リリカルなのは×デビルサバイバー
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 「ここが、時空航空艦アースラか……」

 

 一瞬の出来事だった。瞬きをしていたら、いつの間にか違う場所に居た。そんな言葉が最も似合う出来事だった。

 先ほどまで居た臨海公園とは全く違う風景、例えるならゲームや映画等で出てくる未来の宇宙船。と言えるだろうか?

 

「ミッドチルダ…つまり、僕達の住む世界は確かに、魔法という技術で発達してきた。でもそれとは別に、科学技術も発達してきた。というわけさ」

 

 「デバイスも科学技術の一つだしね」と、クロノは最後に一つだけ付け足すように言った。

 

「デバイスってなんだ?」

「……なるほど。君は知らないのか。デバイス、というのはこういう奴を言うんだ」

 

 クロノは、手元に持っていた杖をカードのような形の物へと姿を変えさせた。

 

「デバイスというのは、総称の事さ。一つ一つのデバイスに名前があり、僕で言えばS2U。それで君は」

 

 クロノは視線をなのはへと向ける。

 

「…あ、バリアジャケットも解除していいよ。ここなら安全だしね」

「あ、そうですね」

 

 なのはは杖を宝石のようなものに、今まで纏っていた服を、何時も見慣れている学園の制服へと変えた。

 

「これが私のデバイス、レイジングハートなんだ」

 

 なのはは、手元にある宝石をカイトに見せた。真紅に輝くなのはのデバイスは、ルビーに似ている。

 

「『初めまして、カイト』」

「うぉ。喋った」

 

 レイジングハートが喋った事を、カイトは驚いている。その横でクロノは、興味深そうになのはのデバイスを見ている。

 

「インテリジェントデバイスか。珍しいな」

「まーた、知らん単語が出てきたな」

「デバイスには、ストレージデバイスとインテリジェントデバイスの二種類ある。これでいいかい? というか、説明してるときりがないな。もうこの話はこれでいいかな?」

 

 それはカイトも同感なので、頷く事で同意を示した。これ以上話していたら、時間がいくらあっても足りやしない。

 

「あ、そうだ。君も元の姿に戻ったらどうだい?」

 

 クロノはフェレットに向かって言う。

 元の姿。そのキーワードのカイトとなのはは疑問を覚えつつ、フェレットを見ている。

 そのフェレットは、カイト達の様子に気づいていないのか、暢気に「あ、そうですね」と言ってから、元の姿に戻るためだろうか? 身体を光らせていく。

 

 フェレットから、人の形へ変化。

 呆然と、「悪魔や神が居て、魔法もあるのだから、動物から人へと姿を変える奴がいてもおかしくない」と、考えぼーっとしているカイトの横で、「…え? え?」と、困惑しているのはなのはだ。

 

 変化を終え、光が収まっていく。

 フェレットが立っていた場所に、今立っているのはフェレットではなくて、カイトと同じぐらいの身長の、一人の少年だった。

 

「ふぅ……。なのはにこの姿を見せるのは、久しぶりだっけ?」

 

 何事もないように言う少年。

 少年とは対照的に、なのははかなり狼狽している。

 

 そして、爆発した。

 

「えええええぇぇぇぇぇッッッ!?!?」

 

 耳をつんざくような叫び声。

 それだけ驚いている、ということなのだろうが。近い距離に居るカイトの耳に少々ダメージを与えていた。ちなみにクロノは、耳を塞ぎ防御していたので、ダメージはない。

 

「あれ? 僕、この姿をなのはに見せたこと無かった?」

「ないない! ないよっ」

 

 混乱しているなのはと、「あれー?」と、頭を傾げている少年。

 そんな二人を、呆れながら見ているクロノは、二人に割り込む形で、話しかける。

 

「どうやら、君達の間で少し意見の相違があったみちだが、話は後にしてくれないか?」

 

 クロノに言われ、漸く消息に戻ったのか…否、なのははまだ納得してなさそうに、「はい」と頷いた。

 

「……ちなみに君も大丈夫か?」

 

 クロノの視線の先にはカイトがいる。

 手を耳に当て、小さな声で「ディア」と唱えている。果たして耳鳴りに効果があるかは知らないが。

 

「ちょっと耳がキーンとしてるけど、大丈夫だ。問題ない」

 

 耳を未だ抑えながら、カイトは言う。

 

「ほら、行くんだろ? お前が先導しないと、俺達は道がわからないんだ」

「あ、あぁ」

 

 クロノはカイト達に背を向けると、「こっちだ」と言い歩き出した。

 カイト達ももまた、クロノの後を追うように、歩き出す。

 

* * *

 

「ユーノ・スクライア?」

「はい」

 

 クロノについていく間、カイトは少年――ユーノ・スクライアの名前を知らなかったことを思い出し、自己紹介をしていた。

 とはいえ、ユーノの方はカイトの事を知っていたのだが。

 

「転校生が来たって話は聞いてたからね。だから、名前とその特徴的な、ヘッドホンだけは知ってるよ」

「なるほどね」

 

 相槌を打ってから、カイトは周りを見回す。これだけ広い船内だというのに、誰一人として歩いていない。居ないのだが……。

 

「(視線を感じる……?)」

 

 誰かが見ている。

 肝心の"誰か"。という部分は、カイトには分からなかったが、確かに見られている。

 殺気等、負の感情の様なものは感じない事から、見の危険はないのだろうが、一方的に見られるというのは、まるで檻に閉じ込められた動物のようで、気分がわるい。

 

「どうしたの? カイトくん」

「いや、なんでも……」

 

 考える。そして一瞬で答えは纏まる。まぁ、どうにでもなるだろ、と。

 その後、歩きながらではあるがユーノから、管理局についての情報と、管理局側からの地球についての情報を得る。

 カイトとなのはにとって、初めて聞く話ばかりではあるものの、これから話す相手は、管理局の人間であり、情報を得ておくのは当然という考えからだった。

 

* * *

 

「艦長。失礼します」

 

 クロノに案内され、通されたその部屋は一言で言えば異質だった。

 鉄の箱のなかに、態々芝を植え、川を流している。その部屋の先に、一人の女性が芝の上にひいた布の上で座っていた。恐らくはあれが、この艦の艦長なのだろう。

 

 クロノが先に歩き出し、カイト達もまたクロノの後を歩いて行く。

 艦長が少々遠くに居たこともあり、遠目からでは女性、緑色の髪、といった特徴しか分からなかったが、近づくにつれカイトが想像するよりも若いという事が分かる。

 

「艦長、連れて参りました」

「ありがとう、クロノ」

 

 そして、もう一つ分かったことがある。

 この艦長と、クロノはかなり親しげな仲であること。両者の雰囲気や、表情からその事を察する事ができる。

 

「さてと、高町なのはさんと、ユーノ・スクライアくんと、天音カイトくん、だったかしら? 皆どうぞ、座って頂戴、ね?」

 

 三人は、艦長に指示された通り、芝の上にひかれた布の上に座る。クロノもまた艦長の隣に、腰を下ろしていた。

 

「初めまして、私の名前はリンディ・ハラオウンと言います。よろしくね?」

「……ハラオウン?」

 

 その苗字はクロノと同じだ。ということは?

 

「えぇ、クロノは私の息子よ?」

「息子?」

 

 カイト達三人はポカンと口を開けている。てっきり、歳の離れた姉弟ぐらいに思っていたのに、まさかの親子。

 

「あら? もしかして、クロノの姉とでも思ってくれていたのかしら?」

 

 カイト達は必死に頷いている。

 

「それは嬉しいわね〜。私もまだまだ行けるってことかしら?」

 

 外見だけで言えば、行けるというものではないだろう。「現役」と言っても、差支えはないレベルだ。

 

「……艦長。もうそろそろ本題に入っても、いいのでは?」

「あら、それもそうね。それじゃ、おふざけはここまでにして、本題に入りましょうか」

 

 姿勢をただした。それだけなのに、リンディ・ハラオウンの雰囲気が変わった。周囲の空気が、ピリピリとするのがカイトには分かった。その証拠に、先ほどまでリラックスしていた、なのはとユーノが気圧されている。

 それが分かった時、カイトはなるほどな、と。一人納得していた。要するに先ほどまでの態度は、演技だったのだ。自分たちのペースに持ち込むための演技。

 どれだけ力を持っていても、なのはとユーノはまだ子供。このままのペースで話をしていけば、管理局側優勢で話は進んでいくだろう。

 

「(まぁ、今はどうでもいいか。どちらにしろ、切り札はこちらにある)」

 

 そこまで考えた所で、カイトは自身を見ている、クロノに気づいた。そしてその視線は、先ほどまでずっと感じていたものと、同質のものであることも。

 

「それじゃ、なのはさん。貴方達の話を先ず、聞かせてもらえるかしら?」

「あ、はい」

 

 なのはは少しずつ話し始める。

 自身が魔法に関わった切掛を、これまでどうしてジュエルシードをめぐり、フェイトと呼ばれた少女と戦っていたのかを。

 その話は決して短いものではなく、気づいたら数十分ほどの時が経過していた。

 

「私から話せるのは、こんな所です」

「そう……。貴方達も、フェイトさんだったかしら? 彼女の目的を知らないということかしら?」

「はい……」

 

 しょぼん。という感じに、なのはは俯いている。

 

「キーワードは"母さん"と言ったところでしょうか?」

「そうね。クロノ、エイミィにフェイトさんの名前と、それに類する情報を集めるように連絡しておいてくれるかしら?」

「はい、艦長」

「それじゃ、次は……」

 

 リンディの視線が、なのはからカイトに移される。人を射るようなその視線だが、悪魔の殺気等に比べれば、子供同然だった。

 

「それで、カイトくんはどうしてあそこに?」

「学園から帰る途中……本当は爆発があったっていう、場所に行こうと思ったんだけど、とある女の子に止められてね。それで少しの間、海上公園で会話をしていたら天使の気配がして、その気配に向かって歩いて行ったら高町さんたちが居た。それだけだよ」

 

 そっけなくカイトは言う。

 なのはとは対照的な、カイトの様子にリンディは眉を顰めるものの、笑顔を崩さない辺り、さすがといったところか?

 

「天使?」

「そう、天使。悪魔がいるんだから、天使ぐらい居てもおかしくないだろう?」

 

 これ以上話すことはない。

 そう示すかのように、カイトは出されたお茶を飲む。

 

「そう。天使、ね」

「はい。天使」

「そう……」

「はい」

 

 何が「はい」だというのだろうか?

 この絶妙で、微妙な雰囲気にした張本人であるカイトは、この雰囲気を楽しむかのように、お茶菓子に手を付けていた。

 

「えーっと……、そのね? それで、なのはさん達と、カイトくんはこれからどうするのかしら?」

 

 心機一転。

 そんな感じで、できるだけ明るくしながら、リンディはなのは達に問いかけた。

 いきなり話を振られた、なのはは慌てた様子を見せたものの、すぐさま冷静になり答えた。

 

「えっと、ジュエルシードもそうなんですけど、私はやっぱりフェイトちゃんを助けたい……そう思うんです」

「そう……。貴女がそう思うのなら、ユーノくんも同じ意見なのかしら?」

「あ、はい」

 

 話を振られたユーノも頷く。

 ジュエルシードを集めるという、ユーノを意思をなのはが受け継いでいるのだから、異論はないのだろう。

 

「それでカイトくんは、天使の羽根を持っていた、フェイトちゃんを追うのね?」

「正しくはそのフェイトって子の母親かな? 少なくともその人に接触しなきゃいけない」

「そう……。だとすると、貴方達の目的は同じになるのかしら?」

 

 リンディにそう言われ、カイトとなのははお互いを見る。

 リンディは目的が同じと言ったが、実際は違う。カイトとなのはでは、目的を追う「過程」は少々似たものだ。

 そして、その到達点は相容れないものになるかもしれない。

 だから、カイトはきっぱりと「違う」と言おうとした。言おうとしたが、その前にリンディがまた、口を開く。

 

「でも、貴方達はもう、この件に関わらないほうがいいわ」

 

 きっぱりと、リンディはそう言い放った。

 それに続く形で、クロノもまた口を開いた。

 

「この件は、管理局の仕事だ。君達が、この件に関わる必要はないよ」

「でも!」

「でもじゃないっ! 君達は一般人なんだぞ? こんな危険なことに、無理して戦う必要なんて無いっ」

 

 そう言われたなのはは、何も言い返せないようだ。一般人である事は事実で、危険なことも事実だからだ。

 

「なるほど、いい心掛けだ。一般人を護るのが、貴方達の仕事なのだとしたら、それは当然の責務なのだろう」

「分かってくれるかい?」

 

 リンディの言葉に同意を示したカイトに、クロノはその表情をほころばせる。

 しかしだ。次にカイトの口から出た言葉はその真逆の言葉だった。

 

「だけど悪いな。俺はアンタ達を信用出来ない」

「なに……?」

「経験上ね……。本当に大事なことは、人任せにしちゃいけないと習ったんだよ。よく言うだろ? 何か望みがあるのなら、自身の手で掴まなければならないってさ」

「だがっ!!!」

 

 しかしカイトの言葉は詭弁とも取れる。

 今回の事件が時空管理局が解決するべき事件なのだとしたら、一般人であるカイトやなのはが首を突っ込むのは、筋違いも甚だしいことなのだから。

 

「貴方達に俺や高町さんを止めることは出来はしないよ。地球上ではその権利は貴方達にはないんだから」

「くっ……!」

「だから、貴方達に俺たちの行動を妨げる権利なんて、ない」

 

 クロノはカイトを睨みつけている。

 カイトは全く気にしてはいないが。

 

「そうかもしれないわね……。でも、ここでなら貴方達を拘束できるとは思わないかしら?」

「……でしょうね。でも、それをしようとするのなら死体の数十や、数百を作る覚悟で来てくれませんかね?」

 

 カイトは右手にCOMPを持ちながら言う。

 当然死者を出すつもりはないが、悪魔の力は抑止力……悪く言えば、脅迫の材料となる、強大な力だ。それは持っているだけで、見せるだけで十分な効果を発揮する。

 本当にやるかもしれない。そう、思わせるだけで十分なのだ。

 

「でも、私達としても放っておく事はできない。そうでしょう?」

「えぇ、だと思います」

「だから、どうかしら? なのはさん、ユーノくん、カイトくん。私達に協力してくれないかしら?」

 

 それは、譲歩だった。

 この艦の最高責任者である彼女は、艦の人間を危険に晒すわけにはいかないのだから。

 

「それを含めて、時間をくれませんかね? 俺もそうだけど、高町さんと、ユーノも考える時間が必要でしょう?」

 

 リンディは、少し考え込んでいる。

 とはいえ、考えても無駄である。カイトには、これ以上話をする気はないのだから。

 

「そう、ね。もういい時間だし、遅くなってご家族を心配させても、いけないわね。なのはさん達も、それでいいかしら?」

「あ、はい…?」

 

 何故か話がとんとん拍子で決まっていく。

 なのはは恐らく、その事に違和感を覚えているのだろう。だが、違和感はあっても、その原因に心当たりがないのか、流されるがままだ。

 

「それじゃ、明日の放課後に迎えに来てくれる。ということで」

「えぇ。了解したわ」

 

 「それじゃ」と言って、カイトは立ち上がる。

 話は纏まったのだ。これ以上話すことはない、ということだろう。

 カイトに続いて、なのは達も立ち上がり、カイトの後に続いて、部屋から出ていった。

 クロノは、カイト達がこの部屋から出ていったのを、確認してからリンディに問いかけた。

 

「良いんですか? このままだとあちらのペースになりそうですが」

「そうね……。良くはないのでしょうけど、カイト。あの子が伝承通りの力の持ち主だとするなら、その機嫌を損ねるわけにはいかないのよ」

「確かに、そうですが……」

 

 それでも、クロノは納得しきれていない。そこに若さを感じつつ、リンディは、お茶に砂糖とミルクをこれでもか! と入れ、飲む。

 ゆったりとしているものの、頭はしっかりと回転させ、これからの事を考える。

 目下……あの三人をどう、仲間にに引きずり込むか? それを考えながら。

 

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