『孫呉の龍 番外編  ”WILD HORSE”』 前編
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龍虎と一刀が、この外史に来てから三日程経ったある日、建業の石頭城内のとある部屋で、龍虎と一刀は先程から自分達が向こうの『外史』から持って来た荷物を整理している。

 

「一刀、このノート類はこっちの書棚に置いてくれ……」

 

「うっ、ういぃぃ……」

 

「あと、このバインダーは色毎に内容を分けているから、出来たら色別で分けて置いてくれよ……」

 

「ああ……うっぷ、了解……」

 

「おいっ……一刀……二日酔なら無理せずに、そこの寝台で寝てろ」

 

「いや、大丈夫、大丈夫だから……うえっぷ……」

 

「ちっとも大丈夫に見えないんだが……まあ、大体は昨日の宴の終わった後に片付けているから、後は俺一人ででも出来るしな……取り敢えず一刀、お前は休んでろ」

 

「えっ? 龍虎、まさか昨日の晩あれ程呑んだのに、あの後起きてたのかよ……ぐえっ」

 

昨晩は雪蓮の発案……と言うよりは思いつきで石頭城内にいる全ての武官文官を集めての大宴会となった。名目上は龍虎が呉の一員になった事についての歓迎会と言う事ではあったようだが、龍虎は、ただ単に雪蓮が馬鹿騒ぎがしたかっただけではと考えている。

 

「ん……? 俺ってそんなに呑んでたか?」

 

「呑んでたか? なんてもんじゃなかったよあれは……だって龍虎に興味を持ってお酌に来る人達を、武官文官問わずに全員酔い潰しちゃってたじゃないか……」

 

「そうだったか? でも一緒に呑んでいた雪蓮は普通だった様に思うが……」

 

「その雪蓮さんが宴の半ばに俺に聞いて来たんだよ……「龍虎の身体ってどうなってるのっ?」 ……てね、どうやら雪蓮さんも実の所、かなり酔いが回ってたみたいだよ。宴が終わった時に両脇を、周瑜さんと程普さんに抱きかかえられる様にして部屋に帰って行ってたからさ」

 

「ふうん……で、それを見た後に一刀は意識が飛んだって訳か……一刀、俺は男を肩に担ぐなんて事は金輪際したくは無いからな」

 

「うっ……ごめんなさい……うええっぷ」

 

「ああもうっ、鬱陶しい!! どうでも良いから先に厠に行って後は大人しくそこで寝てろっ!!」

 

「はっ、はいぃぃぃぃっ!」

 

業を煮やした龍虎の怒鳴り声に一刀は素っ頓狂な返事をしてドタドタと部屋から飛び出て行く。

 

(ん……? ところでアイツ厠の場所を知っているのか? まあ赤壁の後に魏がこの城を一時的に占拠してたって事だから問題は無いのか……)

 

龍虎がそんな事を考えていると部屋の入口から不機嫌そうな雪蓮の声がする。

 

「ん――っ、こんな朝っぱらから一体何の騒ぎなのよ、龍虎。こっちは昨晩貴方の相手をしてまだ頭が痛いのに………」

 

「そいつはスマンな、雪蓮。ただ、一つ訂正させて貰うが今はもう昼前だ……それと、俺の相手をしたなどと他の者の誤解を招く様なもの言いは止せ」

 

「酷ぉ――いっ! あんなに熱く愛し合ったのにぃ―っ、あれは遊びだったのねえっ」

 

「うぉいっ! 言うに事欠いて貴様はいきなり何て事言いやがりますかっ!」

 

「え――っ、龍虎ノリが悪いわねえ……そんなんじゃあ『天の血』を孫呉に入れるっていう大仕事は出来ないわよ……」

 

「俺の事を心底認めてくれる女性は、雪蓮の様な性質の悪い冗談なぞ言わんとは思うがな……」

 

「ぶ――っ、ぶ――っ、何かわたしの扱いって随分酷くないかしら……せっかく龍虎の部屋だってわたしの部屋の近くにしてあげたのにい……」

 

余談ではあるが龍虎の部屋の前は雪蓮の部屋であって部屋の並びには孫呉の重臣達の部屋が並ぶ。雪蓮の両隣りの部屋は程普と冥琳の部屋であり、冥琳の隣が今は空き部屋になってはいるが蓮華の部屋、その隣はシャオの部屋となっている。

 

「近くにしてあげたのにい……って言われてもなあ、一刀以外周り全部呉の重臣ばかりじゃないか……」

 

「ふっふ―ん、だってその方が用があれば、皆すぐ龍虎の所にいけるじゃない。どう? 良い考えでしょう」

 

えっへんと胸を張る雪蓮の姿に、そこはかとなく目眩を覚える龍虎であった。

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「ところで、龍虎は何をしてるの?」

 

「見ての通り荷物の整理と部屋の模様替えだ……最も殆ど昨晩の宴の後に大部分は終わらせてはいるんだけどな……」

 

「龍虎……アンタ、昨晩あれだけ呑んで何とも無かったの……?」

 

「んっ……? さっき一刀も同じ様な事言ってたが……俺、そんなに呑んでたか?」

 

「呑んでたか……ですって? 武官文官の殆どの子達を酔い潰しておいて……龍虎……貴方本当に人間なの?」

 

「おかしいなあ、俺はちゃんと人間の筈だがなあ……」

 

「はあ〜っ……もう良いわ……で、その妙に色とりどりな物は何なのかしら?」

 

部屋の棚や机の上に揃えられた、ノートやバインダーを見て興味深そうに雪蓮が質問する。

 

「んっ、これは俺達の世界の竹簡みたいなものだ」

 

「へえ〜っ、こんなに薄いものが……うわっ、何これ? 何て書いてあるの? 所々読める字はあるけど全然意味分かんないっ!」

 

「あん? ああそうか……ひらがな、カタカナは元より漢字もかなり違うんだよな、この時代とは……」

 

「う〜ん……冥琳や芙蓉ならば読めるかしら?」

 

「まず無理だろうな……言語体系が全く違うんだ。雪蓮だって、匈奴や鮮卑の書物は勉強しなければ読めないだろう」

 

「ふ〜ん……龍虎なら冥琳達にそれを教える事は出来る?」

 

「ああ、公瑾殿や子敬殿なら苦も無く覚える事は可能だろうし、教える事なら俺は一向に構わんよ。ただな………」

 

「ただ……何よ?」

 

妙に口籠る龍虎を雪蓮は訝しげに見やると

 

「公瑾殿が素直に俺の教えを受けるとは思わんがな……そこんところはどう考えてるんだ雪蓮?」

 

「あっ………」

 

「あっ………って、やっぱ、何も考えて無かったな……」

 

「な、何言ってんのよっ、そのくらいの事は、ちゃんと考えていたわよ。冥琳は……そうだわ、冥琳には私からの提案で龍虎の所に行けと言う事で……」

 

「雪蓮……どんな事でもお前の命で、呉の者を俺の所に来させるのは勘弁してくれって確か言った筈だよなあ」

 

「ええっ、でもおっ……」

 

「でもじゃあないっ! どういう形にせよ、雪蓮が命を下したら俺の所に来たくない者まで嫌々ながら来なくちゃいけなくなるんだから……」

 

「じゃあ、どうすれば良いって言うのよ、わたしの案を却下するんなら責任とって龍虎が考えなさいよね」

 

ふくれっ面をした雪蓮は、腕組みをしたままで龍虎をジト目で睨む様に催促をする。

 

「雪蓮……何か趣旨が違って来ているとは思わないか?」

 

「そんな事はどうでもいいのっ! 龍虎は頑張って冥琳を攻略する事だけを考えたら良いのっ! そうしないと私が龍虎の所へ入り浸れないじゃあ無いのよ……」

 

プリプリと怒りつつも後半は自分の欲望ダダ漏れの雪蓮の言動に若干頭痛を感じながらも

 

「まあ、血を入れる云々は別にしても建業の復旧は急務だからな……要は公瑾殿が認めざるを得ないぐらいの実績を上げれば良いのだろう……ならば、樹里を通して一つ、二つ改善策でも出してみるか」

 

「何で、そこで樹里の名前が出て来るのかしら?」

 

「何で……って言われても、流石に昨日の今日じゃ、親しいと言えるのは樹里と虞翻ぐらいだからなあ」

 

「まあ、良いわ……とにかく龍虎は一刻も早く冥琳を納得させて頂戴! でないと色々な所で龍虎を使うっていう当初の目標が達成出来ないじゃない!」

 

「お前なあ………」

 

樹里から冥琳に献策が通れば通ったで、その後に散々コキ使われそうな事が容易に想像できた龍虎はやれやれと言った顔で再び片付けを開始するのだった。

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んっ、これは……?」

 

龍虎がトランクケースの片付けをほぼ終えた後にディバッグの中身を整理しようとした時、ディバッグの中から一通の分厚い封書が転がり落ちた。

 

(これは……最後の別れの時に及川が持たしてくれた手紙……確かこの世界に着いたら読めって言う事だったよな……)

 

その封書を空けて真剣な顔で読み出した龍虎に、手持無沙汰の雪蓮が面白いものでも見つけたかの様に問い掛ける。

 

「どうしたの龍虎? 何? それも貴方の世界の大事なものなのかしら?」

 

「ああ? まあ、そんな様な物だな……あちらの世界を旅立つ時に、俺達の協力者が持たせてくれたんだ」

 

「へ〜え、で、何が書いてあるの?」

 

「ん〜、その事だが雪蓮。この街に『玉麒麟』って名前の商家はあるか?」

 

龍虎の問い掛けに雪蓮が、少し考える様な素振りをしてから答える。

 

「『玉麒麟』、『玉麒麟』ねえ……ん〜、確か聞き覚えはあるんだけど……あっ!」

 

「どうした……思い出したのか」

 

「ええ、『玉麒麟』だったわよね。確かこの大陸で手広く商いをしてる商家よ。本店は洛陽にあって、この建業にも、陳留にも、成都にまで支店を出してた筈だわ……でも、なんで龍虎がその『玉麒麟』なんて知ってんのよ?」

 

「いや……俺が知ってる訳じゃあ無くて、この書簡に書いてあるんだ……無事に建業に着いたらそこを訪ねろってな」

 

龍虎の答えに雪蓮は訝しそうな目をして

 

「龍虎……アンタ北郷と一緒に未来の世界から来たって言ったわよね……じゃあ、その書簡を貴方に渡した協力者って言うのも龍虎が居た所の人なんでしょう?」

 

そう言った雪蓮の言葉の意を酌み取った龍虎は、雪蓮の目をジッと見つめながら真摯な態度で雪蓮を諭す様に話す。

 

「雪蓮の言いたい事は良く分かる……だが今は全てを語る事は出来ない。何故なら全てを話す事によって、いらぬ混乱を招く事に成りかねないから……只、これだけは信じて欲しい。俺は決して雪蓮を裏切らない」

 

龍虎の話を聞いた雪蓮も即答する事が出来ずに、二人の間に緊張した空気が流れる。ややあって雪蓮が大きな溜息を一つ吐いて

 

「ハアッ〜……本当、龍虎アンタって一体何者なのよ………」

 

「スマン……雪蓮」

 

「もういいわよ……龍虎を呉に迎え入れたのは、この私なんだし……そのかわり覚えておいてね龍虎。アンタが呉に災いを及ぼす存在となるのなら……」

 

雪蓮の自分自身に言い聞かせる様な言葉に思わず龍虎が問い返す。

 

「なるのなら……」

 

「この孫伯符自らが刺し違えてでも龍虎、アンタを殺すわ」

 

雪蓮が強い決意を込めて龍虎に向かってそう言った後、龍虎の胸に倒れ掛かる様にその身を預けて

 

「だから……龍虎。お願いだから、私にそんな未来を選ばせないと約束して……」

 

「雪蓮……」

 

心なしか涙声で自分の胸に顔を埋める雪蓮を堪らなく愛しいと感じた龍虎は、そのまま雪蓮を抱きしめた後

 

「約束するよ……この呉を……いや、雪蓮を俺は決して裏切らない」

 

そう言った龍虎は、雪蓮を抱きしめた腕に力を込める。

 

「龍虎……」

 

その言葉に雪蓮は、潤んだ瞳で龍虎を上目遣いで見上げて、静かにその碧眼を閉じた。

 

予想もしなかった雪蓮の行動に、胸の鼓動の高鳴りを嫌と言うほど感じる龍虎であったが、何かに気付いた様な素振りを見せると部屋の入口に向かって言葉を放つ。

 

「ところで……一刀。一体いつまで覗いているつもりだ?」

 

「………っ!?」

 

不意に龍虎にそう言われ、部屋の入り口で、先程から入ろうかどうしようか迷っていた一刀は固まってしまった。

 

「えっ……ええぇっ……北郷? 何っ? ちょっ、ちょっと違うの、これは……別に……」

 

それと同時に部屋の中では甘い一時から、いきなり現実に引き戻された雪蓮が真っ赤になってアタフタと意味不明の言葉を発している。

 

「雪蓮……慌て過ぎだっ。それと一刀、気配を絶つならもう少しマシな絶ち方をしろ……」

 

「いや、だからそんな事してないって!!」

 

「ふっ、まあ良い、先程よりは多少元気になったようだな。なら出かけるぞっ」

 

「えっ? 出かけるって何処へ?」

 

龍虎のいきなりの言葉と、今この場からの半ば強引な場面の転換に面喰った一刀が素っ頓狂な声を上げて龍虎に問うと

 

「『玉麒麟』と言う屋号を持つ商家に行くんだ。場所は……雪蓮が案内してくれるらしい、詳細は行く道で話す。後、公瑾殿……では堅過ぎるな……一刀、子敬殿を呼んで来てくれないか……」

 

「魯粛さんを……?」

 

「ああ、理由は、すまないが雪蓮の御供って事で……面倒掛けるが頼む一刀。それに雪蓮、目的地までの案内の方は宜しくなっ」

 

「えっ、えっ? 案内するの私なのお?」

 

事務的に答える龍虎の声と、いきなり話を振られて面食らう雪蓮の声が続けて聞こえて来た。

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え〜と、取り敢えず一年ぶりの再開となります……ぶっちゃけ、マジで書き方を忘れておりますので、御見苦しい点も多々あるとは思われますが、それでも宜しければお楽しみくださいませ。

 

それでは次回の講釈で堕落論でした。

説明
ほぼ一年の間更新を全くせずに申し訳ございませんでした……

一年程他のサイトで武者修行……? の様なものをしていたのですが、そちらのサイト様閉鎖によって不義理をしていた此のTINAMIに再度舞い戻って参りました。

決して以前書いていた『孫呉の龍』も忘れていた訳では無く、ちょこちょことは執筆はしていました。取り敢えず一年ぶりにはなりますが、まずは番外編にてお楽しみ頂ければと思います。
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コメント
コメ頂いた皆様、このように思いっきり不義理をしていた作品の更新を待っていただきまして誠にありがとうございます。今、駄作者非常に感激しております……今後とも頑張って行きたいと思いますので宜しくご支援の程をお願い致します。(堕落論)
イヤッホッイー 続きまってました〜w(exam)
お帰りなさい! 更新楽しみにしていますよww(siasia)
おお〜! 続き待ってましたよwwwww!?(劉邦柾棟)
タグ
恋姫†無双、オリキャラ、 雪蓮 

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