いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第三十九話 俺の社会的信用はどん底だ!
「…クリスマスまであと一週間やなー」
「…クリスマス?」
今日はヴィータが私のお見舞いに来てくれたのでヴィータの髪をくしでとかしながら私は呟いた。
「ああ、ヴィータは知らんかったな。この世界にはなクリスマスちゅう、いい子にしている子にはプレゼントを配る赤い服を着たお爺さんがやってくる日なんよ」
「本当か!?そいつ魔導師か!?」
あははは。ちゃうよ、ヴィータ。
そんなヴィータと話しているとヴィータは何か感じっとったのかふと腰を上げた。
「…なあ、はやて。そいつははやての所にも来たのか?」
「ん〜。少し前までは来てたで。でも…」
私のお父さんとお母さんが死んでしまってからはぱったりと来なくなってもうたけどな。
「…はやて。あたし、そいつ探してくる!」
「あ、ちょっ、ヴィータ。まだ髪をまとめてへんでっ」
ヴィータは私の言うことも聞かずに病室を飛び出して行ってもうた。
はあ、私も少し前まではそんなことを考えていたけどな。
今日はヴィータで最後かな…。なんて思うとったら…。
「…失礼します。ここは八神はやてさんの病室?」
と、どこかで見たことある女の人。どこでやろ、どっかで…。
「そうですけど…。あの、どちら様ですか?」
私の質問にウェーブのかかった髪をした大人の女性は答えた。
「私、先程電話したものです。海鳴市図書館の者ですけど。八神はやてさん。貴方が借りていた本を受け取りに来ました」
…本?…あっ。
「そうやった。ここに入院してからずっとかりっぱやった」
と、私が手をぽんとうって思い出したら、女の人の後ろから最近見た金色の髪をした女の子と黒髪の男の子がやって病室に入ってきた。
「延滞料金を頂きまーす♪」
「フェイトちゃんっ!?そんなキャラやったか?!」
「残念、私はアリシアだよ」
「アリシア。ここは病院なんだから静かにな」
あ、この三人の組み合わせで思い出した。
「げ○っぱ三人組やっ」
「そのネーミングはどーよっ!」
女の人とアリシアちゃんは私の反応に苦笑いをしていた。
女の人。プレシアさんは私がよく通う図書館の人で、図書館の人から私の未返却の本を取りに行く際、私の家に連絡を入れた。そしたらシャマルがそれに対応。
家の中を探してみたが見つからないので私が持っているんじゃないかと思い、病院に直接来た。家に帰るついでに立ち寄ってみることにしたとのこと。
携帯電話でそういうやりとりもしたのを思い出した。もちろん、携帯電話をかけてもいい病院エリアでやで。
娘のアリシアちゃん。男の子の高志君はそのプレシアさんの付添い。
「すいません。本当なら私が直接返さないといけないのにわざわざ足を運んでもらってしまって…」
「家に帰るついでだからいいわよ。それより、体の方は大丈夫?」
私が謝罪の言葉を入れるとプレシアさんは手を振って答える。
「ええ、まあ。大丈夫ですよ。…ちょいとばかり足が動かなくなった程度ですから。あ、でも車椅子があるから別に大丈夫です。あ、これが返し損ねた本で」
「まだ読んでいなかったらそのまま借りていていいわよ。年末だから本の返却期間がせまっているからそれのお知らせに来ただけよ。はやてさん」
「…にゅ。はやて?もしかして平仮名ではやて?」
アリシアちゃんが何かに気が付いたかのように私に話しかけてきた。
「そうや、変な名前やろ」
「うん♪なのはちゃんみたいに変〜♪」
「なんやとーっ」
「きゃー♪」
私がふざけて怒るとアリシアちゃんはプレシアさんの後ろに隠れる。
が、そのアリシアちゃんの頭を左右からガシッと掴んで宙づりにする高志君。
「アリシアー、人の名前を馬鹿にするんじゃない。親から貰ったモノなんだから」
「にゃー、ごめんなさい」
「俺にじゃなくて八神に」
「はやてちゃん、ごめんなさい」
アリシアちゃんは頭を下げたかったんやろうけど宙吊りの状態だったから頭を下げきれていない。
…なんやろ。めっちゃかわいいんやけど。
プレシアさんはいつの間にか近くにあった椅子に座り私達の様子を眺めていた。
「…うう。あ、はやてで思い出したけど。あの掲示板の狸さんの絵ははやてちゃんが書いたの?」
「あ〜、あれ。見てくれたんや。ということは私のおすすめの本を読んでくれたん?」
「うんっ♪でも、全然効果が無いんだよね〜」
アリシアちゃんは高志君の方を見ながら話してくる。
高志君。もう、アリシアちゃんを離したほうがええんとちゃう?もげてまうでアリシアちゃんの首。
「おすすめ?」
「うん。年上コロリって、本なんだけどね」
「なんだ、その物騒なタイトルは!?」
高志君が思わずアリシアちゃんのホールドを解く。
「…ああ、あのマンガ本ね」
プレシアさんは心当たりがあったのか眉を曲げた。
「あの?」
「私がアリシアから取り上げた本よ」
「あれか!」
※第六話参照
「大丈夫や、高志君。名前でもええか?」
「あ、うん。別にいいけど。って、あれのどこが大丈夫なんだ!てか、近頃の図書館は漫画も置いているんだ。てぇっ、かなり深かったぞ。下手すればあれはエロ本レベルだろ!」
「でも発行部署は小○館や」
「まじで?!」
「嘘や」
あれ、R15やしな。
「なんと、嘘かよっ」
これは…。
高志君、いろいろと確かめさせてもらうで。
「でも、かなりの部数をいっているで」
「ちなみにどれくらい?」
「百億部」
「想像を絶する売上?!」
「これも嘘や」
「…また」
「嘘の嘘や」
「え、どっち?!」
そんな様子にアリシアちゃんもノってきた。
「でもね、私がやってもお兄ちゃんには効果が無いんだよ〜」
「アリシアちゃん。諦めたらあかん。諦めた時点で試合終了や」
「俺の敬愛する先生の言葉を汚さないで!」
「はやてちゃん。…お兄ちゃんを籠絡させたいです」
「やめてぇええええ!」
あかん。やっぱり高志君は生粋のツッコミ派や。
こ、これはふざけないと…。
「アリシアちゃん。あのマンガにもあったやろ。年下の女の子。いや、まず男を落すにはまず周りからや」
「『まずは狙いの男の子の信頼を落とせ』からじゃないの?」
「黒い!タイトルが黒い!」
「安心してえな高志君。内容をかいつまんで言うと社会的信用をどん底にまで叩き落す。という内容やから」
「どこをどう安心しろと!?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。告白された時の言い訳に使っているだけだから」
「お前、結構な数の告白を断ったって、言っていたよな!」
「ちなみに内容は?」
「私は家ではお兄ちゃんに猫耳メイド服首輪付きでご奉仕プレイをしています」
「どん底だ!俺の社会的信用はどん底だ!だからかっ、幼稚園の先生やちびっ子達が俺を見る目が冷たかったわけだ!」
…あ、アリシアちゃん。
なかなかやりおるな。
あれはまず、狙いをつけた男の子を周囲から孤立させる。そして、周りで誰も頼れない所に主人公の女の子だけが助けに来ることでその男の子はコロリと惚れてしまうという内容や。
「…猫耳メイド首輪付き。…フェイトも一緒に。…うっ」
「鼻血をふけいっ、親馬鹿さん!」
プレシアさんの鼻からとめどめもない鼻血が…。
フェイトちゃんも一緒に?
二匹の猫耳メイド…。うむっ、萌える!
と、私が妄想したのを感じたのかアリシアちゃんは一歩私達から離れてくるっとその場で一回転。そして、
「にゃん♪」
と、猫のように手を曲げてとても萌える。そして可愛い笑顔を私達に見せる。
「…ぷはっ」
「プレシアァアアアアア!?」
ぷっしゃああああ。と、プレシアさんの鼻から大量の血が…。
あかんっ、これは致死レベルの出血や!ナースコールはどこやった?!
「じゃあな。俺達は帰るけどちゃんと養生しろよ、徳川家康」
「私、めっちゃ偉くなったなぁ」
「反省の色が無いんかい!」
貶してんだ、馬鹿たれ!
病院に来て怪我。というか、鼻血という出血をしに来るとは思わんかったわっ。
ちなみに俺がはやてを徳川家康と呼ぶのは、掲示板の書き込み書いたおすすめ本コーナーに添えられたメッセージの隅に書いてあった狸。に、腹黒い漫画のイメージを足したことで、ハラグロ狸=徳川家康。となった。
「あはは、冗談や冗談。てか、高志君。それは私の喋り方や。それにもう夜も遅いで」
「…くそぅ」
先程、はやての主治医。石田先生に注意をされたばかりなので今日の所はここで引き下がってやる。
「…っ。…それじゃ、バイバイや。高志君。アリシアちゃん。プレシアさん」
と、一瞬はやての表情が固まったかのような感じがしたけど気のせいだろうか?
「…ううん。((それは|・・・))違うよ、はやてちゃん」
「「「?」」」
アリシアの言葉に俺達は首をかしげた
「また、遊びに来るからね。今度はフェイトも連れて。だから、((またね|・・・))だよ」
「…せやね。それじゃ、またな。アリシアちゃん」
「うん♪また、相談に乗ってね♪」
「もちもちや♪絶対に高志君を籠絡させる作戦を…」
「表に出ろ家康。第二次海鳴市冬の陣を開催じゃあ」
「外出許可を持ってないから無理やもーん」
…くそぅ。
本当は元気じゃないのかこの狸。
それから俺達ははやての病室を離れた。
…だけど。
俺がはやての病室に踏み入れることは二度と無かった。
この世界で初めて迎えるクリスマス。
その日、あの事件が起こってしまったから。
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