英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 100 |
その後、騒ぎを聞きつけたリフィア達も露天風呂に目を輝かせた後、エステル達といっしょに露天風呂に浸かった。
〜エルモ村・紅葉亭・夜〜
「は〜……なんか思いっきり疲れた……。う〜っ、それもこれも全部、ヨシュアのせいなんだからっ!」
女将から注意された事や女将の「女の肌ってのは見られてキレイになるもんだからね。」という冗談を信じたティータやミント、ツーヤに冗談である事を指摘したエステルは溜息をついて、ヨシュアを睨んだ。
「なんで僕が……。結局、エステルが1人で大騒ぎしてただけじゃないか。脱衣場の張り紙も見てないし、日頃の注意力が足りない証拠だね。」
エステルの八つ当たりにヨシュアは呆れて答えた後、注意が足りない事を指摘した。
「よ、よけーなお世話!ほんとにもう、可愛くないんだからっ!」
「あー、そうですか。いいよ、別に。君に可愛いと思われたって嬉しくともなんともないからね。」
「あ、あんですって〜!?」
「大体、なんだよ。人を見るなり悲鳴を上げて……。そんな反応されるなんて……夢にも思わなかったよ。」
「あ、あれはその……あまりにもタイミングが……。別にヨシュアと一緒がイヤってわけじゃないからね?」
「いいよ、無理しないで。僕はもう上がるからみんなでゆっくり入っていきなよ。」
「無理してるなんて一言も言ってないでしょっ!ヨシュアのバカっ!」
「む……バカはどっちさ。」
「プックククク………」
「「フフ……」」
「「クスクス……」」
「キャハハハ………」
エステルとヨシュアの言い合いにリフィア達は笑いを抑えきれずそれぞれ笑い声をあげた。リフィア達の笑い声が聞こえたエステルとヨシュアは言い合いをやめて、固まった。
「ほ、ほら!リフィア達どころかティータちゃんにも笑われちゃったじゃない!」
「だからなんで僕が……。ご、ごめんね。みっともないところ見せて。」
「あ、ううん。笑ったりしてごめんなさい。ただ……うらやましいなって思って。」
エステルの八つ当たりに呆れたヨシュアはティータに謝罪したが、ティータは逆に笑った事を謝罪した後エステルとヨシュアを眩しいものを見るかのような目で見た。
「う、うらやましい?」
「えっと……どうして?」
ティータの言葉にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「わたし、兄弟がいないからケンカとかしたことがないんです。おじいちゃんは優しいからあんまり叱られたことないし……。お父さんとお母さんはあんまり一緒にいられないから……」
「え……」
「あの、ティータちゃんのお父さんとお母さんって……?」
寂しそうな表情で家族の事を語ったティータにエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「博士のご息女……確か、エリカ・ラッセルだったか。夫のダン・ラッセル共々導力技術者で他国でオーブメントの普及していない村や町で技術指導をしていると博士から聞いた事があるが、今でもそうなのか?」
「あ、はい。だから、もう何年もツァイスに戻って来てないんです……」
ラッセル博士から家族の事を聞き、ティータの両親の事を覚えていたリフィアはティータに確認し、それに頷いたティータは寂びそうな表情で頷いた。
「そうだったんだ……」
「それは……寂しいね。」
「ティータちゃん………」
「ティータちゃん、寂しくないの?」
あまり両親といっしょにいた事がない事を知ったエステルやヨシュア、ツーヤは気不味そうな表情で見て、ミントは尋ねた。
「そんなこと、ないよ。おじいちゃんがいてくれるから。中央工房の人たちもみんな親切でいい人ばかりだし。でも……エステルさん達を見ているとちょっとうらやましいなぁって……。えへへ、こういうのって無いものねだりって言うんですよね。」
「エヴリーヌはなんとなくティータの気持ち、わかるよ。リウイお兄ちゃんがエヴリーヌを引き取ってくれるまで、ほとんど一人ぼっちで凄く寂しかったから……」
「エヴリーヌお姉様……」
ティータの気持ちに同意したエヴリーヌをプリネは何故血も繋がっていない自分を妹として可愛がってくれるエヴリーヌの気持ちがなんとなくわかり、見つめていた。
「ティータちゃん……」
笑顔の中に隠されている悲しみに気付いたヨシュアは何も言えなかった。
「……………………………………。いいこと思い付いちゃった。」
一方黙って考えていたエステルは口を開いた。
「え……」
「エステル?」
「あたしが、ティータちゃんのお姉さんになってあげるわ!ちなみにヨシュアはお兄さん。」
「ふえっ!?」
「わあ……!」
「はあ……また突拍子もないことを……」
エステルの提案にティータは驚き、ミントは顔を輝かせ、ヨシュアは呆れて溜息をついた。
「なによう、文句でもあるの?」
「いや……エステルらしいと思ってね。僕も異存はないよ。ティータちゃんさえよければね。」
自分の提案に反論がありそうな事に気付いたエステルの睨みにヨシュアは微笑ましそうな表情で首を横に振ってティータに確認した。
「……あ………。あ、ありがとう……エステルさん、ヨシュアさん。わたし、わたし……なんだかすっごく嬉しいですっ!」
「よかったね、ティータちゃん。」
尋ねられたティータは顔を輝かせ、最高の笑顔でお礼を言った。ツーヤはティータの喜びを自分のように感じて祝福した。
「それじゃあ、決定っ!あ、そうそう。もう『さん』付けはナシね?代わりにあたしたちも呼び捨てにさせてもらうから。」
「そうだね。あと、博士と話す時みたいに気軽に喋ってくれると嬉しいな。」
「あ、あう……。さん付けはやめて気軽に……。……………………………………」
エステルとヨシュアの言葉に頷いたティータはしばらくの間考えて、エステル達の新しい呼び方を言った。
「エステルお姉ちゃん。それと、ヨシュアお兄ちゃん。……こ、これでいいのかなぁ?」
「うん、バッチリ!」
「あらためて、よろしくね。」
新しい呼び方に頷いたエステルに同意するようにヨシュアも頷いた。
「ねえねえ、ママ。」
「ん?どうしたの、ミント。」
「ママとヨシュアさんがティータちゃんのお姉さんだったら、ミントはどうなるの?」
「え?え〜と……」
ミントの疑問にエステルは唸りながら考えた。
「ふむ。エステルが姉でティータが妹だとすると、エステルの娘であるミントにとってティータは叔母になるぞ。」
「え”。」
「ふ、ふえええっ!?」
唸っているエステルに代わって答えたリフィアの言葉にエステルやティータは驚いた。
「ねえ、ママ。ミント、ティータちゃんの事を叔母さんって言わなくちゃダメなの?」
「絶対駄目よ!だから、今まで通りの呼び方で呼んであげなさい。」
ミントに尋ねられたエステルは驚きから立ち直った後、強く言った。
「うん。ごめんね、ティータちゃん。」
「あはは……あまり気にしていないから大丈夫だよ、ミントちゃん。」
申し訳なさそうに謝るミントにティータは苦笑しながら答えた。
「そうだ!妹になった記念にティータに素敵な子と会わせてあげるわ!」
「ふえ?エステルさん達以外にもいるんですか?」
エステルの言葉にティータは首を傾げた。
「うん。……パズモ!」
呼ばれたパズモはエステルの肩に止まった。
「あ!お芝居の時にいた妖精さんだ!そうだよね、ツーヤちゃん。」
「うん。エステルさんの妖精さんだったんだ……」
パズモの姿を見て、学園祭の劇で見た事のあるパズモを見てミントは目を輝かせていっしょに劇を見たツーヤに確認した。
「わあ……その子って妖精さんですか!?」
「ええ、パズモって名前よ。小さいけど凄く頼りになるあたしにとって親友の一人よ!」
(よろしくね。)
パズモはティータの目の前に飛んで来て、笑顔を向けた。
「ねえねえ、ママ!」
「ん?今度は何?」
パズモを見て興奮が収まっていない様子のミントに尋ねられたエステルは聞き返した。
「ママ、他の妖精さんともお友達なの?」
「ええ。……そうだわ!こんなに広いんだし、他のみんなにもここの温泉に浸かってもらったほうがいいわね!ティータにも紹介したいし、プリネもそうしなよ!」
「そうですね。では……」
エステルの提案にプリネは頷いた。そして2人はそれぞれ現在契約している者達を呼んだ。
「サエラブ!テトリ!」
「ペルル!マーリオン!フィニリィ!」
2人に呼ばれた精霊や幻獣達は姿を現した。
「「わあ……!」」
「こんなにいるんだ……!」
エステルやプリネが契約している精霊や幻獣達を見てティータやミントは目を輝かせ、ツーヤは数の多さに驚いた。
「あれ?一人、見た事がない子がいるようだけど……」
フィニリィを見てエステルは首を傾げた。
「ああ、その子はフィニリィと言って、今日契約した子なんです。」
「へぇ〜………」
プリネの説明を聞いたエステルはパズモやテトリとは異なる妖精であるフィニリィを興味深そうな目で見ていた。
「あら、何故あなたがこんなところにいるんですの?」
(我は仙狐様の命によってこの世界の探索を任され、世界を廻る上で我の存在に理解あるエステルと契約していれば効率的に世界を廻れるから今、ここにいるだけど。そういうお前こそ何故こんなところにいる。)
「ま、私にも色々と事情がありますのよ。」
フィニリィはサエラブに気付き尋ね、尋ねられたサエラブは答えた後、逆に聞き返し、フィニリィは高貴な雰囲気を纏って答えた。
「え、サエラブってそこの妖精と知り合いなの?」
(……まあな。)
お互い知り合いのように話すサエラブとフィニリィを見て、エステルは尋ねた。
「ちょっとそこの人間!私をただの精霊と思わないでよね!私は精霊の中でも王族種の”精霊王女”よ!」
「せ、精霊王女……プリネもなんか凄いのと契約したわね〜………」
「フフ……ああいう風に高慢に見えますが、以外と優しいところはありますよ。」
エステルの感心した言葉にプリネは微笑みながら答えた。
「みなさんも温泉に入ったらどうですか?気持ちいいですよ。」
「サエラブやテトリも入ったら?」
(フン……)
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね。」
「フフ、私の魅力的な体を見て、驚くがいいわ。」
「うん!」
「プリネ様……水精の私は湯の影響を……受けてしまいますので……戻らせていただきます……」
「そうね、わかったわ。」
マーリオンだけは戻り、プリネやエステルの申し出に頷いたサエラブはそのまま温泉の中に浸かり、テトリ達は来ている服を脱ぎだした。テトリ達の行動に気付いたヨシュアは慌ててテトリ達に背を向けた。
「う”……(なんでプリネが契約している子達ってあんなにプロポーションがいいの!?フィニリィなんか、あんな小さい身体をしているのに胸はプリネやペルル並とか、どういう風に育ったのよ!?)」
エステルは服を脱いで露わになったペルルやフィニリィの体を見て女性として、スタイルが圧倒的に違う事に唸った。
「エステルさん?どうしたんですか?」
「な、何でもないわよ!(う……よく見たらテトリも結構胸があるわよね……エヴリーヌもわりとあるし……この中で胸が小さいのってあたしとリフィアぐらいじゃない……)」
「どうしたんですか、エステルさん?私の体をそんなにじっと見て。」
テトリは自分の体を見て溜め息をついた、エステルを見て尋ねた。
「な、なんでもないわ!それより、テトリ達もタオルを付けないと!ここにはヨシュアもいるんだから……今、とって来るわ!」
「あ、はい。ありがとうございます。」
そしてエステルはテトリ達の分のタオルを持って来て、体に付けさせた。また、パズモはエステルが桶に湯を組んで、それにパズモは服ごと浸かった。そしてエステル達は談笑し始めた。ヨシュアはその中に入るのは居心地が悪いと感じ、少し離れた所で湯に浸かっていた。そこにサエラブが静かに近付いて来た。
「やあ、サエラブ。君はあの中に入らないのかい?」
(……お前に少し聞きたいことがある。)
「僕に?一体何を聞きだいのかな?」
(小僧……貴様、何者だ。欲に溺れた市長がエステルに銃口を向けた時、出した殺気……あれは人を殺した者しか出せない強力な負の気が混じった殺気だった。少なくともエステルのような、光の下で育った人間ではないな?)
「………………何が言いたいんだい?」
サエラブの念話にヨシュアは目を閉じて黙った後、静かに言った。
(別にお前が何者だろうと我には関係ないことだが、これだけは言っておく。もし、貴様がエステルを害するような事があれば、我は全力を持って貴様を排除する。………例え、エステルがそれを望まなくてもな…………)
「………そんな事は絶対しないよ……だって、僕はエステルの事を……………………」
サエラブの警告にヨシュアは首を横に振って否定し、何かを言いかけたが辛そうな表情で言うのをやめた。
(小僧、もしやお前………………フン、そういう事か。まあいい、今の我の言葉……心に刻んでおけ。)
「…………………」
サエラブの念話にヨシュアは目を閉じて、黙っていた。
「おーい、サエラブ!こっちに来てよ!ティータ達、あなたと話をしたいんですって!」
(フッ……相変わらず、騒がしい娘だ………だが………悪くない気分だ………)
そしてサエラブはヨシュアから離れて、エステル達のところに行った。
「………僕が何者……か。………そんなの、僕が知りたいよ………」
ヨシュアは夜空を見上げて、寂しそうに呟いた…………
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