IS学園にもう一人男を追加した 〜 [夏休み]1〜3話
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1話

 

 

 

 

獅苑SIDE

 

 

ク 『いつも映像を送って頂いて、黒ウサギ部隊の隊員全員を代表してお礼を言います』

 

朝方。グラウンドで久しぶりのトレーニングの後、自室に戻ると、ちょうど良いタイミングでケータイが鳴り、その相手がクラリッサさんだった。

ラウラの学校生活を、送り続けた甲斐もあって、今じゃクラリッサさんとは、仲が良い。

 

獅 「それより、電話をかけてきたのは お礼以外にも何かあるんだろう?」

ク 『やはり、バレてしまいましたか・・・実はですね、ラウラ隊長は寝る時は、なにも服を着用しないんです』

 

まぁ、人それぞれだしな・・・

 

ク 『それに、私服というものを持っていないのです。ですので、獅苑殿には隊長に似合う服を選んでもらえないでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅 「という訳で、買い物行くぞ」

ラ・シ 「え?」

 

【駅前】

 

獅 「・・・シャルロットも来たのか?」

シ 「え? 駄目だったかな?」

獅 「いや、逆に助かる」

 

ラウラの服を選ぶのに、同姓のアドバイスがあるのは、結構 俺自身、楽になる。

というより、シャルロットも前から、ラウラの服の事は気にかけていたようだし・・・

ちなみに、俺とシャルロットは私服だが、ラウラだけがIS学園の制服。

 

獅 「じゃあ、行くか・・・」

 

飴の袋を開け、飴を口に放り込む。

 

ラ 「はいっ!」

[ギュッ]

獅 「ん?」

 

ラウラが俺の包帯の巻かれた左手を握る。

 

ラ 「あ、痛みますか?」

獅 「大丈夫だ・・・それより、これは?」

 

握られた手を持ち上げ、理由を尋ねる。

 

ラ 「仲の良い者同士は、こうやって手を繋ぐものだと聞いてますが・・・迷惑でしょうか?」

獅 「まさか・・・」

 

左手に力を込めると、ラウラは無邪気な子供の様に笑ってくれた。

 

シ 「じゃあ、僕も・・・」

 

開いた右手にシャルロットの手が握られる。

 

(できれば、一夏を連れて来たかったな・・・)

 

実際、二人のために一夏を連れてこようとしたが、政府のお偉いさんが学園に来たらしく、その理由が白式関係だったため、朝の内に織斑先生の手で強制的に連れてかれた。

ちなみに、本音も連れて行こうとはしたが、簪のISの開発が行き詰ったらしく、今日一日はそれにつきっきりで、原因を解明するらしい。

 

[ザワザワ]

 

そうして、手を繋いだ状態で、駅前のデパートに入る。

すると、俺達の姿を見た、周りの人たちが騒ぎ始める。主に女子高生達が・・・

 

女高1 「ね、ね、見てよ、あの三人・・・」

女高2 「うわっ モデルみたーい・・・それに、銀髪の子の着ている服って、IS学園の制服よね? カスタム自由の」

女高3 「え!? IS学園って、確か倍率が一万超えてる所じゃないっ! ほとんどの生徒が、大企業の娘とか、国家を代表する人しかいないんでしょっ!?」

女高2 「そ。でも、それで あの綺麗さは、なんかズルイよね」

女高1 「神様って不公平よね〜・・・」

 

こっちにお構いなく、大声で会話をする女子高生。

 

シ・ラ 「・・・///」

 

シャルロットとラウラは、そんな風に褒められた事に免疫がないのか、恥ずかしそうに俯いている。

 

獅 「で、見ていく順番は決まってるのか?」

シ 「う、うん。最初は服から見ていって、途中でランチ。その後は生活雑誌とか小物を見ていこうと思うんだけど・・・どうかな?」

獅 「分かった・・・ラウラもいいか?」

ラ 「は、はい。姉上が良いと仰(おっしゃ)るなら」

 

そんな訳で、服を見に七階へ。

 

シ 「じゃあさ、ラウラ。私服はスカートとズボン、どっちがいい?」

ラ(シ 「ん、どっちでも「どっちでもいいとか言わないで・・・ていうか、そういうところは一夏そっくりだね」・・夫婦が似るのはいい事だ」

 

ため息を漏らすシャルロットに対して、ラウラは誇らしげに胸を張る。

そんな中、俺達の目の前に目的の店、『サード・サーフィス』に到着。

 

獅 「・・・ここか?」

シ 「あ、うん。結構、人気のあるお店らしいよ。ほら、女の子もいっぱいいるし」

 

女性向けの服売り場か。俺はこの顔立ちだし、中に入っても問題はないんだろうが・・・

 

獅 「勇気いるな・・・」

シ 「む、無理しなくても大丈夫だよ・・・」

 

シャルロットが心配してくれているが、ここで引いたら来た意味がない。ラウラの兄貴(姉貴)分として、目的(ミッション)は完遂しないと。

 

獅 「行くとするか・・・」

シ 「・・・」

 

包帯を巻かれている左手を握っているラウラには、分からないだろうが、右手を握っているシャルロットは、俺の手が汗ばんでいる事に気づかない事はなく、こちらを心配の眼差しで見ていた。

とりあえず、店内に入ると、セール中なのか店内は人に溢れていて、騒がしい。

 

店長 「・・・ちょっと、ここは頼むわ」

店員 「え、ちょっと、店長ーっ!」

 

接待していた女性を近くの店員に押し付けて、俺達の方に走ってきた。

 

店長 「ど、ど、どんな服をお探しでっ?」

 

サマースーツを着ている店長は、明らかに緊張していて、声がうわずってる。

 

獅 「この子の私服・・・」

 

左手を上げて、簡潔に述べる。

 

店長 「こ、こちらの銀髪の方のですね! 今すぐ見立てましょう! はい!」

 

すると、展示品のマネキンに着けていた服を外す。

 

店長 「ど、どうでしょう? お客様の綺麗な銀髪に合わせて、白のサマーシャツは・・・」

シ 「へぇ、薄手のインナーが透けて見えるんですね。ラウラはどう?」

ラ(シ 「わから「分からないは、なしで」・・・むぅ」

 

言葉を先越され、むくれるラウラ。

 

シ 「だったら、ラウラ。試着してみたら?」

ラ(シ 「いや、面倒く「面倒くさいも、ナ〜シッ・・・」・・・」

 

またもや、言葉を先を越されて、ラウラは黙ってしまう。

シャルロットは手を離し、そのまま店長とシャツに似合う服を探し出す。

 

ラ 「姉上」

獅 「何?」

ラ 「あの二人が何を話しているか、分かりますか?」

獅 「・・・さぁ?」

 

話している間にも、俺らが理解できない会話は進み、シャツに似合うインナーとボトムスを追加され、ラウラは試着室に渋々入っていった。

 

獅 「・・・」

シ 「・・・」

店長 「・・・」

 

【3分後】

 

獅 「・・・」

シ 「・・・」

店長 「・・・」

 

またこのパターンか・・・と、思い始めていると、試着室のカーテンが開かれる。

 

ラ 「・・・」

シ 「あれ? どうして、制服のまんま?」

 

なぜか、制服姿で出てきたラウラに、シャルロットの顔が不安げに見えてきた。自分が選んだ服が気に入られなかったと、責任の重圧を感じてしまっているのだろう。

 

ラ 「いや、その・・・もう少し、可愛いのがいいな・・・」

シ 「っ!! う、うん! 可愛いのがいいだねっ! 待ってて、すぐに見繕ってくるからっ!」

 

先まで興味のない素振りを見せていたラウラからの言葉に、不安げになっていたシャルロットの顔が、気合の入った喜びの顔になる。

 

シ 「で、で、どんなのがいい? 色とか、形とか、希望はある?」

ラ 「そ、そうだな。それなりに露出度があるものがいいな・・・」

シ 「うん、分かった!」

 

シャルロットは店長を連れて、服の物色をし始めた。

 

獅 「・・・」

 

俺はシャルロットが最初に選んだ『クール系』の服を、試着室から回収。

 

獅 「・・・なぁ」

ラ 「な、なんでしょうか?」

獅 「いきなり、可愛いのが着たいって言ったのは、一夏絡みだろ」

ラ 「っ!」

 

ブンブンと首を振って、必死に否定するが、嘘をついているのが、丸分かり。

 

獅 「『その服、可愛いな』・・・」

ラ 「っ!?」

獅 「『もちろん、ラウラが一番可愛いさ』・・・とでも、想像してたか?」

ラ 「・・・///」

 

ボッと、ラウラの頭から煙が噴き出し、湯気がたつ。

 

シ 「持って来たよーっ・・・あれ? ラウラ、どうしたの?」

ラ 「い、いや! な、なんでもないぞっ! なんでも・・・」

シ 「そ、そう?」

 

ラウラの顔が真っ赤な事に気づいていたシャルロットだったが、ラウラの必死ぶりに引き下がる。

とりあえず、シャルロットが持ってきた、肩が露出しているフリルな黒いワンピースと、ブレスレットを試着室で試着。今回は1分ぐらいで、着替えが終わり、カーテンが開かれる。

 

店長 「よく似合ってますよっ! お客様!」

シ 「うん! 本当によく似合ってるよ!」

 

二人が絶賛する中、周りのギャラリー達も集まってきた。

 

(離れた方が良さそうだな・・・)

 

とりあえず、手に持った服を元に場所に戻していく。

 

(・・・かつらも置いてあるんだな)

獅 「・・・」

 

【ランチ】

 

シ 「もう、あの後、大変だったんだよ」

 

どうやら、俺が去った後、店内にいた客に囲まれて約1時間、握手や写真をせがまれたらしい。

 

シ 「それに、獅苑君が急にいなくなってるし、いたと思ったら、ベンチで寝てるし・・・」

獅 「ごめん・・・」

 

眠気がまだ取れない中、シャルロットはパスタ。ラウラがラザニアを注文し、俺はラウラのラザニアをつまんでいる。

 

ラ 「あの、姉上? この体制は何とかなりませんか?」

 

イスに座る俺の膝の上にラウラ。まぁ、無理矢理乗っけたんだけどね・・・

 

獅 「俺の膝の上は嫌?」

ラ 「い、いや、そういう訳ではないんですけど・・・その、恥ずかしい、からです」

獅 「義兄妹なら、これくらいのスキンシップは普通じゃない?」

シ 「いや、それは人それぞれだと思うけど・・・」

 

そうなの、と言いながらも、ラウラを降ろす気はない。

 

獅 「それより、ラウラはなんで制服なの?」

 

俺の座っているイスの近くには、さっきの黒いワンピースが入った袋が置かれている。

 

ラ 「よ、汚れては困ると思いまして・・・」

シ 「実は、一夏にお披露目したいから、取っておきたいとか?」

ラ 「なっ!? ち、違う! だだ、断じて違うぞっ!」

 

取り乱すラウラの姿に、シャルロットは的を射た事を確信したようだが、あえて知らないフリをしていた。

 

シ 「そっか、変な事言ってごめんね・・・ん?」

 

すると、シャルロットの視線が隣のテーブルに座っている女性に向く。

 

女 「どうすればいいのよ、まったく・・・はぁ」

 

見た目、二十代後半のスーツを着ていた女性がため息をついており、そのテーブルに注文していた料理が冷め切って置いてある。

 

シ 「・・・ねぇ?」

獅・ラ 「お節介はほどほどに(な)・・・」

 

俺とラウラの言葉が重なり、お互い不思議そうに目を合わす。その行動にシャルロットは微笑む。

 

シ 「獅苑君とラウラは、本物の姉妹(きょうだい)みたいだね」

 

"兄妹"←こっちじゃなくて、姉妹←こっちなのね。

今更だけど・・・

 

シ 「あの、どうかされましたか?」

女 「え・・・?」

 

呼びかけられた女性は、まずシャルロットを見て、次に俺達の方に目を向ける。

 

女 「あ、あなた達っ!」

シ 「は、はい?」

 

席を勢いよく立ち上がり、シャルロットの手をガシッと握る。

 

女 「バイトしない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしてこうなった・・・?)

 

あの後、強引に女性に連れて行かれ、どこかの店の着替え室に入れられる。

 

シ 「・・・」

ラ 「・・・」

獅 「・・・」

 

着替え室に入れられた俺達は、ここの従業員によって、シャルロットは執事服。俺とラウラはメイド服に着替えさせられた。一応、この人達は一般人なため、反抗ができずに今の状況に陥っている。

 

(なんで、俺がメイド服なんだよ・・・)

 

包帯で巻かれている部分を隠すため、手袋と長袖のメイド服を着用している。

 

(つか、着替えさせられた時に普通に気づくだろ)

 

この時、俺の下着姿を見た従業員の反応。

 

従1 「あなたみたいな人でも、男物の下着を履く人がいるのね・・・まぁ、人それぞれだし」

従2 「胸が寂しいけど、体が引き締まってるし、スタイルとルックスは満点ね。いや〜、店長も良い人見つけたわぁ」

 

普通ありえないよね、この反応・・・

 

(あ〜、スースーして気持ち悪いし、スパッツなんて履いたことないから、違和感が・・・)

 

でもまぁ、女性の下着を履くよりはマシだよな・・・

 

獅 「で? どうして、俺達を?」

女 「女の子が"俺"とか、言っちゃいけないわよ。ちゃんと、"私"とか"僕"じゃないと。それにもっと愛想良くね・・・」

 

さっきから、俺が男だって言ってるのだけどね・・・

それなのに、この人はまったく信じてくれず、俺の黒歴史的、服装されているという訳だ。

ちなみに、女性は俺とラウラと、同じタイプの飾り気の多いメイド服を着用している。

 

獅 「・・・わ、私達はなんで、ここに連れてきたんですか?」

シ・ラ 「っ!?」

 

シャルロットとラウラは、俺の営業スマイルに驚き、女性は満足そうに頷く。

 

女 「よろしい・・・実はね、今日シフトの入ってた子が、急に倒れちゃって、まずその子達で4人と。それに辞めちゃった子が2人。辞めたっていうか、駆け落ちしたんだけどね。ははは・・・」

 

じゃあ、あれか。俺たち3人で、その6人の穴を埋めなきゃいけないって事か・・・

 

女 「でもね、今日は本社から視察する人が来る超重要な日なのよっ! だから、あなた達に手伝ってもらいたくて・・・だから、お願いっ!」

 

お願いって言われても・・・こちとら、強引に連れ込まれ、着替えさせられている訳で、今更やめるって言っても、後々心苦しいだけだ。

 

シ 「そ、それはいいんですけど・・・」

女 「はい?」

 

事情を知ったシャルロットは、控えめながらに問いかける。

 

シ 「なぜ、僕は執事服なのでしょうか?」

 

ここの店・・・つまり、女性向けの喫茶店なのだが、男性は執事服、女性はメイド服で接待するらしい。まぁ、メイド喫茶みたいなものなのだろう。

 

女 「だって、ほら! 似合うもの! そこいらの男なんかより、ずっと綺麗で格好良いもの!」

シ 「だったら、獅苑君のほうが・・・」

女 「いや〜、私も執事服のほうが合うと思ったんだけど、予備の執事服がなくてね。それに、メイド服のほうなら、この子の方が似合ってると思うしね」

シ 「そ、そうですか・・・」

 

ガクッとうなだれるシャルロットに、女性はシャルロットの手を握り、慰めたつもりなのか・・・

 

女 「だ、大丈夫! すっごく似合ってるからっ!」

シ 「あはは・・・ありがとうございます」

 

引きつった笑顔でお礼を述べるシャルロットを見ていると、シャルロットはこちらを向いて・・・

 

シ (いいな〜、僕もメイド服着たかったのに・・・)

 

目がそう語っていた。

 

従3 「店長〜、早くお店手伝って〜!」

 

フロアから、ヘルプを求める声が届き、女性・・・店長は最後の身だしなみを整え、着替え室の出口に向かう。

 

シ 「あ、あの、一ついいですか?」

女 「ん?」

シ 「このお店、なんて言うんですか?」

 

女性は笑みを浮かべ、スカートの端をつまむ。そして、大人びた容姿に似合わない可愛らしいお辞儀する。

 

女 「お客様、@(アット)クルーズにようこそ」

 

 

投稿者SIDE

 

 

従4 「デュノア君、4番テーブルに紅茶とコーヒーお願い」

シ 「わかりましたっ」

 

シャルロットはカウンターから受け取った飲み物を、@マークの刻まれたトレーに乗せる。

初めてのアルバイトだというのに、その立ち居振る舞いには物怖(ものお)じした様子はなく、堂々としている。

そんなシャルロットの姿に、従業員達は、ほうっと息を漏らし、お客・・・主に女性客が見入っていた。

 

シ 「お待たせいたしました。紅茶のお客様は?」

女客1 「は、はい!」

 

自身の方がシャルロットより年上のはずなのに、女性客は緊張していて、返事が上ずってしまった。

 

シ 「お砂糖とミルクはお入れになりますか? よろしければ、こちらで入れさせていただきますが・・・」

女客1 「お、お願いします・・・え、ええと、砂糖とミルク、たっぷりで」

女客2 「わ、私もそれでっ」

シ 「かしこまりました。それでは、失礼します」

 

柔らかの笑みを浮かべ、シャルロットの白く美しい指がコーヒースプーンをそっと握る。

そして、スプーンのつぼに入れた砂糖をカップに加え、次にミルクも加えられ、中を静かにかき混ぜる。

 

女客1・2 [ゴクッ]

シ 「・・・どうぞ」

女客1 「あ、ありがとう・・・」

 

シャルロットの手元から差し出されたカップを受け取り、どきまぎした様子で、カップに口を付ける。

次の女性客も、シャルロットからカップを受け取り、もう一人と同じ様にカップに口を付けた。

 

シ 「それでは、何かありましたら何なりとお呼びください、お嬢様」

 

綺麗なお辞儀をし、次のお客様の元へ向かうシャルロットの姿は、まさに『貴公子』

さっきまで、接待されていた女性客は、シャルロットの接待が物足りないのか、今、接待されている客を羨ましそうに見ていた。

 

シ (ふぅ、接待業って、やってみると結構大変だね・・・ラウラと獅苑君は大丈夫かな?)

 

辺りを見渡すシャルロットの視野に、ラウラが入る。

そこには、ちょうどラウラが男性客3人に、注文を取っていた。

 

男客1 「ねぇ、君可愛いね。名前教えてよ」

ラ 「・・・」

男客2 「お店終わるのいつ? その後、一緒に遊び[ダンッ]・・・え?」

 

半ば叩きつかれたコップは、大きな音と共に、大きな滴をテーブルに散らかす。

 

ラ 「水だ。飲め」

 

ぞっとするほどの冷たい声で、言い放つが、馬鹿な男達は引き下がらない。

 

男客3 「こ、個性的だね。もっと君の事よく知りたくなっ・・・あ、あれ? どこ行くの?」

 

男性客の台詞の途中で、オーダーを取ることなく、テーブルから離れる。

そして、カウンターに着くなり何かを告げ、出されたコーヒーを持って、さっきのテーブルに戻っていく。

 

ラ 「飲め」

 

カップが割れてしまう恐れがあるため、さっきより多少優しく、カップをテーブルに置く。

だが、それでも置いた力が強かったのか、弾んだカップの中のコーヒーは激しく揺れ、零れた。

 

男客1 「え、えっと、コーヒーを頼んだ覚えは・・・」

ラ 「何だ。客でないなら出て行け」

男客2 「そ、そうじゃなくて、他のメニューも見たいわけでさ・・・た、例えば、コーヒーにしても"モカ"とか"キリマンジャロ"とか・・・」

 

男性客の言葉を聞いたラウラは、まったく目は笑ってないが、その顔は嘲笑を浮かべた。

 

ラ 「はっ。貴様ら凡夫(ぼんぷ)に違いが分かるとでも?」

男客2 「いや、その・・・すみません・・・」

 

ラウラの冷徹な視線と、嘲笑に折れて、男達はコーヒーをすする。

 

ラ 「飲んだら出て行け。邪魔だ」

男客 「「「はい・・・」」」

 

ラウラの誰も寄せ付けない態度に、誰しもが脅え恐れていたが、外見が美少女ならば、その態度も魅力の一部になる。

そのおかげで、店内の男性客の殆どが、同じ様に接客されたいと、熱い視線を送り、一部のテーブルでは異様な興奮を見せていた。

 

ラ 「あっ 姉上・・・」

 

ラウラの発言に、店内の客が一斉に、厨房から出てきた獅苑の方に向く。

フロアと調理の両方をこなし、3人の中では唯一のバイト経験がある獅苑は、メイド服の上にエプロンをつけて、頭には即席の白い三角巾がつけられている。

 

ラ 「どうかなされ [ゴチンッ!]・・・な、何を?」

 

獅苑とラウラの距離が、手を伸ばせば届く辺りで、獅苑の拳がラウラの頭に振り下ろされた。

 

獅 「お客さんにあいゆう態度は取るな。言ったろ、普通の人と変わらない事をするのもいい経験になると。今のお前の態度は、それを反している」

ラ(獅 「し、しかし、それはあいつらが 「言い訳はいい。お前が悪いとは言わないが、自分に非がある事を認める事も、お前自身には必要な事だ」・・・」

 

店内全員が、次のラウラの言葉を固唾を飲み込みながら、見守る。

 

ラ 「分かり、ました・・・」

獅 「よし、いい子だ」

全 [ズドキュュン!!]

 

さっきまでの絶対零度の不陰気をかもし出していたラウラが、親に怒られている子供の様な豹変ぶりに、周りの客は驚き、心がときめた。

そして、自分の悪い所を理解した子供を褒めるように、頭を優しく撫でる獅苑に、老若男女問わず、心を奪われてしまっていた。

 

男客3 「そ、そうだ、俺らは客だぞ。そんな態度で接客するなんて、ど、どど、どうかしてる!」

 

恐怖でどもりながらも、席を立って、ラウラに言い放つ。

 

ラ 「なんだ、まだいたのか。さっさと消えたらどうだ?」

男客3 「うっ・・・お、おい! お前っ!」

獅 「? 私でしょうか?」

 

営業モードに戻る獅苑に、男性客は指を指して、ほかの男性客×2が、3人横に並ぶ。

 

男客3 「お、お前が、こ、ここ、こいつをちゃんと教育しないから、お、お、俺達がこんな目に合うんだ!」

男客1 「そ、そうだそうだ!」

男客2 「非礼ぐらいはしてくれないとな・・・」

 

男性客の矛先が、メイド服を着用して、クールさ半減、可愛さ二乗された獅苑に向けられる。

 

ラ 「き、貴様っ! 姉上にそんな口を聞いて[スッ]・・あ、姉上?」

 

ラウラが男性客に飛び掛ろうとした瞬間、獅苑が手をラウラの前に出す。そして、ラウラを置いて、男性客の前に立った獅苑は深々と頭を下げる。

 

獅 「もうしわけございません」

全 「っ!?!?」

 

この場にいたすべての人が、獅苑の行動に驚きを隠せず、手に持っていたフォークや、カップを落とす。

女尊男卑である世の中には、女性が見知らぬ男性をパシリに使う事などが、日常三時に起きていて、男性も文句も一つも言わない。

そんな世の中で、女性(獅苑)が男性客に頭を下げている事は、誰しも驚愕する。

 

ラ 「あ、姉上が頭を下げる必要はありません!」

 

自分の敬愛する人が、男相手に頭を下げている事に、ラウラは獅苑の体を起こそうとして、男性客を睨みつける。

 

獅 「下がってろ」

ラ(獅 「し、しかし、このまま「下がってろと言ってる」・・・はい」

 

ラウラにしか聞こえない音量で、ラウラを下がらせる獅苑は、営業スマイルを浮かべ、体を起こす。

 

男客1 「さ、さて、どう落とし前つけてもらおうかな?」

獅 「その前に一つよろしいでしょうか?」

男客3 「な、なんだよ・・・?」

獅 「こちらに非があることは認めます。ですが、この子はまだ経験が少なく、失敗する事もあると思います。ですから、今回は許していただけないでしょうか?」

男客2 「はぁ? 仕事に経験の有無じゃないんだよ。そんなに許して欲しいなら、メイドらしい事してもらおうじゃねぇか・・・」

 

調子に乗り始めた一人の男性客に、残りの男性客が慌てて止めに入る。

 

男客1 「お、おい。それはさすがに・・・」

男客2 「いいんだよ。お前達も舐められてていいのか?」

男客3 「そ、そりゃ、嫌だけど・・・」

男客2 「だろ。だから、この姉ちゃんに、これまでの俺達の苦しみを・・・って、おい!」

獅 「・・・何か?」

 

のん気に席に座って、コーヒーを上品に飲んでいる獅苑に、男性客が一喝。

 

男客2 「何か? じゃないだろっ!」

獅 「いえ、話が長かったので・・・」

男客2 「こ、このアマっ!」

男客1 「あ、馬鹿っ!」

 

頭に血が上った男性客は、自分達が利用していたテーブルに置いてあるコーヒーカップを、獅苑に投げつける。

 

獅 「おっと・・・」

 

だが、獅苑は慌てず、中身のコーヒーを零さず、キャッチ。

 

男客2 「くそっ!」

 

さらに苛立った男性客は、獅苑に殴りかかる。だが、その手は獅苑の手の平で、易々と止められる。

 

獅 「・・・お客様。お客様は何か、勘違いをされてるのでは?」

男客2 「何っ?」

 

受け止めた手を離さず、営業スマイルを浮かべている獅苑だが、その目には黒い炎が灯っている。

 

獅 「当店は、可愛い女の子をナンパする所でもなければ、従業員に手を出す場所でもございません」

男客2 「だ、だから、どうしたっていうんだ・・・?」

 

さっきまでの獅苑とは、何かが違うと感じた男性客は、ちょっと引き気味になりながらも、強気の姿勢を保とうとする。

 

獅 「どうした・・・ね」

男客2 「えっ? おぶっ!!!」

 

男性客の股間に、獅苑の膝蹴りが入る。

男性客は、その場に倒れこみ、両手で股間を押さえつけながら悶絶している。

店内の男性客全ての人が、自らの股間を押さえており、女性客もこればかりは、蹴られた男性客に同情をしていた。

 

獅 「・・・お帰りいただけないでしょうか?」

男客1 「は、はいーっ!」

男客3 「い、今すぐにっ!」

 

上ずった声で、悶えている男性客を二人で担いで、店を出て行く。

 

獅 「はぁ・・・」

 

どっと疲れた獅苑は、反転し、後ろにいたラウラの頭を撫でる。

 

獅 「よく我慢した」

ラ 「・・・///」

 

握り締められていたラウラの手が、スッと力が抜け、この事に気づいてもらえたのが嬉しく、そして恥ずかしいのか、俯いた顔は赤く、そして無邪気の笑みが零れていた。

 

女客3 「超かっこいい・・・」

女客4 「うん。なんか、こう、ドキッて来た・・・」

 

女性客達は胸の高鳴りと同時に、頬が赤くなっており、男性客も心強くて、厳しく、だが逆に、優しさが見え隠れする獅苑の姿に、"抱かれたい女性"として、認識し、心臓が飛び出てしまいそうになる。

 

獅 「シャルロットも、ありがとう」

シ 「・・・ラウラには撫でて、僕には撫でてくれないの?」

獅 「っ・・・ああ、そうだったな」

 

シャルロットの所望に答え、頭を撫でる獅苑。それを、まだ撫でたりないのか、ラウラが羨ましそうに見ている。

店内の客全員は、今、働いている従業員の中ではトップである三人の、ほのぼのとしたやり取りを見て、心を潤していた。

 

獅 「じゃあ、厨房に戻る。初バイト、頑張れよ、二人とも」

ラ 「はい!」

シ 「獅苑君も頑張ってね」

 

獅苑は即席の三角巾を結び直し、厨房へ。そして、二人も仕事に戻る。

 

【2時間後】

 

男性客のイザコザから、三人の指名オーダーが殺到。まさかの事態に対応に困ってるところを、店長の的確な指示により、客をどんどんさばいていった。

さすがに、三人の精神的 疲れが出始めた頃に、事件が起きる。

 

強盗1 「全員、動くんじゃねぇっ!!」

 

店内に、雪崩れ込んで来た男6人。

黒いジャンバーにジーパン。顔には覆面をし、手には銃。そして、一人の男が持っているバックから、1万円札が何枚かがちょろっと顔を出している。

店内の客は、一瞬、何が起こったのか分からず、呆けていたが、男達が強盗だと気づくと、一人の女性が悲鳴を上げる。

 

強盗1 「騒ぐんじゃねぇ! 静かにしろっ!」

 

強盗の声にシーンと場が静まる。だが、強盗の服装に関して、皆が一致する思いがあった。

 

全 (・・・服装、古くない?)

 

二十世紀の漫画に出てくる強盗の格好とほぼ同じで、中には笑いを堪えてる客も。

しかし、相手は銃を持っている事から、危険人物な事には変わりなかった。

 

強盗2 「ど、どうしましょ兄貴! このままじゃ・・・」

 

店外には、パトカーによる道路封鎖と、対銃撃装備の警官達が包囲網を作っていた。

 

強盗1 「うろたえるんじゃねぇ! こっちには人質がいるんだ、強引な真似はできねぇさ」

 

リーダー格の男が、逃げ腰の5人に告げる。

 

強盗3 「へ、へへ、そうですよね。俺達には"これ"がありますものね・・・」

 

手に持ったショットガンのフォアエンドを引いて、上に向けて威嚇射撃。

蛍光灯が破裂し、辺りに破片が散らばる。

 

女客5 「きゃああああぁっ!!!」

強盗1 「大人しくしやがれっ!」

 

悲鳴をあげる女性に対して、今度はリーダー格の男が手に持っているハンドガンを女性客に向けて撃つ。

だが、その弾は女性客に当たる事無かったが、女性客は顔面蒼白になりながらも、自分の口を塞いで、声が漏れないようにする。

 

強盗1 「それでいいんだ。俺達の言う事を聞けば、殺しはしねぇよ・・・おい、聞こえるか警官共!?」

 

威勢よく、外にいる警官に向かって、人質の安全を約束して車の用意を要求する。

 

強盗1 「もちろん、発信機や追跡車なんか つけるんじゃねぇぞっ!!」

 

そう言うと、警官に向けての一斉射。幸い、パトカーのフロントガラスを割っただけであったが、周囲の野次馬達がパニック状態に陥り、警官が必死に場を落ち着かせようと動き出す。

 

強盗4 「へへ、奴ら大騒ぎしてやすぜ」

強盗5 「平和な国ほど、犯罪がしやすいって話、本当ッスね!」

強盗1 「まったくだ」

 

人質がいる事に余裕を見せている強盗達の顔は、笑みが零れる。

その強盗達を目立たないようにしゃがみつつ、観察するシャルロット。

 

シ (ショットガンとマシンガンを持つ人は、それぞれ一人。ハンドガンは、リーダーと男二人。あれだけの装備を一体どこで・・・?)

 

だが、今考えても謎は解けない。なので、シャルロットは残った一人の強盗に目を移す。

 

シ (で、あの人は・・・荷物持ち?)

 

大量の万札が入ったバックの傍に、ずっと、ビクビクしながら立っている男。

服装は皆と同じだが、武装らしいものは持っておらず、店外にいる警官達をチラチラと見て、その警官がこちらを見ると、ビクッと体を震わせていた。

 

シ (あの人は、戦力にはならないと思うけど・・・う〜ん、でも、今は下手に動かない方がいいね・・・そういえば、ラウラと獅苑君は?)

 

辺りを見渡すと、そこにただ一人、テーブルの拭き掃除を行っているラウラを発見。

だが、シャルロットがラウラを見つける時には、強盗達もラウラの存在に気づいていた。

 

強盗1 「おい! 大人しくしろって言っただろうがっ!」

 

強盗の怒号にラウラはチラッと強盗を見ただけ。すぐに向き直り、テーブル拭きを再会する。

 

強盗1 「こ、このガキッ!」

 

ジャキッと、銃口をラウラの方に向ける。

 

強盗4 「ま、まぁまぁ兄貴、いいんじゃないでやすか。時間はありやすし、この子に接待してもらいましょうや」

強盗1 「ああ? 何言ってるんだ?」

強盗2 「だ、だって、すごく可愛いじゃないですか、あの子!」

強盗3 「俺も賛成!」

強盗5 「俺もッス!」

強盗1 「お前らまで・・・ふん、まぁいい。ちょうど喉が渇いたところだ・・・おい! そこの奴、メニュー持って来い」

 

呼ばれたラウラは頷く事無く、カウンターへ。すると、カウンターと厨房の間で、ラウラが誰かと喋っている。

 

強盗1 「・・・おい、見て来い」

強盗4 「へ、へいっ」

 

強盗の一人が、ラウラに気づかれないように、厨房へと向かう。その間にラウラが、氷満載のお冷を出す。

 

強盗1 「・・・なんだ、これは?」

ラ 「水だ。飲め」

 

ブチッと、リーダーの何かがキレ始める。

それを、二人がかり押さえつけ、何とか静めようとする。

 

強盗5 「いや、あのね、メニューがほしいんッスけど・・・」

ラ 「黙って飲め。飲めるものならな・・・」

 

ラウラの言葉に、ついに リーダーがブチ切れ、銃口をラウラの眉の間に向ける。

が、この状況にラウラは笑っている。

 

ラ 「言ったろ。飲めるものならと」

 

そう言うと、氷満載のコップに乗せてあったトレーをひっくり返し、もちろん、コップに入ってた氷は、宙を舞う。

その宙に舞った氷を全て、ラウラがリーダーに向けて弾く。

 

強盗1 「いってえぇ!!」

強盗2 「あ、兄貴っ!」

強盗3 「て、てめぇ! 兄貴に何しやがっ[ドゴッ]」

 

怒号よりも早く、強盗に膝蹴りを入れるラウラ。

 

強盗1 「っざけんじゃねぇ!! ぶっ殺してやるっ!!」

 

そして、氷による指弾でダメージを負っていたリーダーが、今度こそ銃を発砲。

だが、その銃弾の雨を、ラウラはテーブルや観葉植物などを盾にして、戦場で鍛え抜かれた反射神経と、瞬発力で後退する強盗達に接近。

 

強盗2 「あ、兄貴! コイツはっ!」

1(シ 「うろたえるなっ! たかが、ガキ一人だ! すぐに片付け「それが、一人じゃないんだよねぇ。残念ながら」・・・え?」

 

リーダーの後ろに、ラウラが機を待たず 戦闘開始した事に、ため息を吐くシャルロットがいた。

 

強盗1 「チッ、このっ!」

 

リーダーが咄嗟に、銃のグリップで殴りかかろうとするが、シャルロットは足でリーダーの顎を蹴り上げる。

 

シ 「執事服で良かった。これなら、思いっきり足上げても平気だし」

強盗2 「こ、このっ!」

 

ショットガンをシャルロットに向け構える。

その瞬間・・・

 

[バンッ!]

強盗2 「ああっ!?」

 

ショットガンの銃口に銃弾がめり込み、暴発。強盗は咄嗟にショットガンから手を離し、大した怪我はなかったものの、シャルロット蹴りで昏倒されてしまった。

 

獅 「・・・」

シ 「し、獅苑君?」

 

銃弾を放った人物は獅苑。手には強盗が持っていただろうハンドガンが、なぜか握られている。

 

強盗1 「て、てめぇ、なんでそれを・・・あいつはどうしたっ!?」

獅 「・・・寝てる」

 

厨房には、様子を見に来た強盗が、白目を剥いて床に寝ていた。

 

強盗3 「くそーっ! なんで、こうなるんだよっ!」

 

強盗の一人が、マシンガンを獅苑に向けて乱射しようとするが・・・

 

ラ 「姉上に手は出させないっ!」

強盗3 「がはっ!」

 

強盗が持つマシンガンを手ごと弾き飛ばされ、床にうつ伏せで倒される。

 

強盗5 「後ろががら空きッスよ!」

シ 「そっちもがら空きだよ!」

 

ラウラが床に倒した強盗を拘束していると、後ろから襲いかかる強盗。

だが、その強盗の後ろにもシャルロット。

 

強盗5 「へ?」

 

強盗は間抜けた声で振り向いた。その時にはシャルロットの足が強盗を蹴り上げ、そのまま強盗の肩にかかと落としを決める。

 

強盗5 「がぁあ!」

 

けたたましい叫びと共に、床に転がり肩を抑える強盗。

 

シ 「あまり、動かない方がいいよ。肩外したから」

 

ニコッと笑いながら言うシャルロットに、肩を外された強盗から血の気が引く。

 

強盗1 「てめぇら! 忘れたのか? こっちには人質がいるんだぜっ!」

シ・ラ 「っ!!」

 

@クルーズの女性従業員のこめかみに銃を突きつけるリーダー。それを見た二人の動きは止まる。

 

強盗3 「くっ・・・よくも舐めた真似をっ!」

ラ 「うっ!」

シ 「ラウラっ!」

 

ラウラが抑え込んでいた強盗に殴られ、シャルロットが倒れこむラウラを支える。

 

強盗3 「おい! いつまで寝てるんだ!」

強盗5 「か、肩外れてるんッスから、蹴らないでくださいッス・・・」

 

強盗を強盗に肩を貸して、起き上がらせる。

 

強盗3 「おっと、動くないでよ。君達が何かしたら、人質が・・・バンッ だから」

シ 「くっ・・・」

 

シャルロットの顔に焦りが見え始めるが・・・

 

ラ 「ふふ、あはははっ」

全 「え?」

 

この場でラウラだけが笑っている。

 

強盗1 「てめぇ! なんで笑ってやがるっ!?」

ラ 「なんで? 笑いたくもなるだろう。貴様らはもう終わりだからな」

強盗1 「どういう事だっ!?」

 

余程の興奮と、怒りを見せているリーダーは、顔を真っ赤にして問いかける。

だが、そこに生き残った二人が近づいていく。

 

強盗3 「所詮は子供が言う事。どうせ、強がりですよ」

強盗1 「そ、そうか・・・俺とした事が、つい熱くなっちまった」

 

落ち着きを取り戻したリーダー。

だが、一人の強盗が何かに気づく。

 

強盗5 「そういえば、あのイカス姉ちゃんは、どこに行ったんッスか?」

強盗3 「あの時以来、見かけませんね」

強盗1 「ふん、どうせ逃げたか、隠れてるんだろう。まぁそれも、こっちには人質がいる事だし・・・」

 

ハンドガンの引き金に掛け直したリーダーは、店内に響くように叫ぶ。

 

強盗1 「人質がどうなってもいいのかっ!? さっさと出てきやがれぇ!!」

獅 「出てますけど」

 

リーダーの腕からの声。

すると、人質が被っていた かつらが取れ、前髪に緑が入っている特長的な髪が現れ、それが獅苑だと、ラウラ以外の皆がすぐに分かった。

 

強盗1 「お、おまっ、いつの間 むぐっ!」

獅 「さっきから」

 

リーダーからの腕から逃れ、片手でリーダーの顔を鷲掴みする。

 

獅 「さいなら」

 

大きく振りかぶって、残りの強盗二人に向けて投げつける。

 

強盗 「「「ガクッ・・・」」」

 

壁に叩きつけられた強盗達は昏倒する。

 

獅 「あ〜、お前は起きてくれ」

 

片手で胸倉を掴み上げ、強盗の頬を叩く。

 

[ベシッ ベシッ ベシッ]

強盗3 「うぅ・・・」

獅 「起きた起きた・・・じゃあ、遠慮なく」

強盗3 「ぶほっ!」

 

持ち上げたまま、殴り続ける。そして、止めの膝蹴りが・・・

 

強盗3 「あふぁうわっ!!・・・」

 

見事に股間に命中。

 

獅 「義妹を殴った罰だ。これぐらいで済んで良かったな」

 

強盗を投げ捨て、次は三人に恐れをなした最後の強盗を見る。

 

強盗6 「ひっ ひえぇぇぇ!!!」

獅 「・・・?」

 

強盗は悲鳴を上げ、バックを置き去りして外に逃げ出した。

でも、忘れてないだろうか、外には・・・

 

強盗6 「ああぁ! 助けてくれぇ!!」

 

見事に御用になった強盗。

 

獅 (・・・アホ)

 

強盗が警官に抑え付けられ、警官が喫茶店に突入するため、こちらに走り出す。

 

ラ 「日本の警察は優秀だな」

獅 「アホ、さっさと出るぞ」

シ 「こっちから出れるよ!」

 

非常口を指すシャルロットの元に、獅苑とラウラが向かう。

 

強盗1 「ああくそっ! 捕まってムショ暮らしになるんだったら、いっそ全部吹き飛ばしてやらぁ!!」

 

意識を取り戻したリーダーが上着を剥ぎ、その中には腰に巻かれたダイナマイト。

 

獅 「ご自由にどうぞ」

強盗1 「このアマが舐めやがってぇ!!!」

 

手に持ったリモコンの爆破スイッチを押す。

 

[シーン・・・]

強盗1 「あれ?」

 

何度押しても、爆弾は爆発しない。

 

強盗1 「ま、まさか・・・」

 

リーダーは気づいたようだ。獅苑を人質にした時点で、爆発物に気づいていた事を・・・

その事に、緊張の解けた人質達は盛大に笑いこける。

 

強盗1 「て、てめぇら〜!!」

 

地面に落ちている拳銃を拾うとするも、すべてが踏み潰されていて、使い物になっていなかった。

 

獅 「すみません、お客様。つい、踏んでしまいました」

強盗1 「くそ〜・・・」

 

リーダーは成すすべなく、膝をつく。

 

シ 「つまり・・・」

獅・シ・ラ 「チェック・メイト」

ラ 「だな」

 

 

獅苑SIDE

 

 

獅 「もう夕方か・・・」

 

店の事件の後、警官やマスコミに見つかる事無く、現在帰宅中。

ちなみに服は、二人が買い物中に、俺が店に行って回収してきたため、メイド服や執事服ではない。

 

(もう、二度と着たくない。あんなもの・・・)

シ 「獅苑君!」

獅 「え・・・何だ?」

 

俺の隣で買い物袋を持っているシャルロットが呼びかけていた。

 

シ 「もう、いくら話しかけても反応がないんだもん」

ラ 「姉上、どこか具合が悪いんですか?」

 

シャルロットとは逆の位置にいるラウラが、心配そうに俺を見つめる。

 

獅 「いや、大丈夫だ・・・で、何だ?」

シ 「いや、あのかつら、どうして持っていたの?」

獅 「ああ、それはな・・・盗んだ」

シ・ラ 「えっ?」

獅 「冗談だ」

 

ふう、と胸を撫で下ろす。

 

シ 「もう! 獅苑君が冗談を言うと、信じちゃうでしょ!」

獅 「そうか、悪い・・・」

シ 「それで? あのかつらはどうしたの? 今は持ってないようだけど・・・」

獅 「・・・どっかに置いてきた」

シ 「置いてきたって・・・はぁ、まぁいいけど」

 

諦めて引いたシャルロット。ラウラはそれ以前に興味がないようで、俺があげた飴を舐め始めた。

 

ラ 「そういえば、姉上。銃の扱いが手馴れてましたけど、誰かに手解きをしてくれてたんですか?」

獅 「いや、勝手に出来た」

 

手に持って、実際撃ってみると、見事に命中。それに対して俺自身、驚いていた。

 

シ 「ほんと、メチャクチャだね。獅苑君は・・・」

ラ 「姉上だからなっ」

 

ラウラが胸を張る。

 

シ 「ラウラが威張る事じゃないのに・・・」

ラ 「あ、すみません・・・」

獅 「いいさ。誰かに誇られるのは嫌いじゃない」

 

ラウラは沈んでいた顔がパァッと明るくなる。

桜並木で二人の談笑を後ろから聞いていると、腰につけたチェーンが一瞬、ブルッと震えた。

 

獅 「・・・悪い、先に帰っててくれるか?」

シ 「え、どうしたの?」

獅 「ちょっとな・・・」

ラ(獅 「やっぱり、具合が「大丈夫だって」・・・分かりました」

 

頭を撫でてやると、恥ずかしそうに俯く。名残惜しいが、ラウラから手を離し、俺が持っていた荷物を二人に渡す。

 

シ 「じゃあ、後で部屋に来てね。見せたいものがあるから」

獅 「分かった」

ラ 「では、また後ほど・・・」

 

二人が夕日が照らす道を歩いていく。俺は二人の姿が消えるまで待ち続け、この場にいるもう一人に声をかける。

 

獅 「・・・もう出てきていいぞ、コウ」

コ 『ふぅ、やっと出られたー!』

 

勢い良くチェーンから飛び出したコウ。

 

コ 『うん! この解放感、気持ちいいなぁ!』

 

俺の周りをグルグルと高速で回り続けているコウ。

 

獅 「悪かったな。ずっと閉じ込めちゃって」

コ 『ん? 別に気にしなくていいよ。僕自身、自分の立場は分かってるもん』

獅 「ありがとう」

コ 『ははっ♪ 褒められちゃった・・・あっ』

 

コウが人の気配に気づいて、チェーンに戻る。

もちろん、俺自身も気づいているため、気配がしたほうに体を向ける。

 

黛 「あ・・・」

獅 「?」

 

女子高生の様だが、俺を見るなり、ダッシュでこちらに向かってくる。

 

黛 「朝霧獅苑君だよね!?」

獅 「はい・・・」

 

俺に詰め寄ってくる女子。

 

獅 「・・・どちら様?」

黛 「何忘れちゃった? 織斑君のクラス代表決定パーティで会った黛薫子よ」

 

・・・そういえば、この人のボイスレコーダー、大破させたな、俺・・・

 

黛 「う〜ん・・・やっぱり、たっちゃんが言ってたより、無愛想ね」

 

ほっとけ。

 

獅 「たっちゃんって、まさか楯無さんか?」

黛 「そうそう、そのたっちゃん・・・ああ! こういう時に限って、マイク(ボイスレコーダー)がないのよ」

 

持っていたバックを、ド〇〇〇んの様に漁っている。バックの中に入っていた物が、地面に零れ落ちていく。

 

獅 「ん?」

 

零れ落ちた物の一つに興味深いものが・・・

 

獅 「・・・これ、借りていいか?」

黛 「え? あ、いいけど・・・その代わりに、いつかインタビューしに来るから、よろしくね。今度は壊さないでよマイク」

 

・・・まぁ、いいか

 

黛 「それより、落ちた物を拾ってくれないかな?」

獅 「はい」

 

 

シャルロットSIDE

 

 

ラ 「シャルロット、これはなんだ?」

 

部屋のベットにて。

夕食を食べ終え、さっそく、ラウラのために買った寝巻き・・・猫の着ぐるみを、お互いに着用。足は露出し、猫耳のフード、そして、手と、専用の靴下には肉球がついている。

ちなみに、僕が白猫で、ラウラが黒猫だ。

 

シ 「ん〜、可愛いっ すっごく似合ってるよ!」

ラ 「だ、抱きつくなっ!」

シ 「えー、獅苑君はいいのに、僕は駄目なの?」

ラ 「あ、姉上は、特別だ・・・」

 

むっ、なんか嫉妬しちゃうな〜

 

ラ 「それより、これはパジャマなのか?」

シ 「うん、そうだよ。寝やすいでしょ」

ラ 「寝てないのに分かるわけがないだろう・・・やはり、寝ている時は裸でいい。その方が楽だ」

 

ジタバタと膝の上で、もがき服を脱ごうとする。

 

シ 「駄目だってば〜! 脱ぐなんてもったいないよ。それに、猫っていうのは、膝の上でおとなしくしないと」

ラ 「お前も猫だろうが・・・」

シ 「あ、ラウラ。せっかくだから、"にゃ〜ん"って、言ってみてよ」

ラ 「こ、断るっ! な、なぜ、そんな事を!」

シ 「えー、だって可愛いよ〜。ほらほら、言ってみてよ〜、"にゃ〜ん"って」

 

心をワクワクしながら、お願いする。すると、ラウラは気恥ずかしそうに、暴れていた力が弱まり、顔を赤くする。

 

ラ 「にゃ、にゃ〜ん・・・」

シ 「わぁぁ! 可愛いっ! 可愛いよ、ラウラっ!」

 

テンションがMAXを突き破って、今にでも空を飛べそうな気分にまで到達する。

 

シ 「ね、ラウラ! 写真撮ろうよっ!」

ラ 「き、記録に残すだとっ!? 断固拒否するっ!!」

シ 「大丈夫なのかな〜? 獅苑君が来ちゃったら、もっと大変な事になるよ」

ラ 「うっ・・・」

 

だいたいの時は普通だが、寝ぼけている間だけは素が出てる事に、クラス全員がもう知っている。

今日のお礼に、ラウラの猫姿を見せる事が、今回の目的の一つでもあった。

 

[コンコン]

シ 「あ、来たみたい。どうぞ〜」

 

ラウラがビクッと身を震わせるが、次の瞬間には私も驚いてしまう。

 

一 「おっす。なんか、変わった服着てるな」

 

え、えええええぇっ! なんで、一夏が来ちゃうのっ!?

 

シ 「あ、え、う・・・」

ラ 「あ、姉上ではないのか?」

一 「ん? 獅苑か? 獅苑なら来れないとか言ってたけどな。"その代わり、お前がが行ったら?"って、言われて来てみた」

 

も、もしかして、バレてたっ!? 僕の作戦が獅苑君に・・・

だから、一夏を・・・?

だ、大丈夫かな? 変じゃないかな?

 

一 「それにしても、なんか二人揃って面白いっていうか、可愛いな」

シ・ラ 「か、可愛い・・・」

 

一夏が来た事によって、自分が着ている服を恥ずかしがっていると、一夏からのお褒めの言葉が。

 

シ 「あ、ああのさ、一夏・・・この服、可愛い?」

一 「おう。可愛いと思うぞ。黒猫と白猫って、チョイスがまたいいな。二人とも似合ってる」

シ 「そ、そっかぁ。似合ってるかぁ・・・」

ラ 「う、うむ、お前にそう言われると悪くないな。と、時々着てみることにしよう」

 

あれほど、着るのを嫌がっていたラウラが、一夏の言葉で難なく堕ちた。

 

一 「そうだ。獅苑がな、ココアクッキー作ってくれたみたいでさ、一緒に食べようぜ」

シ 「じゃ、じゃあ、僕、お茶用意するねっ」

一 「いや、その手じゃ無理だろう」

 

一夏の指摘に手のひらを見て、自分の手が肉球バンドだった事に気づく。

 

一 「ホットミルクでいいよな? ちょうど、子猫が二匹いることだし」

シ 「え、あ、うん・・・」

ラ 「ま、任せる」

 

"子猫"と、呼ばれた事に顔が赤くなる。それは、ラウラも同様だった。

 

シ 「?」

一 「ん? どうした、シャル?」

シ 「う、ううん。なんでもないよ・・・」

 

なんか、一夏の襟に光るものがあったけど、気のせいだよね・・・

 

夏の夜。一室の部屋で、王子様と、黒猫一匹、白猫一匹のお茶会が行われた。

 

 

獅苑SIDE

 

 

獅 「あー! ナデナデしたかったな〜」

本 「きょ、今日はなんか過激だね〜・・・」

簪 「く、苦しい・・・」

 

ラウラとシャルロットへのサプライズとはいえ、二人の猫着ぐるみ姿を見れなかった事に、俺の心にポッカリと穴が開く。

だが、本音と簪をベットの上で抱きかかえているだけで、今日の疲れが癒され、心の穴がどんどん埋まっていった。

 

(そういえば、映像、ちゃんと届いたかな?)

 

 

投稿者SIDE

 

 

ク 「こ、これは・・・」

隊員1 「核兵器並・・・いや、それ以上」

 

一夏の襟につけられた、黛から借りた小型カメラ。その映像を、端末機に無線で繋ぎ、そこからクラリッサの基地にまで、リアルタイムで送り続けていた。

そのため、巨大モニターの前では、より近くで拝みたいと、隊員で殺到。

すでに、出血多量で倒れた隊員も何人もいたとさ・・・

 

 

 

 

 

 

 

-2ページ-

2話

 

 

 

 

 

箒SIDE

 

 

[ブン ブン ブン]

箒 「ふぅ・・・」

 

汗で濡れた顔をタオルで拭い、竹刀を下ろす。

誰もいない部活棟。そこで、一人っきりで素振りを行い、時刻が8時を回った辺りで、シャワー室に入り、汗を洗い流す。

 

箒 「・・・獅苑」

 

IS暴走事件の際、私が一夏の安否を気にしすぎたせいで、獅苑を見捨てた形となってしまった。

だが、獅苑は無事帰還し、事件も誰一人欠ける事無く、解決したのだが・・・

 

箒 「・・・」

 

私の心には罪悪感が渦巻き、獅苑の名を聞くだけで、手が震えてしまう。

そのせいで、臨海学校が終わった後から一度も獅苑に会ってない。いや、会わない様にしている。

 

箒 「はぁ・・・」

 

シャワーの蛇口を閉め、バスタオルで体に付着した水を拭き取る。

 

箒 「いつかは、必ず・・・」

 

制服に着替え、部室棟を出る。

 

獅・箒 「あ・・・」

 

案の定、ジャージ姿の獅苑と遭遇してしまった・・・

 

(いや、"いつかは"と、決めたばかりだろう! なぜ、"今"なのだっ!)

 

だが、己を責めても、場は一転するわけじゃなく、現実は無常にも時を進める。

 

獅 「自主錬か?」

箒 「あ、ああ! そ、そうだ・・・」

 

手の震えを抑えきれず、声までも震えてしまう。

 

獅 「どうした?」

箒 「な、なんでもないっ!」

 

つい、大声を出してしまった。

 

獅 「・・・大丈夫か?」

箒 「っ!」

 

獅苑が私の顔を覗く様に尋ねてきた。その途端、私は獅苑を背に走り去ってしまう。

 

(一体何をしているのだ、私はっ!?)

 

謝る絶好の機会を、自らで失った事に後悔する。後ろを向くと、獅苑の姿は小さくなっているが、首を傾げている事は分かった。

そして、寮に戻った私は、自分の部屋に勢い良く突入。

 

鷹 「うわぁ!?」

 

案の定、私の同居人が驚く。

 

鷹 「ど、どうしたのよ、そんなに慌てて・・・?」

箒 「ふぅ・・・いや、なんでもない。風呂、使わせてもらうぞ」

 

走ったせいなのか、それとも獅苑と遭遇したせいなのか、着ていた胴着がまた、汗で肌に張り付いていた。

 

鷹 「それはいいけど・・・」

箒 「助かる」

 

シャワー室のドアを開き、着ていた胴着を脱ぎだす。

 

(次は、必ず・・・)

 

 

一夏SIDE

 

 

獅 「って事があった」

 

朝起きたら、獅苑が複雑な顔でトレーニングから帰ってきていた。

事情を聞いたところ、どうやら箒関係の事らしい。

 

(箒の奴、まだ獅苑の事を避けてるのか・・・)

獅 「どうしたらいいと思う?」

 

案の定、獅苑は自分に原因があるじゃないかと、不安になっているようだ。

 

一 「し、心配するなよ。どうせ、機嫌が悪かっただけさ」

獅 「・・・」

一 「・・・獅苑?」

 

突然、黙ってしまった獅苑が心配で、顔を覗き込む。

 

獅 [ドヨ〜ン]

一 「・・・」

 

獅苑の顔は今までに見たことないほど、沈んでいる。

 

一 「き、気にするなってっ! 明日には箒も機嫌良くなってるよ」

獅 「・・・」

一 「駄目だこりゃ・・・」

コ 『だね・・・』

 

獅苑から離れ、ベットに座り直すと、いつからそこにいたのか、コウが俺の隣で浮遊していた。

 

一 「獅苑って、友達とかに嫌われると、こうなるのか?」

コ 『知らないよ。僕が持ってる情報だと、中学時代に友達いなかったし。小学生の時も引越しして以来、友達はいなかったそうだよ』

一 「じゃあ、引越しする前って、どれくらい友達がいたんだ?」

コ 『一人』

一 「え? 一人?」

コ 『うん、一人。あ、でも、友達だったけど、好意を寄せてたみたい。それでも、その子と仲良くしてたよ』

 

驚いた、俺も小学校では色々あったけど、IS学園に入るまで友達が一人だった事はなかった。

 

コ 『だから、免疫がないんだと思うよ』

獅 「・・・」

 

だから、これほどまでに悩んでいるのか獅苑は。親友の箒が、自分を避けていて、自分が一体何をしたのかを・・・

 

(でも、原因は箒にあるし、箒が何かしない限り、状況は一転しないぞ)

獅 「・・・よしっ」

 

急に立ち上がる獅苑。

 

コ 『どうしたの?』

獅 「箒に会ってくる」

 

そのまま、部屋を出ようと、出口に向おうとする。

それを、俺は獅苑の腕を掴んで、

 

一 「お、おい、会ってどうするんだよ?」

獅 「とりあえず、謝ってくる」

一 「一体、何を謝るんだよ?」

獅 「・・・」

コ 『分からないでしょ?』

獅 「確かに・・・」

 

コウの発言で、再度ベットに腰をおろし、腕を組む。

 

獅 「・・・」

 

また、考え始める獅苑。

 

一・コ 「『はぁ・・・』」

 

 

投稿者SIDE

 

 

一 「って事があってな」

 

食堂のテーブルに、箒を抜いた、お馴染の4人と一夏が座っている。

話した内容はもちろん、今の獅苑と箒の関係だ。

 

一 「どうすればいいと思う?」

シ 「いや、どうすればいいって・・・」

鈴 「それ、本人達の問題でしょ。あたし達にどうしよもできないでしょ」

一 「いや、そうなんだけどさ。箒の事はみんな知ってると思うけど、あの様子じゃそう簡単に謝れないと思うんだけど」

 

一夏の発言にみんな頷く。獅苑の名を聞くだけで、顔色が悪くなるのは40話で確認済み。

 

ラ 「では、姉上は?」

一 「獅苑も駄目だ。自分が箒を怒らしたんじゃいのかって、勘違いしてる」

セ 「それで、獅苑さんは、今どこに?・・・」

本 「ギリーがどうしたの?」

 

5人の話の中に獅苑の名が出た事をすばやく察知した本音が、簪と共に話の輪に入る。

 

一 「ん?」

簪 「っ! 本音、先に戻るから・・・」

 

簪は一夏を見るなり、場から離れる。

 

本 「うん。わかった〜」

 

本音は、簪が一夏を嫌う事情を知っているため、いつもどうり"のほほん"とした、声で答えた。

 

谷 「あ、みんな、どうしたの?」

夜 「何々? 何の話?」

 

次に話の輪に入ってきたのは

谷本、夜竹、相川、鷹月。

 

鈴 「ちょうどいい所に!」

鷹 「え? 私・・・?」

 

箒と同室である鷹月ならば、今の箒の様子が分かるはずと、鈴を始め、鷹月に問い詰めてみるものの・・・

 

鷹 「う〜ん、そんなに変わった様子はなかったなぁ・・・なんで、そんな事を聞くの?」

谷 「私も気になる・・・」

鈴 「あ、いや、それは・・・」

 

主な原因は、ISの暴走事件の件がキッカケなため、詳しい事は一般人には伝えられない。

 

本 「ギリーって、オリムーと同室だから〜、それが原因じゃないのかな〜」

一(鈴 「お、俺っ「そ、そうなのよっ! ねっ、一夏っ!」・・・」

 

事件で起きた獅苑関係の事を、千冬から伝えられていた本音がフォローを入れた。

一夏はいきなりの振りに動転するが、鈴が間に入って一夏に目で"合わせろ"と伝え、うんうんと首を縦に振る一夏。

 

相 「えっ? それって・・・」

谷 「二人の乙女が、一人の男を奪う」

夜 「しかも、片方は禁断の同性愛。さらには略奪愛・・・」

 

三人の女子が勝手な妄想に盛り上がる。

この時、この3人と一夏以外の6人は、獅苑が一夏に好意を寄せていると勘違いされてる事に、心の中で涙ながら謝った。

 

セ 「コホンッ 話は戻しますけど、獅苑さんは今、どこにいるのですか?」

一 「あ、ああ、部屋にいるよ」

ラ 「ならば、姉上が原因じゃないと、伝えればいいじゃないか」

 

それができれば、苦労しないよ・・・

 

シ 「・・・もしかして、聞き入れてくれないとか?」

一 「いや、聞き入れてはくれるんだが、"もし、自分が原因だったら"って、思ってるらしく・・・」

本 「じゃあ〜、私が一発入れて〜、目を覚ましさしてくるよ〜」

ラ 「それはマズイッ!」

 

どこから出したのか、スパナが本音の手に握られ、食堂を出ようとするところを、ラウラが関節技ではなく、体を引っ張るように止めた。

 

ラ 「お前最近、過激な事をするようになったな・・・」

本 「そう〜?」

 

楯無が獅苑に告白していた所を目撃した辺りから、いつもスパナを常備していて、よくスパナを投擲していた。

だが、これも本音の愛情表現の一つなのかもしれない・・・だぶん

 

シ 「でも、どうする?」

ラ 「やはり、ここは決闘とかどうだ? 最初はいがみ合ってたもの同士が、拳を交えた後、握手で和解すると聞いた事がある」

谷 「それ、古くない?」

相 「しかもそれ、男同士の決闘だし・・・」

 

皆がラウラの提案に苦笑いをしているが、一夏だけは真剣な顔で何かを考えてるようだ。

 

本 「どうしたの〜、オリムー?」

一 「いや、ラウラの策が、一番得策かと思って・・・」

シ 「え? でも・・・」

セ 「・・・いえ、もしかしたら」

鈴 「箒の性格上、一番いいかも・・・」

ラ 「ふふ、そうだろ」

 

胸を張るラウラを無常にもスルーして、対策に"決闘"が候補に入った。

 

セ 「しかし、決闘と言いましても・・・」

シ 「何で勝負するの?」

ラ 「拳だろ」

鈴 「馬鹿っ! そんな事できるわけないでしょ」

鷹 「じゃあ、やっぱり剣道とかかな?」

一 「いや、駄目だ。剣道じゃ獅苑が圧勝してしまう」

 

う〜んっと、皆が腕を組み考えてる中、一人だけが・・・

 

本 「決闘なら〜、いいのがあるでしょ〜」

 

両腕を上げ、宣言。

 

鈴 「・・・あ!」

セ 「そういえば、そうでしたね」

シ 「この学園だから、できる決闘」

ラ 「では、すぐに行くぞ」

一 「じゃあ、みんな頼む!」

全 「おーうっ!」

 

 

【箒・鷹月の部屋】

 

 

箒 「何? 決闘・・・?」

 

箒が頭にクエッションマークを浮かべる目の前に

鈴、シャルロット、鷹月、相川。

 

シ 「そう、決闘」

相 「予定だと、今日の5時、第3アリーナでやるよ」

箒 「いや、勝手に・・・第一誰と決闘なんか」

鷹 「お姉さまに決まってるじゃない」

 

お姉さま・・・つまり、獅苑の名を出されて、箒の顔色が徐々に悪くなっていく。

 

箒 「え? いや、私は・・・」

鈴 「あんたに拒否権なんてないよ。それに、獅苑も勝負してくれたら許してくれるって、言ってくれたし」

箒 「そ、それは、本当か!?」

鈴 「え、ええ、本当よ」

 

ちなみに、鈴が言ってたのは、まったくの嘘です。

 

シ 「じゃあ、鷹月さん。時間になったら、誘導お願い」

鷹 「うん、分かった」

 

 

【獅苑・一夏の部屋】

 

 

獅 「・・・決闘?」

本 「決闘だよ〜」

 

うなだれていた獅苑が顔を上げ、その目の前には

本音、セシリア、ラウラ、谷本、夜竹

 

獅 「箒と、か?」

セ 「話が早くて助かりますわ」

谷 「そうそう。篠ノ之さんと決闘だよ」

獅 「なぜ?」

 

いつもの様に振舞っている獅苑だが、目には覇気はなく、やつれてる様に皆の目には見えた。

 

ラ 「姉上・・・」

夜 「これは、本当に重症かも・・・」

獅 「別に・・・」

 

はぁ〜っと、ため息を零す一同。

 

本 「もう〜、決闘してくれれば、ホーホーが許してくれるのにな〜」

獅 「っ!?」

 

本音の言葉に聞いた瞬間、獅苑は本音の肩を掴む。

 

獅 「・・・本当だな」

本 「え、あ、そ、そうだよ〜」

 

目が生き返った獅苑の顔がドアップに近づけられて、一瞬ときめいた本音であった。

 

谷 「え〜と、場所は第3アリーナで、時間は午後5時」

獅 「分かった」

セ 「目が生き返りましたわね」

夜 「だね」

ラ 「では、姉上。また後ほど・・・」

 

本音を置いて・・・いや、気遣って部屋を出て行った。

 

獅 「・・・」

本 「時間になれば、オリムーが誘導してくれるけど・・・ここにいて良い?」

獅 「・・・どこに座るんだ?」

本 「もっちろんっ!」

 

獅苑めがけて跳躍し、膝の上にスポッとはまった。

 

本 「ここ〜!」

獅 「フッ・・・」

 

 

【職員室】

 

 

一 「という訳なんですけど・・・」

千 「篠ノ之と・・・朝霧、か」

 

一夏だけが、アリーナの使用許可を得るため、千冬に事を伝えに来ていた。

 

千 「・・・いいだろう。だが、私の監視付きだ。いいな?」

一 「は、はい。それで、かまわないんですけど・・・」

千 「どうした?」

一 「・・・いえ、なんでもないです。では、5時に」

 

一夏が職員室を出ると、千冬が体を脱力して、座っていたイスの背もたれに寄りかかる。

 

千 (・・・朝霧)

 

臨海学校で、束に言われた事が頭によぎるたび、頭を振って吹き飛ばす。

 

千 「・・・ふぅ」

 

 

 

 

 

【現在5時 Aピット】

 

 

箒 「っ・・・」

 

Aピットに一人でたたずむ、箒は手首に巻かれた紅椿を見つめ、グッと手に力が篭る。

 

箒 (決闘すれば許す、か・・・ならば、全力でやらなければ、相手に失礼だな)

 

箒の体は光の粒子に包まれ、次の瞬間には、箒に紅椿が装着する。

 

 

【Bピット】

 

 

獅 「箒はなんで決闘にしたんだろう?」

コ 『さぁ?』

 

獅苑は、自分が箒を何らかの形で怒らしたと、思い詰めていた為、なぜ、決闘で仲直りする提案を出したのかが、疑問だった。

 

獅 「まぁ、やるからには全力で行かないと」

コ 『そうだね・・・』

 

体を軽くほぐし、死戔を展開した獅苑。

 

獅 「よしっ」

 

気合を入れ、死戔の黒翼が折り畳まれる。

 

獅 「今回は勝たせてもらうぞ」

 

スラスターに火がつき、フィールドを出る。

 

コ (これは、嘘だってバレたら殺されるかな・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

獅 「・・・」

箒 「・・・」

 

黒と紅のISが、空中にたたずみ、試合開始を待つ。

 

千 『2人とも、準備はいいな?』

獅・箒 「はい」

千 『では、始めっ!』

 

千冬の合図とともに、二機がぶつかり合う。正確に言えば、死戔が超加速で紅椿に接近した。

 

箒 (一体なんだ? この加速は・・・)

獅 (今のを受け止めたか・・・おもしろくなりそうだ)

 

獅苑は、この決闘の目的を、一時頭から外して、純粋に戦いを楽しむ事に切り替えた。

それは、箒も一緒だ。

 

獅 「おらっ!」

箒 「くっ・・・」

 

対艦刀二本を雨月と空烈で防ぐものの、押し負けてじりじりと後方に押される。

 

箒 「かかったっ!」

 

壁際まで押された箒の声と共に、腕部の展開装甲がビットの様に射出。

 

獅 「チッ・・・」

 

舌打ちを打った獅苑は箒から離れる。その瞬間に、雨月の刺突攻撃から発せられるレーザーを放たれる。

 

獅 「それぐらいで・・・」

 

黒翼を自分を包み込み、レーザーを弾く。だが、その黒翼に、先ほどの腕部展開装甲が突き刺さり、焦りが生じる。

獅苑は咄嗟に黒翼を振り払い、展開装甲を抜き吹き飛ばす。

 

箒 「分かってるさ、これぐらいじゃお前を倒せない事は・・・」

 

黒翼を広げた時には、目の前に紅椿。

しかも、爪先の展開装甲からエネルギーソードを出し、かかと落としの体勢で・・・

 

箒 「死戔の情報は、布仏からすでに聞いているっ!!」

 

振り下ろされた かかとが、死戔の装甲に命中。

だが、咄嗟に肩などにつけられた小型スラスターを点火したおかげで、ギリギリの直撃を避ける事ができた様だ。

 

箒 (直撃を避けるとは・・・やはり侮れないな、獅苑は)

獅 (でも、今のでSEはかなり持っていかれたな・・・)

 

SE残量は、大分削られてしまい、何とか、通常戦闘だけはできる状態。

この状況だと、完全に獅苑が不利だと思われるが・・・

 

獅 「だからこそ、面白い」

 

笑みを浮かべながら、言葉を発した直後、瞬時加速を利用して、紅椿に接近の下、対艦刀ではなく、エルボーで紅椿をブッ飛ばした。

 

箒 「くっ・・・」

獅 「まだまだ、楽しもうぜ」

 

 

千冬SIDE

 

 

観察室にて、真耶と共に、モニターに映し出された2人の戦闘を観戦する。

たまに、束の"あの言葉"がよぎるが、頭を振って何度も吹き飛ばす。

 

真 「あれが、死戔の第二形態『闇門』・・・」

 

束の話では、第二形態になった事で、IS自体が操縦者保護機能を完璧なものにしたらしいが・・・

 

千 「あの程度なのか・・・?」

 

もちろん、第二形態になった事で、機動性が飛躍的に上がっている。

だが、私の想像では、もっと上がっていると思っていたのだが・・・

 

真 「え? 何か言いました?」

千 「・・・いや」

真 「そ、そうですか・・・」

 

真耶は少し気になる様子だったが、モニターに目を移す。

私も死戔の事は脇に置いて、戦闘に集中する。

 

真 「楽しそうですね、朝霧君」

 

真耶の発言どうり、朝霧の顔にはずっと笑みがこぼれている。

 

真 「それに、篠ノ之さんも、前より良い動きしてますね」

千 「そうだな・・・だが、この勝負は篠ノ之の負けだな」

真 「それは性能差、ですか?」

千 「それもあるが、最初の攻撃で止めをできなかった事で、もうあの攻撃は通用しない」

 

朝霧の反応速度も中々のものだが、箒が完璧に紅椿を扱えていたら、絶対防御しか持たない死戔は一撃で終わっていただろう。

 

千 「だが、もっともの敗因は・・・」

真 「敗因は・・・?」

 

ゴクッと喉を鳴らす真耶。

 

千 「朝霧に火を点けさせた事さ」

 

 

一夏SIDE

 

 

獅 「はははははっ!」

箒 「うぅ・・・」

 

ずっと、獅苑が対艦刀で、箒を追い詰め続けている。

箒も何とか、この斬撃から逃れようとするものの、逃れてもまた追い詰められ、その繰り返しが続いている。

 

セ 「圧倒的ですわね・・・」

 

セシリアの言葉に俺も含め、皆が頷く。

妹分であるラウラでさえ、獅苑の高い戦闘能力に、目が釘付けになっている。

 

シ 「それにしても、単一仕様能力を使わないね。二人とも」

 

紅椿には、SE残量を増幅させる『絢爛舞踏』

死戔には、更なる超加速と、質量の残像を生み出す『アフタリミジン ランカン』

 

谷 「出方を伺ってるとかは?」

一 「それはないと思うぞ。俺がここに連れてくる時の獅苑の目は、本気の目だった」

鷹 「こっちもそうだったよ」

 

つまり、お互いに手を抜くはずがないのだ。

 

本 「もしかして〜、ギリーもホーホーも、発動できない理由があるんじゃな〜い?」

 

のほほんさんの発言に、皆が考え始める。

 

夜 「できない理由・・・」

鈴 「もしかしてさ、死戔にはもうSEが残ってないんじゃない?」

相 「あの、最初辺りに受けた攻撃?」

一 「確かに、白式の零落白夜と同じ、展開装甲の攻撃なら可能かもな・・・」

ラ 「しかし、それだと箒は・・・?」

 

 

箒SIDE

 

 

(なぜだっ! なぜ発動しない!?)

 

SEがどんどん削られていく中、スンとも発動しない『絢爛舞踏』

この状況では確実にこちらが負けてしまう。しかも、全力が出せずに・・・

 

(死戔の単一仕様能力が発動していないのが、救いだが・・・)

 

だが、それは逆に、獅苑も全力を出していない。いや、出せない。

 

(これほど試合を楽しんでいる獅苑が、手を抜くはずがない)

 

しかし、これほどの実力。

『絢爛舞踏』さえ発動できれば、もしかしたら、勝機があるかもしれない。

だが、その考えが間違えだった。

 

コ 『インパクトカノン 15%』

獅・コ 「『花天月地!』」

 

胸元に右手が添えられ、そこから放出されるエネルギーの雨に、装甲がズタボロにされる。

 

箒 「はぁ、はぁ・・・」

 

すぐさま、後方に下がり、距離を取る。

 

獅 「・・・?」

 

なぜか、獅苑が動きを止め、首を傾げている。

 

獅 「もしかして、手加減してないか?」

箒 「っ!?」

 

獅苑の鋭い言葉に、つい顔に出てしまった。

 

獅 「やっぱり」

箒 「ち、違うんだ、獅苑! これには訳が・・・」

 

その瞬間に言葉が詰まる。

この決闘は真剣勝負。『絢爛舞踏』が発動しないという事を理由に、負ける口実を作りたくはない。

 

獅 「・・・」

 

獅苑が私の次の言葉を待っている。

だが、いくら考えても、次の言葉は思いつかなかった。

 

獅 「福音の暴走事件の時・・・」

箒 「え?」

 

開放回線から、個人間秘匿通信に切り替え、語りかけてきた獅苑。

 

獅 「あの時、一夏と箒を守れなくて、怒りだけで福音と戦っていた」

箒 「・・・」

獅 「だけど、最初は怒りだけだったけど、だんだん楽しくなってきてさ」

 

獅苑の顔がどんどん暗い顔になっていく。

 

獅 「2人が危険な状態だったかも知れないのに、俺は楽しんでたんだ。福音との戦闘を・・・」

箒 「獅苑・・・」

 

違うっ! と、言いたいのに口に出せない自分が悔しい。

 

獅 「まぁ、その後はズタボロにされて、気づけば死ぬ思いで、最後の悪あがきしてたよ」

 

自分の過去を噛みしめるように、両手を握りしめて、そして体全体をリラックスする獅苑。

 

獅 「ごめんなさい。箒が浮かれている事に気づいていていたのに、止められなくて・・・本当にごめんなさい」

 

謝罪をする必要もない獅苑も言葉が、私の心をさらに締め付けてきた。

私は必死に力を振り絞って、声を出す。

 

箒 「ち、違う・・・」

獅 「え・・・」

箒 「違うんだ、獅苑・・・あの時、一夏と一緒に海に落ちた私は、危険な状態でも何でもなかった。私はただ、一夏が大怪我を負って、そのことで頭がいっぱいで・・・」

 

思い出すだけで、目頭が熱くなる。もう獅苑の無事な顔を見るたびに、涙が溢れ出てくる。

 

箒 「私は・・・お前を見捨てたんだ」

獅 「・・・」

 

涙がポタポタと、頬から落ちていく。

すると、肩に死戔の手がかけられた。

 

獅 「そうか、良かった」

箒 「ぇ?」

獅 「事情は聞いていたけど、本当に何ともなかったんだな・・・本当に良かった」

 

誰に事情を聞いていたのかは気にならないほど、獅苑の目はとても優しく、私の気持ちが軽くなっていく。

 

獅 「・・・どうやら、紅椿は答えてくれたみたいだぞ」

箒 「あ・・・」

 

私が気づかない内に、神々しい光が紅椿から溢れ出していた。

 

獅 「箒が福音に再戦した時、どういう気持ちだった?」

箒 「わ、私は・・・守りたい、一夏の背中を守りたいっ!」

『絢爛舞踏 発動』

獅 「だったら、強くならないとな。お互いに・・・」

箒 「ああっ!」

 

さらに、光が溢れ出し、紅椿のSE回復と同時に、隣接していた死戔のSEも回復する。

だが、少し回復したところで、紅椿から離れた死戔は、地上に着地。

 

獅 「ここからは、お互い本気だ!」

 

地面を拳で抉る様に殴り、砂煙を起こす。

その砂煙が、死戔の姿を隠した。

 

箒 「ふぅ・・・」

 

雨月と空烈を握り直し、意識を砂煙に集中させる。

 

(私は強くなる。だから、今は全力でぶつかりに行くぞ、獅苑っ!・・・)

 

 

獅苑SIDE

 

 

獅 「さて、行くぞ」

コ 『アイアイサー!』

 

コウの景気な声と同時に、単一仕様能力を発動。

その瞬間、見えていた世界が一瞬、赤く染まり、死戔に取り巻いていた砂煙が吹き飛ばされる。

 

コ 『アフタリミジン』

獅 「ランカン」

 

見えていた世界が通常の風景になり、見上げるとそこには"紅"

 

獅・コ 「『はぁああぁ!』」

 

紅椿に向かって、超加速+瞬時加速。

気づけば、すでに紅椿が頭部に付けられた対艦刀を防いでいた。

 

獅・コ 「『こっちにもあるぞ!』」

箒 「っ!?」

 

頭を上に振って、二本の刀を弾き、両袖のBブレイクを振り下ろす。

 

箒 「こんなものっ!」

 

箒は無理矢理、上げられた腕を戻し、刀で防がれる。

だが、それも予想していた事であり、足に装着されているBソードの刃を出し、思いっきり蹴り上げた。

 

箒 「あっ!」

 

紅椿と共に、雨月も刃に命中して、雨月が箒の手元から弾き飛ばした。

 

獅 「まだ、終わってないぞぉ!」

 

足を蹴り上げた勢いを利用して、バク宙。

もちろん、縦に回転したため、最初に尾に付けられた対艦刀の刃が紅椿を斬りつけ、次に頭部の対艦刀の峰(みね)が、紅椿を叩き落す。

 

箒 「空烈!」

 

地に下りた箒が空烈を振り、エネルギー刃を放出。

だが、そのエネルギーを左手で吸収する。

 

箒 「くっ、ならばもう一度だ、紅椿!」

 

長期戦を狙って、SEを回復させようと、絢爛舞踏を発動させようとする箒。

 

獅 「悪いが、これで終わりだぁ!!」

 

右手を構え、紅椿めがけて直下降。

 

コ 『インパクトカノン 30%』

獅・コ 「『鉄槌!』」

[ドゴォォォ・・・]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者SIDE

 

 

試合終了後、獅苑と箒はアリーナ外のベンチに腰を下ろしていた。

その近くの茂みには、試合を見ていた10人が頭部に枝を刺して、古典的な隠れ方をしている。

 

獅 「♪〜・・・」

箒 「そ、そこまで、喜ぶのか?」

 

箒に勝ててうれしいのか、親友として箒に接する事ができる様になったのがうれしいのか。

おそらく、獅苑の事だから後者の方だろう。

 

シ 「上手くいったみたいだね」

本 「そうだね〜」

ラ 「ならば、ミッション完了だな。退散するとしよう」

鈴 「何言ってるのよ。これからが面白そうなのに・・・」

 

観察している二人は、よほどご機嫌なのか、後ろの人達の気配に気づいていない。

 

獅 「♪〜」

箒 「ふふっ・・・」

 

獅苑は先ほどから俯いているが、その顔には笑みを浮かべていて、箒はその愛らしい獅苑を見て、微笑んでいる。

 

箒 「・・・今回も助かった。獅苑が決闘を申しだしてくれなければ、もしかしたら、私はずっと、お前に謝れなかっただろうな・・・」

獅 「ん? 箒の方から、申しでたんじゃないのか?」

全 (やばっ!)

[ガサッ!]

 

2人についた嘘がバレる前に、この場から離れようとする一夏達。

 

獅 「よっ」

全 「うわっ!?」

 

一斉に後ろを振り向くと、そこにはIS装備の獅苑。

再び、前を向くと・・・

 

箒 「・・・」

 

箒が竹刀を持って、皆を見下ろしている。

 

一 「い、いや、これには事情が・・・」

鈴 「あ、あたし達は2人を思って・・・」

獅 「でも、嘘をついた事には変わりないよな・・・」

 

死戔の黒翼が皆を包み込み・・・

 

獅 「嘘をついた、人達に・・・」

箒 「天誅っ!」

 

闇のベールに包まれたピノキオ達の悲鳴が、オレンジ色の空に響き渡る。

 

その晩、恐怖で体を震わせて、部屋に篭る10人の姿があった。

 

 

簪SIDE

 

 

本 [ガタガタガタガタ]

簪 (何があったんだろう・・・?)

 

 

 

 

 

 

-3ページ-

3話

 

 

 

 

 

投稿者SIDE

 

 

場は生徒会室。その室内には、雑務をこなす獅苑と、窓から差し込む陽気を浴びながら、熟睡する本音。

 

獅 「・・・今日はこれでいいか」

 

そう言うと、二人しかいない室内を見渡す獅苑。

 

獅 (今日は、楯無さんも虚さんもいないし、何か寂しいな・・・)

本 「うぅん・・・ふぁああん」

獅 「おはよう」

本 「おはよ〜・・・ねむねむ」

 

目覚めた本音だったが、まだ寝ぼけていた。

 

本 「ん〜〜〜、暖か〜い」

 

フラフラと席を立ち、俺の背中にもたれ掛かる。

 

本 「zzz・・・」

獅 (寝ちまった・・・)

 

ここ最近の本音は、『打鉄弐式』の製作に夜まで付きっきり。それでも、友達との交流は大切にしていた。

それを知っている獅苑は、なるべく起こさないように、書類の整理をしている。

 

楯 「良かった、まだここにいたんだ」

獅 「・・・?」

 

書類整理が終わった直後に、楯無登場。

 

獅 「何の用ですか?」

楯 「本音ちゃんは、そのままでいいの?」

獅 「そう簡単には、起きませんよ・・・それで、用は?」

楯 「うん、実はね、ちょっと獅苑君に来てもらいたい所があって・・・」

 

モジモジしている楯無を見て、獅苑は首を傾げる。

 

楯 「え〜と、私の家に来てほしいんだ・・・」

獅 「・・・はあ」

 

 

獅苑SIDE

 

 

という訳で、更識家。

ちなみに、俺の服装いつもどうり。

本音は相変わらず、袖が垂れている白Yシャツに、下は黒のミニスカと黒のストッキング

楯無さんは、大胆にも胸元が開いている袖なしの上着に、ジーパン。

虚さんは、くるぶしまであるロングスカートに、夏用の白上着。

 

獅 「・・・大きい」

 

花月荘よりは敷地面積は広くはないが、それでも豪邸なお屋敷。

 

虚 「これでも、別荘ですけどね・・・」

獅 「へ、へ〜・・・」

 

圧倒されるほどのお屋敷が、まさかの別荘。

本館がどういうのか気になるけど・・・

 

本 「でも〜、会長の部屋はここにあるんだよ〜」

楯 「ちょ、本音ちゃん!」

 

急に慌てだす楯無さん。

 

獅 「って事は、本音の部屋もあるのか?」

本 「本館の方にもあるけど、ここにもあるよ〜。それに、お姉ちゃんとかんちゃんの部屋も〜」

獅 「・・・かんちゃん?」

楯 「更識簪。私の妹よ」

獅 「は?」

本 「あれ〜? 言ってなかったっけ〜?」

 

た、確かに、外見は似てると思ったけど、性格が真逆じゃない?

でも、簪が感じてた嫉妬が、楯無さんに向けられても不思議ではないな。一応、生徒会長の座についてるし。

 

楯 「・・・」

獅 「・・・まぁ、それはいいか」

 

さっきから、楯無さんが沈んでるのを見て、話をここで切る。

 

獅 「それで、ここが入り口?」

 

目の前には、ドでかい木材の門。

 

虚 「はい、そうですよ」

本 「でも〜、入る時は気をつけてね〜」

獅 「?」

 

本音の"気をつけてね"が、何の事だかは分からないが、虚さんを先頭に門をくぐる。

 

? 「おらぁ!!」

獅 「っ!?」

 

突然、急速に近づく拳に、咄嗟にしゃがんで避ける。

 

? 「ほぅ、俺の本気を避けるか・・・」

 

上を向くと、一夏より身長のある若そうな男性が、丈夫な門を凹ませていた。

 

楯 「もう、何やってるのよ・・・」

男 「ん? いや〜、お前が男を連れてくると聞いてな」

楯 「相変わらず、そういう時に限ってハキハキして。いつも、その調子だと助かるのに・・・」

 

"ははは〜"と、申し訳なさそうに笑う男性を余所に、服を叩く。

 

獅 「・・・」

楯 「あ、ほら、行くわよ!///」

男 「おっとっと・・・」

 

楯無さんがこちらをチラッと見て、男性を引っ張って屋敷に向かっていく。

 

本 「相変わらずだね〜」

虚 「ふふっ、そうね・・・さぁ、行きましょう、獅苑君」

獅 「は、はあ〜・・・」

 

何か怖くなってきた・・・

 

【客間】

 

獅 「・・・」

楯 「・・・」

男 「・・・」

 

・・・いや、何か喋ってくれ

 

女 「お待たせしました」

 

髪が水色の女性が入室

 

女 「いらっしゃい」

獅 「お邪魔してます」

 

とりあえず、座ったままの体制で、お辞儀をする。

だが、体を上げた瞬間には女性の姿はなく、後ろに体を引き寄せられる。

 

女 「可愛い子ねぇ!!」

獅 「???」

 

女性の胸がクッションになってくれたため痛みはなかったが、女性に後ろから抱きしめられている。

 

男 「はははっ、お客さんに迷惑をかけないようにね、春(はる)さん」

楯 「お父さんも、迷惑かけたじゃない。いきなり殴りかかって」

 

お父さん・・・?

 

春 「相変わらずですね、優(ゆう)さんは・・・」

楯 「お母さんも、そろそろ獅苑君から離れて・・・本音ちゃんが怒っちゃうよ」

 

お、お母さん・・・?

 

春 「"本音ちゃんも"、でしょ?」

楯 「///・・・そ、それはいいから! さっさと離れてっ!」

春 「はーい・・・」

 

最後にギュウッと、俺を抱きしめて名残惜しそうに、楯無さんのお父さんらしい人の横に座る。

 

優 「まずは、自己紹介からだね。私の名前は更識優。似てないと思うが、ゆ・・、楯無と簪の父親だ」

春 「・・・」

楯 「お母さん?」

春 「あ、ごめんなさい・・・」

 

俺の方を見て、ボ〜ッとしていたようで、楯無さんの呼びかけで我に返る。

 

春 「私は更識春、二児の母でーす」

獅 「朝霧獅苑です・・・」

楯 「そこまで、畏まらなくていいよ。私の両親だし」

獅 「はあ・・・」

春 「じゃあ、自己紹介も終わったですし、部屋に案内するわね。泊まっていくんでしょう?」

 

泊まる? そんなこと聞いてないぞ・・・

 

獅(楯 「いや、泊まりませ「い、いいわよっ! 私が案内してくるからっ!」・・???」

 

俺の言葉を遮って、楯無さんが手を掴んで、俺を引っ張って客間から出た。

 

 

優SIDE

 

 

春 「どうですか、彼は?」

優 「"不思議な子"と、しか言えないね。だけど、本音ちゃんが言うには、彼のおかげで簪が夕に対して、柔らかくなってるそうじゃないか」

 

夕・・・それは、漢字は違えども私の名前でもあり、楯無の前の名前でもある。

夕は更識当主17代目になって、現在"楯無"という名を受け継いでいる。元"楯無"である私は、夕の名前を貰い"優"として、この別荘に隠居している。

 

優 「それに、彼は武術の才能があるかもしれないね」

春 「ふふふっ。私も手合わせしてみたいですね、彼に」

優 「明日の朝にでも、誘ってみようかな?」

 

 

獅苑SIDE

 

 

広いお屋敷の廊下を握った手を離さず、俺を引きずって歩く楯無さん。

横を向けば、草木が生い茂り、手入れもされている、庭が広がっている。

 

獅 「・・・あの、楯無さん?」

楯 「・・・」

 

無視かい・・・

 

獅 「よっ」

[ゴチンッ]

 

引きずられた状態から立ち上がり、握られてない手で、拳骨をかます。

 

楯 「っ・・・!」

 

案の定、楯無さんは声も出せず、その場でうずくまり、頭を抑える。

だが、握ってた手は離さなず、余計に力が篭っていた。

 

楯 「な、何するのよ〜・・・?」

 

痛みで涙が出ている楯無さんの上目使いに、ドキッとなった俺を誰が責められようか。

 

獅 「な、何じゃなくて、泊まるってどういう事ですか?」

楯 「あ、あはは・・・まぁ、いいじゃない」

獅 「・・・はぁ」

 

今更何を言っても、引き下がらない事を確信し、渋々従う。

 

楯 「とまぁ、ここよ」

 

連れて来られたのは、客間と同じぐらいの襖の前。

 

獅 「広くないですか?」

楯 「そうでもないわよ。獅苑君だけが使うわけじゃないし・・・」

獅 「え?」

 

俺を余所に、楯無さんは襖を勢いよく開ける。

 

本 「や〜っと来た〜!」

虚 「お邪魔しています」

 

すでに部屋で、菓子をつまんでいる布仏姉妹。

 

獅 「・・・まさか」

楯 「今日から一緒の部屋で寝泊りねっ!」

 

【夕食】

 

虚 「・・・面白い絵ですね」

優 「・・・そうですね」

獅 「いや、見てないで助けてくれません?」

 

目の前の机には豪勢な夕食。それだけなら、とても感謝せねばならない。

そして、正座する俺をイス代わりにする本音。まぁ、最近交流が少ない俺達にとっては、これも喜ばしい事。

本音だけなら・・・

 

本・楯・春 「♪〜・・・」

 

左右には更識母娘。しかも、腕を組んで密着。

外の夏風が部屋を涼しくしてくれているが、前左右の体温が伝わってくるため、結構鬱陶しい。

というか、自分の奥さんを見て、何とも思わないんだろうか。夫さんは・・・?

 

獅 「・・・箸、持てないんですけど」

本 「じゃあ〜、久しぶりに私が食べさせてあげるよ〜!」

楯 「あらら〜、"久しぶり"ね〜。だったら、私も食べさせてあげよっと」

春 「ふふふっ、ラブラブね・・・あ、これ、おいしいですよ」

獅 「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅 「はぁ・・・」

優 「はははっ、お疲れのようで」

 

長い夕食が終わり、今は2人で茶を飲んでいる。

 

優 「そういえば、朝霧君」

獅 「何ですか、更識さん?」

優 「優でいいよ」

獅 「だったら、俺も獅苑でいいです」

優 「じゃあ、獅苑君」

 

持っていた茶碗を机に置いた優さんは、かなりマジな顔つきになる。

 

優 「君は更識家について、どれくらい知ってる?」

獅 「・・・家が広い」

 

今知ってる事を真面目に言ってみた。

すると、優さんが盛大に笑い、腹を抱える。

 

獅 「・・・?」

優 「ご、ごめんごめん。その答えは予想してなくてね・・・となると、獅苑君は何も知らないのか・・・」

 

次は何かを考え出す優さん。

 

優 「・・・なら明日、私と手合わせしてみないかい? ルール無用のガチで」

獅 「それ、ただの喧嘩じゃないんですか?」

優 「だからこそ、君の全てを私にぶつけて欲しい・・・いいかな?」

 

まぁ、断る理由もないし・・・

 

獅 「分かりました」

優 「ありがとう。なら、明日の朝にやるとしよう。では、私は部屋に戻るから・・・春さん、話は終わったよ」

春 「はーい、今行きまーす!」

獅 「っ! あ、あの、俺も部屋に戻ります!」

 

また、夕食みたいな事になる前に、部屋を退散。

 

(それにしても、更識家って、武等家みたいな何かなのかな・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯 「で、どういう感じで寝る?」

 

たった今、布団の配置と、どこの布団に入るかを考え中。

 

(どうでもいいだろうに・・・)

 

そう思っている間にも、布団の配置は、4人の頭が中心に来るような並びになっていた。

 

本 「ギリーは私のとっなり〜!」

 

狐パジャマの本音が、俺を布団まで引っ張って、強制的に寝かされる。

もちろん、俺は泊まるなんて聞いてないため、上着だけを脱いだ状態。

他2人は、楯無さんが水色の水玉。虚さんが薄ピンクのお揃いパジャマを着用していた。

 

楯 「じゃあ、私は獅苑君の布団にっと・・・」

虚 「お嬢様、さすがに、それはちょっと・・・」

 

滅多におきない虚さんアシスト。

ブーっと頬を膨らませた楯無さんは、俺の向かい側の布団に入る。

 

楯 「あ、これはこれで、特等席かも」

本 「でも〜、こっちはもっともっとも〜っと、特等席だよ〜!」

 

布団の境界線を乗り越え、俺の腕にしがみつく。

 

楯 「ズル〜イ! 私もそっちが良かったな〜・・・」

虚 「はぁ、もういいわ」

獅 「・・・すみません」

 

この2人には注意しても、意味を成さないだろうと、思ったのだろう。虚さんは眼鏡を外し、楯無さんの隣の布団に入る。

 

楯 「そういえば、虚ちゃんと寝るのも久しぶりだよね。小学生以来?」

虚 「そうですね・・・って、どこ触ってるんですかっ!?」

楯 「別にいいじゃない、減るものじゃないし・・・それに、前より大きくなってない?」

虚 「あ、当たり前です! あれから、いくつ経ってると思って あ、ちょ! そこは・・・」

 

・・・聞こえない聞こえない。

 

獅 「ほら、自分の布団に戻れ」

本 「・・・ここに居ちゃ、駄目?」

 

いや、上目使いで言われても・・・

 

獅 「・・・はぁ」

 

何も言わず、腕を本音の背に回す。

 

本 「えへっ! ♪〜・・・」

 

ギュウッと、腕に組む力が篭められ、俺は目を閉じる。

楯無さんと虚さんがキャッキャッと騒いでいるが、自然と睡魔が襲ってきて、いつの間にか、眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

優 「準備はいいですね?」

獅 「はい」

 

朝起きてみれば、獅苑君とお父さんが、庭で対峙していた。

それを、近くで見ていたお母さんに事情を聞いてみれば・・・

 

春 「獅苑君には、更識家の事を知ってもらう前に、それなりの実力が必要でしょ?」

 

との事。本音ちゃんが話さなかった以上、いつかは話さなければと思っていたが、ここまで引きずってしまうとは・・・

そんな私を置いて、2人の試合(ケンカ)が始める。

 

優 「じゃあ、行くぞ」

 

ブォンッと、空気を切り裂く拳が、獅苑君の顔面めがけて、飛ばされたが、その拳を無駄な動き一つなくいなす。

 

優 「やはり、やるな・・・なら、俺も全力で行くぞ!」

獅 [コクッ]

 

獅苑君が頷いた瞬間、お父さんの"楯無"が呼び覚ます。

 

優 「おらぁおらぁ!!」

獅 「っ・・・」

 

拳だけでなく、蹴りなどを加えて、急所を的確に狙う。

それでも、獅苑君は何とかいなし続けているが、いつまで持つか・・・

 

優 「防御ばっかじゃ、つまんねぇぜ、おい!」

獅 「グフッ!」

 

髪を掴まれ、腹に強烈な蹴りを入れられ、獅苑君の口から血が吐き出される。

 

楯 「っ・・・!」

 

今にでも助けたい気持ちを抑え込み、お母さんが私を支えてくれる。

 

春 「本音ちゃんも我慢してるから、ね・・・」

楯 「え・・・?」

 

後ろを向くと、私達が寝ていた部屋から、こちらを虚ちゃんに抱かれている本音ちゃん。虚ちゃんも本音ちゃんを撫でながら、心配そうに試合(ケンカ)見ている。

 

優 「どうしたどうしたっ!?」

獅 「ぐっ・・・が、はぁ!」

 

さっきの一撃で、防御が崩れた獅苑君は、お父さんに殴られ蹴られ続けていたが、何とか急所は外れるようにしている。

 

優 「これでっ!」

 

かなり消耗している獅苑君に、止めの拳が飛ぶ。

だが・・・

 

獅 [ガシッ!]

優 「おっ?」

 

お父さんの拳を片手で受け止めた獅苑君。

 

獅 「っ!」

優 「ぐっ!?」

 

もう片方の手で、お父さんのみぞおちにクリーンヒット。

 

優 「まだぁ!!」

 

獅苑君の一撃を堪えたお父さんは、うなじに体重を乗せたエルボーを決める。

すると、獅苑君は声を出す事無く、その場で膝をつき、お母さんが試合終了の合図を出した。

 

本 「ギリー!!」

 

いの一番に獅苑君のもとに走った本音ちゃん。

 

春 「大丈夫ですか、優さん?」

優 「ええ、何とか・・・」

 

お父さんもお母さんに貰ったタオルで汗を拭う。

 

優 「久しぶりに楽しかったよ。ありがとう」

 

お父さんは獅苑君と同じ視線になるため、膝をつき握手を求める。

 

獅 「・・・ども」

[ギュッ]

優 「じゃあ、本音ちゃん、獅苑君をお願い。楯無と虚君は私と来てくれ。春さんもお願い」

楯 「は、はい」

虚 「かしこまりました」

春 「分かりました」

 

獅苑君の事は心配であるが、お父さんが私の事を"楯無"と呼んだ。

つまり、重要な話だと理解し、私は虚ちゃんとお母さんと共に、お父さんについていった。

 

 

投稿者SIDE

 

 

客間にて、机を間に優と春の向かいに座る楯無に、その横で立っている虚。

 

優 「ちょっと、本題に入る前に、楯無に聞いておきたい事がある」

楯 「はい」

優 「楯無は、獅苑君をどうしたい? 私達が対暗部用暗部と、彼が知ったら、少なくても楽しい学園生活には戻れないし、今までどうりの生活は難しいだろう。亡国機業(ファントム・タスク)も動き出している」

楯 「・・・」

優 「・・・ふぅ、ちょっと意地悪な質問だったね。でも、これはとっても大事な事なんだ。それは、分かってるね?」

楯 「はい・・・」

虚 「それで、旦那様。どうするんですか?」

優 「ん? ああ、そうだね。一応合格かな。あれほどの技量があれば、そう簡単にやられることはないと思うよ」

春 「・・・あ、来たようね」

 

春が呟くと、襖の向こうから二つの足音と気配。

それを、敏感に察知した楯無は、体をビクッと振るわせる。

 

本 「おっ待たせ〜!」

獅 「・・・どうも」

 

元気よく襖を開けた本音と、見た目には支障はなさそうだが、服で隠れている場所にはシップが貼られている獅苑が入室。

 

優 「これで、役者も揃ったし、本題にいこうかな・・・と、言っても、獅苑君はさっき本音ちゃんから聞いたんでしょ?」

獅 「はい、聞きました」

虚 「もう、本音ったら・・・」

本 「てひひ〜、ごめんなさい〜」

 

ちょっと微笑んだ虚の発言に、苦笑いを浮かべながら、頭をかく本音。

 

楯 「ふぅ・・・」

 

この和やかな空気で、心が軽くなった楯無が安堵。

それを確認した優が話を切り出す。

 

優 「では、獅苑君はどうする? 今なら、引き返すことはできるよ。そのかわりに、君には生徒会をやめてもらう」

春 「優さん・・・」

優 「獅苑君も分かってると思うけど、本音ちゃんとは幼馴染だから、そこまで関係ないけど、楯無とは会長と副会長の関係。本当の生徒会は更識家と、防衛対象の人物で構成させるはずだったんだ」

獅 「その防衛対象って、織斑一夏の事ですね」

優 「そうだよ」

 

世界で2人しかいない男性操縦者であり、初代ブリュンヒルデの弟である一夏を、力ずくで欲しがる国も企業も山ほどいる。

一応、IS学園特記事項の第21項には

"本学園に在学中の生徒は、あらゆる国家・組織・団体に帰属しない。なお、本人の同意がなければ、外的介入は原則として許可されない"と、記されてあるが、束がクラス対抗戦に送り込んだ黒いIS『ゴーレム』の事は除外するとして、他国家・企業、更識家が追っている『亡国機業(ファントム・タスク)』の侵入があるかも知れない。

 

獅 「・・・」

優 「どうかな?」

 

ゴクッと、獅苑以外の生徒会メンバーが喉を鳴らす。

 

獅 「・・・さぁ?」

全 「はい?」

 

緊張の欠片もない言葉に、全員が呆け顔になる。

 

優 「そ、それは、どういう・・・?」

 

首を傾げ、口元は引きつかせながら質問。

 

獅 「いや、いきなり"私達は対暗部用暗部です"って、言われても、俺としては関係ありませんし」

優 「関係ない?」

獅 「あんたらがいなくたって、俺は皆を守り通しますよ。そのための"死戔"です」

 

一切、優の目から離さず、自分の言いたい事を全部話した獅苑。

 

優 「・・・」

 

優は何かを考えてるかのように、俯いている。

 

春 「・・・ふぅ、これは、優さんの負けですね」

優 「・・・ぷっ」

 

春がそう呟くと、優が昨夜のように笑い始める。

 

優 「はははっ、久しぶりに見たよ、君みたいな"バカ"は・・・」

春 「優さん、"バカ"は言いすぎですよ」

獅 「別にいいですよ、"バカ"ですから」

 

いつの間にか、ギスギスした空気が消え、三人が微笑ましく笑っている。

その様子に、残りの三人は、ただただ見てることしかできなかった。

 

 

優SIDE

 

 

獅 「では、お邪魔しました」

春 「もう一日、泊まっていけば良かったのに」

本 「そうだよ〜、もう一度、ギリーと寝たかったのに〜・・・」

 

あれから、時間が過ぎ、現在昼ごろ。

私の目の前には、獅苑君を含めた生徒会メンバーが、並んでいる。

 

楯 「・・・私も一緒に寝たかったな」

優 「・・・」

 

こういう娘の発言に、父親である私はどういう反応を取れば・・・

 

獅 「・・・優さん?」

優 「ん!? な、何だい?」

獅 「・・・いや、何でもないです」

 

私が考えていた事が分かったのか、引き下がる獅苑君。

 

獅 「そろそろ、失礼します」

春 「また来てくださいね」

優 「私もまた来るのを楽しみにしてるよ」

 

4人が去っていくと、門がギギギッと、音を立て閉まる。

 

春 「面白い子でしたね、獅苑君」

優 「そうだね・・・でも」

春 「・・・試合の事、ですね」

 

どうやら、私と同じ疑問を持っていたようだ。

 

優 「・・・もう一度、彼のことを調べる必要があるかもしれない」

春 「では、善吉さんに頼むとしましょう」

 

布仏 善吉(ぜんきち)・・・虚君と本音ちゃんの父親で、今は本館の方で私の代わりに仕事をしている。

 

春 「・・・それで、あなたはどうします?」

優 「私かい? 私は・・・久しぶりに自分を鍛え直すか」

春 「では、私は準備と、善吉さんに連絡してきますね・・・」

 

そう言って、春さんは家の方に向かっていった。

 

優 「・・・」

 

私は青空を見上げ、試合の事を思い出す。

 

優 「・・・ふぅ」

 

目を閉じ、まぶたの裏に疑似獅苑を作り出す。

 

優 「・・・」

 

先の試合のように、先手必勝で拳を突き出す。

だが、その拳は同じ様に往なされ、気づいた時には、目の前に疑似獅苑の指二本が・・・

 

[グサッ!]

優 「っ!!」

 

目を見開き、途端に気分が気持ち悪くなる。

今のシミュレーションは、私の推測ではない。

だが、あの時の試合は、試合(殺し合い)ではなく、試合(ケンカ)だったため、私の目は無事。

つまり、獅苑君は技量とか、そういうものではなく、ハンターとしての素質があるのだろう。

言い方を変えれば、殺傷能力の高い兵器。

 

優 「・・・失礼だな。獅苑君の事を"兵器"だなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅苑SIDE

 

 

獅 「クシュン・・・」

 

電車の中で、静かめにクシャミ。

あの後、俺は用事があるからと言って、現在一人。

本音と楯無さんは一緒に来たかった様だが、俺の用事は俗に言うお墓参り。

だが、俺の両親の墓石は家にしかない。だから、"俗に言う"と書いた。

 

[次はぁ――――、――――]

獅 (着いた着いた・・・)

 

プシューッと電車の扉が開き、俺は電車から降り、改札を通る。

 

獅 「・・・」

 

駅を出ると、田舎ほどではないが、少し小寂しい景色が広がっている。

俺はいつもどうりに、家に向かうため裏道を通る。

 

チ1 「おっひさしぶりじゃ〜ん!」

獅 「・・・はぁ」

 

"こいつらとも久しぶりだな"と、思いつつ、素通り。

 

チ2 「逃げるなよ〜、ねーちゃん」

チ3 「そうだよそうだよ。せっかくの感動の再会なんだから」

 

次々と湧き出てくるチンピラ達。

 

チ4 「ほらほら〜、遊ぼ[グキッ!]・・・」

 

次に出てきたチンピラの顎を蹴り飛ばし、首から嫌な音が響き昏倒。

 

チ5 「あ! おいっ、こいつは新人なんだぞっ! もうちょっと、ソフトに倒してやれよ!」

 

"そうだそうだ"と、チンピラ一同から批判を受ける俺。

 

獅 (俺がいない間、もっと馬鹿になったみたいだな・・・)

 

そんな事を思いつつ、後ろから近づいてきたチンピラを吹っ飛ばす。

 

獅 (朝から疲れてるんだけどな・・・まぁ、いっか)

 

【3分後】

 

獅 (今回は、20人を3分で撃退、ね・・・)

 

俺は20体の屍を踏み越えた後、裏道を出て、我が家が見えてくる。

 

獅 (泥棒とか入ってないだろうな・・・)

 

とりあえず、ドアの鍵を開け、家に帰宅。

家の中の様子は、出かけてきた時と変わっておらず、泥棒の心配はなくなった。

 

獅 「・・・」

 

二階に通じる階段を上り、父さん・母さん・俺の三つの部屋中、"シオン"と板に書かれた俺の部屋に入る。

 

獅 「・・・ただいま」

 

両親の小さな墓の前に座り、手を合わせる。

IS学園に行く前は、毎日行っていた事が、やっとこの日にできた。

それに、今日は両親の命日。

 

獅 「・・・」

 

これまでの報告を済ませ、部屋から立ち去る。

 

獅 「ふぅ・・・」

コ 『あれが、君の両親なんだ』

 

空気を読んでいたのか、今頃になってチェーンから出てきたコウ。

 

コ 『明るそうな二人だったね』

獅 「明るいなんてもんじゃない。元気の塊みたいな人だったよ。小一の時しか2人の記憶はないけど、三人で良く、山に登って遊んでたよ。頂上に行くと、二人揃って叫んでた」

 

思い出すだけで、笑いがこみ上げてくる。

毎度毎度、大きな声で"獅苑、愛してるー!"って、叫んで、2人とも帰り際には喉がガラガラだった。

 

獅 「でも、いつの間にか、いなくなっちまった・・・」

 

2人は俺を置いて、夫婦水入らずで旅行に行くはずだった。

だが、その道中、対向車線の車と衝突し、2人は即死。

その相手も、同じく死亡が確認された。

 

コ 『・・・ゴメン。嫌な事、思い出させちゃって』

獅 「別に・・・ただ、もうちょっと一緒にいたかった、よっ・・・」

 

一階のリビングに置かれている、ソファーに寝転がる。

 

獅 「ふぅ・・・少し寝るわ」

コ 『う、うん。お休み・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父 「獅苑・・・」

 

父さん・・・?

 

母 「こうして、会うのは久しぶりね、獅苑・・・」

 

母さん? どうして、2人は俺の前に・・・?

 

父 「どうしてって・・・お前が久しぶりに帰ってきたから出てきたんだよ」

母 「うふふ、お父さんったら、獅苑がいない間、ずっと"寂しい寂しい"って、言ってたのよ」

父 「お、お前だってそうじゃないかっ///」

母 「そうだったかしら?」

 

相変わらず、父さんは母さんに弱いな・・・

 

父 「聞こえてるぞ、獅苑」

 

やべっ・・・

 

父 「何が"やべっ"だ・・・くそっ、本当だったら頬をつねってやろうと思ったが、この状況だし、今回は勘弁してやる」

母 「"つねる"って、獅苑はもう子供じゃないんですよ」

 

そ、それで、いつまでこの状況なんだ?

 

父 「・・・さぁ?」

 

"さぁ?"じゃないよ・・・

 

母 「まぁ、その内に戻れるわよ。だから、それまでお話でもしましょう」

 

いや、墓の前で全部言っちゃったんだけど・・・

 

父 「あんなので、伝わるわけないだろう」

 

えぇ〜・・・

 

母 「うふふ、冗談よ。でも、獅苑の口から聞きたいの」

 

・・・まぁ、そういう事なら

 

 

 

 

 

 

 

 

父 「ん、そろそろ、時間みたいだな」

 

時間・・・?

 

母 「あら、思ったより早いわね・・・」

 

もしかして、帰るの?

 

母 「まぁ、そんなところよ。ごめんね、もうちょっと、お話したかったのに」

 

別に謝らないでいいよ。俺も楽しかったし。

 

父 「そうか、楽しかったか・・・んじゃ、またな」

 

ああ、また・・・

 

母 「獅苑。あなたはいつまでも私達の息子よ」

 

当たり前だ。俺は父さんと母さんの息子だ・・・

 

母 「うふふ・・・」

父 「ふっ・・・またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅 「ん・・・」

 

目覚めると、すでに外は夕方。

庭につながる窓からは、オレンジの日差しが出ている。

 

コ 『あ、起きた?・・・あれ、泣いてる?」

獅 「え・・・」

 

コウに指摘され、自分の頬を触る。

 

コ 『嫌な夢でも見た?』

獅 「・・・いや、その逆だ」

 

服の袖で、涙を拭う。

 

コ 『そうなんだ。良かったね、いい夢見れて』

獅 「ああ・・・そろそろ、帰るか」

コ 『うん♪』

 

ソファーから立ち上がり、部屋を出る。

 

獅 「・・・行ってきます」

 

ガチャッと鍵をかけ、駅に向かって歩く。

 

 

現在、8月31日。夏休みが終わり告げようとする最後に、家を去る一人の男を夕日が明るく照らしていた

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インフィニット・ストラトス 朝霧獅苑 のほほんさん 

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