IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第三話
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SHRから授業までの嵐のような時間は終わり、今は休憩時間。

『ISの基礎理論』は専門の勉強をしてきた俺にとっては特に問題のない授業だった。

 

(さてと、とりあえず織斑一夏に話しかけてみるか)

 

しつこいようだがここは女子校だ。女友達ばっかり作るという選択肢もあるが、やはりこういう境遇の理解者がいてほしいという願いは強い。

いわゆる旅は道連れというやつである。女尊男卑の世の中、しかも今のさらに立場の悪い状況下、味方が一人いてくれるのはとても心強い。

俺は席を立つと周りの女子の視線に気付かないふりをしながら歩を進めた。

遠目から彼の顔を見ると、やはり周りの視線が気になるのであろう。ものすごく切羽詰まった表情だった。

 

「えっと、織斑一夏・・・であってるよね?」

 

俺が話しかけた途端に彼の表情が一変、ものすごく安堵した表情になる。

 

「おう、あってるぞ。えっと、天加瀬・・・奏羅だっけ?」

 

「ああ、あってる」

 

「いやー、話しかけてくれてありがとな。正直この状況、だいぶキツくてさぁ・・・」

 

苦笑しながらも同意する。ここまで人の、しかも異性のの視線を浴びたのは生まれて初めてだし、人の視線をこれほど苦痛に思ったのも生まれて初めてだ。

 

「改めて自己紹介するよ。俺は天加瀬奏羅、よろしく」

 

「おう、俺は織斑一夏だ、一夏でいい。男子は俺たち二人だけだし、仲良くやっていこうぜ」

 

「そういってくれるのはありがたいな。俺も奏羅でいいよ」

 

よかった、これでこれからのことを考えても少しは気が楽になったと、一夏が旅の道連れになったことを喜んでいると、

 

「・・・ちょっといいか?」

 

突然、誰かに話しかけられた。振り向くと白いリボンが特徴的なポニーテールの女の子が立っている。

 

「・・・箒?」

 

どうやら一夏の知り合いらしい。教室では話しづらいのか、彼女は「廊下でいいか?」と尋ね、二人で廊下へ出て行った。クラスメイトは彼らが話している内容に興味津々の様子。まったく、女性は噂話が大好きっていうのはどこも同じなんだな。

 

・・・俺もあいつらが何話してるか聞きたいので文句は言えないが。

 

しばらくして二人は教室に入ってきた。

とりあえず素直に疑問をぶつけてみる。

 

「一夏、この子とどんな関係なんだ?」

 

「あー、こいつは小学校の頃の幼馴染なんだよ」

 

なるほど、俺でいう旭みたいな存在か。もっとも、目の前の凛とした女の子の性格と俺をからかってニヤつく旭の性格は絶対に似てはいないだろうが。

 

「えっと・・・」

 

彼女を見ながらあることを思い出す。SHRでの自己紹介で彼女の番は回っていない。つまり、今俺は彼女の名字がわからず、『箒』という名前しか情報を持っていない。

さすがに初対面で下の名前だけで呼ぶというのも失礼だ。どう呼んでいいかわからず、そこからの言葉に詰まってしまった。

 

「・・・篠ノ之箒だ」

 

どうやら俺の意図を汲んでくれたらしい。彼女から自己紹介をしてくれた。

 

「ありがとう篠ノ之さん。俺は天加瀬奏羅、よろしく」

 

「あぁ、よろしく」

 

彼女の苗字・・・いや今は聞くまい。第一、いきなりそういう質問をして、向こうは俺のことをずうずうしい奴だと思うかもしれない。

しかしこれで話せる人が増えた。下手をしたら三年間話せる相手が一夏だけだったかもしれないので、この出会いはラッキーだった。

しばらく三人で話しているうちに授業開始の合図がなる。いままで騒がしかった教室が静かになっていく。まぁあんな音を立てる威力の出席簿で頭を叩かれたくはないだろう。

 

その噂の鬼教官はと言うと

 

パアァン!

 

「とっとと席に着け、織斑」

 

また自分の身内の頭を叩いていた。

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「一夏さぁ・・・よく体張ってあんなボケをかまそうと思うよな。なんなの?殴られたいの?」

 

二時間目が終わり休憩時間、俺は一夏にさっきの授業での出来事につっこみを入れていた。

事の発端は二時間目の授業のこと。

 

一夏は授業のすべてがわからなかった。まぁ、いままで平凡な学生だった一夏が、周りのISについてしっかりと学んできた人たちと違うのはわかる。しかし、問題はそこではなかった。

 

「・・・織斑、入学前の参考書は読んだのか?」

 

という鬼教官・織斑千冬先生の質問に一夏は、

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

と答えたのである。もちろん出席簿で頭を叩かれていた。

 

「狙ったわけじゃねーよ・・・」

 

と一夏。俺には確信犯にしか思えないのだが。

 

「そういえば奏羅ってこういう授業は大体わかるんだよな?」

 

「まぁ一応、ISの設計者目指してるからな」

 

このくらいわからなかったら専門学校時代の俺は何もやってないことになるだろう。

 

「じゃあ、俺に勉強を教えてくれよ」

 

「いいけど・・・俺は理論的なことくらいしか無理だぞ。操縦に関しては素人レベルのお前と同じくらいだ」

 

「いや、それだけでいい。頼む」

 

まぁ断るのも可哀想な気もするので

 

「今度なんかおごってくれるなら」

 

この提案に一夏は同意、交渉は成立した。

 

「とりあえず寮の部屋はわからないから、まずは何時頃やるかだけど・・・」

 

と話を進めていると、

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

という声がした。

なんとなくデジャヴみたいなものを感じながら声のほうを振り向く。

そこには篠ノ之さんとは見た目が正反対の女の子、金髪で縦ロールのいかにも外国のお嬢様といった子が立っていた。

ここIS学園は世界で唯一のISについて学べる学園であるため、多国籍の生徒、いわゆる留学生を受け入れている。実際クラスの生徒の半分ぐらいは日本人で、その他の生徒は外国からの留学生である。

おそらく彼女もその一人なのだろう。

 

「お二人とも訊いてます? お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう要件だ?」

 

一夏が答えると彼女はわざとらしく、

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

と言い放ち、俺と一夏は呆気にとられてしまった。

 

「えっと・・・君ってそんなに偉い人なのか?」

 

と尋ねてみる。自己紹介で見たような見てないような気もするが、とりあえず覚えてはいなかったし、今回は一夏の知り合いというわけでもない。

すると彼女はこの問いが気に入らなかったのか馬鹿にしたような口調で、

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?」

 

と言ってきた。俺は国が保護という名目でこの学園に入れたので入試を受けておらず、どんな入試なのかはまるでしらないのだが、彼女は入試主席ということなので、どうやら学年のなかでは頭一つ出ている存在なのだろう。

 

「あ、質問いいか?」

 

と一夏。脈絡がなさすぎるだろうとつっこもう思ったが黙っておく。

 

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生ってなんだ?」

 

この言葉に聞き耳を立てていたであろう女子数名がずっこけた。まったく、賞賛に値する芸人根性だよ。まぁ、この状況でこの質問を出せる一夏も一夏だが。

 

「あ、あ、あ・・・あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

オルコットさん、今日初めて会った俺でもわかる。こいつはマジだ。

 

「おう。知らん」

 

案の定の答えだった。とりあえずドヤ顔をやめろと思ったが、やっぱりつっこむのはやめておく。

 

「・・・・・・」

 

オルコットさんはというと、怒りを通り越してあきれてしまったらしい。ぶつぶつとなにかつぶやいている。

 

「奏羅、代表候補生って?」

 

オルコットさんからの答えが期待できないと思ったのか、一夏は俺に聞いてきた。

 

「まぁ単語通りの意味で、国家代表のIS操縦者ってこと。ま、いわゆるエリート見習いだな」

 

「そういわれれば・・・なるほど・・・」

 

どうやら納得してくれたようだ。

 

「違いますわ! 『エリート』なのですわ!」

 

会話に復活する代表候補生。俺に向けた人差し指が、鼻にあたりそうだった。

しかも俺の言った『エリート見習い』をしっかりと『エリート』と強調して言い直している。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実を少しは理解していただける?」

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

「・・・お前って世渡り下手なのか?」

 

どう考えても馬鹿にしているような一夏の答えに思わずつっこんでしまった。「そんなことねぇよ」と一夏は言うが、今朝からのお前を見ているとそんなことないわけはないと思うんだが。

案の定一夏の返事は彼女の気に障ったらしい。

 

「・・・馬鹿にしていますの?」

 

とものすごい剣幕で俺たちを睨んでいた。

 

「だいたい、そちらのあなたはISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。世界で初めてISを使用した男と聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせると思いましたけど、期待はずれですわね」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

そこは俺も同意しておこう。俺たちはそんなに万能ではない。

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

「いや、今までのやり取りはどう考えても一夏に厳しい気がするがなぁ」

 

彼女の矛盾した発言に思わずつっこんでしまう。しまったと思いつつおそるおそる彼女のほうを見ると、案の定俺をすごい目つきで睨みつけていた。俺も一夏のことを言える立場じゃないな・・・

 

「あなたも、どうやら過去にISについての専門知識を学んでいたようですが、そんな知識などここ、IS学園では当たり前の知識ですわ! あまり調子に乗らないことですわね」

 

なんかだんだん面倒なことになってきたぞ・・・俺としては3年間トラブル無しで乗り切りたかったんだけどなぁ・・・

 

「あなた達がISのことでわからないことがあれば、まあ・・・泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

入試ってそんなことをやったのか・・・てっきりペーパーテストかなにかかと思っていた。

適正なんか見るためだとすると、後々俺も適性テストみたいなのがあるかもしれない。そう考えていると一夏が、

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 

と予想外なことを言い出した。これにはオルコットさんも驚いたようで、目を見開きながら、

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

と聞き返した。

 

「女子だけってオチじゃないか?」

 

ピシッ。という音が聞こえた気がする。いわゆる彼女が石になったってやつだろう。

 

「つ、つまり、わたくしだけではないと・・・?」

 

「いや、知らないけど」

 

見た目でわかるくらい彼女は相当焦っていた。

 

「あ、あなたはどうなんです!?」

 

今度は俺に向かって訪ねてくる。正直に言うと、俺は入試を受けていないのだが、彼女の反応がちょっとおもしろかったので、

 

「ああ、俺も倒したよ」

 

と嘘をついた。どうやらこの答えは効果抜群だったらしい。彼女は文字通り、開いた口がふさがっていなかった。

 

「ほんと!?ほんとなんですの!?」

 

「うん、まぁ。たぶん」

 

と適当に返しておく。どうやら彼女はだいぶ不安なようで、

 

「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」

 

と相当焦っていた。

 

「えーと、落ちつけよ。なっ?」

 

一夏がなだめに入るが、全然おさまる様子はなかった。そろそろなんとかしなければ。目の前の状況をどうするか、嘘をついてしまった負い目からいろいろ考えていると三時間目がはじまるチャイムに助けられる。

 

「っ・・・!また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

彼女の剣幕におされうなずいてしまう俺と一夏。正直よくはないのだが。

 

とりあえず、彼女よりも恐ろしい織斑先生が教室に入ってくる前に席に着かなければ。

しかし次の休み時間のことを考えるとどうも授業に集中できる気がしなかった。

 

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