インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#54 |
「まったく、心配したんだからね!」
「やー、体が動いちゃったから仕方ないでしょ。デュノアさんとラウラも居たし。」
夕陽が街を紅く照らす中を、空と簪はならんで歩いていた。
実は一夏と箒も居たのだが、先に店に行っていた空は強盗騒ぎに巻き込まれ、鎮圧に参加。
簪は現場に残り一夏と箒は別行動をとっていたのだ。
その後、鎮圧に参加した一人として聴取を受けたあと警察署まで一緒に来ていた簪とこうして歩いているのだが…
「だからって………はぁ。」
「?」
「ううん、なんでもない。それよりあそこの城址公園のクレープ屋に………って、あ――」
「ん?デュノアさんとラウラ?」
目的地のすぐ近くに二人の姿を見つける。
と、
「お?」
「わっ…」
遠目で見ている二人にはラウラがシャルロットにキスをした様に見えた。
「んー、これは面白いかも。」
空のそんな呟き。
簪はふとした事から空の背中の辺りに陽炎がゆらめいていることに気付く。
(―――まさか、ISを使って録画中!?)
一体何時から始めていたのか、怖くて聞けない簪だった。
少なくともラウラとシャルロットはしばらく空に頭が上がらないのはきっと確定事項だろう。
そんな予感が簪の脳裏には浮かんでいた。
* * *
「こ、これはなんだ……!?」
「ん〜♪かわいーっ。ラウラ、すっごく似合ってるよ!空もそう思うでしょ?」
「確かに、可愛いと思うよ。」
「ほらー!」
「だ、抱きつくな。動きにくいだろう。」
「ふっふー、ダ〜メ。猫は膝の上で大人しくしないと。」
「お、お前も猫だろうが。」
そんな楽しげな声が溢れているのはラウラとシャルロットの寮の部屋―――ではなく、空の副寮監室であった。
夕食時に偶然空に出会ったラウラとシャルロットは新しいパジャマを買った事を報告、お披露目を提案したところ、『副寮監室に泊りに来る?』と逆に提案された。
それをシャルロットがラウラには有無も言わさずに決定にして、晴れて『お泊まり保育』と相成ったのだ。
食事と入浴を済ませてパジャマに着替えた二人は副寮監室に突撃を敢行。
今は普段は拷問部屋と恐れられている和間に敷き詰められた布団の上でじゃれ合っていた。
なお、空はまだお仕事中という事で机に向かっている。
「これは、本当にパジャマなのか?」
「うん、そうだよ。寝やすいでしょ?」
「ね、寝てないから判るはずもないだろう。」
ラウラが疑うのも無理はない。
確かに『パジャマ』ではあるが一般的にはあまり見ないタイプのパジャマなのだ。
袋状になっている衣服にすっぽりと体を入れ、出ているのは顔と腿の半ばから先だけ。
しかもフードにはネコ耳がついており、袖先には肉球、足にも肉球付きの靴下状のパーツまでついている。
要は猫の着ぐるみパジャマである。
「や、やはり寝る時は裸の方がいい。その方が楽だ。」
「ダメだってば〜。こんなに似合ってるのに脱ぐなんて勿体ないよ。空もそう思うでしょ?」
「そうだね。」
机に向かっている空は見向きもしていないで返事を返しているのだが、そんな空に背中を向けた状態で座っている二人はその事に気付いていないしシャルロットとしては同意が得られているので何の問題も無い。
今の格好はラウラが黒猫パジャマ、シャルロットが白猫パジャマ。
空はいつも部屋着にしているジャージ姿である。
この部屋に来てお披露目してからというもの、シャルロットはラウラを後ろから抱き締めるかたちで膝の上に座らせていた。
相当気に入っているらしい。
「ほら、ラウラ。せっかくだからにゃーん、って言ってみて。」
「なッ!?こ、断る!な、なぜそんな事をしにゃければならないのだ!」
焦って噛んでしまうラウラ。
「え〜、だってかわいいよ〜。可愛いのは何よりも優先されることだよ〜。」
ぽわぽわという効果音が聞こえてきそうなくらいにハッピースマイルなシャルロットは、ラウラにとっていつも以上に強敵だった。
とにかく『可愛いからいい』『これを着ないなんてとんでもない』『残念ですがその要求は却下されました』『ほら、空も言ってるよ』という、いつもとは一八〇度逆の、理屈なし根拠なし交渉なし脅迫ありなやりとりで気付けばシャルロットの膝の上に座らされていた。
「ほらほら、言ってみようよ〜。にゃーん♪」
「にゃ、にゃーん。」
照れくさそうに猫の手ぶりまでつける眼帯黒猫ラウラに、ポワポワ白猫シャルロットはここが他人の部屋である事も忘れて更に幸せのパーセンテージを上げる。
恐らく、すでに某銀河の果てを目指す宇宙戦艦の主砲充填率並の数字である事は間違いないだろう。
そして、完全防音でなければ隣の部屋の世界最強が『うるさい』と乗り込んでくる事は間違いない。
「可愛い〜!ね、写真撮ろう!、ね、ねっ!」
「き、記録に残すだとッ!?だ、断固拒否する!」
「そんな事言わずにさ〜。」
「か、母様も何か言ってやって―――」
「………」
無言。
空は何も言わずに二人の前に空間投射ディスプレイを表示させる。
そこに映っているのは―――眼帯黒猫ラウラを抱きしめて幸せ一杯な笑顔を浮かべているポワポワ白猫シャルロット。
「こ、これは………………」
「!」
ラウラの表情は絶望に、シャルロットの表情は更に嬉しそうに変化してゆく―――――が、
「録画ついでに絶賛放映中だから。―――――― 一夏の処と簪さんの処、あと織斑先生の処に。」
「 」
思わず唖然とした二人。
要するに今までの様子は全て一夏と簪と千冬、ついでに箒に見られているという事だ。
「にゃぁぁぁッ!?」
「い、いますぐ放送中止にしてぇぇッ!」
半狂乱になる二人。
それに対して空は、
「フフフ、やだ。」
と、黒い笑みを浮かべる。
この間の着せ替え事件の恨みをこの場でしっかりと晴らしている最中なので、そう易々と許すつもりは欠片も無かったりする。
* * *
[一方:簪&箒の部屋]
「わー、二人とも可愛い事になってるね。折角だから空くんもああいうの着れば良いのに。」
「―――――――――ブツブツ――」
(いいいい、一夏とクレープの食べさせあいをしてしまった―――)
簪は中継されている部屋の様子を見ながらちょっとばかり興奮し、箒は((昼間の出来事|ミックスベリー事件))を反芻しては赤面し、戻っては反芻し、を繰り返していた。
* * *
[一夏の部屋]
「?………なんで空間投射ディスプレイが…?映ってるのは…シャルとラウラ?なんか随分と可愛い格好してるな。」
* * *
[千冬の部屋]
「ッ―――――――――!!」
思いもしない教え子の姿に腹筋崩壊中であった。
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#54:黒猫白猫観察記録 | ||
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