インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#48
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[side:一夏]

 

あの『大事件』があった臨海学校から帰って来たその次の日…

 

「まさか、空くん先生が女の子だったとはね〜。」

 

「まさかね。男の娘かと思ったら男装少女だったとは。」

 

「ああ、可愛い格好してくれないかなぁ…」

 

 

「なんか大怪我してたみたいだけど、大丈夫なのかな。」

 

「でも、最終日にフツーに出てきてたよね。車椅子だったけど。」

 

と、まあ…合宿最終日に空が見せた車椅子+水着姿の話題で持ち切りだった。

 

朝のショートホームルーム前の時間はこうしてざわめきに満ち満ちていて、つい壁の向こう側に気を向けずにいたせいで………

 

 

ガラっ

「ショートホームルームを始める。」

 

と、唐突に入ってきた千冬姉に慌てて自席に戻る者が続出した。

 

まあ、仕方ないだろうけどさ。

 

なんせあんだけ騒いでれば足音なんかには気付けないよな。

 

「先ず連絡だ。千凪先生は私用で数日ほど休暇を取られている。よって、その間は私と山田先生で代行する事になった。以上。」

 

ほぇ〜

また空が休みか。

 

「では出席を取る。相川。」

 

「はい。」

 

―――こうして、((通常授業|にちじょう))に戻ってきた俺たち。

だが、この時はまだ『あんなこと』になるなんて誰も思ってもみなかった。

 

 * * *

 

 

空が戻ってくると言われていたその日、教室は何時になく騒がしかった。

 

それだけ、空がみんなに好かれているって事なんだろうけど………

 

ワイワイガヤガヤと楽しそうにしているのは良い事―――

 

「ねぇ、これなんかどう?」

 

「あ、可愛い。」

 

「絶対に似合うよね。」

 

………なんだか、物凄く不安になるんだが。

 

 

と、俺の心配を余所に時間が進み………

 

ガラっ

 

「はい、ホームルーム始めるよ。」

 

きゅりきゅり、という何とも不思議な足音と共に、車椅子に座った空が教室に入ってきた。

 

「え?」

と固まる事情を知らないクラスメイト達

「―――ッ!?」

思わず絶句する俺たち。

 

まさか、歩けなくなるような後遺症でも残ったのか!?

 

「さて、と。それじゃ、出席取るよー。」

 

何事も無かったかのように立ち上がり、教卓の横に立つ空。

 

うぅむ、タイトスカートから覗く腿が眩しいぜ―――――……すかーと?

 

俺は改めて、空の服装を確認した。

 

いつも通りのダークブルーのサマースーツ。IS学園の校章ネクタイピンでネクタイが白いYシャツに止められていていつも通りに決まっている。

 

そしてジャケットと同色のタイトスカート。

 

うむ、何処もおかしくない。

 

何の変哲もない、女教師の標準的な―――って!

それは一般論だ。空には通用しない。

 

「な、なん、だと!?」

 

「空くん先生が、スカート!?」

 

「い、一体、何が……」

 

「まさか、何かの事故に遭って頭を……」

 

「女装キタ!」

 

「いや、空ちゃんセンセは女の子だから……合宿で見たでしょうに。」

 

「――――ッ!」(うずうず)

 

「―――――!」(キラキラ)

 

一気にざわめき立つ教室。

 

中には何やら我慢している様子のシャルやら、目を輝かせてるラウラやら……うむ、中々にカオスだ。

 

箒やセシリアは俺と同じく空の心変わりに困惑しているんだろうけど。

 

で、一周見まわし終わって空に視線を戻すと盛大に爆発する寸前だった。

 

左手を握りしめ、壁に向かって思い切り殴りかかる。

 

ドゴッ!

大きな音にびっくりして雑談が止まる。

 

「うん。とりあえずみんな、ホームルーム始めるからね。静かにしてもらえるかな。」

 

とても丁寧な口調が逆に恐ろしかった。

 

「はぁ、まったく。そんなに僕がスカートっておかしい?」

 

「あ、いや……珍しいなって………」

 

「まあ、そりゃそうか。…見ての通り、((義足|あし))がちょっと調子悪くてね。ズボン履くの一苦労だからこうした訳。長く歩くのも不安があるから車椅子。納得した?」

 

「はーい。」

 

「―――それじゃ、出席取るよ。」

 

この時、シャルの目が怪しく光っていたのを俺は目撃してしまった。

 

幸か不幸か、空はそれにまだ気づいていなかった。

 

 * * *

[side:箒]

 

どうして、私はこんなところに居るのだろうか。

 

「あーあー、マイクテス。」

 

『運営委員長』の腕章をつけたシャルロットと『理事長』の腕章をつけた簪が大講義室の壇上で何やら集会の準備をしていたが…それももう終わったようだ。

 

モニターが点灯。

 

最初は『信号なし』の状態だったが、

 

「それでは、これよりSD協会の発足、及びSDプロジェクトの実行・決起集会を始めたいと思います。司会進行は一組、シャルロット・デュノアが行わせていただきます。」

 

そんな、シャルロットの宣言と同時に『SD協会』と『SDプロジェクト』の二文が大きく表示される。

 

………一体、何なのだ。この集まりは………

 

「みんなぁッ!可愛いモノは大好きかぁっ!?」

 

「大好きだ!」

 

「可愛い娘は大好きかぁッ!?」

 

「大好きだぁッ!」

 

「可愛い娘を着せ替え人形にするのは大好きかぁっ!?」

 

「大好きだぁッ!!」

 

………なんだこれは。

 

「ありがとうございます。SDプロジェクト…『Sora Dress upプロジェクト』はそんなみんなの思いを形にしようというプロジェクトです。具体的に言えば、千凪空先生をみんなの共有着せ替え人形としてしまおう…という、なんとも野心的な計画で―――」

 

シャルロットの説明に目を輝かせ、テンションを上げてゆく周囲の同級生たち。

 

ノリについていけない私としては、物凄く居心地が悪いだけなのだが……

 

「まったく、何バカ騒ぎしてるんだか…」

 

「同感だ。」

 

ん?

 

同意見があったから思わず同意してしまったが…

 

声の主を探せば比較的近場に居た鈴だった。

 

鈴もこのお遊びにはついていけないようだ。

 

「………」

 

がし、

 

背後から誰かに腕を掴まれた。

 

「何よ……って、ラウラ?」

 

「どうしたんだ?」

 

「悪いが、任務なのでな。」

 

ふと、ラウラの腕にあった腕章に気付いた。

 

『親衛隊長』

 

………そうかラウラもそっち側なのか。

 

「委員長、反逆者二名を発見。捕縛した。」

 

 

「…誰?」

 

「……箒と、鈴だ。」

 

簪の問に苦々しい表情で応えるラウラ。

 

「―――残念だけど、二人は……」

 

「判った。適切な処置をしておく。」

 

「!?」

 

『適切な処置』って、一体何をされるんだ私たちは………

 

「何、安心しろ。命までは取らん。――――命までは、な。」

 

そのラウラの言葉の意味深さに逆に恐怖感を与えられその後待っている『処置』が余計に怖くなった。

 

 

 

ばたん、と会合部屋から引き摺りだされた私と鈴はそのまま、目隠しをされた上でどこか別の部屋に連行されたのだった。

 

………すまん、一夏。

私はどうやらここまでの様だ。

説明
#48:帰って来た日常?
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