IS学園にもう一人男を追加した 〜 30〜33話 |
30話
一夏SIDE
千 「今日から三日間、お世話になる『花月荘』だ。全員、従業員の仕事を増やすなよ」
全 「よろしくお願いしまーす!」
女将 「はい、こちらこそ、お願いいたしますわね」
全員での挨拶の後、女将さんが丁寧にお辞儀をし、挨拶を返してくれた。すると、女将さんと目が合う。
女将 「あら、こちらが噂の・・・」
千 「ええ、まぁ。今年は男子がいるせいで浴場の時間分けが難しくなくて申し訳ありません」
おお! あの千冬姉が丁寧に頭を下げてるぞ。
[ゲシッ]
一 「いつっ!」
女将 「どうしました?」
千 「気にしないで大丈夫ですよ。な、織斑」
[ゲシッゲシッ]
一 「だ、大丈夫です」
女将 「なら、いいんですけど・・・」
千冬姉の無言の圧力に押され、この足の痛みに堪えるために顔を引きつる。すると、今度は頭をぐいっと下げさせられる。
千 「ほら、挨拶をしろ、馬鹿者」
一 「お、織斑一夏です。よろしくお願いします・・・」
女将 「うふふ、ご丁寧にどうも。こちらもよろしくお願いします」
またもや、丁寧にお辞儀をする女将さん。そういえば、俺の周りにはこんな女性はいないよな・・・みんな過激だし
[ギロッ]×5
一 「[ビクッ!]」
な、なんだ・・・この殺気は・・・
女将 「そういえば、もう一人男子がいると聞きましたが・・・?」
千 「ああ、そいつなら・・・こいつです」
ぼけ〜っと立っている獅苑の首根っこを掴んで猫のように片手で持ち上げる。
獅 「ふわあぁん・・・ねむっ」
千 「ちゃんと挨拶をしろ」
持ち上げられたままペコッと頭を下げる獅苑。
バスの移動中、座席で のほほんさんの膝の上で爆睡していた。その滅多に見れない獅苑の姿にバスの中の生徒の目は釘付け。その中には山田先生と千冬姉もいたらしい。結局のところ、ここまでずっと眠り続け、千冬姉に寝ぼけたまま連れて来られたってワケだ。
女将 「あらあら、可愛らしいお方ですね」
千 「いつもはこんな感じじゃないんですがね・・・」
苦笑しながら答える千冬姉。
女1 「お姉さまにあんな一面があるなんて・・・」
女2 「でも、それがまたいい!」
女3 「あ〜、ナデナデしたいな〜」
後ろにいる女子多数が獅苑に向けて熱い視線を送っている。
女将 「それでは、お部屋へどうぞ。場所が分からなかったら従業員に訊いて下さいまし」
全 「はーい!」
女子全員が一斉に動き出す。すると、のほほんさんが俺達の元に走ってくる。
本 「ねぇねぇ、オリムー達の部屋ってどこなの〜? 一覧にも書いてなかったよ〜」
動き出していた女子達が全員、聞き耳を立てる。
一 「いや、俺も知らないぞ。廊下でも寝るんじゃないか?」
さすがに俺達が男だからといってそこまでしないと思うが、冗談半分で言ってみる。
本 「あ! それ気持ちよさそうだね〜・・・でも、それじゃ、ギリーが風邪引いちゃうかもしれないし、添い寝してあげないとね〜」
一 「そうだな。せっかく海に来たのに風邪引いちゃったら勿体無いもんな」
全 「・・・」(話がかみ合ってない・・・)
あれ? なんで、皆黙り込むんだ? のほほんさんは相変わらず、のほほん〜っとしてるし・・・?
千 「織斑、何を遊んでいる。お前はこっちだ。あと、こいつを運んでやれ」
持っていた獅苑をこちらに乱暴に渡す。俺はしかたなく獅苑を背中に乗せ、のほほんさんと別れた。別れる前にのほほんさんが
本 「ちゃんと、送ってあげてね♪」
一 「お、おう」
そのまま、友達の元へ走っていく。かなり遅いけど・・・
まぁ、そんなこんなで旅館の廊下を移動中
獅 「・・・ねむい」
一 「はいはい、ねむいですね〜」
(つか、獅苑って結構軽いんだな。そんでもって、あんなに強いなんてな・・・)
千 「・・・ここだ」
千冬姉が立ち止まり、俺も動きを止める。
一 「あの、ここは?」
千 「見れば分かるだろ。教員用の部屋だ」
連れて来られたのは襖に【教員室】と書かれた紙が張られている部屋。
千 「本当はお前と朝霧を同室にさせようとしたのだがな。そうすると、必ず女子達が騒ぎ出すだろ」
一 「・・・確かに」
千 「それで、お前は私と同室になった。朝霧は山田先生とだ」
そう言って隣の部屋を指を指す。すると、山田先生がその部屋から出てくる。
真 「あ、織斑先生に織斑君」
千 「ちょうど良かった。山田君、朝霧をそちらの部屋に運んでくれるか」
真 「は、はい」
そして、獅苑を山田先生に渡す。一応、山田先生は日本代表候補生だった時期もあるため、余裕とまでは言わないが、獅苑を背中におぶる。そのまま、獅苑を部屋に運んでいった。
千 「おい、早く入れ」
一 「は、はい」
真耶SIDE
真 「よいしょっと」
そっと、朝霧君を壁際に降ろし、身支度を済ます。
獅 「・・・」
朝霧君はずっと、遠くを見ているようで、ぼ〜っとしている。
(バスでも見てたけど、こうして見るとやっぱり女の子みたいですね)
ペディーベアのように座り、時折、首をコクッと今にでも眠ってしまいそうだ。
真 「・・・えいっ」
[ふにっ]
朝霧君の頬に突く。すると、程好い肌の張りが指先から伝わってくる。朝霧君は嫌そうな顔をするものの、眠りの誘いの方が強いのか反抗はしてこない。私は調子に乗って、何度も何度も指で突く。
(はあ〜、私も弟がほしかったな〜。織斑先生はいいな・・・)
獅 「・・・ん?」
真 「!?」
朝霧君が何かに目覚めた感じがしたため、急いで身を引く。
獅 「ふわあぁ・・・おはようございます」
真 「え、あ、おはようございます」
突然の挨拶に戸惑うが何とか返す事が出来た。朝霧君は目を擦り、壁に手をつきながら立ち上がる。
獅 「えっと、ここは?」
真 「ここは、教員用の部屋です。ここで私と一緒に寝泊りする事になってます」
獅 「そうですか」
そう言って、部屋の周りを見渡し、自分の荷物を見つけて身支度を開始する。
真 「え、えと、私、織斑先生に用があるので失礼しますね。あと、もう海へ行って大丈夫ですから」
獅 「分かりました」
この空気に耐え切れなくなり、用事のついでに部屋から出る。
(朝霧君って良く分からない子・・・)
獅苑SIDE
(そういえば、どこで着替えればいいんだ?)
まぁ、聞けば分かるか・・・という考えの下、水着を持ち、部屋から出る。
一 「お!」
ちょうど、同じタイミングで部屋から出てきた一夏と遭遇し、一夏が俺の横に並ぶ。
一 「お前も海に行くのか」
獅 [コクッ]
まだ眠気が残っているため、声を出したくない。だから、首を縦に振った。
一 「じゃあ、行こうぜ!」
ぐいっと俺の手を引いて小走りする一夏。
(なんか子ども扱いされてる気が・・・ま、いっか)
一夏にさるがまま、引っ張られ、おそらく別館への渡り廊下であろう場所まで移動する。すると、箒が立ち尽くしている。
一 「箒、どうし、た・・・」
獅 「・・・」
箒が見ていた箇所を見て、一夏同様、固まってしまった。
獅 「・・・耳?」
庭の土からひょこっとウサギの耳らしき者が生えている。その耳はリアルなものではなく、メタリックな構造をしていた。
一(箒 「箒、これって「知らん。私には関係ない」・・・」
一夏が言い切る前に歩き去ってしまう。
一 「なぁ、どうする?」
獅 「・・・俺に聞くな」
だよな〜っと一夏は肩を落とし、そのウサ耳を思いっきり引っ張る。すると、その耳は簡単に土から抜け、思いっきり引っ張った一夏は盛大にすっ転ぶ。
獅 「大丈夫か?」
一 「あ、ああ」
手を差し伸べ一夏を立たせる。
獅 「それ、なんなんだ?」
一 「これは・・・」
一夏が説明に困っていると、何かが高速で近づいてくる。そして上空からミサイルのごとく、何かが降ってきた。
獅・一 「・・・にんじん?」
降ってきた物は馬鹿でかい人参。その人参は庭に突き刺さり、周りはその衝撃で波紋のように跡が残っていた。
? 「あっはっは! 引っかかったね、いっくん!」
人参が真っ二つに割れ、中からおとぎの国らしき人物が出てくる。
一 「お、お久しぶりです。束さん」
獅 「・・・」
束さん? もしかして、この人が篠ノ之束さん?
束 「うんうん、ほんと久しいね〜。ところでいっくん、箒ちゃん知らない? さっきまで一緒だったよね」
一 「えーと・・・」
息詰まった一夏がこちらに助けを求めてきたが、俺はそれを全力で無視する。すると、篠ノ之束は一夏が引っこ抜いたウサ耳を手に持つ。
束 「まぁいいや。この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ。またね、いっくん!」
ウサ耳がダウジングのようにピンッと一点の方向を向いて、その方向に砂煙を起こして去っていった。
獅 「・・・一夏、今のって」
一 「ああ。あの人が篠ノ之束さん。箒の姉さんだ」
獅 「ふーん」
一 「・・・驚かないのか?」
別に驚く事じゃないだろ。なんとなく、想像はできてたし。
獅 「ほら、いくぞ」
一 「あ、待てよ、獅苑!」
一夏SIDE 【場所は変わって海】
真 「今、11時でーす。夕方までは自由行動。夕食に遅れないよう旅館に戻る事。いいですね!」
全 「はーい!」
返事した途端によほど楽しみにしていたのだろう、水着を着た女子達(のほほんさん以外)が海に走り出す。
鈴 「いーちーかっ!」
一 「のわっ!?」
準備体操をしていたら、鈴が俺に飛び乗ってきた。まるで、猫のように・・・
鈴 「おー、高い高い」
一 「おい、鈴、降りろ! つか、ちゃんと準備体操しないと。溺れたらどうするんだ!?」
鈴 「私が溺れるわけないでしょ・・・それにしても、一夏に乗ると遠くの海まで良く見えるわ〜」
獅 「背が低いからだろ」
獅苑! それは禁句だ!
鈴 「なんですってー!」
俺から飛び降りて、バトルスタート。鈴の拳や蹴り、その激しい攻撃を避けた獅苑は鈴の頭を掴んで、鈴の攻撃は獅苑には届かず、すぐにバトルは終了する。だが、鈴は諦めず、手や足をバタバタさせるが、まったくの無意味。だが、それでもずっと腕を振り回し続けた。
一 「っていうか、獅苑。どうしたんだ、その着ているやつ?」
本 「ほんとだ〜」
相 「あれって、ライフセイバーが着てそうな奴だね」
相川さんが言ったとおり、獅苑はなぜかオレンジのジャケットを着ている。ちなみに下は膝まであるサーフパンツで、色は黒。
獅 「ああ、これか」
片手でジャケットをつまんで、もう片方の手で鈴の頭を掴んでいる。相変わらず、獅苑のどこにそんな力があるのやら・・・鈴もだけど
獅 「水着に着替えて、旅館から出たら着せられた」
一同 「・・・」
さっきまで暴れていた鈴も固まる。あれだろ、女に間違えられて慌てて着せられたってやつだろ。
全員もその事には気づいてるようで、深くまで追求しようとはしなかった。
セ 「一夏さん! 何をそこで固まっていますの!」
ぶすっとパラソルを刺すセシリア。
セ 「まさか、バスの中で約束してくださった事を忘れていませんですわよね」
セシリアはそう言うとパラソルの日陰にシートをひいて寝そべる。上の水着の紐を結わいて水着はシートとセシリアに挟まれるただの布切れと化す。
セ 「さぁ、一夏さん。お願いいたしますわ」
鈴 「あ、あ、あんたは一夏に何をやらせる気よっ!」
セ 「見てのとおり、サンオイルを塗って頂くんですわ。レディーとの約束をたがえるなど紳士のする事ではありませんわよ」
一 「わ、分かった」
ここまで言われちゃ引き下がるわけにはいけない。俺はサンオイルを手に塗り、ギャラリーからの視線の中、覚悟を決める。
[ピタッ]
セ 「ひゃ! 一夏さん、塗るときは手を温めてからでありませんと・・・」
一 「す、すまん! こういうのは初めてで・・・」
セ 「は、初めてですの・・・それでは、しかたありませんね」
鈴 「・・・なんで、うれしそうなのよ、あんた」
改めて、手を暖め、再挑戦。
セ 「ん・・・その調子ですわよ。一夏さん・・・」
一 「お、おう」
(うわ、セシリアの肌、すげぇスベスベしてる)
気持ちの良い感触に意識を集中させていると、ギャラリー達の頬が赤くなっている。
相 「気持ちよさそう・・・」
鏡 「なんか、こっちまでドキドキしてきた」
本 (わ、私も獅苑くんにやってもらおうかな〜?)
獅 「・・・?」
一人だけ、この状況を理解してない野朗が一名。だが、ここに説明うぃしてくれる人をおらず、獅苑はただただ首を傾げていた。
セ 「い、一夏さん。そろそろ、下の方も・・・」
え? 下って・・・もう背中は全部やったんだけど。
一 「背中だけでいいん、だよな・・・?」
セ 「い、いえ、この際、手の届かない所もお願いいたしますわ。脚とか、その、お尻とか・・・」
一 「うえ!?」
それはまずい、それはまずい! さすがにお尻を触るなんて俺にはとても・・・だが、そこに救いの手が
鈴 「はいはい、あたしがやってあげる」
セ 「ちょ、鈴さん!」
ワキワキと指を動かし、セシリアの要求どうりに脚やお尻にまでサンオイルを塗りだす鈴。
セ 「鈴さん! もういいかげんに!」
鈴 「ちょっと、セシリア!」
全 「あ・・・!」
頭にきたセシリアは上半身を起こし、鈴は距離をとる。だが、今のセシリアは水着を外している状態。もちろん、あれが丸見えなワケで・・・
セ 「きゃ、きゃああっ!!」
一 「うがぁ!」
セシリアは腕にISを展開。その腕で俺だけを吹っ飛ばす。
(なんで、俺だけ・・・獅苑も一応、男だぞ・・・)
獅 「・・・一応ってなんだよ?」
【3分後】
セシリアにしばかれた後、俺は頭を冷やすため、鈴と一緒に海に入っているのだが・・・
一 「納得できない」
結局、まったくの効果なし。
鈴 「まだ言ってるの?」
そりゃ言うだろ。確かに獅苑は男とは思えないほどの顔立ち。そして、バスの中の出来事や仕草。どれもこれも、女にしか見えないだろうけども、俺だけがしばかれる事に納得ができない。
一 「それに、鈴だって悪いんだぞ」
鈴 「もういいじゃない。だったら、あそこのブイまで先に着いたらジュース奢ってあげるわよ」
一 「その言葉、忘れるなよ!」
鈴 「じゃあ、よーいドン!」
いきなり、スタートする鈴。距離的にも鈴の方がブイに近く、圧倒的に鈴の方が有利だった。
(鈴の奴、勝たせる気ないだろ・・・!)
俺も全力で泳ぐがすでに鈴の姿はない。おそらく、波の影響を受けないように水中で泳いでいるんだろう。
(なら、俺も・・・)
息を吸って水中に潜るとそこには美しい空間が広がっていて、とても神秘的な光景が広がっている。だが、その光景に海底に沈んでいく人影が・・・
(鈴!?)
やはり、準備運動しなかったのが悪かったのか、海水を飲んで、意識が朦朧(もうろう)としている鈴を抱き上げ、海面へ。
一 「おい、鈴! 大丈夫か!」
鈴は少し、咳き込みながらも大丈夫と返してくれた。とりあえず、今は砂浜に戻る方がいいと考えた俺は鈴を背中に乗せる。
鈴・一 「ちょ、ちょっと! ここまでしなくても大丈夫「鈴」・・・分かったわよ」
鈴の体が俺の背中に乗っかる。鈴の口に水が入り込まないように砂浜を目指す。
鈴 「ありがと・・・」
一 「なんか言ったか?」
鈴 「な、なんでもないわよ! もうここで降ろして! 後は自分で歩けるから!」
一 「そ、そうか。じゃあ、降ろすぞ」
いきなり怒り出した、鈴に戸惑いながらも静かに鈴から手を離す。すると、なぜか鈴を連れ去っていくセシリアと鷹月さん。連れ去られている最中、鈴が俺に助けを求めた気がしたが、気のせいだろう。
シ 「あ、一夏。ここにいたんだ」
海から上がるとそこにはシャルと・・・
一 「なんだ? そのバスタオルお化け」
バスタオルがグルグル巻きにされ、まさにミイラが直立でシャルの隣にいた。
シ 「ほら、ラウラ。せっかく水着に着替えたんだから、一夏に見てもらわなきゃ」
ラ 「ま、待て! 私にも心の準備というものがあって・・・」
もしかして、ラウラなのか? このミイラは・・・
シ 「ふうん。だったら、僕だけ一夏と遊んじゃうけど、いいのかな〜?」
ラ 「そ、それは駄目だ・・・えぇい!」
シャルは小悪魔のような笑みを零しながら言うと、ラウラはバスタオルを引っぺがす。
ラ 「・・・笑いたければ笑うがいい」
顔を赤くして照れてるラウラを見て、ドキッとしてしまった俺を誰が責められよう。
シ 「どこもおかしいところなんてないよね、一夏?」
一 「おう、可愛いと思うぞ」
ラ 「かわっ・・・!」
プシューっとラウラの頭に煙が出る。
獅 「・・・」
なぜか、その様子をケータイの録画機能で撮っている獅苑。ちなみに、まだジャケットを着ている。
一 「何してるんだ?」
獅 「・・・記録」
いや、それぐらいは分かるんだけど・・・
鏡 「織斑君ー!」
谷 「ビーチバレーしよー!」
ボールが投げ渡され、向こう側から気合がこちらにも伝わってくる。
一 「獅苑も入れれば4人だけど・・・」
シ 「ラウラはできそうにないね」
ラウラの方を見ると、顔を赤くしたまま獅苑に支えられている。
(日光にやられたか・・・?)
シ 「獅苑君もやるの?」
獅 「そういう流れみたいだからな」
ラウラを日の当たらないパラソルに寝かせ、軽く体を動かし始める。
本 「ギリーもやるなら気合入れないとね〜!」
そう言って、着ていた着ぐるみを脱ぎだす。すると、周りの視線がのほほんさんに向く
本 「あ、あれ? どうしたの〜」
谷 「いや〜・・・」
鏡 「なんというか〜・・・」
一 「・・・」
シ 「・・・一夏、見すぎ」
獅 [ギロッ]
シャルが変な事言うから、獅苑が睨みつけてきたぞ。すっげぇ、怖いんだけど!
谷 「じゃ、じゃあまぁ、始めるよー!」
谷本さんのサーブから試合スタート。
シ 「まかせて!」
一 「よっしゃ! 獅苑、頼むぜ!」
シャルがレシーブ。俺がトスをして、ボールは獅苑の方に上空から向かっていく。
獅 「・・・」
獅苑はなぜかコートの方に背を向け、高くジャンプ。
全 「は・・・?」
くるっと縦に半回転した獅苑の足がボールに触れ、相手コートの砂浜に深い穴を作る。
全 「・・・」
獅 「ふぅ・・・」
一 「いや、ふぅ、じゃねぇよ! なんで、ビーチバレーでオーバーヘッドキック!?」
だが、獅苑は首を傾げる。
獅 「・・・? こんなんじゃなかったか?」
全 「・・・」
二度目の沈黙。獅苑って以外と常識を知らないんだな・・・
一 「とりあえず、蹴りはなしだ!」
そうでもしないと死人が出そうだと、砂浜がああなったように、人の体に風穴が空く事を想像し、体がブルッと震えた。
谷 「じゃ、じゃあ、そっちのサーブで!」
シ 「よし! じゃあ、行くよー!」
ポンッとボールが相手コートまで・・・というか、のほほんさん目掛けて
本 「え、えと、えと」
着ぐるみを着ていなくてもオドオドするのほほんさん。ビビリながらも腕を前に出すと、運よくボールは空高く打ちあがる。
本 「わーい♪」
鏡 「ナイス、レシーブ」
鏡さんがそのままスパイスを決め、それをシャルがレシーブするが、ボールは海の方へ飛ばされていく。
鏡 「やった!」
だが、
一 「おい、獅苑!」
獅苑はボールが飛んでいく方角へダッシュ。そして、海際の手前に跳躍して今度は足ではなく手首で器用に相手コートの線ギリギリに落とした。
[ザッバーン!]
でもまぁ、獅苑は海に頭から落ちるわけだが・・・
獅 「ごほっごほっ!」
本 「ギリー、大丈夫?」
獅 「鼻に・・・水が・・・」
ああ、痛そうだな・・・
真 「ビーチバレーですか。楽しそうですね」
シ 「あ、先生も一緒にやりますか?」
真 「ええ。いかがですか? 織斑先生?」
一 「!」
千冬姉の登場に周りがザワメキ始める。
谷 「すごい、モデルみたい!」
鏡 「かっこいい〜」
一 「・・・」
獅 「・・・鼻伸びてるぞ」
一 「!?」
獅苑から指摘され、鼻を隠すものの、獅苑はニッと笑い、のほほんさんと一緒に先生方と交代する。ちなみに山田先生がこちらで千冬姉は相手コートだ。
シ 「・・・もしかして、一夏ってさ。織斑先生みたいなのが好みのタイプなの?」
一 「な! 何言ってるんだよ!」
シ 「だってさ、ずいぶん反応が違うんだもん。僕達の水着を見た時と」
一 「そんな事ないけどな・・・」
腕を組みながら言ってきたシャルの言葉には自覚は本当にない。確かに千冬姉は綺麗でかっこよくいいけどさ・・・
シ 「はぁ、ライバル多いな〜・・・そこに、織斑先生が入ってくるなんて・・・」
一 「ああ、千冬姉は強敵だ。油断せず行こうぜ」
シ 「・・・一夏、たぶん、勘違いしてる」
うん? 何を勘違いしてるんだ? 千冬姉はどっからどう見ても強敵だろうに・・・おかしな奴だな。
獅苑SIDE
(おかしな奴はお前だよ、一夏)
ビーチコートから離れた場所に腰をおろす。本音も俺の隣に座り、ビーチバレーを観戦する。
獅 「・・・やっぱり、すごいな。織斑先生」
強烈なスパイクを決め続ける織斑先生を見て、そう思う。
本 「でも、ギリーもすごかったよ〜・・・そ、その、最後のなんか・・かっこよかったし・・・」
獅 「そ、そうか。ありがとう」
その時、織斑先生のスパイクが決まり、歓声が響く。
獅 「簪は来なかったな・・・」
本 「うん・・・残念だね・・・」
獅 「・・・じゃあ、今度一緒にでも外に出かけるか」
本 「あ! いいね〜いいね〜。じゃあ、どこにしようか〜!」
ワイワイと行き先を考える本音を見ながら俺は微笑む。
(・・・そういえば、いないといえば箒もいないな・・・どうしたんだろう?)
31話
獅苑SIDE
楯 『で、どう? 臨海学校1日目は?』
風呂から出た時、楯無さんからの電話があった。どうせ大した用事もないただの時間つぶしだろう。
獅 「案外、楽しいですよ」
楯 『そうなんだ。あ〜あ、私も行けたらな〜』
いや、あなたは去年来たでしょ、ここに・・・
獅 「そっちはどうです?」
楯 『こっち? こっちは肩身が狭くて仕方ないわ。早くそっちに戻りたいぐらいよ。でも、もうすぐ、ミステリアス・レイディも完成しそうだし、その時はもう一度、戦ってね』
獅 「はい、こちらこそお願いします」
楯 『あ、それと、虚ちゃんから聞いたけど、お菓子を食べれる日を楽しみにしてるからね♪』
ブツッと電話が切れる。
(また楯無さんと戦えるのか・・・楽しみだな〜)
初めて戦って以来、一度も手合わせはしていない。っていうか、手合わせをやる機会がなかっただけだけど・・・
本 「あ、ギリー!」
頭にタオルを被せ、着替え室を出ると、ちょうど本音と出くわす。風呂上りだろうか、狐の髪留めを外し、髪はストレートになっていて、ポカポカと体が火照っている。その本音が俺を見つけた途端、胸にダイブ。一応、ここは公共の場なのか、本音はあだ名で俺を呼ぶ。
本 「ギリーも今、上がったんだね〜」
獅 「ああ・・・」
そう答えると、本音は俺に抱きついたまま、目を瞑り、顔を上げる。。俺はこれがキスの誘いだと分かっていたが、さすがにここでは・・・ねぇ〜
獅 「・・・ちょっとこっちに」
本 「え・・・?」
本音の手を引いて、男子の時間帯である温泉の着替え室に入る。
IS学園の生徒職員が使える温泉は二つ。その二つでクラス毎に入る時間が分けられ、男子と1組は最後の方になった。つまり、一夏が先に入った形跡がある以上、時間割の入浴時間を過ぎる前ならここには誰も来ない。
本 「ぎ、ギリむぐっ!」
着替え室の端っこまで連れて行き、強引に唇を奪う。その瞬間、俺の手元からケータイが落ちて、その音が着替え室に響く。
獅 「ん・・・今は名前でいい」
本 「う、うん・・・獅苑くん」
もう一度、唇を合わせ、これまでの会えなかった分を補うように・・・だが、そこに
一 「忘れ物〜、忘れ物〜」
獅・本 「!?」
一夏がのれんを潜り、着替え室に侵入してきた。俺達は一番奥の端っこにいたため、入って早々目撃される事はなかったが、さすがにこの状況はマズイ。
本 「ねぇねぇ〜、もしかして・・・あれ?」
小さな声で伝えてくる本音が指を指したほうを見る。そこには籠にバスタオルが放置されていて、俺達のすぐに近くに置いてあった。
一 「ありゃ? この辺じゃなかったっけ?」
(このままじゃ・・・)
一夏なら見つかっても、この事は黙ってくれるだろうけど、この事自体、見つかるのがすごく恥ずかしい俺にとっては何とか回避したい。
一 「お! 見つけた」
一夏の足音がだんだんと近づいてきて、俺は後ろの浴場の入り口が目に入る。
獅 「悪い。ちょっと、入っててくれ」
本 「おっとっとっとっ」
本音を無理矢理、押し込んで、その瞬間に一夏が俺と目が合う。
一 「なんだ、獅苑。今上がったのか?」
獅 「あ、ああ」
冷静を装い、なんとか、誤魔化すが・・・
[カランッ]
一・獅 「え?」
浴場の方から何かが落ちる音が響き、一夏が反応する。
一(獅 「一体なんだ? ちょっと様子を見に「ど、どうせ、桶が落ちただけだろう。後で俺が直しておく」・・・いや、でも」
獅 「大丈夫だから」
一 「そ、そうか。じゃあ頼む」
強く言い放つと一夏は引き下がって、着替え室から出る。
[ガラッ]
本 「ご、ごめんね〜」
獅 「いや、謝るのはこっちだ。それより、怪我はないか?」
本 「うん。それは大丈夫だよ〜」
良かったと思いながら、浴場の中を見ると、やはり桶の山が崩れ落ちていた。無理矢理、本音を押し込んだせいで、桶にぶつかってしまったんだろう。
獅 「じゃ、戻るか」
本 「あ、待って」
俺の腕を掴んで、引き止める。
獅 「どうした?」
本 「えと、その、ね・・・一緒に入らない?」
・・・はい?
獅 「風呂に、か?」
本 「その、嫌な汗かいちゃったから・・・だめ、かな〜」
やめろ! そんな目をウルウルさせてこちらを見ないでくれ。これじゃ、断れるわけがないだろ!
獅 「・・・いい、けど」
本 「そう、か〜。じゃあ〜、早速入っちゃおう!」
獅 「!?」
俺の前でいきなり脱ぎだし始め、俺は急いで後ろを向くが・・・
本 「大丈夫だよ〜・・・ほら〜」
獅 「・・・水着か」
今日着ていた水着を浴衣の下に着ていた。その事が嬉しいのやら、悲しいのやら・・・
獅 「よく着てたな」
本 「うん! 汚れてないし、海にも入ってないし、それに・・・獅苑くんと一緒に買ったものだから・・・」
気恥ずかしそうに言う本音に心臓の鼓動が跳ね上がる。
獅 「そ、そうか・・・///」
本 「えへへ〜、獅苑くんって照れるといつも「そうか」だよね〜。昔はいつも怒って誤魔化してたのに」
さすがにこの歳でいつも怒るわけにはいかないでしょう。
獅 「ま、いいや。じゃあ、入るか」
本 「お〜!」
俺も浴衣の帯を解き始めるが・・・
獅 「・・・で、俺は何をつけて入ればいいんだ?」
本 「あ・・・」
結局、俺だけタオル一枚で背中を流される事になった。
(タオル一枚でも、恥ずかしいな。これは・・・)
投稿者SIDE
セ 「♪〜」
シャワーを浴びたセシリアはなぜか上機嫌で廊下をウキウキ気分で歩いている。
セ (ああ、もしかしたら・・・もしかしたらと、用意してた甲斐がありましたわ)
まさかの一夏から「俺の部屋に来てくれ」とのお誘いに自分が身に着けた下着をチラッと浴衣のすそから覗く。その下着はいわゆる大人の女性が身に着けてそうな黒の下着。つまり、勝負下着。
セ (確か、この辺だと思いますけど・・・ん?)
教員用の部屋を目指し、やっと目的地に着いたのだが、そこには女子4名、箒・鈴・シャルロット・ラウラが障子に耳を当て、神妙そうに何かを聞いている。
セ 「何をしていますの?」
鈴 「し〜〜・・・」
口に指を当て、静かにするように促し、その後に自分も聞いてみろと指で合図をする鈴。そのジェスチャーを理解したセシリアは皆と同様、障子に耳を当てる。
一 「千冬姉、久しぶりだから、緊張してる?」
千 「そんなわけあるわけないだろ、馬鹿もん・・・あっ、少しは加減をしろ・・・」
一 「はいはい・・・じゃあ、ここは?」
千 「なっ! そこはっ、や、やめ・・・」
一 「すぐに良くなるって。大分溜まってたみたいだから・・・」
ピンクの桃源郷がかもし出す姉弟の会話に一同は顔を赤くする。
セ 「な、な、一体、なんですの?」
セシリアが問いかけても返ってくるのは沈黙。セシリアの疑問は解決できず、中の会話を良く聞こうと、さらに障子に耳を押し付ける。
[ガコンッ]
全 「え・・・!?」
襖が鴨居から外れ、5人とも豪快に部屋めがけて転倒。
鈴 「ちょっと! 何してくれてるのよ!」
セ 「わたくしのせいだとおっしゃいますの!?」
箒 「お前が体重をかけなければ、こんな事にはならなかった!」
シ 「って、今はケンカしてる場合じゃないんじゃない?」
ラ 「あ、教官・・・」
全 「え・・・!?」
目の前には腕を組む鬼の姿。
千 「どうやら、今年の一年は元気が有り余ってるようだな・・・座れ」
全 「は、はい!」
(投稿者SIDE)
結局のところ、勝負下着の出番はなく、千冬による説教と、一夏の事についてどこが好きなのか、などを聞かされた。
獅子が大浴場でむふふ〜を体験している事も知らないで・・・
投稿者SIDE 【翌日】
合宿2日目。今日は1日目のようなお遊び気分とは違い、朝から夜まで丸一日、ISの各種装備試験運用データ取り。特に専用機持ちは本国から届けられた新装備の運用データを取る。これこそが、この臨海学校の本当の目的であるため、1年生全員はISスーツ着用の下、ズラリと並んでいる。場所は四方を崖が囲み、毎年使われているIS試験用のビーチだ。
千 「・・・時間切れだ」
いくら時間が経っても、来ない生徒が一人。
真 「お、おかしいですね? 私が起きた時には布団が畳まれていたから、もうここに来たと思ったんですけど・・・」
千 「まぁ、しかたがない。あとで雑用でもやらせるとしよう。それでは、各班ごとに振り分けられたIS装備試験を開始しろ。モタモタしていると夕食は抜きだ、迅速に行え」
はい! と、気合の入った返事を返した1年生達は班ごとに別れ、打鉄やラファール・リヴァイブを装着し、試験を始める。
千 「専用機持ちは私と来い。山田君は各班のフォローを」
真 「はい!」
千 「あと、それから、篠ノ之。お前も来い」
箒 「分かりました」
真耶は各班を見て回り、専用機持ち+箒は千冬の後についていき、皆と少し離れた場所に集める。
鈴 「あ、あの、織斑先生?」
千 「なんだ・・・?」
千冬の圧力に鈴は少し怯むが、めげずに話を続ける。
鈴 「え、えっと、箒は専用機持ちじゃないはずじゃ・・・」
千・束 「ああ、それなら、今からはな「ち〜〜〜ちゃ〜〜〜ん〜〜〜〜!!!」・・・はぁ」
崖をスキーのように滑り降りてきて、地面の手前で跳躍。その着地地点の千冬に手を広げ、突っ込む。
[ガシッ!]
束 「はぎゃ!」
だが、ぶつかる手前に千冬のアイアンクローが束の顔を捉え、束は悲鳴の声を出すものの、すぐにケロッとした声に戻る。
束 「相変わらず、容赦ないアイアンクローだ、ね!」
千冬の拘束から難無く抜け出し、今度は妹の箒の元へ。
束 「やあ!」
箒 「・・・どうも」
束 「久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ? 見ない間に大きくなったね箒ちゃん〜・・・特におっぱいが」
手をワキワキ動かしながら近づいてくる束を箒はどこから出したのか、木刀で殴る。
箒 「殴りますよ」
束 「殴ってから言ったぁ、箒ちゃんヒド〜イ・・・ねぇ、いっくんもヒドイよね〜?」
一 「は、はぁ〜・・・」
千 「おい、束。自己紹介ぐらいしろ」
向こう側でデータを取っていた女子達の視線が束に集中していた。もちろん、こちらの箒以外の女子4人も・・・
束 「え〜、めんどくさいな〜・・・私が天才の束さんだよ〜。はろ〜、終わり〜」
短い自己紹介。だが、その自己紹介でも皆にも伝わった。
真 「ええぇ! この人があの篠ノ之博士!?」
様子を見に来た真耶がいの一番に驚く。真耶の言葉にやっと束の正体に気づいた1年生達はざわめき始める。
千 「おい、1年。手を止めるな。こいつの事は無視してテストを続けろ」
真 「あ、あの、私はどうすれば・・・?」
千 「山田君もこいつの事は無視して構わない。さっきと変わらず、各班のフォローを頼みます」
真 「わ、分かりました」
束 「むむっ・・・」
千冬が真耶に対して優しく接してるのを見て、少しジェラシーを感じている束。すると、今まで束を避けていた箒がためらいながらも束に話しかける。
箒 「それで、頼んでいたものは・・・?」
束 「うっふっふ、それならもう準備万端だよ。さぁ! 大空をご覧あれ!」
指を頭上を指し、皆が空を見上げる。すると、何らかの影がこちらに近づいてきて・・・
一 「のわっ!」
激しい衝撃と共に、ちょうどIS一機ぐらいの大きさで銀色でクリスタル状の何かが落ちてきた。すると、その塊の中身があらわになる。
束 「じゃじゃーん! これが箒ちゃんの専用機『紅椿』! このISは私がお手製に作った第4世代機なんだよ!」
第4世代機という言葉に千冬以外の面々は驚く。現段階ではだいたいの国は第3世代機の実験機が作られているこの時期に、まさかのさらに上のISの登場で代表候補生はさらに面食らう。
束 「さぁ、箒ちゃん! 今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」
ぴっ、と手に持っていたリモコンを押すと、操縦者を受け入れる体制になる紅椿。箒は紅椿の前に立つ。
箒 「これが、私の・・・」
紅椿に乗り込むと箒を包むように装甲が元の状態に戻る。紅椿に数十本のチュープに繋がれ、束は空間投影されたキーボードを物凄い速さで打っていく。
束 「はい。フィッティング終了〜。超早い、さすが私! あとは、自動処理に任せておけば、パーソナライズは終了だよ・・・じゃあ、次はいっくんの番!」
ビシッと指を一夏の方に向け、少しだじろぎながらも、なんですかっと答える一夏。
束 「白式を見せてよ? 私はそれに興味心身だよ」
一 「は、はい」
一 (・・・来い、白式)
一夏が左手を右腕のガンドレッドに乗せ、念じるとガンドレットは光輝く。一般平均的には遅い展開だが、白式は一夏を包むように装着される。
束 「データ見せてね〜っと・・・・・・ん〜、不思議なフラグメイトマップを構成してるね。見たこともないパターンだし、やっぱり、いっくんが男の子だからかな?」
白式展開後、束は一本のチューブを白式に差し込んで、出現した空間投影の内容を目で追う。そのデータを見て、感想を零しながら、キーボードを打っている手は止まらない。
一 「束さん。なんで俺達がISに乗れるんですか?」
俺達には獅苑の事も入っている。だが、ISの生みの親でもある束自身も分からないと空間投影に出た画面を見ながら言う。
束 「いっくんをナノレベルまで分解して、調べれば分かるかもしれないけど・・・どうする?」
一 「いい訳ないでしょ・・・」
束 「にゃはは、そう言うと思った・・・でも、もう一人の子は分かったよん♪」
一 「本当ですか!」
全員が束の次の言葉に耳を傾ける。遠くにいた女子達のISを使ってこちらの声を盗んでいた。
束 「・・・」
全 「・・・」
束 「・・・さぁて、パーソナライズは終了したかな〜」
体に力を入れていた人が束の言葉にその力が違うところに向いて、ズサーっと滑った人もいれば、コテッと転びそうに人がいた。
束 「あれ? どうしたの?」
一 「いえ、なんでもないです・・・」
束 「まぁ、いっくんもその内分かると思うよ。ISは自己進化するように設計されてるから」
つまり、いつかはIS自身が教えてくれる事に千冬以外の面々は気づいていない。
束 「さぁて、箒ちゃん! 試運転を兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
箒 「ええ。それでは試してみます・・・」
目を瞑り、意識を集中させる。すると、紅椿は徐々に足が地上から離れていき、次の瞬間、一気にすさまじいスピードで飛び立つ。
シ 「これが第4世代機の加速・・・」
だが、死戔の加速見ている者達にとっては、その加速スピードは見慣れたものだ。ただ、死戔の方が人体にかなりの負荷があるため、現時点で紅椿は性能と安全性に優れた機体と呼べるだろう。
束 「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ」
箒 「ええ、まぁ・・・」
ちなみに、この会話は束が開いた開放回線(オープンチャネル)で紅椿に繋いでいる。
束 「じゃあ次は、刀使ってみてよ。右のが『雨月(あまづき)』で、左のが『空烈(からわれ)』ね。武器特性のデータを送るよん」
再度、さっきと変わらないスピードでキーボードを打つ。すると、紅椿の手元に二本の刀が握られる。
箒 「雨月、行くぞ!」
雨月を握った右腕を左肩まで持っていき、突きを放つ。その瞬間に数個の赤色の球体が雨月が振るった場所に現れ、レーザー状に上空に飛んでいく。そのレーザーが通過した雲を穴だらけにした。
束 「雨月はね、対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギーを放出。敵を蜂の巣に出来る武器だよ! 射程はアサルトライフル並だけど、紅椿の機動性ならモウマンタイだよ!」
束の解説を代表候補生達は心身深く聞いているが、一夏は何を言っているのか頭では出来ない様子・・・
束 「次は空烈だけど、こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよ! 振った範囲に自動で出せるから便利だよねー・・・じゃあ、これ打ち落としてみてよ。ほーい!」
光の粒子が形を構成して、十六連射ミサイルポットが出現する。次の瞬間にはミサイルが発射され、紅椿に向けて一斉射撃を行う。
一 「箒!」
さすがに危険と思った一夏が声を上げるが、箒は左手に持った空烈を振り、帯状のエネルギー刃出現。それはミサイル16発を全て落とした。
束 「いいねいいね! さっすが箒ちゃん! じゃあ次はね〜・・・あれと戦ってもらおうかな」
束が指を指したほうにみんなが視線を向ける。そこには海しか広がっていないが、地平線の方から黒い点がどんどんと近づいてくる。
一 「え? でも、あれって・・・」
箒 「獅苑・・・・」
さっきまで地平線の彼方にいたはずの黒い点はすぐ傍まで来ていて、肉眼で黒い点の正体を知る。
獅 「すみません。空で寝てました・・・」
黒の私服に身を包んだ状態でISを纏い、口に含んだ飴をコロコロさせながら千冬の前に降り立つ。着地する寸前でISを解除し、深く頭を下げる。
千 「遅れすぎだ、馬鹿者!」
[ゴチンッ!]
出席簿ではなく、拳で獅苑の頭をしばく千冬。獅苑は顔を少し引きつりながらも、この痛みに堪えていた。
千 「はぁ、こうなった以上仕方がない。だが、あとで反省文は書いてもらうぞ」
獅 「はい」
説教が終わり、獅苑は頭を上げ、上空にいる紅椿に目がいく。
獅 「・・・箒のIS?」
千 「ああ、そうだ。今からお前はあいつと戦ってもらう・・・そうだな、引き受けてくれるなら反省文を10枚から5枚に変えてやってもいい」
獅 「・・・分かりました」
反省文を書くこと自体、めんどい獅苑にとって10枚から5枚に変わるのはすごくラッキーなのだろう。
獅苑はズボンにつけたチェーンに触れ、一瞬で死戔を展開し、飛び立つ。
箒 「手加減は無しだぞ。獅苑・・・」
箒が刀二本を構え、いつでも攻撃に転じる事が出来る。
獅 (この感じ・・・もしかして、箒は浮かれているのか?)
箒 「そっちから来ないのなら、私から行くぞ!」
箒が獅苑との間合いを詰め、雨月を振り下ろしすが、すぐに反応し避ける。
箒 「それぐらいは想定済みだ!」
次は空烈を横に一閃。帯状のエネルギー刃が獅苑を襲うが瞬時加速で避ける。
獅 (白式よりも速い・・・それに、切り替えしの動きもまったく無駄がないが、まだ相手を捉えきれていない。それに・・・)
やはり、浮かれているとさっきの攻撃で理解した。力任せの攻撃。ISにたより自分を失っている動き。獅苑は腰に手を伸ばし、Bソード1本を手に、刃を正面に向ける。
箒 「中々やるな。獅苑」
笑顔で言ってくる箒に対して、獅苑は冷たく答える。
獅 「付け上がるな・・・ガキが」
32話
獅苑SIDE
箒 「はあっ!」
空烈をBソードで受け止め、雨月を体を捻って避ける。
箒 「逃がすか!」
雨月から赤いレーザーが放たれ、それが至近距離で直撃する。その事に舌打ちをし、死戔の単一仕様能力を使う。
【アフタリミジン 発動】
箒 「なっ!」
もう一発、雨月で直撃させようとした赤いレーザーは俺の残像をすり抜ける。
箒 「そうか、それがお前のISの能力か・・・」
この場にいる人は、初めて死戔の能力を見ることになる。
獅 「・・・」
旋回した後、箒の後ろに回りこんで獲物を振り上げる。
箒 「そこか!」
獅 「!?」
後ろを振り向きつつ、空烈を横に振る。いきなりの事で反応をできず、剣先が死戔の装甲をかすり、帯状のエネルギー刃が直撃。ふらつきながらも距離を取り、箒の周りを高速で旋回しながら様子を伺う。
箒 「・・・」
箒は目を瞑り、ピタリとも動かない。
(まさか、あれで俺の気配を捉えたのか・・・?)
その可能性を踏まえた上で、次は下から攻撃を仕掛ける。
箒 「次は下だ!」
刀二本から放たれる射撃を強引に避け、残像が撃ち抜かれる。もう一度、距離をとろうとしたその瞬間、体から放出されていたエネルギーが止まる。
獅 「エネルギー切れか・・・」
箒 「はああぁっ!」
エネルギー切れのところを狙った箒の攻撃をBソード1本だけでは抑えきれず、一気に皆のいる崖まで追い込まれる。
箒 「やれる・・・この紅椿なら、獅苑にも勝てる!」
雨月と空烈の総攻撃。その見え見えの攻撃を避けようとしたが、後ろには一夏達や、向こう側で装備試験をしていた本音たちがいる事に気づく。
Bソードをもう1本を手に取り、箒の攻撃をすべて弾き飛ばす。
[ドカーン!]
女子達 「きゃあああぁっ!」
獅 「!?」
弾き飛ばした雨月のレーザーが崖に命中。岩崩れは起きなかった事に安心するが、箒からの攻撃は止まない。
箒 「はあああああぁっ!」
(くそっ・・・周りが見えてないな、箒の奴・・・)
一切、刀の振るスピードは遅くならず、俺はその攻撃を全部、海のほうに弾き飛ばし続ける。
獅 「くっ・・・!」
左手にレーザーが命中し、Bソード1本が手元から離れる。その1本を残り1本で補える事はできず、弾き逃した攻撃は全て俺に命中し、SEが削られていく。そして、Bソードさえもエネルギーが出なくなった。
箒 「これで、私の勝ちだ!」
目の前には瞬時加速で接近してきた箒。俺はBソードの柄の部分で空烈を受け流しすが、雨月で俺の体を吹っ飛ばされる。それだけに終わらず、雨月と空烈のレーザーは容赦なく俺に叩きつけ、俺の体は崖にめり込みISが強制解除する。
獅 「う・・・ぐうっ」
高いところでISを強制解除したため、上手く着地ができず左肩から落下する。なんとか、岩場に手をつき起き上がる。
本 「ギリー!」
一 「獅苑!」
二人が心配そうに近寄ってきて、一夏が肩を貸してくれた。残りの皆も心配そうにこちらを見ていて、見ていないのは紅椿の活躍にうんうんと頷いている篠ノ之束と、新たな力に感動している箒だけだった。
真 「朝霧君! とりあえず、医務室に[ブルルルル]・・・もう、こんな時に・・・」
山田先生は端末を取り出し、送られてきた内容を黙読する。すると、山田先生の目が見開かれた。
真 「!?・・・お、織斑先生!」
千 「どうした?」
真 「こ、これを・・・」
持っていた端末を渡し、今度は織斑先生がその端末に表示された画面を見て、表情が曇る。
千 「特命レベルA、現時刻を持って対策を始められたし・・・山田君、他の先生達にもこの事を」
真 「は、はい!」
山田先生は旅館まで走っていき、織斑先生が手を叩いて、この場にいる生徒に呼びかける。
千 「全員、注目! 現時刻をより、テスト稼動は中止! 各班はISを片付けて、すぐに旅館に戻れ! なお、許可無く室外に出た場合、我々で拘束する。いいな!!」
全 「は、はい!!!」
織斑先生の怒号にせっせとISを片付ける生徒達。
千 「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ。そして篠ノ之もだ!」
箒 「はい!」
箒はISを解除し、俺達とは少し離れた場所で返事をする。
千 「朝霧は・・・すまないが、お前にも来てもらう」
獅 「分かっています」
本 「・・・ギリー?」
本音が心配そうに見つめる。俺は一夏にかけていた右肩を降ろし、右手で本音の頭を撫でる。
獅 「俺は大丈夫・・・もう、いなくならないよ。約束だ」
本 「・・・うん」
獅 「ほら、もう戻れ」
本音は何も言わず、自分の班の元へ走り出す。ちらっと俺の方を振り向いた顔はとても悲しい顔をしていた。またいなくなってしまうかも知れない、と・・・
一夏SIDE 【場所は変わって作戦室 (宴会用の大座敷)】
千 「では、現状を説明する」
部屋には専用機持ちが俺を含め7人。照明を落とされ、大型の空中投影ディスプレイの光だけで室内を照らしている。数名の先生達は設置された機材を操作している。千冬姉はディスプレイの前に立ち、床すれすれに浮いている空中投影を囲むように獅苑以外の6人が座る。獅苑は壁に寄り座り、左肩をさすりながら、飴を舐めてる。
(余裕だな、獅苑の奴・・・)
そんなこんなで千冬姉からの説明が行われる。
千 「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル』、通称『福音(ふくいん)』が制御下を離れて暴走。監視空域から離脱したとの情報があった」
全 「・・・」
全員が厳しい顔つきになり、俺は声を出す事ができず、心の中でしか驚く事が出来なかった。
千 「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事になった」
・・・え? それって、俺達が暴走したISを止めろって事? いやいやいや、無理でしょ・・・
千 「教員は学園の訓練機を使用して空域、及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
千冬姉の発言にさらに気を張る専用機持ち(俺と獅苑以外)。その顔は学園では見ない、各国の代表者の顔をしている。ラウラなんかは軍人なのか、目が真剣そのものだった。
千 「それでは、作戦会議を始める。意見のある者は?」
セ 「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
さっそく手を上げたセシリアの意見により、中央のディスプレイに福音のデータが出る。
セ 「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・わたくしのブルー・ティアーズと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
鈴 「攻撃と機動力の両方に特化した機体ね。厄介だわ・・・」
シ 「この特殊武装が曲者って感じはするね」
ラ 「このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん・・・偵察は行えないのですか?」
千 「無理だな。このISは現在でも超音速飛行を続けている。アプローチは一回だけだ」
皆がまじめに話し合い、聞きあいしてる中、俺はこの話についていけず自分で自分を情けないと思う。だが、そんな俺を待ってくれるはずも無く、話はどんどん進んでいく。
真 「一回っきりのチャンスというと事はやはり・・・」
一 「え・・・?」
みんな(獅苑以外)の視線が俺に向けられ、俺は首を傾げる。
ラ 「つまりは一撃で相手を倒さなければならない」
鈴 「だから、一夏。あんたの零落白夜が必要になるって事」
一 「ええぇ!?」
お、俺が行くのか・・・? と、言おうとしてる間にも話は俺そっちのけで進む。
セ 「問題は一夏さんをどうやって運ぶかですわね」
シ 「エネルギーを全て攻撃に使わないと難しいだろうし・・・」
ラ 「しかも、目標に追いつける速度のが出せるISでなければいけないな・・・」
俺の次に獅苑の方に視線をやる。
獅 「・・・別に俺でもいいが、振り落とされるかも知れないぞ?」
シ 「そうなんだよね・・・」
箒 「一夏は未熟だからな」
鈴 「ほんと・・・」
ラ 「だらしないぞ」
一 「うぅ・・・」
なんで、俺がこんなにもボロくそ言われなきゃいけないのだろう・・・本当の事だけど。
千 「織斑、これは訓練ではない。もし覚悟がなければ、無理強いはしない」
その言葉で俺の心に火がついたのか、引き下がろうとした自分を吹っ飛ばす。
一 「やります。俺がやってみせます」
千(束 「よし。それでは、今作戦は織斑と朝霧、両名で行「待った待ーった! その作戦はちょ〜っと待ったなんだよー! とうっ!」・・・」
突如、天井裏から顔を出した束さん。そして、くるっと1回転して降り立ち、すぐに千冬姉の傍に行く。
束 「ちーちゃんちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」
千 「出て行け・・・」
頭を抱えている千冬姉に肩を揺すって束さんは話を続ける。
束 「あんな、危険なものよりも、ここは断然! 紅椿の出番なんだよ!」
千 「何・・・?」
すると、束さんの言葉に空中投影の画面が紅椿のスペックデータに変わる。
束 「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと・・・ホラ! これでスピードはばっちり! ちなみに、この展開装甲は白式の雪片弐型にもしようされていまーす!」
全 「え!?」
つまり、白式も第4世代機って事になる。なら、紅椿には雪片弐型を全身に搭載されてるって事か・・・
一 「でも、それって・・・」
束 「うん、滅茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね」
普通に言い放った束さんの言葉に皆が絶句。獅苑は興味なさそうに次の飴を出していた。
千 「では、織斑と篠ノ之で作戦に参加する。異論はあるか?」
誰も挙手はしない。それもそうだろ、あの篠ノ之束が発案した作戦にはけちを突ける所がないのだから・・・
獅 「・・・[スッ]」
千 「なんだ? 朝霧」
全員が一斉に獅苑の方を向き、獅苑は飴を舐めながら立ち上がる。
獅 「その作戦に俺も参加させてください」
束 「はあ〜? 何、ちーちゃんの決定にケチいれる気?」
千 「・・・いいだろう。お前にはサポートとして参加してもらう」
束 「え・・・?」
千 「束もそれでいいな」
束 「む〜・・・ま、ちーちゃんが決めた事だから別にいっか」
両手を頭の後ろに組んで引き下がる。作戦が決まったため、出撃の準備を始める一同。
(でも、大丈夫なのか・・・?)
なぜか、俺は不安に駆られながらも作戦開始時刻は近づいていく。
【作戦開始まで3分前】
一 「来い、白式!」
箒 「行くぞ、紅椿!」
砂浜に俺の白式と箒の紅椿が展開され、上空にはすでに出撃準備が整っている死戔。夏の陽光に照らされながら、白と紅は向き合い、黒はそれを見守るように浮遊している。
千 『織斑、篠ノ之、朝霧。聞こえるか?』
開放回線を通じて千冬姉の声が聞こえてきた。獅苑の方にもきているだろう。
千 『作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間で決着をつけろ』
一 「了解」
箒 「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」
千 『そうだな。だが、無理はするな。お前は専用機を使った実戦経験は皆無だからな。主なサポートは獅苑に任せておけ』
箒 「わかりました。ですが、可能なかぎりの支援はします」
そろそろ、作戦が開始される。箒はなんだが、すごく機嫌が良い。さっきの言葉もまるで自分の力を過大評価しているような気がする。
箒 「それにしても、ここに私達がいた事が幸いしたな。私と一夏が力を合わせれば出来ない事はない。そうだろ?」
一 「あ、ああ。そうだな・・・」
箒 「どうした、その返事は? なんだ、怖いのか?」
一(箒 「そうじゃねって、あのな、箒 「ははっ、心配するな。私がちゃんと運んでやる。大船に乗ったつもりでいろ。なんせ私は、あの獅苑に勝てたんだぞ」・・・」
やはり、様子が変だ。専用機が手に入って嬉しいのは分かるけど、そんな調子だったら足をすくわれぞ。
千 『そろそろ、作戦開始時刻だ』
千冬姉の言葉に身が引き締まる箒。上空では獅苑がリラックスさせていた体をさらに楽にする。この方が獅苑にとって戦いの前の下準備なのだろう。
千 『・・・一夏』
一 「は、はい」
開放回線から個人間秘匿通信に変え、俺の名を呼んだ千冬姉。
千 『どうも、篠ノ之は浮かれてるな。あんな状態では何かを仕損じるやも知れん。朝霧もその事には気づいているようだが、奴は本調子じゃない。いざという時はサポートしてやってくれ」
そうか、だから獅苑は自分からこの作戦に参加したんだ。もしもの時、箒を助けるために。
一 「わかりました。意識しておきます」
千 『頼むぞ・・・では、作戦開始!』
開放回線に切り替え、作戦は開始される。
箒 「では、行くぞ!」
一 「おう!」
紅椿の背に乗り、紅椿は一気に瞬時加速を越えたスピードで飛翔する。その後ろにピッタリと付いてくる獅苑はまだ余裕そうに見える。
箒 「暫時衛星リング確立、情報照合完了。目標の現在地を確認・・・一夏、一気に行くぞ」
一 「お、おう」
カシャッと脚部と背部装甲がスライドし、展開装甲からエネルギーがさらに噴射する事によって、さらに加速する。束さんによると展開装甲は攻防、機動性にまわせる事が出来、今はエネルギーを殆ど機動性に費やしているため、死戔と同等のスピードを出せる。
箒 「見えたぞ、一夏!」
箒の言葉にハイパーセンサーで目標を表示する。
一 「あれが、福音・・・」
銀の福音の名前にふさわしく、全身が銀色になっている。そして、頭部から生えてきている一対の翼。大型スラスターと広域射撃武器を融合させたものらしい。
箒 「目標に接触するのは十秒後だ!」
一 「ああ!」
雪片弐型を握り締め、零落白夜を発動。
一 「うおおおぉっ!」
光の刃が福音に触れる直前、福音は反転。するりと雪片弐型を避ける。
銀 『敵機確認。迎撃モードに移行。『銀(シルバー)の鐘(ベル)』、稼動開始』
開放回線から抑揚のない声と共に、翼が開かれる。
(嫌な予感がする・・・)
一 「箒! 散開するぞ!」
翼の内側には合計36個の砲門。その砲門から一斉に光の弾丸が撃ちだされる。
獅 「おらっ!」
射撃を行っていた福音に蹴りをいれた獅苑のおかげで、福音は獅苑に注意を向ける。
一 「箒! 一度体制を立て直すぞ!」
箒 「了解した!」
紅椿の背に乗り、もう一回、攻撃を仕掛ける。
一 「・・・くそっ!」
銀 『La・・・♪』
獅 「くぅっ・・・」
だが、その攻撃も避けられ、ワザワザ距離を置いてくれた獅苑は福音の蹴られた後に銀の鐘が直撃する。その攻撃が誘爆し、そのまま、海に落下。俺は獅苑を助けに行こうとするが、箒に肩を掴まれ止められる。
一 「何するんだ!」
箒 「今は作戦中だぞ! 獅苑なら大丈夫だ。ホラ行くぞ!」
一 「・・・」
喋ってる間にも福音の攻撃は止まず、箒が刀二本を手に突撃。さらに背部の展開装甲が開き、ピットのように自動で射出する。射出したエネルギー刃と二本の刀で福音の動きを止める。
箒 「一夏、今だ!」
一 「・・・いや、駄目だ!」
箒 「何!?」
海面に向かって瞬時加速を行い、撃ち零れた光弾を零落白夜でかき消す。
箒 「何をやっている!? せっかくのチャンスを!」
一 「船がいるんだ」
箒 「船!?」
確か、海域は先生達が封鎖しているはずだ。つまり、ここに船がいるってことは・・・
一 「密漁船か・・・」
箒 「一夏! そんな奴らに構うな!」
一 「でも、見殺しなんか出来ない!」
すると、雪片弐型から光が消える。エネルギー切れだ・・・
箒(一 「馬鹿者! 犯罪者などをかばって・・・そんな奴らは放って「箒!!」・・!?」
一 「そんな寂しい事を言うな。言うなよ・・・力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・らしくない。全然らしくないぜ。箒・・・」
箒 「わ、私は・・・」
刀が力の抜けた手元からすべり落ち、刀が光の粒子となって消える。つまりは箒もエネルギー切れだ。箒は手で顔を覆い、動揺した顔を隠す。すると、ザッパアァン!っと水しぶきがたち、そこから所々、装甲が破損している死戔が現れる。
獅 「馬鹿野朗!! 福音が狙ってるぞ!!」
なんとか、海上から上がってきた獅苑の言葉に俺はハッとなる。福音の方を見ると、すでに箒に向けて射撃を行っていた。
一 「箒ぃぃぃっ!!!」
殆ど残っていないSEで最後の瞬時加速を使い、箒との間に入る。箒を庇う様に抱き締めると、背中にSEで相殺しきれなかった衝撃と熱が伝わってきた。
一 「ぐあああぁ!」
装甲がどんどん破壊され、熱波で肌を焼かれる。同時に骨はみしみしと、筋肉も悲鳴を上げ続ける。一度だけ、目を開き箒を見る。
(ああ、良かった。無事だったんだ・・・なんだ? 何泣きそうな顔をしてるだよ。らしくねぇなぁ・・・あ、リボン焼けちゃったか。でも、髪を下ろしても悪くねぇじゃん)
俺の意識はそこで無くなるが、俺と箒は爆発で海に落ちていった。
33話
獅苑SIDE
獅 「一夏・・・箒・・・」
海に落下した二人。今までの波紋のない水の心が一気に沸騰し始める。
獅 「てめぇだけは・・・てめぇだけは、ぶっ殺すっ!!」
Bソードを両手に一気に距離を詰める。
銀 「La・・・♪」
銀の鐘の攻撃をBソードで弾き、福音に一太刀。
獅 「まだだっ!」
二本のBソードを直結させ、振り下ろす。だが、その攻撃をするりと避け、銀の鐘を撃ちながら距離を置こうとする。
獅 「逃げんじゃねぇ!!!」
【アフタリミジン 発動】
残像が光弾に撃ち抜かれる中、Bソードを腰にしまい、俺本体が福音の肩を掴む。そして、もう片方の手で福音の頭部を殴り飛ばす。
獅 「その程度じゃ足りねぇんだよ。てめぇは俺がぶっ壊すんだからなっ!」
銀 『・・・敵レベルをSと断定。リミッターを解除します』
その瞬間、俺の目の前に福音が立つ。突然の事に反応が遅れ、銀の鐘を至近距離からもろに喰らう。そのため、後方まで吹っ飛ばされ、体制を立て直し、口の中の血を吐き捨てる。
獅 「ふ、ふふ、ははは、それこそ、潰し甲斐がある!!!」
箒SIDE
箒 「プハッ・・・」
一夏を運びながら、小島に着いた私達。私の傍にはさっきから目を開けない一夏。背中には大きな火傷の跡と血が噴出している。
箒 「おい、一夏! 目を開けてくれ! 頼む・・・目を、開けてくれ・・・」
すると、海域を封鎖していた教師2人がこちらに飛んできた。
先1 「篠ノ之さん、帰等命令です。それと、織斑君をこちらに・・・」
箒 「・・・はい」
先2 「大丈夫です。織斑君は助かります」
箒 「・・・はい」
先生方は片方を私を持ち上げ、もう片方は一夏をなるべく体を動かさないように持ち上げる。
先1 「では、行きますよ」
箒 「・・・はい」
一夏のためにスピードは遅く、旅館まで飛び立つ。でも、私は忘れていた事があった。
親友の存在を・・・
獅苑SIDE
獅 「はぁ、はぁ、はぁ・・・ゴホッ!」
口から血が吹き出し、視界が揺れる。左腕は力尽きたかのように肩から垂れ、SEは底を尽き、Bソードからエネルギー刃が消えてしまっている。
銀 「La・・・♪」
獅 「はぁ、はぁ・・・はははっ、くそが・・・」
笑って言った時には福音の一斉射撃が俺めがけて放たれた。目眩がしながらもスラスターを使って真っ直ぐに飛び避ける。リミッターを切った福音の機動性はさっきよりとは天と地の差があり、射撃を行いながら俺に接近し拳や蹴りが繰り返される。
(もう、駄目なのか・・・)
海を背に福音から光弾の嵐が俺に降り注ぐ。
獅 「だけどなっ!」
腰につけたBソードに手元のBソードを直結させ、なけなしのSEを送り込む。すると、Bソードを先端に微量のエネルギー刃がナイフの形で現れ、それを手に福音に突っ込む。
(せめて、致命傷ぐらいは・・・)
獅 「っ!」
光弾を受けながらも突撃。福音の翼にBソードを突き刺し、スラスターの機能を停止させる。だが、そこから至近距離での攻撃に叩き落されるのと同時にISが強制解除。すると、福音の攻撃は止み、俺は海へ真っ逆さま。
(ああ、これじゃあ、約束守れそうにないな・・・ごめん、本音)
俺と海が接触し、強烈な痛みが伝わるのと同時に、自然と意識が薄れていった・・・
千冬SIDE
真 「死戔LOST・・・」
鈴 「え・・・」
セ 「そ、そんな・・・」
シ 「・・・」
ラ 「あ、姉上・・・そんな、そんなの嘘だ!?」
真耶の言葉に、凰は状況を理解できず、オルコットは信じられない現実に驚き、デュノアは俯き表情が見えないが膝に置いた手が震えている。ボーデヴィッヒはオルコット同様、この現実を信じられず、頭を抱え乱心。
千 「・・・くっ!」
私もこの事実に手を握り締める。あの場には小島などのなく、海のど真ん中。つまり、その場で朝霧の反応が消えたということは・・・
千 「くそっ!!」
殴った機材の部分がべコッと凹むが、その音に皆は驚かなかった。すると、ラウラが立ち上がり、部屋を出ようとする。
鈴 「ちょっとラウラ! どこに行くのよ!?」
ラ 「どこに・・・? そんなの決まっている、姉上を助けに行くんだ」
背を向けながら言葉を発するラウラに一瞬怯む凰。
ラ 「ではな・・・」
セ 「ちょっとお待ちなさい! 闇雲に出て行っても、あそこには福音がいるのです。作戦なしでは返り討ちにされるだけですわ!」
鈴 「そうよ! 今行っても、ただやられるだけよ!」
ラ 「じゃあ! 姉上を見殺しにしろと言うのか!! お前達は!?」
ボーデヴィッヒの言葉に二人が我慢していたものが爆発する。
鈴 「そんな訳ないじゃない!! あたしだって獅苑を助けに行きたいわよっ!!」
セ 「わたくしだって、行けるのであれば行きたいですわ!! ですけども、ラウラさんがやろうとしているの無謀と同じですわ!」
ラ(シ 「無謀だろうが、姉上を放っては置く理由にはならないはずだ!! それなのにお前達は「やめてっ!!!」・・!?」
鈴・セ 「!?」
声を上げたのは4人の中で一人、正座して俯いてるデュノア。握り締めていた手がさらにきつく締められている。
シ 「ここで、争ってもしかたないよ・・・みんなでケンカしてるなんて獅苑君が知ったら、悲しむよ・・・」
デュノアの言葉に3人の言い合いは止まる。他の奴らには見えてないだろうが、今でも俯いているデュノアの頬に涙が流れている。
千 「・・・では、以降、状況に変化があれば召集する。それまで、各自現状待機しろ」
返事は返さず、私の言葉に4人は部屋を退出する。
千 「一応、朝霧の反応が無くなった周辺を調査するように現場の職員に伝えてくれ。くれぐれも福音との戦闘は避けるように、と」
真 「は、はい!」
急いで教員達に私が言った事を伝える真耶。その真耶の目は赤く腫れていた。
(私だって、泣きたいさ・・・)
でも、それで朝霧が無事に帰ってくるはずが無い事はここにいる全員が理解している。だからこそ、私は泣く事は許されない。
真 「織斑先生! 織斑君達が帰還してきました!」
千 「そうか。 医療班の準備を! 私も行く!」
真 「はい!」
部屋を出ると、まだそこには4人の姿があった。
千 「現状待機と命令したはずだが・・・まぁいい、お前達も来い。織斑と篠ノ之が帰還した」
全 「はい!」
箒SIDE
箒 「・・・」
心電図の音が響く中、私は旅館の一室で布団にに横たわる一夏の傍で座っている。一夏の体には至る所に包帯が巻かれており、ここに運ばれて3時間は経つが一夏は目覚める気配が無い。髪を纏めていたリボンが焼き切れ、今の私の状態を示しているかのように垂れ下がっている。
一 『そんな寂しい子と言うな。言うなよ・・・力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・』
一夏に言われた言葉が頭に再生される。
箒 「違う、違うんだ。見えなくなったわけじゃない・・・奴らが弱い奴だとでも言うのか、守るべき存在だとでもいうのか・・・」
私には理解する事ができなかった。奴らは秩序を乱す輩。それでも一夏は奴らを守ろうとした。
箒 「それが、お前の強さなのか・・・? だから、お前は強いのか・・・?」
それに比べて私は力の赴くまま、暴力を振るっていたのかと思い始める。かつて、引越しして一夏と離れ離れした後の私のように・・・
真 「篠ノ之さん・・・」
箒 「・・・」
開いていた襖を叩いて私の名前を呼ぶ山田先生。おそらく、少しは休めとでも言って来たのだろう。だから、私は逃げるように部屋を去る。
真 「篠ノ之さん!」
【砂浜】
箒 「はぁ、はぁ、はぁ」
砂浜を走り、旅館から少しでも離れようとする。だが、スタミナが底を尽き、膝に手をついて息を切らす。
獅 『付け上がるな・・・ガキが』
(そうか。獅苑は分かっていたんだな・・・こうなるかもしれない事を・・・)
今更、獅苑の言葉を理解した時にはもう遅い。私は親友を見捨ててしまったのだ。一夏の事で動転してたとはいえ、獅苑一人に福音を押し付けてしまったせいで、獅苑は行方不明、助かる見込みは1%もない。一夏を危険な状態にさせてしまった事だけでも心が抉られそうなのに、獅苑の行方不明の報告を受けて、目の前が真っ暗になりそうだった。
箒 「一夏・・・獅苑・・・」
いくら名前を呼ぼうとも、一夏が目覚めるはずも無く、獅苑が帰って来るはずがない。私は一夏との小学校時代の思い出を思い出す。
男子1 「おい、男女。今日は木刀、持ってないのかよ?」
箒 「・・・っ」
一 「うっせーなぁ。お前ら、暇なら帰れよ。それか手伝えよ。ああ?」
バシャッとモップをバケツにつける一夏。
男子2 「なんだよ、織斑? お前はこいつの味方かよ」
男子3 「お前はこんな男女が好きなのか?」
男子1 「俺知ってるんだぜ。こいつら、朝から一緒に登校してるし、夫婦なんだよな、お前ら」
男子3 「まじかよ!?」
男子2 「信じられねぇよなぁ。それに、こいつ男女のくせにリボンなんかしてんだぜ」
男子達が言ってる事に腹が立ち、殴りかかろうとしたが、先に一夏が男子一人をぶん殴った。
男子2 「何しやがんだ!」
男子1 「先生にチクるぞ!」
一 「勝手にチクれよこの野朗! その前に全員、ぶん殴る!」
そこから1対3のケンカが始まる。人数の差があっても一夏は男子3人に大立ち回り。だが、男子一人が掃除のために下げていたイスを持ち出す。
男子3 「この野朗!!」
スローイングのようにイスを一夏の方に投げつける。しかし、そのイスは一夏に届くことなく、どこからか飛んできたランドセルとの衝突でイスはその場に落ちる。
? 「うるせぇよ・・・」
その少年の顔は良く覚えていないが、そいつの目には覇気がなく、死んだ魚のように生気を感じられなかった。
男子1 「なんだよ? 邪魔するなよ!」
胸倉を掴もうと手を伸ばした男子の手をすり抜け、男の急所を膝蹴り。男子は床に突っ伏し、ピクピクと痙攣している。
男子2 「あ、てめぇ。この前、転校してきた奴だな」
男子3 「あ〜、知ってる知ってる。転校してきた初日に無断欠席。その後もまったく学校に来ないくせに、成績だけは無駄に高いって奴だろ」
私も風の噂で聞いた事があった。学校にはまったく姿を現さず、来た日には机の中に溜まった各教科の提出物プリントをその日に終わらせ、授業中、窓の外ばっか見ているらしい。
男子2 「良く見たら、女みたいな奴だな」
男子3 「じゃあ、こいつは女男だ。男女とピッタリじゃん!」
未だに馬鹿な事を言い続けている男子に少年は歩み寄る。
男子2 「なんだよ、女男?」
? 「・・・」
沈黙の中、股間を蹴り上げられる男子2。そいつも先に蹴られた奴と同様、床に突っ伏す。次に残ったデブの男子の胸倉を掴み、片手で持ち上げる。
男子3 「お、おえ・・・降ろし、て・・・」
? 「だったら、消えろ」
そのまま放り投げられた男子3は自分の荷物を持って、退散。床に突っ伏してた奴も股間を抑えながら逃げていった。
一 「お前、強いんだな」
? 「・・・」
一夏の質問には答えず、そのまま落ちたランドセルを拾い、帰っていった。
一 「なんだったんだ、あいつ?」
箒 「さぁ・・・」
【その日の放課後:篠ノ之道場】
箒 「それにしても、お前は馬鹿だな」
あの後、あいつらはどうやら先生に報告はしなかったようだ。だから、現にここで一夏と共に水道で顔についた汗を落としている。
一 「あん、何がだよ?」
箒 「あんな事をすれば、後で面倒な事になると考えないのか?」
一 「考えねぇな。許せねぇ奴はぶん殴る。それに、面倒な事にはならなかっただろ」
箒 「それでもだ・・・」
一 「まぁ、気にすんなよ。前にしてたリボン似合ってたぞ。またしろよ」
箒 「ふ、ふん!」
視線を一夏から外し、首を背ける。
一 「じゃあ、俺帰るわ。またな、篠ノ之」
そういえば、この時までは上の名で呼ばれていたな・・・
箒 「ま、待て!」
一 「ん?」
一夏は立ち止まり、こちらを向く。
箒 「私の名前は箒だ。いいかげん覚えろ。それに、父も母も姉も篠ノ之なのだから、まぎわらしいだろ・・・」
一 「じゃあ、一夏な」
箒 「な、なに?」
一 「名前だよ。織斑は2人いるから、俺の事も一夏って呼べよな」
その時の一夏の笑顔は鮮明に覚えている。忘れることが出来ない、否、忘れたくない思い出。
箒 「・・・」
夕日の陽を浴び、風が髪を撫で、私は不意と左手首に目が行く。赤の二本の紐に金と銀の鈴がついている紅椿の待機状態。それこそが、私が手に入れた力でもあり、一夏と獅苑を犠牲にしてしまった私の力でもあった。
鈴 「箒」
後ろから声がかけられるが、私は振り向かない。振り向けない・・・振り向きたくない。
鈴 「あ〜、あ〜、わっかりやすいわね・・・あのさ、一夏がこうなったのと、獅苑が行方不明になったのは、あんたのせいなんでしょ・・・?」
箒 「・・・」
鈴 「で? 落ち込んでますってポーズ・・・っざけんじゃないわよ!!」
怒りをあらわにした鈴が私の胸倉を掴み、強引に体を鈴の方向に向かされる。
鈴 「やるべき事があるでしょうが! 今、戦わなくてどうするのよ!?」
鈴の目はとても真剣で目の向こうにはやつれた自分の姿が写っている。
箒 「・・・私は、もう・・・ISは使わない」
鈴 「っ!」
バシンッと頬にビンタされ、砂浜に倒れこむ。
鈴 「甘ったれてんじゃないわよ・・・専用機持ちっつーのはね、そんな我侭が許される立場じゃないのよ。それともアンタは戦うべきに戦えない、臆病者なわけ?」
鈴のその言葉に私の心に火が点いた。
箒 「どうしろというんだ? 敵の居場所も分からず、獅苑の行方も分からずに・・・私だって、戦えたら戦う!」
自分の思いを鈴にぶつけると、鈴はニコリと笑う。
鈴 「やっと、やる気になったわね・・・あ〜あ、めんどくさかった」
鈴の豹変ぶりにポカーンとしてしまう中、ラウラがこちらに走ってきた。その後ろにはセシリアとシャルロットがいる。
ラ 「敵の所在が掴めたぞ!」
鈴 「さすがはドイツ軍の特殊部隊、仕事が早いわね」
ラ 「これ位は造作もない」
ラウラはISの部分展開で片腕だけを展開し、福音の現在地が表示されている画面が現れる。
ラ 「それはそうと、貴様の方こそ準備はできているのか?」
鈴 「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済み。二人は?」
セ 「こちらも完了していますわ」
シ 「僕も準備OKだよ」
私は知らないが、彼女らは千冬さんか現状待機を言い渡された後、自室で今出来る事を考え、そして行動し、今ここに集結した。
箒 「待ってくれ。本当に行くのか? 命令違反じゃ・・・」
鈴 「だから? アンタ今、言ったよね。戦うって」
ラ 「それで、お前はどうする?」
4人の視線がこちらに向く中、紅椿を握り締め思い人と親友の顔が頭をよぎる。
箒 「戦う・・・戦って勝つ。今度こそ負けはしない!」
鈴 「決まりね。だけど・・・」
ラ 「お前にはまだやる事がある」
箒 「え・・・?」
ラウラの言ったやる事がある事に心当たりがなかった。そんな中、ラウラが崖の方を指を指し、そこに行けと促しているように見えた。良く見れば崖の先に人影があり、私はラウラが言わんとしていた事に気づいた。
箒 「そうか・・・そうだったな」
ラ 「作戦時間は10分後だ。その間に帰って来い」
箒 「ああ」
投稿者SIDE
ラウラが指を指した崖の先に、足を岩場から海に放り出し、体を支えるため後ろに回した手を地に着けている本音がいる。その本音に後ろから声をかけられる。
箒 「ちょっといいか?」
本 「ん? な〜に〜?」
背を向けたまま答える本音。その声はいつもと変わらない事に箒は若干違和感を覚えた。
箒 「その・・・すまなかった」
本 「ホーホーが謝んなくていいよ〜」
本音が、たった8文字で箒の言おうとした事が分かったのは、獅苑と本音との関係を知っている千冬からあらかじめ獅苑の事を知らされたからである。
箒 「心配じゃないのか?」
本 「心配じゃないよ〜」
本音が即答した事に箒は戸惑う。
箒(本 「お前は獅苑の事が好きなのだろう。どうしてそこまで落ち着いて「約束したから」・・・え?」
話している最中に入れられた本音の声には、今までの、のほほんとした感じはなかった。
本 「約束してくれたんだ。もういなくならいって・・・だから、心配じゃないよ」
箒 「・・・布仏は強いんだな」
本 「強くないよ。強くなんか・・・だって」
首だけを箒の方に向ける本音。
本 「だって・・・涙が止まらないんだもん・・」
その本音の顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、今でも目から涙が溢れ出している。
箒 (そうか、信じたいよな。獅苑が帰って来る事を・・・)
箒は声を殺して静かに泣いている本音を抱きしめる。たとえ、助かる見込みが1%以下でも皆は獅苑が死んだとは誰とも思っていない。ただ、いきなりの事で気が動転しただけの事だ。
箒 「大丈夫だ、獅苑は必ず帰ってくる。なんてたって獅苑は強いんだぞ」
本 「うん。そうだね!」
無理して笑う本音に箒はもう一度、抱きしめる。
夕日が沈みゆく中、銀は胎児のように膝を抱えて眠り
白は目覚めず
黒は海に消え
紅は仲間と共に戦いに赴く
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