チートでチートな三国志・そして恋姫†無双 |
第10話 一気呵成
話は少し前
――戦争前の軍議――
にさかのぼる。
「この戦いは”悪政に苦しむ農民を救う”という大義のもとに起こす……という理解でよろしいのですね?」
「その通りだよ。愛紗。私腹を肥やす政治家や城主の韓馥を倒せば、民衆は安心してこの?で暮らすことができるようになる。」
「さて、わが軍の兵は歩兵3500。これは武装を変えれば弓兵・槍兵・剣兵にもなれます。そして騎兵が500。すなわち、合計した兵の数は4000になります。兵糧は存分にありますので、半年くらいの持久戦に持ち込むこともできなくはないかと。」
福莱が自分の軍の状況を的確に確認してくれた。それに続いて藍里が、
「対する韓馥の兵は5000。ただ、慢性的な食糧不足によって士気はとても低いようです。また、騎馬は主の韓馥と張?のみのようです。」
と、間者たちの情報などから敵軍の状況を解析してくれた。
「こういう時は、無能な頭(かしら)を討って無駄な被害を出さずに短期決戦で終わらせるのが上策だと思うんだけど、福莱たちはどう思う?」
持久戦に持ち込むのは時間の無駄……だからなあ……。
「いいと思います。ただ、問題は誰にどんな役割を担って貰うか……です。」
「結局のところ、張?を誰が止めるか……だよね? 朱里。」
「さすがです。おそらく、愛紗さんか星さんのどちらかでないと張?は止められないと思います。どうしてあんな無能な主に従っているのか不思議なくらいの人ですから……。」
「俺たちの中で一番強いのは愛紗だから、愛紗に任せよう。大丈夫だよね? 討ち取らず、ひたすら引き延ばすという危険な役だけど。」
「ご主人様の命とあらば、必ずや。ただ、討ち取らず……というのは、捕縛して味方にするということでしょうか?」
「それもあるけど、張?と韓馥を引き離すことが一番重要なんだ。この二人が一緒にいると、短期決戦で終わらせられなくなるからね。そして、愛紗が張?を抑えている間に韓馥を討ち取る。韓馥を討ち取る役は……鈴々がいいかな。副将に福莱をつけるから、騎兵500で確実に一回で成功させてくれ。機を読むのは、福莱に任せるよ。」
「任せろなのだ。福莱、よろしくなのだ。」
「機は一瞬でしょう。それまでは隠れて頃合いを伺うのです。合図は私に任せて下さい。」
「わかってるのだ。福莱はいつでも完璧なのだ。」
「お館、わしの出番は無しか? つまらんのう……、」
「桔梗と星には大変な役割を任せようと思ってるよ。」
「愛紗さんの軍には3000の兵を預けますが、愛紗さんには張?を抑えるという難しい役割があるので兵の指揮までは難しいでしょう。だから、副将になっていただく桔梗さんが頼りです。藍里、軍師は任せても大丈夫ですか?」
「が、頑張ります。桔梗さん、守ってくれますよね?」
「心配いらん。お主には指一本触れさせぬわ。」
「……。ということは、私には単騎で敵城の制圧でも任されるのですかな?」
「ああ。幸いにして、城門はまだ両方とも開いている。今のうちに俺たちが攻める反対側から?城に入ってくれ。戦争が始まったら兵士を殺し、文官連中を捕縛し、城門を閉じてくれ。」
「士気は一気に下がるでしょうね。ご主人様と甄姚様、桃香様、それに朱里には本陣の守備を任せます。本陣の兵数は500と少ないですが、頼みますよ。」
藍里は桔梗さんが守ってくれるだろうからそれほどの心配はいらないが、福莱は……。鈴々と一緒に騎兵で敵本陣に突撃という危険な役だ。武術も俺や桃香より強いくらいだけど、やっぱり心配は心配だなあ……。
――開戦――
「民の暮らしを脅かし、漢帝国から定められた以上の重税を徴収するその所業、許すまじ!! 我らが主、劉玄徳の名の元、漢帝国に仇なす逆賊、韓馥に裁きを!!」
ぶっちゃけ、どっちが逆賊なのかよくわからないのだけれど、こういうときは”煽った者勝ち”なのだ。相当頭にきたのか、敵は全軍が出撃して野戦をしかけるという、俺たちから見ると『上策』をとってきた。連中にとっては”下策”だけど……。これなら上手くいきそうだな。
「愛紗、深追いはせずに、その上で相手に気づかれないようにしながら少しずつこっちに退くように戦ってくれ。とにかく、韓馥が城に籠もってしまうと、敵の攻略はそれだけでかなり厄介なものになってしまうから。」
「わかりました。必ずや、張?を抑えてきます。」
「まあ、そんなに気負わなくても大丈夫だよ。」
星は単独行動で数日離れているけど、大丈夫かな……。
「問題は、沮授と田豊がどう動くか……だね。まあ、韓馥が策を受け入れない可能性もあるけど、もし受け入れたらなかなか大変なものになるな。まあ、それを打ち破るために福莱と藍里が居るわけだけど。頼むよ。 桔梗、兵3000人、任せるよ。鈴々、始まったら一気だ。頃合いを逃さないようにね。」
「ご主人様、献策も、敵の策を破るのも、私たちの大事な仕事ですから大丈夫ですよ。朱里ちゃん、そっちはよろしくね。」
「任せて下さい!!」
「寡兵をもって大軍を打ち破るのが戦の醍醐味よ。藍里、策は任せるぞ。」
「はい。とにかく、深追いはしない。 これに尽きます。」
愛紗が敵将を3人ほど討ち取り、大将たる韓馥の軍自ら愛紗を倒しにきたとき、ついにそいつは現れた。
「韓馥殿を討ち取りたくば、我が屍を越えてゆけ! 我が名は張?。字は((儁乂|しゅんがい))。 関羽! 覚悟!!」
「勇将と名高き張?か。我が相手に不足なし! 我、北郷・劉備軍の((刃|やいば))なり!!」
遂に、この戦いの命運を分ける一騎打ちが始まった。倒すのではなく、引き延ばす。それも、相手には気づかれないようにしながらだ。 並の相手ならともかく、相手が張?のような熟練の将ならばいつ気づかれてもおかしくはない。
本陣で見ているだけ、っていうのはどうも落ち着かないなあ……。
「歯がゆいね……。」
「ご主人様? でも、本陣の守備も大切な役目だよ。それに、さっきの開戦の言葉も凄かったじゃない。あとは愛紗ちゃんたちに任せれば大丈夫だよ。」
「そうだな、桃香。しかし、張?はやっぱり凄いな。あの愛紗の一撃を上手く受け流している。」
「”受け流せるような攻撃”を繰り出しているようにも見えるがな。引き延ばすには最善だろう。」
女?がそう指摘した。言われてみれば……。いつもの愛紗ならば小技も繰り出すが、今はそういうのは殆ど無い。
そして、10合ほど打ち合い、一度愛紗が退いた。それを張?が追うと、2回目の一騎打ちが始まった。
3合ほど打ち合ったときに、一気に韓馥のところへ鈴々と福莱率いる騎馬軍団が奇襲をかけた。
「しまった! 奇襲か。おのれ……。」
「逃がさぬぞ。張?。お前の相手は私だ!!」
そして計ったように、城門が閉まった。
「我、趙子龍。北郷・劉備軍の一番槍なり! ?城、制圧した!!」
城の上から響く星の声。そして――
「敵将韓馥、張翼徳が討ち取ったのだ!!」
矛の先に韓馥の首を掲げる鈴々。何度見てもこれだけは慣れないけど、まあ仕方ないか……。
「ご主人様、今です。」
そう朱里が合図をした。
「敵本陣たる?の城は制圧した!! 城主の韓馥は討ち取った!! 潔く降伏せよ!!」
「しかし……。」
「ご主人様も気になっていましたか?」
「ああ……。」
「ご主人様、それに朱里ちゃんもどうしたの?」
「沮授も田豊もいない。 一体どこへ……?」
「そういえば……。」
城内に入ればわかるかな。まずは……。
「降伏した兵には食料を与えよ!! そして、この戦で果てた両軍の兵士を埋葬せよ!!」
いつもいつも、敗残兵の処理は大変だ。血の臭いは虫を呼ぶし、衛生的には最悪だろうからやらなくてはいけないのだけど。
そして、張?も降伏した。彼女は、自分の馬を連れて歩いてきた。武器の槍は愛紗が持っているものの、縄をかけられているわけでもなかった。それに、特に怪我などもないようだ。肩の辺りまである燃え上がるような赤髪に赤い目。彼女が張?か。
「俺たちと一緒に来て貰えるかな? この乱世を統一するには、君のような優れた将の力が必要なんだ。」
「敗残の兵にそういった言葉をかけて頂けるのはありがたいのですが、忠臣は二君には仕えません。徳高き”天の御遣い”ならおわかり頂けるでしょう。」
「そうか……。なら、せめて俺たちと一緒に、少しで良いから居てくれるかな? 今更逃げるようなことはしないだろうし、俺も今さら縄をかけたりはしないから。俺たちのやることを見てから、もう一回考えて欲しいんだ。
おや、星。お帰り。」
「沮授殿と田豊殿を見つけましたよ。 何でも、民衆があまりに疲弊しているので減税を進言したら、韓馥にも周囲にも反対された……ということで牢につながれておりました。幸いなことに見張りの兵が食料などを密かに渡していたようなので、元気とまではいきませんがこの通りです。」
そう言っておんぶしていた女の子二人を見せた。同じくらいの体格の女の子を二人も背負えるのか……。でも、これは星の力が強いというよりは、二人がやせ細っているからだろうな……。
「((玉鬘|たまかずら))!! ((椿|つばき))!!」
「貴方でも、負けちゃったのね。 食料を貰い、喜ぶ民。これが全てでしょう。私は沮授。真名『玉鬘』をお預けします。もし良ければ、末席に加えて頂けますでしょうか?」
「我々を無視するような暗愚な君主ですから、もとより韓馥が勝つ道理などないのですが……。まあ、いずれせよ、勝って頂いて良かったです。お陰で民が救われました。玉鬘と一緒にお仕えさせて頂いてもよろしいでしょうか? 私は田豊。字は((元皓|げんこう))。真名は椿と申します。」
「あ、ああ。願ってもないことだよ。ありがとう。
で、張?さん。かつて、((伍子胥|ごししょ))は自分が暗君に仕えているということに気づくのが遅かったために、不幸な最期を遂げた。君が降伏するのは、((微子啓|びしけい))が殷を裏切って周に仕え、韓信が項羽の元を去って劉邦に仕えるようなものだ。だから、何ら恥じることはないよ。」(※1)
「そこまで評価して頂けるとは……。感謝します。 私は張?。字は儁乂。真名は((悠煌|ゆうこう))と申します。私でよければ、これから仕えさせて下さい。」
「ありがとう。玉鬘さん、椿さん、それに悠煌さん。俺は北郷一刀。これから宜しく頼むよ。ん? どうした、星?」
なんだか星の機嫌が良くない気がするな……。なにかあったかな……?
「私が白露殿の元を去るときはそんなことは仰って頂けなかったではないですか。彼女が羨ましいです。」
「星はあくまで、白露の”客将”だったわけだし。今もまだ俺の”客将”だろ。」
「む……。なぜそう意地悪ばかり仰るのですか……? 今さら、主以外の所に行く気などありませぬ。正式に将として入れて頂けますか?」
「俺たちと一緒に天下を獲りに行こうか。星も宜しくな。」
予想外に? 星が正式に加入した。
俺たちの軍に騎兵の被害は運良く無かったものの、歩兵は1000人ほどやられて2500人になってしまった。韓馥軍の犠牲は2000人ほど。残った3000人ほどを吸収して、合わせた兵数は騎兵500。歩兵5500になった。
犠牲者の3000人ほどを埋めるのには一週間ほどかかったけれど、全員を埋葬することができた。そして、?の治安を回復させ、田豊と沮授の判断で文官を裁いた。私腹を肥やしていた連中は”車裂きの刑”に処した。このときは本気で吐きそうになった……。
?を落として2週間
――要するに14回ほど日が落ちるのを見たということなのだが――
が経過した。
ようやく、最低限の治安維持には成功したかな、という段階だ。さて、そろそろ大物に挨拶にいかないといけないな。
解説
※1
”かつて、伍子胥は自分が暗君に仕えているということに気づくのが遅かったために、不幸な最期を遂げた。君が降伏するのは、微子啓が殷を裏切って周に仕え、韓信が項羽の元を去って劉邦に仕えるようなものだ。だから、何ら恥じることはない”
・・・張?が降伏したときに曹操が言ったとされる言葉です。裏切りはいつの世も評判の良くないものですが、歴代の大物と同格に言われたのは張?にとっても嬉しかったのではないでしょうか。
登場人物紹介
((張?|ちょうこう)) ((儁乂|しゅんがい)) 真名は((悠煌|ゆうこう))
魏における対蜀戦のキーパーソンである。
漢中の「定軍山の戦い」において、夏侯淵が討ち取られたときの総大将になり、軍の動揺を鎮めました。その後は馬謖を撃破するなど、諸葛亮の北伐を阻止し続けた名将です。
あの司馬懿をも上回る戦況判断能力を持つことは最も皮肉な形で証明されてしまうことになってしまいました……。
撤退した敵陣の追撃を司馬懿から命じられ、「あれは怪しいです。」と進言しますが、司馬懿には聞き入れられず、やむなく追撃したものの、伏兵に包囲され、激戦の末に何とか脱出できたものの、このときの怪我が原因で死去……というものです。
まさに、冷静沈着な将の見本……といった感じです。欠点は、あっさり袁紹に見切りをつけたドライさ(曹操に降伏してから獅子奮迅の活躍を魅せるが)でしょうか。韓馥→袁紹→曹操と3人の君主に仕えます。
ところが、恋姫では、無印にて「ちょこたん」と許?に呼ばれて一瞬登場するだけの扱い……。
演義では短慮の将のように描かれていますが、大嘘です。
三国無双の”美”を強調するホモのような扱いもあり得ません。
今作では裏切りません。ご安心下さい。
((沮授|そじゅ)) 字は不明。 真名は((玉鬘|たまかずら))
田豊とともに名参謀として活躍……できませんでした……。韓馥・袁紹と、献策を聞き入れない君主であったため、知謀を発揮する場所は無かったのです……。
「皇帝を迎えるべき」と袁紹に進言したりしたのですが、袁紹は聞き入れず……。官渡の戦いの際も、「公孫?と争って国力は疲弊しているので数年待つべき」と進言したものの、無視されてしまいました……。
”黄河よ、私はもう帰れないのか”という名文句
((悠悠|ゆうゆう))たるかな黄河よ。 ((我|われ))((其|そ))れ((反|かえ))らざらんか。
原文
悠悠哉、黄河也。我其不反乎
という言葉を官渡の戦いの前に残しています。悲壮な覚悟が見て取れます……。
曹操に捕らえられ、降伏を勧められましたが、それを拒否して殺されてしまいます。曹操はその死を悼み、手厚く葬りました。
今作では控えめ軍師。政治もok
((田豊|でんほう)) 字は((元皓|げんこう)) 真名は((椿|つばき))
韓馥→袁紹と仕えた知謀の士。
袁紹に((悉|ことごと))く献策を採用されず、最期は((逢紀|ほうき))という袁紹の部下に讒言され、誅殺されてしまいます……。
今作では、口は悪いが実力は確かな政治家。軍師もok
説明 | ||
第1章 ”天の御遣い”として | ||
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コメント | ||
クラスター・ジャドウ さん>感想ありがとうございます。今作の”無茶”・”改変”が”チート”すぎるだろ・・・と思っていただければ幸いです。そんな妄想こそ今作を書くモチベーションの一つなのです。(山縣 理明) …ハハァ、判官贔屓では無いけれど、正史や演義にて不遇を囲った逸材が配下に加わったらと言う妄想は、確かに楽しい物ですしねぇ。そもそも外史は性別から変化しているから、ある程度の無茶や改変は許容される空気がありますし。(クラスター・ジャドウ) |
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