12 言葉を託すこと。それが手紙なんですね? すずか様
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●月村家の和メイド12

 

「クレーメルエアレイド!」

「ディバインシューター!」

 カグヤの頭上で龍斗となのはの魔法がぶつかり合い、消滅します。

 龍斗はなんとかなのはに近づこうとしているみたいですが、なのはがそれをさせません。しかし、なのはも龍斗に追い立てられ、牽制をやめる事が出来ず、決定打を撃てずにいます。二人とも自分達の得意分野を引き出せず、この苦戦の時間はかれこれ三十分くらい続いていました。

 ふとストップウォッチを見たカグヤは、弓に『矢鳴り』を番え、真上に向かって射ると、その矢が発する音で終了を知らせます。

 合図を確認した二人は、最後に今使える最大の一撃を互いに放ちます。

「バスターストーム!!」

「ディバイン・バスター!」

 二人の魔法が激突して、周囲に余波とは思えない爆風を撒き散らします。

「おっと……」

 危うく爆風がカグヤまで巻き込みそうになったので、振袖から金剛杵(こんごうしょ)と言われる、棒状で中央に柄があり、その上下に槍状の刃が付いているモノを四つ取り出し、それを前方の地面に投げて突き刺し、配置します。

「((遮|さえぎ))」

 短い祝詞を詠み、障壁を創り出すし暴風の一撃を受け止める。距離が近かった事もあり、かなりの衝撃でしたが、受け止める分に不備はなかったようです。

「しかし、彼らの修業のはずなのですが……、ここにいると勝手に僕も鍛えられてしまいますね」

 なのはがいる手前、一人称に気を使いながら、カグヤはぼやくように呟きます。

 現在、学生の皆様が夏休みなる長期休暇を頂いているような頃合い。その半ば終わりに近づいた頃です。この長期休暇を利用して、龍斗となのは互いに模擬戦を繰り返し、己を鍛え始めている様子です。それと一緒に、なんだか最近二人の親密さが増した気もしますね? まあそれは当人達の問題ですから良いのですが。

 そんな事を考えていると空からなのはが龍斗を抱えて降りてきました。

「お疲れ様です。結果はなのはの勝ちの様ですね」

「うぅ〜〜〜……! 男として情けない〜〜〜!」

「にゃはは……、龍斗くん充分に強かったよ。あそこで((刃悉く全てを裂く|デストロイ・ギガレイズ))を使われてたらなのはも危なかったよ」

「アレは広範囲攻撃だから霧散するんだよ……。撃ち合いの時には向いてないし……」

「と言うか……、僕としては、いつの間に龍斗が風を使えるようになったのか、そこから訊き出したいくらいなんだけど……」

 純粋な魔力質量だけなら少し魔術をかじった者なら誰でも出来ます。そこにいつから特性を付けられるようになったんですかね? 並大抵の努力じゃ身に付かないはずなんですが?

「いや、フェイトが雷を使っていたのを見てさ。俺も何か使えるようになりたいと思ったんだよ」

「それで使えるようになったのですか?」

「なのはとの契約以来、妙に風が使えるようになってきて……」

 どうやら『天后』の契約は継続しているようですね。まあ、そうでないとこの二人の魔力を練り上げて霊力を創り出す事が出来なくなるので、以前龍脈から借りた分を返せなくなるんですよね。それにしても……、

「そう言えば、あの時借りた霊力は相当でしたよね? それなのにもう半分以上返しているようじゃないですか?」

「そうなの? 俺には見た目じゃ解らないんだよな?」

「それって狐ちゃんには見えてるの?」

「見える……っと言いますか? なんとなく解る、っと言ったところでしょうか?」

 感覚的には、今日は川の水がいつもより少ない気がする、などと言った気の所為とも言えるような感覚ですね。まあ、一応契約で霊力を得ましたから、返済するまで『終わった』という感覚はないのですが、それでも後ちょっとです。

「この分なら冬に入る頃には終わりですね」

「お! 意外と早い」

「良かったね龍斗くん! ……あ、そしたらこの契約って?」

 急に心配そうな表情になるなのは。あ、ちなみに今は最初の頃の普通の白い魔導師服です。『天后』の力を発動していないので、オプションはありません。

「大丈夫。契約はずっとそのままだよ。それに……、契約破棄って、それもそれで面倒だから……」

「ほへ?」

 龍斗の答えになのはは更に疑問を抱いたようです。まあ、契約破棄の方法が直接血液を渡す事ですから、恥しいのでしょう。最近その気持ちがカグヤにも解るようになってきました。……いえ、だからと言ってカグヤが恥しいのかと聞かれれば『なぜ?』と答えてしまうのですがね。

「さて、御二人の特訓も終わりでしょう。それでは僕はそろそろ用事があるので」

「あ、あのっ! 狐ちゃん!」

 帰ろうとした矢先、なのはに呼び止められました。

「なんです?」

「あの! これから龍斗くんと一緒に翠屋でケーキを―――!」

「以前も御誘いしていただきましたが『いらない』と言いましたよ」

「あ、でも……」

「僕にはやる事があるので、龍斗と二人で行ってください」

 そう言ってカグヤはさっさとその場を後にします。

 今日はすずか様と約束があるのですから、甘味などに((現|うつつ))を抜かしている場合ではありません。

 

 

 

なのは view

 

「あ、行っちゃった……」

 土地で魔法を使うようになってから、何度も狐ちゃんとはお話してるけど、フェイトちゃんみたいに仲良くなれていないみたい。色々誘ってみたけど、いつも「用事がある」「必要ない」「気が乗らない」の断りしか受けた事がない。龍斗くんとも仲良くなったし、そのお友達の狐ちゃんとも仲良くなりたいんだけどな〜〜。

「ねえ、龍斗くん。狐ちゃんって、いつもあんな感じなの?」

「あんな、って言うのは?」

「なんて言うのかな? なんだか一線を引いて、それ以上は近寄らないようにしてる感じと言うか?」

「ああ、それはね……、えっと、なんて言えば良いのかな? ちょっと訳があって、狐は狐の時に誰かと深く係わらないようにしているんだよ」

「えっと……、どう言う事?」

 言葉の意味が解らなくて、訊ね返すと、龍斗くんは自分の顔を指差しながら教えてくれる。

「狐のお面を付けてる間は『お仕事』、外している間は『プライベート』って使い分けてるんだよ。だから、狐が『狐』の時に『プライベート』に誘っても、了承してくれないよ。まさかお面付けたまま往来を歩くわけにもいかないでしょ?」

 あ、そっか。それはそうだよね。お祭りでもないのに、お面何か付けて歩いたら、誰だって気になるもんね。

「でも、それならどうして、なのはにはお面を外したところ見せてくれないの?」

 これで顔に傷があるとか言われたらどうしよう? って悩んじゃったけど、龍斗くんは曖昧な笑みを漏らす。

「狐にも、お面を外せない理由があるんだよ。そこは察してやって」

 うっ……、やっぱり顔に傷とかあるのかな? 狐ちゃんも女の子だもんね。そう言うの気にしたりするよね。

 でも、少しだけ気になる事がある。狐ちゃん、龍斗くんに対しては何だか普通なんだよね? なのは達に引いてる一線が無いみたいに、すごく素が出てるみたいな気がする。そう言えば何だか普通に狐ちゃんなんて呼んでるけど、アレって本名じゃなかったんだっけ?

「龍斗くんは、狐ちゃんとの付き合い長いの?」

「そうだね。なのはと出会うずっと前からの付き合いだよ」

「龍斗くんは、狐ちゃんの素顔を知ってるの?」

「まあ、一応」

「龍斗くんは、狐ちゃんの本名知ってるの?」

「うん、知ってるよ」

「龍斗くんは、狐ちゃんと仲が良いの?」

「悪いつもりはないけど……。なのは? 何か今日は質問ばかりだね?」

「うぅ〜〜〜……!」

「なんで唸ってるの……?」

 龍斗くんと狐ちゃんばっかり仲が良いなんて、なんかやだな。なのはも狐ちゃんとお友達になりたいし。でも、いくら狐ちゃんを誘っても受けてくれないんだよね。どうしたらいいんだろう?

「あ、そうか……! プライベートの狐ちゃんを誘えば良いんだよ!」

「ああ、それは無理だから」

 せっかくの名案を龍斗くんがバッサリ切っちゃいました。酷いよ……。

「狐がお面を外す事は絶対ないよ。外したら狐にとって困る事が一杯あるみたいだからな」

 そう言った龍斗くんの表情は、とっても訳知り顔で、何だかそれにちょっとだけムッとしてしまった気がします。なんでこんな気持ちになったのかは解らないけど、私、絶対狐ちゃんと仲良くなる! そう決めたのでした。

 

 

 

すずか view

 

 夏休み初日、私がカグヤちゃんに言った事がある。

「カグヤちゃんは学校行ってないから、勉強しなくてもいいんだね〜〜」

 またお姉ちゃんにカグヤちゃんを取られてて、つい意地悪な言葉遣いになっちゃって、今は反省してる。でも、それより驚いたのは、カグヤちゃんの返答だった。

「いえ? カグヤ、ノエル先輩とファリン先輩から勉強を教わり、ある程度は出来ますよ? すずか様が勉強で困った時、御教えするための訓練として御受けしましたから」

「……へ?」

 知らなかった。カグヤちゃんがそんな訓練してたなんて……。

 それで、「試しに見て差し上げましょうか?」なんて言われてから、私は毎日カグヤちゃんに勉強を見てもらってる。それで解った事があるんだけど、カグヤちゃんには他人に物を教える才能があると思う。

 最初は初めて教える事もあって、ちょっと解り難い説明で、学校の先生の方が教え方が上手いと思った。でも、たった数時間お話しただけで、私にとって解り易い形にして教えてくれた。これにはとっても驚いたのと、それ以上に助かっちゃった。

 それともう一つ気付いたんだけど、カグヤちゃんに勉強を見てもらっている間は、私がカグヤちゃんを独占できるって事。それに気付いた頃から、私、夏休みの宿題が終わってるのに、未だに勉強をお願いしてます。おかげで夏休み中に今までの復習が全部終わって、予習に入っちゃった。今なら休み明けのテストでも、塾の小テストでも万点が取れそうな気がする。

「すずか様、今日はこちらの勉強をしてみましょうか?」

 そう言ってカグヤちゃんが差しだした本に、私は思わずうきうきしてしまった。

「すずか様……、瞳がキラキラしておいでですよ」

 カグヤちゃんに笑いながら言われちゃったけど、そんなのどうでもいいほど楽しみだった。だって、カグヤちゃんが持ってきたの、機械とかが出てくる科学系の本だったから。

 さすがに小学校じゃあんまり詳しい事教えてくれないから、ちょっと物足りなかったんだよね。

「学校の勉強は、ある程度の基礎知識を身につけさせる事で、より高度な技術を理解しやすくする傾向があります。ですが、すずか様は将来のビジョンを既に御持ちの様ですから、そっち方面の勉強を優先してみようと思います。こう言うのは早いに越した事がありませんから」

 私はうきうきしながら本を開く。いきなり難しい内容だらけで、意味が解らなかったけど、心はうきうきしたままで、どんどん読み進めてしまう。どうしても気になったところは、カグヤちゃんに訪ねると「そこは回路の接続を詳しく説明している場所ですね。回路の接続には〜〜〜」っと、スラスラ教えてくれます。おかげでなんとなくだけど知識は頭に入ってきました。

「では、あらかた読みましたので、実際機械を弄ってみますか?」

 さすがにこれには驚きです。「料理の練習を実際にやってみましょう?」って言われた様なあっさりさで言われて、私は自分の気持ちが制御できなくなってました。

「あ、そんな目を爛々と輝かせてもらったところ申し訳ないのですが、流石に半田(はんだ)は火傷の危険があるので……、今回はバラす所から覚えましょう」

「バラす? えっと、分解するって事?」

「ええ、分解と組み立てが自由にできるようになるのが目標です。今回はとりあえず好きに分解してみてください。こちらに、古くて使えなくなったウォークマンがございます。もう既に壊れていますので、自由に分解してくださって構いませんよ」

 そう言ってカグヤちゃんが分解用の工具一式を渡してくれる。機械の詳しい説明はなかったけど、それでも普段見ない、機械の中身を見てワクワクしちゃったのは本当。良く、お姉ちゃんがこっそり机に向かって機械を弄っている姿を思い出して、自分がそれのまねごとをしているんだと思うと、なんだか楽しくなってきちゃった。

 ねじを外して、中身の機械を見ていると、私の視線で何がどう気になっているのか解ったらしいカグヤちゃんが細かく説明してくれる。もちろん、カグヤちゃんも全部が解るわけじゃないらしく、時々「それは、こちらの信号を変換するモノと思われます?」「すみません、これはカグヤにもさっぱりです」と言う答えも返ってきた。それでも、今日の授業時間が終わる頃には、私の心は充分に満たされるほど教えてもらえた。

 休憩も含めて冷たいジュースを飲みながら、ちょっと思った事を聞いてみた。

「カグヤちゃんって、もしかして機械とか得意なの? 知らない所でもある程度予想出来てたみたいだけど?」

「いいえ、まったく得意ではありませんよ。しかし、得意分野に類似する所はございますから、そのおかげで理解しやすいと言う所はございます」

「カグヤちゃんの得意分野?」

「こちらですよ。詳しく御説明はできませんけど」

 そう言ってカグヤちゃんが笑いながら見せてくれたのは一枚のお札。それはすぐに燃えるみたいに光はじめ、光の鳥さんに変わる。

「『霊鳥』にございます。これはもうすずか様には見せてしまいましたから……、他の皆様には内緒ですよ? 忍お嬢様にもこれは御見せしておりませんので」

「あ、……うん♪」

 何だろう? お姉ちゃんも知らない、カグヤちゃんと二人だけの秘密だと思うと、すごく嬉しい気持ちになって、幸せになってくる。

 でも最近思うんだけど、カグヤちゃんともっと仲良くなること出来ないかな? だって、いつの間にかカグヤちゃんを大好きな人が増えてきてる気がする。

 アリサちゃんは何だかカグヤちゃんの前だけ甘えた感じになるし、お姉ちゃんは優しい目をするようになった。ノエルさんもファリンさんも、前よりカグヤちゃんと積極的にお話するようになってるし、それに龍斗くん……、二人とも、あんまり親しくないみたいな事言ってるけど、それにしてはお互いの事、よく解ってる気がする。前にそれを指摘したら、

「いえ、ですからカグヤも男なのですから、龍斗様とは同じ男として解り合える部分があると言うだけの事でして―――」

 って、いつもの嘘ではぐらかされた。

 このままじゃ、カグヤちゃんがまた誰かに取られちゃう気がする。そうならないようにするにはどうすればいいのかな……?

 今は解らないけど、でも私は決めた。もっとカグヤちゃんと仲良くなろう!

 

 

 

カグヤ view

 

「ビデオレター……それはなんですか?」

 久しぶりに月村邸になのは、アリサ、龍斗までもが遊びに来た日、なのはから聞きなれない言葉を聞きました。

「カグヤちゃん、ビデオレター知らないの?」

「まったく存じ上げません。ビデオでしたら意味は解りますが……?」

「ビデオで録画したメッセージを、相手に送るんだよ。動画付きの手紙、って言えば分かるか?」

「ああ〜〜、それなら解ります」

 龍斗に教えられやっと納得するカグヤです。

「しかし、それを皆で撮って、一体誰に送るのですか?」

「なのはが知り合ったお友達で、フェイトって子よ」

「……そうなのですか」

 それはもしや、あの黒の魔術師ではなかったでしょうか? 龍斗から二人が友達になったらしい事は窺っていましたが、よもや一般人としても紹介するとは……。いえ、カグヤも龍斗をすずか様達に間接的とは言え紹介してしまいましたし、秘匿する力が御有りなら、何の文句もないのです。ここにいるカグヤは、ただのカグヤですし。

「では、カグヤがビデオを撮らせていただきますよ。どうぞ皆さんでメッセージを残してください」

「何言ってんのよ? アンタも映るに決まってんでしょ?」

「丁重に御断りさせていただきたいところなのですがねぇ〜〜」

「は? なんでよ?」

 魔術師同士だからですよ、アリサ様。

 しかし、正直にそれを口にするわけにもいかないので適当な事を言っておきましょう。

「正直、顔を合わせた事の無い相手に、友達らしく振舞うなど、カグヤにはできませんからね」

「良いんじゃないかな? 私達だって直接会った事はないし、これを機に付き合い始めるだけなんだし」

「いえ、すずか様がそう言って下さるのは嬉しいのですが、正直ビデオと言うのも苦手でして……」

「「いいからカグヤも一緒に映る!」」

「アリサ様、龍斗様!? 御二人ともいつからそんな息がピッタリ!?」

 結局断り切れず、皆で自己紹介用のビデオを撮る事となりました。

 なのはを始めとして、すずか様、アリサと続き、龍斗の順番が終わりますと、どうやらついにカグヤの番の様でございます。

「さて、……これは何処に視線を向ければいいのでございましょうか?」

 カメラを前にして初めての経験に戸惑っていると、なのはがすかさずカメラのレンズ部分を指差しました。どうやら監視カメラ同様であそこに視線を向ければ、相手を見ている形になるようです。

「月村家の使用人をしている、『使用人』をしているカグヤと申します」

「「「「わざわざ二回言ったっ!?」」」」

「すずか様の専属です故、こちらにいらっしゃる時は何度か御目にかかれると思います。以後御見知り置きを」

 そう言って礼をしてさっさとカメラの視覚内から出てしまう。

「ちょっと待ちなさい! 他に言う事無いの?」

「返答の無い会話は続けるのは困難なのです。会話能力はカグヤにはないスキルですし、こう、一方的に情報を露営させる行為は好ましくないのでございます」

「アンタはどこぞの秘密結社か!?」

 強(あなが)ち間違いでもないですよ、アリサ様。

「まあよろしいではないですか。どうしても気になるのでしたら直接会って御話すればいいのですし」

「そりゃそうだけど……、なんか言っておきたい事とかない訳?」

「カグヤは男にございます。男です。いいですか? こんな恰好してはおりますが男なのですよ!?」

「「「「いやいや御冗談を」」」」

「聞きましたか!? この逸し乱れぬ異口同音!? カグヤがなにを御伝えしたところで伝わるわけがないではないですか!?」

 伝えるだけ無駄とはこの事です。

 今度こそカメラのスイッチを切り、撮影を終了すると、カグヤは少し疑問に思っていた事を訪ねる事にします。

「ところで……、何故ビデオレターを送るのですか? 近況の伝達なら手紙でも充分でしょうに?」

「バカね! 映像や声があった方が何倍も良いに決まってるでしょう?」

「そうなのですか?」

 アリサ怒られてしまいましたが、実際、手紙のありがたさと言うモノも良く解らず、カグヤは首を傾げてしまいます。

「カグヤちゃんは、遠くの誰かに連絡とったりとかしないから、そう言うの解らないのかもしれないわね?」

 カグヤ達が話していると、いつの間にかやってきた忍お嬢様が話しかけ……ごく自然な動作でカグヤを後ろから抱きしめようとしました。

「おっと! 癖になってますね忍お嬢様! そう何度も引っかかったりはしませんよ!」

「ああんっ! ケチ」

 ケチではありません。人様の前でくにゃくにゃにされては、カグヤは切腹しかねない精神ダメージを受けてしまうではないですか。

 忍お嬢様は、少しだけ惜しそうな表情でカグヤを見つめておいででしたが、間にすずか様とアリサが割り込んできたので諦めの表情で溜息を吐きました。状況が解らないなのはと龍斗は首を傾げるばかりです。

 気を取り直した忍お嬢様は、先程の続きを話し始めます。

「カグヤちゃんも、誰かに何かを伝えてみたいと思って、それを手紙として出せば、そのありがたさが解るかもしれないわね?」

「伝えたい物ですか? ……カグヤにはそんな相手はおりませんね」

「なら、試しに俺達に手紙出してみたら?」

「あ! それいいかも!」

 龍斗の提案になのはが賛同。ついでアリサ、すずか様と皆が賛同なされます。

「そんな……、ここにいる相手は、皆顔を合わせる相手ではないですか? 手紙でなく、直接御伝えすれば……?」

「直接言い難い事を、手紙として送る。そう言うモノなのよ」

 忍お嬢様、何だか含蓄(がんちく)ありますね。手紙に良い思い入れでもあるのでしょうか?

「それに手紙は、『あなたと親しくなりたいです』って意味を込めて贈る物だから、出す事にはちゃんと意味があるのよ?」

「あなたと……?」

「親しく……?」

「なりたい……?」

 カグヤの呟きに、なのはとすずか様が呟きました。何か思う所があったのでしょうか?

「誰にでもいいから、カグヤちゃんもお手紙書いてみたら? 今一番親しくなりたい人へのお手紙」

「今一番親しくなりたい方への手紙……ですか?」

 

 

 

なのは view

 

 すずかちゃんのお姉さん、忍さんに言われ、さっそく皆でお手紙を書く事になりました。なのはも今一番仲良くなりたい女の子への手紙を書こうとしたのですが、その子に何を伝えていいのか解らず、まだ一文字も書けていません。

 う〜〜〜〜ん……、手紙って難しい……。

 ついつい頭を抱えていると、隣でスラスラと鉛筆を走らせている龍斗くんの姿が目に映ります。何だか余裕の表情でドンドン紙に何かを書いてて、既に三枚目になってる。用意している封筒は四つだから、最低でももう一枚書くのかも?

「龍斗くんは誰に御手紙書いてるの?」

「え? 俺? えっと、実は俺はユーノやクロノ達に……」

 少し照れながら言う龍斗くん。

 そう言えばなのはが最後にフェイトちゃんに会っていた日、男の子は男の子同士で何か話していました。きっとその時にちゃんとお友達になったのかな?

「そう言うなのは誰に送るの? やっぱりフェイト?」

「あ、えっと……、実は狐ちゃんに送ろうと思ってるんだ?」

 皆の前なのでなのはは声を抑えて伝えると、龍斗くんが「納得」と言った表情で苦笑いします。何だか見透かされてたみたいでちょっと恥ずかしい。

「でも、狐ちゃん、いつもそっけないからなんて伝えればいいのか解らなくて……」

 どんな言葉をかけるのが良いのか解んなくて、最初の一文さえ書けていない始末です。

 龍斗くんはそんななのはを見ると、何だか妙に嬉しそうな表情をとるの。なんでだろう?

「なのは、別に文にする必要はないと思うよ」

「え?」

 龍斗くんは手を止めると、なのはに向き直って言います。

「手紙は相手の返事を待たなきゃいけない物だから、つい伝えられるだけの事を伝えようと、長い文章を考えちゃうものだけど、狐となのははの間は、きっとまだ始まっていないんだよ。だから、まずは一言、自分の想いを伝える事だけを考えて書けばいいんじゃないかな? 自分の気持ちと想いを、まとめてさ?」

「自分の気持ちと、想い……」

 フェイトちゃんとの時も、すぐに始まったわけじゃなかった。でも、ちゃんとお話し合って、やっとお友達になれたんだ。狐ちゃんも、まだぶつかってもいない。始まってもいない。だから、まずは一言、私の想いを伝える事から始めよう!

「ありがとう龍斗くん! なんだか書けそう」

「俺で役に立ったなら、それは良かったよ」

 本当に、龍斗くんはいつも私の事を見てくれてて、私の為に色々考えてくれてて……、あれ? なんだろう? 何だか頬が熱い? あ、熱い? 何だろう? 耳まで熱い? あ、あれ? あれぇ?

「? どうしたのなのは? アンタなんか顔赤いわよ?」

「な、何でも無いよっ!?」

 

 

 

すずか view

 

 どうしよう……? 私は困ってる。手紙を書く相手はもう決めてる。今一番親しくなりたい相手で、これからも、ずっと一緒に居て欲しい子、カグヤちゃん。最初は一杯伝えたい事があって、手紙の一つくらいかけると思ったんだけど、いざ書こうとしたら書きたい事が一杯過ぎてまとめられないよ〜〜!

 チラリと隣を見ると、出す相手の時点で悩んでいるカグヤちゃんが手の上で鉛筆を回しながら悩んでる。どうでもいい事だけど、カグヤちゃん、すごくペン回し上手だね? 確か『スパイラル』とか言う名前がついてた技を自分の手元を見ずに繰り出してる。指先が器用だね。私なら指が吊っちゃいそうだよ。

「すずかちゃん? どうしたんです?」

 私が悩んでいると、後ろから覗きこんできたファリンさんが訪ねてきた。

「あ、えっと……、手紙を書こうと思ったんだけど、書きたい事が一杯あって、困ってたの」

「そうなんですか? よっぽどその人に伝えない事が一杯あるんですね♪」

「そ、そう言うわけじゃない……、と、思うんだけど……」

「? じゃあ、すずかちゃんは一体何を伝えたいんですか?」

 私が伝えたい事……、それは―――、

「あ」

「すずかちゃん?」

「ありがとうファリンさん。私、何だか書けそうな気がする♪」

「え? そ、そうなんですか? じゃあ、頑張って、ください?」

「うん♪」

 

 

 

カグヤ view

 

 手紙を書くと言いましても、誰に書けと言うのです?

 月村家の皆様には普段から御会いしておりますし、伝えたい事は直接伝えたいと言うのが本音です。ここ最近は特にそう思っていますので却下。

 アリサ……、特にありません。

 龍斗……、この期に及んで手紙を出してまで話したい事などありません。

 なのは……、現段階では逆に距離を置いておきたい気もしますね。

 おや? もう候補がいませんね? 考えてみるとカグヤ、友達少ないのではないでしょうか?

 そういえば龍斗は春先の事件で友人が増えたと言っていましたが、秘匿を優先したカグヤは、実は御友達の増加0です。これってもしかして問題だったりするのではないでしょうか? いえ、友達の良し悪しはカグヤには解らないのですが……、とりあえずあって悪い者ではないらしいという認識でしょうかね?

 っとなるとカグヤは誰に送ればいいのでしょうか?

 一番親密になりたい相手と申されましても、既にそうなりたいと望んでいる方にはお伝えしてしまったような気がします? っとなると手紙のもう一つの『理由』に着眼点を向けるべきですかね?

 『伝えたい』ですか……。

 …………ふむ、それも悪くはないかもしれませんね。

 

 

「はいカグヤ」

 それぞれ手紙を書いた翌日の事、龍脈の定期観察で神社にやってきたカグヤに、龍斗が手紙を渡してきました。

「なんですか龍斗? あなたはカグヤに書いてきたのですか? 気持悪い」

「ひどっ!? 今までの中で一番ストレートでひどい台詞だよ!? ……そうじゃなくて、なのはが『狐』にって」

「なのはが、狐のカグヤにですか?」

 受け取ったカグヤは封を開けて中を見ると―――、

 

 

 友達になろう!

 

 

 っと、紙面一杯に一言だけ書いてありました。

「……豪快ですね」

「でも伝えたい事は良く解るよね?」

 何だか悪戯っぽい笑みを向ける龍斗が腹立たしく思えます。理由が解らないので怒るに怒れずそっぽを向くしかありません。

「それで答えは?」

「……、善処する。っとでも答えておいてあげてください」

 そっけなく返しはしましたが、内心胸がドキドキしてます。何だかちょっと嬉しい気持ちになっちゃったようですね。絶対に本人達には内緒ですが。

 

 

「カグヤちゃん」

 その日の夜、もう眠い時間になったので、浴衣に着替えて寝ようとしたところ、すずか様が部屋に訪ねてまいりました。

「どうなさいました? すずか様」

「あ、あの……、これっ!」

 パジャマ姿のすずか様が両手で差し出してきたのは、一通の手紙です。恐らく昨日書く事になった手紙かと思われますが……。

「中身を拝借してもよろしいですか?」

 すずか様が真っ赤な顔で頷いたをの確認してから手紙を開くと、紙面一杯に一言―――、

 

 

 ずっと一緒に居て!

 

 

「……ぷっ!」

 なのはと同じですか!? カグヤ、生まれて初めて『うけました』よ!

「な、なんで笑うの〜〜〜っ!?」

「こ、これはすみませんすずか様。別段、可笑しくて笑ったのではありませんよ。あまりに嬉しかったものですから、つい……」

 カグヤがフォローすると、すずか様はさっきより真っ赤な顔でまたそっぽを向きます。

 おや? どうやら御姫様の機嫌を損ねてしまったようですね。

 カグヤは勉強机に向かうと、引き出しを開け、そこから一通の手紙を取り出します。

「すずか様、よろしければこの手紙、預かっていただけないでしょうか?」

「え? これって昨日の……? 私に? え? でも、預かるって?」

「ああいえ、これはすずか様宛ではないのですが……」

 カグヤはすずか様に封筒を差し出し、それを受け取ってもらってからお伝えします。

「それ、実はカグヤ自身に宛てた手紙なのです」

「カグヤちゃん自身に?」

「はい。未来の自分。とりあえずは十年後の自分に向けて宛てた手紙にございます」

 十年後、自分はどんな風に変わっているのだろう? それは解りません。もしかしたらカグヤは男としてちゃんと生活できているかも知れませんし、そうでないかもしれません。魔術師として何か偉業を成し遂げようとしているかもしれませんし、やはりそうでないのかもしれません。はたまた既に生きられていないやも……。色んな未来のビジョンがあり、気にはなりますが、とりあえず、今のカグヤが伝えたい事を書き綴ってみました。

「でもどうしてこれを私に?」

「本当は自分で持っていようと思ったのですが……、自分だと、いつか捨ててしまいそうだったので。ですが……」

 カグヤはすずか様の手を取って、両手で包み込むと、真直ぐ目を見て言います。自分の想いが伝わるように、しっかりと手を握って。

「例えこの先何があろうと、すずか様はずっとカグヤの傍にいてくださるのでしょう?」

「―――!!」

 驚いた様に目を見開いて顔を赤くするすずか様。その可愛らしい顔を眺めながら、カグヤは無言でお伝えします。

 いつかその時が来た時、カグヤにこの手紙を渡してくださる相手は、すずか様であって欲しい……。

「……今日も一緒に寝てくれる?」

 まるで照れ隠しの様に、それも今の想いを忘れないように、すずか様は優しい声で訪ねてまいります。ですから、カグヤは一言、自分の想いをお応えします。

「はい!」

 カグヤの知る限り、一番の笑顔を……。

 カグヤは未来の自分に『それ』を託しました。

 

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