゲームやってたりしてな。テトリスとかマインスイーパーとか」

「う〜ん、結構昔に流行ったゲームだよね?今でもあるの?」

「まあ…………無いことは無いな。俺もたまにやるし、なんなら貸してやろうか?」

「いいの?」

「別に構わんさ…………まあ雑に扱ったり、返すの忘れなかったらな。ごちそうさま、っと」

俺は食べ終わり、ナプキンで口元を拭く……そういや最近俺って麺類ばっか食ってないか?ヤバイな、栄養偏ると夏にまた小言言われちまう。う〜ん、自重せねば。

「何悩んでるの?」

おっと、顔に出ていたか。

「ん?いや、最近麺類ばっかり食べてるな〜と、恐らく昼の弁当みたいな状況を除けば麺類系ばっかり……」

「偏ってたら駄目だよ?ちゃんとサラダとかも食べないと」

……ここにもいたか……まあシャルルに言われるなら別にいいか。夏はくどくどと後がウザいからな。

「わかったよ。明日の朝食はなんか定食物にでもするかね」

「それがいいよ……ふう、僕もごちそうさま」

「ん、じゃあ片付けに行くか……」

俺は立ち上がってから懐中時計を見る。五分前か、まあ間に合ってよかった。

俺達は食器を返却口に片付けると食堂を出て自販機の所で飲み物を買っていく事にした。

「……そういや簪の話の途中だったな」

「そうだけど……他に何かあるの?」

俺は自販機にお金を入れてボタンを押しながら話す。

「う〜ん、まああとはメガネしてるけど伊達でIS用の簡易ディスプレイってとこか……あ、重要なことあったわ」

俺はボタンを押した後、思い出してガコンッ、と飲み物が落ちる音と面白いタイミングでハモってしまった。

「よっ……と、簪の前で姉の生徒会長の話はあんまりしない方がいい」

俺は買った飲み物を自販機の横についてる袋の束から取ったビニール袋に入れていく。こういうところはさすがだな、買いだめしていく生徒が他にもいるんだろう。

「簪さんが生徒会長にコンプレックスを抱いてるとか?」

「まあな。昔から優秀な姉と比較されてきたからな。俺がそれを和らげてやったから多少は大丈夫だとは思うけど……完全に治るには結構な時間を要するだろう」

まあ姉は姉で妹とどう接したらいいのか悩んでるんだろうし……実はこの更識姉妹、篠ノ乃姉妹の状況に似ていたりする。姉は妹が好きなのに、妹は姉を嫌っていたりとか。まあ簪と箒じゃあ殆ど対照的だから嫌う手段の方向性が違うな。

そんな事を思いながら階段を上っていく。そして自室の四階まで来て、階段から廊下へと曲がった瞬間、立ち止まる。

「……やれやれ、また面倒事になりそうだ」

俺はそう呟き、頭をかく。その目の前――俺の部屋の扉の前には平然を装う簪、笑っているが完全に怒りをあらわにするセシリア、もはや殺意すら醸し出しているような鈴、苦笑いの春華、クエスチョンマークを浮かべながら笑っているのほほんさん、そして今日転校してきた絶対零度の目に怒りを込めてこちらを睨んでいるラウラ・ボーデヴィッヒもいた。

 

時間は遡ること、数分前――秋葉がシャルルと部屋を出た時に遡る。

二人が部屋を出たと同時刻にある少女は階段を上っていた。セミロングの水色の髪が内側にはねていてIS用のディスプレイがついたメガネを掛けた少女――更識簪だった。

彼女は秋葉に用があったのだが、不意に上から聞こえる足音にほぼ条件反射的によけてしまう。現在の階層は三階、よって上には男子が三人しかいないのだ。その内の一人目の織斑一夏の場合はISのことで余りかかわらない方が得策と考え、二人目の一ノ瀬秋葉の場合は用はあるのだがおいそれと廊下で話す内容ではない。それに前に開発室で一緒になっていた時からの不思議な感覚や感情がうまく制御できていないため、こんな状態で会うのは得策ではないと考えたため。三人目の転校生の場合は特にどうということではないのだろうが確率は1/3……残りの2/3にあたる可能性があるので、それを瞬時に考えた結果の行動だった。

そしてその判断は正しかった。丁度秋葉が転校生のシャルルと一緒に降りた所であった。

簪はそれを見届け、階段を再び登って行った。

そしてその少し後に再び階段を上る影が現れる。制服を動きやすいようにノースリーブにして袖ど別々にし、茶色い髪をツインテールにした、女子としても少し小柄な少女――凰・鈴音だった。彼女も秋葉に用があったのだが階段を上りきったところで簪と鉢合わせになってしまった。

「……あんた誰よ?そこ、秋の部屋の前なんだけど?」

少し喧嘩腰にはなす鈴、しかし簪はそれに淡々と答える。

「私は、更識簪。秋に用があってきた。けど今は留守みたい。だから、帰ってくるの、待ってる」

「ちょっとあんた!秋の事を着やすく呼ぶんじゃないわよっ!!」

簪が秋葉の事をあだ名で呼んでるのが気に障ったのか更に声を荒げるが、簪も一歩も引かず淡々と言葉を紡ぐ。

「秋がそう呼んで構わないと言ったからそう呼んでいる。そして今度はこっちの番。あなたは誰?秋に何か用?」

「一年二組の中国代表候補生の凰・鈴音よ!あんた見たいな一般生徒と格がちがうのよ、格が!」

鈴は相手を挑発するようにそういうが《策士策に溺れる》とはまさにこのことで鈴は自分自身で自分の首を絞めたのだ。何故なら――

「私も代表候補生、日本の」

そう、簪もまた春華と同じ日本の代表候補生だったのである。

二人がそうやって睨み合ってる(ただ単に鈴が敵意を向けている)間に更に階段を上ってくる影があった。制服の裾に黒いレースがあしらわれ、長く薄めの金髪を端の方でロールさせ、どこか高貴な雰囲気を醸し出し、歩き方からその都度の行動一つ一つまでワザとらしく自らを誇張する人物――セシリア・オルコットだった。

暫くしてセシリアが階段を上りきると、そこにはまさに《竜虎会い見える》といった雰囲気が一気に三つ巴の最恐バトルに発展した。

「あら鈴さん、一体このような場所で何をなさってるのかしら?そしてそちらの方は一体どなたかしら?」

「……あんた、この状況見てよくそんな言葉が吐けるわね……」

もはや怒りを向ける対象が無差別な鈴。

「私は日本の代表候補生の更識簪……寧ろ私の方があなたたちに問いたい、あなたたち二人はここへ何しに来たの?」

冷静に、淡々と問う簪。しかしどこか刺々しい冷徹さを感じる。

やがて春華とのほほんさんもやってきてギャラリーが湧いたことで更に熱が入ったのか、はたまたその二人すらも敵と見なしたのか、もはや空気は戦場さながらである。

そして更に《火に油を注ぐ》ならぬ戦場にミサイルを投擲する少女が階段を静かに上ってくる。

制服はスカートではなく軍人が履いてるようなズボンにブーツ、長く伸ばした銀髪に片目を隠すようにつけた眼帯とともに醸し出される何物も寄せ付けない雰囲気、歩くたびに「カツッ、カツッ」となる正確な足音は彼女が常人とは比べ物にならない強靭な足腰を持つ人物だと連想させる――ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

そして彼女が四階に着いて口から放った第一声――

「なんだ、ISをファッションや玩具などと思い違いしている雌豚どもが、こんな珍獣紛いの下らん奴がいる部屋の前で何をやっている?」

――ミサイルはミサイルでも核ミサイルという名の兵器をラウラが投擲した瞬間であった。

しかしそのすぐ後、夕飯を食べ終えた秋葉とシャルルが上ってきたのでその戦場の火蓋が切って落とされることもなかった。そしてそれと同時に今年度に新しく入学してきた一年生の中の各国代表候補生の全員が揃った瞬間でもあった。

 

説明
どうも、作者の菊一です。
え〜最近梅雨も明け、学生たちは夏休みに入り、遂に夏がやってきたという感じですが皆さんどうお過ごしでしょうか?ついでに作者は学生ではないので仕事に追われたりしますwまあ流石にお盆は休みますがねw
しかしそんな毎日でも合間を見つけて小説は着々と進んでいたりw
しかし今回のお話、果たして必要な話だったのかと考えてたりw
ではどうぞ〜
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