とある異能力違い 2−11
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《幻想の華〔後半〕》

 

 

〜広野〜

 

ここは橋と実験施設の中間の広野。

幻想猛獣が実験施設に向かう進路上に二つの人影があった。

 

「マジでやんの?腕折れてんだけど」

「あんたなら片手でも充分でしょ、それじゃいくわよ!」

 

美琴が叫ぶと同時に、砂鉄を集め鞭のようにして幻想猛獣の大きな腕を切り裂く。

幻想猛獣は腕を切り裂かれた痛みに叫び声を上げるが、切られたところから新たに腕を再生し、エネルギー弾を美琴に打つ。

ジャンプで避け電撃を打とうとしたときに美琴目掛け触手が伸びてゆく。

空中で動けるはずもなく、そのまま触手につかまると思ったとき、横から元が蹴りで触手の軌道を逸らす。

 

「飛んだら格好の的だろ、考えて避けろや」

「うっさいわね・・危ない!」

 

二人が話している合間も火炎弾や触手を飛ばしてくる。

 

「少しはひとのはなしをっ」

「口より体を動かせよっ!」

「偉そうなことを言うならあんたも攻撃しなさいよ!」

 

美琴の言う通り元は今まで避けてばかりで、幻想猛獣に攻撃を全くしていない。

 

「腕、やっとくっついたのにはぁ〜」

 

元は渋々という感じに吊っている腕を外しギブスを取った。

そして白い手袋をして何時ものように筆を取り出す。

 

「そんじゃいきますよー!『弘法筆の誤り』!」

 

弘法筆の誤りを発動した状態で幻想猛獣に突っ込んでゆく。

幻想猛獣は触手三本で迎撃するが左右からくる二本を避け、上からきたから一本を『硬』で強化した拳で殴り飛ばす。

ギリギリまで近づいた元は、白の手袋に『爆発』と刻みそのまま幻想猛獣を殴り付けた。

殴り付けた瞬間、爆発音とともに幻想猛獣の一部が吹き飛ぶ、しかし美琴の電撃ほどの威力はなくすぐに再生される。

燃えた手袋を捨て、ピンポン球サイズの鉄球をだし『回転』と書いて三個投げつける。

幻想猛獣に当たった鉄球は高速回転しだし、まわりの肉?を捩り切るようにめり込んで、貫通していった。

だが、当然のように再生し、再び襲ってくる。

 

「ひゃ〜きりがねえな、どうすんだよこんなデカブツ」

「治療プログラムさえ成功すれば後は楽なはず、文句言わないで行くわよ!」

「やるしかねのか、しゃあねえな」

 

再び幻想猛獣に二人が突っ込んでゆく。

 

〜橋の上〜

 

元と美琴が幻想猛獣の気を引き付けて侵攻を食い止めているなか、初春はアンチスキルの車両を目指し、階段を登り終え道路を走っていた。

 

(見えた!あの車だけど・・・この穴どうしよう)

 

初春の目の前には木山が開けた巨大な穴が空いている。

自分が登ってきた階段はロックされているため、この穴をこえないとアンチスキルのもとにはたどり着かないである。

通れるところはないか見回すと、道路の端っこのわずかな隙間が一ヵ所あった。

そこにたどり着きいざ進もうにも足がすくんで足がでない。

わずかな隙間は自分の足より細く、一歩間違えばビル四階の高さから転落である。

初春の能力はあくまで温度を調節するものであり、浮いたり壁にくっつく事はできない。

行かなければ苦しんでいる人や元、美琴に迷惑がかかる、しかし恐怖で足が出なかった。

 

(なんでこんなみちしかないの、でも自分がやらなきゃ!私だってジャッチメントなんだから!)

 

初春は一歩一歩ゆっくりと歩き始めた、壁に手をつき落ちないように一歩一歩確実にゆっくりと。

下を見ると動けなくなるので常に前を向いて。

着実に進んでゆくと終わりが見えた。

しかしここで終わりが見えたせいで油断したのか足を滑らしてしまう。

 

(あっ私落ちたんだ)

 

一瞬にして体を空中に投げ出され眼前に空が見えたとき、初春は不思議なぐらい冷静であった、なんなら今から直ぐに空に浮かぶ雲の数が数えれるくらい。

恐怖より罪悪感の方が強かったせいでもある。自分のせいで幻想猛獣を止められなかった、佐天さんを救えなかった、そんなことばかり考えていた。

 

(みんな救えなくてごめんなさい)

 

誰かに腕を捕まれる感覚があった。

 

「大丈夫ですか!」

「まったく最近の若いのは無理するじゃん」

 

アンチスキルの黄泉川が落ちていく寸前に初春の手を掴んだのである。

初春はなにが起きたか理解できなかったが、直ぐに頭を切り替え目的を果たすために行動を開始した。

 

「あの、私の持っている治療プログラムを街中に流すのを手伝ってください!」

「話は聞いてるじゃん」

「あの二人が貴女の持っている治療プログラムの事について教えてくれたんです。さあ早くこっちに!」

 

鉄装の後に続きアンチスキルの車両の中に入っていく。

 

「パソコンや必要な回線はあらかた用意しました、後はそのプログラムだけです。貸してください」

「私はジャッチメントで情報処理をしているんです、私にやらせてください。

これは私がするべき使命なんです、約束もありますし」

「しかし!」

「任せるべきじゃん」

「隊長!?」

 

鉄装は黄泉川の発言に驚きを隠せない。

こんな少女に重大な任務を任せられるはずがない、もし失敗したら学園都市の危機でもあるのに。

 

「ジャッチメントの情報処理係なら腕は確か、それにこの娘目は本気じゃん」

「わかりました、それではよろしくお願いします」

 

なにを言ってるのかと思った鉄装であったが、黄泉川の言葉に席を離れた。

 

「それでは開始します!」

カタカタカタカタ

「すごい・・・・」

 

初春のスピードに驚く鉄装、初春はそんな言葉など聞こえてないほど集中をしている。

初春を軽く見たあと黄泉川はジャッチメントの本部に連絡をとった。

 

「もしもし、私だこれから転送する音楽ファイルをどんなことをしても街中に流せ!

何でだって?そんなことはいいからさっさとしろ!責任なら私がとる!」

「転送終了しました!」

「よし、やれ!」

 

〜橋の下〜

 

木山は動かない体に鞭をうって元と美琴が戦闘している所へと向かっている。

 

「治療プログラムを街中に流す事でネットワークを破壊すること、花飾りの少女がうまくやれば幻想猛獣の暴走を押さえることが出来る、しかしアレにはまだ問題点がある。それを伝えに行かなければ」

 

木山はふらつきながらも歩みを進める

 

〜実験施設付近〜

 

「まっ・た・く・も・う!いい加減にしなさいこのデカブツ!」

「イラつくのはいいが、頼むから自分の攻撃で施設壊すなよ」

 

斬っても、潰しても、焼いても、殴っても再生して進んでくる幻想猛獣は、すでに施設の手前まで迫っていた。

今戦っている元と美琴の位置が最終防衛ラインである。

美琴は砂鉄の鞭で、エネルギー弾や氷の塊、触手をはじき、時には電撃で攻撃する。

元は美琴の後ろに陣どり後ろにそらしたうち漏らしを肉弾戦で対処している。

念を使えばもっと効率はあがるが、持久戦のために温存している。

 

「本当にきりがない!怪獣映画かっつうの!」

「似たようなこと前も言ったんだが」

 

話の最中でも幻想猛獣の攻撃の手は止まらなく、次々と氷の巨大な剣を作り出す。

美琴は瞬時に横に跳ぶ、美琴が先程までいた場所には無数の氷の巨大な剣が刺さっていた

美琴に気をとられているあいだに元は幻想猛獣の懐に入り、『硬』の右手で全力で殴る。

衝撃に幻想猛獣は後退りするが、直ぐに体勢を立て直し触手を伸ばしてくる。

 

「あんたそんなことできるならもっとやりなさいよ、他のは威力がないのよ!」

「痛いところをつかれたな、対人なら全部一撃で落ちるレベルの威力なんだけど」

 

元の『弘法筆の誤り』は万能型にみえるが、基本は状態変化によるサポート型であり、『弘法筆の誤り』自体に攻撃性はないのである。

前にやった手袋に『爆発』と書いて、殴ったら爆発するというものがあったが、あれは爆発した瞬間に手袋の『爆発』の文字が壊れ、効力は弱まり威力がは小型の手榴弾程なのである。

つまり、能力での攻撃の威力はそこまで期待できないのである。

証拠に元は『弘法筆の誤り』で強化や防御をして攻撃は体術というのが基本である。

幻想猛獣には対人の威力ではあまり意味はない。

 

「こうなったら私が・・・」

 

美琴が右手で充電を始めたとき、学園都市中にあるスピーカーから音が流れ始めた。

 

 

♪〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜

 

 

「何この曲?」

「おい!コイツ再生しなくなったぞ!」

 

曲が流れたと同時に、幻想猛獣が不思議な動きを始めた。

更にもう一つ変化が起こった、それは美琴が砂鉄で斬った触手が再生してこないのだ。

 

「もしかして!初春さんやったんだ、この曲は治療プログラム・・・・今なら行ける!悪いけどこれでゲームオーバーよ!」

 

美琴の身体中から電気が流れ、幻想猛獣の上に雷が落ちた。

幻想猛獣は黒焦げまではいかなかったが、雷をくらい、後ろ向きに倒れた。

 

「あ〜危ない危ない」

「危機一髪ってやつ?」

「一発じゃね?」

 

美琴と元は疲れたと地面に座り込んだ。

 

「油断するな!まだ終わってはいない!」

 

二人がすべてを終えた感を出していると、フラフラの木山がそこにいた。

 

「ちょっとなんでこんなところに」

「いやそれよりまだ終わっていないってどうゆうことです、春生先生?」

「ネットワークの破壊に成功してもアレはAIM拡散力場が産み出した一万人の思念の塊、通常の生き物の常識が通用すると思うな!」

 

木山が叫んだのと同時だろうか、ゆっくりと幻想猛獣が立ち上がった。

 

「話が違うじゃない!どうしろって言うのよ!」

「核だ、力場を固定している核が何処かにあるはずだ、それさえ壊せば・・・」

 

『レベル0なんて欠陥品じゃん』

 

「佐天さん!?」

 

木山の説明が終わったのを見計らったように幻想猛獣から声が聞こえ始めた。

 

『この町で俺は夢を叶えるはずだった、能力者になるという夢を・・・しかし夢は夢でしかなかった!』

 

『どんなに努力をしてもこの街では能力という壁が邪魔をする。惨めだ、殴られ蹴られ踏み潰され、見て見ぬふりをされる日常が』

 

『俺は別に能力なんて要らなかった、俺には野球がある!そう思っていた。大会の決勝、やつらは能力を使ってメンバーを襲い、試合中も妨害をしてきた!当然抗議はした、したがなにを言っても無駄だった、やつらは無能力者の話なんて聞かない、いないのと同じなんだ、許せない』

 

『だったら手に入れるしかないじゃないか』

 

「これが学園都市の本当の姿だな、圧倒的な能力者と無能力者の差別、これが俺ら無能力者の日常だ」

「・・・・貴方たち下がって、巻き込まれるわよ」

「構わない!私はあれを産み出した責任が!」

「あんたが良くてもあんたの教え子はどうなるわけ?あの子達が目をさまして一番に見たいのはあんたの顔でしょ!こんなやり方をしないなら私だって協力する・・・簡単に諦めないで。

それにあいつに巻き込まれるんじゃない、私が巻き込んじゃうっていってんのよ!」

 

その声と共にみことの体から電気?いや電撃が放電される。

 

「さっき雷落としたところでほとんど電気は残ってないだろ、時間稼ぐから充電しな」

「うぬっ、わかったわ、少し時間を頂戴」

「さーて、いつ以来かな?最初っから飛ばすよー!」

 

『韋駄天』で一気に近づき腹にアッパー、幻想猛獣の顔まで登りサマーソルト、そして着地し地面を蹴って再び突っ込む。

 

「元君、君はいったい何者なんだ・・・・」

 

料理ができて、頭が回り多少運動ができる程度しか元のことを知らない木山は、元の動きに言葉を失った。

 

「そいりゃあああ!」

 

『硬』の拳でラッシュラッシュ、途中嫌なミシッと音がした気がしたが気にしない。

 

「いいわ避けて!」

「じゃ置き土産!」

 

最後に『避雷針』を書いた残っている筆を幻想猛獣に刺し急いで待避する。

 

「いくわよ!」

 

美琴の右手から電撃が放たれる。

しかし今までと違い、槍のようではなく全体に当てている。

 

(彼女の電撃の威力程度では・・・・!?あれは直接当ててはいない、強引にねじ込んだ電気抵抗で体の表面が消し飛んでいく、私の時のは全力ではなかったのか)

 

幻想猛獣も必死に抗い、美琴に触手を伸ばす。

当たる寸前で元が蹴りをいれる。

 

「さあ、最後の仕事だ」

 

ワイヤーを取りだし最大の念を『周』にまわし、ワイヤーを固める。

元は全速力で幻想猛獣の回りを走り回り、幻想猛獣を動けないように締める。

 

「仕上げはよろしく!」

「うっさいわねわかっているわよ!」

 

美琴はポッケからコインを取り出す。

仕上げとは超電磁砲で核を撃ち抜くことである。

超電磁砲を撃つために右手を出すと、再び声が聞こえてくる。

 

『私だって』

 

『能力者に』

 

『なりたかった』

 

「うん、気づいてあげられなくてごめんね」

 

『もう馬鹿になんて』

 

『されたくなかった』

 

「うん」

 

『普通に』

 

『暮らしたかった』

 

「頑張ったんだね、ならもう一回頑張ってみようよ」

 

美琴がコインを弾く

 

「下ばっか見てないでさ、くよくよしないでさ、自分に嘘つかないでもう一度!」

 

超電磁砲が幻想猛獣を撃ち抜く、そしてコインと一緒に三角柱が飛び出て空へと昇っていき砕け散った。

 

「これがレベル5・・・・」

「そう、これが学園都市が誇る七人しかしないレベル5第三位美坂美琴だ」

 

核を失った幻想猛獣は倒れながら崩れていった。

こうして幻想御手の事件は終幕となった。

 

説明
どうも、オンラインでは突スナばっかやってる茶渋です(最近はマジてちゃんとやってまっせ)

ついに幻想御手編も次で終わりです

(茶・ω・)оΟ(テスト初日とP4Gの発売日一緒って・・・・( TДT))

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