英雄伝説〜光と闇の軌跡〜 134 |
その後、エステル達は控室に戻って来て、静かに待っていた。しばらく待っていると、リシャールやカノーネ、フィリップを伴ったデュナンが観戦席に現れた。
〜グランアリーナ・選手控室〜
「あ……。今日はリシャール大佐も公爵と一緒に来てるみたい!」
リシャールの姿を確認し、エステルは驚いた。
「そうだね……。公爵のお供のついでに噂に聞くカーリアンさんの実力がどれぐらい凄いのか見に来たかもしれないね。」
ヨシュアはエステルの驚きに頷きながら、リシャールが現れた理由を推測した。
「ほう、あれが巷(ちまた)で人気の王国軍情報部のリーダーか。男前だが、風格を感じさせる、なかなかの人物みたいだな。」
「まあ……確かにそうなんだけどね。」
リシャールが漂わせている風格や容姿を見て、ジンは感心していたが、リシャール達の真実を知っているエステルは複雑そうな表情で溜息を吐いた。
「ふむ、ボースで見かけた時からさらなる風格を漂わせるようになったみたいだね。フッ、こうなっては仕方ない。このオリビエ・レンハイムのライバルと認定しようじゃないか。」
「あんたにライバル視されてもねぇ。」
オリビエの自意識過剰な発言にエステルは呆れて、ジト目でオリビエを見た。
「……始まるみたいだよ。」
審判がアリーナに現れたのを見て、ヨシュアはもうすぐ試合が始まる事を全員に言った。
「皆様……大変長らくお待たせしました。これより武術大会、本戦最終日を始めます!予選開始から1週間にわたって開催されてきた武術大会ですが……本日をもちましていよいよ最終日となりました。勝利と栄光を掴むのは一体、どちらのチームなのか……。それでは、決勝戦のカードを発表させていただきます。南、蒼の組―――カルバード共和国出身。武術家ジン以下4名のチーム!北、紅の組―――メンフィル帝国出身。メンフィル帝国軍所属。闇剣士カーリアン選手以下1名のチーム!」
「よっしゃあ、出番ね!」
「いよいよだ……」
「フッ、今回ばかりは本気で行かせてもらうよ。」
自分達の出番が来た事にエステル達は覚悟を決めた。
「泣いても笑ってもこれが最後だ……。気合を入れていくぞ!」
「うん!」
「はい!」
「ボク達の勝利と言う名のフィナーレで決めようか!」
ジンの号令に頷いたエステル達はアリーナに向かった。
〜グランアリーナ・観客席〜
「あ!ママ達が出て来た!」
「いよいよ、始まるみたいだね、ミントちゃん。」
門から出て来たエステル達を見て、ミントは声をあげ、ツーヤは緊張しながら言った。
「ねえ、ツーヤちゃん!ドロシーさんがいる所で一緒に応援しない?そうしたらミント達の応援の声がママ達に届くかもしれないし!」
「え?えっと………」
ミントの提案にツーヤは戸惑い、プリネを見た。
「私達はここで応援しているから、行ってらっしゃい。」
「はーい!行こっ、ツーヤちゃん!」
「うん!」
そしてミントはツーヤと手を繋いで、観客席の一番前で陣取っているドロシーの傍に行った。
「フフ………相変わらずあの子達は元気ですね。………?お姉様方?そんな難しい顔をしてどうしたのですか?」
天真爛漫なミントとそんなミントと仲がいいツーヤに微笑んだプリネは、考え込んでいるリフィアとエヴリーヌに気付き、首を傾げて尋ねた。
「………お前はこの気配に気づかないのか、プリネ?」
「え?…………!?この神聖な気配は………!まさか!?」
リフィアの言葉にプリネは何の事かわからず、首を傾げた後その場で集中し、感じられた気配に驚いた。
「………この気配、昨日の奴と同じだね。………とうっ!!」
エヴリーヌはいきなり武器を構えて、一本の矢を空に向かって放った!空に向かって放たれた矢は何かに当たり、エヴリーヌの傍に落ちて消えた。
「あ、危ないわね〜。知らない仲でもないのに、いきなり攻撃するのはやめてよね!」
そして空からニルがリフィア達の所に降り立った。
「やはり天使!!それも上級を冠する能天使がどうしてここに………!」
プリネはニルの姿を見て、文献に伝えられている天使の種族を思い出し、驚いた。
「ぬ?お主はセリカの使い魔だった天使ではないか。」
「……道理でエヴリーヌやリフィア達に襲いかからなかった訳だ。」
リフィアはニルの姿を見て驚き、エヴリーヌは自分達を忌み嫌っている天使が何故、何もして来なかった理由に納得した。
「久しぶり〜……あら?貴女は?見ない顔ね。」
「…………メンフィル第二皇女プリネ・マーシルンです。父は誇り高き闇王、リウイ・マーシルン。母は混沌の女神(アーライナ)の神格者、ペテレーネ・セラです。」
プリネはニルを警戒しながら、自己紹介をした。
「フフ……そんなに警戒しなくても、何もしないよ。我が名はニル・デュナミス。これでもセリカの使い魔をしていた身だから貴女達、闇夜の眷属の事を嫌っていないよ。」
自分を警戒するプリネをニルは苦笑しながら答えた。
「セリカ………まさか、”神殺し”セリカ・シルフィル!?」
ニルから出て来たある人物に思い当たったプリネは天使であるニルが現神が忌み嫌っている神殺しに仕えていた事に驚いた。
「久しいな。どうしてお主がここにいる?」
「フフ……あのエステル・ブライトという少女がニルを従える器であるかどうかを見極めに来たの。」
リフィアの疑問にニルは微笑みながら、答えた。
「………こっちの世界に来るには当然、エヴリーヌ達のお家を通って来ないと来れないはずだけど?」
「そんな警戒をしなくても、正規の手続きを取って、リウイ皇帝陛下に会って許可は頂いているよ。だからそんな怖い顔で睨むのをやめてくれない?」
自分を睨んでいるエヴリーヌにニルは異世界に来た方法を説明した。
「今、エステルがお主を従える器であるかと言ったが、まさかお主……」
「ええ。今度の新たな主はあのエステルという娘にしようかと、考えているの。」
リフィアの言葉の続きを答えるかのように、ニルは頷いた。
「………どういう風の吹きまわし?天使が人間に仕えるなんて。それもエヴリーヌ達、”闇夜の眷属”と親しくしている人間に。」
エヴリーヌは人間であり自分達、闇夜の眷属と仲がいいエステルに仕える事を考えているニルを怪しがって、尋ねた。
「どういうも何もニルはただ、強い人間が好きなだけだよ。それに異種族から慕われている人間なんて、面白そうじゃない♪」
「は、はぁ………それでエステルさんは貴女のお眼鏡に適ったのですか?」
ニルの答えにプリネは戸惑いながら、尋ねた。
「それを今日、見極めるつもりよ。……さて、さすがに天使であるニルの姿を他の人達に見られると騒ぎになりそうなので、ニルは空で観戦するので失礼するね。」
そしてニルは空へ飛び上がり、観客達が見えないところまで上がって行った。
「フフ……相変わらずエステルには驚かされるな。まさか天使にまで気にいられるとはな。」
「そうだね。テトリ達の主が強い事に興味を示して、話を聞いている内にテトリやパズモに神殺しの剣技がどんなものかを聞いて、自分の技として使えないか真似しようとしていたのも驚いたけど。」
「それがエステルさんなのでしょうね。……どうやら試合が始まるようですよ、お姉様方。」
リフィアとエヴリーヌの言葉に頷いたプリネは整列している両チームに気付いて、言った。
「おお!ついに始まるのか!」
「カーリアンとどうやって戦うのか、興味あるね。」
プリネに言われた2人は興味津々で試合が始まるのを待った。
〜グランアリーナ〜
「フフ……まさか、決勝で貴女達と戦う事になるとはね。女神達もたまには気のきく事をしたみたいね♪」
エステル達と顔を合わせたカーリアンは口元に笑みを浮かべて、言った。
「えへへ………あたし達にも優勝しないと駄目な理由があるから、絶対に勝つ!」
「4対1とはいえ、油断はしないつもりです。」
「フフ……あなた達の力……楽しませてもらうわ♪少しはできそうなのもいるみたいだしね♪」
エステルとヨシュアの言葉を聞いて、不敵な笑みを浮かべて答えた後、ジンを見た。
「”大陸最強”と名高いメンフィルの武将とは一度戦ってみたかったんだ。俺の”泰斗流”……どこまで通じるか、試させてもらうぜ。」
カーリアンに見られたジンは好戦的な笑みを浮かべて、答えた。
「おおう……近くで見るとより美しさと色気が感じられるよ。……ゴクリ。」
一方オリビエはカーリアンを見て、だらしない表情になった。
「試合中にもそんな様子だったら、棒ではたいて正気に戻らせるからね!?」
「失敬な。このオリビエ、いつでも正気だよ?」
ジト目で忠告するエステルにオリビエは悪びれもなく答えた。
「あら?どこかで見た事あると思ったら、あなた、ペテレーネやティア、それと家のメイドに声をかけていた漂泊の詩人とやらじゃない。」
カーリアンはオリビエの容姿を見て、オリビエがペテレーネやティア、イリーナに声をかけていた事を思い出した。
「あ、あんですって〜!?」
「本当に怖いもの知らずですね………よく、生きて王都に来れましたね………」
エステルは自分が憧れているペテレーネにオリビエが声をかけた事を知ると怒り、ヨシュアはオリビエの度胸に呆れて溜息を吐いた。
「フッ………麗しき女性に声をかけ、ボクの愛を捧げるのがこのオリビエの使命だからね。」
「何の使命よ!何の!?」
髪をかき上げ、訳のわからない事を言うオリビエをエステルは怒鳴った。
「ゼムリア大陸の恥を見せてしまって、すみません。」
ヨシュアはオリビエの事を何気に酷く言って、謝った。
「別にいいわよ。見てて、面白かったし。いや〜、いつも嫉妬される側のリウイがあんたを睨んでいたのを見て、笑ったわ〜。」
「フッ………さすがの”覇王”もこのボクの美しさに嫉妬したようだね。」
「絶対!違うと思うわ。むしろ、あんたの事をメンフィルにとって害をなす愚か者とでも思っているんじゃないの〜?」
「どう考えても妻や娘、使用人に言い寄る軽薄な男を睨んでいただけだと思いますけど。」
酔いしれているオリビエにエステルとヨシュアは即座に否定した。
「まあその後、ペテレーネの教え子が鞭で思いっきり制裁していたけどね。いや〜、久しぶりに笑わせてもらったわ〜。」
「ブルブル……!それは思い出させないでくれたまえ!…………もうしませんからそれ以上、ぶたないで〜!」
「あはは……さすがシェラ姉ね。」
オリビエにトラウマを植え付けさせたシェラザードにエステルは苦笑した。
「これより武術大会、決勝戦を行います。両チーム、開始位置についてください。」
会話をやめて審判の言葉に頷き、エステル達とカーリアン両チームはそれぞれ、開始位置についた。
「双方、構え!」
両チームはそれぞれ武器を構えた。
「女神達もご照覧あれ………勝負始め!」
今ここに、英雄に挑む少女達の戦いが始まった…………!
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第134話 | ||
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