英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 130 |
リベール通信社に着いたエステルとヨシュアはナイアルがいる2階に上がって行った。
〜リベール通信社・2階〜
「おーい、ナイアル。」
「お邪魔します。」
「……おお、やっと来たか。ドロシーのヤツ、珍しくちゃんと伝言できたみたいだな。」
階段の入口にいたエステルとヨシュアはナイアルに近付いた。
「そういえばお前ら、今日も勝ったそうじゃねえか。ドロシーのヤツがはしゃぎながら帰って来たぞ。」
「えへへ、まあね。」
ナイアルの言葉にエステルは得意げに答えた。
「それでナイアルさん。例のことなんですけど……」
「おっと、さっそく本題かよ。ほれ……主だった連中の経歴は集まったぜ。」
ヨシュアに尋ねられ、ナイアルは一冊の黒いファイルをエステル達に差し出した。
「これって……王国軍の?」
差し出されたファイルを見て、エステルは驚きながら尋ねた。
「ああ、機密度は高くないが一応持ち出し禁止の書類らしい。無理を言って軍の知り合いに借りたんだから、他言無用だぜ。」
「了解しました。」
「それじゃあ、ここで読ませてもらうわね。」
そしてエステル達はファイルを読み始め、最初にリシャールの経歴を読み始めた。
〜リシャール大佐について
アラン・リシャール大佐。七耀暦1168年、リベール王国、ルーアン地方で生まれる。士官学校を首席で卒業した後カシウス・ブライト大佐率いる独立機動部隊に配属される。
1192年の『百日戦役』においてカシウス大佐の部下として反攻作戦で多大な戦功をあげる。カシウス大佐が退役した後、軍作戦本部のスタッフに抜擢され組織改革に多大な功績を残した。
1201年、情報部の設立を提案。アリシア女王陛下の承認を得て情報部の初代司令に就任する。
「何というか……エリートっていう感じねぇ。首席だって、首席。」
リシャールと自分達が辿っている道のりが全然違う事にエステルは溜息を吐いた。
「確かにキレ者って感じだからね。シード少佐から聞いたとおり、10年前の戦争で、父さんの部下だったのは間違いなさそうだ。」
ヨシュアはエステルの言葉に頷きながら、シードから聞いた情報を思い出して口にした。
「うーん、父さんってホントに大佐だったんだ……。そんなに偉かったのに何で辞めちゃったのかしら……」
カシウスが軍の重鎮であった事にエステルは驚き、何故カシウスが軍をやめたのか気になったが、あまり考え込むのはやめて、次の人物――カノーネについての情報を読み始めた。
〜カノーネ大尉について
カノーネ・アマルティア大尉。七耀暦1175年、リベール王国、王都グランセルに生まれる。士官学校を優秀な成績で卒業後、軍作戦本部のスタッフに抜擢される。
1201年、情報部の設立と同時にリシャール大佐の推薦で情報部に異動。以後、リシャール大佐の副官として作戦指揮の補佐をする立場にある。
「『優秀な成績で卒業』ってこれまたエリートって感じねえ。」
「任官されてから、リシャール大佐の下でずっと働いてきたみたいだね。忠誠心は堅いみたいだな……」
カノーネの経歴を読み終わったエステルは自分達にとって嫌みに感じ、ヨシュアはリシャールに対するカノーネの忠誠心はかなりのものだと感じた。そして最後にロランスについての情報を読み始めた。
〜ロランス少尉について
ロランス・ベルガー少尉。年齢、国籍不明。傭兵部隊『ジェスター猟兵団』に所属していたところを、リシャール大佐の招きに応じて情報部の一員となった。それ以前の経歴は不明。
「あの仮面のヤツって……リベールの人間じゃないんだ。しかも元傭兵で経歴不明ってどーいうことよ?」
ロランスがリベール出身でない事や経歴すらわからない事にエステルは驚いた。
「……判らない。『猟兵団(イェーガー)』といえば最高ランクの傭兵部隊にのみ与えられる称号のはずだけど……」
「へー、そうなんだ。戦闘のエキスパートとして大佐が引き抜いたのかしら?」
ヨシュアの説明を聞き、エステルは首を傾げながらロランスが情報部に来た経歴を推測した。
「うん……そうかもしれないね。『ジェスター猟兵団』……どこかで聞いたことがあるような………」
エステルの推測に頷きながらヨシュアは、聞き覚えのある猟兵団の名前に首を傾げていた。そして読み終わったファイルを閉じて、ナイアルに返した。
「ありがと、ナイアル。何となく敵の姿が見えてきたわ。」
「お役に立てて何よりだぜ。こちらも、資料を調べているうちに面白いことが色々と判ってな。」
「面白いこと……ですか?」
ナイアルが言った”面白い”という情報にヨシュアは首を傾げた。
「たとえば指名手配されている親衛隊のユリア中尉だが……。士官学校で、カノーネ大尉と同学年だったらしいぞ。」
「へえ〜、そうだったんだ。」
「そのわりには、あの2人、あまり仲が良さそうには見えませんでしたけど……」
カノーネとユリアの以外な共通点にエステルは驚き、ヨシュアはルーアンの空港で2人の会話等を思い出し、あまり仲が良くなかった事に首を傾げた。
「何でも、お互い主席を争うライバル同士だったらしくてな。文のカノーネ、武のユリアと好対照な2人だったらしい。」
「なるほど……何となく想像できますね。」
「ユリアさん、凛としてて昔の騎士みたいだったもんね。」
具体的な理由をナイアルから説明され、2人は納得した。
「それから……これは軍とは関係ないんだが。お前ら、『クローディア姫』という名前は聞いたことはあるか?」
「クローディア姫……。どこかで聞いたことあるわね?」
「確か、海難事故で亡くなった王太子夫妻の忘れ形見ですね。女王陛下のお孫さんにあたる……」
ナイアルが尋ねた人物――クローディア姫について尋ねられたエステルは聞き覚えのある名前に首を傾げ、ヨシュアはナイアルに確認した。
「ああ、あまり有名じゃないが、直系中の直系ともいえる女性だ。いつもは、グランセル城の女王宮で暮らしてるらしいが……。その姫殿下の見合い相手をある人物が捜しているらしい。」
「見合い相手かぁ……。お金持ちの家は、そういうのも珍しくないっていうけど……。何だかちょっと気の毒よね。リフィア達みたいに女王様自らが断ってくれたらいいのにねぇ……」
「エステル、論点はそこじゃないよ。この場合、『ある人物』というのが問題なのですよね?」
「フフ、さすが鋭いじゃねーか。」
ヨシュアに尋ねられたナイアルは口元に笑みを浮かべた。
「え、その人物って……リシャール大佐のこと?」
「ほう、なかなか鋭いな。実際に、他国に人を派遣して有力候補を捜そうとしているのはリシャール大佐らしいんだな。」
エステルの指摘にナイアルは感心しながら説明した。
「やっぱり……。でも、おかしくない?なんでリシャール大佐がお姫様の結婚相手を探すわけ?」
「だから面白そうな匂いがプンプンするんじゃねえか。というわけで……そのあたりの事は頼んだからな。」
「へ……?」
いきなりナイアルに頼まれた事にエステルは首を傾げた。
「……明日の試合に勝ってお城の晩餐会に招待されたらそのあたりの情報を探ってこい。つまり、そういうことですね?」
「あ、なるほどね……。まったく、道理で気前よく色々と教えてくれるわけだわ。」
ヨシュア尋ねた事で納得したエステルはいつもなら難癖をつけるナイアルがあっさり情報を自分達に開示した理由がわかり、呆れた。
「これだけ調べてやったんだ。ギブ・アンド・テイクは当然だろ。」
「確かに、色々と助かりました。」
「仕方ないわね〜。何か判ったら教えてあげるわよ。」
「へっ、そう来なくっちゃな。まあ、お前らに頼らなくてもうまく行けば今日中にも……」
ナイアルがエステル達に何かを言いかけようとしたその時、通信機が鳴った。
ジリンジリン!ジリンジリン!
「おっと……」
そしてナイアルは受話器を取った。
「もしもし。こちら『リベール通信社』……。おお、お前か!ずっと連絡を待ってたんだぜ。なに……今から?ああ、わかった。これからそっちで落ち合おう。」
「なになに、どうしたの?」
通信の内容が気になったエステルは尋ねた。
「ちょっとしたヤボ用でな。今から人に会うことになった。」
「大変ですね。もう日が落ちるのに……」
夕方から仕事に入るナイアルにヨシュアは驚いた。
「もともと俺は夜型でね。それを、あのマイペース娘の新人研修をしてるうちに、朝型に変えられちまったんだ……。って、そんな事はどうでもいいか。俺はこれから出かけるが、お前らはゆっくりしていけよ。」
「ん、わかったわ。お仕事、がんばってね」
「お前らも明日の試合、相手があの”戦妃”だろうと絶対に負けるんじゃねーぞ!」
エステル達に応援の言葉を贈ったナイアルは出かけて行った。
「さてと……あたしたちはどうしよっか?」
「そうだね……。とりあえずギルドに寄ってからホテルに帰るとしようか。ナイアルさんが調べてくれたことを報告しておいた方が良さそうだ。」
「ん、りょーかい。」
その後エステル達はギルドに向かって、エルナンに試合の事やナイアルから手に入れた情報を報告してギルドを出るとすでに日が暮れていた………
説明 | ||
第130話 | ||
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