IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G−soul〜 |
「「なああああっ!!」」
雄叫びひとつ、学園の門へ飛び込む人影が二人。
「時間っ!」
「五時五十五分っ!」
瑛斗とシャルロットである。
シャルロットに叫ぶようにして時間を聞き、瑛斗は返事を聞いた。
「「せ、セェ〜フ!」」
へなへなと座り込む。あの後二人は奇跡的に十五分のバスに乗ることに成功し、バス停から猛ダッシュで走り、こうし
て学園に戻ってきた次第である。
「つ・・・疲れた・・・・・!」
「ぼ、僕もだよ・・・・・!」
二人で息も絶え絶えで話す。
「あ、アンタたち、どうしたの?」
「「?」」
振り返ると、驚いたようにこちらを見ている鈴の姿があった。
「お、おう・・・鈴か・・・・・。ハァ、ハァ・・・」
「こ・・・こんばんは・・・・・。フゥ、フゥ・・・」
「だ、大丈夫? 死にそうな顔してるわよ?」
「へ、平気・・・・・。それより・・・一夏は・・・・・?」
「一夏? ああ、なんか生徒会の仕事があるって、パーティーの会場の食堂に向かったわよ」
「サンキュ!」
再び立ち上がり、ダッシュでその場を離れる瑛斗。
「あ、瑛斗! ・・・・・行っちゃった」
もの凄い速さでどこかへ行ってしまった瑛斗を鈴は首を捻りながら見送った。
「・・・で、アンタたちどうしたの?」
仕方ないので鈴はシャルロットに顔を向ける。
「え・・・・・いやあ。あははは」
「何よ? 怪しいわね」
「そ、そんなことないよ! あ! 僕も行かなくちゃ! また後でね!」
「あ、ちょっ、シャルロット! ・・・・・・・どうしたってのよ、もう」
慌ただしかった二人を不審に思いつつ、鈴は歩き始めた。
「遅れましたぁぁぁっ!」
直角に腰を折って楯無さんに謝る。時計は六時一分。見事遅刻だ。
場所は食堂。料理部員たちが料理を運びこみ、いつも食堂で働いてくれてるおばさん方が指揮を執っている。椅子とテ
ーブルを運び出したため、結構なスペースが確保できている。
「まったくもう。みんなちゃんと仕事してるのに、一人だけ遊んできて」
プリプリと怒る楯無さん。俺はそりゃもうペコペコ頭を下げる。
「ご、ごめんなさい・・・・・」
「まあいいわ。一分くらいなら、大目に見てあげる」
そういう楯無さんの姿はいつの間に調達したのかサンタクロースの恰好だ。
・・・・・下半身がミニスカートなことを除けば。
「あの・・・・・、その恰好は?」
「ふっふーん。この日のための特別衣装よ。似合うかしら?」
「そ、そりゃ、良く似合ってますよ」
「うふふ。ありがと♪ ご褒美におねーさんの生脚見せてあげる。ほれほれ」
そう言って楯無さんがスカートを少し上げる。
「た、楯無さん! 見えちゃいますよ!」
「実は私、今、履いてないの」
「だったらなおさらダメです!」
「やん。冗談よ。冗談☆」
星が出るウインクをして、楯無さんはカラカラと笑う。
「桐野君、早く準備を手伝ってください。会長も」
「あ、虚さん」
声がして振り返る。なんと虚さんもサンタ姿だった。楯無さんとは違ってロングスカートだった。
「あ、あんまりジロジロ見ないでください・・・・・。結構恥ずかしいんですから」
顔を赤くして俯く虚さん。
「お姉ちゃん恥ずかしがることないよ〜。と〜っても似合ってる〜」
すると後ろからのほほんさんもやってきた。言うまでもなくサンタ姿、だがズボンだ。あ、袖はダルッダルな。
「そうですよ。虚さんもよく似合ってますよ」
「一夏くんまで・・・・・」
現れた一夏もサンタ姿だった。ひげ完備(笑)。
「みんなサンタ姿なんだなー、ってあれ? 俺は衣装とかないんですか?」
この流れならあるんじゃないかと思って、楯無さんに聞いてみる。
「ええ。あるわよ。とっておきのが」
「とっておき?」
とっておきと聞いては、少々気になってしまう。
すると、生徒会メンバー全員の目が怪しくキラーンと光った。
「そうよ。とっておき」
「と〜っておきだよ〜」
「はい。とっておきです」
「ああ。とっておきだな」
「え? ・・・・・え?」
なんか、本日二度目の嫌な予感がした。
『それじゃあ、みんな! メリークリスマースッ!』
「「「「「「メリークリスマース!」」」」」」
楯無さんの号令で、クラッカーがパン、パパンと音を立てる。
ついに始まったIS学園クリスマスパーティー。クリスマスは家族と過ごす生徒のことも考慮し、クリスマスイブの開催
となっている。
会場の食堂は、ほぼ全ての生徒が集まって至る所でにぎやかな声が聞こえている。
「わ、一夏なにそれ? サンタ?」
「そ、そうだけど、変か?」
「いえ。とってもお似合いですわ」
「そうね。特にひげが」
「ひげかよ!?」
遠くの方で一夏が鈴やセシリアと話しているのも聞こえる。
「・・・・・・・・」
しかし、俺は釈然としない。
「なんで・・・・・トナカイ?」
さっきから何度か呟いた疑問を再び口にする。
そう。トナカイ。トナカイなんだ。今の俺の恰好はトナカイの着ぐるみ(角着き)なんだ。
「あー! 瑛斗くんはトナカイだー! かわいー!」
「赤い鼻まで付けちゃって、面白ーい!」
俺の姿を目にした女子たちからはそれなりに好評だが、素直に喜べん・・・・・。
「瑛斗・・・・・」
「あ、簪か」
ジュースが注がれたグラスを片手に、簪が近づいてきた。
「その恰好・・・どうしたの?」
「い、いやあ、遅刻したペナルティだって、楯無さんが・・・・・」
「お姉ちゃんが・・・・・?」
「ああ。なんか、なされるがままに着せられた」
「そう・・・・・」
すると、簪は近づいてきて背伸びをして俺の頭を撫でた。
「か、簪?」
「・・・・・・・可愛い」(なでなで)
(えー・・・・・)
どうやら、簪も気に入ったようだ。
「あ、更識ちゃんずるい!」
「私も私も!」
まわりの女子たちも俺の頭を撫でまわしに来た。
「わ、ちょ、あ、あー!」
で、揉みくちゃにされましたとさ。
女子たちの撫でまくり大会が一段落し、俺は椅子に座った。俺が飯を食ってるときも撫でに来るからまいったぜ。
「・・・・・・た、大変だったみたいだね」
「だい・・・じょうぶ?」
「おー・・・・・」
椅子に座りこんでいる俺に、シャルと簪が心配して声をかけてくれる。
「もう絶対、遅刻なんてしない・・・・・」
「あははは・・・・・。今日は災難だったね」
「なにか、あったの?」
簪が聞いてくる。しかし、遅刻になった理由が理由なだけあって、あまり話せる内容じゃない。
「まあ、色々とな・・・・・」
「う、うん。色々・・・・・」
シャルとアイコンタクトしてからあはは、と笑う。
「また・・・二人だけの秘密・・・・・」
ぷぅと頬を膨らませて、簪が俺たちをジトーと見てくる。
「すまん簪。こればっかりは言えない」
「ううん・・・。二人が仲がいいのは知ってる・・・・・」
そう言って、簪は人差し指を立てる。
「でも・・・許してあげる代わりに・・・・・」
「ん?」
「今度・・・・・、映画、行こう・・・・・・・」
「映画・・・、あ、あの一月にやるアニメの劇場版か。いいぜ。行こう行こう」
「・・・・・うん」
今度はにこっと笑って頷いた。
『はーい! 全員ちゅうもーく!』
すると楯無さんの声が聞こえた。ちなみに、楯無さんの後ろには特設した巨大ディスプレイがあり、遠くの人にもよく
見えるようにしている。
『これから、生徒会企画の特別イベントをはじめまーす!』
楯無さんの言葉で、女子たちがザワザワと色めきたつ。
「あ、これってもしかして『アレ』?」
「ああ。『アレ』だな」
「瑛斗たち・・・なにかやるの?」
「まあな。ちょっとしたサプライズイベント。行ってくる」
「??」
「うんっ♪」
事情を知らない簪と、知ってるシャルの反応のギャップが面白くて、つい笑ってしまった。
「一夏」
「お、来た来た。なんだ。その恰好、結構似合ってんじゃん」
「うるせぇ」
俺は笑いながら一夏の脇腹を小突く。
「ふたりとも〜、はやくはやく〜」
のほほんさんに呼ばれ、俺と一夏は裏手に回る。
『このパーティーのために我々生徒会が企画した特別サプライズよ!』
「「・・・・・せーの」」
一夏と息を合わせて、特大ケーキが載ったローラー付きの台を前に出す。
『生徒会製作! 特大ケーキでーす!』
バンッ! とライトを当てられた巨大ケーキを見て、女子たちは『わあぁ』と目を輝かせる。
「ウケは上々だな」
「ああ。頑張った甲斐があったってもんだ」
持ち場に戻り、一夏と小声で話す。
『ではでは! さっそく切り分け・・・・・るその前に!』
「「ん?」」
『サンタ争奪! 大じゃんけん大会ぃ〜!!』
「「んん?」」
じゃんけん大会? そんな企画あったか?
目だけで一夏に問う。だが、一夏もなにも聞かされていないようで、ふるふると首を横に振った。
どういうこと?
一夏と一緒に楯無さんを見る。
「うふ♪」
楯無さんはウインク一つ寄越して、再び前を向いた。
『いまから私とじゃんけんして、残った一人にあのてっぺんのサンタクロースを切り分けるケーキに上げます! でも
! それだけじゃないわ! その人は・・・・・』
「「「「「「「「そ、その人は?」」」」」」」」(ゴクリ)
『織斑一夏か、桐野瑛斗とケーキ入刀! できちゃいます!』
「「「「「「「「えぇ〜!?」」」」」」」」
この場にいた女子全員がどよめいた。
「なあ一夏。ケーキ入刀って、単に俺かお前と一緒にケーキ切り分けるだけだよな?」
「そうだろうな。・・・・・でもなんであんなに女子たちが騒いでるんだ?」
俺と一夏が首を捻っているのもそっちのけで楯無さんは話を進めていく。
『いいわよいいわよその反応! やりたいヤツは拳を上げい!』
座っていた人を含め、すべての人が立ち上がった。
『じゃーんけーん!』
「「「「「「「「ぽん!」」」」」」」」
「ふふふ・・・まさかあなたたちが残るなんてね」
五分ほど経ち、結構な数が削られて、残った猛者は・・・・・。
「ふっ、こうした勝負も悪くない」
「この勝負、もらいましたわ!」
「それはこっちのセリフよ!」
「悪いけど、僕が勝つよ!」
「負けられんな。この戦い」
「勝つ・・・・・!」
箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪の六人だった。
全員、目が本気。
「え、瑛斗・・・・・お前も感じるか?」
「ああ。全員、ものすげえ気迫だ・・・・・!」
みんながみんな、ゴゴゴゴゴゴ・・・・・、と鬼気迫るものがある。
「見ろよ。鈴なんか甲龍を腕だけ展開してるぞ」
「いや、ラウラも目が完全に暗殺者の目だ」
俺と一夏は、この状況はもうどうしようもないと判断して、誰が勝つか見届ける姿勢をとっている。
「これで最後よ! じゃん!」
楯無さんの目がカッと開いた。
「「「「「「けん!」」」」」」
「「「「「「「ぽん!」」」」」」
そして、俺は奇跡的な光景を目にした。
楯無さんがグー。箒、セシリア、鈴、シャル、簪がチョキ。
「・・・・・・・・・」
ラウラだけ、パー。
『ひ、一人勝ち!?』
負けて、その場にしゃがんでいた他の女子を含め、俺たちは驚愕した。
「おめでとぉーっ! ラウラちゃんの一人勝ちー!」
ラウラにパチパチパチパチと割れんばかりの拍手が送られる
「あ・・・・・。ふ、ふん。当然の結果だ」
腕を組んで平静を装っているが、ラウラのその顔はまんざらでもない。
「くっ・・・、不覚・・・・・!」
「ラウラさん、なんという強運ですの!」
「ま、負けたぁ〜・・・!」
「ラウラいいなぁ〜!」
「羨ましい・・・・・」
負けた五人も悔しそうにしながらも、ラウラに拍手を送る。
「さあラウラちゃん! どっちとする?」
「もちろん嫁だ」
ラウラは、まっすぐ俺に歩み寄ってきた。
「ご指名、ありがとうございまーす」
俺は少しおどけた感じで言いながら立ち上がる。
「うん! それじゃあご両人前へ!」
楯無さんから大きなナイフを受け取り、ケーキの前へ。
銀髪少女とトナカイ。・・・・・シュールだ。
「おお、近くで見ると結構でかいな」
「そ、そうだな」
俺のすぐ横に立つラウラの顔は赤い。
「こ・・・これが、クラリッサの言っていた・・・・・!」
「? どした? 顔が赤いぞ?」
「な、なな、なんでもない! で、ではやるぞ」
「お、おう」
ラウラに言われ、二人で息を合わせてケーキにナイフを刺した。
その瞬間、大きな歓声が上がり黛先輩がカメラのシャッターを切りまくっている。
「な、なんか、凄いことになったな。ラウラ」
「・・・・・・・・・・」
返事がない。
「ラウラ?」
「・・・・・・・・・・」(パタリ)
「えっ!?」
突然ラウラが真っ赤な顔して目をぐるぐるさせて横に倒れた。
「ラウラ!? どうした!?」
慌ててラウラを抱き上げる。
「し・・・」
「『し?』」
「し・・・しあわ・・・・・せ・・・・・・・」
「・・・・・・・え?」
「え、瑛斗くん? ラウラちゃんどうしたの?」
楯無さんがラウラの顔を覗き込む。
「い、いや。なんか、『しあわせ』って言って、倒れちゃいました」
「あらあら、大変」
そういうと、楯無さんがマイクを握った。
「みんな大変よ! ラウラちゃん倒れちゃった! 幸せすぎだって!』
楯無さんの声を聞くと、
「ぷっ・・・ふふっ、あははははは!」
シャルが笑い始めた。
「くすっ」
今度は簪が。
そして、その笑いはどんどん伝播して、最終的にこの場を包む大きな笑い声になった。
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