IS学園にもう一人男を追加した 〜 45〜47話 |
45話
獅苑SIDE
本 「いや〜、オリムー頑張ってるね〜」
獅 「だな・・・」
現在、本音と一緒に、一夏の特訓を観客席で見学中。
特訓の内容は見た感じ、マニュアル制御の訓練だというのが分かった。
本 「・・・」
獅 「どうした?」
急に黙り込んでしまった本音に、問いかけると、俯いたまま顔を赤くする。
本 「えと、久しぶりって思っちゃって・・・最近、2人っきりで、話しする機会なかったから」
獅 「・・・そうだな」
ポンッと、本音の頭に手を乗せる。
獅 「悪い・・・」
本 「謝らないでいいよ・・・私もみんなと居て、面白かったから〜」
獅 「・・・ふっ」
いつもの調子に戻った本音の頭をクシャクシャと撫でる。
本 「あ〜、髪ボサボサ〜」
獅 「後で直してやるから、我慢しろ」
本 「は〜い」
俺は本音の了承を得て、気が済むまで撫で続ける。
本音も、うれしそうに口元を緩ませ、ニコリと笑っていた。
獅 「よし、俺達も行くか」
本 「ん、どこに〜?」
獅 「もちろん、訓練にだ」
本音の手を引いて、ピットに走り出す。
本 「え、ちょ、ちょっと〜・・・」
【という訳で、アリーナフィールド】
本 「ねぇ〜、ほんとにやるの〜?」
何か嫌そうだな・・・
獅 「・・・駄目、か?」
本 「駄目じゃなんだけど〜・・・私、下手だし、邪魔になると思うよ〜」
獅 「別にマジな訓練じゃないよ。ちょっとした、スキンシップでさ」
外出許可は大体、休日の日曜日だけとなっている。
それに、観客席であんな話をされたら、動かずにはいられない。
獅 「じゃ、始めるか」
本 「う、うん・・・」
本音は打鉄(うちがね)の近接ブレードを構え、俺も合わせて、死戔の対艦刀一本だけを展開し、肩にかける。
ちなみに、死戔を使わない理由は、死戔本機は訓練には合わないからである。
獅 「ほら、打ち込んできて」
本 「う、うん・・・わぁー!」
[トテトテ]
遅っ・・・
[ゴンッ!]
あ、コケた。
本 「いてて・・・」
獅 「・・・」
こりゃ、基礎から訓練しないと駄目だな・・・
本 「やっぱり、私には無理だよ〜」←涙目
獅 「・・・なら、目標を決めるか」
本 「目標〜・・・?」
獅 「学園祭の後の行事に『キャノンボール・ファスト』があったな」
本 「確か〜、ISのバトルレースだったよね〜・・・」
キャノンボール・ファスト・・・ISの高速バトルレース。本来は国際大会として行われていたが、IS学園が市の特別イベントとして、学園の生徒達が参加する催し物。
訓練機部門と専用機部門とに、学年別で分けられて競う。
ちなみに、参加不参加は個人の自由。
獅 「その日までに、俺に一太刀でも浴びせられればいい。もちろん、死戔にな」
この目標を聞いた本音は、ポカーンと呆けるが、言葉の意味を徐々に理解し始めた本音は、めーいっぱいに首を振って否定する。
本 「ムリムリムリムリ〜!」
獅 「まだ、やってもいないだろ」
本 「ムリだよ〜。私が獅苑くんに・・・」
そのまま、うな垂れてしまう。
獅 「"大丈夫"・・・とは、言わないけど、俺的にはもう少し粘って欲しいだが・・・」
本 「なんで〜、そこまでして、私を訓練させたいの〜? Sだから〜?」
俺ってSだったのか・・・まぁ、Mではないと思うけど・・・
獅 「いや、俺としては、少しだけでも本音と一緒に、訓練したいというか、いたいというか・・・2人で頑張りたいというか・・・」
本 「あっ・・・」
どうやら、本音は何かに気づいたように、声をあげ・・・
本 「・・・不器用だね」
獅 「うるさい」
微笑みながら、からかい始める。
すると、本音はISから降り、俺の腰に抱きつく。
本 「えへへ。じゃあ〜、もし私が目標を達成できたら、一つだけ言う事聞いてね」
獅 「一つでいいのか?」
本 「いいんだよ〜」
昔と変わらない笑顔で返してきた。
獅 「・・・ふっ、なら、基礎の動作から始めるぞ」
本 「はーい、先生〜!」
楯 「・・・」
【夕方】
獅 「・・・疲れた」
まさか、人に教えるのがこれほど大変だったとは・・・
(ま、本音といられたからいいか・・・)
ガチャッと自分の寮部屋のドアを開ける。
楯 「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・[バタンッ!]」
獅 「・・・」
[ガチャッ]
楯 「お帰りなさい。私にします? 私にします? それとも、わ・た・し?」
獅 「・・・何、これ?」
玄関には、裸エプロン姿の楯無さんが、出迎えてくれた。
楯 「何って、見ての通りだけど・・・」
獅 「じゃあ、楯無さんを食えと、性的な意味じゃなくて」
楯 「いやんっ、そこは性的な意味でいいのに」
ひらひらと、エプロンを揺らす。
獅 「・・・じゃあ、食っていいんだな?」
楯無さんの顎を上げ、至近距離で俺と目を合わさせる。
楯 「え、いや、その・・・」
獅 「ほら、こっち向いてください」
楯 「ま、待って! まだ、心の準備が・・・」
大慌ての楯無さん。
獅 「・・・ぷっ」
楯 「えっ?」
獅 「ぷっははっ! 慌てすぎですよ」
楯 「・・・」
俺が噴き出してるのを見て、楯無さんは手を握りしめてるのが見えた。
楯 「・・・バカッ!」
獅 「おっと」
少し涙目の楯無さんのパンチを軽く往なす。
楯 「あなたが、疲れてヘトヘトだと思って、こんな格好して会いに来たのにっ!」
そう叫びながら、繰り出されるパンチを往なし続け、ついにドアまで追い込まれた。
楯 「私が一夏君を指導してるのに、近くでイチャイチャして!」
[ビュンッ! バコッ!]
避けたパンチがドアに穴を作る。
その隙に、楯無さんの横を通り抜けて、部屋に非難。
楯 「待ちなさーいっ!」
だが、瞬時に反応した楯無さんが、俺の肩を掴む。
楯 「待ちなさいって・・・きゃっ!」
獅 「あ・・・」
体制を崩した楯無さんに巻き込まれて、ベットに押し倒される。
一 「ただいま〜・・・失礼しました〜」
額を拭っていた一夏が、気まずそうに退散。
楯 「・・・あらあら、勘違いされちゃったね」
さっきまでとは違い、不敵な笑みを浮かべる楯無さん。
楯 「どう? このまま、してもいいんだよ」
チラッと、エプロンの下にある下着を見せる。
前、道場で見たやつよりも、リアルにエロイ下着だった。
※↑(ご想像にお任せします・・・)
獅 「できる訳ないでしょ。俺の気持ちが決まってないんですから」
楯 「・・・そうだったわね」
突然、暗い顔になった楯無さんは、俺の上から退く。
俺も体を起こして、楯無さんの隣に座り込む。
楯 「・・・でもね、私は傍にいるだけで、幸せだから」
獅 「・・・」
楯 「それで? 本音ちゃんの訓練はどう?」
重くなった空気を変えようと、楯無さんが話題を切り出した。
獅 「・・・今は何とも」
楯 「そう。ま、獅苑君が直々に教えるんだから、それなりの結果は欲しいものね」
獅 「当たり前です」
楯 「ふふんっ♪ 手伝える事なら言ってね。今はマニュアル動作だけの訓練だから、手は空いてるから」
そう言って、ベットを立ち上がり、出口に向かう楯無さん。
楯 「あ、できれば、獅苑君にお願いがあるんだけどさ。簪ちゃんに、"招待する人はお母さん"って、言っといてくれない?」
獅 「・・・分かりました」
俺としては、楯無さん本人から言ってほしいのだが、簪との約束の前に、楯無さんと会わすつもりはない。
楯 「よろしくね」
笑みを浮かべた楯無さんは、エプロン姿のまま部屋を出た。
獅 「・・・」
・・・あんな格好で外出て大丈夫か?
獅 「・・・別に大丈夫か」
生徒会長だし・・・
獅 「・・・つか、そろそろ入って来い。一夏」
[ガチャ]
一 「ははっ、気づいてたか・・・」
おそらく、俺達の会話を盗み聞きしてたのだろう。
一 「更識先輩にもバレちゃったし、俺に隠密は向かないかもな」
獅 「"かも"じゃなくて、"ない"だろ・・・それより、更識家の事は聞いたのか?」
一 「ああ、更識先輩に聞いたけど・・・よく分かったな。お前はあの場にはいなかっただろ」
一夏の口から"隠密"って単語が出れば、事情を知ってる人は気づくと思う。
一 「あ、そうだ。獅苑さ、学園祭に呼ぶ人とかいるか? いなかったら、招待券を譲って欲しいんだけど・・・」
獅 「いいけど・・・ほい」
一 「サンキュ!」
獅 「・・・誰を呼ぶんだ?」
一 「前に話しただろ、五反田(ごだんだ)弾(だん)と、妹の五反田(ごたんだ)蘭(らん)だよ」
そういえば、保健室で寝泊りしてる時に、言ってたな。確か、食堂の息子と娘だっけ・・・
一 「じゃあ、夕食食いに行くか?」
獅 「ああ」
【翌日】
今日の放課後も、本音と訓練中。
獅 「・・・大分、慣れてきたか?」
本 「う、うん。普通に飛ぶくらいはできた」
かなり真剣なのか、本音からのほほんとした感じは、欠片もない。
獅 「じゃあ、本格的な訓練するぞ。まずは、俺が攻撃を仕掛けるから、全部避けるか受け止めろ。いいな?」
本 「は、はい!」
俺は死戔の小型スラスターを部分展開。
そして、対艦刀を持って、本音を見下ろすように、上空に上がる。
コ 『操縦者保護機能には問題ないけど、一度でも攻撃を受けたら、命を落とすかもしれないよ』
獅 「・・・大丈夫さ」
コ 『・・・君がそう言うなら、大丈夫だと思うけど』
本 「ギリー、まだ〜!」
下では、痺れを切らしている本音がブレードを振り回して待っている。
獅 「今から始める・・・準備はいいな?」
そう言うと、本音はコクッと首を縦に振った。
獅 「じゃあ、スタート!」
試合開始とともに、小型スラスターを点火。
本来の機動性は発揮できないが、白式並みのスピードで本音に接近の後、対艦刀を振り下ろす。
本 「うわぁ!?」
俺の接近に反応できなかった本音は、自分でも状況が分からぬまま、地面に叩きつけられる。
本 「うっ・・・まだまだ〜」
ブレードを支えにして、立ち上がる本音の目には、闘志の炎がたぎっている。
獅 「ぁ・・・」
俺はその目に、圧倒された。
織斑先生とも、楯無さんとは違う威圧。
どれほど殴ろうが叩きつけようが、必ず起き上がると言わんばかりの、不屈の闘志。
獅 「・・・くくっ」
心の奥底から湧き出す好奇心。
(見てみたいな。その目が喜びに変わった瞬間・・・)
獅 「くっ、ははっ・・・」
本 「・・・?」
獅 「んんっ・・・さぁ、続きをやるぞ」
本 「は、はい!」
46話
投稿者SIDE
真 「朝霧君、引越しです」
獅 「・・・」
夕方。
獅苑達の寮部屋に訪ねてきた真耶の、突然の引越し命令。
一 「また、ですか・・・」
獅苑の後ろにいる一夏は、ルームメイトの三度目の引越しにため息をついている。
しかも、一夏を含めて、男子2人しか在籍していないこの学園で、その男子が引越しするのは、一夏的には困る事であるが、ここで抗議しても無力だという事は、一夏自身、よく分かっているため、口出しはできずにいた。
獅 「それで、俺はどこに・・・?」
真 「実は・・・」
千 「よろしく頼むぞ」
獅 「・・・またかよ」
真耶に連れられた獅苑は、寮長室の前に立つ千冬に、顧問の件でデジャブを感じて、ため息をつく。
千 「どうした? 私で不服か?」
獅 「それも、二度聞きました」
ちょっと違うけど、ここは割引で・・・
千 「そうだったか?・・・まぁいい。とりあえず、部屋に入る前に頼みがある」
獅 「何でしょう?」
千冬は頬を少しだけ赤くして、何かをためらっている様子。
そして、一回咳払いをして、歯切れ悪く、言葉を発する。
千 「その、なんだ、これから見る事は、皆には黙っといてくれ・・・」
獅 「? 別にかまいませんけど・・・」
千 「・・・そうか。じゃあ、入れ」
部屋に入っていく千冬の後を追って、獅苑も部屋に入る。
ゴミ屋敷に・・・
獅 「・・・」
部屋の周りに散乱している服や下着、ビールのカンにビニール袋などのゴミ。
およそ、部屋半分しか、床が見えず、ほかは服等に隠れてしまっていた。
余談だが、千冬は、一人で生活費や、一夏の学費を払うために、働いていたため、家事は全て一夏に任せていた。
そのため、千冬の家事スキルは皆無なのである。
千 「・・・」
獅 「・・・」
千 「朝霧?」
獅 「・・・片付けますよ」
千 「・・・はい」
さすがに、獅苑の言葉に従うしかない千冬であった・・・
【2時間後】
獅 「・・・こんなもんですかね」
2時間の格闘の末、本来の姿に戻った部屋。
千 「何か、悪いな・・・」
申し訳なさそうに謝る千冬。
だが、千冬は掃除してる間にでも、束の言葉がチラつき、集中が揺らいでいた千冬。
そのため、千冬が片付けた物は、獅苑の半分以下しかなかった。
獅 「だったら、小マメに掃除してください」
ボスッと、獅苑はベットに腰かけ、千冬もまたイスに座る。
獅 「・・・」
千 「・・・」
会話がないっすね・・・
千 「・・・あ〜、なんだ」
獅 「ん?」
居心地が悪くなった千冬は、話題を切り出す、
千 「最近、布仏と訓練してるそうじゃないか。成果はどうだ?」
獅 「・・・一応、成果は出てると思います。下手だといってる割には、読み込みは早いですし」
千 「そうか・・・」
[シ〜ン・・・]
またもや、部屋が静かになってしまった。
獅 「・・・そういえば」
千 「ん?」
今度は逆に、獅苑が話を切り出す。
獅 「一夏の新しい同居人は?」
千 「ああ、それなら、更識姉だが・・・」
獅 「・・・」
獅 (大丈夫かな・・・一夏)
"弄(もてあそ)ばれてなければいいけど(笑)"と、心配に一夏を思う獅苑であった。
【夜】
獅 「・・・」
千 「・・・」
生徒は就寝時間にも関わらず、千冬は机に向かって、教員としての仕事を行っていた。
そのため、獅苑は上手く寝付けず、だけども、必死に寝ようとして目を瞑っていた。
千 「・・・悪いな、獅苑。もうすぐ、終わるから待ってくれ」
獅 「気づいてましたか・・・」
目を開き、体を起こす獅苑。
千 「私を誰だと思っている・・・ふぅ、これで終わりだ」
グ〜ッと、背筋を伸ばした千冬は、ベットに倒れこむ。
千 「付き合わせて悪かったな。私は先に寝かせて、もらう・・ぞ・・・」
獅 「・・・お休みなさい」
倒れこんでからすぐに寝息を立てた千冬。
獅苑は起こさないように、千冬に薄い掛け布団をかける。
コ 『何か、訓練終わりの一夏君に似てるね』
獅 「いや、姉弟だし、似てて当たり前じゃないか?」
コ 『あ、それもそうだね・・・』
獅 「・・・ふぁああん。何か、急に眠気が」
コ 『君も寝たら?』
獅 「うん、そうする・・・」
ノソノソと布団の中に入る獅苑。
獅 「お休み・・・」
コ 『お休みなさい・・・』
獅苑SIDE
早朝4時。
俺は織斑先生に叩き起こされて、半強制的にトレーニングにつき合わされている。
獅 「・・・」
千 「ボ〜ッと、するな」
獅 「・・・眠い」
織斑先生が俺の腕を強引に引いて、走らされる。
だが、俺に合わせてくれてるのか、ゆっくり目に足を動かしてくれている。
千 「そういえば、出し物は『コスプレ喫茶』になったそうだが・・・」
獅 [ビクッ!]
眠気が一気に吹っ飛んだ。
忘れようとしてたのに・・・
千 「ど、どうした?」
獅 「い、いえ・・・」
千 「・・・コスプレするのか?」
織斑先生が、笑いを堪えて尋ねてきた。
獅 [・・・コクッ]
千 「まさか、メイド服にか?」
獅 [・・・コクッ]
俺が頷いた途端、織斑先生の我慢は解かれ、盛大に噴き出した。
獅 「・・・笑わないで、ください」
千 「くっくくっ・・・す、すまん。お前がメイドになるかと思うと、容易に想像できてしまってな・・・くっ、ふははっ!」
またもや、笑い出す先生。
結局、織斑先生の笑いが止まる事無く、トレーニングが終わるまで、ずっとニタニタしていた。
獅 「・・・はぁ」
ラウラSIDE
現在、放課後。
今、学園祭でクラス出し物の詳細を、クラスみんなで決めている。
あの、セシリアのメイドもいる。
チ 「一応、名簿に入ってた人の寸法どうりの、服をお持ちしました。えーと、これがセシリア様」
セ 「ありがとう、チェルシー」
手渡しで、メイド服を受け取るセシリア。
チ 「で、これがデュノア様」
シ 「あ、ありがとうございます・・・」
恥ずかしそうに、受け取るシャルロットだったが、皆に隠れて、メイド服を抱きしめていた。
そういえば、@クルーズでは、執事服だったからな。
メイド服が着られてうれしいんだろう・・・
チ 「で、この胸元が大きいのは篠ノ之様」
箒 「わ、私もかっ!? というより、余計な事は言わないでください!」
すると、クラスの皆が箒をからかい始める。
その様子を、嫁はニコニコしながら見ていた。
嫁曰く、入学当時は疎遠されていた存在だった箒が、剣道部などにも顔を出すようになり、友達も増えたらしい。
(それより、私の嫁のくせに、最近の一夏は楯無(あのおんな)と、いつも一緒ではないか・・・タッグ戦の誘いも断られてしまったし)
チ 「で、ボーデヴィッヒ様」
ラ 「っ!? う、うむ・・・」
心配になって考え込んでいると、ついに、私の元にメイド服が渡される。
(あまり、あの喫茶店の服とは変わらないな・・・)
一時、嫁の事は頭の隅に置いておいて、メイド服を眺める。
だが、やはり服の胸元は箒のように、調整されてなかった。
ラ 「・・・」
自分の胸を擦る。
(いや、まだまだ時間はあるんだ。姉上もそう言ってたではないか・・・)
哀れんだような、目をしてたが・・・
チ 「で、この執事服が織斑様ので、このメイド服は・・・朝霧様のですね」
一 「・・・どうも」
嫁がメイドの傍に寄って、服を受け取るが、姉上は自席から一歩も動こうとはしない。
獅 「・・・」
本 「え、え〜と〜、ギリー?」
獅 「・・・」
本音が姉上の肩を叩くと、スッと席を立つ姉上。
姉上は無表情だが、目は虚ろで、気だるいオーラを出していた。
獅 「・・・あ、ありがとうございます」
手が震えながらも、メイド服を受け取った姉上は、席に戻り、机に突っ伏す。
全 「・・・」
全員、"お姉さまのメイド服が見たい"などと言って、今の姉上の状態に責任を感じたのか、皆は黙り込み、先までの騒がしさが一瞬にして消え去る。
私も『メイド喫茶』と提案した事に、今更ながら後悔した。
一 「じゃ、じゃあ、試着・・・は、各自でいいよな」
全 [コクッ]
一 「という訳で、終わります」
獅 「・・・」
嫁の終了の号令が出た途端、姉上はメイド服を握りしめて、教室を出て行く。
(今日は、あんまり話しかけない方がいいな・・・)
獅苑SIDE
獅 「・・・」
寮部屋に座る俺の前に立てかけてあるメイド服。
(俺、何やってるんだろう・・・)
中学の時、男子校に通ってた俺は、確かに男子から女装を強要されそうになったけど、最初の方で暴力沙汰を起こして以来、残りの2年11カ月は、平和に暮らしていた。
だが、今回は相手が女子。しかも、国立の学園。そして、俺の立場。
この三拍子が揃ってるせいで、俺は何かと動き辛くなってしまっていた。
獅 「・・・本音の訓練行かないと」
たぶん、アリーナで待っているだろう。
でも、アリーナには楯無さんもいる訳で・・・
獅 「はぁ・・・」
絶対からかわれる。
一夏SIDE
楯 「へぇ〜、獅苑君がメイド服ねぇ・・・面白そうじゃない」
一 「しー!・・・声が大きいですよ、楯無さん。それで不機嫌なんですから、獅苑の奴」
向こう側を見ると、のほほんさんと一緒に訓練・・・というより、部分展開の獅苑が一方的に攻撃を仕掛け、のほほんさんがそれに何とか堪えていた。
ちなみに、俺が楯無さんの下の名前で呼ぶようになったのは、ルームメイトと同士になって、強要されたからである。
(断ると、後が怖いからな・・・)
楯 「・・・ほら、ボーッとしないで、私達も再開するわよ」
一 「は、はい・・・あ、それより、質問いいですか?」
楯 「何かしら?」
一 「何故、俺にみんなの誘いを断らせるんですか?」
俺はこの特訓期間に『専用機限定タッグマッチ』の誘いを、いつもの面々から受けていた。
だが、楯無さんは"断るように"と、前もって言われており、この前もラウラの誘いを断ったばかりだ。
思いっきり、睨みつかれたけど・・・
楯 「ああ、それね・・・一夏君、その事でお願いがあるんだけど・・・」
一 「何です?」
楯無さんは、手の平を合わせて・・・
楯 「私の妹と組んで!」
一 「妹さん、ですか・・・」
訓練を一時中断して、楯無さんから事情を聞くため、ピットに移動。
楯 「そう。更識簪・・・あ、これが、写真ね」
楯無さんの携帯の画面には、どこか陰(かげ)りのある少女が写ってた。
一 「どんな人なんですか?」
楯 「うーん・・・ネガティブっていうか、何と言うか・・・暗いのよ」
バッサリ言ったな、おねーさんや・・・
楯 「それでも、実力はあって、日本の代表候補生・・・なんだけど」
一 「けど?」
楯 「専用機を持ってないのよ。君のせいでね」
一 「俺のせいですか・・・?」
何故・・・?
楯 「簪ちゃんの専用機の開発元は、倉持技研・・・つまり」
一 「白式と同じ・・・」
楯 「そう。それで、白式の方に、人員を回しちゃって、未だに完成されてないのよ・・・でも、もうすぐ完成されるそうだけど」
一 「え、そうなんですか?」
楯 「本音ちゃんのおかげでね・・・それより、お願い! 簪ちゃんと組んで!」
一 「そ、そんなに頼み込まなくても、大丈夫ですから・・・」
楯 「そ、それじゃあ、いいの・・・?」
うーん・・・やはり、しおらしい楯無さんは、ギャップがあるせいか、小さく見える。
それに、いつもマイペースの人が、こうまで頼み込んでくると、不思議と可能な限り願いを叶えてあげたくなる。
一 「え、えーと、それじゃあ、簪さん? には、俺から誘えばいいんですか?」
楯 「うん・・・でも、極力、私の名前は出さないでね」
一 「・・・妹さんと、仲良くない、とか?」
コクッと頷く、楯無さん。
一 「・・・えっと、なるべく自然を装って接触します」
楯 「お願い。あの子、ちょっと気難しいところがあるから、言葉には気をつけてね」
なら、明日にでも、接触してみるか・・・
楯 「本当にお願いね。無理しなくていいから」
やっぱり、らしくないな・・・
獅苑SIDE
簪 「嫌です」
獅 「・・・」
本 「・・・」
楯無さんにからかわれる事なく、訓練を終え風呂上りの後、俺は簪にダッグ戦について、"一夏と組んでくれ"とお願いしに来たのだが・・・
獅 「・・・絶対?」
簪 「はい。例え、朝霧さんからお願いされても、断らせてもらいます」
ここまで、ハッキリと言われてしまうと、身を引くしかない様だ。
獅 「・・・なら、今は諦める。じゃあ、別の話をしよう」
簪 「は、はい・・・」
一夏の話から離れると、いつもの調子に戻る簪。
獅 「『打鉄弐式』は、どの辺りまで進んだんだ?」
簪 「もうすぐ、試験運転ができる辺りまで進んでいます。本音のおかげです」
本 「えへへ〜、照れるな〜」
風呂上りなのか、バスタオルをロングヘアーのように巻いている本音が、簪にくっ付く。
簪 「本音、苦しい・・・」
本 「いいじゃ〜ん。すりすり〜」
獅 「・・・じゃあ、次は何を話そうか?」
簪 「あ、じゃ、じゃあ、アニメ、見ましょう」
簪が本音を引っぺがして、ヒーロー物のDVDを取り出した。
獅 「新しいのか?」
簪 「はい、先週に買ったばかりです」
アニメの事になると、途端に生き生きとする簪。
だが、その姿が俺にとっては、日々の疲れを癒してくれる、一つだったりもする。
簪 「では、見ましょう!」
すでに、準備が終わったみたいで、本音と一緒に机に置かれたDVDプレイヤーを覗き、1時間ぐらい、3人で菓子を摘みながら見ていた。
本 「あ、終わったみたいだね〜・・・」
気づけば、サウンドからEDが流れ、スタッフロールが出ていた。
簪 「このアニメ、次の話が来月に発売されるんです。その間、楽しみで・・・」
獅 「本当、ヒーローが好きだよな」
簪 「その中でも、完全無欠で、勧善懲悪(かんぜんちょうあく)のヒーロー物が大好きです」
簪はそう言いながら、DVDプレイヤーの片づけを行い、最後の菓子を口に放り込んだ。
本 「あ〜! 私が食べようと思ったのに〜」
簪 「あ、ご、ごめん・・・」
獅 「そのぐらいで、怒るなよ・・・じゃ、俺は戻る」
本音をあやし、部屋の出口に向かうため、立ち上がる。
簪 「あ、そう、ですか・・・また、来てください」
本 「明日もよろしくね〜」
獅 「ああ、またな」
投稿者SIDE
獅苑が帰った部屋。
簪と本音がお菓子の袋を片付ける。
本音の場合、以前に獅苑から怒られて以来、片付けはしっかりする様にしているのだ。
簪 「・・・姉さんが命令したの?」
本 「ん〜?」
袋をゴミ箱に入れた簪が、床に落ちている菓子のカスを掃除している本音に尋ねる。
簪 「姉さんが、朝霧さんに"織斑一夏と組め"って、命令したの? それとも本音が?」
本 「ううん、ギリーが自分から言ったんだよ〜」
簪(本 「そんな訳ないじゃない。朝霧さんは私とは他人な「かんちゃん、それ以上言ったら、本気で怒るよ」・・・え?」
本音が簪の目を捉え、簪は体を硬直させられた。
本 「ギリーは、かんちゃんの事を"他人"なんて思ってない。それに、オリムーとの事だって、ちゃんと考えているし、私もかんちゃんも会長もお姉ちゃんも みんなの事も、いつも気にかけてくれてる。これでも、さっきみたいな事が言える?」
簪 「そ、それは・・・」
言葉が詰まる簪は、膝をついてうな垂れる。
本 「・・・な〜んてね〜」
簪 「え・・・」
本音は腕を後ろに組んで立ち上がる。
本 「汗かいちゃったから、もう一回お風呂、入ろ〜」
簪 「・・・」
本 「かんちゃんはお風呂まだだよね〜。一緒に入る〜?」
簪 「ううん・・・私、ちょっと、出かけてくる」
本 「そうなんだ〜・・・あ、外に行ったら〜、良いと思うことあるかも〜」
まるで、簪が何をしに出かけるのかを分かったように、助言をする本音。
簪 「・・・うん、分かった。行ってきます」
本 「いってらっしゃ〜い!」
本音が手を振って、部屋を早歩きで出る簪を見送る。
本 「♪〜、お風呂、お風呂〜」
獅苑SIDE
本音達の部屋から寮長室には戻らず、俺は寮の外に設置されたベンチで風に当たっていた。
[コロコロ]←飴の舐める音
(どうするかな・・・)
簪があそこまで否定するとなると、こちらも本腰入れて、やるしかない。
だけども、その"やる事"が、まったく思いつかない。
[コロコロ・・・パキッ]
獅 「ん・・・」
飴を奥歯で砕いてしまった。
(まぁ、いいか・・・)
三分割された飴を、器用に舌で均等に舐める。
[ボ〜・・・]
頭が活動時間の限界なのか、気分が上の空。
すると不意に、後ろから声をかけられた
簪 「あ、あの・・・」
[ボ〜・・・」
簪 「あのっ!」
獅 「ん?」
簪 「やっと、気づいてくれた・・・」
"ふぅ"と、胸を撫で下ろす簪。
獅 「俺に用なのか?」
つか、良くここが分かったな・・・本音か?
簪 「はい・・・あの、すみませんっ!」
獅 「・・・? 何が?」
急に頭を下げる簪に、首を傾げ問いかける。
簪 「え、えと、その・・・」
獅 「・・・まぁいい、用件は?」
何か言いにくそうな雰囲気を出していたので、簪を隣に招く。
簪 「・・・さっきの話、受けよう、かな、って」
獅 「一夏とコンビを組む話か?」
簪 [・・・コクッ]
獅 「そうかっ・・・良かった」
つい、口元が緩くなる。
簪 「そ、それで、その・・・私、朝霧さんに聞きたい事が」
獅 「ん?」
おそるおそる、簪が俺と顔を合わせ、視線が泳ぐ。
簪 「あ、朝霧さんにとって、私は、何です?」
獅 「・・・」
簪 「あ! 変な意味とかじゃないですよ! 純粋に聞いてるだけで・・・」
あたふたと慌てる簪。
これまた、可愛らしい・・・
獅 「"何です"ね・・・」
簪 [ゴクッ]
獅 「・・・」
簪は震える手を膝に置き、制服のスカートを握りしめている。
獅 「・・・萌え対象?」
簪 「[コテッ]・・・萌え?」
緊張していた簪の体から、フッと力が抜けたようで、ベンチからこけそうになる。
獅 「簪は俺にとって、萌え対象・・・だと思う」
簪 (これ、喜んでいいのかな・・・?)
どうなんだろう・・・?
獅 「まぁ、大切で必要な人って、事で・・・」
簪 「私が"大切"・・・あの、朝霧さん」
獅 「何だ?」
ベンチから立った簪。
俺が簪を見上げる形になっていると、またもや頭を下げる簪。
簪 「ありがとう、ございます。今回の事も、私のために考えてくれたんですよね?」
獅 「・・・本音から聞いた?」
簪 「そんなところです。だから、本当に、嬉しいです」
獅 「・・・俺は別に、自分が楽しみたいだけだ」
ベンチを立った俺は、簪の頭に手を置き、寮の方に歩き出す。
獅 「あ、そうだ。"招待する人はお母さん"だって・・・」
簪 「は、はい。分かりました」
すぐに、俺が言った事を理解した簪なのだが、その表情は暗い。
獅 「・・・」
俺は何も言う事無く、寮へと再度、歩き出す。
簪 「し、獅苑さん!」
獅 「ん?」
簪がいつもより大きな声で"下の名前"を叫び、俺を呼び止めた。
簪 「わ、私、勝ちますから。お姉ちゃんに、絶対!」
獅 「・・・おう」
楯無SIDE
獅 「・・・だ、そうですよ。"お姉ちゃん"」
楯 「やめて。あなたに、そう呼ばれると、背筋が凍るわ」
獅 「そうですか」
寮の中から、2人の様子を見てたのを、あっさりと獅苑君にバレて、ちょうど誰もいない、食堂でお話中。
楯 「でも、あそこまで簪ちゃんを変えちゃうんなんて、本当何者なの、君は?」
それに、"お姉ちゃん"なんて、呼ばれるのは久しぶりだし・・・
獅 「ただの一学生ですよ・・・それより、あそこまで言われて、"生徒会長"はどうします?」
楯 「"どうする"? 決まってるじゃない。私も全力で倒すだけよ。"生徒会長"としても、"姉"としても」
獅 「楽しみにしてますよ」
すると、獅苑君が手元の飴を取り出して、口に放り込む。
女1 「あ、会長とお姉さまー! こんばんわ!」
同時に、一年生3人が、私たちの存在に気づいて、近づいてきた。
女2 「あれ? 今日は織斑君じゃなくて、お姉さまとなんですね」
楯 「まぁね♪」
女3 「あ、私達と一緒にお食事しませんか?」
楯 「ええ、良いわよ・・・獅苑君は?」
獅 「いえ、俺はいいです・・・失礼します」
そう言って、獅苑君は食堂を出て、残念そうにする女子3人。
(他の人にも、いつもの調子で接せられればいいのに・・・でも、特別な存在みたいでいいわね)
女1 「会長さん、こちらにどうぞ!」
楯 「はいはい・・・」
47話
一夏SIDE
楯無さんからの"お願い"から、2週間が経ち、学園祭前日。
本 「やっとぉ、完成した〜! いや〜、オリムーが持ってきたデータが役に立ったよぉ」
整備室にて、俺と簪、そして、大きく伸びをするのほほんさん。
もちろん、"完成"したのは、学園祭二日目で使用する簪の専用機『打鉄弐式』だ。
一 「これで、完璧か?」
簪 [フルフル]
俺の言葉に、首を振って否定。
簪 「まだ、火気管理システムが・・・マルチ・ロックオン・システムは、使えない」
打鉄弐式の武装の一つ『山嵐』
打鉄弐式の最大武装であり、6機×8門の独立稼動型ミサイルを48発を一斉に発射できる、
一 「それ、大丈夫なのか?」
簪 「大丈夫・・・通常の、ロックオン・システムを、使うから」
なら、安心か・・・
そういえば、この2週間で大分、簪ともお近づきなれたな。
お互い、下の名前で呼び合ってるし。
最初、俺がコンビの誘いに言った時なんか・・・
簪 『獅苑さんの頼みだから、別にいい・・・だけど、邪魔、しないで』
こんな感じに、完全拒絶されてたからな・・・
一 「・・・」
簪 「な、何・・・///?」
一 「あ、いや、何でもない・・・」
マズイマズイ。つい、簪を凝視してしまった。
本 「・・・じゃあ、先に帰るね〜」
一 「おう、お疲れ様」
簪 「ありがと、本音」
本 「なんのなんの〜・・・オリムーと、うまくやるんだよぉ」
簪 「っ///!? ほ、本音っ!」
ヒソヒソ声で、何かを簪に言ったのか、簪は顔を赤くして、本音を捕らえようとする。
本 「えへへ、おっ疲れ〜!」
だが、簪が捉える前に、整備室を退散。
一 「・・・」
簪 「・・・」
そして、この整備室には、俺と簪の二人っきりの状態となってしまう訳で・・・
[・・・]
とても気まずかったりする。
一 「と、とりあえずさ・・・飯、食いにいくか?」
簪 「っ! う、うん・・・」
簪SIDE
2人っきりの食事が終わり、現在、部屋で休憩中。
(一夏君・・・)
心がズキリと痛む。
(やっぱり、私・・・好きなのかな?)
だが、一夏君の周り、主に専用機持ち達には、魅力に溢れている。
(私なんかじゃ・・・でも)
いつまでも、身を引いてちゃ、獅苑さんに叱られる。
簪 「行かないと・・・」
一夏君の部屋に・・・
一夏SIDE
一 「ただいまぁ」
楯 「おかえり〜・・・」
部屋に戻ると、ワイシャツと下着姿でベットに顔を埋めている楯無さん。
まぁ、いつもの事なので、楯無さんの格好については、突っ込まないでおこう。
楯 「一夏く〜ん、マッサージ〜」
一 「はいはい」
シャツ越しから、楯無さんの背中に手を添え、力を加える。
楯 「くぅ・・・相変わらず、うまいわねぇ」
一 「そりゃどうも・・・そういえば、楯無さんは誰と組むんですか?」
楯 「ん? 学園祭のポスターに、トーナメント表が載ってたでしょ? 箒ちゃんとよ」
一 「ああ、箒ですか・・・え、箒っ!?」
楯 「いたっ!」
一 「あ、すみません・・・」
予想外の名前に驚き、手に力が入ってしまったようだ。
てっきり、『一人でいい!』とか、言い出して、誰とも組まないと思ってたからな・・・
(・・・あ、なるほど。楯無さんなりの気遣いか)
姉と心の溝がある妹、という存在に・・・
もしかしてたら、楯無さんは自分自身の妹、簪と重ねてたのかもしれない。
だからこそ、箒の事は放っておけなかったのだろう。
楯 「これでも、仲良いんだよ。今日だって、2人で特訓したし・・・それより、簪ちゃんの方はどうなの?」
一 「それなら、完成しましたよ・・・」
一 「楯無さんの機体データが、役に立ちましたよ」
[ガシャーンッ!]
2人 「っ!?」
突然、廊下から、何かが割れた音が響く。
一 「ちょっと、見てきます」
俺は楯無さんが寝ていたベットから離れ、玄関に出る。
一 「あれ? 開いてる?」
少しだけ、開いているドア。
だが、そのドアから、廊下を見渡しても、誰もいないし、落ちている物も何もなかった。
一 「???」
簪SIDE
[ダダダダダダッ]
何も考えられない。
気づけば、走っている。
まるで、何かに逃げているかのように・・・
(ううん、逃げてるんだ、私・・・)
抹茶のカップケーキを手に、一夏君の部屋の前にまで来た。
だが、少し開いたドアから聞こえたのは・・・
一 『楯無さんの機体データが、役に立ちましたよ』
この言葉が私の全てを崩れさせた。
(打鉄弐式を組めたらっ・・・私の力で完成させられたらっ・・・やっと、やっと・・・)
姉さんに追いつけるかもしれないと思ってたのに・・・
簪 「あぅ・・・」
気づけば、寮を抜け出して、校舎の下駄箱まで走っていた。
簪 「幻だったの? 優しくしてくれた一夏君も、打鉄弐式を完成させた喜びも・・・」
すべては、姉さんの根回しだったの・・・?
簪 「ひっ・・・」
そう思うと、私の心の中に、姉さんの幻が現れる。
完成された美、優れた頭脳、常人を超越した肉体能力、多くの人々を掴んで、離さない魅力。
今まで、忘れていた・・・いや、目を背けてた。
姉さんが、天才だっていうことを・・・
簪 「あっ・・・あ・・・ぁっ・・・」
恐ろしい。
恐ろしい恐ろしい恐ろしい。
恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい。
簪 「い、や・・・」
楯 『簪』
幻が呟く。
楯 『あなたは何にもしなくていいの。私が全部してあげるから』
とても甘く、猛毒の言葉。
楯 『だから、あなたは・・・」
簪 「いやぁ・・・いやぁ!」
いくら耳を塞ごうと、いくら大声を出そうとも、消えてくれない幻。
そいて、それは私の心の奥から、ジワジワと広がっていき・・・
絶望という、闇に叩き落される。
楯 『無能のままで、いなさいな』
簪 「っ・・・うっ」
心が、体が、耐え切れなくなった。
その場で、全身の力が抜け、地面に膝を突く。
だが、体の震えは止まらず、何とか、両肩を抑える。
簪 「っ、はっ・・・は、あっ・・・うっ、うえっ・・・」
肩で息をしていると、頬から一筋の涙が零れる。
(私っだって・・・だって・・・)
何度も何度も、床に落ちる涙。
もうすべてが、どうでもいい。
死にたくなるような、惨めな気持ちが、涙を溢れ出させた。
簪 「うわぁあああ・・・うわぁああん・・・」
もう嫌だ。
こんな思いするくらいだったら、昔のままが良かった。
(・・・獅苑さんに会わなければ)
獅苑さんが、私と姉さんとの関係に首を突っ込んでなければ・・・
獅苑さんが、一夏君と組ませようとしなければ・・・
獅苑さんが・・・
簪 「・・・どうでも、いいや」
いっそこのまま、死んでしまおうか。
それに、もう打鉄弐式は必要ない。
右手中指から待機状態の指輪を抜き、投げ捨てるために、振り上げる。
簪 「こんな物っ!」
獅 「やめろっ」
ガシッと、後ろから握ってた手を掴まれる。
簪 「・・・何の用ですか?」
後ろを振り向かずに問う。
もう、首を動かす気力もない。
獅 「・・・悪かった」
簪 「"悪かった"?」
おそらく、あの現場を見ていたのだろう・・・
獅 「俺が簪の事を、ちゃんと2人に話しておけば、こんな事には・・・」
突然、言葉に詰まった獅苑さん。
私は気になって、無意識的に後ろを振り向く。
簪 「っ!」
そこには、いつも獅苑さんはいなかった。
目から涙を流し、苦しそうに唇を噛んでいる。
簪 「し、獅苑・・・さん?」
獅 「・・・ちょっと、来い」
簪 「え? ちょ、ちょっと・・・」
涙を拭った獅苑さんが、掴んでいた手を引っ張って、校舎の中に連れて行かれる。
そして、連れてこられたのは、整備室。
獅 「っ!!」
[ドガッ! ドガッ! ドガッ!]
足で三度、鍵のかかった扉に蹴りを入れ、扉を吹っ飛ばす。
獅 「・・・打鉄弐式を出して」
簪 「え、あ、は、はい・・・」
獅苑さんの命令どうりに、打鉄弐式を展開。
すると、獅苑さんは整備室に設置されている機材から、コードを取り出し、打鉄弐式に繋ぐ。
獅 「簪、今から見る物は、みんなには内緒にしてくれ」
簪 「わ、わかりました」
獅 「・・・コウ、出て来い」
コ 『はいはーい!』
簪 「っ!?!?」
突如現れた、光る物体。
簪 「・・・あれ?」
だが、良く見ると、第二形態のISコアと似ている。
獅 「説明はいるか?」
簪 [コクッ]
ものすごく、気になる。
獅 「・・・分かった。コウ、先に作業をしてくれ」
コ 『アイアイサー!』
すると、ISコアが、コンピュータに干渉し始めるかのように、光りだす。
獅 「じゃあ、説明するぞ」
簪 「は、はいっ」
【説明中】
簪 「コアが、命を・・・」
獅 「まぁ、詳しくは分からないから、これ以上は聞かないでほしい」
簪 「は、はい・・・」
コ 『終わったよー!』
丁度、説明が終わった時に、コウさん? が、獅苑さんに呼びかける。
獅 「そうか・・・じゃあ、次だな」
今度は、獅苑さんが席に座り、キーボードを叩き始める。
獅 「・・・」
簪 「何、してるんですか・・・?」
獅 「ん? 『ミステリアス・レイディ』の実稼動データを消して、新しいデータを入れただけだ」
簪 「新しい、データ? 獅苑さんのISのですか?」
コ 『それじゃ、機体が持たないよ。えっと・・・簪さん、でいいかな?」
簪 「う、うん・・・いいよ」
コ 『やったやった〜』
私の周りを浮遊している、コウさんが喜びを表しているのか、グルグルと周りを飛び続ける。
簪 「それで・・・誰の、データですか?」
獅 「本音だよ」
簪 「本音?」
獅 「知ってるだろ、俺が本音と訓練してるの。その時の打鉄のデータだ・・・終わり」
すると、打鉄弐式に繋がれていたコードが、機材に吸い込まれるように、戻っていく。
コ 『これで、簪さんと、本音ちゃんと、一夏君の3人が作り上げたISの完成だね♪』
簪 「・・・3人が作り上げた、IS」
本音の実稼動データ、一夏君の一部の武器データ、そして、私を入れた3人が作ったIS『打鉄弐式』。
簪 「・・・獅苑さんは?」
このIS製作には関わってなかったが、たぶん、私の中では、一番の支えになった人物であるはず。
だが、打鉄弐式には、獅苑さんのデータも何も無い。
獅 「さぁ? 別にいらないだろ」
簪 「い、いらなくなんか、ないですっ!」
コ 『シーッ・・・今、夜だよ』
簪 「あ・・・ごめんなさい」
コウさんに指摘されて、すぐに口を手で抑える。
獅 「まぁ、今は二日目のダッグ戦に集中しろよ」
簪 「で、でも・・・」
獅 「ほらほら、出た出た」
獅苑さんが、ISを解除した私の背を押して、整備室から出す。
獅 「先生達に見つからないように、戻れよ」
簪 「獅苑さんは・・・?」
コ 『これこれ』
コウさんが、吹っ飛ばされた扉を動きで指摘する。
獅 「そういう事だから・・・あと、一夏と楯無さんの事は・・・」
簪 「分かってます。二人とも、私のためにやってくれた事ですもんね・・・では、先に、失礼します」
獅 「学園祭、楽しめよ」
コ 『まったね〜』
獅苑SIDE
獅 「・・・さて、直すか」
コ 『その手で?』
窓から、無事に簪が寮に戻ったのを確認して、扉を持ち上げようとするものの、コウの指摘で動きを止める。
獅 「・・・血、出てきたな」
コ 『割れた皿を勢い良く、拾うからだよ』
簪が落とした皿を、一夏に発見される前に回収したせいで、破片が刺さり、結構グロテクスな手になってしまった。
先ほど、ようやく血が止まりかけていたのに、キーボードを速く打ちすぎたか、傷口が開いてしまったようだ。
コ 『それにしても、落ちたケーキをそのまま食べるなんて・・・』
獅 「好きな相手に、落ちたケーキを渡してどうよ?」
素手で食べたのは、行儀が悪いけどさ・・・
コ 『まぁ、そうなんだけどね〜・・・』
獅 「とりあえず、俺達も直して戻るぞ」
コ 『は〜い』
【寮部屋】
獅 「・・・」
メイド服、か・・・
獅 「はぁ・・・」
千 「まぁ、その、なんだ・・・頑張れ」
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