英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 103 |
〜ツァイス市内〜
一方プリネ達はエルモ村までの護衛を依頼した依頼者と待ち合わせをしている場所に向かった。そこには誰かを待っているように、時計を何度も見ている男性がいた。その男性が依頼者だと思い、プリネ達は男性に話しかけた。
「すみません、遊撃士協会の者ですが貴方が依頼者という事でよろしいでしょうか?」
「はい!すみません、急な依頼を出してしまって……」
男性は帯剣をしているプリネを見て、遊撃士と思い、表情を明るくした。
(…………ん?……この顔………どこかで見た事があるぞ……?)
リフィアは男性の顔を見て首を傾げた。
「いいえ、気にしないで下さい。それでエルモ村までの護衛を依頼したとの事ですが……」
「はい。私はクロスベルで商業を営んでいる者なのですが今、リベールには家族旅行を来ていまして、ツァイス市の観光名所の一つとしてエルモ村の温泉に行きたくて……こちらはクロスベルのようにバスがありませんでしたから、
どうやって街道を越えてエルモ村に行こうか悩んで遊撃士協会に相談したら、受付の方が村までの護衛も仕事の一つとして請け負って下さるという事で依頼を出させていただきました。」
「そうなのですか……家族を大切になされて、家族の方達も幸せですね。」
「ハハ……ただ………私にはそんな事を言われる資格なんてないのです。」
プリネに褒められた男性は苦笑した後、一瞬表情を暗くした。
「え?」
男性の言葉にプリネは首を傾げた。
「おっと!今のは独り言ですから気にしないで下さい。」
「はぁ………」
慌てて言い訳をする男性の事をプリネは不思議に思った。
「それで?家族の人達はどこにいるの?」
「はい。今は別の所で待ってもらっていますので連れてきます。それで申し訳ないのですが、エルモ村方面に向かう出口で待っててもらっていいでしょうか?」
エヴリーヌの疑問に男性は申し訳なさそうな表情で尋ね返した。
「わかりました。そう言えば自己紹介がまだでしたね。プリネと申します。よろしくお願いします。」
「余はプリネの姉のリフィアだ。」
「……私、エヴリーヌ。」
「これはご丁寧に。私はハロルド・ヘイワースという者です。それでは家族を連れてまいりますので、出口で待ってて下さい。」
「はい、わかりました。(ヘイワース?聞き覚えのある名前ですね?……どこで聞いたのでしょう?」
「!!」
男性――ハロルドが名乗るとプリネは聞き覚えのある名前に心の中で首を傾げ、リフィアは声に出さず、驚いた。そしてハロルドはプリネ達の元から一端去った。
「リフィア、どうしたの?出口の方に行くよ?」
驚いている風に見えるリフィアに首を傾げつつ、エヴリーヌはリフィアを促した。
「あ、ああ。」
エヴリーヌに言われて、我に返ったリフィアは気を取り直してプリネ達と共に街の出口まで行き、ハロルド達を待っていた。そしてしばらくすると、妻らしき女性と息子らしき男の子を連れたハロルドがプリネ達の所に来た。
「お待たせしました。こちらが妻のソフィアと息子のコリンです。」
「ソフィアと申します。本日はよろしくお願いします。」
「こんにちは〜、お姉ちゃん達。」
女性――ソフィアは軽く会釈をし、男の子――コリンは無邪気な笑顔で挨拶をした。
「よろしくお願いします。じゃあ、早速ですが行きましょうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
そしてプリネが歩き出すとハロルド達はプリネについて行った。その様子をリフィアは後ろから複雑そうな表情で見ていた。
(…………まさかこんな所で会う事になるとはな…………)
「リフィア、どうしたの?さっきから考え事ばかりで今日のリフィア、変だよ?」
「少し……な。あの者達と別れてから理由を話す。行くぞ、エヴリーヌ。」
「ん。」
リフィアとエヴリーヌは急いでプリネ達の所に走って行った。
〜トラッド平原〜
ツァイス市とリベールの名所の一つであるエルモ温泉とカルバード共和国を結ぶ関所、ヴォルフ砦へ行く道がある平原をヘイワーズ親子を連れたプリネ達は歩きながら自分達の仮の事情を説明した。
「将来の仕事のために遊撃士のお仕事を……お若いながら、立派ですね。」
「ええ、それにみなさん女性なのに戦えるなんて、同じ女性として尊敬しますわ。」
プリネ達が遊撃士の仕事を手伝っている仮の理由を知ったハロルド達は感心していた。
「フフ、ありがとうございます。でも、最近は女性が戦えても不思議ではない時代だと思いますよ?例えばリベールの王室親衛隊長で名高いユリア中尉も女性ですし、”大陸最強”を誇るメンフィル帝国の大将軍も女性ですから。」
「ハハ……確かに最近の女性は勇ましい方が多いですね。」
プリネの言葉にハロルドは苦笑いしながら答えた。そしてしばらく歩くと魔獣が現れた。魔獣を見てハロルド達は表情が強張った。
「!ハロルドさん達は下がって下さい。」
「はい、お願いします。」
「みなさん、お気をつけて……さあ、コリン。あなたもこっちにいらっしゃい。」
「うん〜。」
プリネの言葉に頷き、ハロルド達はプリネ達のやや後方に下がった。
「2人とも、行きますよ!」
「ああ。」
「ん。」
プリネは鞘からレイピアを抜いてリフィア達に声をかけた。そしてプリネ達は魔獣に戦闘を仕掛けた!
「闇に呑まれよ!……ティルワンの闇界!!鋼輝の陣……イオ=ルーン!」
次々と放つリフィアの魔術は一撃で魔獣達を纏めて次々と葬り
「遊んであげる!はい、どかーん。」
エヴリーヌは神速の速さで弓技――精密射撃や三連射撃で正確に魔獣を射抜いた後、強力な風の魔術――審判の轟雷でリフィアと同じように魔獣達を纏めて葬り
「ハァッ!……まだまだ!フッ、ハッ、終わりです!」
プリネはリウイ直伝の剣技――フェヒテンバルやフェヒテンイングでリフィア達が撃ち漏らした魔獣達を葬った。そして戦闘は終わった。
「よし、終わりですね。ハロルドさん、もう大丈夫ですよ。」
あたりを見回して、魔獣達の全滅を確認したプリネはハロルド達を呼んだ。
「……驚きました。あれだけいた魔獣をこんなに早く撃退できるなんて。」
「お姉ちゃん達、凄く強いね〜。」
ハロルドは驚きの表情をしながらソフィアやコリンを連れてプリネ達に近付いた。また、コリンは無邪気に言った。
「フフ、まだまだ修行中の身ですよ。」
「うむ。世界は広いからな。余が知っている強者等、世界を相手に戦えるとも言われておるからな。」
「ハハ……途方もない話ですね。………でも、私達に貴女達の100分の1の強さでもいいから、あの時あればあの子はあんな事には………いや………そんな事は関係ありませんね………」
「………………」
プリネとリフィアの言葉にハロルドは苦笑いした後、小さい声で呟き、その呟きが聞こえたソフィアも暗い表情をした。
(あの子?ハロルドさん達の子供は目の前にいるのに……どういう意味でしょう?)
魔神の力を受け継いだ影響で人間より耳がいいため、本来聞こえないはずのハロルドの呟きが聞こえたプリネは首を傾げた。
(…………ふむ。今の言葉からするとどうやらレンの事はまだ忘れてないようだな……リウイの話では新たに生まれた子供をきっかけにレンの事を忘れようとしていたとの事だが………)
一方同じようにハロルドの呟きが聞こえ、ハロルドやソフィアの表情を見たリフィアは考え込んでいた。そしてプリネ達はハロルド達をエルモ村まで無事護衛した。
〜エルモ村・入口〜
「着きました。ここがエルモ村です。」
「おお、ここが……どことなくアルモリカ村の雰囲気に似ていますね。」
ハロルドはのどかな風景のエルモ村を見て、呟いた。
「アルモリカ村?聞いた事がない村ですが、クロスベルの村ですか?」
「ええ。養蜜を主としたのどかな村でいつも御贔屓にしてもらっている村です。もしクロスベルに来る事があれば、お土産の一つとして蜂蜜がいいですよ。アルモリカ村の蜂蜜は絶品ですから。」
「へ〜……蜂蜜か。あれも甘くて大好きなんだよね。クロスベルってところだね。覚えておくよ。」
「貴方、そろそろ……」
「おっと、そうだな。それではみなさん、本日はどうもありがとうございました。」
「ありがとうございました。ほら、コリンも。」
「うん〜。ありがとう〜、お姉ちゃん達。」
ソフィアに促されたハロルドは礼儀正しくプリネ達に頭を下げ、ソフィアもコリンにお礼を言うよう促した後頭を下げた。
「どういたしまして。ちなみに帰りの護衛は大丈夫ですか?」
「はい。道は覚えましたので大丈夫です。それにイーリュン教で販売している魔獣避けの聖水もこちらに来る前に買いましたので大丈夫です。」
「そうですか。それではお気をつけて。」
「はい、それでは失礼します。」
「リフィア、ツァイスを出る前に考えていた事を教えてもらっていい?なんか今日のリフィア、変だよ?あの人達に会ってからずっと考え込んでいる様子だったし。」
ハロルド達の見送ったエヴリーヌはリフィアに尋ねた。
「まあな。2人とも。先ほど護衛した家族、ヘイワースの名前に聞き覚えはないか?」
「エヴリーヌはわかんない。」
「……実は私も少しだけハロルドさん達の名前が気になったのです。聞き覚えはあるのですが………リフィアお姉様はわかるのですか?」
リフィアに尋ねられたエヴリーヌは首を横に振って答え、プリネは考え込んでいる様子で答えた後、リフィアに尋ね返した。
「ああ。………………それでヘイワースという名前だが………ヘイワースはレンの過去の名前だ。」
「え………という事は今の方達がレンの実の両親ですか!?」
「へ〜。今の人間達が……」
リフィアの答えを聞き、エヴリーヌはあまり興味なさげだったが、プリネは驚いた。
「ああ、間違いない。どこかで見覚えのある顔だと思ったが、報告にあったレンの両親だ。」
「そうだったのですか……道理で聞き覚えのある名前だと思ったのですが……あら?それではハロルドさんが呟いた”あの子”というのは……!」
「十中八九レンの事だろう。リウイの話では新たに生まれた子供をきっかけにレンの事を忘れようとしていたと聞いていたが、あの様子では今でもレンの事を後悔しているんだろうな。」
「……………レンの事を教えなくてよかったのですか?」
プリネはハロルド達がレンの実の両親と気付いていて、何も言わなかったリフィアに尋ねた。
「忘れたか?リウイから自分から両親を知りたいと言うまでレンには決して教えるなと言われているだろう?」
「………そう言えば、そうでしたね。……………それにしてもまさか、この旅で会う事になるとは思いませんでした。」
リフィアに言われたプリネは複雑そうな表情をした。
「ん。じゃ、依頼も終わったしギルドに戻ろっか?エステル達が戻って来てるかもしれないし。」
「そうだな。そろそろ日も暮れる。急いで戻るぞ。」
「はい。」
そしてリフィア達はエルモ村を去った…………
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第103話 | ||
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