英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 102 |
〜遊撃士協会・ツァイス支部〜
結局博士は見つからず通報を受けた王国軍と中央工房にそのことを伝えた後、エステル達はギルドに報告するため一端ギルドに戻った。そこにキリカと遺跡を研究している教授、アルバ教授がいた。
「いい所に戻ってきたわね。」
「あれっ……」
「あなたは……」
「「「……………………」」」
(ご主人様、どうしたんでしょう……?いつも優しい雰囲気を出しているのに、今はなんだか怖い雰囲気を出しています……)
エステルとヨシュアはギルドに予想外の人物――考古学者のアルバ教授がいたのを見て驚き。プリネ達は顔には出さず警戒し、ツーヤはプリネが出している雰囲気に首を傾げた。
「おや……エステルさん、ヨシュアさん。それにあなた達は琥珀の塔の時のお嬢さん達……お久しぶりです、お元気でしたか?」
「……ええ。」
「……うむ。」
「…………」
「アルバ教授じゃない。ツァイスに来てたんだ。なに、護衛を頼みに来たの?」
気軽に挨拶したアルバ教授にプリネ達は警戒しながら、最低限に挨拶を返し、エステルはプリネ達の雰囲気に気付かず呑気に話しかけた。
「それどころじゃない。犯人たちの行方が判ったわ。この人はその目撃者。」
「へ……!?」
「なんだと!?」
教授が協会に来た理由を説明したキリカの言葉にエステルやアガットは驚いた。
「うーん、やっぱりただ事じゃなかったんですね。いやはや、通報に来てよかった。実は私、ついさっきまで塔の調査をしてたんですよ。」
「塔というと……。例の『四輪の塔』の1つですね。以前のように調査を?」
「この辺りだと平原道の北にある『紅蓮の塔』だな……」
プリネが尋ね、アガットはツァイス周辺の地理を思い出して、対象になる塔を声に出した。
「ええ、そしたら軍人が数名、中に入ってくるじゃないですか。最初は王国軍の調査でもあるのかと思ったんですが……。陰から様子をうかがっていると誘拐だの、逃走ルートだの、不穏な言葉が出てきましてねぇ。気になってしまったので、こちらに通報に来たわけなんです。」
「その軍人たち……どんな軍服を着ていましたか?」
教授の説明を聞いて、ヨシュアは気になっている事を尋ねた。
「ええと、蒼と白を基調にした華麗な軍服を着ていましたが……。さすがは女王陛下の国。軍人までも洒落ていますねぇ。」
「決まりだな……。『紅蓮の塔』に急ぐぞ!」
「うん!」
「わかりました!」
アガットの言葉にエステルとヨシュアは頷いた。そこにティータが遠慮気味に話しかけた。
「あ、あの……お姉ちゃんたち、お願い……わ、わたしも連れていって……!」
「ティータ……」
「それは……」
ティータの懇願にエステル達は悩んだがアガットはすでに返事を決めていたようで言った。
「こら、チビスケ。」
「ふえっ?」
「あのな……連れていけるわけねえだろが。常識で考えろよ、常識で。」
「で、でもでも……!おじいちゃんが攫われたのにわたし……わたし……!」」
アガットの反対にティータは食い下がろうとした。
「時間がねえからハッキリ言っておくぞ……足手まといだ、付いてくんな。」
「……っ!」
アガットの言葉にティータは泣きそうな顔をした。
「ちょ、ちょっと!少しは言い方ってもんが……」
「黙ってろ。てめえだって判ってるはずだ。シロウトの、しかもガキの面倒見てる余裕なんざねえんだよ。」
「そ、それは……」
ティータの様子を見兼ねたエステルがアガットを咎めたが、アガットの言葉に反論が見つからず黙り、ヨシュアに助けを求めた。
「ねえ、ヨシュア、何か言ってよ!」
「残念だけど……僕も反対だ。あの抜け目のない連中が追撃を予想してないわけがない。そんな危険な場所にティータを連れて行くわけにはいかないよ。」
「ヨ、ヨシュアお兄ちゃん……」
「う〜っ……」
ヨシュアの答えにティータは泣きそうな表情をし、エステルは唸った。そして申し訳なさそうな表情でティータに謝った。
「……ごめん、ティータ。やっぱ連れていけないみたい……」
「エ、エステルお姉ちゃん……。……ひどい……ひどいよぉっ……」
最後の頼みの綱であるエステルからも断られティータは泣きながらギルドを出て行った。
「ティータちゃん!」
「あ、ミント!」
ティータを追いかけるミントを追いかけようとしたエステルだったが、ヨシュアに止められた。
「……待った、エステル。今はミントに任せておこう。一刻も早く博士を助けて彼女を安心させてあげるんだ。それにどの道ミントとツーヤはティータと同じ理由で連れて行けないよ。彼女達はそれなりに実力はあると思うけど、あの連中相手にはキツイと思うし。」
「……わかった……。確かにそれしかないかも。」
ヨシュアの説明にエステルは頷いた。
「ご主人様……」
ツーヤは懇願するような目でプリネを見上げた。
「わかっているわ。2人を追いかけて。ティータちゃんが落ち着いたら、ギルドで待ってて。」
「……はい!」
プリネの答えに頷いたツーヤは急いでミントとティータを追いかけた。
「プリネ、余達も行くぞ!」
「はい!」
「ん。」
「待って。貴女達にはほかにやってもらうべき事があるから。」
リフィアの言葉にプリネとエヴリーヌは頷いたが、キリカの言葉で留まった。
「む?一体、それはなんだ?」
キリカの言葉にリフィアは首を傾げて尋ねた。
「ここからエルモ村まで護衛の依頼が来ているの。それもできれば、今すぐがいいそうよ。今、空いている遊撃士がいないから貴女達にやってほしいの。」
「むう……民の声を無視する訳にはいかぬな……すまぬが、エステル。そう言う訳だから、お主達と共に博士を攫った賊共は追えん。」
「大丈夫よ!本来だったら、あたし達が受ける仕事をリフィア達が代わりにしてくれる事だけでも凄くありがたいのだから!そっちもがんばって!」
「うむ!」
「はい!」
「……はい。これは遊撃士協会が貴女達を信用して、遊撃士の代わりに派遣してあることが書かれてある書状。依頼者に何か言われたらこれを見せて。」
キリカは書状を一枚プリネに渡した。
「ありがとうございます。」
「ったく……。余計な時間を取らせやがって。キリカ!軍への連絡は任せたぞ!」
「ええ、そちらも武運を。」
「どうやら大変なことが起こっているようですね……。くれぐれもお気を付けて。」
キリカとアルバの応援の言葉を背に受けたエステル達はギルドを出て、依頼者の元に行くリフィア達といったん別れて、紅蓮の塔へ急いだ。
〜ラッセル家〜
エステル達が紅蓮の塔へ、リフィア達が依頼者の元へ向かっている一方、ティータを追いかけたミントとツーヤはラッセル家のリビングで涙を流して泣いているティータを見つけた。
「……ううっ………ひっく……みんなひどいよぉ………」
「「ティータちゃん………」」
泣いているティータを見て、ミントやツーヤはかける言葉がなく、その場にずっと立っていた。そしてティータはミントとツーヤに気付いて、泣きはらした顔でミント達に尋ねた。
「ひっく……ミントちゃん達も来るなって言いに来たの……?」
「違うよ!ミントはただ、ティータちゃんが心配になって追い掛けただけだよ!」
「あたしもミントちゃんと同じ理由。友達が泣いているのを知らないフリ、できないもの。」
「ミントちゃん、ツーヤちゃん………」
ミントとツーヤの言葉を聞いたティータは少しの間、2人をジッと見た後、涙を拭って尋ねた。
「もし、エステルお姉ちゃんやプリネさんがお祖父ちゃんみたいな事になったら、どうするの?」
「そんなのもちろん、助けに行くに決まっているよ!」
「……例え止められてもあたしはご主人様を助けに行く。あたしやミントちゃんによって”パートナー”はあたし達の半身のような存在だから。」
「そう……なんだ。そうだよね………!」
2人の答えを聞いたティータは決意を持った表情で座っている椅子から離れ、立ち上がって2人を見た。
「2人ともお願い!お祖父ちゃんを助けに行かせて!私にとってお祖父ちゃんはとっても大切な存在だから、待っていられない!」
「ティータちゃん……うん、わかった!」
「ミントちゃん!?」
ティータの頼みをあっさり頷いたミントの言葉を聞いて、ツーヤは驚いた。
「その代わり、ミント達もいっしょに着いて行くね。ティータちゃん一人だけで行かせるのはとっても危ないもの。」
「うん、わかった!」
ミントの答えにティータは表情を明るくして答えた。
「ミントちゃん……本当にいいの?後でエステルさん達に怒られるかもしれないよ?」
「……うん、わかっている。でも、ティータちゃんの事も放っておけないよ。この事はミントの我儘だからツーヤちゃんは無理して着いて来なくてもミントはツーヤちゃんの事、嫌いにならないよ。怒られるのはミントだけでいいし。」
「もう……あたしはそんな薄情じゃないよ。もちろん、あたしも着いて行くよ。」
ツーヤは溜息をついて答えた。
「ありがとう、ツーヤちゃん!じゃあ、ティータちゃん。紅蓮の塔への道のりを頼むね!」
「戦闘になったらあたしとミントちゃんがティータちゃんの事、守るからティータちゃんは後ろから援護をお願い。」
「うん、わかった!じゃあ、行こう!」
そしてミント達はエステル達を追うように紅蓮の塔に向かった………
説明 | ||
第102話 | ||
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