魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 この作品のなのはちゃんはバーサクできます、な21話 |
幽霊達の活躍により、市民のほとんどが避難した海鳴の街。
人っ子一人いない筈のこの場所に、たった一カ所だけ足音が聞こえていた。
「はっ、はっ、はっ……!」
「なのは、無理して急いだら駄目だよ!」
そう、なのはとユーノである。
初めに田中がいたビルを、駆け足で登っているのだ。
ユーノが心配して声をかけている、確かに今のなのはは焦っていた。
小学生の体力でその上あまり運動神経がよくないのに、全力疾走である。
このままペース配分を無視してしまえばバテてしまうだろう。
しかし、そんなことは関係ないとばかりになのはは返答する。
「ううん! わたしは大丈夫、だから! それよりも、あの二人が危ないのっ!」
そう、なのはは見ていたのだ。
今回のジュエルシードを持っていたのは父親が監督しているサッカーチームの男の子で、女の子と一緒だったことを。
初めは見間違えたのだと気のせいにして、やはり気のせいではなかった。
ジュエルシードを発動させてしまったのなら二人は危険すぎる状況にある筈。
「今回の暴走体は私の責任! 私があの時、気のせいだって思わなかったらこんなことには!」
人一倍責任感が強いなのはそのことを負い目にしてしまっている、だから自分のことも省みず一刻もはやく暴走体の下へ行こうとスピードを落とさない。
「なのは……」
ユーノは、そんななのはを見て表情を暗くする。
確かに、なのはが気のせいだと思わなかったら暴走体は現れなかっただろう。
しかし、誰だって間違いも失敗もするのだ。
気にするなとは言えないが、背負いすぎて無理をするのは間違っている、そうユーノは思う。
まあ、背負いすぎて無理をするのはユーノもお互い様なのだが、悲しいかな人間とは案外自身の欠点に気づかないものである。
「なのは、確かに今回の暴走体は事前に回収できたかもしれない。でも、そもそも僕がジュエルシードを見つけなかったらこんなことは起きなかった、だから一人で責任を感じないで! 僕もいるから!」
それは励ましにしてはネガティブだったが、ユーノの本心である。
どうしても背負ってしまうなら、せめて二人で分け合おう。
それがユーノが言える精一杯の言葉だった。
そしてその言葉は、しっかりなのはに伝わったようで、走る足は止まっていた。
「ユーノくん……ありがとう。えへへ、これじゃ私ユーノくんに心配しすぎなんて言えないね」
「なのは、いいんだよ。一緒に頑張ろう! 二人なら心配する事なんて無くなると思うから」
〈私も忘れてもらっては困るのですが〉
「「もっ、もちろん忘れてないよ!? レイジングハートさん!」」
そんな感じで少しだけ場の空気が弛緩する。
なのはも、全力疾走をやめてバテない程度に早歩きで進むことにした。
時々立ち止まりながらも、暴走体との戦いに備えて警戒心を高めてゆく一同。
そして、辿り着いた屋上へ繋がるドア。
ここを開ければ暴走体との戦いが始まる、なのはの体に緊張が走った。
「なのは、今回の暴走体はいつもよりずっと強力だと思う。多分、人間が発動させてしまったんだ。気を付けて」
〈屋上に出たら、まずジュエルシードがどこにあるか索敵魔法を使います。そこから先は砲撃で封印しましょう〉
「うん、わかったよ二人とも」
ユーノとレイジングハートの助言に、なのはは改めて一人で戦っている訳ではないと認識する。
ここから先は、きっと街が滅茶苦茶になってて人がたくさん傷ついてるのだろう、でも不思議と不安は薄れていた。
(だって私は『一人じゃない』! みんなと一緒に背負えばきっと大丈夫!)
不屈の心をもった少女は、少年と、愛杖と共にドアを開けて。
「おぉオオォっ!」
「そんな大振りの攻撃、アタイには通用しないよ! 人魂でもくらいな!」
「…………!(アシダケコプター!)」
「鉈を使うのも味があるよね! アハハハ!」
「ああもう鬱陶しい! 全力の人魂で燃やしたら楽なのに!」
「メリーさん、我慢しましょう。確かに都市伝説が一人でも十分勝てますけど」
「みてみなぁ! 題して『モズの早贄(足)』だよぉ!」
「なのはちゃんキター! って足売りさん何遊んでるんですか!?」
大木の暴走体がツルをしならせ。
おかっぱの少女がそれをかわして炎の玉を投げ。
どこかで見たような下半身がカポエラのように回転し。
上半身が空を飛びながら大鉈を振り回し。
ゴスロリを着た金髪の少女が2メートルはあろう鋏でツルを弾き飛ばし。
スーツ姿のおじさんが手刀で空間ごと枝を切り裂き。
風呂敷袋を担いだ老婆が暴走体の枝という枝に生足をくっつけていて。
学生服の青年がツッコミしているのが一瞬見えて。
そんな光景が広がっていた。
「「わあぁぁああぁあっ!!?」」
二人で背負ってもキャリーオーバーな恐怖でした。
〈二人とも、しっかりして下さい!〉
二人が恐慌状態に陥っても、レイジングハートさんはぶれない。
すぐさま二人に呼びかける。
「はっ! そ、そうだ、まずは暴走体をなんとかしないと! なのは、索敵魔法を
「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない…………」
「なのはあぁぁぁ!?」
ユーノは正気に戻ったが、なのはは残念ながらSAN値直葬されてしまいました。
目に涙を一杯にためて立ち尽くし、ブツブツ呟いている。
そうこうしてる間にも事態はどんどん進んでいってしまう。
しかも、悪い方向に。
「き サ マ ら あ ァ ァ !」
さっきから自分の攻撃は当たらないわ、ハートマークに盆栽されるわ、生足をくっつけられるわでとうとう暴走体の怒りが頂点に達してしまう。
これまでで一番の大暴れだ。
ブンブンブンブンッ!
「あぁーっ!? わたしの足コレクションがぁ!!?」
ひゅーん、と暴走体にくっついていた生足が何本も外れ飛んでゆく。
『なのはの所へ』
ボトボトボトボトボトッ!
「うわあああっ!? なんだこれ!? なんだこれぇぇぇ!?」
〈足ですね。人間の〉
「怖くない……! 怖くない……! こ、わ、く、な、い…………!」
「よくも足売りさん(の足コレクション)を! テケテケさん怒ったよー! そーれ包丁100連射!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン! とテケテケが無数の包丁を投げつける。
ちなみに言うほど怒ってはいない、むしろ楽しそうである。
「ムダだアぁァ!」
バシィィン!
しかし、包丁では暴走体のツルを完全に切断することは形的に難しく一段と太いツルで弾き飛ばされてしまう。
『なのはの所へ』
ヒュンヒュンヒュンヒュン!
「うわうわうわうわぁあぁぁっ!?」
〈危険です! プロテクションを〉
「怖くなーい怖くなーい怖くなーい怖くなーい怖くないったら怖くなーい……」
絶体絶命のピンチだった。
迫りくる包丁にパニックになるユーノ、精神がマッハななのは、このままでは直撃である。
もう呪われてるんじゃないかと思うほど不運が連鎖する中、あの男が動かない訳がない。
「二人とも危なぁぁいっ!!!」
ドカンと爆発飛行で田中は包丁と二人の間に割り込んだ。
そしてそのまま、迫り来る無数の包丁を一つ一つ全てポルターガイストで操作して見事なのはとユーノに当たらないよう足下に軌道を逸らした。
もう一度言おう『見事なのはとユーノに当たらないよう足下に軌道を逸らした』のだ。
さて、読者の皆様。
今のなのは達の『足下』には何が転がってるでしょう?
答え
ブスブスブスブシャアァァァァァッ!!
「わ た し の 足コレクション が あ あ あ ぁ !!?」
生足に突き刺さる包丁、傷口から鮮血が噴水のように飛び散りなのはとユーノの体を真っ赤に染めてゆく。
「あ、足売りさん本当にすいません!? うわユーノくんもなのはちゃんも真っ赤に!?」
「ひえぇぇぇっ!? 血がっ! 血がぁぁ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
足売りばあさんが血の涙を流し、ユーノの叫び声が辺りに響きわたっている。
そして、なのはは。
「…………………あはっ」
〈マ、マスター?〉
今まで『怖くない』と念じていたのだが突然止まっていた。
その変わり様にレイジングハートが不安になって呼びかけるが返事がない。
代わりに、どこか大切な部分が壊れてしまったかのような笑い声が一つ。
「あは、あははははははっ! ははははっ、なぁ〜んだぁ、なんてことないんだぁ」
「なのは!? どうしたの、大丈夫!?」
その身を、顔を、服を血で染めながらタガが外れた笑い声を出す姿をみて、ユーノは目の前の化け物達よりなのはの方に恐怖してしまう。
「なのはちゃん……?」
「なにかマズい雰囲気だね」
「大丈夫、だいじょおぶだよユーノくん……。あは、ははは」
一頻り笑った、なのはの表情は。
「だって、私の手にある魔法は涙も、恐怖も、幽霊もぜ〜んぶ撃ち抜くの! あははハハハはハはハハははははっ!」
超満面の笑みで、目が死んでいた。
恐怖のあまり半狂乱になっている、ともいう。
「絶対大丈夫じゃない!? 怖いよなのは正気に戻って!!!」
「なのはちゃんが壊れたあぁぁ!」
「あ、あ、あの子はっ!? いやあぁぁああぁあっ!!?」
「メリーさん、彼女を知っているのですか?」
幽霊たちの恐怖が霞んでしまうほどの恐ろしさに、今度は都市伝説(の一部)が恐怖してしまう。
「お願いレイジングハートッ! これが私のっ! 全 力 全 開 ぃぃぃ!!!」
〈シュ、シューティングモード〉
レイジングハートを変形させ、ありったけの魔力を先端へ収束。
ズゴゴゴゴゴ! と有り得ない轟音をたてながら桜色の光が輝きを増してゆく。
「あわわわ、やばいよコレ包丁なんて投げなきゃよかったー!」
「……、……!(ワタシタチモロトモ、ブットバスキダ!)」
「後悔するのは後だよ! 今は全員逃げることだけ考えな!」
「あんな魔法少女と一緒にいられないわ! あたしはやての所に帰る!」
「メリーさん死亡フラグは俺の専売特許ですってば!」
「はなせぇ異次元おじさん! わたしの足コレクションをぉ!」
「諦めて下さい! 皆さんもこちらへ!」
慌てて異次元おじさんのゲートへ逃げ込む幽霊達(メリーさんだけ瞬間移動)。
都市伝説史上、前代未聞の事態である。
そして後に残っているのは。
「ディバイーン……ゴォーストォ……!」
「ひイイいいい!? いのチばカりはおタスけを!」
哀れ、暴走体のみである。
木という性質上どうしても動くことが出来ないのだ、目の前のなのはが鬼か何かに見えてるようで命乞いをしている。
だが無意味だ、何故なら目の前にいるのは少女でも、鬼でもない、魔法……改め魔砲少女高町なのは。
ジャキン! と彼女は神が裁きを下すかのようにしっかりと暴走体にレイジングハートを向けて。
「バスタアアアアアアアア!!!」
「すいまセンでしグあアアああああアア!!!」
みんなみんな、吹っ飛んだ。
索敵魔法とはなんだったのか。
海鳴の街の中心部から外れた場所で、俺たちは何とか避難することが出来た。
チュドオオオオオオン……! とはるか遠くで輝くピンク色の光の柱。
夕日がもう一つ増えたんじゃないかと思えるほどの眩い光を見た都市伝説の皆様方は
( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)( ゜д゜)
超唖然だった。
仕方ないよね、だってあの光『魔法少女』が出してるんだぜ……?
( ゜д゜ )( ゜д゜ )( ゜д゜ )( ゜д゜ )( ゜д゜ )( ゜д゜ )
こっちみn……ないでください!
「あれが『魔法少女』かよ」みたいな顔しないで俺だってアレ、スターライトブレイカーかと思ったんですから!
6つ目のジュエルシードを封印した後、夕焼けに染まった海鳴の街をユーノは歩いていた。
「元の姿に戻ってもまだ大分余裕がある、魔力を使ってなくて良かったよホント……」
現在ユーノはいつものフェレット姿ではなく、金髪碧眼の少年に戻っていた。
実は、田中達がジュエルシードを回収していたために、ユーノもまた結界魔法を使う機会が無かったので原作よりユーノの回復が早かったのである。
完全復活とまではいかないがまるで戦力にならないという状態ではなくなった、まあ今は戦うために元の姿に戻ったわけではないのだが。
では何故、ユーノは人間の姿になっているのかというと。
「まさか、あの砲撃に魔力を『全部』つぎ込んじゃうなんてね……」
「すぅ……すぅ……」
ユーノの背中にはバリアジャケットを解除したなのはがスヤスヤと寝息を立てていた。
要するに、なのはが魔力をカラになるほどの全力で撃ったものだから失神してしまい、ユーノが家までおぶって帰るしかない状況に陥ったわけである。
〈すいません、一応街への被害は最小限に抑えるよう範囲を絞ったつもりなのですが〉
「あ、あれで絞ってたんだ。ああなるほど道理で爆風が柱状になってたのか」
レイジングハートも申し訳なさそうだ、ちなみに暴走体のいた場所はそこだけ核の炎に包まれたかのようにまっさらで塵ひとつ存在していなかった、見た瞬間背筋が凍りついたとはユーノ談である。
そのことを思った瞬間、ふとユーノの頭に疑問が浮かんだ。
(そういえば暴走体で思い出したけど、あの化け物、いや存在は何だったんだろう?)
自分たちが来る以前に、恐らくは暴走体と戦っていたのであろう人外達の事をユーノは考える。
ジュエルシードが発動するたび現れていた彼らは、初めて見た時からユーノやなのは達に恐怖を刻み込んでいた。
だが、彼ら自体は直接危害を加えるようなことはしていない。
それどころか一瞬しか見えなかったが自分たちに迫ってきた包丁から助けてくれたのは、魔導師『らしき』黒い青年である。
(本当に彼らは『脅威』なんだろうか? なのはは正体が分かってるみたいだけど怖がって話してくれないし……)
これまでジュエルシードを回収できた影には、必ず彼らの動きがある。
何故彼らが手伝ってくれるのかまるで意図が掴めないユーノは思考の渦にはまっていって。
ぎゅ、と自分の首に回された腕に少しだけ力が入ったことを感じた。
「あ、なのは起きた?」
「うぅ……すぅ……」
首を回してなのはの顔を見るが、どうやら意識が戻った訳ではないらしい。
顔が近いため、少しユーノの心臓の鼓動が速くなる。
(な、なのはの寝顔かわいい……)
以前見たときはフェレット姿で抱き殺されかけていたので余裕が無かったが、改めて至近距離でみる少女の愛らしさにユーノはドキドキしてしまう。
どうやらなのはは夢を見ているらしく、ムニャムニャと寝言を喋りだした。
「こわい……こわいよ……うぅん、すぅ……」
「ッ!」
なのはは、可愛らしい顔を恐怖に歪ませて、悪夢にうなされていた。
それを見たユーノは冷水を浴びせられたような衝撃をうける。
(そうだ、なのははいくら才能があるからって『普通の女の子』なんだ……。僕よりずっと怖い筈なのに、それでも手伝ってくれて……)
改めて自分を助けてくれた少女の立場を思い出して、ユーノは胸が締め付けられるような痛みを感じた気がした。
(なにが、『一人で責任を感じないで』だ……!僕は初めからずっとなのはに危険なことばかり押し付けてきただけじゃないか……!)
ユーノは何も出来ない自分に憤慨する、何故自分はたった一人の女の子に頼ることしか出来ないのか。
何度も何度も、なのはを死ぬかもしれない危険な場所へ向かわせて、その度にトラウマを植え付けて。
自分はただ見てるだけで、口だけで何一つ責任を背負いもせず、何をしているのだ?
ユーノは自分の非力さを呪った、才能のなさを呪った、何故、自分は誰も守れないのかと。
そして、その想いは少年にある決意をさせた。
(いや、今の僕はもう何も出来ないわけじゃない! 魔力も大分回復した、なら僕は『みんなを守るなのはを守る』!!!)
この決意がいずれ『原作』に決定的な違いを与えることを、まだ誰も知らない。
そして、家に『足コレクションの血がついたまま』ユーノとなのはが帰ってきて、高町家が大パニックに陥ることも、まだ誰も知らない。
暗転、暴走体跡地。
「なンデだ! おレは『しゅジンこウ』にナりたかったダケなのニッ……! ギャアアあぁあァぁあッ!!!」
バクン!!!
「実験しゅーりょう、お疲れさん。だから消えな」
「ふぅ。ある程度強い思念を持った霊体じゃけど、期待はずれじゃね」
「まあジュエルシードが幽霊でも使えることが分かればそれでいいワケでえー」
「やっぱりぃ、人間が発動したのとおんなじ規模なのは予想通りだしぃ」
「そんな分かりきったことよりも、『都市伝説』がいるとは厄介じゃねぇか……!」
「だとしても『計画』が完成すれば問題ないデス」
闇が、動き始めた。
悲劇の歯車を加速させるために。
説明 | ||
注意、なのはちゃんのキャラ崩壊です。 魔砲少女バイオレンスなのは始まります。 |
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