IS学園にもう一人男を追加した 〜 52話
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戦場はアリーナフィールド。

 

簪 「くっ・・・」

 

薙刀による斬撃と、荷電粒子砲による射撃で簪は攻め続けるが、敵IS『ゴーレムV』性能の速さと、反応の鋭さに、逆に簪の方が追い詰められている。

 

簪 (一夏君・・・)

 

楯無と箒のピットに向かった一夏は今だ帰ってこず、ゴーレムVのジャミングによって、簪は一夏の様子が分からない。

 

簪 (でも、このままじゃ・・・やられるっ)

 

簪は降り続ける熱線をウィングスラスターを最大噴射で、その場を引き、一夏が向かったピットに着地する。

 

簪 「っ!?」

 

ガレキの中に目を移した簪。

そこで、発見したのは・・・

 

簪 「お、お姉ちゃん・・・?」

 

ミステリアス・レイディの装甲が無残に破壊された楯無がいた。

楯無は深いダメージを負っているのか、ピクリとも動かず、地面に倒れている。

 

簪 (い・・・や・・・。うそ・・・うそ・・・)

 

声が出したいのに、声が出ない。

名前を叫びたいのに、口が動いてくれない。

 

簪 (気持ち悪い・・・)

 

その瞬間、簪の世界がグニャリと歪んだ。

 

簪 (気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)

 

吐きそうな不快感に襲われながらも、簪は後ろから迫ってきたゴーレムVに視線を移す。

無機質で暗い色の体。

少女のようなボディライン。

それと、不釣合いな巨大な左腕。

逆に、洗礼されたスマートな右腕の剣。

 

簪 (憎い・・・その全てが)

簪 「・・・壊して、やる・・・」

 

ボソッと、呟いた言葉には、簪の明確な殺意が込められていた。

 

簪 「壊して・・・壊してやる・・・絶対、壊すっ!」

 

そう叫んだ瞬間、スラスターを最大出力で『瞬時加速』。

 

簪 「うわあああああっ!!!」

 

薙刀を振り回し、敵ISを斬りつけ、叩きつけ、簪の激情は止まらない。

 

簪 「あああああああっ!!!」

敵 「――――――――――」

[ガキィィィィンッ!]

 

押され気味だったゴレームVは、ブレードで薙刀の刃部分を斬る。

くるくると弧を描きながら地面に突き刺さった薙刀。

 

簪 「っ!」

 

だが、すぐさま荷電粒子砲を至近距離で撃ち込み続け、ゴーレムVはシールドピットで防ごうとするものの、荷電粒子砲の衝撃で後ずさる事しかできない状況。

 

[カチッ・・・]

簪 「ぇ・・・」

[カチッ、カチッ・・・]

 

神の悪戯なのか、無機質な音が残酷に響き渡り、現実を突きつける・・・荷電粒子砲のエネルギー切れを。

 

簪 「あうっ!」

 

ゴーレムVのブレードに薙ぎ払われ、地面に転がる簪。

 

簪 (な、何か、使える武器は・・・)

 

諦めず、打鉄弐式のステータスを確かめ始めた簪は、残された武装『山嵐』を見つける。

 

簪 (だけど、これは・・・)

 

マルチロックオン・システムは完成していなく、しかもゴーレムVのジャミングのせいで、通常ロックオンの追尾機能が働かない。

それに、いくら強力な高性能爆薬を積んでいたとしても、当たらなければ意味がないのだ。

 

簪 (でも、一夏君が的の注意を引いてくれれば・・・もしかしたら・・・)

[ドンッ!]

簪 「え・・・?」

 

簪が思った瞬間、大きな爆発が轟き、一夏が簪の隣に投げ捨てられてきた。

その全身の装甲には深刻なダメージによる大きなヒビが入っていて、一夏は意識を失っている。

すると、意識の無い一夏をもう一機のゴーレムVが頭を掴み上げる。

 

簪 「や・・・め、て・・・」

 

簪は頬に涙を流しながら、必死に声を振り絞る。

だが、人情のない機械にいっても無意味。

 

簪 (もう、駄目・・・一夏君、ごめんなさい・・・)

 

楯無の仇も取れず、思い人がこんな状態でも何も出来ない自分を責める簪。

そのせいか、顔を上げられず、立ち上がる勇気さえない。

 

簪 (私とペアでごめんなさい・・・助けられなくてごめんなさい・・・役立たずでごめんなさい・・・生まれてきて、ごめん、なさい・・・)

簪 「う、ううっ・・・」

 

簪は獅苑に合うまでの自分に逆戻り。

その後ろ向きな心がある事に気づく。

 

―――――完全無欠ヒーローなんて、この世にはいない。

 

そう考えた簪に残るのは、絶望だけ。

 

敵 「――――――――」

 

だが、ゴーレムVはそんな事を気にも留めず、ゆっくりとブレードを構え、近づいてくる

そして、ブレードを振り上げて・・・振り下ろす。

 

簪 (ああ・・・)

 

簪には、ゴーレムVの動作が遅く見える。

これが、死に間際の人が見るものなのだろうか。

そう思った簪は、この世に対して、自分に対してどうでもよくなった。

 

簪 (早かったな・・・私の人生・・・)

 

解放感があるわけではない。

でも、恐怖心は見つからない。

心が空虚になっただけ。

 

[ザシュ・・・]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪 「・・・え?」

 

ブレードは簪には届かなかった。

その前に現れた影によって・・・

 

簪 「ね、姉さん・・・?」

 

大切な妹を守った楯無。

背中は斬られ、鮮血が飛び散り、溢れ出す。

 

簪 「姉、さん・・・お姉ちゃんっ!」

 

ドサッと、簪を抱きしめていた力が緩み、地面に倒れる楯無。

それを、簪は名を叫びながら、抱き起こす。

背中に回した簪の手は、楯無の暖かな血で真っ赤に染まっていたが、簪は気にもとめず、楯無の名前を呼び続けた。

 

簪 「お姉ちゃぁん・・・ど、うして・・・こんな?」

楯 「・・・妹を、助けるのに、理由、が必要・・・?」

 

ポタポタと涙を流す簪の頬に、楯無の手がそっと触れる。

 

簪 「だって! だって・・・もう、無理なんだよぅ・・・」

楯 「無理じゃ、ないわ」

 

簪の頬を撫でながら、楯無は笑う。

 

簪 「無理だよっ! この世にヒーローなんか、いないんだもん!」

楯 「・・・」

 

楯無は何も答えない。

でも、涙が止まらない簪を撫でる手は休めず、笑みは崩さなかった。

 

一 「・・・いない、さ」

簪 「え・・・?」

 

とても小さな声。

だけども、それはゴーレムVに頭を掴まれている一夏のものだった。

 

一 「完全無欠のヒーローなんて、いない・・・」

 

だんだんと、一夏の声に力が入ってくる。

 

一 「完全無欠のヒーローなんて奴らは、泣きもしなけりゃ、笑いもしない」

 

グググッと、力を入れた一夏は、右手でゴーレムVの左腕を掴む。

 

一 「俺は人間だ! 泣きも、笑いもする。負ける時だってある。けど、諦めない! 逃げ出さずに戦える、人間だっ!!」

敵 『っ!?!?』

 

左手『雪羅』のクローモードで、ゴーレムVの左腕を一瞬で切り裂き、よろめくゴーレムVに・・・

 

一 「箒ぃぃぃっ!!」

箒 「任せろぉぉぉ!!」

 

大爆発のダメージから回復した紅椿が、爆煙を切り裂いて現れる。

 

箒 「楯無さんの攻撃で、すでにSEは尽きているだろう!」

 

展開装甲のブーストで、一気に距離を詰めた箒は、腰を落とし、空烈(からわれ)で居合いの一閃を放つ。

エネルギー刃で、装甲を剥がし、空烈の刃で内部のケーブルから真っ二つに斬り裂いた。

 

一 「っ! 後ろだ、箒っ!」

箒 「何っ!?」

 

まだエネルギーに余裕のあるゴーレムVが、簪達から離れ、箒を殴り飛ばす。

 

箒 「くっ!」

 

すぐに体制を立て直す箒であったが、ゴーレムVの正確な射撃に翻弄される。

 

一 「くそっ、このままじゃ箒が・・・」

 

破損したウィングスラスターを開き、今にでも飛び出そうとする一夏。

だが、それを簪が、腕を掴んで止める。

 

一 「簪・・・?」

簪 「い、行かないで・・・あなたの、ISはもう、限界・・・」

一 「駄目だ。放棄を助けに行かねぇと」

簪 「どう、して? 死ぬのが・・・怖く、ないの・・・?」

 

震える声で尋ねられた一夏は、ニッと唇の端をつりあげる。

 

一 「そりゃ怖いさ・・・だけど、俺は戦うよりも、逃げるほうが怖いからな」

簪 「・・・」

一 「逃げたら、もう俺には戻れない気がするんだ」

 

強い意志の込められた一夏の言葉に、簪は黙り込むしかなかった。

簪には、それに匹敵するほどの想いがないから・・・

 

一 「じゃあ、行ってくる」

 

雪片弐型を右手に呼び出し、最大出力で箒の元に向かう一夏。

その背中を、簪は見てることしかできない。

 

簪 「私・・・」

 

・・・あんな風に強ければ

・・・自分にも戦える勇気があれば

 

簪 「・・・卑怯者だ。戦えない理由ばかり考えて、一歩も歩き出さない」

 

流した涙が楯無の頬に落ちる。

 

簪 「私、やっぱり・・・駄目だったよ。お姉ちゃん」

楯 「駄目じゃ、ないわ・・・気づかない? あなた、は、一人じゃないのよ」

 

そう楯無が言った瞬間、またもや違うピットで爆発。

そこから出てきたのは・・・

 

セ 「鈴さんっ! あなた、わたくしを盾にしようとしましたわねっ!」

鈴 「だから、あれは・・・って、来たわよっ!」

セ 「ああもう、しつこいですわねっ!」

 

2人の後ろから迫ってくるゴーレムV。

すると、その隣のピットのシェルターが割れ・・・

 

ラ 「はあっ!」

敵 「――――――――」

 

レーゲンのAICで動きを止められたゴーレムV。

 

シ 「2人とも、大丈夫!?」

鈴 「え、ええ・・・」

セ 「助かりましたわ」

一 『みんな、無事だったのかっ!』

 

一夏が開放回線(オープン・チャネル)で、箒と共にゴーレムVと奮闘しながら、呼びかける。

 

鈴(シ 「当たり前でしょ! あたし達が、そう簡単に「来るよっ!」・・・ああもう! 人が喋ってる時に・・・」

 

AICを強引に突き破ったゴーレムV。

ピットから出てきた5人は、一夏と箒 共々、2機のゴーレムVに追い詰められ始めた。

 

ラ 「くっ、停止結界(AIC)が効かないとは・・・」

セ 「このままじゃ、全滅ですわ」

 

『絢爛舞踏』で回復した箒、比較的にダメージを負っていないセシリアとクラリッサ以外の専用機持ち達は、装甲もボロボロに破壊されており、戦うのも限界な状態。

例え、紅椿の絢爛舞踏で回復しようとすると、ゴーレムVに確実に殺られる。

だが、その危機的状況下でも、皆は諦めず、攻防を続けていた。

 

簪 「・・・」

 

簪はその様子を眺めている。

"自分は弱くて、汚くて、卑怯で、みっともない"と思いながら・・・

そこに、そんな簪の心を読んだかのように、楯無が口を開く。

 

楯 「いい、じゃない」

簪 「え・・・?」

楯 「弱くても、汚くても、卑怯でも、みっともなくても、人間、だもの・・・だからね、簪ちゃん。弱さも小ささも、受け入れなさい・・・受け入れたら、立ち上がれるわ」

簪 「・・・人間、だから?」

楯 「そうよ。それに・・・私の、自慢で、大切な妹、だ・・・から」

 

頬に触れていた手がダラリと落ちる。

 

簪 「お姉ちゃん? お姉ちゃんっ!!」

楯 「・・・スー、スー、zzz」

簪 「・・・寝てる?」

 

規則正しい寝息をたてている楯無に、簪は最初は面を食らっていたが、すぐに笑みへと変わる。

 

簪 「行ってくるね、お姉ちゃん・・・」

 

ゆっくりと、楯無を地面に下ろした簪は、一夏達の下に飛び立った。

 

 

 

 

 

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一 「はぁ、はぁ・・・」

箒 「大丈夫か、一夏?」

 

襲撃が起こって、早10分。

そう10分しか、経っていない。

その間に、専用機持ち達は、ボロボロになるまで追い詰められている。

 

簪 「ううっ・・・」

一 「簪・・・ぐっ!」

 

簪が参戦して、形勢逆転・・・にはならず、二機のゴーレムVは異常な火力とエネルギー量、機体に不釣合いな機動性、そして計り知れない防御力に、専用機持ち達は攻めに転じる事ができない。

 

一 「く、くそっ・・・」

 

大型ブレードの重い一撃をを受け止めた一夏だが、雪片弐型の持つ腕がギシギシと軋み、一夏の表情には疲れが浮かぶ。

 

箒 「一夏から離れろっ!」

 

そこに、ゴーレムVの後ろから、箒が二本の刀で斬りかかる。

だが・・・

 

敵 「――――――――」

箒 「避けられたっ!?」

一 「上だっ!」

 

一夏が指摘しても時既に遅く、箒は巨大な左腕で殴られ、地面に叩きつけられた。

 

箒 「ふ、ふん・・・この程度で・・・」

敵 「――――――――」

一 「箒ぃっ!」

 

強がる箒に、ゴーレムVのブレードが振りかぶる。

一夏はすぐにでも飛び出そうとしたが、破損したウィングスラスターが上手く働いてくれない。

だが、そこに・・・

 

簪 「私が、助けるっ!」

 

瞬時加速で一夏を横切り、箒を体当たりで自分ごと吹っ飛ばす。

次の瞬間には、箒がいた場所には、ブレードで叩かれた一撃で砂塵が舞っていた。

 

箒 「すまない、助かった・・・」

簪 「い、いえ・・・っ、来ますっ!」

 

砂塵を吹き飛ばして、熱線を放つゴーレムV。

もちろん、簪は箒を抱えて、急に行動には移せない。

 

箒 「くっ!」

簪 「あ・・・」

 

箒が簪を突き飛ばし、紅椿が爆炎に巻き込まれた。

 

箒 「・・・あっ」

ク 「間に合いました」

 

だが、箒は無事だった。

その間に立ったシュヴァルツェア・ツヴァイクのAICが、熱線を止めたおかげで。

 

ラ 「い、今の内に離脱しろっ!」

一 「わ、分かった!」

 

ラウラがゴーレムVの動きをAICで止めているうちに、一夏と簪、箒を担いだクラリッサがゴーレムVから距離を取る。

 

ラ 「がはぁ!」

一 「ラウラっ!」

ク 「隊長っ!」

 

AICを破ったゴーレムVが後ろにいたラウラを振り向きざまに左腕で吹っ飛ばし、ラウラはアリーナの壁に叩きつけられた。

 

ク 「よくも、隊長を!」

箒 「ま、待て、無闇突っ込んだら!」

 

箒の忠告を聞かず、クラリッサは両肩のガトリングを乱射しながら、ゴーレムVに突撃。

ゴーレムVはクラリッサの接近に気づいて、熱線を放つ。

 

ク 「くっ!」

 

急停止したクラリッサは、右手をかざしAICで熱線を受け止める。

が、かざしていた右手から肩まで、装甲が暴発。

 

ク 「がっ・・やはり、これ以上は」

 

強力なエネルギーを二度も真正面からAICで受け止めれば、機体にもかなりの負荷がかかる。

そのため、機体が堪え切れず、装甲が内側から破壊されたのだ。

 

敵 「――――――――」

一 「危ないっ!」

ク 「っ!?」

 

瞬時にクラリッサに接近したゴーレムVがブレードを構えていた。

だが、そこにゴーレムVの右腕に投擲された刃物が突き刺さる。

 

ク 「・・・鎌?」

ダ 「おらっ!」

 

瞬時加速で横から迫ったダリルがヘル・ハウンド・Ver2,5の『瓜爪』でゴーレムVの顔面に斬りつけるのではなく、叩きつけ、ゴーレムVは地面に落ちていく。

 

ダ 「おらよ、フォルテ」

フォ 「サンキューッス」

 

叩きつけた拍子に大鎌『スィンズ』を回収し、フォルテに投げ渡すダリル。

 

シ 「あ、先輩・・・」

ダ 「あ、てめぇら! よくも、私達を置いていきやがったな!」

 

シャルロットを見つけたダリルが空中でシャルロットの首を腕で締め上げる。

 

フォ 「ちょっと、先輩。今はそんな事やってる場合じゃないッスよ!」

ダ 「そ、そうだったっ!」

シ 「ふぅ・・・」

 

拘束を解かれたシャルロットは安堵するが、その瞬間、ダリル達がいたピットから、さらに二機のゴーレムVが出てきた。

 

セ 「まだいますのっ!?」

鈴 「ちょっとっ、本当にヤバイわよ!」

 

鈴が叫ぶと、二手に分かれている4機のゴーレムVの前にそれぞれ立つクラリッサと簪。

 

ク 「私達が食い止めます」

簪 「だから、今の内に回復、して」

 

ガチャッと、2機のISのミサイルポットが開くのと同時に、2人の目の前に数十枚のウィンドウが現れる。

二十本の指で一斉に4枚のキーボードを入力し・・・

 

簪・ク 「喰らえーっ!」

 

ミサイルを連続に発射。

 

敵 「――――――――」

 

降り注ぐミサイルをゴーレムVは、シールドピットで防がれているが、ゴーレムVの足を完全に止めている。

 

一 「箒っ!」

箒 「分かっている・・・」

 

箒が意識を集中させると、紅椿が輝きだし、紅椿の手が白式の肩に触れる。

 

一 「・・・よしっ」

 

SEが完全回復した白式と紅椿。

そして、順々にブルーティアーズ、甲龍と回復させていくが、同時にツヴァイクと打鉄弐式のミサイルの弾頭が切れ、2人とも後退し、10人は4機のゴーレムVに囲まれる。

 

ダ 「おいおい、こりゃマズイんじゃないか?」

シ 「マズイ・・・のかな?」

ラ 「マズイな」

 

4機のゴーレムVは左腕を構え、四方向から最大火力の熱線を放たれた。

その瞬間、専用機持ち達は四方向に別れ、熱線を迎え撃つ。

 

 

『一方向目』

ラ 「クラリッサ、2人で止めるぞ!」

ク 「了解っ!」

 

2機のシュヴァルツェアが両手をかざし、AIC×2で熱線を受け止める。

 

ラ・ク 「うぉおおおおおっ!」

 

装甲が暴発し、ボロボロに削られていく2機のシュヴァルツェア。

だが、数秒間受け止めた後、熱線をかき消し・・・

 

ラ・ク 「喰らえぇぇぇ!」

 

全武装をゴーレムVにぶつけ、ゴーレムVは地面にアリーナの壁に叩きつけられ、行動を一時停止する。

それと同時に・・・

 

ラ 「・・・よくやった」

ク 「ありがとう、ございます」

 

2機は戦闘続行不可能になったものの、お互い支えあって離脱した。

 

 

『二方向目』

シ 「軌道さえ、逸らせればっ!」

 

防御パッケージ『ガーデン・ガーデン』の実体シールド、エネルギーシールドを合計4枚重ねて、熱線を防ごうとする。

 

[ビリッ・・・バリンッバリンッバリンッバリンッ!!]

シ 「そんなっ!」

 

だが、熱線は威力は落ちたものの、シールドを全て破壊され、ラファール・リヴァイヴ・カスタムUに迫る。

 

シ 「うぅっ!」

 

咄嗟に横にスラスターを噴射して直撃を避けたものの、SEはごっそり持っていかれ、熱線は軌道が逸れる事無く通過する。

 

フォ 「ウチに任せるッス!」

 

熱線の前に立ったフォルテは『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』で、熱線を歪曲させようとする。

 

フォ 「持ってくれッス・・・ううぅああっ!」

 

気合で熱線の軌道を歪めたコールド・ブラッド。

 

フォ 「ふぅ〜、もう限界ッス・・・」

 

そう言った次の瞬間には、肩のパンツァーは破損して、コールド・ブラッドは使用不可能。

 

敵 「――――――――」

シ 「くっ!」

 

『高速切替(ラピット・スイッチ)』で、チャフグレネードを掛け合わせたグレネードランチャーを直撃させ、ゴーレムVの視界とレーダーを乱し、シャルロットはフォルテを抱えて離脱した。

 

 

『三方向目』

一 「雪羅『シールドモード』っ!」

 

熱線を真正面から『零落白夜』のシールドで受け止める。

だが、SEが回復しても、機体そのものは回復していないため、全力の出力が出ず、徐々に後ろに押しだされる白式。

 

一 「チッ、無理か・・・」

箒 「男が弱音を吐くなぁ!」

簪 「そう、だよ・・・」

 

箒と簪が白式の後ろについて、背中から押し出す。

 

一 「箒・・簪・・・そうだよな、男が弱音なんて、吐くもんじゃないよなぁっ!」

 

3機のISの出力が合わさり、ドンドン熱線を押し返し始める。

 

一 「これでぇっ!!」

 

右手の雪片弐型を握りしめ、目前に迫ったゴーレムVを真っ二つに斬り裂いた。

 

 

『四方向目』

ダ 「どうせ、限界なんだ。だったら、"あれ"をやるしかないだろっ!」

 

『片思い』は三度以上も威力の高い熱線を反射したため、あと1,2回しか反射はできないだろう。

IS自身の事は、操縦者自身が一番知っているため、最後の切り札を切るダリル。

 

ダ 「・・・」

 

意識を集中させるダリル。

 

ダ 「ふぅ・・・ぐっ!」

 

迫り来る熱線を避けようとはせず、『片思い』の黒い球体をかざす右手に合わせ、熱線を受け止める。

 

ダ 「うぐぐぐぐっ!」

 

熱線の衝撃に何とか耐え抜くダリルの周りには、残りの球体が黒の球体を軸に回り始める。

 

ダ (ヤベェ・・・このままじゃ)

ダ 「ん?」

 

心の中で焦るダリルの背に、四つの手の感覚が。

 

鈴 「三年生のくせに、何やってるのよ!」

セ 「そうですわ! もう少し、威厳を見せてはどうですのっ!?」

ダ 「うるせぇ! 初めてやるんだ、しかたねぇだろ!」

 

口喧嘩をしている間にも、黒以外の球体が正三角形の頂点に配置され、黒の球体に当たっていたエネルギーが赤に、そしてオレンジと移っていき・・・

 

ダ 「踏ん張れよ、一年・・・」

セ 「そっちも、ですわよ」

鈴 「最上級生さん・・・」

 

エネルギーが黄色の球体に移った時、すべてを飲み込むほどのエネルギーがゴーレムVをかっ消した。

 

 

 

 

 

一 「何とか、防いだな・・・」

 

崩れたピットに、ヘル・ハウンドのジャミングで身を隠すご一行。

もちろん、寝ている楯無は別のピットに隠しており、外では、ゴーレムV2機が、一つ一つピットをくまなく探している。

 

シ 「大丈夫、ラウラ?」

 

支えるラウラに問う。

 

ラ 「ああ・・・クラリッサは?」

 

その隣で、箒に支えられているクラリッサに問う。

 

ク 「私も一応・・・ですが、戦闘は不可能です」

フォ 「ウチも駄目ッス」

 

地面に突っ伏して、手を上げるフォルテ。

 

ダ 「右に同じ・・・」

簪 「わ、私も・・・」

 

その右隣に、手を上げる2人。

 

鈴 「大丈夫なのは・・・」

セ 「わたくしと一夏さん、箒さんに鈴さんの4人ですわね」

 

ちなみに、『絢爛舞踏』を使わないのは、紅椿が発する光によって、場所がわれてしまうからである。

 

箒 「・・・獅苑は?」

 

"もし、我々と同じ敵に襲われていたら"と、想像する箒に一夏が肩を叩く。

 

一 「大丈夫だ。獅苑がそう簡単にやられるはず無いって」

箒 「し、しかし、楯無さんがこんな状態なんだぞ。学園最強が・・・」

ダ 「あ〜、その事なんだが・・・」

フォ 「会長さん、その獅苑って、奴に負けたッスよ」

全 「・・・え?」

 

事情を知らないクラリッサ以外の人が、目を見開いて呆ける。

 

フォ 「会長さんとは同じクラスなんッスけど、ある時・・・」

 

 

 

楯 『実はね、夏休み前に一年の子に負けちゃって・・・あはっ♪』

フォ 『あはっ♪って・・・』

 

 

 

ダ 「んで、それをフォルテから、聞かされたんだ・・・」

鈴 「・・・それって何? 獅苑が学園最強って、こと?」

セ 「計り知れない人だとは思いましたけど・・・」

シ 「本当、無茶苦茶だよね・・・獅苑君って」

ラ 「そうだろう!」

箒 「いや、お前が威張るな」

一 「じゃあ、心配は・・・いらないのか」

ク 「・・・・・・なんだかんだで、空気が軽くなりましたね」

 

クラリッサの言葉で、ハッと気づいた皆は笑みを浮かべ、すすり笑う。

 

[・・・ドゴォォォォォォォン!!!!]

全 「っ!?」

一 「な、何だ・・・?」

 

ガレキの隙間から、フィールドを覗く。

 

鈴 「な、何・・・あれ・・・?」

 

みんなの目に映っていたのは、ゴ−レムV2機を踏み、握り潰して、まるで破壊を楽しむ巨人(サイクロプス)。

※以後、巨人の事は『ゴーレムU』と呼称する。

ゴーレムUはゴーレムVの何倍も大きく、巨大な手はすっぽりとゴーレムVの胴体が収まる。

 

敵 『フォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!』

 

地球を揺らすほどの咆哮と共に、体全体から顔を出している砲門から、熱線がアリーナすべてを放たれる。

その数は72門。

両腕に内側と外側に縦一列にそれぞれ16門、両脚に前と後ろ側に縦二列に24門ずつ、胸に16門、背中にも16門。

さらには、踏み潰されているゴーレムVの熱線を喰らっても、よろけもせず、ゴーレムVをスクラップにするまで踏み潰し、手に掴まれたゴーレムVは、紙くずのようにクシャクシャになるまで、両手で握り潰された。

 

一 「・・・ば、化け物、じゃねぇか」

 

自分達を追い込んだ相手が、成す術もなく、破壊したゴーレムU。

それを『化け物』とは言わず、何と言えばいいのやら・・・

 

一 「・・・箒、セシりア、鈴・・・行くぞ」

箒 「おう!」

セ 「当たり前ですわ!」

鈴 「あんなもの、野放しにできる訳ないでしょ!」

 

4機のISは、ピットを飛び出して、ゴーレムUに突撃した。

 

敵 『フォォォ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

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ゴーレムUに突撃する4人。

その中の、一夏と箒が敵に反応される前に、斬りかかる。

 

一 「このっ!」

[ガキィン!]

箒 「はあっ!」

[ガキィン、ガキィン!]

敵 『フォォォォォォォ!!!』

一・箒 「!?」

 

紅椿の二本の刀と、雪片弐型の零落白夜を弾いたゴーレムUは、全身の砲門から連射型の熱線を放ちながら、コマのように回り始める。

 

鈴 「ほら、ボサっとしない!」

セ 「やられますわよっ!」

 

鈴が一夏、セシリアが箒を抱えて、熱線の雨を避ける。

その流れ弾がアリーナのシールド、壁、観客席を破壊し、皆のいるピットや、楯無を匿っているピットが危険に晒され始めた。

 

一 「急いで止めないと、みんながっ!」

箒 「だが、零落白夜を弾くほどだぞ。闇雲に突っ込んでは・・・」

一 「でも、やるんだっ!」

鈴 「あ、ちょっと待ちなさいよ、一夏!」

 

 

鈴が掴んでいた手を振り払って、回り続けているゴーレムUに突っ込む一夏。

 

セ 「ま、待ってください、一夏さん!」

鈴 「もう、世話が焼けるんだからっ!」

箒 「お、おい、私を置いていくな!」

 

その後に続く3人。

 

一 「うぉおおおおおっ!」

敵 『っ』

 

荷電粒子砲を放ちながら、接近する一夏を察知したゴーレムUは、片腕で一夏を叩きつけようとするが、見え見えの動きを一夏は避けられないはずもなく、一夏はゴーレムUに対して、余裕を感じた。

 

一 「さっきの奴に比べれば、こんな奴っ!」

 

一夏が零落白夜を発動。

それと同時に、雪羅をクローモードに切り替えて、剣と爪でゴーレムUを斬りつけようとする。

 

一 「えっ!?」

 

だが、一夏が両腕を振り下ろした瞬間には、ゴーレムUはそこにいず・・・

 

セ 「後ろですわっ!」

一 「っ!?」

[ドゴッ!]

 

すでに、一夏の後ろに回ったゴーレムUの蹴りが一夏に直撃し、一夏はアリーナの隅にまで飛ばされる。

 

箒 「一夏っ!」

 

すぐさま、箒は一夏の下に向かおうとするが、

 

箒 「ぐっ!」

 

箒の後ろを取ったゴーレムUの拳で、一夏同様、隅にまで吹き飛ばされる。

 

セ 「よくも、やってくれましたわねっ!」

 

4機のブルー・ティアーズを射出。

 

鈴 「あたしだってっ!」

 

甲龍もビットの攻撃に合わせて、衝撃砲を放つ。

だが、ゴーレムUの俊敏さ、無人機ならでは成せる動きで、すべての攻撃を避け、セシリアと鈴の間に入る。

 

敵 『フォォ!』

 

ゴーレムUは両腕を開くように裏拳を2人に決め、2人は声を出すこともなくブッ飛ぶ。

 

ダ 「お、おいおい、圧倒的じゃねぇか・・・」

シ 「さっきの奴とは、比較にならない・・・」

 

敵 『フォォ?』

簪 「っ!? 見つかったっ!」

 

ゴーレムUが両手の平を簪達に向ける。

そこから、新たに顔を出す範囲が大きい砲門。

 

ラ 「・・・マズイな」

フォ 「マズイじゃないッス! 逃げるッスよ!」

 

手の平に徐々にエネルギーが蓄積され始めるのを見て、簪達はピットから離脱。

次の瞬間には、今までの数倍以上の熱線がピットを跡形もなく焼き尽くし、アリーナが激しく揺れた。

 

ク 「まだ、教員達は来ないのかっ!?」

ダ 「無理だっ! あの巨人がさらに強力のジャミングを張ってやがる。そう簡単に突入は出来ない!」

簪 「で、でも、それじゃあ・・・私達・・・」

 

絶望を感じる全員。

突撃した4人は、未だに舞っている砂煙から出てこず、他全員はSEが限界か、戦闘不能の人しかいない。

 

ラ 「・・・姉上が来れば」

ク 「隊長?」

ラ 「姉上が来れば、戦況は変わる」

シ 「で、でも、獅苑君が今どこにいるのかも分かんないんだよ」

フォ 「それに、来てくれるかも分かんないんッスよ」

ラ 「必ず、来る・・・姉上なら、必ず」

 

ラウラは希望とか、奇跡で言っているのではない。

本当に現れると思っているのだ。

強さに魅了された織斑千冬ではなく、心に魅了されたお方なのだから・・・

 

敵 『・・・フォォ?』

簪 「え・・・?」

 

ゴーレムUが何かを見つけた動作をしたので、簪はゴーレムUが見ている箇所に目を移す。

その先には、さっきの振動でピットが崩れ、姿があらわになった楯無。

 

簪 「う、嘘、でしょ・・・や、めて・・・やめてっ!」

敵 『フォォォォォ!!』

 

まるで、慌てる簪を嘲(あざ)笑(わ)うかのように、胸の砲門から熱線が放たれる。

ISを解除してないとはいえ、SEはないに等しい楯無に熱線が直撃すれば、命はない。

 

簪 「やめてぇ!!!」

 

簪の叫びに打鉄弐式が答えたのか、最後の力を振り絞って瞬時加速。

そして、楯無に覆い被さるように庇う。

 

ダ 「あの馬鹿っ・・・ぐっ!」

 

『片思い』が使用不可能になったことで、空中に浮くことが出来なくなったヘル・ハウンドでは、瞬時加速も行えなず、簪の下には行けない。それは、他全員も同じ状況でもあった。

 

簪 「お姉ちゃん・・・」

 

熱線が迫ってくる恐怖、死の予感に手が震えながらも、楯無を抱きしめる。

 

簪 「今まで、ごめんね・・・私、お姉ちゃんの事・・・ずっと、大好き」

[ドガァァァァン!!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獅 「やっぱ、いいよな・・・家族って」

簪 「ぇ・・・?」

 

死戔の黒翼が爆煙を振り払い、簪を撫でる獅苑。

熱線が簪達に触れる前に、ギリギリ黒翼で楯無ごと包んで防いだのだ。

 

簪 「き、来て・・・くれたん、ですね・・・」

獅 「遅くなったが、な・・・」

 

こんな状況でも、スヤスヤ寝ている楯無の乱れた髪を整えて、ゴーレムUに向き直る。

 

獅 「んじゃ、姉さんを守るんだぞ。簪」

簪 「は、はいっ!」

 

最後にニッと、笑った獅苑は目にも留まらぬ速さでゴーレムUを殴り飛ばした。

 

 

獅苑SIDE

 

 

獅 「さて、デカ物をどう締め様か・・・」

 

ここまで、みんなをボコボコにされちゃ、こっちだってボコボコにするしかないだろ。

 

敵 『フォォォォォォォ!!!!!』

 

壁に埋まっていたデカ物が咆哮を上げて突っ込んできた。

 

獅 「っ・・・うるさい」

 

俺は耳を塞ぎながら、もう一度、同じ場所に蹴り飛ばし、さっきよりも深く埋まるデカ物。

 

獅 「・・・もしかして、くたばっていないだろうな」

 

デカ物に挑発的な発言。

だが、俺はデカ物だけに言った訳ではない。

 

一 「こんなんで、くたばるかよ・・・」

箒 「甘く、見ないでもらおう」

セ 「そ、そうですわよっ!」

鈴 「伊達に、代表候補生は語ってないわ」

 

俺の周りに集まる4人。

すると、またもやデカ物は咆哮を上げて、真正面から飛び出してきた。

 

獅 「じゃあ、1分で終わらすぞ」

 

そう言うと、4人は気合の入った返事をし散開。

俺はそこに留まり、突っ込んでくるデカ物の頭を右手を添える。

そのデカ物の勢いで頭に手を置いたまま、地面と垂直になるように、逆立ちの状態になって・・・

 

コ 『インパクトカノン 30%』

獅・コ 「『鉄槌っ!』」

 

ドゴンッと、砂煙と一緒にエネルギーの衝撃がデカ物の頭に。

 

獅 「もう一発っ!」

獅・コ 「『鉄槌!』」

 

地面に叩きつけられたデカ物にさらなる追い討ち。

 

獅 「くたばるなよ・・・ここからが、本番」

コ 『行っくよーっ!』

 

『アフタリミジン ランカン』を発動と同時に、赤色の閃光が砂煙を一瞬にして吹き飛ばす。

 

敵 『フォォォォォォ!!!』

獅・コ 「『うるさいって』」

 

うつ伏せの状態で俺に掴みかかろうとしたデカ物の指1本を掴んで・・・

 

獅・コ 「『飛んで、けっ!』」

 

両腕を振りかぶって、空中に自分の何倍もある巨体を投擲。

 

一 「うぉおおおおっ!!」

 

上空で待機していた一夏がデカ物を叩きつけるように、雪片弐型を振り下ろす。

 

一 「まだだっ!」

 

そう叫んだ一夏は、左手の雪羅カノンモードの荷電粒子砲をさらにデカ物に叩きつけた。

当然、デカ物は俺の上から降ってくるわけで・・・

 

獅 (でか過ぎるけど・・・問題はない)

 

今度は対艦刀二本を振りかぶって、真上ではなく、左斜め上空にかっ飛ばす。

 

箒 「はあっ!!」

 

背部の展開装甲を射出し、背中の砲門の1門だけに刀二本もプラスして突き刺す。

すると、突き刺した砲門が爆発し、箒はその場を離脱しようとするが・・・

 

敵 『フォォォォォォ!!!』

箒 「っ!」

 

怒りを表したような咆哮。

次の瞬間には、箒は背中の砲門×7門から放たれた熱線に吹き飛ばされる。

 

セ 「箒さんは、お任せをっ!」

 

セシリアが吹き飛ばされた箒の下に飛び、鈴がデカ物の真横から突撃。

 

鈴 「あんた、でか過ぎるのよっ! 少し、あたしに寄越しなさい!!」

 

とても、涙が出てくる言葉を言い放った鈴は、双天牙月を連結させ、刃を回転させながら、デカ物の右腕を斬りつける。

 

敵 『フォォ?』

 

蚊に刺されたように、頭部を傾げながら鈴を殴ろうとするが、鈴は予想していた動きだったのか、無駄な動きなく後退。

そして、後退しながら、衝撃砲で双天牙月で傷をつけた装甲にぶつけ続ける。

 

敵 『フォォォォォ!!』

 

鈴の存在が鬱陶しくなったのか、右の手の平を鈴に向け、IS一機を飲み込むほどの熱線を放った。

 

鈴 「[ニッ]・・・獅苑っ!」

獅・コ 「『・・・』」

 

瞬間的に鈴の前に立った俺は、左手で熱線を受け止め、エネルギーを吸収する。

 

敵 『っ!!!』

 

まるで、子供みたいに驚くデカ物。

 

一 「こっちを忘れるなよっ!」

 

そこに、雪片弐型と雪羅クローモードの爪で、鈴が傷つけた装甲一点を斬りつけ、デカ物の右腕は切断された。

 

敵 『っ! フォォォォォォォォォ!!!!』

一 「セシリアっ!」

セ 「分かっておりますわっ!」

 

怒りを露にするゴーレムUが左腕で殴りかかろうとしたが、セシリアのロングライフル+ロングライフルの銃口に並ばせたブルー・ティアーズ×4で、左腕の軌道を逸らす。

その間に、俺と一夏、鈴はこの場から離脱。

 

敵 『フォォ・・・フォォォォォ!!』

 

全砲門から、熱線を放射。

それと同時に、左手の平の砲門を箒とセシリアの方に向け、エネルギーをチャージし始める。

 

箒 「セシリアっ! 私の後ろに!」

セ 「わ、分かりましたわっ!」

 

だが、2人は熱線の射程から離れようとはせず、逆に箒は向かい撃とうとしていた。

すると、紅椿の肩部の展開装甲がジャキッと、音を立てスライドし、まるで巨大な矢じりをつがえたクロスボウに変形する。

 

箒 「紅椿、見せてみろ・・・お前の力をっ!!」

 

エネルギーの弦を引いて、空中で腰を落とす箒。

すると、クロスボウに圧縮されたエネルギー矢が出現し、箒は右目に呼び出したターゲットスコープを覗いて・・・

 

箒 「左腕、もらったぞっ!」

 

ビシュゥゥゥンっ! と、真紅の矢(エネルギー)が放たれた熱線を打ち消し、デカ物の左手の平の砲門から左肩まで貫通し、左腕は内側から爆発した。

 

獅・コ 「『んじゃ、仕上げと・・・』」

 

瞬時加速でアリーナの真上に飛んで、直角に降下。

Bブレイクと頭部の対艦刀を、デカ物の頭部に突き刺し、スラスターをさらに出力を上げ・・・

 

全 「『行こう(か)っ!!』」

獅・コ 「『おらっ!』」

 

腕は横に、体は後ろに回転させ、デカ物の頭部を破壊。

 

敵 『っ!!』

 

すると、まだ稼動状態のデカ物が腹部の砲門を上・・・つまり、俺に向ける。

 

鈴 「させると思うっ!?」

 

俺と入れ替わりで上空からの急降下してきた鈴が、双天牙月を砲門に突き刺す。

だが、今度は脚部を上半身と90度になるように曲げ、砲門を鈴に向ける。

そこに、青白いレーザーが鈴の頭から数ミリの位置を通過し、片脚を勢いで逆の方に関節を曲げさせる。

 

セ 「箒さんっ!」

箒 「ああ、もう一度、喰らわせてやるっ! 鈴、離れろ!」

 

地上に降り立った箒が、もう一回、強力な矢(エネルギー)を放ち、矢の射程上のアリーナの大地を黒く焦がしながら、鈴のいた背部から腹部を貫通し、デカ物の装甲が破裂。

 

一 「うぉおおおおおっ!!」

 

次は、最大出力の雪片弐型でデカ物を下に向けて斬りつける。

 

一 「獅苑っ!」

 

デカ物が真っ逆さまに落ちてくる真下には、地上に待機している俺。

右肩を後ろに逸らし、突き出している左手の親指と人差し指の間から見える、デカ物の頭部だけに集中する。

 

敵 『ブッ・・・デゥデゥ!』

 

壊れたラジオの音を鳴らしたデカ物の破壊された残骸の頭部がパカッと割れ、中から顔を出す新たな砲門。しかも、陽電子破滅砲(ローエングリン)だった。

 

獅・コ 「『そんなのは、想定済みだ・・・』」

コ 『インパクトカノン 100%』

獅・コ 「『闇門・・・』」

敵 『デュデュッ!』

 

陽電子破滅砲と『闇門』がぶつかり合い・・・

 

[ブゥン・・・ブゥゥゥゥゥゥゥン!!!]

 

アリーナフィールドが白く光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

-4ページ-

 

 

 

 

 

投稿者SIDE 『現在、保健室』

 

 

アリーナにいた全員+生徒会メンバーが、保健室で待機している。

ちなみに、楯無だけはこことは違う別の保健室で安静中、簪はその様子を見に行っている。

 

獅 「・・・いてっ」

本 「ほぉら〜、動かないのぉ。まったくぅ、こんな無理して〜・・・」

 

ベットに腰掛けている獅苑が本音に包帯とシップを体に巻かれて、貼られている。

 

一 [ニヤニヤ]

セ [ニヤニヤ]

鈴 [ニヤニヤ]

ダ [ニヤニヤ]

獅 [・・・ブチッ!]

 

4人の視線に、いい加減キレた獅苑が救急箱にあった消毒液などの4つの物体を、一投げで的確に4人の眉間に当てた。

 

獅 「・・・いい加減にしろ」

ダ(虚 「て、てめぇ・・・私はせんぱ「あなたが悪いわよ、ダリル」・・・い、いや、でもさ」

虚 「"でも"・・・?」

ダ 「・・・いや、何でもないです」

 

虚から出ていた黒いオーラに圧倒されたのか、ダリルは引き下がる。

 

獅 「・・・お前らは?」

一 「いや、すまん・・・って、思ってるんだけどさ〜」

セ 「今の獅苑さん、少し可愛らしかったと言いますか・・・」

鈴 「新鮮だよね・・・獅苑が女子に手当てされてる場面って」

シ 「うん、確かに・・・」

フォ 「クール系に見えて、キュートなところもあるんッスね〜」

獅 「・・・」

 

獅苑は何も反応しないという事は、もう諦めたのだろう・・・

 

本 「ほらぁ! 腕貸して!」

獅 「・・・はい」

全 [ニヤニヤ]

 

結局、本音の手当てが終わるまで、獅苑は全員からの視線に赤くなった顔を隠す事しかできず・・・

 

本 「は〜い、終わりぃ!」

獅 [バッ!]

 

すぐに、保健室から飛び出した。

 

 

楯無SIDE

 

 

楯 「・・・ん」

簪 「お姉ちゃん・・・起きた?」

 

目を開くと、私の目の前には簪ちゃんの顔。

よく見ると、目は充血していた。

 

簪(楯 「待ってて、今、先生呼んで「待って・・・少しだけ、私といて」・・・う、うん」

 

立とうとした簪ちゃんを腕を掴んで呼び止め、簪ちゃんはもう一度イスに腰掛ける。

 

楯 「・・・」

簪 「・・・」

(・・・あれ? 言葉が浮かばない)

 

もし、状況がこうなった時のために、ちゃんと台詞を考えたはずなのに、全部抜け落ちたみたい・・・

 

簪 「・・・ねぇ」

楯 「っ!? な、何・・・?」

簪 「え、えと・・・えっとね・・・」

 

気恥ずかしそうに、手をモジモジさせてチラチラと上目使いで私を見る。

 

簪 「し、篠ノ之さんに聞いたんだけど・・・"あれ"、使ったんでしょ」

楯 「ん? あー、『ミストルテインの槍』ね」

 

"あれ"を使ったせいで、こんな目に会ってるんだけど、ね・・・

 

簪 「・・・私ね、昔から憧れだった。"お姉ちゃんみたいになりたい"って・・・」

楯 「・・・」

 

知っている。小さい頃は、私の後をいつでも付いて来て、私の真似をいつもしていた。

 

簪 「でも、私に才能がない事を知って、そこからお姉ちゃんの存在が重荷になってた・・・私なんて、いなくても変わらないって」

 

それだって、知っている。

だけど・・・

 

楯 「・・・それは、違うわ」

 

そう、絶対違う。簪ちゃんは私にとって大切な存在。

もし、この世から簪ちゃんを消したら、その相手が誰であろうと、死より苦しい思いをさせてやる。

例え、それが獅苑君だったとしても・・・

 

簪 「・・・そう、かもね。"必要のない人"なんて、存在しない、よね」

楯 「ぁ・・・」

 

ネガティブで、性格が暗かった簪ちゃんにしては、とてもポジティブな発言。

その言葉に、少し面を食らった。

 

簪 「それに、"完全無欠のヒーロー"は、いない、けど・・・」

 

ガバッと、私に抱きつく簪ちゃん。

 

簪 「お姉ちゃんは、いつでも"私のヒーロー"だからっ!」

[・・・ジワッ]

楯 「・・・ぅ、うぅ」

 

簪ちゃんの背中に手を回し、きつく抱きしめる。

 

(泣いちゃ・・・泣いちゃいけない)

 

歯を食いしばって、涙の決壊を抑える。

 

簪 「・・・」

 

だが、それを見越したのか、簪ちゃんが私の背中を撫でて・・・

 

簪 「泣いて、いいんだよ・・・」

楯 「・・・」

簪 「お姉ちゃんは、かっこよくて、綺麗で強くて、誰にでも気軽に話せて、ちょっと悪戯好きだけど、それも魅力の1つで・・・でも、一人の"乙女"だもん。だから、泣いても・・・いいんだよ」

楯 「・・・う、うぅ・・・ゴメンね・・・苦しめて、ゴメンねぇ」

 

涙が決壊し、何度も簪ちゃんに謝り続ける。

 

簪 「私の、方こそ・・・ゴメン、なさい」

 

お互いに静かに泣き続け、キツク抱きしめ合う。

 

楯 「ずっと・・・ずっと、一緒だから・・・」

簪 「うん・・・うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優SIDE

 

 

(今頃、どうしてるかな・・・?)

 

学園の屋上で、私は娘達の事を思いながら、数年ぶりにタバコを吸う。

あと、ちゃんと学園長から、許可は取ってある。

 

春 「あら、禁煙されてたのでは?」

優 「今日ぐらいは、吸わしてください」

 

"しかたありません"という顔で許可を出した春さん。

俺は屋上から見える街を見つめながら、タバコを吹かす。

 

優 「ふぅ〜・・・春さん」

春 「何ですか?」

優(春 「夕と簪の仲を悪くしたのって、やはり私の「は〜い、それ以上は禁止」・・・」

 

春さんは私の唇に人差し指を当て、ニコニコと笑っている。

 

春 「それは、昔の話・・・今は、関係ないわ」

優 「・・・そういうもんなんですかね、女性って」

春 「少なくても、私はそうですよ」

優 「フッ・・・確かに」

 

もう一服、タバコを吹かして、屋上に繋がる階段で隠れている人物に話しかける・・・っていうか、お礼を言う。

 

優 「君にはとても感謝してるよ。私達が成し得なかった、2人の縁を繋ぎ直してくれたんだから」

獅 「・・・別に」

 

姿は現さず、声だけが私達に届く。

 

春 「フフッ・・・また、家にいらっしゃって下さいね」

獅 「その時は、何か持ってきますよ」

優 「お、だったら、君の手作り菓子でも、作ってもらおうかな」

獅 「分かりました・・・あと、もう、そろそろ2人を迎えに行っても良いんじゃないですか?」

 

"それでは"と、言い残して、気配が遠ざかって行くのと同時に、私は"楯無"に戻る。

 

優 「・・・ふぅ、春さん。彼について、気になることはある?」

春 「いえ、私個人には・・・ですが」

 

善吉に頼んだ"朝霧獅苑"についての情報。

だが、いくら調べても、有益な情報は出てこず、私達は"朝霧獅苑"個人の情報ではなく、その家族・・・つまり、"朝霧獅苑"の両親について調べた。

 

優 「父親は自動車会社の社員、母親は幼稚園の先生・・・そして、息子は学生」

 

"普通の家族"という言葉が良く似合う家族。

だけど、私達には気になる点があった。

 

春 「ですが、母親に産婦人科に通った記録がない・・・」

 

という事は、母親は出産をしていない。

それは、同時に"朝霧獅苑"は、養子として家族に迎えられたと、予想ができる。

 

優 「だけど、そんな記録もない・・・」

春 「・・・もう、やめましょう」

優 「・・・そう、ですね・・・よしっ! じゃあ、娘達に会いに行くとしましょう!」

春 「なら、4人で写真でも撮ります?」

優 「おお! それはいいですねっ!」

 

親の顔に戻った私達は、階段を降りて、夕のいる保健室に向かう。

 

(だが、いつかは知る時が来る・・・)

 

それを知った夕と本音ちゃんは、果たしてどう反応するのだろうか・・・

 

(でも、今は・・・)

優 「元気にしてる? 夕、簪」

春 「あらら、2人とも一緒に布団に入っちゃって」

簪 「い、いや・・・入ってる、というか、引き摺り込まれてるというか・・・」

楯 「♪〜〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

 

千冬SIDE

 

 

真 「やはり、この機体も登録されていないコアを使用しています」

千 「そうか・・・」

 

学園の地下50m

この場所は、レベル4権限を持つ教員にしか立ち入る事ができない隠された空間。

そこに、原型を留めている襲撃者『ゴーレムV』が運び出され、二時間の解析の結果、クラス対抗戦に現れたISと同じ無人機だった。

ちなみに、ISコアを作れるのは束だけだという事を再確認しておこう。

あと、もう1つ補足しておくと、巨大なIS『ゴーレムU』は白い閃光と共に、死戔の攻撃で消し灰にされてしまって、アリーナの砂に埋まってしまった。

 

レ 「へぇ〜、IS学園にこんな所があったなんてね」

 

すると、作業着姿の女性が後ろから好奇心丸出しで、この空間を見渡す。

 

真(千 「ちょ、ちょっと! ここは、関係者以外立ち入り禁止で「いいんだ、山田君。私が呼んだ」・・・そ、そうなんですか?」

レ 「そっ・・・って、私の顔忘れちゃったの? ま〜やちゃんっ!」

真 「ひゃあっ!?」

 

真正面から、真耶の胸を鷲掴みにするディディア。

その反動で、被っていた帽子が落ち、素顔を見た真耶がギョッとする。

 

真 「ディ、ディディア先輩っ! ど、どうしてここに・・・って、胸から手を離してくださいぃ!」

レ 「ん〜! また、一段と大きくなったわね・・・一体、何食べたらこうなるのよ?」

真 「か、勝手にこうなったんですっ!」

レ 「おっとと・・・」

 

バッと、ディディアを突き飛ばした真耶は、息を荒くしながら部屋の隅にまで引き下がる。

 

レ 「・・・うん! 最高っ!」

千 「はぁ・・・相変わらずだな」

 

ディディアは、揉んでいた両手をにぎにぎと動かして満足そうに落ちた帽子を被り直す。

その様子は、学園時代と変わらない。

 

レ 「それで、用件は・・・って、襲撃者の事?」

千 「ああ・・・"こいつ"じゃなくてな」

 

親指で無人ISを指し、言葉を続ける。

 

千 「お前だって、聞いた事があるんじゃないか?」

レ 「『亡国機業(ファントム・タスク)』・・・第2次世界大戦中に生まれ、裏で暗躍する秘密結社・・・でも、あいつらが動く意味は?」

千 「それが分かれば苦労はないさ。あくまで轡木学園長の勘と、実際、一夏・・・いや、『白式』を狙ってこの学園に侵入された」

レ 「IS学園に侵入されるとなると、国の事なんかすぐに筒抜けされるようなものね」

千 「違いない・・・山田君、そろそろ仕事に戻って貰いたいのだが・・・」

真 「は、はい・・・」

 

まだ、隅っこで体を縮こましている真耶に呼びかけると、ディディアを警戒しながらイスに座った。

 

レ 「大丈夫よ。もう、会えなかった分は堪能したし」

真 「堪能しないでくださいっ!」

 

プイッと、顔をそらした真耶は、不機嫌そうにキーボードを打つ。

 

千 「で、どうする? フランスは第3世代型IS完成にこぎ付けたんだろう。狙われるんじゃないか?」

レ 「一応、この事は秘密だけど、まぁ私には関係ないわ。あのISが盗まれようとあのISは所詮、お偉いさんの機嫌を取るための機体よ」

千 「・・・じゃあ、お前が作ってるのは?」

レ 「っ!?」

 

どストレートな質問に、ディディアは帽子を深く被る。

 

レ 「まさか、そこまで読まれてるなんて・・・って、篠ノ之さんにかかれば、意味ないか」

千 「いや、束は関係ない。私の勘だ」

レ 「あはは、さすがは『ブリュンヒルデ』」

千 「その呼び名で呼ぶな『ヴァルキリー』」

レ 「あははっ、私もその名で呼ばれたくないわね」

千 「フッ・・・お互い様だな」

 

2人で少し、懐かしいやり取りに浸る。

 

千 「で、どうなんだ?」

レ 「大丈夫よ、私が作ろうとしてるのは、『相棒』の分身・・・いや、兄妹機かしら。それも、シャルロットにしか、扱えないようにできてる」

 

相棒・・・ディディアが学生時代と、第2回モンドグロッソで使用していたディディアの専用機『ラファール・テムペード』。

意味は『疾風の嵐』

 

レ 「例え、奪われても、あいつらには使える代物じゃないわ。それに、表向きの性能上、国が作ったISの方が高いしね」

千 「表向き、な・・・まぁ、お前が大丈夫と言えば、大丈夫なんだろうな」

レ 「そっ・・・じゃあ、私は本国に帰るわ。またね〜、真耶ちゃ〜ん」

 

手を振って、エレベーターに乗って地上に戻っていった。

 

千 「・・・"またね"だとさ」

真 「もう・・・会いたくないです」

 

 

 

 

 

 

 

-6ページ-

 

 

 

 

 

投稿者SIDE

 

 

束 「ふーむ・・・まさか、『ゴーレムV』が全機破壊されちゃうのは、予想外だったなぁ」

 

数十枚のディスプレイの明かりだけで照らしている暗い空間に、束一人がその数十枚のディスプレイを操作しながら、独り言をもらす。

 

束 「でもまぁ、目的の1つは達成したし、まだまだ時間はあるし、気長にやろうっと」

 

束が『ゴーレムV』送り込んだ目的は二つ。

一つは、最愛なる妹、篠ノ之箒が操る『紅椿』のレベルアップ。

紅椿は第4世代型の特徴、即時万能対応機『展開装甲』だけではなく、『無段階移行(シームレス・シフト)』というシステムが組み込まれており、蓄積経験値により紅椿自身がレベルアップするシステムなのである。

現に、紅椿は両肩の展開装甲が変形したクロスボウ状の出力可変型ブラスターライフル『穿千(うがち)』を土壇場で自己完成させていた。

そして、もう1つの目的・・・『朝霧獅苑』の殺害。

千冬に宣言したとおりに、ゴーレムVを15機を獅苑に送り込んだのだ。

もちろん、『亡国機業』の侵入する事と、その追跡に獅苑が学園から離れる事、そして亡国機業が侵入させた人を回収する事が分かった上でだ。

だが、その回収する人物の力量が予想していたよりも高すぎため、15機を完全にスクラップにされ、急遽、失敗作『ゴーレムU』を出撃させたのだが、『闇門』の威力で消し灰にされた。

 

束 「つ〜かぁ、私の許可なしに勝手な事してんじゃないってぇの・・・まぁ、朝霧獅苑(あいつ)と比べて、別に気にしないけど・・・」

 

束は例としてマドカの正体を知っている。

だが、子供の頃、幸せだった獅苑に比べたら、憎悪も殺意もない。

 

束 「でも、予想外だったなぁ。ちーちゃんが出撃しないなんて」

 

あれだけの規模で無人機を投入したのだから、千冬自身が鎮圧に出ると踏んでいた。

 

束 「ん〜・・・」

 

顎に手をあて、首を傾げる束。

現在、千冬を初代ブリュンヒルデの座に導いた、日本製第1世代型『暮桜(くれざくら)』の行方が分かっていない。

てっきり、千冬の近くに保管されていると思っていた束は、まるで深い海を見つめるように、思考をめぐらせる。

 

束 「あ、そっか、そっかっ! あそこにあるのか。ふぅん・・・」

 

閃いた束が無邪気の笑みに悪戯好きの子供のような悪意を含んだ顔を浮かべる。

 

? 「束さま」

束 「ん? あ、くーちゃん! どうしたの?」

 

後ろから一人の少女がやってきた。

背は低く、かなり華奢な体。年齢は12歳前後、そして目を引く流れるような銀髪。

腰くらいまであるその髪は、三本の太い三つ編みにされている。

その少女『くーちゃん』の手に持つトレーをおずおずと束に差し出す。

半分以上が真っ黒なパンだったが、束は目を輝かせてそのパンを食らう。

 

束 「んー、うーまーいーぞー」

く 「ウソです。マズイに決まってます」

 

だが、束はそれでも嫌な顔をせず、逆においしそうにパンを食べる食べる食べる。

少女にとっては、その束が食べる姿を見て、嬉しさではなく、申し訳ない気持ちが強い。

だが、束から『女の子は料理の一つも覚えないといけないんだよー』と言われ、今日だけではなく、毎日消し灰やゲルを作り出していた。

でも、やはり束は、そのたびにその料理をおいしそうに食べている。

 

く 「・・・」

束 「ねぇ、くーちゃん」

 

束が呼びかけると、顔を上げる少女。

その目は、この部屋に入ってから閉じられていたが、少女にとっては視覚があろうがなかろうが問題ない。

 

束 「ちょっと、お使い頼まれてくれる?」

く 「何なりと」

束 「も〜、堅い。堅いよ、くーちゃん! くーちゃんは束さんの事を"ママ"って呼んでもいいだから」

 

少女を拾って以来、束は少女を娘のように扱う事に決めた。

妹は、一人だけ・・・

 

く 「それで、お使いというのは?」

束 「うん、届け物をしてほしいんだよね」

く 「はい。場所はどこでしょうか?」

 

尋ねる少女に、束は笑顔で答える。

 

束 「IS学園、地下特別区画・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『場所は変わって・・・』

 

? 「まっさか、篠ノ之博士と襲撃が被ってしまうとはー! いやはや、まんまと利用されましたねー!」

? 「"利用されましたね"じゃないですよ、フラン博士っ! もし『ターゲット』が殺されたら、どうするつもりだったんですか!?」

 

白衣を着た細身の男性、フラン・クリンに特にこれと言って特徴のない青年が叫ぶ。

 

フ 「ダイジョーブですよ、山田君! そー簡単に殺される『子』では〜〜〜ありませーん!!」

山 「はぁ・・・まぁ、博士がそう言うなら・・・あと、僕は『山田』ではなく『クリヤ』ですっ! 何ども、言わせないでください」

? 「ああぁーっ、うるさいなぁ!!! 負けたじゃないか、山田この野朗っ!」

 

大画面のモニターでゲームをしていた白髪の女性に罵声を浴びせられた『山田』

 

山 「あぁ、初登場早々から、こんな仕打ちって・・・」

 

凹む山田を無視して、白髪の女性はまたゲームへと集中する。

 

フ(ユ 「ユウキさーん! そろそろ仕事を「ああぁーっ! また負けたー!! このゲーム無理ゲーじゃないの? まったく、腹立つ・・・[ブツブツブツブツ]」・・・山田くーん、後は頼みましたよー!」

 

フラン博士は座っていたイスごと、エレベーターの様に上の階に上がっていく。

山田を残して・・・

 

山 「え、ちょ、どこにっ!? 後、僕は『クリヤ』ですってばぁ!・・・・・・・・・一体、どうしろと?」

 

とりあえず、山田はユウキに近づき、へっぴり腰になりながらも、声をかける。

 

山 (大丈夫、僕の方が先輩なんだ・・・)

山 「あ、あの〜、ユウキさん? 仕事に取り組んでもらえませんかね・・・?」

ユ 「え〜、ダルいです・・・」

 

どうやら、息詰まっていたステージをクリアしたのか、さっきまでの不機嫌は解消されたようで、山田はホッと安堵。

 

山 「そ、そう言わずに・・・」

ユ 「嫌です。ゲームやってた方が、楽しい・・・」

山(ユ 「ですけど「ああぁ、しつけぇっ!!!」・・・グフッ!」

 

持っていたワイヤレスコントローラを山田の顔面に投げつけ、その反動で山田は床に倒れる。

 

ユ 「人の楽しい時間を邪魔しやがって! てめぇはクソゲーよりもクソだっ!」

 

そして、投げつけたコントローラーを拾わずに、引き出しから取り出した新たなコントローラーで、またゲームをやり始めた。

 

山 「うぅ、結局・・・僕だけこんな目に・・・う、うぅ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【また場所は変わって・・・】

 

オ 「てめぇ! どういう事だよっ!?」

 

高層マンションの最上階。豪華な飾りで溢れかえり、その部屋で目が覚めたオータムがマドカに詰め寄る。

 

マ 「・・・」

オ 「何とか言いやがれ! ああぁんっ!」

 

マドカを壁に叩きつけ、それでも怒りが収まらないオータムは、腰からサバイバルナイフを抜く。

 

オ 「その顔、切り刻んでやる・・・」

マ 「・・・」

 

だが、マドカは動こうともせず、オータムと目は合わせ、見下すように笑う。

 

オ(ス 「こ、このガキーっ!!!「やめなさい、オータム。起きたばかりなんだから、そう興奮しないの」・・・スコール」

 

バスルームから出てきた美しい容貌の金髪の女性。

オータムを言葉だけで静めた後、スコール・ミューゼルはバスローブのまま、ソファーに腰掛ける。

そんな、スコールをオータムは悔しそうに見つめた。

 

オ 「お前は・・・知っていたのか? こうなる事を」

ス 「ええ」

 

だが、『亡国機業』とっても、スコールにとっても、束の無人機襲撃と被ってしまったのは偶然。

 

オ 「だったら、どうしてそれを私に言わない!? 私は・・・私は、お前の!」

ス 「分かってるわ、ちゃんと分かってる。あなたは私の大切な恋人」

オ 「わ、分かってるなら・・・いい」

 

さっきまでの怒りがスコールの笑みに消され、オータムは顔を赤らめて俯く。

 

ス 「バスルームで待ってて。すぐ行くから・・・」

オ 「わ、わかった」

 

オータムを一撫でした後、オータムがバスルームに入っていくのを確認し、その場から動かないマドカに話しかける。

 

ス 「エム。あなた、『ターゲット』を見逃したわね」

 

エム・・・織斑マドカのコードネーム的な名。

実際、『エム』の方がマドカの本当の名前なんだが・・・

 

マ 「・・・」

ス 「ふぅ・・・だんまりは良いけど、あまり勝手な事をしないで頂戴。分かってるでしょ? あなたの立場」

マ 「・・・ああ」

 

マドカの体には監視用ナノマシンが注入されており、もし命令違反を犯せば脳の中枢を焼き切られる。

だから、とりあえずマドカは『亡国機業』に従っている。

 

ス 「あなたが『織斑マドカ』であろうとなかろうと、私には関係ないわ。けれど、なるべく『エム』でいて頂戴。『亡国機業』実働部隊の一人、エムとして」

マ 「・・・なら、一度だけで良い。私の勝手を見逃してくれ」

ス 「っ・・・」

 

己の能力の高さに、周りを見下す事しかできないマドカが頭を下げた事に、珍しく面を食らうスコール。

 

ス 「・・・はぁ、負けたわ。で、何する気なの?」

マ 「織斑一夏に接触する」

ス 「それは、あなたの本意かしら?」

マ 「・・・」

 

マドカは返答もなく、ただ頭を下げる。

ため息を吐いたスコールには、引き下がるしか選択肢がなかった。

 

ス 「・・・しかたない。運営側には、私が適当に言っておくわ。でも、あなたに限ってないと思うけど、ヘマはしないように監視を・・・そうね、ISのテストとして『残った2人』の『No.33』を同伴させるわ」

マ 「分かった」

 

そう返事したマドカは部屋を出て、その下の階にある自分の部屋に戻る。

家具や何も置かれていない部屋に、ベットが一式。

マドカはそのベットに座り込んでから、体をベットに埋める。

 

マ 『1つだけ、忠告してやる。"人形"が人の心を持つという事は、それだけ本来の力は出せない』

マ (なぜ、私はあんな事を言ったんだ・・・?)

 

仰向けからうつ伏せに寝転がり、深く深呼吸。

 

マ (私は・・・憧れているのか? 『朝霧獅苑』を)

 

人の欲と、戦う事だけに生み出されたマドカにとっては、今の獅苑が輝いて見えていた。

自分と違って、幸せに生きた"人形"。

できれば、自分と同じ世界に入れたくないと、マドカは無意識にそう感じていた。

 

マ (だが、私にはやるべき事がある・・・)

マ 「邪魔をするなら・・・殺す」

 

スッと、ホルダーから拳銃を抜き取り、発砲。

 

? 「・・・あぶない」

マ 「あ、すまない・・・」

 

銃の軌道先には、前髪が白色の女性が立っていた。

彼女こそが『No.33』・・・その隣の壁には、銃弾で穴が開いた箇所には煙が立っている。

身長は箒ぐらいだろうか、後ろの黒髪は腰辺りまで伸ばしており、長い前髪が『No.33』の右目を隠していた。

そして、組織の中でマドカが唯一信頼しているというか、無害と感じている人物なのである。

 

マ 「・・・」

 

マドカは女性を見つめる。

 

マ (やはり、お前も『朝霧獅苑』と同じ・・・)

 

髪型が違うだけなのに、イメージがかなり違う。

だが、容姿はマドカにも近くて、獅苑に似ている。

すると、『No.33』は不思議そうに・・・

 

? 「・・・マド、カ?」

マ 「ん? いや・・・」

? 「だい、じょう、ぶ? マドカ・・・」

マ 「そう心配してくれるのは、お前だけだな。それに、私の事を『マドカ』と呼んでくれるのも・・・」

? 「? マドカは、マドカ・・・マドカは、友達」

マ 「友達・・・か」

 

聞きなれない言葉に少し言葉を紡ぐマドカ。

 

? 「あ・・・今度、一緒、に出る」

マ 「スコールから聞いたのか?」

? [コクッ]

マ 「そうか・・・なら、覚悟は出来てるか?」

? 「出来、てる・・・『No.40』は敵・・・」

 

すでに、覚悟を決めていた『No.33』

その覚悟をマドカは少し悲しげに聞いていた。

 

マ 「そういえば、『No.50』は?」

? 「・・・部屋・・・寝て、る」

 

 

投稿者SIDE

 

男 「・・・」

 

これまた、ベットしかない部屋で、足を組んで寝ている男。

容姿は獅苑似の女性なのだが、心も体も正真正銘の男だ。

 

男 「・・・眠れねぇ」

 

男『No.50』は体を起こし、あぐらをかく。

 

男 (やっぱ、反応してるのか・・・まぁ、そうかもな。アイツと俺は『双子』みたいなもんだし・・・)

 

『No.50』は笑みを浮かべ、この場にいない獅苑に問いかける。

 

男 「なぁ、強い奴と戦うの好きだろ・・・何せお前は、俺の双子で・・・

 

 

・・・俺と同じ、クローン『No.40』なんだからよぉ」

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インフィニット・ストラトス 朝霧獅苑 のほほんさん 

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