13 甘いモノは正義なのです! すずか様!
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●月村家の和メイド13

 

忍 view

 

 最近、思う事がある。

 いや、別に悪い事じゃないんだけど、ちょっと微笑ましいと言うか、思わず笑いが込み上げてしまうと言うか、なんか漫画の世界を見てる気分だな〜〜って、そんな感じに思うのよ。

 その原因と言うのが、私の妹すずかと、その専属メイド―――じゃなくて使用人のカグヤちゃんの事だ。どう言う事かと言うと例えば……、

 

「すずか様、朝ですよ。起きてください」

「カグヤちゃんが頭撫でてくれたら起きるよ?」

「はい」

 なでなで、

「あはっ♪ 起きる♪」

 

「カグヤちゃ〜〜ん」

「はい? なんでしょうかすずか様?」

 ぴとっ

「えへへ……♪」

「……」

「ありがとうございました」

「いえ、この程度でしたらいつでも御呼びください」

 

「ねえ、カグヤちゃん? またお洋服買いに行こう?」

「構いませんが、せめてもう少し中性的にしてもらえませんか?」

「うん! 可愛くて、恰好いいの選ぶね♪」

「はい、すずか様が気に入ってくださるのでしたら」

 

「カグヤちゃん♪」

「はい?」

「呼んでみただけ」

「はい、いつでも御呼びください」

 

 って感じで、すずかがカグヤちゃんと一緒にいる時だけ、微妙に壊れ始めている気がするの。それに対して今まで突っ込んでたカグヤちゃんも普通に受け入れちゃってるし、あの二人の間で、何か強い繋がりでも出来たのかしら?

「カグヤちゃん! 今日は喫茶翠屋に行くよ。なのはちゃんとアリサちゃんとお出かけなの」

「はい、すずか様の行くところ、何処までも御供いたします」

「あ、それじゃあ、今日は昨日買った私服着てみる?」

「大変嬉しい御提案なのですが、まだ仕事の時間ですので、……((何|いずれ))、また非番を頂いた時にでも?」

「約束だよ?」

「ええ、すずか様が御望みのままに」

 言ってる傍からラヴラヴな空気が漂って……、何だかとっても身体がむずむずしてくるなぁ〜。

「すずか、私も一緒に翠屋に行くわ」

「え? お姉ちゃん、今日はお手伝い入ってないんじゃ?」

「そうなんだけどね……」

 あなた達を見てたら恭也に会いたくなっちゃったの!

 

 

 

カグヤ view

 

 先に言わせていただきます。

 もうツッコミません。

 今日はすずか様の御誘いで、久しぶりに女の子だけのお茶会をするとかで、カグヤも一緒に呼ばれました。……御理解いただけましたか?

 そんな訳でカグヤ、今は高町家が営む喫茶翠屋で御馴染みとなるアリサ、なのは、すずか様の三人に加わり、この店御自慢の甘味を頂いているところにございます。

「っていうかさ、カグヤも食べたら? このケーキ美味しいわよ?」

 アリサがフォークで自分のケーキを指しながらお誘いしてくださいますが、カグヤはどうも乗り気になれません。

「いえ、カグヤあまり甘いものは好まないのです」

「そうなの?」

「ええ、昔一度だけ、義姉様の好物と言う団子や餡蜜などを頂きましたが、どうもカグヤには合わないようでして……」

 おや? 皆様との温度差が久しぶりに違いますよ? カグヤ、久しぶりに変な事言ってしまったのでしょうか?

 カグヤが首を傾げていると、なのはさんがおずおずとすずか様に訪ねます。

「すずかちゃん? カグヤちゃんって家で御菓子とか食べた事あるの?」

「え、えっと……、そう言えばいつも『甘いものは口に合いませんので』って言ってたから、てっきり本当にダメなんだと思って……」

「そっか、じゃあケーキとかクッキーとかは食べた事無いんだ?」

「飴やチョコレートもね」

 何故か二人とも同時に溜息を吐いてしまわれます。どうやらカグヤの主観が常識と逸脱している事に対しての溜息の様なのですが? 一体どの辺りなのでしょうか? って、甘味についてに決まってますよね。それなら見聞を広めるつもりで、再度試してみる事としましょう。

「あの、なのは様? よろしければケーキと言うモノを食べてみたいのですが、御勧めなどはありますでしょうか?」

 途端に三人の顔が晴れやかに輝き出しましたよ。これはすごいです。カグヤ向日葵か何かだったら光合成出来てしまえますね。

 なのははさっそくメニューを取り出すと、そこから御勧めのモノを探し当て「おかさ〜〜ん! これお願〜〜い!」と注文しました。いえ、自分の家なので「お母さん」は良いのですが、店の中で家族アピールはどうかと思いませんか? 母親の桃子さんが笑って受け入れているので良いのでしょうが。

 そんな訳でカグヤの前に出されたのは、生クリームたっぷりのシフォンケーキでした。

 さて、甘味に対する常識がないらしいカグヤが、これを食べてどうなると言うのでしょうね? 別に達人が作った料理を食すと言うわけでもないのですから、一口食べて多大なリアクションを起こすとも思えません。……ですので御三方とも、そんなに身を乗り出してまで答えを待つ体勢をとるのは止めてもらえないでしょうかね?

 カグヤ、微妙に居心地の悪さを覚えながら、とりあえずフォークでケーキの端を切って一口。

 パクッ、

「……っ!?」

 突如、口の中で、えも言えぬ刺激が蹂躙し、脳の奥に記憶を司る全神経に訴えかけます。これは素晴らしいものだと!

 口の中に含んだだけで、じんわり溶ける生クリーム。舌の上に乗せるだけで口の中に御花畑を連想させてしまう脅威の味覚!

 カグヤ! こんな味を味わった事は、生まれてこの方一度もありません!!

 一噛みするだけで、御花畑が花園に! 二噛みすれば楽園に!

 食の芸術が、今カグヤの口の中で乱舞しております!?

 しっかりと味わい、こくりっ、と喉を通した瞬間まで、その花々はお腹の中にまで味わいの胞子を広げ、いつしかカグヤの満足感を、あるだけ全て引っ張り上げられていました……。

「甘美味(あまうま)だ〜〜……!」

「「「!!?」」」

 思わず声が漏れ出てしまった事には気付いていましたが、どうする事も出来ません。顔は弛緩して、情けない顔をしているだろう事は解っていますが! どうにもこうにも、この味覚に逆らう事ができません!? これが甘味なのですね〜〜〜〜〜〜〜〜!!

「美味しいぃ〜〜〜〜! 僕、こんなの食べたの初めてぇ〜〜〜〜っ!」

 ああ……、ついに素が出始めました。でも良いんです。これは魔術師モードではありません。真実カグヤの御心のまま。鎧を剥ぎ取った年相応の自分がここにいるのです!

「甘美味〜〜〜〜〜〜♪ おいひぃ〜〜〜〜〜〜♪ 幸せしぇ〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

 甘味とは、これほどにも人を惑わせるのですね!? これが本物の甘味!? 皆様! カグヤの勝手な主観で避けてしまって申し訳ありませんでした! そしてありがとうございます! この様な素晴らしいモノとの出会いを!?

「あ……、なくなってしまいました……」

 夢中で食べていたらあっと言う間にお皿は空です。なんでしょう? あまりに幸せだった所為で、無くなってしまうと物凄く寂しい気持ちになります。あんなに味わって食べたはずなのに、まったく満足しません。行儀が悪いと解っているのに、フォークの先を口に含んで、ちょっと名残惜しい目で空のお皿を見つめてしまいます。

「……カグヤちゃん、私の分上げるよ」

 突然すずか様が、自分の分のケーキをカグヤに差しだしてくれます。

「良かったらなのはのも」

「私のも食べていいわよ?」

 それに続いてなのはとアリサもお皿事ケーキをこちらにスライドさせます。

「い、良いのですか? これ程のモノを、カグヤが一人占めしてしまって? それは皆さんのモノでしょう?」

「素っ頓狂な声出てるわよアンタ……? 別にいいわよ。私達は良く食べに来てるし、また注文すればいいんだから」

「そうそう♪ それに、ウチのケーキをこんなに幸せそうに食べてくれるなら、私達も嬉しいから♪」

「カグヤちゃんが食べたいなら、私は分けてあげたい、って思うだけだよ」

 あ、あ、あ、あ〜〜〜〜〜〜っ!!

「ありがとうございます!!」

 カグヤ! 感激を露わにしっかりと御辞儀します。勢い良すぎて机に額を打ちそうになりますが、このくらいの距離感を失うわけもなく―――ガンッ!!

 いったいです……。

 目測誤って打ち付けました。皆びっくりしていますが、そんな事より優先すべき事があるのです!!

 カグヤは顔を上げると、譲ってもらったケーキにフォークを伸ばします。次々と口に含みながら、どれもが同じ甘さでも、全然違う味わいだと知って感激の涙が止まりません! 幸せのモーゼがいつまで経っても終わらないのです!? まるで美しき甘味のヴァージンロードです!!

「……可愛い?」

「……癒し系だよ〜〜?」

「……はふうぅ?」

 何やら御三方が呟いたように思えますが、もはやそれすら頭で処理できません。

「あ」

 今度こそ味わって食べていたはずなのに、気付けばもう御皿は三つとも空です。まだ口の中の幸せは残っていますが……、ダメです。もうないのだと思うと、途端に悲しい気持ちになってきそうです。

「なのはちゃん、このお店のケーキ全部ください」

「すずか!? ちょっと、目がマジよ!?」

「お金ならすぐに出すよ。『現金』で良い?」

「うえぇ〜〜〜〜〜っ!?」

「カグヤちゃん? 今度はパフェ食べる? とっても甘くて美味しいよ?」

「よろしいのですかぁ〜〜〜!?」

「「カグヤちゃんがキラキラしてるっ!?」」

「御店事買うよ」

「すずか落ち着いて〜〜〜〜! 帰ってきてぇ〜〜〜!?」

 その後、甘味を買い占めようとしたすずか様は、なのはから「さすがにお店のお菓子全部持っていかれるのは困るよ」と、一緒に来ていた忍お嬢様から「すずか個人のお金でそんな金額はないでしょう?」と諭され、渋々と言った表情で御諦めになりました。カグヤとしてはちょっと残念な気もしましたが、確かにこれで月村の御金を無駄に使う事はできません。ここはぐっと我慢するとしましょう。

 

 

 ―――数ヵ月後。

「……あのさカグヤ、最近仕送り金額が極端に減った気がするんだけど?」

「そうですか?」

「その君の周りにあるお菓子の山は何? それもかなり甘そうなものが揃ってるけど?」

「甘ウマです♪」

「訳解んないけど、可愛いなちくしょうっ!!」

 カグヤは『甘〜〜いモノ』を知りました♪

 

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生きろ龍斗………
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